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エリアリポート
中国
ブランド戦略で市場開拓
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 米川 拓也
優れた技術や独自性あふれる製品で中国市場開拓を
ブランドはいわば消費者の記憶や心の中に蓄積され
試みる。だが、こうした「オンリーワン」戦略をもっ
た「イメージ」の総体ともいわれる。仕様や価格が同等
てしても価格面など高いハードルに苦戦する企業が少
の製品が複数あった場合に、ブランドの名称やイメー
なくない。それを克服する手段の一つが「ブランド」
ジが購買の決定要素となることは、われわれの日常生
の構築だろう。中小企業は、限られた経営資源の下で、
活の中でもよくあることだ。
とりわけ、
世界中の企業の
自社ブランドをどのように効果的に PR したら良い
製品があふれる中国市場で、自社製品を選択してもら
のか。
うには、
製品の魅力に加え、
競合製品と差別化できる別
の要素が必要だろう。
「ブランド」で価格競争力を補完
日本の国内市場が伸び悩む中、高付加価値、安心・安
「実用性」の日本、
「憧れ」の欧米
全を売りに中国市場開拓に活路を見いだそうとする中
では、
日本ブランドに対する中国での評価はどうか。
小企業が近年増えている。一方、競争の激しい中国市場
これを判断する一つのよすがになるのが、中国企業ブ
では、
製品の品質や技術レベルが高くても、
価格面で苦
ランド研究センターが中国人消費者に支持される国内
戦を強いられるケースもある。特に、日本から輸出する
外ブランドを品目別で調査した「2012年中国ブランド
製品には物流コストや輸入関税などが上乗せされるた
力指数(C-BPI)調査結果」注1である。全152の対象品目・
め、末端小売価格は日本の2∼3倍に設定せざるを得な
サービス分野のうち、
海外ブランドが第1位を獲得した
い。
また、知名度の低い中小企業が単に販売店に製品を
のは48品目
(残り104品目は地場ブランド)
、
うち米国が
陳列するだけで、消費者を購入にまで導くのは容易で
23品目、
英国が7品目、
韓国が5品目で、
日本は3品目に
はあるまい。
とどまった
(表)
。
このような課題を克服する手段の一つになるのが
日本ブランド戦略研究所の榛沢明浩代表取締役によ
「ブランド」の構築だ。製品にブランドの要素が付加さ
れば、日本製品は「高品質」
「安心・安全」あるいは「実用
れることで、価格競争力の補完、あるいは利益率の向上
性」
といった点では評価が高いものの、
それがブランド
に役立つのではないか。同時に、消費者に対し一定以上
への
「憧れ」
にまで達していない場合がよくあるという。
の「品質保証」を与えることになり、購買を促す効果が
なぜか。欧米企業がブランドを重視し長期的に育成す
期待できよう。
るのに対し、日系企業はこれまで製品の品質や技術の
追求に力を入れるあまり、
広告宣伝をはじめとする
「演
表
分野別ブランド力で上位にランクインした日系企業
第1位
第2位
ソニー
(カラーテレビ、
デジタルカメラ、
保存用デバイス)
、
キヤノ
ン
(ビデオカメラ)
、
本田技研工業
(SUV)
、
TOTO
(蛇口・シャワー
ヘッド)
、
UCC上島珈琲
(コーヒーチェーン)
業は大企業に比べてヒト、
モノ、
カネといった経営資源
第3位
パナソニック
(ビデオカメラ、
電気シェーバー)
、
ソニー
(DVDプレ
イヤー)
、
セブン-イレブン・ジャパン
(コンビニチェーン)
広告宣伝費を投じて企業や商品のブランドを売り込む
資料:2012 年中国ブランド力指数(C-BPI)調査結果を基に筆者作成
50
出」
が後手に回ることが多いからだという。
ソニー
(ビデオカメラ)
、
キヤノン
(デジタルカメラ)
、
タイガー魔法
瓶
(魔法瓶)
ランクインした日系企業はいずれも大企業。中小企
に制約があり、
限定されたマーケットを対象に、
巨額の
ことには困難が伴う。
2013年2月号
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とはいえ、
「ブランド戦略」を中小企業に無縁のもの
拓に取り組む企業は通常、代理店経由での販売を行う
として切り捨てることはできまい。大企業の下請けや
ことが多い。
従って、
まずはパートナーとなる代理店に
OEMを中心としてきた企業が、
新たに自社ブランドを
自社製品を取り扱う価値を理解してもらうことが、ブ
立ち上げる場合もあろう。日本で全国展開していない
ランド確立の糸口になる。
製品であっても、中国市場では「日本ブランド」という
反面、
難しさもある。
浄水器など水栓製造の早川バル
点でプラス評価からスタートできるメリットもある。
ブ製作所
(本社:岐阜県山県市)
は、
水道水が飲めない中
国での浄水器ニーズに着目し、数年前から市場開拓を
中小企業の強みを生かした戦略を
開始。現地での展示会出展などを通じてこれまで5社
経営資源の限られる中小企業がブランドを構築して
の代理店を発掘している。同社の早川徹代表取締役社
いくためにはどうしたら良いか。実際の事例も交えて、
長は、
「中小企業が丁寧に商品を売っていくにはパート
取り組みのポイントを見てみよう。
ナーが大変重要。
とはいえ、
あまりにも代理店任せにし
まず、製品のラインアップ。例えば、中小企業はアイ
ていては売れなくなり、そのうち扱ってもくれなくな
テム数や生産規模が限定されるが、少量あるいは限定
る」
と語る。
代理店を粘り強くフォローしていくことが
品であることを逆にPR材料とするのはどうか。
大切だというのだ。
「売りたい」
「売れる」と思わせる工
和洋ガラス食器・インテリア用ガラス製造の廣田硝
夫を継続していくことが必要ということだろう。エン
子(本社:東京都墨田区)は、ジェトロが実施したアジ
ドユーザーが使う日用品を代理店方式で販売する場合、
注2
ア・キャラバン事業(中国) に参加。現地バイヤーと
それがないと価格競争を招き、新規代理店開拓にも支
の商談会では、日本らしさのある高価格帯の商品をあ
障を来す危険性があるという。
えて選定した。同社の廣田達朗代表取締役社長は、
「高
ブランドPRの有効な手段が口コミだ。特に中小企業
価格であっても技術や品質の高い商品に良い反応を示
は、対象とするマーケットの規模が小さく限定的なこ
してくれた。高価格の商品を投入したことで、
自社のイ
とが多いため、
口コミによって、
一から評価を構築でき
メージを上げることもできた」と強調する。
る優位点がある。
「1品1品、手作業のこだわり生産」
「日本に数人しかい
化粧ブラシ製造の瑞穂(本社:広島県安芸郡熊野町)
ない職人・有資格者が生産」
「特定の産地でしか採れな
の場合、
前出のアジア・キャラバン事業での広報がきっ
い材料を用いた限定品」のように、独自性を持ったオン
かけだった。
商品を購入した消費者が、
マイクロブログ
リーワン製品であることをアピールする。
その上で、
富
の「微博」注3上に書き込みを始めたことで口コミが発
裕層あるいはギフト向けとして価格帯を高めに設定し、
生。これが大きなPR効果を生んだ。中国向け販売を始
高級なブランドイメージを打ち出す「演出」
も有効だ。
めてわずか4カ月間で、
累計1万本の出荷につながった。
製品の投入に当たっては、目指すべきブランドの方
製品に特徴や話題性のある
「こだわり」
のポイントが多
向性によってターゲットをより明確にしたり、限定し
いほど口コミが広がりやすいようだ。同社の丸山長宏
たりすることが大切だ。最近では中間層の開拓に注力
取締役は、
「ブロガーや消費者の体験を通じて話題を提
する企業が増える傾向にあるが、販売拡大を急ぐあま
供し、
継続的に口コミを創出することが大切」
と指摘す
り、
むやみに低価格・低品質製品を投入してはブランド
る。
イメージの低下を招く恐れがあろう。現地に自社ある
ブランド構築の裏にはこうした地道な取り組みの積
いはパートナーの工場があれば、現地生産品は大衆向
み重ねがあろう。
それが単なる
「企業名」
「製品名」
を、
信
けブランドとして一般小売店で販売し、
「メード・イン・
頼ある
「ブランド名」
へと発展させていくのではないか。
ジャパン」の輸出品は富裕層向けブランドとして百貨
店で販売するといった2本立て戦略もあり得る。
ブランドを確立するには、製品の魅力をしっかりと
伝えることに重点を置き、ステップを踏んで事業を軌
道に乗せていくことが重要だろう。初めて中国市場開
注 1:2012 年 2 月 20 日発 表。11 年 10 月から 12 年 1 月の 4 カ月間、
152 業種の全 6,800 超のブランドを調査。調査対象は主要 30 都市の
15 ∼ 60 歳、計 1 万 3,500 人。
注 2:中国市場開拓に向けた商談機会の提供・モニタリング調査などを実施す
る事業。対象品目は日用品・生活雑貨など。
注 3:
「微博客」(マイクロブログの意味)の略称で、中国版「Twitter」に当
たる。パソコンやモバイル端末から、文字情報や画像を投稿できる。
2013年2月号
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ート.indd 51
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