一橋大学政策フォーラム
公開討論会「大震災からの復興を考える」
2011年5月26日(木)
震災と財政を巡る今後の課題
― なぜ被害は拡大するのか -
一橋大学経済研究所准教授
小黒一正
日本の地震は活動期に突入
z 首都直下(M7, 10年以内30%、30年以内70%)最悪で112兆円損失
z 東海(M8.0,30年発生確率86%)、東南海(M8.1,同80%)、南海
(M8.4,同50%)、宮城県沖地震(M7.5~8,同99%)
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過去の震災の教訓は生かされたのか
発生
地域GDP
地域人口
東日本大震
災
2011年3月
岩手・宮城
内陸地震
2008年6月
中越沖地震
2007年7月
約20兆円
(GDPの
4%)
約12兆円
(GDPの
2%)
約9兆円
(GDPの
1.7%)
中越地震
2004年10月
阪神淡路大
震災
1995年1月
死亡者数
571万人
マグニ
チュード
9.0
直接被害総
額
16兆円―
25兆円
368万人
7.2
約0.14兆円
11,734人
(4月1日10
時現在)
23人
237万人
6.8
約1.5兆円
15人
約9兆円
(GDPの1.7%)
237万人
6.8
約3兆円
68人
約20兆円
(GDPの
4%)
559万人
7.3
約10兆円
6434人
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震災被害が拡大する理由
z“What” 何を守るのかの不明確さ
⇒ 人命か資産か、その両方か
z“How” リスク処理の全体像の欠如
⇒ リスク処理=リスク制御+リスク金融
z“Peculiarity” 自然災害リスクが最も高い日本
cf. 公債残高も先進国中で最も高い
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“What” 何を守るのかの不明確さ
z人命
国土の70%は森林・河川・水面
15%は農地・道路
残り14%の「沿海部」を中心に1.2億人
⇒ 地震/津波/台風の“多発”地帯
z資産
実物資産
約2400兆円
家計金融資産 約1400兆円
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(参考)日本全体のバランスシート
6
少子高齢化により貯蓄率は低下する
金融資産をどう守るか
出所:内閣府「平成15年度 年次経済財政報告」
7
自然災害リスクが断然高い日本/東京
出所: Munich Re. “Megacities—Megarisks: Trends and Challenges for Insurance and Risk Management.” January 2005
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“How” リスク処理の全体像の欠如
リスク処理
リスク制御
回避
リスク金融
軽減
分散立地
保険
耐震補強
証券化
BCP
※ 保険契約者が企業の場合
移転
保有
ファイナイト
引当金
キャプティブ
9
機能しない「リスク制御」
zリスク制御
回避・軽減(例:都市計画)
⇒ 現状は…
氾濫原に住宅 等
耐震補強(例:建築基準)
⇒ 現状は…
81年基準前 39%(2003年推定)
耐震性なし 25%(
同上
)
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リスク制御の有効性(1)地震保険
平泉・小黒ほか(2006)(シミュレーション協力:応用RMS)
関東大震災(M7.9)
の再来
引受条件
支払限度
免責
損害額
(兆円)
保険金支
払額(兆円)
50%補償、
全損/半損/一
部損払
×
8.9
5.1
同上
同上
10%
8.9
5.0
▲0.1
新耐震
同上
×
4.4
2.5
▲2.6
【提案】改善試案
同上
実損填補
3%
4.4
3.4
▲1.7
【参考】全建物
=新耐震
同上
同上
同上
7.0
5.3
+0.2
現行地震保険
新旧耐震
現行地震保険+10%
免責オプション
現行(新耐震)
差異
リスク制御の有効性(2)地震保険
応用RMSのシミュレーション結果
活用が不十分の「リスク金融」
z
z
平泉・小黒ほか(2006)・・・リスク制御のみの活用
世界的に突出している日本の地震リスクの大きさ
→ 全リスク処理手法の活用
リスク処理
類型
リスク処理
の具体策
現行地震保険
改善試案
リスク
回避
引受リスクの選別
なし(全住宅)
新耐震基準の住宅のみ
リスク
軽減
保険契約者による
リスク軽減の誘因設定
建築年割引
耐震等級割引
新耐震基準の住宅のみ
引受けること
リスク
移転
再保険の出再
なし
なし
災害債発行
なし
なし
補償限度の設定
50%
100%
「住宅が再建できる」が
魅力ある保険の必要条件
免責の設定
なし
3%
モラル・ハザード軽減
リスク
保有
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(参考)海外の公的自然災害保険
基金名
Catastrophe Naturelles(CatNat)
アイスランド災害保険(ICI)
日本地震再保険(JER)
国
フランス
1975・地震、津波、噴火
日本
1966・地震、津波、噴火
ニュー・ジーランド
Norsk Naturskadepool
ノルウェー
台湾住宅地震保険基金(TREIF)
1982・全自然災害
アイスランド
地震委員会(EQC)
Consorcio de Compensacion de Seguros
設立年・補償するリスク
スペイン
1994・地震、津波、噴火、地滑り
1980・洪水、嵐、地震、雪崩、高波
1954・地震、高波、洪水、噴火、サイクロ
ン
台湾
2002・地震
トルコ
2000・地震
全国洪水保険プログラム(NFIP)
米国
1968・洪水
フロリダ・ハリケーン災害基金
(FHCF)
米国
1993・ハリケーン
カリフォルニア地震公社(CEA)
米国
1996・地震
トルコ災害保険プール(TCIP)
出所: Eugene N. Gurenko, et al. “Catastrophe Risk and Reinsurance: A Country Risk Management Perspective.”
February 2004等から作成
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制度の呼称
カリフォルニア地震公社
(California Earthquake Authority)
ニュー・ジーランド地震委員会
(EarthQuake Commission)
トルコ災害保険プール
(Turkish Catastrophe Insurance Pool)
台湾住宅地震保険プール
(Taiwan Residential Earthquake Insurance
Pool)
全米洪水保険プログラム
(National Flood Insurance Program)
フロリダ・ハリケーン災害基金
(Florida Hurricane Catastrophe Fund)
日本の地震保険
支払能力の総額
支払能力の構成
US$80億 ① CEAの資本
(①~⑥) ② 参加損保への第一次賦課
③ 再保険
④ 借入枠
⑤ 再保険
⑥ 参加損保への第二次賦課
NZ$54.2億 ① EQC基金
(①~④) ② EQC基金+再保険
③ 再保険
④ EQC基金
⑤ 政府保証
US$10億 ① TCIPの剰余金
(①~⑥) ② 世界銀行
③ 再保険第1層
④ 再保険第2層
⑤ 再保険第3層
⑥ 世界銀行
⑦ 政府
NT$600億 ①
(①~⑤) ②
③
④
⑤
US$35億 ①
(②) ②
US$158.5億(②) ①
+US$160億(③) ②
③
5兆円 ①
②
民間損保
TREIP基金
再保険,災害債
TREIP基金
政府
NFIP基金(カタリーナで払底)
財務省からの借入権限(カタリーナの保
険金支払のために2005年度はUS$185億
まで拡張)
損保による保有
FHCFによる再保険+損保による保有
【選択】FHCFまたは州政府債(保険加
入者に対する賦課を原資に償還)
民間損保
政府(地震再保険特別会計)+民間損保
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「リスク金融」の課題
地震保険
(1) 全リスクを保有している現行制度
① 原則: 予測可能なリスクは保有、潜在的に巨大で壊滅的なリスクは移転
② 地震は典型的な低頻度・大規模損害=ロング・テール
③ 全て保有はあり得ず、対価を支払っても一部移転すべき(cf. 諸外国の事例)
(2) 地震保険に加入していない者の負担
① 1.7兆円超の保険金支払原資は国債を通じた借入⇒ 仮にリスケ措置等となれば、
地震保険非加入者に負担
② 負担を強いれば給付の要求⇒ 保険ではなく、所得移転
③ 保険でなくなれば、地震リスクへの合理的対応が困難に
(3) リスク移転費用は絶対的に高いと言えない可能性がある
0 地震保険ポートフォリオのリスクとリスク移転費用はトレード・オフ関係
750億円
0
1兆7,057億円(FY06末)
1兆3,118億円
50%
8,778億円
損保会社・地再社 1兆0,133億円(FY06末)
「自己資本」を超える部分
5兆円
地震再保険特会
95%
4兆1,221億円
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5.31%に及ぶ再保険料率:高すぎる!
シミュレーション結果: 再保険料425億円で1.4~2.2兆円の4レイヤー(8000億
円)の出再が最も効率がよい (5.31%=425億円÷8000億円)
レイヤー別 Price of Risk
再保険料/リスク軽減額
30.0%
25.0%
再保険料425億円で
20.0%
6,985億円のリスク削減!
15.0%
出再対象外
10.0%
5.0%
0.0%
0.2~1
0.8~1.6
1.4~2.2
2~2.8
2.6~3.4
3.2~4
3.8~4.6
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問題の本質=「リスク金融」の弱さ
z高すぎる日本の自然災害リスク
× リスク制御 ⇒ リスク金融
○ リスク金融 ⇒ リスク制御
z保険/確率に立脚にした都市計画・建築基準
「リスク金融」が「リスク制御」を統制するメカニズ
ムの重要性 (市場メカニズムの活用)
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“逆転”の発想=リスク金融による統制
現状
計画
土地
建設
管理
保険/
確率
リスク金融
リスク制御
逆転
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震災に強い「都市」を目指す
リスク金融の統制を可能にする枠組みは何か
z 回避… 制度=ゾーニング(Zoning)、リスク情報の提供
都市機能の分散(=分権化+交付税見直し)
税 =高密集、氾濫原や無保険(地震)の住宅など
に固定資産税を上乗せ(=将来の復興財源)
z 軽減… 高仕様の100年住宅
耐震強化や地震保険加入を条件にした住宅ローン
高地震リスク地域や耐震性が低い住宅の地震保険料
をさらに引上げる
z リスク金融…
再保険の活用
キャプティブ(事後でなく “事前”の「復興基金」)
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復興庁でなく、日本版FEMAの設置を
被害(人命・資産)の最小化
z 活動期に入った日本の地震(例:首都直下地震、
東海・東南海地震)=今回が最後でない
z FEMA(Federal Emergency Management Agency,
連邦緊急事態管理庁 )=大規模災害が起ったと
きに、政府を横断的にまとめ、独自判断で状況判
断や支援活動を行う権限をもつ専門組織
z ①「平時」と「戦時」の切り分け、②「専門性」
や「経験(失敗を含む)」の蓄積が重要
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財政・社会保障改革は先送りできない
金利低下ボーナスの終焉
z 首都直下地震が財政のとどめの一撃になる可能性
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財政破綻確率を2倍にした東日本大震災
z 公債残高÷民間金融資産が90%以上になる確率
23
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