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あいち産業科学技術総合センター 研究報告 2012
研究論文
曲面形状の高精度三次元ベストフィット
松浦
勇*1
High Precise Three-dimensional Best-fit for Curved Surface
Isamu MATSUURA *1
Industrial Research Center
*1
ベストフィットとは、曲面形状の評価の前処理として、設計形状と実測値とを重ね合わせる処理のこと
である。ベストフィットには様々な手法があるが、設計形状を点列で定義する方式では、補間誤差が問題
となり、高精度な評価が困難である。本論文では曲面形状を数式により定義する方式を提案し、ソフトウ
ェアを試作した。この方式の特徴は、任意の測定点に対応する設計形状上の点が数式により厳密に求めら
れることであり、高精度な曲面形状の評価が可能である。形状評価の指標として形状偏差の二乗平均平方
和を採用し、それを最小とするベストフィット処理を繰り返し最小二乗法により行った。シミュレーショ
ン実験により、提案手法の精度を調べた結果、実用上十分な計算精度であることを確認した。
1.はじめに
三次元測定機による曲面形状の測定では、一般的に、
とあらわされる 1)。ここで、
Ai=[axi ayi azi 1]T:実測値点
設計形状を離散的な点列で与え、その点を目標に曲面の
Pi=[pxi pyi pzi 1]T:対応する設計値点
座標測定を行う。この場合、実形状が設計形状から位置
Ni=[nxi nyi nzi 1]T:設計値単位法線ベクトル
ずれしていると、測定点に対応する設計形状の座標値を
求めるために何らかの補間操作が必要である。そのため、
補間方式が適切でない場合や測定点間隔が広い場合、補
間誤差が生じ測定精度が低下することがある。補間誤差
[
T=
を小さくするためには、測定点間隔を小さくする必要が
T11 T12 T13 T14
T21 T22 T23 T24
T31 T32 T33 T34
0
0
0
1
]
:座標変換行列
あるが、三次元的な曲面測定では、測定点数は測定点密
RP=プローブ球半径
度の二乗に比例し増加するため、多大な測定時間を要す
である。2 次元の場合を図1に示す。実形状の回転は、
ることになる。そこで、数式により曲面形状を定義する
重心(jx, jy, jz)を含み、各座標軸に平行な3直線を回転軸
ことにより、補間操作の不要な曲面評価方式を提案する。
として、X 軸、Y 軸、Z 軸の順に行い、その後、各座標
軸方向に平行移動を行う。各移動量および回転量の大き
2.実験方法
さを、それぞれ、dx、dy、dz、du、dv、dw とし、以後、
移動回転量と呼ぶ。この場合の座標変換行列 T の各要素
2.1 評価方式
対象曲面の形状偏差の代表的な評価方式には、各測定
は、
点の偏差の二乗平均平方和(RMS 値)による方式と、
T11=cos(dw)cos(dv)
偏差の最大値(輪郭度:JIS B 0621)による方式とがあ
T21=sin(dw)cos(dv)
る。本研究では、前者を採用し、最小二乗法による設計
T31=-sin(dv)
形状の当てはめ(ベストフィット)を行った。
T41=cos(dw)sin(dv)sin(du)-sin(dw)cos(du)
2.2 最小2乗法によるベストフィット
T12=sin(dw)sin(dv)sin(du)+cos(dw)cos(du)
ここでは、三次元測定機による測定を前提として、実
T22=cos(dv)sin(du)
形状を表す実測値点は、座標測定時のプローブ球中心座
T32=cos(dw)sin(dv)cos(du)+sin(dw)sin(du)
標とする。ベストフィットのために実形状の位置を移動
T42=sin(dw)sin(dv)cos(du)-cos(dw)sin(du)
し、その姿勢を回転した場合の各測定点の形状偏差 ei は
ei=Ni(TAi-Pi)-RP
*
(1)
1 産業技術センター 自動車・機械技術室
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y’
Ni
y
実形状
ei
Pi
dw
(Ax, Az)
Ai
・
TAi
④d0
設計形状
③N0=FN(X0)
x’
(dx, dy)
②Z0=F(X0)
⑦N1=FN(X1)
x
⑥Z1=F(X1)
図1 移動回転後の測定点形状偏差
①X0
T13=cos(du)cos(dv)
⑤X1
図2 接触点と設計値点の計算方法(XZ 断面)
T23=-ex jx-fx jy-gz jz+dx+jz
T33=-ey jx-fy jy-gy jz+dy+jy
T43=-ez jx-fz jy-gz jz+dz+jz
この中で、各実測値点に対応する設計値点と法線方向
となる。ここで、移動回転量が微小量の場合、T は
T=
[
dv
dw jy-dv jz+dx
1
-dw
dw
1
-dv
du
1
dv jx-du jy+dz
0
0
0
1
–du –dw jx+du jz+dy
は、形状定義関数を用いて、図2に示す①から⑦の手順
で漸近的に計算する。形状定義関数は、z=f(x, y)の形で
]
理論的な曲面を表す関数と、N=FN(x, y)の形で法線ベク
トルを表す関数を用意しておく。また、収束条件は重心
から各測定点までの平均距離を R とすると、
dx2+dy2+dz2+R(du2+dv2+dw2)<0.0001(mm)
と近似できる。この場合、(1)式の形状偏差 ei は、
である。
ei=nxidx+nyidy+nzidz
2.4 点列定義方式による評価
+(nyi(-axi+jz)+nzi(ayi-jy))du
一般的に広く行われている設計形状を離散的な点列
+(nxi(azi-jz)+nzi(-axi+jx))dv
で定義する方式を点列定義方式と呼び、提案した数式定
+(nxi(-ayi+jy)+nyi(axi-jx))dw
義方式と点列定義方式とを比較するため、点列定義方式
+nxi(axi-pxi)+nyi(ayi-pyi)+nzi(azi-pzi)
による評価プログラムも作成した。
-Rp
点列定義方式において、任意の位置の実測値点に対応
となる。ei は移動回転量の線形結合式で表されているの
する設計値点を求めるための補間方式としては、平面補
で、最小二乗法により、移動回転量を求めることが可能
間、球面補間、スプライン曲面補間などが考えられるが、
である。
ここでは、測定点近傍を平面と仮定した平面補間方式を
2.3 計算手順
取り上げた。平面補間方式は、特性の異なる曲面や不連
移動回転量が微小の場合は、最小二乗法により計算で
きるので、以下の手順により、繰り返し最小二乗法に基
づき、形状偏差二乗和の最小値を求める。
続な曲面が組み合わされていても補間誤差の変動が少な
いことや、計算が簡単なことなどの特徴がある。
平面補間方式におけるベストフィット後の形状偏差は、
[1] 移動回転量 D の初期値を計算し、設定する。
(1)式の Ni、Pi を固定値である設計値点とすればよい。
[2] 設定された移動回転量に基づき、すべての実測値点
そして、2.3 の手順から実測値点に対応する設計値点と
を座標変換する。
[3] 対応する設計値点と設計値単位法線ベクトルを計
法線ベクトルを再計算する作業を省略した手順で最小二
乗法によるベストフィット計算を行った。
算する。
[4] 各点の実測値点、設計値点、単位法線ベクトルを[2]
式に代入し、最小二乗法により微小移動回転量ΔD
を求める。
[5] ΔD が収束条件値以下ならば終了。
[6] そうでなければ、D=D+ΔD として、[2]へ戻る。
3.実験結果及び考察
3.1 補間誤差の影響
数式定義方式と平面補間方式で最小二乗法によるベス
トフィットを行い、補間誤差の影響を調べた。
測定データは、ガラスマスター球(φ15mm、輪郭度:
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あいち産業科学技術総合センター 研究報告 2012
0.1μm、図3)を設計上の正しい位置から 0.2mm 位置
ずれした状態で設置し、頂点から最大 60 度の範囲に配
置した 169 点を三次元測定機で座標測定して得た。
表1 ベストフィット後の方法ごとの形状偏差
ベストフィットの方法
RMS(μm)
ベストフィット無し
121.2
平面補間方式
3.0
数式定義方式
0.7
(A) 球
ベストフィット無し、および、2 方式でベストフィッ
トした後の RMS の値を表1に示す。平面補間方式によ
るベストフィット後の形状偏差は 3.0μmRMS で、補間
誤差による評価精度の低下が認められた。数式定義方式
によるベストフィット後の形状偏差は 0.7μmRMS であ
った。
(B) 楕円面
図3 ガラスマスター球
(C) 放物面
3.2 シミュレーションによる計算誤差の確認
4 種類の二次曲面形状(図4)に、3 方向の移動と 2
方向の傾きによる位置ずれを加え、シミュレーションデ
ータを作成した。平均位置ずれ量は、0.003 から 0.32mm
の範囲で 8 水準に設定し、各水準ごとにランダムな方向
に移動回転した 100 データセットを用意した。
最小二乗法により求めた RMS 値の 100 データセット
の中の最大値を図5に示す。RMS 値は 10-4mm 以下で十
(D)非球面
分な計算精度であることを確認した。また、繰り返し計
算回数の最大は 3 回であり、すべてのデータセットに対
して、計算が収束した。
図4 4 種類の 2 次曲面形状
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図6 測定の様子
図5 計算精度
は、対応できない場合がある。本研究は、高精度な三次
元曲面測定を効率的に行うために必要なものであり、今
3.3. 実試料に対する測定評価
超精密切削加工した試料(半球)に対して提案手法を
後、測定可能な曲面の種類を増やしながら、広く活用し
ていきたい。
試みた。測定データは、試料(半球)を設計上の正しい
位置から 0.1mm 位置ずれした状態で設置し、頂点から
付記
本研究は、独立行政法人科学技術振興機構 平成 23 年
最大 60 度の範囲に配置した 107 点を三次元測定機で座
標測定して得た。提案手法によりベストフィットを行っ
度研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム
た結果、9 回の繰り返し計算の後、収束することを確認
(A-STEP)フィージビリティスタディ【FS】ステージ
した。測定の様子を図6に示す。
探索タイプにより実施した。
4.結び
当センターにおいて、三次元測定機による曲面測定の
問い合わせや依頼試験は、年々増加しており、その内容
も高度化し、測定機に標準で内蔵されている機能だけで
文献
1)
山本昌治,伊藤俊治,山本紀一:愛知県工業技術セ
ンター研究報告,35,35(1999)
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曲面形状の高精度三次元ベストフィット