IEEJ:2012 年 7 月掲載 禁無断転載
特別速報レポート
2012 年 7 月 19 日
国際エネルギー情勢を見る目(95)
不確実性高まる国際エネルギー情勢を見る視点:中東・米国・中国
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所
常務理事 首席研究員
小山 堅
7 月 18 日、弊所は、
「不確実性高まる国際情勢と国際エネルギー市場」と題する国際セミ
ナーを開催した。このセミナーは、弊所と深い連携関係を有する、米国ライス大学ジェー
ムズ・A・ベーカー3 世公共政策研究所との共催で、同研究所からは Founding Director で
ある Edward Djerejian 大使、米国を代表するエネルギー専門家の Amy Jaffe 氏、Steven
Lewis 氏が参加、弊所の専門家と共に講演・パネル討論を実施した。
「アラブの覚醒」で幕を開けた 2011 年以降、国際情勢と国際エネルギー市場は、東日本
大震災、イラン情勢緊迫、欧州信用不安再燃など、激動が続いている。本セミナーではそ
の中でも特に重要なポイントとして、この小論の表題にある通り、中東、米国、中国の問
題に焦点を当てた議論が行われた。
「アラブの覚醒」については、最近は日本のメディアでは、深刻化するシリア情勢を除
くと報道される回数は減尐傾向にある。しかし、現実には、
「アラブの覚醒」の問題は極め
て重大かつ根の深い問題であり、根本的な解決が進んでいるような状況では全くない、と
いう厳しい見方が示された。
「アラブの覚醒」に関する原因・問題の淵源は、オスマン帝国
解体後の国際的な処理に関する「サイクス・ピコ協定」
(1916 年)などに象徴される列強に
よる植民地支配の副作用に遡る、など近代中東の歴史的コンテクストから見る必要がある、
との重要な指摘があった。歴史的・民族的・宗教的に複雑な問題が錯綜する中、現在の中
東の政治体制では、長期間の強圧的・抑圧的政権運営や腐敗問題などから、草の根的に民
衆の不満が高まっていた。そこで、一度「発火」した不満は、インターネット等の情報通
信手段の発達と普及もあって、まさに燎原の火のように予想を超えた速さと範囲で拡大し、
問題が深刻化したのである。
その点で、
「アラブの覚醒」から派生する問題は、今後も様々な形をとって、多くの中東
諸国で顕在化してくる可能性がある。シリアでは、アサド政権と反体制派の軍事衝突が激
化、情勢悪化がますます深刻化し、チュニジア、エジプト、リビアに続く政権崩壊の可能
性も指摘されるに至っている。しかし、それだけでなく、現在表面的には大きな動きが見
られない国においても、中東では、先行きの予断は許されないのではないか、との厳しい
情勢認識が示された。
また、中東についての当面の最重要関心事項であるイラン問題に関しては、まずは制裁
強化によるイラン原油輸出の低下がさらに進む可能性とその影響には要注目との指摘があ
った。さらに、核兵器開発能力を有するイランを容認することはできない、とのスタンス
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をイスラエルがとる場合、いずれかのタイミングで、対イラン軍事行動がとられる可能性
は決して否定はできない。その際の周辺地域も含む大きな不安定化発生の可能性は、まさ
に国際エネルギー市場を揺るがす大問題に発展する恐れもあることが指摘された。軍事的
対立について、①発生のタイミング、②持続期間の長短、③関係国の関与、等に関するシ
ナリオによって、国際市場不安定化の状況は大きく異なる、との見方も示された。中東地
域が石油および LNG の供給・輸出の一大基地であるだけに、その帰趨は極めて重大な結果
を国際情勢にもたらす。とりわけ、震災後に、LNG 及び石油火力への依存を高めているわ
が国にとっては、イラン情勢の展開、そして前述した中東情勢全体の帰趨は、エネルギー
安全保障面で、最重要の不安定要因となりうる。今回のセミナーでは、中東問題の重要性
と現在の状況の厳しさを強調し、まさに油断を戒める見解が多かったといえよう。
中東情勢の不確実性が高まる中で、世界のエネルギー供給サイドでは米国の存在感が大
きく高まり、その点での「重心のシフト」が起きつつある、との指摘もあった。
「シェール
ガス革命」によって、LNG 輸出問題が米国内でも、アジア市場を含む世界全体でも、重要
関心事になっているが、このセミナーでは、むしろ石油問題についての分析・考察・議論
が中心となった。シェールガスに続き、シェールオイルの大増産が続く米国では、ブッシ
ュ政権、オバマ政権が共に掲げてきた中東石油への依存脱却に関して、その実現に向けた
歩みが進みつつあるといって良い。むしろ、さらなる増産の可能性によっては、LNG に続
き、米国が原油輸出国になるのではないか、との大胆な見方も示されるようになっている。
今回の議論では、そこまで見通すには時期尚早であるとの見解が示されたが、今後の米国
の石油需給動向も、まさに世界全体の需給バランスと「重心」および「パワーバランス」
のシフトをもたらすだけに大いに注目すべきである。また、米国が中東石油への依存を大
きく引き下げ、自給自足に近くなっていくことは、中東地域の安定に関する米国のコミッ
トメントにどう影響するか、など、より幅広い国際秩序に関する問題を惹起する。その意
味でも、米国の動向からは目が離せない。
最後に、中国については、当面は経済成長の鈍化による石油・ガス・石炭などエネルギ
ー(輸入)需要の伸びの低下がどうなるか、が大きな不確実性となっている。しかし、中
長期には、①第 12 次 5 カ年計画におけるエネルギー・環境政策目標の達成に向けた取り組
みがどのように実施され、どのような成果を生むか、②今秋、指導者層の交代が行われる
が、新体制下でエネルギー政策がどのようなメンバーで、どのような内容で実施されてい
くのか、などの点が重要であるとの指摘があった。また、資源量では米国を上回ると推定
される、中国の非在来型ガスがどのように開発されるか、は世界の天然ガス市場・LNG 市
場の需給バランスを大きく変化させる不確実性要因であるとの指摘があった。インフラ面、
技術・人材面などの点において、米中では非在来型ガス(特にシェールガス)開発に無視
しえない大きな差異があるため、実際には、仮に中国でシェールガス開発が進むにせよ、
かなり長期的視点で見るべき、との見解も示された。いずれにせよ、今後の世界のエネル
ギー需要増大に関して決定的な影響を及ぼすことが必至である中国の動向も、世界を左右
する不確実性であることは間違いない。
以上
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