木造建築Q&A
木造建築の用途
木造建築はどんな施設に適しているか?
まずは、小規模の建物から木造化への取り組みを始めよう。そして、調湿作用、断熱性能、柔軟性、リラッ
クス効果といった木材の優れた性質を活かせる施設に利用を広げていこう。
安定したという例を聞くことがある。
小規模の施設から始めよう
また、高齢者にとっての不安は転んで転倒した時に骨
いきなり大規模の施設を木造で構想しても様々な課題
折することである。転倒が「ねたきり」のきっかけにな
がありハードルが高すぎる。まずは小規模の施設を木造
る恐れがある。木造建物の床材の柔らかさは骨折事故の
としてみよう。
減少につなげることができる。
誰もが木造になじみがあり、木造住宅を念頭に置けば、
日本の住文化に根ざした木造建築は、高齢者が安心し
予算の見積もりもわかりやすい。工事にしても戸建住宅
て暮らせる空間として「安全」と「癒し」を同時に提供
に実績のあるところなら信用がおける。例えば公衆便所
でき、福祉施設にはとても適しているといえる。
や公民館などを木造で計画してみたらどうだろう。気候
風土や地域らしさを表現し、なじみやすく親しまれる公
木造建築
共施設とすることができる。そして、木材の使用は地球
木材は、やわらかで温かみのある感触、高い吸湿性な
温暖化防止への貢献、地域文化の継承などの観点からも
どの優れた性質を持っており、この性質を活用した木造
大きな意義がある。
校舎や、内装に木材を使用した教室等は、豊かな教育環
境づくりを行う上で大きな効果が期待できる。戦前は木
安心して暮らせる福祉施設に
造校舎が主流だったが、戦後の木材資源の枯渇、防災上、
日本人の多くは木造住宅に暮らしている。2008 年の
安全上の観点から不燃堅牢化を図るため、鉄筋コンク
総務省調査によると、その時点で存在する住宅(住宅ス
リート造校舎が主流となった。しかし、木材が多く使わ
トック)では、戸建ての 93%が木造となっている。
れた校舎は、子どもの集中力が上がり、木材を使ってい
そんなことから、高齢者が居心地良いと感じるのは子
ない校舎に比較してインフルエンザの発生率が低いこと
どもの頃から長年住み続けてきた木造の建物が一番であ
も報告されている(図 1)。感受性の高い幼少期にこそ
る。鉄筋コンクリートの建物に住んでいた時は情緒不安
木に触れる機会を多くすることで、キレにくく、心の知
定だった利用者が、木造の建物に移ったとたんに精神が
能指数が高い人に成長することが期待できる。
図1:校舎別に見たインフルエンザによる学級閉鎖率
8 %
ストレスがなく仕事の能率が上がる執務空間に
学級閉鎖数の割合
木材の内装を施した部屋とそうでない部屋で、作業能
率を比較した実験があるが、この研究成果から木質内装
6
の部屋は仕事がはかどる環境になる可能性が高いことが
RC造校舎
1993
木質内装校舎
木質内装校舎
0
木造校舎
2
木造校舎
RC造校舎
4
10
キレにくい子どもを育む教育施設に
示されている。また、木に含まれている精油成分は、ス
トレスをやわらげ、疲労回復にもつながることが、血圧
やストレスホルモンなどの測定によって明らかにされて
いる。精油にはダニを寄せ付けない作用もある。木は、
人の心身の健康をサポートしてくれ、ストレスの多い職
場の環境を和らげてくれるために大きな効果が期待され
1998
橘田紘洋氏(愛知教育大学名誉教授)
「木のまち・木のいえリレーフォー
ラムイン松本(H22.1.30)」パネルディスカッションでの発表資料より
ている。庁舎、事務所、研究所など多くの執務空間に木
材を使うべきである。
11
木造建築Q&A
木造建築Q&A
耐久性・寿命
木造建築の寿命は本当に短いのか?
木造建築は地震や火災に弱いのか?
鉄筋コンクリート造や鉄骨造と比べて会計上の減価償却資産の耐用年数が短いとされる木造は、
「建物の
寿命も短い」
と思われがち。
しかし、
設計上の工夫やメンテナンス次第で長寿命化を図ることも可能である。
木造校舎は戦後、地震や火災などの防災上の理由から、鉄筋コンクリート造にとって変わられた。ところ
が近年、木造校舎への再評価が進み、新しい工法や材料の研究開発も進められている。
固定観念に縛られているのでは?
そして、数十年という時間の経過とともに必要な解体、
修理などを施し、長期にわたる維持保全に努めてきたの
「曲げヤング係数」
・
「曲げ強さ」ともに、国土交通省の
木造は地震に弱い?
基準強度を満たしており、構造材としても頼りになるこ
木造というと、時間とともに腐朽していくもので、耐
である。法隆寺が建立以来なお健在なのは、小まめに悪
近年、能登半島や中越など、富山県の近県でも大規模
とが明らかになっている。特に、県産スギの多くを占め
用年数も短いものという固定観念があるのではないだろ
くなった箇所をやり変え取替え、日々のメンテナンスを
な地震が発生している。被害の写真や映像で木造は地震
るタテヤマスギは、全国平均と比べても、同等以上の強
うか。
行い、創建当時の威容を保っているのである。昭和の大
に弱い、と思われる方も多いかもしれないが、実のとこ
度性能を示している。(図 2, 図 3)
実際、減価償却期間においては、鉄筋コンクリート造
修理では、五重の塔の芯柱を抜きかえるなどの大工事も
ろはどうなのだろうか ?
の建物の耐用年数は 30 年から 50 年、鉄骨造であれば
行なわれている。
木造住宅等震災調査委員会の調査の結果、倒壊等の大
20 年から 40 年、それに比べて木造は用途などによっ
一方、現代の木造建築においては、様々な建築素材の
規模な被害があった木造住宅の大部分は、昭和 56 年 5
火災については、木造建築は不利な面があるのは確か
て違いはあるが、10 年から 20 年とされている。
開発、普及により外界からの雨や風に対抗する方策は随
月以前に建てられていた。これ以降は建築基準法の改正
である。しかし、近年の工法や材料の開発や研究で解消
ところが、早稲田大学の小松幸夫教授(早稲田大学理
分整ってきており、
「メンテナンスフリー」が標榜され
で、耐震基準が強化されている。現在の基準に従った的
されつつある。火災の際に躯体の耐力が低下して崩れ落
工学術院創造理工学部建築学科)の研究によれば、建物
る向きもある。
確な構造設計、施工、監理が行われていれば、構造種別
ちることに注目すると、木材は鉄骨より丈夫である。木
の構造種別によって寿命に差が無いことがはっきり示さ
しかし、機能や性能の向上とともに建物の密閉化や、
によっての耐震性の差はないといえる。
材は断面が大きい場合、表面は燃えても内部までは達し
れているのである(表 1)
。
設備機器類の充実にともない、壁体内の結露や床下の湿
県内で木造建築に使用される県産材の大部分はスギで
ないため、燃えても耐力の低下がゆるやかなのだ。一方、
むしろ建物の寿命は構造の種別や耐久性ではなく、使
気、漏水などから木材の腐朽やシロアリの食害などの対
ある。
「富山県のスギは弱い」といった声を建築関係者か
鉄骨の場合は急激に耐力が低下してしまう(図 4)。
用者や所有者の都合により取り壊されることが圧倒的に
策が新たな課題となっている。
ら聞いたことがあるかもしれないが、大きな誤解である。
また、火災の場合の死因をよく分析してみると、焼死
多いことが指摘されている。
要は定期的な保守点検が常に重要であり、中長期にわ
富山県木材試験場で実施した実大強度試験 ( 実際に使用
よりも建材や什器が燃えることによって発生するガスに
奈良県にある法隆寺は、金堂・五重塔・中門・回廊な
たりメンテナンス計画を立案し建物を維持保全していく
される柱・梁での試験 ) によれば、材料の強度を示す
よるものが多い。したがって、構造種別よりも、避難や
ど 8 世紀以前の建物が現存する世界最古の木造建築物
ことで長寿命化が実現することを、関係者の共通認識と
として認知されている。木造建築の寿命が短いというの
して定着させていくことが大切なのである。
は近年の固定観念として誤解されているのではないだろ
うか。
大事なのは設計における工夫とメンテナンス
表1:建物は何年もつか〜建物の構造種別による平均寿命の推計(単位:年)
構造・用途
1997
全国 ( 除
東京特
東京 )
別区
2005
全国
56.76
RC 造共同住宅
45.26
43.23
45.17
RC 造事務所
45.63
45.61
51.39
鉄骨造専用住宅
40.56
35.04
51.85
あるが、これは素材の問題というよりはむしろ建築設計
鉄骨造共同住宅
41.00
35.25
49.94
上の配慮不足が大きいのではないだろうか。
鉄骨造事務所
32.95
29.70
41.70
木材は、水分、温度、酸素が揃うと腐ると言うのは周
鉄骨造工場
-
-
45.81
知のことであるが、伝統的な神社仏閣、あるいは民家と
鉄骨造倉庫
-
-
45.16
木造専用住宅
43.53
33.75
54.00
木造共同住宅
37.73
33.10
43.74
と常日頃からのメンテナンスである。
木材が腐朽して傷んでいく様子をよく目にすることが
呼ばれる町家や農家住宅では土地土地の大工棟梁が、地
域の気候風土、雨、風から建物をいかに長持ちさせるか
を考え、それが美しい意匠、様式美にまで高められ維持
されてきたものである。
専用住宅
43.82
34.31
53.89
小松幸夫氏(早稲田大学教授)
「第2回財務省PRE戦略検討会
(H22.10.21)」における有識者ヒアリング資料より
被害を最小限にとどめることになる。
kg/cm
国土交通省では現在、木造3階建ての校舎の耐火基準
2500
2000
圧縮強度
1500
木材
を定めるため、校舎を実際に燃やす実験を行っており 2
曲げ強度
回目の実験では耐火性能の向上が見られた。近いうちに
1000
500
木材
0
木造 3 階建て校舎も建築可能になることが期待されて
鉄
コンクリート
鉄
コンクリート
30
%
基準強度
22.2N/mm2
頻度 (%)
100
1000
℃
標 準 加熱曲線
県産スギ n:237
平均値 35.1
(標準偏差 7.4)
全国スギ n:7699
平均値 40.8
(標準偏差 8.7)
20
80
60
ベイマツ n:660
平均値 43.6
(標準偏差 14.4)
10
0
いる。
図4.鉄・アルミニウム・木材の加熱による強度低下
図3.富山県産スギの曲げ強度(N/mm2)
40
初期感知、初期消火に対する対応を行うことが、火災の
800
木材(断面 50
40
600
100mm)
温度
41.00
木造は火災に弱い?
強度
49.94
要なことは、使用する素材の特質に応じた設計上の工夫
(財)日本住宅・木材技術センターより)
図2.建築材料の比強度(「木と日本の住まい」
3000
RC 造専用住宅
どんな建物にもいえるが、耐用年限を延ばすために重
12
耐震性・耐火性
400
鉄
20
200
アルミニウム
10
20
30
40
50
60
70
80
県産材曲げ強度の平均値は全国平均より下回るが、構造計算に使用す
る下限値は基準強度22.2N/mm2を上回っており、全く問題なく使用
可能である。
(『富山県産スギ材活用ハンドブック』より)
0
5
10
15
20
25
30
35
時間
40
分
鉄・アルミニウムは温度上昇にともない急激に強度を下げるが、木材の
強度変化は緩やかである。
13
木造建築Q&A
木造建築Q&A
快適性
維持管理
木造建築が
「人に優しい」
と言われるのはなぜか?
木造建築はメンテナンスに手が掛かるのでは?
私たちは、木の空間が、精神的にも身体的にも心地よい空間であることを経験的に知っている。その心地
よさは、木という素材のもつさまざまな特性によってもたらされている。
木材は、使われる環境によっては腐朽しやすく、塗装の耐久性でも弱点がある。あらかじめその性質を知
り、必要な対策を講じておくことで、メンテナンスの手間やコストを抑えることも可能である。
木の空間は
「休息の場所」
いにしえ
木は音を聞きやすくする
では 5 〜 10 年で塗り替えることを推奨しており、メン
悪いイメージが生じる要因
テナンスフリーという訳ではない。
古より人類は木と共に暮らしてきた。世界の古代文
病院やオフィスなど、コンクリートや石など硬い材料
国土交通省が実施した「公共建築物を対象とした木材
木材を外装に用いる場合には、足場を組まないと塗り
明が滅んだのは木を伐り尽くして森林が荒廃したことが
の内装では、音が必要以上に跳ね返り反響しすぎること
利用のためのガイドライン等検討会」の事前アンケート
替えできないような高い場所にはなるべく使用しないな
一因とも言われており、人と木は切っても切れない仲に
がある。木の内装では、ほどよい吸音効果が得られ、音
結果によると、企画段階で木造建築は、寿命が短い、メ
どの配慮をしておけば、塗り替えもそれほど負担にはな
あると言ってもよい。この人と木の親密さは言葉にも表
がまろやかになる。
ンテナンスに手間がかかる等から施設管理者に敬遠され
らないだろう。
れていて、例えば「人」が「木」に寄り添うと書いて「休
む」という漢字になり、英語で森を表す “forest” は分
木の建物は健康によい
るという回答があった。
コストの総合的な評価が必要
一般に木造建築のメンテナンスに手が掛かるという意
解すると “for + rest” となり、「休息のための場所」と
木がもつさまざまな特性により、木の家で暮らすと健
いう意味になる。
康で長生きできるといわれている。たとえば、木の湿度
木に包まれた日常は、健康的で心地よく、また年輪が
調整機能や高い断熱性により、快適な湿度・室温に保持
列する木目は美しく、暮らしに潤いをもたらすといえる。
することができるため、風邪や病気になりにくい。さら
屋外で放置されている木が腐ってボロボロになってい
いとの批判を受ける場合があるが、これは、適切な維持
に、抗菌効果のあるフィトンチッド成分が放散され空気
るのを目にする機会が多いのでそう思われやすい。実
管理が行われていない既存の鉄筋コンクリート造等によ
を浄化するとともに、人の心や体に作用し気分を爽快に
際に重量減少率が5%程度の軽い腐朽でも強度劣化は
る学校施設と比べて高いとされていることがあり、同等
夏、強い日差しが道路やビルに照り返し、目が疲れる
してくれる。木にはストレスを解消し、情緒を安定させ
50%以上になってしまう。
の基準で維持管理を実施した場合のコストで比較するべ
ことがあるが、木材は、表面にミクロ単位の細かい凹凸
る効果もある。
腐朽の原因となる木材腐朽菌は、適度の水分(湿度
きである。
があり、これにより光が散乱して反射が弱められるため、
また、木の床は疲労も少ない。コンクリートの床は硬
85%以上、木材含水率が 20%以上)がないと生きられ
また、維持管理コストは、木造あるいは鉄筋コンクリー
目にやさしく、また、やわらかな光沢と質感を生み出し
いため足や腰でまともに衝撃を受けてしまうが、木の感
ない。腐朽を防ぐためには木材の含水率を 20%以上に
ト造という構造形式よりも、内外装に使われる維持管理
ている。
触はやわらかく、衝撃を吸収する作用があるため、身体
しないこと、そのために防水や防湿および通気・通風・
に関わる仕上げ材に左右されることの方が多いことを認
への負担が少ない。
換気などで湿気の排出が必要となる。逆にいえば、設計
識すべきである。
木は目にやさしく疲れない
木は室内の湿度を調節する
識がなぜ生じるのかを考えてみよう。
建物が建てられてから壊されるまでのトータルの費用
をライフサイクルコストという。ライフサイクルコスト
木は腐りやすい?
の算出における維持管理コストは、往々にして木造が高
時にできる限りそのような配慮をしておくことで腐朽に
木造は小まめなメンテナンスが命
木は呼吸をしている。空気を吸収し、放散しながら、
対する心配は解消される。
周囲の湿度が一定になるように自動調整する能力をもっ
屋外などでどうしても水分が掛かりやすい場所には、
コンクリート造や鉄骨造では耐用年限の寿命が来たら
ている。室内の湿度が高いときは湿気を吸い込み、逆に
薬剤で防腐処理(加圧注入)をしたり、あらかじめ腐朽
解体となるが、木造では小まめなメンテナンスをするこ
乾燥しているときは水分を放出するため、蒸し暑い夏、
に強い樹種を用いるか、無理に木材を用いないで別の素
とで長寿命化が図られる。これが木造の特性である。
乾燥する冬でも、木の空間は快適である。
材を用いるなど、適材適所の対応が必要である。
木は熱を伝えにくい
木材には細胞壁がつくる無数の隙間があり、中に熱を
木は地球環境にやさしい
頻繁に塗り替えが必要?
図5.室内環境性能の維持とメンテナンス・改修
木材の保護塗料の寿命は 2 〜
伝えにくい空気がいっぱい詰まっている。そのため、身
森林は地球温暖化の原因となっている二酸化炭素
5 年程度で劣化し、色がくすんだ
体が冷えるのを抑えてくれる。床がコンクリートやビ
(CO2) の吸収源となる。伐って使えば CO2 を街に蓄え
り撥水性が低下してくるので、長
ニールタイルなどの場合、足裏の熱を奪うが、木の床で
ることになり、解体して燃やしても元に戻るだけで、石
持ちさせるためにはどうしても頻
は足裏の温度は変化しない。
油などの化石燃料のように増えることはない。また鉄や
繁に塗り替えが必要となる。ただ、
コンクリートなどの資材に比べて、製造時エネルギー消
あまり認識されていないがセメン
費量も少なく、環境負荷の少ない資材である。
ト系のサイディングでもメーカー
メンテナンス
修繕
性能
メンテナンス
改修
求められる水準
更新
新築時の水準
→ 経年
社会的寿命
物理的な許容の限界
物理的寿命
公益社団法人ロングライフビル推進協議会パンフレット「建築物を長く有効に使うために」より
14
15
木造建築Q&A
木造建築Q&A
木材の品質
建築コスト
木材の品質は安定しているのか?
木造建築はコストが高くならないか?
生物由来の木材は、品質にある程度のばらつきがある。また、乾燥が不十分な場合、反りや割れが生じるこ
ともある。公共建築物に求められる木材の品質確保の基準となるJAS規格木材について解説する。
木造建築はかならずしもコスト高になるわけではない。ただし、適正なコストで建設するためには、材料
や工法の選択や材料調達における工夫など、木造建築ならではのノウハウが必要となる。
国産材はなぜ売れなかったのか?
く使われるようになる。そんな中、建築基準法の改正や
品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)の制定
適正なコストで建てるには
他の構造とのコスト比較
国土の約7割が森林という「森林大国」日本で輸入材
などによって木材の品質に対する要求も厳しくなり、併
木造建築の場合、適正コストで性能の高いものを計画
建築物のコストは、その条件によって大きな違いがあ
が多くを占めるようになってしまったが、その原因は輸
せて製材のJASも改正され、JAS製材工場で製材さ
するためには、鉄筋コンクリート造など他の構法とは異な
る。どの構造が安いか高いかは、簡単には判断できない
入材の安さではなく、国産材では安定した品質が得られ
れた規格木材については一定の品質が保証されるように
る配慮が必要となる。
ものであるが、大まかな傾向は次の通りである。
なかったことにある。
なっている。
一般には規格の定められた工業製品を多く使うが、木
木造建築が多く分布する規模(延べ床 3,000㎡以下)
造の場合は自然素材である。従って、木造では手に入る
について、建設費と延べ床面積の関係を示した資料(図
木材に合わせて設計・施工を行うことになる。もちろん、
6)によれば、延べ床 2,000㎡程度までの比較的小規模
第二次世界大戦後、昭和 35 年頃まではあまり外材は
入っておらず、ほぼ全て国産材によって賄われていたが、
独自の要求基準が必要
旺盛な需要に供給が追いつかない状況となって木材の価
品質の保証されたJAS製材を使って建物を建てるこ
他の構法と同じように希望する仕様の材料を探すことは可
の建物については、木造の方が価格的に有利であること
格も高騰し、発注書より数量が少ない「歩切れ」や製材
とができれば申し分ないが、まだ流通量が少なく、全て
能ではあろうが、そのようなプロジェクトの進め方をする
がわかる。
品の数量の方が原木の数量を上回る「空気売り」
、梱包
をJAS製材で賄うのは困難な状況である。公開されて
と、おのずとコストが高くなる。
一方、単位面積当たりの建設費と延べ床面積の関係を
を解いただけで反ってしまうような粗悪品の販売が横行
いる最新 (H24.11.1 現在 ) のJAS製材認定工場一覧に
木造がコスト高といわれるのは、このような設計者、施
(図 7)を見れば、木造とは正反対に鉄筋コンクリート
していたようだ。
よると富山県内の認定工場は 16 社あるが、そのうち人
工者の対応による場合が多いのではないか。ともかく木造
造グループでは、面積規模が大きくなるほど単価が安く
そんな中、関税撤廃の影響により昭和 36 年頃から本
工乾燥構造用製材の認定を持っているのはまだ 3 社し
を考える場合、次の事項に配慮すれば、品質に見合った
なる傾向がある。つまり、鉄筋コンクリート造グループ
格的に外材が入ってきた。昭和 42 年に製材品のJAS
かない。
コストで建設することは十分可能である。
では、特大空間をつくる時のように、特殊な構法が必要
監理者が建物に用いる木材の要求品質を定め、適宜、品
れほど良くはなかったにもかかわらず「空気売り」のな
質検査を行いながら確認するしかない。この時、基準を
い外材にシフトしていった。以後、外材が主流の時代が
あまり高くしすぎると歩留まりが極端に悪くなり、コス
続き、昭和55年以降は木材の価格も低迷し、森林の荒
トに跳ね返ることになる。建物の使用部位に応じて厳し
廃が進んだ。
くするものとある程度緩和するものを見極める必要があ
●木材調達のタイミング
ここ最近環境問題がクローズアップされ、ようやく国
る。
長大材や大量の木材は急には揃わない。早めの
めにも調達には早めの対応が必要である。
●在来技術の活用
材品)が一般的で、
「品質が安定せず、ひび割れやそり、
地元の大工で対応できる技術で計画すると余計
変色」が出やすい状況だった。昔は、住宅を建てる場合、
熱性や気密性のない住宅がほとんどであったことなどに
より、木材の品質はそれほど大きな問題とはならなかっ
た。
しかし住宅の工業化が進み、未乾燥材の収縮や割れに
よるクレームが増えたため、品質の安定した集成材が多
設計に反映させる。
工事の原因となる、十分な乾燥材を確保するた
外材、国産材とも当時、製材はグリーン材(未乾燥製
に時間があり、その間にある程度乾燥が進むことや、断
地域で一般に流通している材種、材寸を把握し、
対応を怠るとコスト高になる。また生材は不良
木材品質に関する参考図書
JAS規格木材
木材は大工の手刻みが普通であったので、完成するまで
●無理のない材の選択
新しい製材の日本農
林規格並びに改正の
要点及び解説
わかりやすい新製材
JASの解説
安全・安心な乾燥材
の生産・利用マニュ
アル
JAS製材認定工場一覧 (社)全国木材検査・研究協会
http://www.jlira.jp/jas.html
(参考文献)
萩大陸著「国産材はなぜ売れなかったのか」(株)日本林業調査会
前田拓生著「日本における木材の需給ギャップについての考察」高崎経済大学論集第54巻
なコストはかからず、地域の経済効果や、大工
技術・技能の伝承にもつながる。
●耐久性・メンテナンス計画への配慮
建物のコストは建設コストだけではない。ライ
フサイクルコストを低く抑えることが求められ
る。
のに対し、木造ではある程度以上に規模が大きくなると
特殊な構法が必要になったり、用材の確保に難を生じた
りするため、それが工事費の増額につながるものと考え
られる。
図6.延床面積(3000m2以下)—建築費
1,200,000
RC造・S造・SRC造
1,000,000
建築費(千円)
で制定されたが、ほとんど効果がなく、外材の品質もそ
産材が見直されてきたというのが実情である。
な範囲においてはスケールメリットが顕著に表れてくる
木
造
800,000
1,200,000
RC造・S造・SRC造
600,000
1,000,000
建築費
(千円)
したがって、県産材を活用する場合は、発注者と設計・
木
400,000
造
800,000
200,000
600,000
0
400,000
0
500
1,000
1,500
2,000
2.500
2,000
2.500
3,000
延床面積(㎡)
200,000
0
600
0
500
1,000
1,500
延床面積
(㎡)
2
500
図7:延床面積(3000m
以下)—単位面積あたり建築費
単位面積当たり建築費
(千円/㎡)
単位面積当たり建築費
(千円/㎡)
(日本農林規格)が粗悪品の横行に歯止めを掛ける目的
RC造・S造・SRC造
木
3,000
造
400
600
RC造・S造・SRC造
300
500
木
200
造
400
100
300
0
200
0
500
1,000
0
500
1,000
1,500
2,000
2.500
3,000
1,500
2,000
2.500
3,000
延床面積(㎡)
100
0
延床面積
(㎡)
和歌山県農林水産部林業振興課編「和歌山県木質材料設計マニュアル(本編)」,1999
16
17
木造建築Q&A
木造建築Q&A
県産材の活用
設計・施工
木造建築に県産材を使う場合のポイントは?
設計や工事をどこに依頼すればよいのか?
県産材の利用は、地域産業を活性化させ、社会・経済に良い影響を与える。ただし、調達のタイミングが外
れたり、特殊な規格を求めたりすると、コストに跳ね返ることがある。
公共建築の木造化には、これまでとは異なる発想や仕組みが必要になる。アイデアや工夫を評価するプ
ロポーザル方式の導入などを通じて、信頼できるパートナーを選びたい。
一般流通材の把握
にかけては木が地中の水を吸う活動が盛んになり、木の
乾燥のことを考えると、伐採は水分の少ない秋から春の
思い切って新しい仕組みを創り出そう!
住宅分野から県産材活用のヒントを学ぼう!
一般的に流通している木材は流通量が多く、特殊材と
伐旬を選ぶことが重要である。
木造の公共建築でしかも県産材を活用しようとする場
住宅分野に関しては、公共建築より地域材活用の取り
比べ、比較的調達もしやすく価格や品質も安定している。
なお富山県では積雪が多いので 1 〜 2 月の伐採は難
合には、「新しいことに取り組む情熱」「県産材に対する
組みが早いので、設計や施工に関する情報もある程度得
県産材を使用する場合も、一般的に流通している断面を
しく、春の彼岸まででは短期間すぎるので 5 月の連休
知識と理解」そして「設計の工夫」が欠かせないものと
ることができる。
用いる方が価格も安く入手しやすい。特殊な断面の木材
前までが伐採期となっている。
なる。
国土交通省では、
「地域型住宅ブランド化事業」とい
を使うと一度に価格が跳ね上がるので注意が必要である。
伐採から製材、乾燥、加工で 75 日程度かかるので、
全く経験のない設計事務所や建設会社にその業務を任
う地域材を活用して長期優良住宅の建設を担うグループ
•• 製材品は巾 120mm× 成 360mm× 長さ4m までのもの
を活用する。
(一般の原木は長さ4mで伐採される)
それを見越して建物の完成時期を定める必要がある。も
せた場合、スムーズに計画・建設が進まず、後々不具合
が地域材の住宅を建設する際に補助金を支給する制度を
し、伐採からの調達が工程的に難しいようなら、市場に
が出ることにつながりかねない。そうならないようにす
創設し、動き始めている。現在、県内には 8 つのグルー
•• 3m以下の部材は、3mの原木から製材する方がコス
トダウンになる。
ある原木から製材が可能か調べ、無理であれば県産材で
るためには経験豊富な設計事務所や建設会社に依頼する
プが認定されている。
•• 乾燥機に入る最大長さを調べておく。
はなく流通している国産材の活用を考える方が良いと思
のが一番、と思われるかも知れないが、公共建築の木造
富山県でも地元の木を使った住宅建築を推進する目的
われる。
化への取り組みは始まったばかりであり、十分な実績を
で、県民に県産材の利用についての情報提供、アドバイ
なお、この状況は刻々改善されているので、常日頃か
持つ会社は探してもなかなか見つからないのが現状であ
スを行う「とやま県産材アドバイザー」を養成して認定
ら情報収集に務めることが大切である。
る。
している。「とやま県産材アドバイザー」のリストは富
従来は、どこの会社に依頼しても同じものが出来あが
山県のホームページに公開されている。
るという発想で入札を行い、一番値段の低い事業者に設
また、(財)日本住宅・木材技術センターや木構造振
木材は工業製品と異なり、節の有無や個々の色の違い
計や工事を任せることが通常であった。今までやってき
興株式会社のホームページでも地域材に取り組んでいる
等ばらつきがある。見た目のきれいな材は目に付く場所
たことをただ繰り返すだけであれば、たいへん合理的・
会社のリストがあるので、参考にするとよい。
県産材の利用においては、入手ルートと納材期間を把
の仕上げに活用し、端材は下地に活用するなど、木材を
経済的な仕組みであり、公共事業には必要なことだった
握して無理のない工程を組むこと、そして、県産材であ
適材適所で使い分けることにより、製材時の歩留まりが
ことかも知れない。
るスギの良さと欠点を理解して適材適所で用いることが
よくなり、コストを抑えることが可能となる。
しかし、公共建築の木造化という今までやったことが
せい
•• 集成材は、コスト高となる場合があるので適材適所で
使用する
•• 4寸角柱等流通している低価格の国産材を無理に県産
材に置き換えない。
材料調達にあわせた無理のない工期
ポイントとなる。
県産材は在庫できるシステムがまだ十分整っていない
木材の有効活用を心掛ける
木材関係業者・施工業者の特徴の情報収集
ないことをやろうとする場合には、これまでと同じ発想
と対応では様々な障害が想定されるため、発注の仕組み
ため、原木から調達するケースが多いと思われる。原木
木材調達には、製材業者、集成材工場、木材卸業者、
から見直すことが必要になる。
の伐採には伐旬という伐採に適した時期があり、秋のお
プレカット業者等様々な専門業者が関係するが、それぞ
解決するひとつの案としては、発注に際して設計に取
彼岸から春のお彼岸までの期間を指している。春から秋
れ取扱う材料の寸法、量、樹種(品目)等、専門分野が
り組む姿勢やアイデア・工夫を評価して「人」を選定す
異なっている。施工業者においても木造建築の得意・不
るプロポーザル方式の導入が効果的ではないだろうか。
得意がある。計画着手前には十分情報収集を行い、無理
やる気のある事業者を選定し、かつ発注者と受注者とい
のない業者選定を心掛けるとともに常に最新の情報を把
う上下関係で進めるのではなく、ひとつのチームとして
握することが重要である。
困難を克服し壁を乗り越えていこうとする体制を築くこ
きりしゅん
図8.木構造 建方までのフロー図
とが極めて大切になると思われる。
表2:公共建築の木造化に関わる団体等
富山県森林組合連合会
森づくりを担う団体…
木材共販情報
富山県木材組合連合会
木材関連企業組織団体
富山県建築組合連合会
大工さんの組織団体
富山県建設業協会
建設会社の組織団体
職藝学院
大工さん等職人を育てる専門学校
社団法人…
富山県建築士事務所協会
建築士事務所の組織団体
富山県…
建築設計監理協同組合
公共建築等の設計団体組織…
本マニュアルの編集担当
(参考文献)
「大規模木造公共施設の建築にかかる低コストマニュアル・事例集」岐阜県林
政部県産材流通課
18
「信州の木」木質構造建築工事特記仕様書の解説
信州の木・公共の建物づくり推進委員会より
19
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手引き 第二章 木造建築Q&A