小口径望遠鏡を用いた太陽の 5 分振動の検出
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小口径望遠鏡を用いた太陽の 5 分振動の検出
~米子高専科学部の研究紹介~
竹内彰継(国立米子工業高等専門学校)、
林原真史(国立米子工業高等専門学校 電気情報工学科
4 年)
クトルを kω 図上にプロットさせた。このと
1. はじめに
最近のアマチュア天文家のレベルの向上は
き、k は水平方向の波数で ω は角振動数であ
めざましい。観測機材の性能と画像処理技術
る。その結果、太陽の 5 分振動に特徴的な「リ
の両者の向上により、筆者(竹内)が大学院
ッジ構造」の検出に成功した。
生であった 1980 年代に大望遠鏡で観測され
本研究では特殊な観測装置や解析手段は使
た画像と匹敵、あるいは凌駕する画像が天文
用していない。したがって、普通の高等学校
雑誌の投稿コーナーをにぎわしている。
の天文部でも実施可能な研究テーマである。
一方、1980 年代の観測に匹敵する画像が得
しかし、リッジ構造の検出には多少の注意が
られるということは、当時第一線で行われて
必要であった。そこで、以下では単なる研究
いた研究がアマチュアの手でも実行できると
報告ではなく、リッジ構造を検出するための
いうことを意味している。そこで、筆者は米
注意点についても詳しく紹介する。本稿が高
子高専科学部員に当時行われていた研究テー
等学校などで天文部を指導する顧問の先生方
マを与え、本校の小口径望遠鏡(図 1)で天
の参考になれば幸いである。
体を観測・解析させている。[1][2]
2. 太陽の 5 分振動とは?
2.1
太陽の 5 分振動とは?
太陽の表面は約 5 分の周期で上下方向に振
動している。これは、太陽の「5 分振動」と
呼ばれる現象で、数千 km 四方の領域がほぼ
同じ位相で約 1km/s の速度振幅で振動して
いる[3]。5 分振動の研究は 1970 年代に飛躍
的に発展し、それが太陽の対流層に閉じ込め
られた音波モードの固有振動であることが明
らかになった。[4]
図1
米子高専の3連太陽望遠鏡と科学部員
今回の観測で用いたのは 3 連望遠鏡の中央の 1
2.2
何を観測し、何を示すか?
5 分振動は主に分光器を用いた速度場の観
測で検出されている。しかし、5 分振動は音
本のみ。
波モードの振動であり温度変化も伴うので、
その流れで、2012 年度は太陽の 5 分振動
光球面の明るさの変動を観測して検出した例
の検出という研究テーマを与えた。具体的に
もある[5]。そこで、(当時本校では適当な分
は、太陽光球の明るさの時間的・空間的変化
光器が使えなかったこともあり、)明るさの変
を調べるために、明るさの変動のパワースペ
動を観測して 5 分振動を検出することにした。
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■ 投
稿 ■
ところで、5 分振動は太陽の固有振動であ
PO-1 と R60 は減光だけではなく、アクロマ
る。そのため、水平方向の波数 k と角振動数
ートレンズの色収差を除去するために装着し
ω は勝手な値をとることができず、図 2 の様
た。
なリッジ構造をとることが知られている。そ
撮 像 はビット ラ ン社製冷 却 CCD カメ ラ
こで、本研究ではこのリッジ構造の検出を目
BJ41L で行い、露光時間を 0.01 秒、時間間
指した。
隔を 60 秒として 100 コマ連続撮像した。さ
らに、観測時にダーク、フラット、フラット
ダークを 10 コマずつ撮像し、それらを平均
してダーク・フラット処理を行った。
撮像データは画像が 100 コマあるので、画
像×100 コマの三次元配列として IDL を用
いて解析を行った。
図2
5 分振動の kω図上でのリッジ構造の模
式図
横軸が水平方向の波数 k で縦軸が角振動数 ω
図3
解析に利用した太陽画像の一コマ
であり、図中の曲線がリッジ構造である。5 分
中央上に見えているのは日面通過中の金星で、
振動は太陽の固有振動であるため k と ω は勝
暗いしみは黒点である。解析では、周縁部での
手な値をとることができず、 k ω図上に特徴的
5 分振動の波長のゆがみを避けるために、太陽
なリッジ構造があらわれる。
の 中心 付近 の正 方形 領域のデー タの みを使 用
した。
3. 観測
観測は 2012 年 6 月 6 日(金星の日面通過
の日!!)に行った(図 3)。観測には口径 80mm、
4. 解析
太陽面は球面である。したがって、太陽の
焦点距離 910mm のアクロマート屈折望遠鏡
周縁部では 5 分振動の波長が動径方向に縮
の直接焦点を使用した。
んでしまう。そこで、波長の動径方向の縮み
このとき、対物レンズの前面に ND400 フ
が 10%以下になるように、画像の中央部分
ィルター2 枚、ND8 フィルター、ND4 フィ
(図 3 の正方形領域内部)のデータだけ抜き
ルター、PO-1 フィルター(緑色)、R60 フィ
出して解析した。なお、正方形領域の一辺の
ルター(赤色)を装着して減光した。なお、
長さは太陽面上で 42 万 km となった。この
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とき、正方形領域内の黒点を利用した「相関
らかに周期 5 分の振動が存在している。なお、
追跡法」によって、望遠鏡のガイドエラーと
周期 15 分にもピークがあるが、これは対流
太陽の自転の影響を補正した。
によるものと考えられる。
ところで、正方形領域の各ピクセルを時間
方向に一次元配列として抽出したところ、す
べてのピクセルの明るさが同様の時間変動を
示していることがわかった。正方形領域のサ
イズは粒状斑の大きさ(~千㎞)や 5 分振動
の波長(~数千㎞)より十分大きい。したが
って、この変動は(観測当日は快晴であった
が)大気の透明度が微妙に変化したことが原
因と考えられた。そこで、時間ごとに各ピク
セルの明るさを正方形領域内の明るさの中央
値で割り算し、大気の透明度の変化を補正し
た。
続いて、最小二乗法を用いて各ピクセルの
明るさの変動に時間の 2 次関数をあてはめ、
それを引き算することにより変動の直流成分
を除去し、5 分振動が顕著にあらわれるよう
にした。
図 5
明るさの変動のパワースペクトルを k
ω図上にプロットしたもの
図より 5 分振動に特徴的なリッジ構造(2 点鎖線)
が見えており、5 分振動が検出できたといえる。
5. 結果
図 4 のパワースペクトルには明らかに 5
分周期のピークがあらわれている。そこで、
これが 5 分振動を表すものか確認するため
図 4
明るさの時間変動のパワースペクトル
を正方形領域全体で積分したもの
にパワースペクトルを kω 図上にプロットし
た。
明らかに周期 5 分の位置にパワーのピークが見
具体的には、時間方向にフーリエ変換した
られる。周期 15 分のピークは対流によるもの
ものを x 方向、y 方向にも同じようにフーリ
と考えられる。
エ変換を行い波数平面でのパワースペクトル
を作成し、それを kω 図上にプロットしなお
その後、時間方向にフーリエ変換を行い、
した。作成した kω 図をみてみると、撮像時
各周波数での明るさのパワーを正方形領域内
間が 60 分と短かったため ω 方向の解像度が
で空間方向に積分し、正方形領域全体のパワ
悪いがリッジ構造(図 5 の 2 点鎖線)が確認
ースペクトルを作成した(図 4)。図 4 より明
できる。このことから 5 分振動が検出できた
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■ 投
稿 ■
[2] 大脇秀捷、加川庸一、川上優太、久古貴
といえる。
将、笹谷航、富田拓也、波多野瑶、林原真
史、竹内彰継、2012、「Hα線による黒点
6. まとめ
小口径望遠鏡で太陽の明るさの場所的・時
間的変動を観測し、そのパワースペクトルを
kω 図上にプロットして、5 分振動に特徴的な
リッジ構造の検出に成功した。
の 3 分振動の検出」、米子高専研究報告、
No.48
[3] 平山淳編、現代天文学講座 5、『太陽』、
恒星社厚生閣発行
本研究では特殊な観測装置や解析手段は使
[4] 尾崎洋二、(1979)、「太陽の 5 分振動」、
用していない。したがって、普通の高等学校
日本物理学会誌、第 34 巻、第 6 号、466-472
の天文部でも実施可能な研究テーマである。
頁
ただし、リッジ構造は非常に淡く、データを
[5] Nishikawa,J. et al. (1986) ‘Detection of
解析する際には以下の注意が必要であった。
Solar Five-Minute Oscillations through
White-Light Intensity’, PASJ, 38:277
①太陽面が球面であることによる 5 分振動の
波長のゆがみを避けるため、太陽の中心部
分のデータだけを使うこと。
②黒点を利用して、相関追跡法でガイドエラ
ーや自転の効果を補正し、太陽面に固定さ
れた領域を選び出すこと。
③観測日が快晴でも大気の透明度は微妙に変
化している。時間ごとに解析画像の明るさ
の中央値で規格化し、大気の透明度の変化
を補正すること。
④観測データに 2 次関数をあてはめて、それ
を引き算することにより変動の直流成分を
竹内彰継
除去すること。
米子高専科学部では今後ともこのような研
究活動を続けていく予定である。そして、天
体を観測し、データを解析することによって
何らかの物理量を得る喜びを学生たちに体感
させていきたい。
文
献
[1] 平田佐保子、原明亜矢子、森次奈津子、
阿部勝世、高見直道、田中立造、竹内彰継、
2003、「太陽彩層光度の極-赤道差の検出
の試み」、米子高専研究報告、No.39、p.12
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林原真史
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