3D-GIS のインタラクションデザインに関する提案
愛媛大学 工学部技術職員
非会員 渡部正康
愛媛大学 総合情報メディアセンター 正会員 二神 透
近年,PC の性能向上に伴い仮想立体機能を備えた 3D-GIS が多く見られるようになった.これは直感的に状況を把握
できる反面,莫大なデータの入力や編集など取扱いは容易ではなく,地図を見る以上の機能を運用できるのは一部の技
術者に止まっている.一方で,PC・家庭用ゲームの環境はめざましく発展しており,こちらでは専門知識のない人が 3D
システムを簡単に扱っている.これらは業務・遊興といった目的の差異こそあれ,対極の位置づけにあると考えられる.
筆者はより多くの人が親しむことのできるように,直感的かつ容易に操作できる 3D-GIS を目指して開発を行っている.
本稿では,直感的な操作を企図して実装したいくつかの機能について紹介する.
キーワード:3D-GIS,自主防災組織,ハザードマップ,基盤地図情報
1.はじめに
自主防災組織などで防災講演や図上避難演習を行う
際,多くは平面地図を用いて地形の把握や行動計画の
2. ソフトウェアの概要
開発したソフトウェアについて外観を図-1 に示す.
また運用を想定する環境について図-2 に示す.
記入を行う.これはマーカーでの描き込みが容易なも
のの,等高線などの読解を強いられる上,表示スケー
ルを切り替えることができないなどの難点がある.
直感的に操作可能な 3D-GIS 環境を提供することによ
り地域の現状について理解を深めるとともに地域住民
の知見をその場で反映できることから,参加の実感が
得られ学習意欲の向上に繋がると考える.
災害予測演示や避難計画の地図上演習には大きく次
のようなプロセスに従い進行する.
1.住民の知見:その地域の地形や建造物の特徴の確
認,危険とされている場所のリストアップ
2.開始時点での認識:避難を開始する被災状況や想
図-1 3D-GIS 外観
定している避難経路を記入
3.講師からの提示:災害伝播の様子,他地域の事例
4.計画の検証:要援護者救助や避難経路修正を盛り
込んだ避難計画の修正
これらの各段階において,参加者が気軽に意見提供
できる環境となるよう補助するために,以下の機能を
設計し実装した.
・地面に貼った画像の位置を容易に調整する
・地域属性を地表面に直接描き込む
・写真やテキスト吹き出しによる立て看板オブジェク
トを設置・編集する
・移動経路を地形上に掃引記録し,時系列再生を行う
これら機能の運用方法と内部処理について紹介する.
図-2 運用環境図
立体的な地形図の上に建物,道路,立て看板などの
オブジェクトや GPS トラッキングデータなどを表示し
操作する機能を有する.地理的規模は主対象を町内会
3. 実装した機能について
利用者が手軽に 3D 地図を操作できるよう実装した
や自主防災連合とすることから,同時に取り扱う領域
機能と操作手順,その内部処理について以下に示す.
を二次メッシュ 9 個相当である約 30km四方とした.
3.1 地表面画像の貼付け位置調整機能
表示地形の移動・拡縮・回転や主な機能をボタン操
衛星撮影画像をはじめとして,自治体作成のハザー
作するためのパネルを設置した.これについて図-3 に
ドマップや地区住民が紙地図に描いた属性塗り分け図
示す.マウスを活用した操作は複雑になりがちで説明
面など,地形面上に貼付けを行いたい画像は多い.こ
もし難いため,タッチパネルディスプレイを用いて操
れらについて,貼付けや位置調整に関する操作を容易
作できるよう設計した. 上部8つのアイコンはオブジ
に行えるシステムを実装した.
ェクトなどの操作を行い,下部3つのアイコンで視点
3.1-1 地表貼付け画像の調整手順
を操作する.下部アイコンは左から順に移動,拡大縮
地形表面へ貼付ける画像は,用途毎に組み合わせを
小,回転に対応している(図-3 ⑥⑦⑧)
.視点操作は
データセットとして管理している.画像の貼付け位置
それぞれの矢印部分を押すことで動作し矢印の根元側
調整を行う際には,図-4 のように地形図に貼り付けら
より先端側の重みを大きく設定しており,押す場所に
れている画像の左上と右下に相当する二か所にマーカ
よって操作速度を調節することができる.
ーオブジェクトとしてタグが表示される.このタグを
ドラッグすると,連動して対応する画像の頂点位置が
移動する.このとき,画像はもう片方のタグを基点と
した拡大・縮小変形を行っており,リアルタイムで貼
付けパラメータを編集して反映していることから,操
作による効果を直感的に把握することができる.二つ
のタグを交互に操作し画像端点やランドマークでの位
置合わせを行うことにより容易に貼付け位置の移動や
サイズ変更を行うことができる.
3.1-2 地形画像の管理システムについて
貼付け用画像は通常,UV 座標系により管理される.
これはポリゴンの各頂点座標に X 軸・Y 軸方向ともに
図-3 操作パネル
0.0 から1.0までの範囲の初期値としてセットされるが,
各画像についてそれぞれ位置オフセット・拡大率のパ
標高値や建物・道路の位置座標データについては,
ラメータを用意し,頂点シェーダにて幾何変換を行う
国土地理院発行の基盤地図情報を使用する.地形標高
ことでそれぞれの画像に対応した貼付け位置の調整を
モデルは全国一律に発行されている 10mDEM を適用
行う.そのシーンで適用される各々の画像に対してこ
しポリゴンメッシュを構築した.建物輪郭・道路輪郭
の幾何変換を適用し,領域外など使用しない部分は破
等データについては,日本全国いずれの場所でも運用
棄することにより適用された部分のみ反映される.
できるように数値地図 2500 相当と 25000 相当について
両方使用できる仕様とした.また位置座標の処理は直
交座標系に変換したものを適用している.
3D 機能のライブラリとして Google Earth やカシミー
ルでも使用されている Microsoft DirectX を用いて,ゲー
ム用のループ構成とした.実行速度については組み込
むリソースの量や処理内容によって変動するが,GPU
搭載開発用 PC にて約 10~40fps 程度で動作している.
主な幾何演算・描画演算は CPU 処理の他にシェーダ
言語 HLSL により頂点シェーダ・ピクセルシェーダを
用いた GPU 処理も行い高速化を図っている.具体的な
処理分担については機能紹介の各項にて紹介する.
図-4 地形貼付け画像の位置調整
3.2 3D 直接描画機能
3.3 立て看板設置・編集機能
GIS を運用したいケースの多くは,災害時の浸水や土
地図における記号に対応するものとして,見た目に
石流危険区域,エリアマーケティングの範囲確認など
楽しく直感的にその位置を把握できる,立て看板オブ
の土地領域のマークアップを行うことが主となる.意
ジェクトを実装した(図-7)
.位置座標に関連した画像・
見調整の打合せや受講生参加型の講義などでは自由に
テキストなどを描画・貼付けすることにより豊富な情
領域を描いたり修正したりできることが望ましいが,
報を提供することができる.視点を移動・回転しても
多くの GIS では領域表示された内容を容易に編集する
設置した位置のまま描画内容を確認できるようビルボ
機能は設けていないため,直感的な操作は行いづらい.
ード構成とするとともに,設置・移動・内容編集とい
そこで,3D 地形にペン感覚で直接描画できる機能を設
った,運用を容易にする機能を設けている.
け,グラフィカルな意見交換を容易に行えるシステム
3.3-1 設置手順
を実装した.
立て看板機能アイコン(図-3 ④)をクリックし,設
3.2-1 描画手順
メニューからマーカーアイコン(図-3 ⑤)を選択し,
置したい場所をダブルクリックする(タッチパネルで
は“とんとん”と叩く)と,画面にその地点を指し示
3D 地形図上の任意の範囲に指を滑らせると,図-5 のよ
す吹き出しが表示される.この設置されたオブジェク
うに,その軌跡に沿って地形図が着色される.これは
トにテキストや写真画像などを入力していく.尚,設
地形表面に重ねた描画用画像を彩色しているため,視
置した看板オブジェクトや地形図全体の移動は,ドラ
点の移動・回転を行っても描画内容は保持される.パ
ッグ操作によりを行うことができる.
レットアイコン(図-3 ②)で色を選択するダイアログ
3.3-2 編集手順
が表示され塗る色を変更できる他,ペンのサイズも変
設置した立て看板オブジェクトを更にダブルクリッ
更可能である.既に色を塗っている箇所を他色で塗る
クすると,看板の内容が表示されたダイアログが立ち
と上書きされ,消しゴムアイコン(図-3 ①)で塗って
上がる(図-8)
.これに絵を描くように手描きペイント
いた色を消すこともできる.
することにより表示内容を編集する.枠外など表示し
3.2-2 描画システムについて
たくない部分には透過色を適用して透明にできる.
ゲーム開発環境ではよく用いられる手法であるが,
裏画面に空間位置情報を格納しておくことにより,画
面上の任意の点を指定した場合にその位置座標を直接
取得することができるようになる.描画用テクスチャ
の対応する座標にペイントを行うことにより,GIS の表
示画面に反映される.図-6 は裏画面の例であり,左か
ら順に表示画像・奥行き値・X 軸値,Y 軸値をそれぞ
れ可視化したものである.
図-7 立て看板機能
図-5 地形への直接描画
図-6 位置管理用裏画面画像
図-8 立て看板画像の手描き編集
3.4 GPS データ直接編集機能
を終了したりタッチパネルから指を離したりする度に,
GPS データを扱う機能は今日の GIS には必須といえ
軌跡の曲線をトラッキングデータオブジェクトに変換
る.防災学習においては,事前の現地調査や避難訓練
し即時に可視化する.各家屋から避難所までの移動経
等で取得したトラッキング実データの演示や,予定し
路を連続して手描き入力することで,数十人が避難す
ている避難経路を参加者自身がその場で発表するなど,
るシナリオデータも容易に作成できる.データは同期
移動情報を容易に扱えることによるメリットは大きい.
して再生できるため,任意の地点から避難の様子を観
例えば多数の地域住人が一斉避難する様子について,
測して避難計画の改善策を検討できる.
比較的少ない作業量で作成できるなど,広く応用でき
る.GPS に関連したものとして,次の機能を実装した.
・GPS トラッキングデータを再生する
・GPS ファイルを取り込む
・GIS 上でトラッキングデータを容易に作成する
・GPS 搭載デジタルカメラを用いて撮影した写真ファ
イルの EXIF 情報から緯度経度を抽出し,GIS 上で撮
影地点にその写真画像の立て看板を設置する
以降,各機能の使用方法および設計について紹介する.
3.4-1 GPS トラッキングデータ再生
GPS トラッキングデータを GIS 内の地形に沿ってア
図-10 GPS データの手描き入力
ニメーション再生する.図-9 に示すように,移動経路
全体を速度で彩色したリボン状ポリゴンで表現すると
ともに,移動する「現在地点」には前述の立て看板を
4. おわりに
設置する.時間経過を PC 内タイマーよりミリ秒単位で
ゲームにおける地形・建造物表現は美麗である上に
取得し,逐次前後のキーポイント座標を線形合成する
処理動作は軽快であるが,そのほぼ全てはデータ総量
ことによりスムーズに移動を行う.
が規定の範囲に収まるよう綿密な計算の上に設計され
たものである.この点は現実の地理データを適用して
反映する上では大きな障害となった.これは地形や建
造物のデータ量が過大となる地域については,動作が
重くなったり適用できなくなったりするためである.
また,照明効果などの空間表現処理についてもデザイ
ナーがシーンに応じて手動で設定していることが多く,
特定の領域を見やすくわかりやすいように設定すると
悪影響を被る領域が発生することがあった.
図-9 GPS データ再生
実施事例としては,2011 年 10 月松山市和気公民館に
て実演し,試用感想についてヒアリングを行った.
3.4-2 GPS ファイル読み込み
今後は機能や動作速度の改良に加え,浸水氾濫や土
GPS ファイルの読み込みについては,現在 Garmin フ
石流などの災害演示を目的とした流体シミュレーショ
ォーマットの GPX ファイル形式に対応している.現場
ンの導入や,それを反映するための画像や動画をベー
での運用を想定し,複数の GPX ファイルを読み込み追
スとした地形変異手法について開発する見込みである.
加する機能や,指定フォルダ内に保存している GPX フ
また操作手法として,遠隔から直感的に操作できる上
ァイルをまとめて読み込む等の機能を設けている.
に家庭に広く普及している Wii コントローラやキネク
3.4-3 GPS トラッキングデータの手入力
ト等への対応について検討を行っている.
3D 地形図上で直接移動経路を手描き入力することに
よってその軌跡をトラッキングデータ形式に変換し,
報告: 本研究の遂行に際し,日本学術振興会平成 23
その場で移動状況の再生を行う.
(図-10)
年度科学研究費奨励研究の支援を受けている.また,
経路入力アイコン(図-3 ③)を押し,立体地形図上
で移動の経路を自由曲線として描く.マウスドラッグ
地理データとして国土地理院発行基盤地図情報,電子
国土基本図(オルソ画像)を使用している.
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3D-GISのインタラクションデザインに関する提案