Harima quarterly No.117 2013 AUTUMN
HARIMA
TECHNOLOGY REPORT
板紙の軽量化に向けた
薬品処方への取組み
Solution by Paper Chemicals for Light Weighting on Paperboard
吉本康秀/研究開発カンパニー 研究開発センター 製紙用薬品開発室
Yasuhide Yoshimoto Paper Chemicals Development Dept.,Research & Development Center, Research & Development Company
(紙パルプ技術タイムス、2013年7月号に掲載された記事をもとに作成)
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はじめに
最近の製紙業界では、日本経済の停滞、人口の減少、携
帯情報端末の急速な普及や電子媒体へのシフトによって、
国内における紙の需要は減少傾向にある。日本製紙連合会
の調査発表によると、2011年の紙・板紙の内需は、前年
比0.3%減の2,820万トンとなり、2012年には1.5%減の2,777
図1 段ボールシート原紙の重量推移
万トンが見込まれている1)。また、圧倒的なコスト競争力
と最新設備での生産により向上した品質を持つ輸入紙が増
紙の強度は坪量に依存するため、内添薬品の効果を重視し
え、2012年の紙・板紙合計の輸入量は、前年比6.2%増の
た従来の抄紙方法では強度確保が難しくなっている。
222万トンと過去最高となっている 。
こうした状況を鑑み、弊社ではトータル処方としてのウ
2)
ェットエンドシステム(トータルウェットエンドシステム)
このような状況のもと、製紙産業ではバイオマス資源や
を適用すれば硫酸バンド添加量削減と、削減によるデメリ
バイオマスエネルギーの有効利用といった循環型産業の強
ット解消が得られるだけでなく、薬剤の相乗効果によって
みを活かし、地球環境問題に配慮した製品づくりを推進し
品質改善が見込まれることを2005年に発表し 4)、展開して
ている。しかし、さらなる生産効率の向上や徹底したコス
ト競争力の強化に加え、新製品や新技術の開発も求められ
きた5)。さらに2010年には、クローズド化や板紙の軽量化
ている。主に段ボールに加工される板紙に着目すると、生
へ向けた薬品処方に対して、トータルウェットエンドシス
比率増加による炭酸カルシウム混入量の増加、環境対応(排
製紙会社への提案と展開を進めている7)。本稿では、これ
産性の向上を目的としたマシンの高速化、雑誌古紙の配合
テムと塗工剤処方による構築が有効であることを発表し6)、
水対応)による抄紙系のクローズド化が進む傾向にある。
らを用いて板紙の軽量化処方を確立していく中で起こり得
上昇、パルプ強度の低下や石膏スケール問題、電気伝導度
容を報告する。
そのため、微細繊維や内添薬品の歩留り低下、抄造pHの
る課題と、その対策について当社が新たに取組んでいる内
や水温、薬品原単位の上昇などの弊害が生じている。
2
軽量化への対応
一方、製紙産業では、物流コストの削減を目指す食品会
社の要望と環境負荷低減のため、板紙の軽量化を促進して
いる。図1に段ボールシート1㎡当たりの重量推移を示し
た3)。重量は年々減少し、軽量化が進む傾向にある。また、
近年、環境負荷の低減や輸送コストの削減を目的に段ボ
2011年には、段ボールシート重量が624.9g(前年比0.7%
ールに加工される板紙(外装用ライナーや中芯原紙)の軽
全国段ボール工業組合連合会では第2次自主行動計画にお
や中芯原紙を軽量化(低坪量化)する場合、軽量化にとも
減)となり、過去10年間で約3%軽くなっている。さらに、
量化が進められている。しかしながら、これらのライナー
いて、2015年度までに段ボールシート重量を2004年実績
なう強度低下への対応が課題となっている。そこで、課題
比で5%削減するという目標を設定しており、今後も軽量
を明確化するため、手抄き紙を作製し、強度に対する坪量
化は進むと考えられる。これら段ボールシートの軽量化で
の影響を観察した。結果は図2 に示した通りであり、160g/
は、軽量な板紙で強度を付与することが要求される。しか
㎡から120g/㎡へ低坪量化させる場合、圧縮強さは約90N
しながら、板紙に要求される圧縮強さや破裂強さといった
低下し、破裂強さは約70kPa低下することが分かる。この
1
図2 強度に対する坪量の影響
図4 内添PAMと塗工PAMとの併用効果
ように、軽量化は大幅な強度低下に繋がるため、強度を維
きた。中芯原紙の軽量化等、大幅な強度向上が必要になっ
が必要になっている。
のみで目標とする強度を確保するためには添加量が多くな
持しつつ軽量紙へ切り替える際にはより効率的な強度向上
た際には紙力増強剤の使用が不可欠となるが、内添PAM
板紙の強度を向上させるためには一般的にポリアクリル
り、薬品原単位だけではなく、操業性にも悪影響をおよぼ
アマイド系紙力増強剤(PAM)が適用され、その使用方法
す場合がある。それに対して、今回示した内添PAMと塗
によって内添PAMと塗工PAMに分けられる。これらの紙
工PAMの併用処方では両者の特性を活かすことができ、
力増強剤を坪量120g/㎡の条件で評価し、PAM使用量に
内添PAM単独に対して薬品原単位低減や操業性の改善に
対する比圧縮強さの向上効果を図3 に示した。その際、内
繋がると考えられる。このことから、板紙の軽量化による
添PAMをパルプに対する薬品添加量(%、固形)
、塗工PAM
紙力低下に対して、外添薬品である塗工PAMの利用が有
効と考えられた。
3
軽量化にともなう課題への対応
板紙の軽量化処方においては、紙力増強剤であるPAMの
効果的な利用を提案しているが、紙力増強剤の使用量が多
くなった場合に、ある問題が発生する懸念がある。その問
題とは、透気度の上昇や液体浸透速度の低下による貼合適
性への影響、紙が硬くなることに起因する罫線割れやコル
ゲーターでの割れ(段割れ)といった加工適性への影響で
図3 内添PAMと塗工PAMの比較
ある。そこで、これらの貼合適性や罫線割れへの配慮を課
をパルプに対する薬品塗工量(%、固形)にて表示し、両
題とし、その対策となる薬品処方を検討した。
者を比較した。内添PAMは、塗工PAMに対して強度向上
効果が優れているが、1.0%を超えたあたりで強度上昇が
3.1.貼合適性に配慮した薬剤および処方の検討
パルプ繊維への吸着サイトが飽和し、内添PAMのシート中
した場合の透気度への影響を示した。また、図6 には、表面・
の場合シート中への歩留りが100%であることから、低添
浸透にともなう厚さ方向の減衰率を追跡することにより、
鈍化している。これは、内添PAMの添加量が多くなると
図5 には、中芯原紙(坪量120g/㎡)に塗工PAMを適用
への歩留りが低下するためと考えられる。一方、塗工PAM
サイジングテスター(EST、Mutek社製)を用いて、水の
加から高添加領域まで直線的な強度上昇が得られている。
中芯原紙表面からの液体浸透速度を観察した。今回の結果
この結果から、内添PAMと塗工PAMでは、強度発現に対
から、塗工PAMの適用は透気度を上昇させると共に、水の
する特性が異なっていることが分かった。
浸透速度を低下させることが確認された。そして、塗工量
図4 には、内添PAMと塗工PAMを併用した場合の圧縮
が増加するに従って、その影響はさらに顕著になった。中
強さへの影響を示した。本試験では、内添PAMの添加量
芯原紙における透気度や液体の浸透速度の変化は、加工工
を0.5%または1.0%とした手抄き紙にバーコーターを用い
程でのコルゲーターにおける澱粉糊の浸透性変化に繋がる
て塗工PAMを片面塗工した。内添PAMの効果が得られ難
ため、段ボール加工工場での貼合適性に影響する可能性が
くなる高添加領域で塗工PAMを使用することによって高
考えられる。そこで、透気度の上昇や液体の浸透速度低下
添加領域の強度上昇の鈍化を抑制でき、高い強度を確保で
を抑制するために、これらに影響する要因を把握し、新規
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要とする際にも、透気度および水の浸透性への影響が少な
い新規塗工PAMでは使用量を増やすことができ、軽量化
に対する適用性が従来の塗工PAMに対して大きく向上し
たと判断される。新規塗工PAMは、従来の塗工PAMに対
して紙への浸透性を向上させた薬品であり、紙の内部に浸
透することで透気度および水の浸透速度への影響を軽減で
きたと考えている。また、図9 に示すように、組成の最適
化によって従来の塗工PAMと同等の強度付与が可能である。
なお、中芯原紙で強度を付与する場合には、安価な紙力増
強剤である澱粉が塗工される場合がある。そこで、図7 と
図5 透気度に対する塗工PAMの影響
図9 には、それぞれ透気度と圧縮強さについて、酸化澱粉
を使用した場合の結果も比較として記載した。これらの結
図6 水の浸透性に対する塗工PAMの影響
図9 圧縮強さに対する塗工PAMと澱粉の影響
塗工PAMを開発した。 図7 と図8 には、新規に開発した塗
果から、新規の塗工PAMは酸化澱粉に対して透気度を上
水の浸透性への影響を示した。新規塗工PAMでは、従来の
板紙の軽量化にともなって必要となる効率的な強度向上に
昇させ難く、圧縮強さ向上効果も良好であることが分かる。
工PAMと従来の塗工PAMを使用した場合の透気度および
は、内添PAMと塗工PAMを併用すること、特に開発品であ
塗工PAMに対して、透気度の上昇や水の浸透速度の低下を
る新規塗工PAMを使用することが、
貼合適性を配慮した上で
抑制することが確認できた。このため大幅な強度上昇を必
効率的な強度付与ができる有効な手段であると考えられた。
3.2.罫線割れに配慮した薬剤および処方の検討
板紙の軽量化による強度低下を補うための手法として、
当社では内添PAMと塗工PAMの併用を提案している。し
かし、PAMや澱粉など紙力増強剤の使用量増加で紙が硬
くなる恐れがあり、段ボールの加工工程にて罫線割れとい
う問題が発生する場合が見られる。罫線割れが発生すると
外観上見苦しいだけではなく、組立てた箱の強度が低下す
るため致命的な欠陥となる。図10 に、段ボール古紙を用
図7 透気度に対する塗工PAMと澱粉の影響
いて内添PAMを0.2∼2%添加した手抄き紙の紙質への影
響を示した。ここでは「罫線割れ長さ率」を罫線割れ発生
の指標とした。「罫線割れ長さ率」とは、板紙に一定の荷
重を加えて折り曲げた際、折り目で発生した「ひび割れ」
の長さを、折り目全体の長さに対する百分率で示したもの
である。このため、数値が小さいほど罫線割れの発生が抑
制されることを示している。図10 に示すように、内添PAM
の添加量を増やすことにより破裂強さは向上するものの、
罫線割れ長さ率が上昇し、罫線割れの発生率が高まってい
ることが分かる。その対策として、当社では、罫線割れ防
止剤 ハリコートHSB-100を開発し、塗工剤としての適
図8 水の浸透性に対する塗工PAMの影響
3
0.2%から1.0%へ増やしたところ、強度を確保することが
できたが、罫線割れ長さ率は上昇する結果となった。図13
には、内添PAMの添加量を1.0%とした手抄き紙にHSB100を適用した結果を示した。HSB-100を紙表面に0.15g/
㎡塗工することで、内添PAMの添加量を増やす前のレベル
まで罫線割れ長さ率を改善することが可能となった。
図10 紙力および罫線割れに対する内添PAMの影響
用を提案している。図11 に、罫線割れを防止するために一
般的に使用されるポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチ
レングリコール(PEG)
、グリセリンといった薬剤と、開発
品であるハリコートHSB-100(HSB-100)
をライナーに塗工
した際の結果を示した。この結果から、HSB-100は少ない
図13 罫線割れに対するハリコートHSB-100の適用結果
このことから、軽量化処方にともなう罫線割れの発生は
HSB-100の適用で改善されると考えられる。HSB-100は
軽量化処方への適用だけではなく、冬季や湿度の低いとき、
紙厚のある高坪量銘柄といった罫線割れが発生しやすい条
件においても有効と考えており、国内外を問わず、展開が
可能な薬剤と位置づけている。
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おわりに
図11 罫線割れ防止剤の適用結果
地球環境問題に配慮した製品づくりを進めるに際して、
使用量でも効果が大きく、罫線割れ防止に使用される一般
的な薬剤に対して優れた効果を示すことが分かる。また
近年、製紙メーカーおよびその関連業界が種々のアイデア
を示す他の薬剤との相溶性が良好であり、塗工剤としてこ
出量削減といった環境負荷低減に繋がる板紙の軽量化は今
なる強度への影響に対しても問題ないことを確認している。
じる強度低下を補うためには、単なる紙力増強剤の使用だ
て紹介する。外装ライナーの軽量化処方では、図12 に示
生する問題への対策が必要不可欠と考えている。
強度(破裂強さ)が500kPaから393kPaにまで低下する。
だけではなく、紙力増強剤の使用量増加によって発生が懸
HSB-100はノニオン性であるため、カチオン性やアニオン性
を模索、提案している。その中で、省資源化や炭酸ガス排
れらの薬剤との併用が可能である。さらに軽量紙で重要と
後ますます進んでいくと思われる。この軽量化によって生
次に、罫線割れ防止剤の外装ライナーへの適用例につい
けでなく、効率的な強度付与が可能となる手法や新たに発
当社では、内添PAMと塗工PAMの併用による強度付与
すように、坪量210g/㎡から170g/㎡へ軽量化する場合、
念される加工適性低下についても、透気度や液体浸透性に
破裂強さの低下を補うため、内添PAMの添加量を通常の
配慮した薬剤の開発や罫線割れ防止剤の適用といった対策
を提案してきた。今後も板紙の軽量化に対応した新製品の
開発や薬品処方の提案を通じて、社会に貢献していきたい
と考えている。
<参考文献>
1) 日本製紙連合会、2013(平成25年)年紙・板紙内需試算報告
2) 日本製紙連合会のホームページ、
「製紙産業の現状」紙・板紙
http://www.jpa.gr.jp/states/paper
3) 全国段ボール工業連合組合会のホームページ、
「3R推進自主行動計画」 第2次自主
行動計画 http://zendanren.or.jp
4) T. Sezaki, Y. Yoshimoto, JAPAN TAPPI Annual Meeting Proceedings, 377(2005)
5) 瀬崎崇生、吉本康秀、岩佐哲、紙パルプ技術タイムス、49(7)、7(2006)
6) K. Inaoka, JAPAN TAPPI Annual Meeting Proceedings, 65(2010)
7) 稲岡和茂、紙パルプ技術タイムス、54(7)
、31(2011)
図12 紙力および罫線割れに対する内添PAMの影響
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板紙の軽量化に向けた 薬品処方への取組み