地方法人課税の課題
佐藤 主光(もとひろ)
一橋大学政策大学院
1.報告の概要

わが国の地方法人課税の現状

地方法人課税の理論

地方法人課税改革
キーワード:「望ましい地方税」、「課税自主権」、「財
政的外部効果」
2.日本の法人課税

地方税
所得課税
国
所得税
法人税
道府県
法人事業税
個人道府県民税
消費課税
消費税
揮発油税
酒税
たばこ税
自動車重量税
石油ガス税等
地方消費税
資産課税等
相続税
登録免許税等
不動産取得税
自動車税
地方
市町村
法人道府県民税
軽油引取税
道府県税利子割
個人事業税
自動車取得税
道府県たばこ税
個人市町村民税
法人市町村民税
市町村たばこ税
固定資産税
軽自動車税
都市計画税
特別土地保有税
事業所税
国税・地方税の税収比較
平成16年度決算額
わが国の地方税の特徴

所得課税(個人・法人)、消費課税、資産課税等、幅
広い税目

国税との課税ベース・対象の重複(所得税と個人住
民税、法人税と法人事業税等)

都道府県の法人課税(法人事業税・法人住民税)へ
の依存
=>税収の不安定性(特に都市部)

税源の地域間偏在(=「水平的財政力格差」)
法人課税依存度(都道府県)
都道府県税収の構成
60.0
50.0
%
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
04
03
02
01
2000
99
98
97
96
95
94
93
92
91
90
89
88
87
86
85
84
83
82
81
1980
年度
法人2税(住民税+事業税)
個人住民税(所得割)
地方消費税
法人課税依存度(市町村)
市町村税収の構成
40.0
35.0
30.0
20.0
15.0
10.0
5.0
年度
法人住民税+固定資産税(償却資産)
固定資産税(土地・家屋)
個人住民税(所得割)
04
02
20
00
98
96
94
92
90
88
86
84
82
0.0
19
80
%
25.0
国際比較
出所:http://www.soumu.go.jp/czaisei/czais.html
税収の不安定性(都道府県)
税収の変動(都道府県)
20.0
15.0
5.0
0.0
-5.0
04
03
02
01
2000
99
98
97
96
95
94
93
92
91
90
89
88
87
86
85
84
83
82
81
対前年度変化率(%)
10.0
-10.0
-15.0
-20.0
-25.0
年度
都道府県税収
法人2税
税収の不安定性(市町村)
税収の変動(市町村)
20.0
10.0
5.0
0.0
-5.0
04
03
02
01
2000
99
98
97
96
95
94
93
92
91
90
89
88
87
86
85
84
83
82
81
対前年度変動率(%)
15.0
-10.0
-15.0
年度
市町村税収
法人住民税+固定資産税(償却資産)
税収の変動要因
税収の変動要因(都道府県)
2,500
2,000
1,500
億円
1,000
500
0
04
03
02
01
2000
99
98
97
96
95
94
93
92
91
90
89
88
87
86
85
84
83
82
81
-500
-1,000
-1,500
-2,000
年度
法人事業税
法人住民税
個人住民税(所得割)
その他
税収の変動(東京都)
50
40
30
10
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
-10
1986
0
1985
変動率(%)
20
-20
-30
-40
法人住民税(左)
事業税(左)
実質単年度収支比率(右)
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
-10
対標準財政規模(%)
東京都の財政と法人課税
変動率(%)
-5
法人住民税(左)
事業税(左)
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
35
3
25
2
15
1
5
0
-15
実質単年度+北海道!収支比率(右)
-1
-25
-2
-35
-3
対標準財政規模(%)
税収の変動(大阪府)
大阪府の財政と法人課税
地方税と経済安定化

景気対策を担わされた地方税
=>景気安定化機能
表 恒久的減税(99年度から施行)の影響(試算)
国
地方
個人所得課税
2.9 兆円減
1.1 兆円減
最高税率
50%->37%
15%
1.6 兆円減
0.7 兆円減
34.5% -> 30%
11.0% -> 9.6%
4.5 兆円程度減
1.8 兆円程度減
法人課税
基本税率
計
(出所)
「地方財政」
(98年12月号)
-> 13%
税収の偏在
法人事業税の外形標準化

税制調査会地方法人課税小委員会(平成11年7
月)
(i)安定的な税収確保
(ii)応益課税としての性格の明確化
(iii)税負担の公平性の確保
(iv)経済構造改革の促進
=>所得に代えて事業活動規模を表わす課税基準の
導入を提言
外形標準化の迷走
応益課税としての外形標準
化
=>赤字企業(7割)にも課税
=>負担の「公平」?
=>中小企業への配慮
=>資本金1億円以上の企業
へ限定
=>応能原則に基づく課税

課税自主権と法人課税


収入サイドの分権化=税源移譲・課税自主権(税
率・課税標準の選択(評価・控除)・徴税)の強化
課税自主権を巡る誤解
-地方自治体には課税自主権を行使する余地が
少ない
=>日本には欧米の「分権的財政モデル」(新古典
派?)は当てはまらない。
地方の課税自主権

日本の地方自治体の課税自主権
-超過課税=標準税率を超過した税率選択
-地方新税=法定外目的税・普通税の創設
-課税免除・不均一課税:「地方団体は、公益上
その他の事由に因り必要がある場合においては、
不均一の課税をすることができる」(地方税法第6条
の2)=>標準税率以下での課税
超過課税と課税自主権

「地方においてもまずは自ら汗をかいて行政改革に
取り組み、・・・超過課税や法定外普通税・目的税な
どの課税自主権の活用・・・により歳入確保に努め
ることが必要」(政府税制調査会「わが国の税制の
現状と課題」(平成12年7月14日)

「課税自主権の活用は、地域における受益と負担の
関係の明確化につながるものであり・・・住民と正面
から向き合い、自らの責任と負担で施策を進める姿
勢が求められる。」(政府税制調査会「少子・高齢化
社会における税制のあり方」(平成15年6月17日)
出所:地方財政白書(平成18年度版)
地方新税


地方分権一括法(2000年4月施行)で、(1)法定外普通
税が許可制から協議制へ移行、(2)法定外目的税が創
設(協議制)された。
法定外税は以下の条件を満たす範囲で国から許可され
る:
(i)納税者に過大な負担をもたらさない
(ii)物流を妨げない
(iii)国の経済政策と矛盾しない範囲で国(総務省)から
許可されることになる。
表:新税導入の動き
地方自治体名
青森県・岩手県・
秋田県
新税の名称(仮称も
含む)
新税の内容及び導入時期・検討状況等
産業廃棄物の流入抑制とリサイクル促進を目指し、2004 年1月に3県
共同で導入予定。産廃1トン当たり 1,000 円。
観光の振興を図る施策に要する費用に充てるため、ホテルまたは旅館の
東京都
宿泊税
宿泊者に一定の負担を求める。2002 年 10 月導入。
レジ袋1枚につき5円を課税。2002 年3月、条例が成立。しかし、総
杉並区
レジ袋税
務省との協議は先送り。
放置自転車等対策推 豊島区内の鉄道駅における前年度の乗客人員を課税対象。平成 16 年 9
豊島区
進税
月に総務大臣同意。
河口湖町・勝山
初の法定外目的税で、2001 年7月導入。釣り客が遊漁券を購入する際
遊漁税
村・足和田村
に、一人あたり 200 円を上乗せ。
乗鞍スカイライン山頂駐車場へ自動車を運転して入り込む者に対し課
岐阜県
乗鞍環境保全税
税。2002 年 10 月に条例可決。2003 年2月に総務大臣同意。
特に名古屋市からの産業廃棄物の流入を抑制することを企図した税。
多治見市
一般産業物埋立税
2002 年4月導入。
都道府県レベルの環境関連の法定外目的税として最初の事例。2002 年
三重県
産業廃棄物税
4月導入。産廃1トン当たり 1,000 円
広島県・岡山県・
産業廃棄物の流入抑制とリサイクル促進を目指し、2003 年4月に3県
産業廃棄物税(注1)
鳥取県
共同で導入予定。産廃1トン当たり 1,000 円
北九州市とほぼ同様の産業廃棄物税の構想をもっていたが、
「二重課税」
福岡県
資源循環促進税
などの懸念が生じ、双方で調整。その結果、北九州市の先行導入が決定。
産業廃棄物の流入抑制とリサイクル促進を目指し、2003 年 10 月導入予
北九州市
環境未来税
定。産廃1トン当たり 1,000 円
太宰府市内にある一時有料駐車場の利用者に課税。2002 年7月総務大
太宰府市
歴史と文化の環境税
臣同意。
(注)上表の情報は、2003 年2月 20 日現在のものである。
(出所)「地方交付税の経済学」(柿沼(2003)から転記)に加筆
産業廃棄物税
課税の軽減措置
「創業・産業集積促進税制」(大阪府)
対象:資本金1千万円以下の中小創業法人(平成13年4月
1日から平成19年3月31日までに創業)への法人事業
税の軽減
①創業から5年間、2分の1に軽減
②特定業種中小創業法人(製造業、ソフトウェア業・
情報処理サービス業)であれば軽減は9/10。
対象:大阪府内の一定地域(産業集積促進地域)における
事業向けの土地・家屋の取得(平成21年3月31日まで)
③不動産取得税を2分の1に軽減(上限2億円)

課税の軽減措置
「京都府雇用創出のための企業立地・育成条例」(H19年3月
31日まで)
a)税の特例措置
 知事が指定する「ものづくり産業集積促進地域」内において、
製造業等の工場、研究所等の新増設、建替等を行う場合
(常用雇用者数5人以上)に、不動産取得税の税率の2分の
1を軽減。
b)補助金の交付
 京都産業立地戦略21特別対策事業費補助金、市町村企業
立地基盤整備事業費補助金の交付。
c)融資制度の活用
 雇用のための企業立地促進融資制度等の活用
3.地方法人課税の理論

税の機能
-公共財・サービス(公共支出)の財源確保
-所得再分配(例:累進的所得税)
-リスク・シェア、マクロ経済の安定化(例:所得税)
ー市場の失敗の矯正(例:環境税)

「規範的機能配分論」」=地方行財政の主要機能は
地方公共サービスの供給
=>税の機能は財源確保
地方税と公平感

公平感の多面性
-応能原則=担税力に応じた税負担
=>所得再分配を含意
-応益原則=受益に応じた負担

所得再分配が国の責任
=>地方税に求められる公平感は「応益原則」
地方の財政責任

「限界的財政責任」=各地方自治体は自らが判断する
「独自」の支出(単独事業)を自身の財源(超過課税を含
む)で賄う責任を負うべき。
独自支出
標準的(義務的)支出
地方税(超過課税等)
地方税・財政移転等でファイナンス
望ましい地方税

地方の限界的財政責任を充足する(地方に税率選択等
課税自主権を付与する)べき地方税とは?
望ましい地方税の条件
(1)収入の安定性
(2)普遍性=地域間で偏在しない
(3)固定性=課税ベースが地域間で移動しない
(4)財政責任(応益原則)=受益する住民に負担感
が明確
望ましくない地方税
帰結
税収の不安定性
公共財・サービス供給が不安定
税源の地域間偏在
地域間不公平
課税ベースの地域間移 財政的外部効果(「租税競争」)と
動
税収確保の困難
財政責任の欠如
応益原則からの乖離・放漫財政の
放置
望ましい地方税
安定性
個人
所得割
住民税 均等割
法人二税
△
O
X
普遍性
固定性
財政責任
△
△
△
△
O
O
X
X
△
O
O
固定資産税
(土地・家屋)
△
△
地方消費税
O
O

△
△
価格としての(コスト意識を喚起)住民課税 =>地方の財政責任の
究極的な担い手は地域住民(有権者)!
地方法人課税の帰結

課税の「建前」(例:応益原則)と「帰結」の区別

地方法人課税の経済的帰結
=>税負担の帰着

地方法人課税への「誘因」
=>規範から逸脱した地方自治体の課税自
主権の行使
=>財政的外部効果
「新しい見解」(New View)


法人企業が税を支払っても、負担しない
地方法人課税の帰着
-地域間税率格差
=>高税率地域からの企業の流出
=>当該地域の雇用・賃金、地代の低下
=>労働者に帰着
-平均税率
=>課税後資本収益率の低下
=>資本家(投資家)に帰着
=>長期的には経済成長の低下
全国資本市場
FK ( K A )
税率格差を反映
tA
GK ( K B )
tB
E
0
課税後収益率の低下
1
D
K
KB
OA
K B*
*
A
K Ae
K Be
KA
K
OB
財政的外部効果

課税自主権の行使の誘因への「歪み」
発生
要因
種類
税の例
帰結
結果
水平的外部効果
源泉地主義課税
非居住者への税転嫁
租税輸出
居住地主義
課税ベース移動
垂直的外部効果
課税ベースの重
複
クロスボーダ
租税競争
租税外部効果
ーショッピン
グ
企業課税・非居住者
物品税
資 本 課 (累進的)個 個人所得税・法人
資産への固定資産税
税
人所得税
税等
過剰税率
過少税率
過剰税率
「財政責任」の欠如 「分権的税制度」が持続不可能
「経済活性化」を
損なう
良い競争と悪い競争

良い競争
ー地方政府への「規律づけ」
=>効率的財政運営を促進
ー起業活動の支援(新規産業の発展の促進)
=>社会全体に付加価値を創出
悪い競争
-既存の企業(課税ベース)の奪い合い
=>「パイ」の取り合い=新たな付加価値を創出せず

応益課税と租税輸出

観光施設、社会インフラ等、非居住者(観光客・企業)も
地方公共サービスから受益
=>応益課税としての非居住者課税(表)
出所:佐藤(2002)
外部効果

規範からの乖離=「租税輸出」の誘因

地方自治体が「規範的」に振舞うことは期待できな
い。

地方政府が奉仕の対象とするのは「住民」(居住者)
であって、「非居住者」ではない。=>過大な税負担
(=独占価格)を非居住者に課す(負担を押し付け
る)誘因(=租税輸出)は自律的には抑制されない。

地域厚生の追求≠社会厚生(効率・公平)の追求
租税輸出か租税競争か?

企業課税は(1)企業の地域間移動を誘発して租税競争
をもたらすか、(2)生産物・配当、賃金への税負担の「転
嫁」を通じて非居住者(消費者・株主、労働者)への租税
輸出をもたらすか?

地域間での競争が対等(完全競争的)か、地域が(地域
的特性・利便性によって)独占力を行使できるか?
出所:佐藤(2002)
地方法人課税の帰結

法人課税への自治体の課税自主権の行使

「租税競争」=税収の確保が困難、企業の立地選
択に「歪み」

「租税輸出」=非居住者(企業)の負担による財政
運営(「政府間財政移転」と同様)
=>放漫財政の放置・居住者(有権者)の無関心
財政的外部効果とわが国の地方税
表:財政的外部効果
税目
外部効果
住民課税
所得割 均等割
水平的 租税競争
租税輸出
垂直的
O=発生;X=発生しない
O
法人課税
地方消費税
X
X
O
O
O
O
X
O
O
固定資産税
X
O(非居住者
資産課税)
X
重複課税

「垂直的外部効果」と納税コスト

国・地方の独自の課税自主権行使
=>外部効果=「共有地の悲劇」

法人税からの課税ベースの乖離
-法人事業税(外形標準課税)
-法人住民税(連結決算)
固定資産税の償却資産
=>納税コストの増加


税制と徴税の協調(一元化)が必要
4.地方法人課税改革

改革の課題
-地方税収の安定化
-税源の地域間偏在の是正
ー地方法人課税への課税自主権の制限
-応益原則の徹底(居住者主義課税)
=>地方の財政責任と効率的財政運営の促進(居
住者の関心と規律づけの喚起)
個人住民税(均等割)
%
個人住民税(所得割)の「比例税化」

従来の個人住民税(所得割)は累進的
=>地方レベルでの所得再分配

「応益性や偏在度の縮小といった観点を踏まえ」フラット化
改革案

法人住民税(都道府県・市町村)の「地方共同税化」=
交付税の原資

地方法人事業税の「地方消費税化」
=>税収の安定化・格差是正と課税自主権の制限(外部
性の回避)

個人住民税(所得割・均等割)による代替
=>居住者課税(居住者の限界的財政責任)の徹底
ダウンロード

望ましい地方税の条件