温熱マッサージによる刺激が心身に与える影響
Effects of Physical and Mental Behavior by Thermomassage
○井上裕貴*,乾景太**,筒井慎治**,萩原啓*
*立命館大学 情報理工学部 知能情報学科
**パナソニック電工株式会社 電器 R&D センター
INOUE Hirotaka*, INUI Keita**, TSUTSUI Shinji**, HAGIWARA Hiroshi*
*College of Information Science and Engineering, Ritsumeikan University
**Panasonic Electric Works Co.,Ltd. Research & Development Center,
Home Appliances Manufacturing Business Unit
1. はじめに
(ch4)に装着し、実験を行う[5]。また、血流計測には、
現在、多くの先進国では長時間労働、睡眠不足、対人
ch2 の近傍にレーザー組織血流計「オメガフロー FLO-C1
関係など、様々な要因によってストレスが生じており、
HP」
(オメガウェーブ)のプローブを装着し、血流が安定
過度のストレスは鬱病や生活習慣病を発症する原因の一
したのを確認した後、計測を開始する。ch2 近傍は、肩こ
つとして挙げられている[1][2]。そのため、いかにストレス
りを訴える割合が高く、かつ後述するマッサージ刺激部
を解消させるかが現代社会の大きな問題と言える。
位の近傍であるため計測位置として設定した。皮膚温度
ストレスを減少させるには様々な方法がある。先行研
及び血流計測位置を図 1 に示す。
究において、温熱によるリラックス効果が示されている[3]。
また、マッサージなどによって筋肉をほぐすことにより
ストレス減少を実現させる方法も存在している[4]。しかし、
ch1
ch2
それらを同時に行った手法はあまり示されていない。
そこで、効果的に「温熱刺激」と「マッサージ刺激」
ch4
を与えることでストレスを減少させ、リラックス状態へ
効率よく移行させる方法の導出を目的とし、その前段階
として、本実験では皮膚温度と血流に着目し、刺激を与
えている間のそれらの特徴と相互の関係、またその時の
主観・官能評価を求めた。
ch3
血流
2. 実験方法
2.1 実験概要
図1 皮膚温度及び血流計測位置
安静座位、マッサージ刺激、マッサージ刺激+温熱刺
激の 3 種類の異なった刺激(タスク)を与えた状態におけ
る皮膚温度と血流の変化を計測し、それらの特徴および
相互関係を求めた。
2.2 実験プロトコル
被験者に皮膚温度計の電極、および血流計の電極をそ
れぞれ装着し、各状態における皮膚温度、血流を計測し
皮膚温度計測には、データ収集型ハンディタイプ温度
た。安静座位を 10min マッサージチェアで行い、4min 刺
計 LT-8 SERIES(グラム)の電極を、平均皮膚温測定点を
激を与える。刺激後、1min 主観・官能評価表を記入して
参考に被験者の肩前方;僧帽筋上端前方(ch1)
、肩後方;
もらい、
10minマッサージチェアで安静座位、
最後に10min
僧帽筋上端後方(ch2)
、背中;僧帽筋中央(ch3)
、首筋
オフィス用チェアで安静座位を行った。
表 1 主観・官能評価表
マッサージチェアにて安静座位からオフィス用チェア
にて安静座位までのプロトコルは刺激(タスク)を変え
て 3 回繰り返した。計測対象はそれぞれの刺激(タスク)
において、マッサージチェアにて安静座位から刺激、主
観・官能評価記入を経て、マッサージチェアにて安静座
位終了までの間(25min)とした。タスクは 3 種類の刺激
(安静座位、マッサージ刺激、マッサージ刺激+温熱刺
激)を順序効果を考慮して実験毎にランダムに行った。
実験には、人体に対してマッサージを行うモミ玉部分に
セラミックヒーターを搭載し、身体背部の任意な部位に
対して機械的なマッサージ刺激と温熱刺激を同時に、か
つ局所的に与えることができるマッサージチェア(リア
ルプロ EP-MA70 パナソニック)を使用した。マッサージ
刺激には「もみ動作」を選択し、温熱刺激を付加する際
にはセラミックヒーター機能を入にして使用した。また、
4. 実験結果
マッサージ刺激位置は体系センシング機能により検出さ
4.1 皮膚温度変化の特徴
れた肩位置とした。
主観・官能評価表には、表 1 に示すマッサージの気持
全被験者のタスク別の皮膚温度変化の平均グラフを以
下に示す(図2、図3、図4)
。図3、図4のグラフから
ち良さに関する項目とマッサージの温かさに関する項目
マッサージ刺激により肩後方(2ch)の皮膚温度が上昇し
をそれぞれ 5 段階で評価してもらう。
ているのが分かる。また、両者を比較すると明らかにマ
計測環境による変化を防ぐため、室温を 20℃で厳密に
管理し、計測時の服装は T シャツ一枚で統一した。
ッサージ刺激+温熱刺激のタスクの皮膚温度上昇が大き
いといえる。
2.3 被験者
被験者は 20~23 歳の健常な成人(男性 5 名、女性 1 名)
35
ch1
ch2
ch3
ch4
である。十分なインフォームドコンセントを得た後、実
34.5
験前に激しい運動をしていないことを条件とする。
250Hz でサンプリングした血流の波形に MATLAB で作成
皮膚温度(℃)
34
3. 解析方法
33.5
したローパスフィルタ(0.003Hz)をかけてノイズを除去
33
した。血流計測では、FLOW(組織血流量)
、MASS(赤血球
成分量)
、VELOCITY(血流速度成分)の 3 種類の成分が測
32.5
0
5
10
14
時間(minute)
15
20
れるが、今回は MASS、VELOCITY の値を用いた。皮膚温度
は計測周期を 1sec で計測し、LT シリーズ用標準ソフトウ
ェア LT-USB1(グラム)でデータ形式を変更した後、解析
を行った。
解析箇所は皮膚温度、血流共にタスク前の「マッサー
ジチェアにて安静座位」から、タスク後の「マッサージ
チェアにて安静座位」までの計 25min とした。
図2 安静座位(皮膚温度)
25
35
2
MASS
ch1
ch2
ch3
ch4
34.5
1.5
MASS
皮膚温度(℃)
34
1
33.5
0.5
33
32.5
0
0
5
10
14
時間(minute)
15
20
25
0
図3 マッサージ刺激(皮膚温度)
5
10
14
時間(minute)
15
20
25
図6 マッサージ刺激平均(MASS)
35
2
MASS
ch1
ch2
ch3
ch4
34.5
1.5
MASS
皮膚温度(℃)
34
1
33.5
0.5
33
32.5
0
0
5
10
14
時間(minute)
15
20
25
0
図4 マッサージ刺激+温熱刺激(皮膚温度)
4.2 血流(MASS)の結果
5
10
14
時間(minute)
15
20
25
図7 マッサージ刺激+温熱刺激平均(MASS)
4.3 血流(VELOCITY)の結果
全被験者の血流(MASS)波形の平均グラフを以下に示
全被験者の血流(VELOCITY)波形の平均グラフを以下
す。
(図5、図6、図7)
。図6、図7からタスク中に大
に示す(図8、図9、図10)
。図9、図10でタスク開
きな変化が見られる。しかし、タスク以外の部分ではタ
始 1min を除いた 3min の血流変化を平均し、タスク前後
スク前後で大きな差は見られなかった。
と比べるとタスク中で値が下がっている。しかし、それ
以外の部分ではMASSと同様に大きな差は見られなかった。
2
MASS
0.35
VELOCITY
1.5
0.3
1
0.2
VELOCITY
MASS
0.25
0.15
0.5
0.1
0.05
0
0
5
10
14
時間(minute)
15
20
25
0
0
5
10
14
時間(minute)
15
20
図5 安静座位平均(MASS)
図8 安静座位平均(VELOCITY)
25
度変化が起こったものと考えられる。
0.35
VELOCITY
0.3
6.おわりに
0.25
今後の課題として、被験者数を増やして定量的な傾向
VELOCITY
0.2
を把握するとともに、温熱刺激の温度幅および効果的な
0.15
温熱刺激部位の選定を行う。また、刺激による赤血球成
0.1
分量(MASS)や血流速度成分(VELOCITY)の変化がマッ
0.05
サージ刺激や温熱刺激による血管拡張効果によるもので
あるかどうかの確認を行う予定である。さらに、季節の
0
0
5
10
14
時間(minute)
15
20
25
違いによる血行動態の変化や温熱感の変化について検討
図9 マッサージ刺激平均(VELOCITY)
を行う予定である。
0.35
VELOCITY
謝辞
0.3
本研究を行うにあたり、実験に協力していただきまし
0.25
た立命館大学情報理工学部知能情報学科生体情報研究室
VELOCITY
0.2
の皆様と、被験者として参加していただいた皆様に深く
0.15
感謝いたします。
0.1
本研究は独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助
金(基盤研究(C)、課題番号 22500415)の助成を受けた。
0.05
0
0
5
10
14
時間(minute)
15
20
25
参考文献
図10 マッサージ刺激+温熱刺激平均(VELOCITY) [1] 溝口和臣:慢性ストレスによるうつ病様病態に対する
柴胡加竜骨牡蛎湯の効果,和漢医薬学雑
5. 考察
皮膚温度は、刺激なし<マッサージ刺激<マッサージ
刺激+温熱刺激の順に温度上昇の幅が大きく、刺激後も
刺激前に比べて高い温度を維持しているのが見られた。
主観・官能評価については、温熱刺激に対する皮膚温度
誌,pp.52(2003).
[2] 下 北 輝 一 : 生 活 習 慣 と ス ト レ ス , 心 身 医
学,pp.487(2010).
[3] 末弘静子,市村孝雄:温熱刺激のリラクゼーション効
果,下関短期大学紀要,pp.41-56(2007).
変化の顕著な傾向と比較して変化幅が小さく、今後、温
[4] 上田恵里子,福岡博史,小山悠子,福岡明:歯科治療に
熱刺激の温度幅および温熱刺激部位の選定が必要である
おける頚肩部の指圧マッサージと経皮的低周波ツボ通
と考えられる。血流MASS とVELOCITY については、マッ
電 法 ( TEAS ) の 有 用 性 に つ い て ,Journal of
サージ刺激や温熱刺激が与えられているときに顕著な赤
International
血球成分量(MASS)の増加や血流速度成分(VELOCITY)
Science,pp.412-416(2002).
Society
of
Life
Information
の減少が見られた。これらの結果は、刺激が与えられて
[5] 桑原浩平,持田徹,長野克則,嶋倉一實:熱伝達率を加
いる部位がマッサージ刺激や温熱刺激による血管拡張効
味した平均皮膚温の算出式,人間と生活環
果により、組織内の赤血球成分量(MASS)が多くなり、
境,pp.33-40(2001).
血流速度成分(VELOCITY)が遅くなったのではないかと
考える。また、マッサージ刺激や温熱刺激により赤血球
成分量(MASS)が大きく上昇した後に、皮膚温度の上昇
が始まっていることから、血行動態の変化により皮膚温
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C1-2 温熱マッサージによる刺激が心身に与える影響