●特集 国立大学法人化
が働かず、学長や執行部による
トップダウン型の弊害を指摘す
る声も多い。
自由化が生 む
入試の複雑 化 と 混 乱
ら各大学に独立した法人格を与えられる。予算・
組織などの規制は大幅に縮小し,大学の責任にお
いて決定する。
② 「役員会」制の導入により,トップマネジメン
トをすすめ,全学的観点から運営する「経営協議
会」を置く。
③ 学外有識者・専門家を役員に招く学外役員制度
入試においても、当初は、各
大 学 の 自 由 裁 量 が 増 え る の で、
個性化・多様化が進むのではな
いかと期待されたが、最近では
むしろ受験生にとってマイナス
面が目立ってきた。
① 自律的な運営を確保し,国の行政組織の一部か
国立大学法人化から来年で 10 年
になる。法人化によって、大学が多
様化すると言われたが、学費などは
相変わらず画一的で、入試について
は統一性に欠けるようになったとい
う声もある。国立大学法人化による
変化を報告する。
職を含め全学的な人事体制を確立する。
⑤ 大学の教育研究実績を第三者機関により評価
し,
その評価を大学内の資源配分に確実に反映し,
またそれらを情報公開する。
国立大学の法人化とは
何だったのか
国立大学の法人化がスタート
したのは2004年だが、法人
化の本格的な検討は、1996
年の橋本内閣の行政改革会議で
始まったと言われる。その主な
ねらいは、国立大学の再編・統
合にあり、法人化はその一つの
手段として検討された。
国立大の再編・統合について
は、2001年に当時の遠山文
科大臣が提唱した「国立大学の
構 造 改 革 案 」( 遠 山 プ ラ ン ) で
公表され、その骨子は、
① 国立大学の再編・統合を大
胆に進め、県境を越えて国立
大学の数を減らす
② 国立大学に民間的発想の経
営手法を導入し、外部の専門
家を登用して経営の効率化を
目ざす
③ 第三者による外部評価を行
い、それによって資金を重点
配分し、競争を促す。
というものだ。
中でも、文部科学省は①の国
立大学の統廃合にねらいを定め
法人化以前は、文部科学省傘
になった。
下の国立大学協会(国大協)の
京大では、法人化を機に、負
決定を尊重する慣行があったが、 担になっている後期日程をやめ
法人化によって、建前上は入試
るため、国立大学入試の自由化
方式や受験料、授業料まで、各
を考えていたようだ。
大学が自由に決められることに
ここでいう自由化とは、入試
なり、国大協の縛りも弱まった。 をそれまでのように前期・後期
2回実施してもいいし、前期一
そのような中で、京大は、他
の国立大や高校現場の声を無視
本 で も 構 わ な い と い う よ う に、
して分離分割方式の後期日程を
各大学の自由に任せるという案
廃止し、東大も後期の募集人員
である。この案を、東大と共同
を大幅に減らして、前期重視型
で進めようと図った。当初は東
大もこの案に賛成し、後期廃止
の方向で検討を始めたが、他の
旧帝大などが真っ向から反対し、
最終的に後期廃止を撤回し、現
在 に 至 っ て い た の で あ る。( た
だ東大では、2016年から後
期を廃止し、推薦入試を導入す
ることになったことは記憶に新
しい。)
この出来事をきっかけに、国
大協内部での意思一致が難しく
なり、各大学が各々の利害にし
たがって入試科目を決める傾向
が出てきた。
例えば、センター試験におけ
る地歴・公民の選択では、国大
協が4単位科目の指定を決めた
どにも学外者が参画する
④ 各大学の責任で能力・業績に応じた給与システ
ムを導入し,兼職などの規制をなくして産学連携
をしやすくする。また学長の任命権によって事務
ていたが、各県に国立大学一つ
以上という伝統があり、教員養
成学部の統合については、地元
の教育委員会などが反発し、地
元の政治家も動いて、統廃合の
動きの多くは頓挫した。
そんな中、2004年に公務
員削減を目指す行政改革の一環
と し て、 国 立 大 学 法 人 化 が ス
タートした。結果的に、法人化
による経営の効率化と外部評価
による競争という遠山プランの
②③が先に実現したといってよ
い。
国 立 大 学 の 法 人 化 に よ っ て、
法的にどう変わるのかについて
まとめたのが、表1である。重
要なのは、戦後 年間の学部自
治をベースにしたボトムアップ
型の大学運営から、学長を中心
にした執行部が権限と責任を持
つトップダウン型の経営組織に
転換するということである。
そのためには、国立大学全体
が抜本的に改革しなければなら
ないが、多くの大学では経営政
策や立案のノウハウに欠けてい
たため、9年後の今も、学内の
さまざまな意見を集約する機能
将来的に国立大学の
統廃合は避けられない
にもかかわらず、それを受け入
れたのは旧帝大系を中心にした
一部の大学に留まった。
新課程の理科についても、以
前であれば、国大協がもっとシ
ンプルな選択方式を提示し、各
大学もそれに従っていたと考え
られる。
現実には、法人化による競争
原理によって大学間の格差は広
がり、統一的な入試改革はます
ます困難になりつつある。これ
からも断続的に入試の複雑化・
混乱は続くと思われる。受験生
にとっては、法人化は、入試に
おいてはむしろ混乱を招いたと
言えるだろう。
60
そこで、国立大学の法人化の
これまでの動向と今後の展開に
ついて、『大学入試の戦後史』(中
公新書クラレ)の著書がある中
井浩一鶏鳴学園学長に聞いた。
「国立大学の法人化より前に、
急速に少子化が進み、国立大学
も含め、大学の数が多いという
認識はあり、統廃合すべきだと
2013 / 5 学研・進学情報 -6-
-7- 2013 / 5 学研・進学情報
法人化で国立大学は
どう変わったか、
変わるか
を導入し,「経営協議会」や「学長選考会議」な
特集 国立大学法人化
表1 国立大学法人化の法的性格
●特集 国立大学法人化
いう意見はありました。それと
から「アンブレラ方式」と呼ば
国立大学が文部省の役人に支配
れる計画である。
さ れ て い い の か と い う 思 い も、
こ の よ う な 考 え の 背 景 に は、
前から底流としてあったとも思
厳しい国の財政事情がある。東
います。
海 地 方 の 国 立 大 学 の 元 学 長 は、
その流れが、公務員改革の一 「 現 在 の 国 立 大 学 の 財 政 状 態 か
環としての公務員削減の動きと
らは、将来は大幅な学費値上げ
ドッキングして、国立大学法人
か、国立大学の統合は避けられ
化が実現したわけです。性急な
ない」という見解を述べている。
決め方に対しては反対意見もあ
これは財務省や文部科学省の本
りましたが、それまでは国立大
音とも言えるであろう。
学の当事者に国民に財政負担を
国立大学の統合について中井
かけているという自覚と責任感
氏は、
が薄く、国民に十分に説明して
「私は、法人化のときに、『1
こなかったために、マスコミや
法人1大学運営』にこだわらず、
国民は無関心で、法人化がすん
アンブレラ方式を導入すべき
なり決まってしまいました。
だったと思います。
2005年以降の運営費交付
これからは少子化がどんどん
金(法人への国からの補助)が
進み、国立大学でも定員割れが
年 に 1 % ず つ 減 ら さ れ た の も、 起きてくるでしょう。今でも学
もともとは財政・行政改革から
生の質を担保する競争率2倍ラ
出た話ですから当然予測された
インを切っている国立大学の学
ことです」
部学科が多いのが現状です。
2012年6月に文部科学省
運営費交付金も減らされてい
が公表した「大学改革実行プラ
く中で、競争原理のもと財政的
ン」では、国立大学についても、 にも立ち行かなくなる大学が出
さまざまな改革を打ち出してい
てきます。その前に大学が自発
る。その1つは、1つの法人に
的に自らの存在意義を示すべき
複数の大学が分岐するイメージ
です。示せなければ消えるしか
たというコンプレクッスが生じ
たり、まして市民大学では大卒
という誇りを持てないという学
生も生まれるかもしれない。
しかし、種別化によって、教
育大学では人材養成のノウハウ
が蓄積され、それによって研究
者でなく、高度な職業人として
スキルや知識を身につけること
ができれば、ほとんどの学生に
とってはプラスになる。市民大
学で社会人なども含めて多彩な
生涯教育を展開すれば、地域社
会において、十分社会的役割を
果たすことができるであろう。
また、入学後に市民大学から
教育大学へ、さらに研究大学に
移動できる流動性の高い転学シ
ステムをつくれば、問題は基本
的に解決する。学歴はあまり意
味をなさなくなるであろう。
アメリカでは、市民大学にあ
たるコミュニティカレッジの上
位数%は上位の大学に進学でき
るようになっている、といわれ
ている。
このように、入学後に本人の
努力次第で大学をレベルアップ
していくことができれば、どの
大学進学率が %くらいのこ
ろは大学の数も少なく、受験生
の学力も高かった。いわゆるエ
リートを対象にしていて、すべ
ての大学で独自に行う能力選抜
が入試の主流であった。
成に主眼
ルを磨く
出口重視の大学の機能分化へ
15
進学率が %近くに上昇する
につれて、大学の大衆化が始ま
り、大学はエリート養成機関で
はなくなった。それまでの研究
大学としての機能から、企業人
や専門職を養成する機能がほと
んどの大学に求められるように
なった。
さらに現在は大学進学率が
%を超え、大学全入時代に突
入している。高望みしなければ、
だれもが大学に行けるユニバー
サル段階になっており、ほとん
どの受験生が以前のような目的
意識を持って入学する時代では
なくなりつつある。
中井氏は、
「 そ の 現 実 に 目 を つ ぶ り、 す
べての大学がエリート時代と同
様な能力(学力)選抜に固執し
ているのはおかしい」と指摘す
る。現状を見据えて、大学はそ
れぞれの機能と役割を担って分
化すべきと主張する。
その大学の種別化が表2であ
る。アメリカもすでにこのよう
に分化しており、それぞれが自
己の役割を認識している。
50
大学に入ったかでなく、どのよ
うな大学を卒業できたかで評価
されるようになるだろう。それ
は逆に言えば、それぞれの大学
教育に対する社会的信頼がある
ことが、前提になる。
このように、大学の特色と役
割をはっきりさせることで、そ
れぞれの大学の存在意義を高め
ていくというのが、中井氏の考
えである。
※
中井氏の指摘する大学の種別
化によって、研究活動よりもリ
ベラルアーツで人材育成(教育
大 学 )、 基 本 的 な 社 会 人 の 常 識
とスキルの習得(市民大学)と
機能を明確にしたほうが、大学
選びの上でも、また入学後の学
びの点でも、学生にとっても幸
せかもしれない。
その意味で、法人化による自
由化・多様化は、究極において
大学そのものを大きく変える可
能性がある。法人化による国立
大学の今後の動向に注目してい
きたい。
(取材・執筆/木村誠)
教育大学は独自の入試を行わ
50
2013 / 5 学研・進学情報 -8-
-9- 2013 / 5 学研・進学情報
知識習得やスキ
れの私大が中心
全員入学
中堅私大
結果により進学
約3割
生涯教育
市民大学
研究より人材育
リベラルアーツ
社会人としての
希望者は
地方国公立大,
教育大学
ほとんどの定員割
職能教育や
も含む
5割強
早慶クラス
全国型資格試験
旧帝大系クラス, 大学院大学など
約 15%
競争選抜
学術研究
独自入試による
研究大学
想定されるか
特色
どのような大学が
割合
入学の方法
主な機能
大学のタイプ
ありません」と話す。
経営効率という点ではメリッ
トがあるアンブレラ方式である
が、批判も多い。統合した後の
学部配置において、それぞれの
学部がどちらか一つの県にだけ
置かれるため、その学部の地元
の志望者にとってはデメリット
になる可能性もあるし、学部の
移転によるキャンパス整備など
イ ン フ ラ に も コ ス ト が か か る。
何よりも、地元に密着したきめ
細かな地域貢献が難しくなる。
たとえ、このようなアンブレ
ラ方式や統廃合をしても当面の
延命策にすぎず、現在の大学全
入時代において、十分に大学の
社会的役割を果たす上で、もっ
と根本的な大学改革が迫られて
くる、というのが、中井氏の見
方なのである。
ず、センター試験
や高大接続テスト
の成績で選抜する。
これで全大学が独
自な入試を展開す
る大きな社会的ロ
スを減らせるだろ
う。
高大接続テスト
はかなり以前から
検討されてきたが、
2014年度末に
は一定の結論が出
る予定だ。
もちろん教育大
学や市民大学に組
み入れられた大学
の教員には心理的
抵抗があるだろう。
大学当事者だけで
なく、研究大学に
入学できる受験生
の 層 は 別 と し て、
教育大学や市民大
学を受験する受験
生 や 保 護 者 に も、
抵抗があるだろう。
教育大学では研究
大学に入れなかっ
表 2 大学の機能分化による種別化の方向
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法人化で国立大学は どう変わったか、 変わるか