ニッセイ基礎研究所
2015-08-03
【アジア新興経済レビュー】
輸出不振で韓国・台湾の経済失速
韓国・台湾・マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン・インド
経済研究部
研究員
TEL:03-3512-1780
斉藤 誠
E-mail: [email protected]
1. (実体経済)
生産面の伸び率(前年同月比)の動きを見ると、3 ヵ月・6 ヵ月平均を下回る国・地域が
多いなど鈍化傾向が見られる。インドネシア(5 月)は同+8.2%と堅調に推移し、マレー
シア(5 月)は同+4.5%と鉱業や輸送用機器を中心に堅調を維持した。一方、タイ(6 月)
は同▲8.0%と内需型や輸出型産業が揃って低下し、フィリピン(5 月)は同▲3.1%と木
材・木工品や靴・衣料品の減少でマイナスに転じた。
2. (インフレ率)
6 月の消費者物価上昇率(前年同月比)は、年明け以降の原油価格の底入れを受けて下げ
止まる傾向が見られた。インドは同+5.4%と 2 月末から 4 月にかけて見舞われた季節外
れの大雨の影響を受けた食料品の高騰で上昇した。またインドネシアは同+7.3%、マレ
ーシアは同+2.5%とラマダン(断食月)の開始日の前ずれで食料を中心に上昇した。
3. (金融政策)
7 月は、韓国・マレーシア・インドネシアの中央銀行で金融政策会合が開かれた。全ての
会合で政策金利は据え置かれた。
4. (7 月の注目ニュース)
-韓国・台湾:2015 年 4-6 月期GDPを公表(23 日、31 日)
-台湾
:洪氏が総統選の国民党公認候補に決定(19 日)
-マレーシア:1MDB に関する汚職問題で内閣改造(28 日)
5. (8 月の主要指標)
8 月は、マレーシア(13 日)
・タイ(17 日)・インドネシア(5 日)
・フィリピン(27 日)・
インド(31 日)で 2015 年 4-6 月期の GDP が公表される。マレーシアは原油安やGST導
入前の駆け込み需要の反動の影響、タイは 10-12 月に底入れした景気の回復傾向が続く
か、またインドは安定したインフレ率が続く中で消費が堅調を維持するかに注目したい。
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|経済・金融フラッシュ 2015-08-03|Copyright ©2015 NLI Research Institute
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1.生産活動 (韓国・台湾・タイ:6 月、その他の国:5 月)
アジア新興国・地域の生産指数の伸び率(前
年同月比)を見ると、3 ヵ月・6 ヵ月平均を下回
る国・地域が多いなど鈍化傾向が見られる(図
表 1)。
(図表 1)
(前年同月比)
10%
生産指数
8%
6%
4%
2%
インドネシア(5 月)は同+8.2%と 3 ヵ月・6
ヵ月平均を上回り、堅調に推移した。マレーシ
ア(5 月)は同+4.5%と、鉱業や輸送用機器を
0%
▲2%
▲4%
▲6%
▲8%
中心に堅調を維持した。
6カ月平均
3カ月平均
最新
▲10%
韓国
一方、タイ(6 月)は同▲8.0%と、食料・飲
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア
フィリピン
インド
(注)最新月は韓国・台湾・タイが6月、その他の国・地域が5月
(資料)CEIC
料といった内需型やハードディスクドライブ・自動車などの輸出型産業が揃って低下し、4 ヵ月連
続のマイナスとなった。フィリピン(5 月)は同▲3.1%と、木材・木工品や靴・衣料品、ゴム製品、
基金属が二桁減となって 3 ヵ月ぶりのマイナスに転じた。台湾(6 月)は同▲1.4%と、主力の電子
部品やコンピューター、電子・光学機器を中心に減少して、2 ヵ月連続のマイナスとなった。韓国
(6 月)は同+1.2%と自動車や皮革、石炭などを中心に 3 ヵ月ぶりに上昇したが、依然として低迷
している。またインド(5 月)は同+2.7%と、オフィス・会計・コンピューターやラジオ、テレビ・
通信機器の二桁マイナスなど製造業を中心に伸び率が低下した。
2.貿易 (韓国・台湾・タイ・インドネシア・インド:6 月、その他の国:5 月)
アジア新興国・地域における輸出(通関ベース)の伸び率(前年同月比)を見ると、海外経済の
弱まりや資源価格の低迷による製品価格の値下がりを受けて、韓国・インドを除く国・地域で3ヵ
月平均を下回った(図表2)。フィリピン(6月)は前年同月比▲17.4%と、主力の電子機器の輸出
減を受けて二桁マイナスとなった。またマレーシア(5月)は同▲16.3%と、天然ガスや天然ゴム
を中心に減少して3ヵ月・6ヵ月平均を下回った。一方、韓国(6月)は同▲2.4%と、一般機械や精
密機器、輸送用機器の改善を受けてマイナス幅が縮小した。
輸入の伸び率(前年同月比)については、輸出と同様に資源価格の低迷を背景とする製品価格の
値下がりを受けて大幅マイナスが続いている(図表 3)。マレーシア(6 月)は同▲17.4%と、輸入
の半分以上を占める中間財を中心に減少して 3 ヵ月・6 ヵ月平均を下回った。またフィリピン(5
月)は同▲13.4%と、原材料・中間財の輸入減少を受けて 3 ヵ月・6 ヵ月平均を下回った。一方、
タイが同▲0.2%と、消費財や資本財の輸入増を受けてマイナス幅が縮小した。
経常赤字に悩むインドネシア・インドの貿易収支を見ると、インドネシアは石油・ガスの赤字を
非石油・ガスの黒字が上回って 7 ヵ月連続の貿易黒字を確保した。またインドは貿易赤字が 108 億
ドルと前月の 104 億ドルから拡大した。
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(図表 2)
(図表 3)
(前年同月比)
0%
(前年同月比)
5%
輸出
輸入
0%
▲5%
▲5%
▲10%
▲10%
▲15%
▲15%
6カ月平均
▲20%
6カ月平均
3カ月平均
▲20%
3カ月平均
最新
最新
▲25%
▲25%
韓国
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア
フィリピン
韓国
インド
(注)ドルベース。最新月は韓国・台湾・タイ・インドネシア・インドが6月、その他の国・地域が5月。
(資料)CEIC
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア
フィリピン
インド
(注)ドルベース。最新月は韓国・台湾・タイ・インドネシア・インドが6月、その他の国・地域が5月。
(資料)CEIC
3.自動車販売 (6 月)
6 月の自動車販売台数の伸び率(前年同月比) (図表 4)
を見ると、国・地域によって好不調が大きく分
かれる結果となった(図表 4)。
フィリピンは前年同月比+23.3%と前月から
更に 5.2%上昇し、19 ヵ月連続の二桁増を記録
(前年同月比)
25%
新車販売台数
20%
15%
10%
5%
0%
▲5%
した。また韓国は同+11.4%と新型モデルの発売
▲10%
▲15%
6カ月平均
によって 6 ヵ月ぶりの二桁増を記録した。
▲20%
3カ月平均
▲25%
一方、インドネシアは同▲25.7%と前月から
更に 7.6%低下するなど、昨年 11 月の燃料補助
最新
▲30%
韓国
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア
フィリピン
インド
(注)台湾は登録台数(ナンバープレート交付数)
(資料)CEIC
金削減やガソリン価格の値上げによる消費者の購買意欲の低下を受けて 10 ヵ月連続のマイナスを
記録した。またタイは同▲25.7%と家計債務の拡大や農産物価格の低迷による農家の購買力低下が
響いて 26 ヵ月連続のマイナスを記録した。マレーシアは同▲1.9%と 4 月の物品・サービス税(GST)
導入前の駆け込み消費の反動が小さくなってきたがマイナスとなった。
4.消費者物価指数 (6 月)
6 月の消費者物価上昇率(前年同月比、以下
CPI 上昇率)は、年明け以降の原油価格の底入
(図表 5)
(前年同月比)
8%
れを受けて下げ止まる傾向が見られた(図表 5)
。
7%
インドの CPI 上昇率は前年同月比+5.4%と、2
5%
ヵ月連続で上昇した。2 月末から 4 月にかけて
3%
6%
4%
インフレ率
6カ月平均
3カ月平均
最新
インフレ目標
2%
見舞われた季節外れの大雨の影響を受けて、糖
1%
0%
類など一部の食料品の高騰が上昇圧力となった。 ▲1%
またインドネシアの CPI 上昇率は同+7.3%と 4
ヵ月続けて上昇し、マレーシアの CPI 上昇率は
▲2%
韓国
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア
フィリピン
インド
(注)インフレ率はCPI上昇率。インフレ目標を採用している国は韓国・タイ・インドネシア・フィリピン・インド。
(資料)CEIC
同+2.5%と上昇した。ラマダン(断食月)の開
始日が昨年から前ずれ1したことによる食料価格の上昇が全体を押し上げた。
1
ラマダン(断食月)は、閏月による補正を行わないヒジュラ暦の 9 月に当たるため、毎年 11 日ほど到来が早まる。日の出から日没ま
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一方、フィリピンの CPI 上昇率は同+1.2%と、食料価格を中心に前月から 0.4%低下し、約 20
年ぶりの低水準を記録した。しかし、先行きは台風被害や干ばつ被害を受けて穀物価格を中心に物
価上昇する恐れがある。
7 月は、韓国・マレーシア・インドネシアの中央銀行で金融政策会合が開かれた。全ての会合で
政策金利は据え置かれた。韓国は輸出を中心に景気が低迷しているが、6 月に MERS の感染拡大によ
る景気下振れリスクを受けて利下げされたばかりであるために様子見となった。マレーシアは世界
的な成長力と金融環境においてリスクが高まっていることを考慮し、経済成長を支える現行の緩和
的な金融政策を維持した。またインドネシアは高インフレと経常赤字の抑制に対応して現行の高め
の政策金利を維持した。
5.金融市場 (7 月)
7 月のアジア新興国・地域の株価は、マレーシア・インドを除く国・地域で下落した(図表 6)。
月上旬はギリシャのユーロ圏離脱に対する懸念の高まり、中国では当局が株価下支え策を相次いで
打ち出したにも関わらず株価下落が続くなど、投資家の心理が悪化した。その後もアジア地域は中
国向け輸出の鈍化や中国人観光客の減少に対する懸念、米連邦準備理事会(FRB)による年内の利
上げ観測が意識されて資金流出が続いたことも株価下落に繋がった。
国別に見ると、インドは自動車や銀行など主力企業の好調な決算が株価上昇に繋がった。一方、
韓国は IT 関連の業績悪化や 4-6 月期の GDP の減速、台湾は貿易統計や鉱工業生産指数など経済指
標の悪化、タイは干ばつや家計債務の拡大による景気回復の遅れ、
「双子の赤字」を抱えるインド
ネシアは米利上げ観測の高まりに対する警戒感が強く、株価下落に繋がった。
為替(対ドル)は、月前半のギリシャ支援協議を巡る混乱や中国株下落など投資家心理が悪化す
るなか、アジア経済の景気減速や米国の年内の利上げに対する懸念が材料視されて、アジア新興
国・地域の通貨は下落した(図表 7)。
国別に見ると、韓国・台湾・タイなど輸出主導経済の国・地域は足もとの輸出減少による景気後
退が懸念されて通貨の下落幅が大きくなった。
(図表 6)
(図表 7)
(%)
10
(%)
0
株価上昇率
5
▲2
0
▲4
▲5
▲6
6カ月
▲ 10
通貨上昇率
6カ月
3カ月
1カ月
(ドル安・自国通貨高)
▲8
3カ月
(ドル高・自国通貨安)
1カ月
▲ 10
▲ 15
韓国
(資料)CEIC
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア
フィリピン
インド
韓国
(資料)CEIC
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア
フィリピン
インド
で飲食が禁じられるため、その反動から日没後の食事量が急増するほか、買いだめや値上げが起こり、食料品や日用品を中心に物価が
上昇する傾向がある。
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6.7 月の注目ニュース、今後の注目点など
①韓国・台湾:2015 年 4-6 月期GDPを公表(23 日、31 日)
韓国では23日、台湾では31日に2015年4-6月期のGDP統計が公表された。4-6月期の実質GDP成
長率は、韓国が前年同期比+2.2%と前期の同+2.5%から低下し、台湾が同+0.6%と前期の同+3.4%
から大きく低下した。韓国は5-6月におけるMERSの感染拡大の影響を受けて、外出を自粛する動き
の広がりによって個人消費が鈍化し、外国人観光客による訪韓キャンセルでサービス輸出が悪化し
たことも成長率の低下に繋がった。また台湾は、内需が堅調を維持したにも関わらず、これまで好
調だった輸出下振れの影響が大きく、6四半期続いた+3~4%台の成長率からの大幅に経済が失速す
る結果となった。輸出主導経済である韓国・台湾は、最大の輸出先である中国をはじめ海外経済の
低迷の影響を色濃く受けており、先行きも輸出不振による景気の停滞が長引く可能性が高まってい
る。
②台湾:洪氏が総統選の国民党公認候補に決定(19 日)
台湾では 19 日、国民党大会が開かれ、洪秀柱立法院副院長が 2016 年 1 月に実施される総統選挙
の党公認候補として指名された。昨年 3-4 月には両岸サービス貿易協定の発効を阻止するために学
生らが立法院を占拠する事態(ひまわり学生運動)が起きるなど、国民党の対中融和路線に対する
世論の厳しい評価が続くなか、有力候補と見られた朱立倫主席や王金平立法院長、呉敦義副総統ら
は立候補を見送った。洪氏は 8 年ぶりの政権交代を目指す野党・民進党の蔡英文主席と次期総統の
座を争うこととなる。
両岸関係を巡っては、洪氏は 92 年コンセンサスの「一つの中国、それぞれの解釈」を基礎とす
る協調路線を引き継いで和平協定の締結を目指す一方、蔡氏は現状維持する方針である。台湾指標
民調が 7 月 14 日に発表した調査結果によると、蔡氏の支持率 54.0%に対して洪氏は 19.5%と、蔡
氏が大きくリードしている状況である。今後は総統選の支持率の動向に加えて、総統選と同日に実
施される立法委員選挙において野党・民進党が過半数を獲得することができるか、といった点でも
注目が集まる。
③マレーシア:1MDB に関する汚職問題で内閣改造(28 日)
マレーシアでは、28 日に内閣改造を行い、ムヒディン・ヤシン副首相を解任し、アーマド・ザヒ
ド・アミディ内相を副首相に就けた。ムヒディン前・副首相は、政府系投資会社ワン・マレーシア・
デベロップメント(1MDB)に関する汚職疑惑に関して、不正関与が疑われているナジブ首相に厳し
い姿勢を見せていた。ナジブ首相は内閣改造で結束を強めて、再スタートを図る。
ムヒディン氏は与党連合・国民戦線(BN)の中核政党である統一マレー国民組織(UMNO)内にお
いて支持が大きいだけに、同氏の更迭によって今後の連立与党の運営が難しくなる可能性がある。
2018 年の次期総選挙や党役員選挙に向けて党内の権力闘争が拡大すると見られ、同国の政治情勢か
ら目が離せない状況が続く。
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④8 月の主要指標:マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン・インドで GDP 公表
8 月は、マレーシア(13 日)
・タイ(17 日)・イ
ンドネシア(5 日)
・フィリピン(27 日)・イン
ド(31 日)で 2015 年 4-6 月期の国内総生産(GDP)
(図表 8)
新興国経済指標カレンダー
韓国
8月1日 土
台湾
マレーシア
タイ
インドネシア
C PI
C PI
金融政策
GDP
8月3日 月
が公表される。
8月4日 火
マレーシアは原油安やGST導入前の駆け込
み需要の反動の影響、タイは 10-12 月に底入れ
した景気の回復傾向が続くか、またインドは安
定したインフレ率が続く中で消費が堅調を維持
C PI
8月5日 水
8月6日 木
C PI
貿易
8月7日 金
貿易
8月10日 月
6-21日
生産
生産
8月11日 火
輸出
+4.4%、タイが同+3.3%、インドネシアが同
10-17日
貿易
生産
8月12日 水
生産
C PI
GDP
金融政策
8月14日 金
当研究所では、マレーシアが前年同期比
インド
金融政策
C PI
8月13日 木 金融政策
するかに注目したい。
フィリピン
貿易
W PI
8月17日 月
GDP
8月18日 火
海外送金
貿易
金融政策
8月19日 水
C PI
+4.6%、フィリピンが同+5.6%、インドが同
8月20日 木
輸出受注
8月24日 月
生産
+7.3%を予想する(6 月 19 日時点の見通し)。
8月25日 火
8月27日 木
8月31日 月
生産
経常収支
24-27日
貿易
27-31日
生産
貿易
GDP
GDP
(資料)各種報道資料
生産指数の対象月は、韓国・台湾・タイが7月、その他が6月。
貿易統計の対象月は、韓国・台湾・タイ・インドネシアが7月、その他が6月。
貿易統計については、フィリピンは輸出と輸入の公表日が異なる。
公表日は変更になる可能性がある。特に斜体字については日程が不確実なもの。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報
提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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【アジア新興経済レビュー】 輸出不振で韓国・台湾の経済失速