大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
ボスポラス海峡横断鉄道建設プロジェクト
ヨーロッパとアジアを結ぶ巨大プロジェクト
今石
尚*1・大友 健*2・青木
智幸*3・伊藤
一教*4
Keywords : Marmaray project, Immersed tunnel, TBM tunnel, NATM tunnel, F-PAS
マルマライプロジェクト,沈埋函,シールドトンネル,NATM トンネル,F-PAS
1.
はじめに
本プロジェクト(マルマライ プロジェクト)1)2)3)は,
東京都とほぼ同じ人口(約 1,300 万人)を抱えるトルコ共
和国・イスタンブール広域市の交通渋滞緩和及びこれ
に起因する大気汚染の解消を目的とした,海峡横断の
地下鉄建設トンネル工事である。図-1 にボスポラス海
峡の位置を,図-2 に路線平面図を示す。本工事では,
沈埋トンネル,シールドトンネル,NATM トンネルの
三つのトンネル工法が同時施工され,世界最深の沈設
図-2 路線平面図
Fig.2 Route graund plan
作業,世界初の立坑を介さない沈埋トンネルとシール
ドトンネルの海底下直接接合作業等があり,技術的な
難易度の高い工事でもある。総延長 13.6km の双設トン
ネル建設工事の内,海峡部 1.4km が沈埋トンネル,残
る陸上部がシールドトンネルであり,四つの駅舎と双
設トンネルを 200mおきに結ぶ避難連絡トンネル,上
下線が行き交うための渡り線トンネル,建築・設備工
事,本設軌条工事を含む EPC-Contract である。この巨
大プロジェクトに採用された特筆すべき要素技術のい
くつかについて,以下に紹介する。
2.
コンクリートの特性
2.1
コンクリート構造物の種類と要求性能
本プロジェクトの構造物には、100 年の設計耐用年
数と初期ひび割れを許容しない防水構造が要求された。
沈埋函体とシールドトンネルの標準断面図を図-3 に
示す。沈埋函体は 2 連の RC 構造(幅 15.3m、高さ
8.6m、底版厚 0.9m、側壁厚 1.0m)であり、 11 函製作
した(最大長さ 135m)。高水圧下で防水性を確保する
ために函体の側面・底面は鋼板で覆い、さらに 100 年
仕様の流電アルミ陽極式電気防食を施した。頂版面は
シート防水とし、コンクリートにより被覆防護した。
図-1 ボスポラス海峡の位置
Fig.1 Location of Bosphorus
*1
*2
*3
*4
シールドのRCセグメントは、トンネル仕上り内径
が 7.04m で、セグメント厚は土質により 300~320mm、
セグメント幅は 1.5m である。掘削延長 18,720m に対し
技術センター 土木技術開発部
土木本部 プロジェクト部
技術センター 土木技術研究所 地盤・岩盤研究室
技術センター 土木技術研究所 水域・環境研究室
て約 13,000 リングを専用の工場にて製造した。
コンクリートの要求性能を表-1 に示す。沈埋函体の
07-1
大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
沈埋函体
6350
15300
600
シールド
6350
表-1 コンクリートの仕様
Table 1 Specifications defined in Employer’s Requirement
1000
800
1000
2
900
8600
6900
設計基準強度 沈埋函体,CST(NATM覆工・駅舎部):40N/mm
シールドセグメント:50N/mm2
有効水結合材
40% (製造時の変動を考慮し38%に設定)
比の最大値
温度規制
部材平均温度と最大(最小)温度の差:15℃以下
新旧打継部材の平均温度の差:15℃以下
部材最大温度:65℃以下
クラックリスク(ひび割れ指数の逆数):0.7以下
セメント種類 CEMⅠあるいはCEMⅢ/B(混和材置換率:66~80%)
ただし、CEMⅠの場合フライアッシュ15%以下と
シリカフューム5%以下で置換可能
図-3 沈埋函体とシールドの標準断面図
Fig.3 Standard Cross -sections of Immersed Tunnel and Shield
Tunnel
表-2 コンクリートの配合
Table 2 Mix proportions of concrete
コンクリートの設計基準強度は 40N/mm2、耐久性から
要求される有効水結合材比は 38%以下である。蒸気養
生により製造するシールドセグメントは、設計上の必
要から設計基準強度 50N/mm2 が求められた。シールド
トンネルの途中 2 箇所およびシルケジ地下駅は、大断
配合種別
セメント
種類
沈埋函体・CST CEMI+FA+SF
シールドセグメント
CEMI
面となるため NATM 工法により施工した。この覆工コ
ンクリートおよび開削工法による駅舎構造体(CST)
のコンクリートにも沈埋函体と同じ仕様が要求された。
配合と温度規制に対する対応
2.2
スランプ
配合種別
水 セメ
ント
沈埋函体・CST 122 275
シールドセグメント
139 450
(cm)
21±3
18±3
空気
量
(%)
4.5
1.0
有効水
結合材
比(%)
38
31
単位量(kg/m3 )
フライ シリカ 細骨 粗骨 高性能
アッシュ フューム 材
材 (AE)減水剤
50 15 926 973
4.78
- 1017 864
3.38
コンクリートの仕様として、設計基準強度と水結合
材比の他、セメント種類と厳しい温度規制値が与えら
れた。これらの条件を満足する配合として表-2 に示す
2 種配合(場所打ち用,セグメント用)を使用した。
場所打ちコンクリートでは、所要の有効水結合材
(水結合材比として 35%以下)において、海洋環境下
での長期耐久性とコンクリート硬化時の最大温度値
(65℃以下)・新旧部材平均温度差 15℃以下を満足す
るため、CEMI を日本の中庸熱ポルトランドセメント
の仕様に相当する特性に調整し、さらにフライアッシ
底版・壁下部の一括打設
壁上部・頂版の浮上打設
図-4 沈埋函体の打設方法
Fig.4 Pouring Method of Concrete of Immersed Tunnel
ュおよびシリカフュームで置換した。スランプロス低
減タイプのポリカルボン酸塩系の高性能 AE 減水剤を
自由端側
クラック
リスク
使用し、シリカフュームはスラリーとして添加するこ
0.20
とで、単位水量を低減した上でスランプ 21±3cm のワ
0.25
0.33
ーカビリティを得て、ポンプ圧送性と施工性を確保し
た
4)
0.50
対象面側
。部材内外温度差 15℃以下の確保は打込み後の養
1.00
誘発目地
生対策により対応した。
最大長さ 135m の函体は、底版と壁下半をドライド
ック内での片押し連続打設により、壁上半と頂版は、
図-5 沈埋函体の三次元温度応力解析結果
Fig.5 3D-FEM Thermal Analysis Resort of Immersed Tunnel
函体を浮上させ洋上係留設備に移動させた後で 6 分割
ため、誘発目地にはエポキシ樹脂後注入タイプを使用
で打設した(図-4)が、拘束長さが非常に大きくなっ
した。
たため、側壁に 15m 間隔でひび割れ誘発目地を設置す
セグメント用コンクリートは、ポリカルボン酸塩系
ることで、クラックリスク 0.7 以下を確保した。この
の高性能減水剤を使用し、スランプ 18±3cm のノン
クラックリスク評価には三次元 FEM 温度応力解析を使
AE コンクリートとして配合した。セグメント製造時は、
用した(図-5)
。ひび割れ誘発後の函体剛性を確保する
蒸気養生に起因する Delayed Ettringite Formation の発
07-2
大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
向かう底層流(北向きの流れ)で構成され,上下二層
流となっている(図-7(a))。黒海の海水はマルマラ海の
海水に比べて密度が低くいため表層を流れ,逆にマル
マラ海の海水は海底を舌状になって潜り込むように黒
コンクリートの打込み
海に向って流れることで二層流となる。
蒸気養生中のセグメント
着工後の観測結果より,ボスポラス海峡の潮汐は小
図-6 セグメントの作製状況
Fig.6 Manufacturing of Segments in Factory
さく,潮流は風や気圧などの気象変化に支配されてい
生防止を考慮し、セグメント内部のコンクリート温度
ることがわかった。気象の変化に潮流の速度が応答す
が 60℃を上回らない条件で、かつ必要な製造サイクル
るため,その変化は速く 24 時間で 1m/s 以上も流速が
が確保できるように、打込み温度ごとに適切な前養生
増大する場合もあった(図-7(b))。例えば,黒海に北風
時間と蒸気養生サイクルを定めた。また、養生シート
が吹くと,吹き寄せにより黒海側の海峡の水位が上昇
被覆など急冷や乾燥等によるひび割れの防止に考慮し
し,マルマラ海に向う表層流が早くなる。さらに,北
た養生対策を実施した(図-6)
。
風が継続するとマルマラ海へ向う流れは,マルマラ海
の海水で形成される塩水くさびを押し戻し,二層流は
3.
ボスポラス海峡の海象条件
消滅し表層から底層まで 2m/s を越える流れに変化する
ボスポラス海峡の流れは,黒海からマルマラ海へ向
こともあった(図-7(c))。
かう表層流(南向きの流れ)とマルマラ海から黒海へ
4.
潮流予測システムの開発
4.1
潮流予測の必要性
明石海峡大橋のケーソン設置に代表されるような急
潮流海域における水中構造物設置工は,潮流が遅くな
(a) 上下二層流の断面流速分布(実測値)
(b) 流速変化の事例(実測値)
図-8 潮流予報システムの構成図
Fig.8 Structure of current forecast system
(c) 流速変化の模式図
図-7 ボスポラス海峡の断面流況の実測値
Fig.7 Observed vertical current field in Bosphorus strait
Fig.9
07-3
図-9 潮流の実測値と予測値の比較図
Comparison of current velocity between observed data
and forecast data
大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
る「潮止まり」に合わせて実施される。潮止まりは天
文潮に支配され規則的に現れるため工程を立案しやす
い。しかし,ボスポラス海峡には潮止まりがなく,海
峡の潮流は気象の変化に伴って短時間に急変する特徴
がある。その一方で,沈設作業は 36 時間の連続作業で
あり,沈設作業中に潮流が急変したならば,沈設時の
既設函体と沈設函体の接触などによる損傷のリスクが
高くなる。それゆえ,沈設作業の施工可否判断を確実
なものにするために,予報システムが必要であった。
4.2
潮流予測システムの開発
施工に先立ち潮流・水位・風・気圧等を対象とした
潮流観測を開始し,その結果と 3 次元流体解析により,
図-10 沈埋トンネル全景とアクセスシャフト
Fig.10 Schematic view of immersed tunnel
ボスポラス海峡の流れのメカニズムを解明した。
3 次元流体解析を潮流予測に直接活用できるならば,
リアルタイムの観測値と気象予測値を与条件として潮
流予測が可能になる。しかし,3 次元流体解析の解析
時間は 36 時間先を予測するために実時間で 36 時間以
上を必要としたため予測には採用できなかった。
そこで,風や気圧などの気象予測値からボスポラス
フィン
海峡の黒海側およびマルマラ海側の水位変化を計算し
建設地点の流速を一次予測した後に,二層流を形成す
る舌状に海底を潜り込む流れの影響を,建設地点のリ
アルタイム観測データを用いて補正するモデル
5)
を開
発した。モデルは,短時間に変化する舌状に海底を潜
り込む流れの挙動履歴を組み込んだ点に独自性があり,
図-11 沈埋トンネル全景とアクセスシャフト
Fig.11 Installation work of access shaft
数分で予測値を算出できる迅速性,ロバスト性を実現
した動力学的統計モデルである。
図-8 は,潮流予報システム
6)
の構成図である。本シ
答率を得ることができた 7) 。
ステムは,トルコ共和国の気象庁から提供される風や
気圧の気象予測値と,現地にてリアルタイムで計測さ
5.
世界初のアクセスシャフト工法
れる観測値をインターネットを介して日本の解析コン
ピューターに集約し,予測潮流値を専用 WEB 上に配
信するシステムである。
4.3
一般的な沈埋トンネルの施工では,海峡の両岸に発
進立坑と到達立坑を構築した後に,順次函体を沈設・
接合してトンネルを構築する。しかし,ボスポラス海
潮流予測モデルの適用性
図-9 に沈設作業の可否判断の実施例を示す。 12/26
に沈設を想定し,12/25 に予測値を配信した。翌日の流
速は施工限界流速 1.5m/s を超えることが予測されたた
め,翌日の沈設は延期の判断となった。その後 12/27
には,翌日の流速が小さくなり施工可能な流速となる
ことが予測されたため,12/28 に沈設可能の判断が下さ
れる。観測値と予測値を比較すると,これらの予測に
基づく可否判断が正しかったことが分かる。予測シス
テムの精度を検証するため,以上のような可否判断を
8 ヶ月間毎日試行した結果,90%以上の正答率を得た。
そして,沈設完了までの 25 ヶ月間でも 86%以上の正
07-4
峡の沈埋トンネルでは,建設費低減と工期短縮を目的
として一般的な立坑建設を選択せず,世界で初めてア
クセスシャフト工法を採用した(図-10).それに伴い
沈埋トンネルのアジア側・ヨーロッパ側の両端部はシー
ルドトンネルにより水中で直接接続する工法となった。
アクセスシャフト工法は,第一函目を海底に設置し
た後,函体上部に大型筒状構造物を設置する工法であ
り(図-10),函内への人,資材の供給および換気施設
の役割を持つ。この発進・到達立坑のない沈埋トンネ
ルの施工は,従来の施工法と比較して 1 年の工期短縮
と 10%の工事費削減に寄与した。
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止水シール装置
図-12 スリーブ管
Fig.1 Sleeve Pipe
アクセスシャフトの形状を小判型とすることで潮流
力荷重を低減したが,潮流下での設置作業時にはアク
セスシャフトの動揺が施工を困難なものにしたり,函
体との衝突による損傷が懸念され,動揺低減が技術上
の課題であった。そこで模型実験を実施しダブルフィ
ンによる動揺低減工 8)を開発した(図-11)。ダブルフィ
ンは小判型アクセスシャフトの下流側曲面部に幅 0.5m
のフィンを挟角 45°で鉛直方向に設置するものである。
このダブルフィンによる動揺量は,無対策の場合に比
べて 1/6 以下に低減された。
6.
異種トンネルの海底下地中接合
6.1
技術の概要
止水鉄板
従来は,立坑を介して矩形断面の沈埋函と円形断面
のシールドトンネルを接合することが一般的であった
図-13 止水手順図
Fig.13 Procedure of Packing
が,本工事では大幅な工期短縮と工費縮減を実現すべ
く,世界初の立坑を省略した異種断面トンネルの直接
接合を実現した。
6.2
6.2.1
技術的課題
立坑の代替えとしてのスリーブ管
立坑を省略するために沈埋函端部に眼鏡状の鋼殻ス
リーブ管を設置し,シールド機をその中に貫入させる
ことにより接合作業スペースを確保した(図-12)。
6.2.2
水圧方向 ⇒
安全性と止水性の確保(F-PAS 工法の採用)
異種トンネル接合作業の環境は,スリーブ管内とは
いえ,海底の人工埋戻し地盤内を通して最大6Bar の
水圧がかかるため,十分な止水構造を確保する必要が
あった。そこでスリーブ管内に止水シール装置として
F-PAS(The Freezing Packing for Seal)機構を設置した。
07-5
シールド機鋼殻
①止水シール
③本体
②加圧チューブ
④取付金具
図-14 F-PAS 構造図
Fig.14 Detail of F-PAS
大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
また,陸上での函体製作作業中に,あらかじめこの
止水シール装置をはじめとする接合準備作業を施すこ
とにより,施工性の悪い海底下での作業を極力少なく
でき,安全性の向上にも寄与できた。
F-PAS の手順図,構造図を図-13,図-14 に示す。鋼
殻スリーブ管内には,凍結・融解後に固体から液体へ
変化する特性を有する LW 材(セメント・ベントナイト
と水ガラスから成る 2 液性地盤改良材)を充填しておく。
シールド機到達前に止水シール装置周辺を冷媒循環(マ
イナス 25℃の塩化カルシウム水溶液)によりドーナツ状
に凍結し,シールド機貫入時の装置の保護を行う。シ
ールド機到達後,温水循環により凍結部を融解させて,
液体化させ,加圧チューブに注水加圧して止水パッキ
ンを作動させ,シールド機鋼殻にパッキンを密着させ
図-15 シルケジ駅直上地上部の土地利用状況
Fig. 15 Surface use above Sirkeci underground station
る。この時,固体から液体に変化した LW 材の存在が
鋼殻とパッキン間への異物の侵入を防ぐため,止水パ
ッキンのシールド機鋼殻への密着度が高まる。ここま
北
でを 1 次止水と呼ぶ。
6.2.3
*赤字はトンネルの略称と断面サイズ
避難立坑 ES
(50m2)
北エントランス
北エントランス斜坑 ISS(80m2)
洪水ゲート立坑 FG(75m2)
プラットホームトンネル(北) PF(90m2)
中央通路トンネル CE(60m2)
フェール・セーフ機構の確立
1 次止水における止水シールの形状から,水圧のか
プラットホームトンネル
換気用断面拡幅部 PFV-L(190m2)
かる方向に押されれば押されるほど,止水シールがシ
ールド機鋼殻に密着する方向となり,フェール・セー
フ機構が確保されている。また,F-PAS 稼働後止水シ
換気兼接続通路トンネル CNV(140m2)
至
イェニカプ
南エントランス
ール背面を止水注入することにより 2 次止水とし,3
次止水として,シールド機チャンバー内の泥水を撤去,
至
ボスポラス海峡
西換気立坑 WVS プラットホームトンネル(南) PF
(500m2)
南エントランス斜坑 ISL
2
(80m )
Fig. 16
接続通路トンネル CN(35m2) 東換気立坑 EVS(500m2)
図-16 シルケジ駅地下部の鳥瞰図
Birdview of underground structures of Sirkeci station
大気圧にしたのち,シールド機鋼殻と鋼殻スリーブ管
を鉄板にて止水溶接を施した。以上,三重の止水性を
確保した後,シールド機の鋼殻以外を全て撤去し,シ
ールドトンネルの RC セグメントと沈埋函の RC 躯体
を鉄筋コンクリートで接続して,本体止水体の完成を
実現した。
7.
シルケジ駅
シルケジ駅は,オスマン帝国歴代スルタン(君主)
の居城であったトプカプ宮殿に近い歴史観光・商業地
区に位置している。図-15 に,シルケジ駅計画位置地上
部の土地利用状況を示す。密集した商業ビル,ホテル
などの直下にて限られた工事用地の立坑から掘削を進
める必要がある。地上部の既存建物は鉄筋コンクリー
ト造が約 6 割であるが,その内の 70%は築 30 年以上
の古いビルである。残りの 4 割はレンガ造りのビルで
その大半は築 50 年以上である。交通事情や近隣環境に
3)
も細心の注意を要する工事環境であった 。
07-6
図-17 三次元解析のモデルと掘削手順
Fig. 17 Excavation procedures modeled in the 3D-FDM Analysis
大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
このような施工手順に変更した場合,断面の大きな
東立坑(断面積役 500m2 )の掘削により,先に施工し
た水平孔(特に,プラットフォームトンネル断面拡幅
部)の一次支保が大きは変形を受け安定性を損なうこ
とが懸念された。また,東立坑の掘削はプラットフォ
ームトンネル断面拡幅部(断面積約 190m2)と大断面
どうしのトンネルの近接施工になるため,トンネル周
辺地山の安定性についても事前に検討する必要があっ
た。
図-18 補強コンクリートの三次元解析モデル
Fig. 18 Reinforcement concrete structure in the 3D-FDM model
そこで,東立坑掘削時を対象に,原設計の支保を用
いた場合のトンネル周辺地山と支保の安定性について
図-16 に,山岳工法(NATM)によって掘削する地下
検討することを目的に三次元逐次掘削解析を実施した。
駅部の鳥瞰図を示す。地下駅の主な水平坑は,2 本の
この解析では,東立坑周辺の複雑な三次元トンネル構
プラットホームトンネルと 1 本の中央通路トンネル,
造および施工手順をできる限り忠実に反映することで
およびそれらに直交する接続通路トンネルであり,地
高精度化を図った。三次元解析のモデルと掘削手順を
下約 50m に位置する。東西の駅端部付近には断面積
図-17 に示す。解析の結果,立坑-水平坑間の地山およ
500m を超す換気立坑があり,断面積約 140m の換気
び水平坑周囲の地山に広く塑性化領域が発達するとと
兼接続通路トンネルにより,立坑と水平坑が接続され
もに,水平坑の一次支保の安定性が確保できないこと
る。さらに,避難立坑や勾配 30°程度のエントランス
が明らかとなった。
2
2
斜坑も施工する必要がある。このように,非常に複雑
そこで,立坑掘削前に,図-18 に示すように,プラッ
な構造を山岳トンネル工法により施工するため,施工
トフォームトンネル断面拡幅部(PFV-L,PFV-S)の内
手順や工程管理は他に類を見ないほど複雑である。そ
側に鉄筋コンクリート構造の補強コンクリートを施工
こで,1)複雑なトンネル接続構造を有する西立坑およ
することとした。三次元解析結果に基づいて補強コン
び周囲トンネルの施工時の地山および支保の安定性,
クリートの仕様を決定し,安全な施工を実施すること
2)平行に近接するプラットフォームトンネルおよび中
ができた 9)。
央通路トンネルと接続通路トンネルの交差構造による
岩盤ピラー部(トンネルに囲まれた岩盤の柱部)の安
定性,3)施工手順の変更(後述)された東立坑および
8.
おわりに
本プロジェクトの当初工期は 2009 年 4 月であったが、
周辺トンネルの施工時の安定性,のそれぞれに関して, 長期にわたる埋蔵文化財調査のため各所で着工が遅れ
トンネル掘削過程を考慮した三次元解析を実施して評
たため 4 年を超える工期延伸交渉が生じ、また 2013 年
価を行った。ここでは,一例として上記の 3)に関して
共和国記念日営業開始に向けた工期短縮交渉、条件変
その概略を紹介する。
更に伴う工費交渉、老朽化の進んだ一般家屋に対する
当初の施工計画では,東西の換気立坑をそれぞれ掘
安全対策等、技術以外の課題も山積したプロジェクト
削した後,両立坑を起点に南北に向かって換気兼接続
であった。そんな中、工事金額が 1,000 億円を超え
通路トンネルを開口し,プラットフォームトンネルの
2004 年の着工から今年で 10 年目を迎える大規模鉄道
断面拡幅部(断面積約 190m )を掘削し,プラットフ
建設工事である本プロジェクトが、トルコ共和国建国
ォームトンネル標準断面へと掘削する手順であった。
90 周年記念日の 2013 年 10 月 29 日にいよいよ 1 番列
しかし,東立坑では上部の開削部の施工中に出現した
車が走る日を迎えようとしていることは、誠に感無量
古代都市の遺跡調査に多大な時間を費やし,結果とし
である。ひとえに当社各部署一丸となって技術的課題
2
て下部の岩盤部を掘削できたのは5年近く後になった。 に取り組み、数多くの問題を解決してきた成果であり、
このため,シルケジ地下駅およびプロジェクト全体の
この場をお借りして関係者ひとりひとりに感謝の意を
工程を確保するために,掘削が完了した西立坑から全
表するものである。また、トルコ国民 150 年の夢であ
ての水平坑を掘削し,その後に東立坑を底盤まで掘り
る海峡横断鉄道開通に当たり、トルコ国民の多大なる
下げて,最後に換気兼接続通路トンネルを開口して接
理解と協力の上に本プロジェクトの完遂がなされたこ
続する施工手順に変更することとした。
とを合わせて報告するものである。
07-7
大成建設技術センター報 第 46 号(2013)
参考文献
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断鉄道トンネル-,土木学会誌,Vol.91 no.8 CE レポート,
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Tunnelling and Underground Space Technology,2009
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07-8
ダウンロード

ボスポラス海峡横断鉄道建設プロジェクト