論文
FAD s 漁業の研究視座
――「漁業者の貯金箱」としてのパヤオの分類と研究アプローチ ――
Study viewpoint of the FADs fisheries:A classification and study approach of Payaos
as "the money box of the fisherman"
若林良和
WAKABAYASHI Yoshikazu
要旨:日本や東南アジアでは、パヤオやシイラ漬けと呼ばれる人工の浮魚礁が存在するが、
漁場利用の比較研究を展開していく場合に、これらを用いた漁業は重要な事例と位置付け
られる。本稿のねらいは、漁業者に大きな恩恵を与えている人工浮魚礁をFADs(集魚
装置)と総称して捉え直し、それに関する研究視座を提示することである。すなわち、人文・
社会科学の先行研究を踏まえて、FADsとしての分類と研究アプローチを検討するのが
筆者の主眼となる。筆者は、FADsの分類を用途・設置位置・機能性から整理し、それ
をもとに現代的なアプローチと歴史的なアプローチという2つの研究アプローチを提示し
た。本稿では、現代的アプローチをもとに、FADsを地域資源として位置付け、地域漁
業研究と地域活性化コンテンツ研究という2つのレベルで具体的な検討方針を提案した。
▲
キーワード FADs 漁場利用調整 地域資源 地域漁業 地域活性化
1.はじめに
2011 年8月、筆者はパヤオ漁業発祥の地を標榜する沖縄県宮古島市伊良部漁業協同組
合にいた。ひと通りの話を聞き終えると、恒例のオトーリと呼ばれる宴会が座敷で行なわ
れた。その冒頭、パヤオ周辺海域で曳き縄漁業に従事するIJさんの歓迎の口上のなかで
聞き逃せない話があった。
「先生、私たち伊良部の漁師にとって、パヤオは貯金箱だよ。
ダイバン(カツオ)やシビ(キハダマグロ)の貯金箱さ。ほんと、パヤオは、ありがたい
さ」と。
うきぎょしょう
このパヤオとは、人工の浮魚礁のことである。通常の人工魚礁が海底に沈める人工物な
のに対して、パヤオは海の表層または中層に浮力で留めておく人工物である。これはカツ
オやマグロ、シイラなど回遊性の浮き魚が漂流物に集まる習性を利用して、集魚を図る装
置である。
共同研究プロジェクト「漁場利用の比較研究」の主旨は漁場利用の技術や知見に関する
社会経済的・歴史民俗的な意義を検討することであり、本稿では、こうしたパヤオ漁業を
事例とした場合の研究視座や研究アプローチを考察したい。 2.研究の背景と目的
昨今の地域漁業において、安定的な漁獲の確保、そして、効率的な燃油消費による経費
節減が漁家経営上に必須条件となる一方、乱獲や漁場の荒廃などの諸要因による水産資源
の減少は顕著な状況にあり、水産資源の管理や利用のあり方が問われている。他方、地域
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活性化を図るために、漁業者らは、地域の代表的な水産物と漁法を地域のシンボルとして
位置付け、地域ぐるみの積極的な取り組みを推進し、交流人口の拡大を試みている。
こうした漁業をめぐる現状認識のなかで、漁場利用のあり方を念頭に置くと、パヤオ漁
業はその好例になると想定できる。ところで、人工浮魚礁には、冒頭に記したパヤオのほ
か、原理的にはシイラ漬けなども含まれる。現代の漁業においてパヤオと通称されるもの
は、極めて多様性を持っている。したがって、本稿では、こうした一連のものを総称して
FAD s(Fish Aggregating Devices、集魚装置)という広義の概念で捉え直して検討し
ていく(1)。具体的には、広義に捉えたFADsの分類を試みた上で、FADsに関連す
る先行研究をもとに、
漁場利用の軌跡と展開を基軸に、今後のFADs漁業研究のアプロー
チなど研究の視座や方向性を提案することに、本稿の最終的な目的がある。
3.パヤオとその漁法
パヤオの語義はフィリピンのタガログ語 Payao に由来しており、筏(いかだ)のこと
である。これは、現地でシイラ漬け漁に使用されている漁具の一種であり、原義的には、
いしゅう
カツオやマグロ、シイラなど回遊魚が海面の浮遊物に集まる習性を利用した蝟集装置を意
味する。その起源とされるインドネシアにおいて、パヤオはルンポン、ロッポ、ロンポン
と呼ばれる。これはフィリピンや台湾など東南アジアから東アジア南方沿岸域にかけて幅
広く活用されている。日本では、シイラを漁獲対象として孟宗竹や柴などを用いた漬木や
柴漬などが古くからあった。他方、冒頭に記した沖縄県宮古島市の伊良部漁業協同組合と
沖縄県水産試験場において、現在のようなカツオやマグロを漁獲対象とするパヤオ漁業が
1982 年に着業された。したがって、宮古島市伊良部地区はフィリピンから導入されパヤ
オ漁業発祥の地とされ(2)、宮古島海域をはじめ沖縄県など南西諸島海域が日本の先進地
域となっている。
パヤオの基本的な構造を概括しておきたい。これは海底にコンクリートなどを固めたも
のをアンカーとして沈め、それにつないだロープに人工の浮力体を海の表層や中層で固定
いかり
したものである。まず、係留方式には、錨とロープで固定するアンカー方式、海面に流し
た状態にするドリフト方式の2種類となっている。次に、浮遊位置にも表層型と中層型の
従来の2種類に加えて、
表中層型もある。それから、その材質は鋼製と FRP 製で、ブイ(浮
き)には塩ビパイプ製、ウレタン製、プラスチック製、発砲スチロール製、ドラム缶製、
木製など多岐にわたっている。パヤオは、メーカーが製造する本格的なものから各地の漁
業者や漁協の間で製作される簡易なものまである。後者の製作費は1基 40 ~ 50 万円程度
から 300 ~ 500 万円相当と幅があるものの、十分な漁獲が見込める場合が多い。
パヤオの周辺では、設置後、それに藻が付着し、これを餌とする小型の魚類、さらにこ
れら魚類を餌とする大型の魚類が集まる効果がみられる。したがって、小魚からカツオや
マグロ、シイラなど大型の回遊魚が付遊し、そのうちに小生態系が形成され、パヤオは「寄
らば大樹の陰」のような存在となる。パヤオ漁業では、カツオやマグロ、カジキなどの大
型の回遊魚を対象とし、曳縄や流し釣り、一本釣りなど釣りが主たる漁法である。また、
表層浮魚礁よりも、中層浮魚礁のほうが船舶航行の安全性も高く、波浪の影響を受けにく
く耐久性に優れている。
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FAD s 漁業の研究視座
諸外国で大規模化したFADs漁業では、早朝に表層へ浮上してきた魚群に対して旋網
を仕掛ける場合や、補助船をFADsに張り付けて魚群の動向を把握する場合もある。そ
して、使用を終えたFADsは、日本では回収するが、外国ではそのまま放置されている
場合も多く、各大洋で数千個、漂流している可能性もあるようだ(3)。
4.人文・社会科学3分野からみたFADs先行研究の論点
FADs漁業の研究推進のために、日本を事例とする代表的な先行研究を整理しておく。
前述したように、いわゆるパヤオ漁業は沖縄県で導入され、本格的に展開されたことから、
沖縄県をはじめ南西諸島を事例とした研究が多い。特に、沖縄県水産試験場の関係者によ
る資源状況や漁獲効果に関する調査報告が数多くみられる(4)。ここでは、研究の背景や
目的から、人文・社会科学的な研究を中心に、漁業経済学、資源管理論、歴史地理学とい
う3分野の論考を取り上げて概説し、検討すべき論点を整理しておきたい。
(1)漁業経済学
漁業経済学の分野で、パヤオ漁業の先行地域である沖縄県の事例分析をもとに 1980 年
代からの経過を明らかにし、パヤオ漁業の経済的な論点を整理したのは、廣吉勝治である
(5)
。まず、1980 年代の沖縄県漁業生産におけるパヤオ漁業の位置付けを行い、パヤオ利
用の経緯と設置の概要を紹介した。そして、パヤオ操業の実態(漁法、魚種、漁場)を把
握し、県内の地域実情に関する類型化を試みた上で、パヤオ漁業の展望と課題が検討され
た。
沖縄県では、パヤオ設置の 1983 年以降、それを利用した曳縄漁業の漁業生産は、統計
上も、飛躍的に増大した。毎年、曳縄漁業の漁獲量が 200 ~ 400 トン、その漁獲金額が 0.3
~ 2.6 億円と上昇するという好況が続いた。パヤオ漁業の効率的な操業が可能となったた
めに、これへの転換や新規の着業が進行して、多くの漁村は活気づいた。その結果、パヤ
オ漁業は沖縄県で着実な発展を遂げた漁業とされた。
パヤオ設置は 1985 年に沖縄海区漁業調整委員会の承認制となったことを受けて、県内
の漁協間で自主的な設置と利用の調整を図るために、県内を4ブロックに区分した協議会
が設置された。パヤオは、導入当初、「泰東型」
・
「東レ型」
・
「日飛型」と呼ばれたメーカー
の既製品であったが、その後、製作コストを低減するために、各漁協でオリジナルの自作
品を作成した。なお、パヤオの製作と設置には、県市町村や(財)漁業振興基金から多大
な助成がなされ、公共的な設備の意味も強かった。
曳縄漁業のなかで、ジャンボヒコーキという大きな抵抗体を取り付けて曳航するジャン
ボ釣り漁法も推進された。沖縄県全体の曳縄における漁獲組成(1989 年)は主にキハダ
やメジ、カツオであるが、県内の漁業地区によって異なっていた。カツオが中心である港
川地区や伊良部地区、マグロが多い糸満地区や本部地区、クロカワが主となる与那国地区
など、地域の独自性が見られた。パヤオの集魚効果は各地域で絶大であり、特に、沖縄本
島東部や東南部、宮古、八重山海域が、沿岸域で水深 1000 m以上の急峻な海底地形を持っ
ていたために、恵まれた漁場となった。そして、パヤオの実際的な管理と運用において、
各漁協や漁業者の間で、協定書や申し合わせの制定、委員会や振興会などの設立といった
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自主的な対応が行なわれてきた。
そして、パヤオ漁業の発展には、地域漁業の展開方向、パヤオをめぐる漁場利用調整が
大きな要因になる。前者については、パヤオの技術開発、パヤオの設置と漁獲量の相関、
流通・販売条件の改善といった地域漁業の存立構造があげられる。そして、後者では、パ
ヤオの専属的・占有的利用の権限、パヤオ漁場の利用・管理・保全、遊漁との利用調整な
どがポイントとなった。
以上のことから、沖縄県におけるパヤオ漁業の爆発的な進展に伴い、技術開発の進展、
乱獲などによる資源減少・枯渇という資源管理、川下(消費や流通)を念頭に置いた漁家
経営の健全化、そして、パヤオ敷設に関わる漁場利用といった問題は当初から惹起したの
である。特に、漁場利用に関わる総合的な検討は不可欠であり、地域の自然・社会・経済
的な特性に見合ったパヤオの利活用方法が議論されるべきであろう。
(2)資源管理論
資源管理論の立場から、パヤオにおける漁業紛争の分析を試みたのは、鹿熊信一郎であ
る(6)。沖縄県における漁業紛争の事例として、パヤオに関する漁場利用が検討された。
その紛争事例を、①県内パヤオ漁業者、②県内パヤオ漁業者と他の業種漁業者、③県内パ
ヤオ漁業者と他県カツオ一本釣り漁業者、④県内パヤオ漁業者と遊魚者の4つに区分して
歴史的に検討した上で、パヤオ漁業の管理のあり方が提案された。
最初に、県内漁業者とのトラブルである。まず、県内パヤオ漁業者同士では、操業方法
や設置の手順・方法で対策が講じられた。操業方法については、当初より集魚効率の高い
パヤオでのトラブルが多発したため、操業許可の識別、曳縄や流し釣りの実施方法、係留
や使用漁具の禁止事項などの自主ルールは制定された。また、設置の手順や方法について
は、当初は設置と占有が早いもの勝ちの状況であった。そのため、海区調整委員会による
ブロック式設置承認制度が導入された。これは、沖縄県全体を本島北西・本島南西・本島
東・先島の4ブロックに区分して、漁協などからの申請を承認された上で設置するもので
ある。基本的なトラブルは減少したものの、集魚灯を使用したメバチ漁業が問題視された。
次に、県内の他業種漁業者とのトラブルでは、底魚を対象とする漁業対応として曽根への
設置制限、マグロ延縄漁業対応として 20 マイル以遠の設置禁止、ソデイカ流し漁業対応
として係留索の強度向上などが実施された。そして、遊漁関係者とのトラブルは当時から
最優先の課題となった。承認を受けない遊漁船の増大への対応が求められる一方、パヤオ
漁業者の所得向上のためにパヤオ遊漁との兼業も検討の余地はあるとしている。
次に、県外漁業者とのトラブルの主たるものは宮崎県のカツオ一本釣り漁業者であった。
導入当初から数多くのトラブルが発生し、県内漁業者の間で「パヤオ荒し」とさえ呼ばれ
た。他方、宮崎県サイドからは明治期より周辺海域での操業経験があり、パヤオ設置こそ
操業の弊害だという主張がなされて対立し、独自に沖縄海域でパヤオが設置された。また、
1988 年に発生した海上暴力事件は社会問題化したために、水産庁の仲介で沈静した。そ
の後、奄美海域では、宮崎県・鹿児島県・沖縄県の3県によるパヤオの合同事業も行われ
ている。
沖縄県における導入当初の課題は、パヤオの耐用年数である。沖縄県の場合、台風によ
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FAD s 漁業の研究視座
る流失が多く、当初の持続期間は約1年半にとどまり、大きな問題となった。それで、ア
ンカー部分を強化するなどの流失防止の工夫が進められ、その年数は2年以上に延びた。
その後、沖縄県の設置した大型鋼製パヤオのニライは 10 年の耐用年数である。それから、
1990 年代の沖縄におけるパヤオ漁業の課題として、キハダなどの「ヤケ」による肉質の
低下対策など漁獲物の品質向上と流通対応、魚価の低迷や不安定さなどがあげられ、抜本
的な施策が求められた。
最後に、パヤオ漁業の管理のあり方を考える場合のポイントとして、資源管理の視点と
管理の主体が提案された。前者については、生物学よりも経済学や社会学の視点が重要で
あり、流通を考慮した漁業管理、費用や効果を考慮したパヤオの製作、最適な配置計画、
紛争防止策の更なる検討などがある。後者に関しては、パヤオ漁業の展開過程を考慮する
と、漁業者主体とする共同管理(地域をベースとして、政府が二次的に協力する管理)が
望ましいと指摘している。
以上の論考を踏まえると、パヤオに関する漁業管理の重要性は改めて言うまでもない。
とりわけ、持続可能性を前提にした資源管理は、社会・経済的な分析が不可欠である。そ
れには、詳細で緻密な漁場利用の実態調査が必要であることに他ならない。そして、漁業
管理主体のあり方として、行政のサポートによる漁業者主体の共同管理を前提にしたシス
テムの構築は不可欠であろう。
(3)歴史地理学
近代の地域漁業史を解明するために、シイラ漬け(シイラなどの回遊魚を、孟宗竹など
を束ねた漬木・浮きで漁獲)を事例として、明治期における回遊魚漁業の地域展開を検討
したのは、橋村修である(7)。明治 20 年代に農商務省水産局のまとめた『水産調査予察報告』
をもとにシイラ漁業の分布と差異が検討された。シイラ漁業は、シイラ漬けに集まるシイ
ラなどの表層魚を旋網や曳き縄釣りで漁獲するものである。この時期に関して、南西諸島
から太平洋側、九州西海岸、さらに、山陰、日本海北部に及ぶ空間的な拡がりが整理され
た。そして、漁法は網漁、釣漁、網漁と釣漁の併用という3種類で、併用した地域ではシ
イラ漁業への依存が高まったとしている。各県にある明治期の水産誌を比較検討の重要性
を指摘するとともに、
シイラ漁業に関する今後の方向性として、①地域的な偏在の分析(太
平洋側での分布が少なく、対馬海流域に集中する理由など)、②黒潮文化という枠組みで
台湾やフィリピンなどの東アジアや東南アジアを視野に入れた検討が提示された。また、
橋村はシイラと人の関わりについて、南西諸島の事例から地域的な漁法と民俗文化の相違
も検討している(8)。具体的には、沖縄本島と奄美大島におけるシイラ漁業と食文化、民
俗行事に注目して地域的な相違と意味が検討されるとともに、中国南部や台湾などの状況
も併せて言及した。漁法の主流は曳縄釣りであり、共同漁業権の範囲内となる沿岸域で以
前より展開されているシイラ浮きと、約 500 m以遠の沖合域で高度な技術によるパヤオが
みられる。また、シイラの調理法・加工技術、食中毒とタブー、正月行事に関わる食文化
を整理するとともに、沖縄県国頭村においてシイラとパヤオにまつわる地域イベントの創
生が例示された(9)。
こうした論考をもとにすれば、従来からパヤオやシイラ漬けなどの様々な呼称が存在す
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ることから、それらの整理と包括的な用語の検討は必要である。それから、パヤオ漁業に
関する研究は、地域対応をベースにして、経済的な側面だけでなく、生活文化的な側面の
検討も含めて、総合的な把握が求められる。そして、地域的には、日本にとどまらず、東
南アジアや東アジアとの比較研究も重要である。以上のことから、漁場利用の比較研究を
推進していくには、パヤオ漁業は適格な事例の一つであることが明確になった。
5.FADs漁業研究の方途
(1)研究対象
沖縄県をはじめ日本各地にあるパヤオやシイラ漬けなどを総称したFADsの現状か
ら、その分類を検討しておきたい。用途、設置位置、機能性の3点から分類すると、表1
のように、FADsは、おおよそ3つのタイプに整理できる。(表1参照)まず、第1の
タイプである「先端型」は、謂集効果が顕著で漁撈のほか、遊漁にも利用されるとともに、
水温や潮流など各種の海況情報の収集を兼ねて多面的な機能を備えた大型のものである。
(写真1参照)このタイプは、国や県、市町村などの地方自治体が沖合海域の表層や中層
に設置され、先行研究で取り上げられた沖縄県のニライ、高知県の黒潮牧場などが該当し、
公共設備的な意味も持っている。次に、先端型の対極にあるのは、第2のタイプ「伝統型」
である。(写真2参照)これは、シイラ漬けに代表されるように、専ら漁撈に活用して、
海況情報収集などの用途もなく、簡単な装備であり、単一的な機能が重視される。このタ
イプは、漁業者や漁協などが地先の沿岸海域の表層に設置され、先行研究で取り上げられ
た沖縄県国頭村のシイラ漬けなどがあげられる。それから、先端型と伝統型の中間にあた
る、第3のタイプは「簡易型」である。(写真3参照)機能的には先端型に近く、漁撈や
遊漁を中心に複合的で、主に、漁協などが沿岸域から沖合域の表層や中層に設置される。
なお、第4のタイプとして、
「先端型」と「簡易型」を統合した「現代型」も想定できる
だろう。
(2)研究アプローチ
研究対象となるFADsの定義や分類を踏まえて求められるのは、研究アプローチであ
る。FADsの分類からすると、表1の右側に示したように、現代的アプローチと歴史的
アプローチが想定できる。
(表1参照)前者は水産社会学や水産経済学、資源管理論など
の学問分野をもとにしたアプローチであるのに対して、後者が歴史学や地理学、民俗学な
どの学問分野の成果によるアプローチとなる。ここで注意しておきたいのは、2つのアプ
ローチを有機的に連関させて、相乗効果をもとに総合的な検討が求められることである。
筆者の場合、これまでの専門分野から、当然、現代的アプローチに依拠しつつ、歴史的
なアプローチの知見も包含した研究となる。その際の基本的な研究視座は、FADsを地
域資源と位置付け、
FADsの役割を改めて包括的に捉え直すことにある。その役割とは、
従来から指摘されている水産資源としてのFADsに加えて、観光・集客資源としてのF
ADsである(10)。現代的なアプローチでパヤオの意義や役割を検討して多面的な把握を
推進するための研究視座は、次の2つである。第1の視座は、パヤオの本来的役割であり
地域漁業としてパヤオと位置付けられ、それをめぐる漁場利用の実態から、経済的な意義
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FAD s 漁業の研究視座
表1 FAD s の分類 -用途・設置位置・機能性による整理-
用途
謂集
設置位置
海況情
表層型
中層型
機能性
漁撈
遊漁
報収集
先端型
◎
○
◎
◎
◎
多面的
簡易型
◎
○
○
◎
○
複合的
伝統型
◎
×
×
◎
×
単一的
現代的アプローチ
注)◎:主 ○:副 ×:なし
(筆者作成)
写真1 「先端型」のFADs:ニライのブイ
(提供:沖縄県)
歴史的アプローチ
写真2 「伝統型」のFADs:シイラ漬けの浮き
(提供:鳥取県水産試験場)
写真3 「簡易型」のFADs:伊良部漁協自作のパヤオ本体の投入
作業(提供:沖縄県伊良部漁業協同組合)
の再検討をすることになる。具体的な検討課題としては、①パヤオ導入の地域的な背景と
理由、②パヤオの敷設・管理・利用をめぐる調整と新たな秩序形成、③普及過程と社会的・
経済的な効果・問題点、④技術的な交流・伝承(技術開発の方向性)、⑤漁獲物の販売・
流通条件の5つが想定できる。これらに関して、先行研究で取り上げられた各事例の追跡
調査をもとにした検討が必要である。第2の視座は、パヤオの付加的役割であり、地域活
性化コンテンツとしてのパヤオと位置付けられる。ここでは、漁協や行政などの地域主導
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による新たな展開として、パヤオに関するイベントの実施などをもとに、文化的・地域的
な意義を検討することが重要となるだろう。
6.おわりに
本稿は、概括な把握の域にあり、鳥瞰的な整理にとどまっているかもしれないが、パヤ
オやシイラ漬けなどを総称して広義に捉えたFADsを地域資源と捉え直して、多面的な
アプローチによる検討が重要であることは強調しておきたい。その際の現代的なアプロー
チには、漁場利用をはじめとする地域漁業研究、さらに、地域イベントなど地域活性化コ
ンテンツ研究という2つの研究視座が想定できる。そして、先行研究で看守された地域に
おけるFADsの実態把握が求められることから、先進地域である沖縄県宮古島地域、さ
らには、隣接する台湾の事例研究は不可欠であるといえよう。
注:
(1)橋村は、明治期の日本列島沿岸域や内水面で数多く見られた柴漬や漬木などの集魚装置による漁業を
「集魚装置漁業」と呼んでいる。
橋村修(2005)明治期における回遊魚漁業の地域差 -シイラ漁業を事例に-、國學院大學考古
学資料館紀要 21、pp.273.
(2)伊良部漁業協同組合(仲間井左六)
(2000)パヤオ漁業発祥の地 伊良部町漁業史、伊良部漁業協同
組合、P 145.
(3)水産経済新聞、2012 年6月 20 日付け記事
(4)たとえば、以下のものなどがあり、沖縄県水産試験場では、1981 年度以降、ほぼ毎年、パヤオに関
する報告が数多くみられる。
山本隆司・外間実・海老沢明彦・玉城剛(1983)中層浮魚礁の効果調査、昭和 56 年度 沖縄県水
産試験場事業報告書、pp.129-143.
川崎一男(1984)表層浮魚礁(パヤオ)の設置効果について、昭和 57 年度 沖縄県水産試験場事
業報告書、pp.1-5.
(5)廣吉勝治(1993)パヤオ(浮魚礁)漁業 ~沖縄県の事例~、漁業経済研究 37(4)、pp.63-84
(6)鹿熊信一郎(1998)沖縄におけるパヤオ漁業の発展と紛争、秋道智彌・岸上伸啓編『紛争の海─水産
資源管理の人類学』
、pp.39-59.
(7)橋村修(2005)前掲論文、pp.273-291.
(8)橋村修(2009)南西諸島における回遊魚の民俗、南方文化 36、pp.127-134
(9)このイベントは 2000 年に始まったが、2回で中断されている。
(10)観光・集客資源としてのFADsに関しては、橋村が沖縄県国頭村の事例で若干、言及している。(橋
村修(2009)前掲論文、pp.134.)したがって、本格的な検討する必要があると、筆者は考えている。
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