木谷・渡部・岡部:中川おしょくじプロジェクト:-まちと人をつなぐアートイベントの構築-
学生報告
中川おしょくじプロジェクト
-まちと人をつなぐアートイベントの構築-
木谷 理彩
渡部 拓郎
岡部 大介
ここでは,まちなかでアートイベントを組織することによる情報デザインの実践事例である『おしょくじ』の紹介を
行う.フィールドの創出とその場所で実践されるフィールドワークから,アートイベントがまちや学生に対しどのよう
な影響を与えるかを考える.
キーワード:アートイベント,フィールドワーク,地域連携,おしょくじ
1 背景と目的
1.1 目的
複数の人びとによるインタラクションによって生み出
される,地域を基盤とした協同的なプロジェクトをデザ
インしていくことも,情報デザインにとっては大きなチ
ャレンジとなる([渡辺], 2001).本稿では,大学生が
アーティストと交流しながら,大学近隣の「まちなか」
でアートイベントを組織する情報デザインの活動につい
て紹介する.アーティストの活動,またはアートイベン
トを足がかりに,学生が主体的にまちに入り込む形のフ
ィールドワークを概観しながら,彼らがどのような実践
に従事したかについて,フィールドノートを通して振り
返る.アーティストを巻き込みつつ「まちなか」でアー
ト(作品)を作り上げる活動は,まちの再デザインの過程
でもある.ここでは,
「まちなか」の情報デザインを目指
す事例としてのアートプロジェクト,
『おしょくじ』の可
能性について探り,考察することを目的とする.
ティスト,
本学教員,
学生が中心となり運営されている.
2.2 『おしょくじ』の概要
『おしょくじ』とは,アーティストの三宅航太郎氏が
発案した「まちなかの飲食店を巻き込んだアート」であ
る.東京都墨田区で実施されたアートイベントにおける
学生との交流を機に,三宅氏に監修を依頼し実施してい
る.
食事とおみくじをかけて『おしょくじ』
.この,飲食店
版の
「おみくじ」
には,
飲食店の情報(飲食店のメニュー,
場所,営業時間,店長のコメントや特典など)が記載され
ている(図1).
「おみくじ」と引き替えるための棒を引く
「御神籤箱」には,学生が交渉の末手に入れた中川駅周
辺の飲食店の箸が入っている(図2).箸には番号がふら
れ,そのお店の「おみくじ」を手に入れられるというア
ートである.なお,現在約 30 店舗の『おしょくじ』が集
まっている.
2 方法
2.1 フィールドの概要
本学横浜キャンパスの最寄駅である,横浜市営地下鉄
ブルーライン中川駅において,アートプロジェクト『お
しょくじ』は展開された.2009 年 12 月から中川駅前の
フィットネスクラブ「パレット中川」の協力の下,アー
図1 『おしょくじ』の札紙
KITANI Risa
東京都市大学環境情報学部3年生
WATABE Takuro
東京都市大学環境情報学部3年生
OKABE Daisuke
東京都市大学環境情報学部情報メディア学科講師
図2 『おしょくじ』の
御神籤箱
人びとにとって馴染みのある「おみくじ」の文化を用
いることで,偶然引いた飲食店(の「おみくじ」)に,何
らかの「運命」を感じとってしまうかもしれない.この
ような箸を引くという主体的な行為とともに,人びとと
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東京都市大学 環境情報学部 情報メディアセンタージャーナル 2010.4 第 11 号
飲食店をつなぐ事が『おしょくじ』というアートの1つ
の目的である.
2.3 フィールドノートへの記録
プロジェクトチーム全員が,フィールドノートに営業
活動中の店舗とのやりとり等について詳細に記録してい
る.また,プロジェクトチームで実施した全 10 回の会議
の議事録,フィールドワーク実施時の写真,動画撮影や
録音も実施した他,情報共有のために使用していたメー
リングリストのログや twitter でのハッシュタグを用い
たコメント,ブログへの書き込みなどで記録をとるよう
にした.
3 結果
3.1 実践を通して可視化される関心
自分たちがなぜこのプロジェクトをするのか,そもそも
なぜ中川という街を活性化したいのか,ここが明確じゃ
ないからかもしれない....店主から「君はこの街の歴史
について,何も知らないのか?そんなんで,本当に地域
を活性化したいと思っているのか」と指摘されてしまっ
た....そんなことを調べたり,考えたりするのも大切な
ことなのではないかと考えさせられるやりとりだった
(学生 W フィールドノート1/23 より抜粋)
このフィールドノートからは,元々は受動的にプロジ
ェクト参加を承諾した学生が,
なぜこの実践を行うのか,
店主からの発言により考え,自分自身で自立的に思考す
るように変化していく様子が伺える.
学生は研究活動に参加する際に,たとえそのプロジェ
クトが主体性を必要とするものであっても,あまり意識
をしないで参加する傾向があると考えられる.しかし,
飲食店の方々との交流や意見交換を行うに連れ,まちに
対する意識の変化を経験する姿が見てとれる.
3.2 アートを介してまちに入る
大学生は,アートプロジェクト『おしょくじ』を介し
て,これまでとは異なる形でまちと戯れることになる.
『おしょくじ』というアートがあることで,飲食店との
新たなコミュニケーションに足を踏み入れることができ,
出会いの場が生まれる.こうした「まちなかアート」は,
学生がまちに一歩入り込むための道具としても機能して
いるのかもしれない(図3).
最初は警戒心丸出しで睨みをきかせていた店主.必死に
笑顔で相槌をうって話をつないだ.だんだんと店主も笑
うようになってくれた.人の話を真剣に聞くという事は
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図3 飲食店との交渉過程の例
相手を知る上でも,相手の理解を得るためにもとても重
要なことだと感じた.最後には「時間過ぎてもきてくれ
や.飯食って話そう」といってくれた.とてもうれしか
った.これからも密に関わっていきたい.
(学生 O 1/21 フィールドノートより抜粋)
店舗との交渉は,
『おしょくじ』を実施する上で非常に
重要な要素である.
飲食店側が NG を出せば参加希望店舗
が一カ所減ってしまうということから,非常にプレッシ
ャーのかかる活動である.しかし一方で,交渉過程にお
いて,上記フィールドノートにあるような『おしょくじ』
に関連しないコミュニケーションが生まれるケースもあ
る.
このようにアートプロジェクト『おしょくじ』という
情報デザインは,学生がまちに入り込むための,または
コミュニケーションを媒介するツールとして有用である
と考える.学生がまちを学ぶためのユニークな対話の場
を誘発するコンテンツとして捉えることも可能であろう.
4 考察
これまで見てきたように,
『おしょくじ』を用いてまち
にフィールドを創りだし,その場でのフィールドワーク
を行う実践は,実践自体のデザインを学生自ら再デザイ
ンすることを促すことから,学生に自立的な学びの場を
創出させることが出来ると言えるだろう.また,そうい
った環境が飲食店との関係を、活動を超える親密性へと
変化させ,飲食店を内在する「まち」の見方を変容させ
ることができると考える.
参考文献
渡辺 保史:情報デザイン入門-インターネット時代の
表現術-,平凡社,2001
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