竹田(シネ・サイエンス研究所
所長)
それでは Malasit 氏の発表に移ります。Malasit 氏はマヒドール大学シリラ病院の教授であり、
医学部分子生物学の副学部長を務めています。今回はデング出血熱について、国際協力および
分子学的側面を中心にお話していただきます。
Malasit(マヒドール大学・シリラ病院
教授)
本日はタイ特有の感染症経験についてお話します。同時にタイとしての国際ネットワーク参
画の在り方についてもお話したいと思います。デング出血熱は現在、タイの公衆衛生面で最も
問題となっている感染症のひとつです。開発途上国がいかに国際研究ネットワークの下で感染
症問題を解決すべきか、特にライフサイエンス研究をいかに進めるべきか―タイのデング出血
熱研究をモデルにお話したいと思います。
デング出血熱の原因となるフラビウィルスには 4 つの血清型が確認されています。1950 年
代にデング熱が発生した東南アジアでは、熱帯シマカ(蚊)による媒介が確認されています。
症状としては、急劇なショック状態や血漿漏出および出血が見られます。デング出血熱は通常
2 回目の感染により発症します。これは大変奇妙な特徴です。従ってウィルスが直接原因では
ないといえます。
タイにおけるデング出血熱は重要な問題ですが、その発生率は低下していません。しかし、
これまでデング熱に対処してきた私どもの経験が実を結び、死亡率はかなり低下しました。こ
の死亡率低下に貢献した我々のアプローチは、海外のパートナーと協力して得られたものです。
デング熱はインド、アメリカ大陸にも広がり、国際的問題となってきました。人口 3 億人の東
南アジアでは年間 100 万件以上の発症が見られ、約 3000 人が死亡しています。なぜ特定のひ
とのみ発症するのか理解することが重要です。
解決すべき問題はまず第一に、
(1)ショック状態や血漿漏出など、病状が急変するメカニズ
ムを把握すること。第二に(2)公衆衛生面では、たとえば発生箇所、蚊のコントロール、発
生予測および制御に向けた研究を進める必要があります。
タイには 50 年間に及ぶデング出血熱研究の経験があります。この病気に関しては、1960 年
代から同国の公衆衛生省が活発に関与しており、全国的な監視制度を築いてきました。マヒド
ール大学は 20 年前からワクチン開発に携わっています。ワクチンのプロトタイプは既にパス
ツールに売られ、Phase 3 試験まで進んでいます。タイ国内では基礎的な臨床研究なども依然
強い関心を集め、この分野での博士、修士課程、理学士プログラムが新設されております。タ
イには、T2プログラムという国内資金援助システムがあります。これはWHOのTDRプロ
グラムとタイの資金提供組織が協力しているものです。このT2プログラムはデング研究に焦
点を当てており、以下の活動に対する支援を行ってきています。
(1)タイ国内における臨床デ
ータベースの構築、(2)ワクチン開発、(3)全国的サーベイランスシステムの確立。この中
で、臨床的データベースの構築という分野を強調したいと思います。まずしたことは、デング
出血熱患者が訪れるサイトを標準化することでした。患者がサイトに訪れれば、すべてのデー
タが得られ、検査サンプルを採取できます。そしてリファレンスラボを作ることができるので
す。これは病態生理学を学ぶために、デング熱の生物医学研究の核となります。国内では 2 つ
の臨床研究センターがすでに着手して、救急分野を中心に血液を集めます。広範囲に渡り、高
品質を誇っております。タイではバンコクのシリラ大学、チェンマイ大学、国立 BIOTEC セン
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ターが国内研究ネットワークを形成しています。この 3 機関が様々なプロジェクトの土台とな
っています。
さらにタイ政府としては、ドイツのマインツ大学、パリのパスツール研究所、ロンドンのイ
ンペリアルカレッジ、米ワシントン大学など世界各地に研究者を派遣しています。様々なネッ
トワークを通じた国際協力体制を構築することにより、国内研究の広領域化、効率化を図る方
針です。施設の共有化も研究の加速化・効率化にとって重要となります。その一環として、こ
れまでに蓄積された検体や標本を、国内だけでなく、国外にも提供することにより、世界全体
の研究推進に貢献していく所存です。それでは手短に、三年間努力してきた結果をお話します。
オックスフォード大学で研究している、バンコクをベースにしたタイ人のグループが、T 細胞
がショック状態や血漿漏出の発症に関わっているという物議をかもすような仮説を立てました。
「Journal of Immunology」に記載された論文のタイトルは「The original antigenic sin」と
いい、T 細胞が異常なふるまいをして、ウィルスを死滅させることはできないが、炎症性のシ
トキンを作り出し、それがホストに害を及ぼすという論旨です。パリのパスツール研究所や国
立遺伝子型センターと協力して、
「Nature Genetics」誌にも発表しました。重篤なデング出血
熱と関係するプロモーター部位を特定することとは別に、私たちが断言したのは、デング熱と
デング出血熱のゲノムのプロファイルは、遺伝子プロファイルを使っているように見える別個
の個体だと信じていることです。このデータベースを使うことにより、病気の発症に寄与する
ゲノムをさらに特定できるようになっていくはずです。少なくとも、データベース化された
DNA が現代のゲノミクス研究に十分役立つという自信がつきました。またパリのパスツール
研究所、国立遺伝子型センターといった大きな機関と、いかに協力していくかも学びました。
マインツ大学と協力して、自国とドイツからの資金により学生を派遣して、論文の発表に成
功しました。この論文は実際、デング熱にはこれまで効かなかった診断ツールを作る大きな可
能性を示しました。デング熱の診断ツールのほとんどは抗体をベースにしたもので、初期の段
階で熱が出た急性患児には使えませんでした。しかしこの研究のおかげで、ウィルスタンパク
をベースにした診断ツールの可能性が出てきました。ここでいかに国際協力を活用したかお話
しましょう。学生や研究者を海外に送りますが、学位を授与されるのはマヒドール大学ですが、
オックスフォードやパスツールとも共同に研究しております。
タイでは、オックスフォード大学やパスツール研究所との協力を通じて、これまで 6 人の博
士号取得者と 19 人の修士号取得者が誕生しています。現在は、21 人の修士課程学生と 12 人
の博士課程学生がいます。また博士号取得後も研究を続けている者が 2 人います。タイでは高
度集束型の研究が推進されていますが、その実現には優秀な人材と十分な助成金を確保する必
要があります。もう一度強調しますが、国内の資金は非常に重要です。そして良い臨床データ
ベースを作ること。これが我々にとってのキーファクターです。インターナショナルな面での
キーファクターは何でしょうか?うれしいことに、我々のパートナーは全て知的財産を共有し
ています。同時に全てのステップ、全ての変化、全ての活動を確認するための良いマネージメ
ントが重要であること、同時にこのような共同研究ではブレインストーミングセッションの繰
り返しとも言えるのです。
こういったことに対する努力は我々にとっても良いことなのです。全ての活動は透明性、
資料、技術、人材そして国内および海外の資金、これらを全て共有することを基本としていま
す。研究資金、個人間のパートナーシップ、そしてインフラのパートナーシップが非常に重要
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です。永井先生も先ほどそのように言っていました。実際、ここ三年で得たデングの共同研究
の前には、5~10年にわたるコラボレーションの歴史があるのです。
我々はこのミーティングで、そして私のこの発表で、感染症研究分野で活動する基礎研究者
が何らかのスタートとなる情報を得てもらえるといいと願っています。
<質疑応答>
(永井)パスツール研究所、マインツ大学などで推進する二カ国間協力は独立した取り組みな
のでしょうか。それぞれがお互いのコラボレーションの結果を共有することはあるのでしょう
か?
(Malasit)もともとは学生を海外に派遣することから始まっているので構造的にそういった
計画があるわけではありません。しかし、最近資金を援助する団体から、何か新しい取り組み
をするようにという提案が出ています。例えば、海外に一度送った学生をそのままタイにかえ
すのではなく、別の共同研究国に再派遣してはどうか、などです。
(Ganguly)タイではあなたの興味深い研究成果を活かして、新ワクチンを作るようにご尽力
されておりますか?
(Malasit)答えは Yes です。タイの研究ファンドなどが実際に協議を続けており、大規模な
プロジェクトを進めています。タイではこれまで 2、3 の候補ワクチンが誕生しています。つ
まり、候補ワクチンを作る段階まではすべて国内で行われています。
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竹田(シネ・サイエンス研究所 所長) それでは Malasit氏の発表に移ります。