WebCR2014/5
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連載
IT新時代と
パラダイム・シフト
第55回
知性ロボットが
文章を作成する時代の到来
日本大学商学部
根本忠明
文章は、「人がコピペする時代」から「ロボットが自動作成する時代」へと変わりつつ
ある。ツイッター、新聞記事、科学論文に到るまで、コンピュータ(ロボット)が文章を
作成する話題が、マスコミやウェブ上で増えている。クイズ番組やチェス・将棋などでは、
コンピュータの知性は、人間の知性を凌駕し始めている。今回は、この進化しつつある知
性ロボットの現状について、紹介することにしたい。
専門誌の査読に知性ロボットの採用が求められる時代
2014 年 1 月に始まった STAP 細胞騒動は、学者・研究者の世界における論文の不正作
成疑惑騒動へと発展してしまった。これらの騒動については、「科学雑誌掲載の論文はデタ
ラメだらけ 偽論文を査読は見破れない」(http://inagist.com/all/441039413800218624/)
のリンク集ほかにアクセスすれば、各種の不正事件の情報を入手できる。
これまでの疑惑報道により、単純なコピペから意図的な不正行為まで簡単に見逃してし
まう科学論文誌の査読の杜撰さが、世間に暴かれてしまった。これは、なにも自然科学の
世界だけではなく、社会科学の世界も例外ではない。
有名なものとしては、1996 年にニューヨーク大学教授アラン・ソーカルがワザと偽(パ
ロディ)論文を作成し、著名な「ソーシャル・テクスト誌」に投稿し掲載を成功させた事
件がある。これは、現代思想家たちの権威を批判する騒動に発展した。この騒動は、通称
「ソーカル事件」と呼ばれ、ウィキペディア他に事件の内容が掲載されている。
問題の本質は、専門家による査読の杜撰さにあるのではない。従来の研究を一切否定す
るような独創性のある論文内容のチェックは、形式的な査読だけでは、不可能なのである。
最先端論文の評価は本質的に困難であるにも拘わらず、論文査読が求められている点に
矛盾がある。画期的な論文の評価には、五年、十年、数十年といった歴史的な時間が必要
なのである。
本稿で問題にしたいのは、有名な論文誌の査読を簡単に擦り抜けて掲載されうる論文を、
コンピュータがいとも簡単に自動作成できる時代が始まっている点にある。それならば、
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論文の査読側でも、コンピュータを活用すべきではないのか。そうすれば、査読のレベル
を少しでもアップさせることが可能になるのではないだろうか。
今回の STAP 細胞騒動の貢献は、コンピュータを利用して作成した不正な論文(パロデ
ィ論文)を、有名な論文誌に掲載させる実験の成功事例が、ウェブで広く紹介され世間の
注目を集めた点にあると、筆者は思っている。
たとえば、「独出版社シュプリンガー、機械生成の「でたらめ」科学論文を撤回へ」(2014
年 2 月 28 日 、http://www.afpbb.com/articles/-/3009465)で紹介されている論文自動作
成ソフト「SCIgen(サイジェン)」の存在である。
同サイトによれば、「SCIgen は、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らが 2005
年に考案したプログラムだ。MIT の研究者らは SCIgen を用いて意味不明な論文をでっち
上げ、学術会議に投稿したところ、論文は正式に受理された。研究者らは後にこの「でっ
ち上げ」を公表して、誤りを防ぐための措置に欠陥があることを暴露した」と、報告して
いる。
ちなみに、学生によるレポートの不正コピーをチェックするシステムは、スウェーデン
の大学では、既に実用化され広く定着している。それは「Urkund」と呼ばれ、スウェー
デン国内の各大学で広く採用されているだけでなく、フィンランドやデンマーク、さらに
トルコの大学も採用されている。「学生に剽窃・コピペをさせないための武器 「Urkund」」
(http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/e4ffbe8c206597a2ec5f57075582a8ca)を参照。
学術論文の査読でも、専門家の査読を支援するロボット査読の本格的な採用と普及が求
められる時代が来ているのではないだろうか。
人間に代わり記事を書くロボット記者の台頭
次に、人間の代わりにコンピュータで書く文章が、ビジネスとして活躍しはじめている
事例を紹介しよう。新聞記者の代わりに、記事を書くロボット記者の登場である。欧米の
一流の新聞社や専門誌で、ロボット記者による記事を掲載し始めている。
大手経済誌のフォーブスが 2011 年 10 月より、文章自動作成ソフトを使った金融記事を
毎日掲載している(影木准子「新聞記者の仕事もロボットに置き換わるか?」、2012 年 3
月 8 日付け)。
金融記事だけではない。天気やスポーツや不動産などの記事でも、コンピュータが自動
作成するロボット記事が、アメリカで増えている。人間の記者よりも大量かつ迅速に記事
が書けるだけでなく、新聞社独自のスタイルや論調にカスタマイズされており、人間の記
事と変わらないものに仕上がっているという。
すでに、ロボット記者、ロボット・ジャーナリスト、ロボット・ジャーナリズムといっ
た、我が国では聞きなれない用語が、アメリカで当たり前になっている。この背景には、
新聞社の経営危機、ニュースのリアルタイム性への要求、記事データベースの整備と記事
自動作成ソフトの進歩などがある。
アメリカでは、2004 年から 2008 年の 5 年間で、49 の新聞が廃刊になっている(鈴木
伸元著『新聞消滅大国アメリカ』、2010 年)。それには、無料新聞であるフリー・ペーパー
の台頭、無料で読めるデジタル・メディアの隆盛などが、大きく影響している。
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我が国でも、この種のロボット・ジャーナリズムの試みは始まっている。関心のある人
は人工知能プログラムで運営する経済ニュース&データサイト「ロボット記者通信」
(http://robotwriter.net/company)を覗きにいかれるとよい。
21 世紀のネットの時代を迎え、新聞記者にとって記事を書くために、パソコン、インタ
ーネット、データベースという「3 種の神器」が不可欠となった。それが、新聞記者のコ
ピペを当たり前にさせ、盗作事件を頻発させる温床になっていた(本郷美則著『新聞があ
ぶない』、文藝新書、2000 年)。
新聞記者がコピペに頼るだけでは、ジャーナリズムが崩壊に向かうのは目に見えている。
コンピュータの知性やデータベースは、確実に進歩していくからである。
瀧口は、「ロボット・ジャーナリストがピューリッツァー賞を受賞する日もいずれやっ
てくると予言する関係者もいる」(「ロボット・ジャーナリストの登場で記者は用済みに」
( 瀧口範子 @シリコンバレーJournal、ニューズウィーク日本版 2014/3/26 ))と指摘
している。
近い将来、ロボット・ジャーナリズムが、事実報道を中心としたニュースから、社説や
論説といった分野にまで広範囲に広がるであろう。後述するように、AI(人工知能)を利
用して小説を書かせようという試みが始まっているからである。
小説を書くロボットへの挑戦
最後に、創作的な文学作品への知的ロボットへの挑戦について、紹介しよう。松原仁教
授らの研究グループによる「コンピュータに星新一のようなショートショートを創作させ
る試み」(2013 年人工知能学会の全国大会発表)である。
朝日新聞によれば、「2017 年度を目標に作品を生み出し、AI が作ったとは分からないペ
ンネームで文学コンテストに応募して、入賞をめざしている」(2013 年 8 月 10 日付け)
という。
人工知能による挑戦の成果は今後に期待するとして、現在実用化しているのは、人工知
能(AI)ではなく人工無脳(chatbot)や自動生成ソフトによる試みである。短歌や小説
の分野では、すでに実用化されている。官能小説の「七度文庫」、短歌の「星野しずるの犬
猿短歌」などがある。
人工無脳による各種のサービスについて関心のある人は、キュレーション・サービスの
「かしこい人工無脳(bot)一覧 - NAVER まとめ」ほかにアクセスされるとよい。
人間と会話する人工無脳の先駆的事例は、イライザ(ELIZA)である。MIT のジョセフ・
ワイゼンバウムが作成したソフト(1964 年~1966 年)であり、本当の人間を相手に会話
しているような錯覚を起こさせるものであった。これは、対話型コンピュータの先駆的試
みであり、当時大きな話題を集めたのである。
この精神は、現在も生きている。ツイッターでのコミュニケーションをロボットに任せ
る人が増えている。いつも「つぶやいている」のは、大変なのである。つぶやきロボット
を相手にツイートしているのを、気づかない人も少なくないようである。
グーグルやヤフーで、{ Twitter
ボット}、{ツイッター
ボット}といったキーワード検
索をすると、いろいろなケースがあることが分かる。
(TadaakiNEMOTO)
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