42
DNTコーティング技報 No.14
技術解説­4
染色用水分散蛍光顔料の要求品質
染色用水分散蛍光顔料の要求品質
Required Quality of Water Dispersed Fluorescence Dyeing Pigment
シンロイヒ株式会社 技術部
SINLOIHI Co. Ltd.
落合 一仁
Kazuhito OCHIAI
後藤 住世
Sumiyo GOTO
1. はじめに
2. 蛍光顔料について1)2)
当社の主力製品のひとつであるSW-100シリーズは、
蛍光顔料は、一般色(非蛍光色)
の塗料などに使わ
主に綿製品の染色に使用されている水分散タイプの蛍
れる単一成分からなる顔料とは異なり、基体樹脂であ
光顔料で、1972年の開発以来40年以上に渡って高い
る合成樹脂を蛍光染料で染着した組成となっている。
信頼を得ている製品である。現在では繊維加工、特に
このため、物理的な性質は合成樹脂に準じ、色相は染
染色加工はほとんどが海外で行われているため、生産
料に依存する。蛍光顔料に使用される蛍光染料、合成
量のうち大部分は海外向けが占めている。海外市場に
樹脂および代表的製法を紹介する。
はSWシリーズより安価な他社製競合品も多数存在す
るが、有名ブランド品など、先進国向け衣類用途では競
合品に負けない競争力を持っている。
その理由は、鮮明な色・耐光性および洗濯堅ろう度
などの性能が優れていることに加えて、安定した品質・
各種法規制・自主規制への対応において、高い評価を
得ていることによる。
本報では、繊維用途における要求品質・試験方法・
各種規制について紹介する。
2.1 蛍光染料の種類
蛍光顔料で使われている蛍光染料には、一般の染料
と同様に塩基性・酸性・分散・ソルベントなどのタイプが
あり、
この中から顔料の用途に応じて必要な性能・色相
により選択される。代表的な蛍光染料の名称と構造を
表1に示す。 蛍光染料は、光によって励起されやすい化学構造・
電子状態を有しており、担体となる合成樹脂(基体樹
脂)への染着により非常に鮮明な色彩を呈するが、概し
て光に対して不安定な有機化合物である。蛍光顔料が
一般顔料と比較して色相が非常に鮮明であるものの、
耐光性が劣っているのは蛍光染料の性質が主な原因
である。
DNTコーティング技報 No.14
技術解説­4
染色用水分散蛍光顔料の要求品質
表1 代表的な蛍光染料
染料名
Brilliantsulfoflavine FF
C.I.56205
Thioflavine
C.I.49005
Basic Yellow HG
C.I.46040
Fluorescein
C.I.45380
Eosine
C.I.45380
Rhodamine 6G
C.I.45160
Rhodamine B
C.I.45170
※蛍光色 = 蛍光成分の色相、C.I. = Color Index
構 造
昼光色
蛍光色
黄
緑∼黄緑
黄
緑∼黄緑
黄
黄緑∼黄
黄
緑∼黄緑
赤
黄∼橙
赤
黄∼橙
ピンク
橙∼赤
43
44
DNTコーティング技報 No.14
技術解説­4
染色用水分散蛍光顔料の要求品質
2.2 蛍光顔料の合成
アミノ樹脂系蛍光顔料の一部、
アクリル樹脂系蛍光
蛍光顔料に基体樹脂として使用されている合成樹脂
顔料の一部でこの生産方法がとられている。
は、主にアミノ樹脂・アクリル樹脂・ポリエステル樹脂・ポ
リアミド樹脂で、使用用途あるいは必要性能によって選
択されている。蛍光顔料の合成は、基本的に上記樹脂
3. 染色用水分散蛍光染料の要求品質
の合成法に準じるが、染色工程を経て最終的に微粒子
化する点が特長である。代表的な蛍光顔料合成方法を
表2に示す。
SWシリーズは、蛍光色という特殊色の色材であるた
表2 代表的な蛍光顔料の製法
基体樹脂
タイプ
製 法
アミノ樹脂
粉 末
アクリル樹脂
め、最も重要な品質は色相/濃度である。
当社出荷時に
平均粒子径 粒子形状
0.1∼1μm
球 形
付加縮合塊状
樹脂粉砕法
3∼5μm
不定形
懸濁重合法
3∼5μm
球 形
乳化重合法
0.5∼1μm
球 形
懸濁重合法
3∼5μm
球 形
水分散 アクリル樹脂 乳化重合法
2.2.1 乳化重合法
基体樹脂モノマーに蛍光染料を添加した上で、乳化
重合反応により着色樹脂粒子を生成させる方法と、乳
化重合した基体樹脂分散物に蛍光染料を添加して着
色する方法がある。平均粒子径は1μm以下である。
本報で紹介するSW-100シリーズをはじめ、水分散タ
イプの微粒子アクリル樹脂系蛍光顔料は、
この方法で
生産されている。
2.2.2 付加縮合塊状樹脂粉砕法
基体樹脂の重合過程、
あるいは加熱による溶融状態
で蛍光染料を添加し、着色後に固化することで着色塊
状樹脂とし、粗砕・微粉砕の工程を経て、平均粒子径
が数μmの粉末を得る。
現在一般に流通している粉末タイプの蛍光顔料は、
ほとんどがこの製法で生産されている。
2.2.3 懸濁重合法
基体樹脂モノマーを分散媒中で強力な撹拌により懸
濁状態とし、重合過程あるいは重合後に蛍光染料を添
加し粒子を着色する。固液分離・乾燥後、必要に応じて
解砕工程を経て、平均粒子径数μmの真球状の粉末
を得る。
3.1 出荷時の品質検査
は色相/濃度、染色時の熱処理に対する安定性、
および
分散液の基本的物理特性
(NV
(Nonvolatile Matter:
不揮発分)
・粘度・pH)
について試験を実施する。必要
時には上記試験に加えて粒度分布・粗粒分・比重など
の測定、
および染色布の堅ろう度試験を行い、最終製
品品質への影響を確認する。
3.2 要求品質および試験方法
3.2.1 性能試験
本項では、実際の使用時に最も重要である染色布の
堅ろう度試験について述べる。堅ろう度試験は、社内お
よび外部試験機関にて実施する。SW-100シリーズ染
色布の堅ろう度試験項目および適用規格を表3に示す。
堅ろう度試験の評価はグレースケールで行い、1級∼
5級および各級の中間(4-5級など)
の9段階となる。耐
洗濯・耐汗・耐水の各試験は染色布に添付布を付けて
試験を行い、添付布の汚染も評価対象となる。添付布
の材質によって結果が異なるため、汚染は各種繊維そ
れぞれに対して評価する。対象繊維が特定されておら
ず、多くの繊維に対して試験する必要がある場合には
「多繊交織布」
と呼ばれる、数種類の繊維が織り込まれ
た試験用の布が用いられることもある。
社内で品質確認のために行う洗濯堅ろう度試験は、
表3のJIS L 0844「洗濯に対する染色堅ろう度試験方
法 : Test methods for colour fastness to washing
and laundering」B-4(ISO 105-C05 B1S)法よりも
厳しい、JIS L 0844 A-4(対応ISOなし)法で実施して
いる。
より厳しい条件で試験をすることにより、品質の許
容幅を広くしておくことができる。
DNTコーティング技報 No.14
技術解説­4
染色用水分散蛍光顔料の要求品質
45
表3 SW-100シリーズ染色布の堅ろう度試験項目および適用規格
試験項目
耐 光
試験方法
ISO
I SO 1 0 5 B 0 2
判定
(グレースケール・1∼5級)
JIS
退 色
J I S L 0 84 3
変 色
毛
アクリル
洗濯
I SO 1 0 5 C 0 6 B 1 S
J IS L 0 84 4 B- 4
汚 染
ポリエステル
ナイロン
綿
アセテート
変 色
毛
アクリル
酸
ポリエステル
汚 染
ナイロン
綿
汗
I SO 1 0 5 E0 4
アセテート
J I S L 08 4 8
変 色
毛
アクリル
アルカリ
ポリエステル
汚 染
ナイロン
綿
アセテート
変 色
毛
アクリル
水
I SO 1 0 5 E0 1
J I S L 08 4 6
汚 染
ポリエステル
ナイロン
綿
アセテート
摩擦
I SO 1 0 5 X1 2
乾
J I S L 08 4 9
湿
性能評価は、
当社処方で作成した染色布を用いる。
インダー(アクリル・ウレタンなどのエマルションが主流)
SWシリーズは様々な染色方法に使用されているが、最
+レジューサー(捺染糊の粘度調整・増量剤)に色材
も多いのは捺染であるため、堅ろう度試験は捺染布で
(SWシリーズ)
を加えたものである。
当社標準捺染処方
行う。
を表4に示す。
バインダーはアクリルエマルション、
レジュ
捺染とは、印刷でいうシルクスクリーン方式で、型抜
ーサーは石油系溶剤含有タイプを使用している。性状
きしたスクリーンを使用して布地に文字や絵柄などをプ
はハンドクリーム近似である。
リントする染色方法である。捺染糊(インキ)
の配合はバ
これをスクリーンに乗せ、
スキージ
(ゴム製のブレー
46
DNTコーティング技報 No.14
技術解説­4
染色用水分散蛍光顔料の要求品質
ド)
で余分なインキをしごき落として模様などを染め付
(1)
エコテックス
(OEKO­TEX®)3)
ける。その後、布へ定着させるための熱処理(120∼
素材品質の信頼性・安全性を保証するため、繊維に
160℃)
を行い、完成となる。
含まれて問題となりうる物質の評価を目的とするもので
ある。
表4 シンロイヒ標準捺染処方
成 分
配 合
OEKO­TEX®ラベルは、意識が高い最終消費者に
向けて、衣料やそれ以外の繊維製品が素肌にやさしく、
SW-100
20
アクリルバインダー
20
レジューサー
60
Ⅱ
(肌接触大・肌着など)、
Ⅲ
(肌接触小・外衣など)、Ⅳ
100
(装飾用・インテリア)
の区分がある。表5に主な規制物
合計
熱処理条件
配合量
150℃
3分
実使用時の配合/熱処理条件は顔料濃度(=色濃
度)、染色布の風合い
(手触り感=バインダーの種類で
調整)
などユーザー独自でそれぞれの用途に合わせて
決められるため、
使用方法によっては当社試験結果と差
が出ることがある。
その際にはユーザーの使用条件にて、
当社で再現試験を行い、
差異の原因を確認している。
3.2.2 各種規制への対応 当社製品がグローバルに流通するためには、
安全デー
タシート
(SDS〈Safety Data Sheet〉)が必要で、
さ
らに通 関 時に必 要となる各 含 有 成 分 の C A S N o .
(Chemical Abstracts Service registry number)
リスト、
REACH(Registration, Evaluation, Authorization
and restriction of Chemicals :化学物質の登録・評
価・認可および制限=欧州連合(EU)の規則)対応、
TSCA(US Toxic Substances Control Act : アメリ
カ有害物質規制法)対応など輸出先各国・地域の化学
品登録への対応は最低限必要である。
ユーザーに対しては、SVHC(Substances of Very
High Concern : 高懸念物質)
、EN-71規格(European
Norm=European Standards:欧州規格)
の規制物
質含有の有無など、要求に応じて証明書類を発行して
安全性を確認済みということを示すものである。
用途に応じて製品分類Ⅰ
(乳幼児用・36ヶ月未満)、
質、堅ろう度規制の項目を挙げる。詳細は割愛するが、
規 制 物 質はほとんどが 使 用禁 止 、もしくはm g / k g
(=ppm)単位未満とされている。
基本的には最終製品で試験を行うが、使用素材にも
表5 エコテックスで定められている主な規制項目
項 目
pH値
4.0-9.0(分類Ⅲ・Ⅳ)
ホルムアルデヒド
<300ppm(分類Ⅲ・Ⅳ)
溶出重金属
HJ他、全10種
含有重金属
Pb、Cd
残留農薬
DDT他、全60種
フェノール類
塩素化フェノールおよびOPP
フタレート
(可塑剤)
DPP他、全12種
有機スズ化合物
TBT、DBT
発がん性芳香族アミン24種
着色剤
元となるブランド各 社によるR S L( R e s t r i c t e d
Substances List:各社規制物質リスト)への対応証
明を求められる。
発がん性染料9種
アレルギー誘発性染料20種
その他分散染料2種
塩素化ベンゼン・トルエン
フッ素系撥水/撥油剤
PFOS他、全6種
多環芳香族炭化水素PAH
ナフタレン他、全24種
抗菌剤
エコテックス認可品以外禁止
難燃剤
SCCP他、全9種
残留有機溶剤
NMP、DMAc、DMF
残留界面活性剤
ノニル/オクチルフェノール、他
汚染・水
いる。
また、繊 維 業 界の安 全 性 認 証 制 度であるエコテ
ックス(OEKO-TEX ® )、あるいは最終製品の販売
対象、規制値
染色堅ろう度
汗
乾摩擦
乳幼児唾液
揮発性有機化合物VOC
トルエン、
スチレン、他
臭気
異常な臭気のない事
禁止繊維(アスベスト)
DNTコーティング技報 No.14
技術解説­4
染色用水分散蛍光顔料の要求品質
同様の規制が求められる場合があるため、SW-100シリ
ーズについても規制物質の調査を実施している。
なお、最終製品にエコテックス認証ラベルを付けるた
めには、エコテックス協会に承認を受けた検査機関で
の試験が必要で、
日本国内での認証検査機関は一般
社団法人ニッセンケンのみである。
(2)RSL
服飾ブランド各社は、独自に規制物質リストを作成し
ている。エコテックスでの規制物質に加え、展開してい
る各国・各自治体の排出規制なども包括するため、対象
物質はより多くの範囲に及ぶ。
さらに、衣料など生産時
の環境への影響低減も要求する場合がある。
4. おわりに
先進国はもちろん発展途上国でも、環境保護・安全
性への関心の高まりとともに、化学品に対する規制が
厳しくなっている。繊維加工はコスト重視の産業となっ
ているため、SW-100シリーズなどの色材を直接使用す
るのは発展途上国が大部分である。
しかしながら染色
した衣料品などの最終ユーザーは先進国であり、衣料
ブランド各社による環境保護要求により、規制が比較
的緩い国向けであっても、高いレベルの安全性が求め
られる。従って、高品質な製品を安定して供給するとと
もに、規制への対応と同時に高い安全性を確保するこ
とが極めて重要である。
このため、関係各部署が連携し
て速やかなデータ提出に努めている。
今後ともユーザーの信頼に応えられるよう、
きめ細か
な対応を行うとともに、
より高レベルの安全性を達成し
つつ、高品質な製品開発を目指していきたい。
参考文献
1)宮原貞泰:色材, 58(2)73(1985)
2)落合一仁、他:蛍光体の基礎および用途別最新動
向(情報機構、2005)
3)エコテックス協会および一般社団法人ニッセンケン
Webサイト、エコテックスパンフレット
47
ダウンロード

染色用水分散蛍光顔料の要求品質