南台應用日語學報 第 4 號 2004.6
台語中的日語借詞
陳 麗君
摘要
語言系統不同的雙語環境(diglossia)中‚通常強勢語言會影響弱勢語言。通
過了半個世紀對台的統治‚強勢語言的日語對台灣各語言造成的干涉(interference)
已不可同日而語。然而‚在日語和台語的語言接觸(language contact)過程中‚我們
看到台語中之日語借詞的新生‚其發展變化出與日語不同的風貌。日語借詞在詞
意上產生轉換(shift) ‚在音聲音韻上以及形態系統上則被台語融合。在音聲音韻
的轉化現象中‚從子音來看‚可觀察出日語的/r//d/對應於借詞的/l/的規則性以及
借詞子音的有氣音化/-h-/和發生入聲喉音(golttal)/-ʔ/的現象。借詞的母音上‚則因
日語和台語在音節和拍構造之不同‚而產生母音連合及長音・特殊拍等音消失而
造成音節縮短的現象。另外在重音系統上‚我們發現某些日語借詞之規則性特徵
和日本鹿兒島方言的系統不謀而合。最後‚本文並透過社會語言調查受同化的日
語借詞的生態。發現這些經過約 50 年放逐後的日語借詞在當地社會仍占有超過
70%的高使用及認識率。
關鍵詞: 詞彙借用、轉換、音聲音韻、音節和拍、詞意轉換
Lexical Borrowing from Japanese
in Taiwanese
Tan, Le-kun
南台應用日語學報 第 4 號 2004.6
台湾閩南語における日本語からの借用語
陳 麗君
1.はじめに
台湾人の日常生活では次のような台湾語による会話が考えられる。
A:Eng-am kan-beh lai khi kalaoke chhio-koa?
(今晩カラオケに行く?)
B:Ho a. Cheng chit-cham-a sin khui chit-keng 超人氣 e tiam, lai
khoaN mai e.
(いいね。最近あたらしくオープンした人気の店に、行って見よう。)
A:An-ne, lak-tiam hia chhuh-fat. Goa khia otobai lai.
)
(じゃ、六時ころに出発。バイクで行こう。
B:Ho・ho. Goa seng-soa ai lai kin-hang khao-cho nia koa chiN e.
)
(そうだね。ちょっと銀行よって口座からお金を下ろしてくよ。
しかし、上述したような日常会話に限らず、台湾に旅行した経験がある人な
ら新聞やチラシのキャッチフレーズ、街中の看板とありとあらゆるところで
日本語の借用語が溢れていることに気がつくのであろう。日本語からの借用
語は口語表現から書面的なものにまで根強く台湾に浸透していたのである。
言語系統が違う二重言語(diglossia)において、優勢言語は劣勢言語に強い影
響を与える。1895 年から 1945 年までの植民時代を通じて、日本語は台湾の
言語にいかに干渉を引き起こしたのか。また、長時間の言語接触により異系
統の言語同士であっても、語彙の借用のみならず、文法現象まで類似してく
るといった言語連合(sprachbund)の現象も起こりうる。最終的に密接借用
という言語取替えにいたることもある。日本語が台湾語にもたらした影響に
ついて台湾の言語学第一人者呉守礼(1946)によれば、
「知識人はほとんど台湾
語を使うが、語彙の中には数多くの日本語の単語と語法が混入していた。ほ
とんどの中年者が日本語の読み書きができ、また日本教育を受けたために、
日本語で物事を考えるようになった。…台湾語の根本は揺れがなかったが、
細かなところで変化した。さらに、若年層では日本語ができるだけでなく、
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台湾語ができないものさえおり、実質的に日本語から脱却しにくい年齢層(筆
者訳)
」なのである。勿論、日本語の影響は台湾人口の 73%1の母語である台
湾語のみならず、山間部の閉鎖的な空間にある少数原住民の南島語族にもっ
とも強い言語干渉が引き起こされていたと思われ、基本語彙まで日本語に取
り替えられていることも観察された。
本稿は台湾語において、日本語との言語接触の結果生じた日本語の語彙の
借用について音声・音韻、形態の変容およびその使用を考察するものである。
2.先行研究
2.1 張良澤(1983)
台湾の「模範国語家庭2」に生まれ、終戦(6 歳)までは日本語しか話せな
かった張良澤(1983)によれば、終戦を迎えた台湾人は単に日本国籍を中国
国籍に変えただけで、社会的構成は何の変わりもなく、ただ内容を入れ替え
られたに過ぎないと述べた。また、
「国語」という言葉も「国語」そのままで、
ただ中身の日本語を中国語(北京語)に入れ替えただけであり、
「国語教育政
策」の「内地延長」を「大陸延長」にした程度のものである。このように、
台湾は 1945 年に日本の植民地から「光復」したものの、社会的構成と国語の
教育政策に変化が見られなかったために、当時の人にとっては「殖民の延長」
というギャップも感じ得るのである。
このような歴史背景を持つ張良澤(1983)は日本語彙という言語使用は年
齢・教養・職業によって異なることに意識ながら、内省によって「台湾に生
き残った日本語」分類別リストを 222 語挙げ、語彙を四種類に分けた。
(ロー
マ字表記は原著のままで表示する。
)
A 日本語の漢字を台湾語で発音するもの。例えば、 阿片/A pen/、万年筆
/Ban en pit/、勉強/Ben kion/ などである。
B 日本語をそのまま発音するが、アクセントの強弱や語尾に増減があるも
の。例えば、亜鉛/A en/、油揚げ/A bu lage/、挨拶/Ai sa zu/ などである。
1黄宣範(1995)は、台湾各語族の人口はそれぞれ閩南人
73.3%、外省人 13%、客家人 12%お
よび原住民 1.7%と見積もっている。
2台湾総督府は「国語」を普及させるために、台湾人家庭内で日本への理解と日本語の使用があ
る程度に達した家庭に対し、
「模範国語家庭」という賞状を出す制度を 1937 年から始めた。
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C 日本語の外来語をそのまま発音するもの。アクセントの強弱の差が多少
ある。例えば、アイロン/Ai lon/、アイスクリーム/Ais kulimu/、赤チン
キ/Aka zin ki/などである。
D 語源は明らかに日本語にあるが、偶々中国語にも同じ発音をするか同じ
漢字を使うもの。例えば、後任/Au jim/、手下/Chiu e/、手続/Chiu siok/
などである。
このリストのうち、アイスクリームや赤チンキなどの現在使われていない
語彙も見られる。しかし、借用語であるかどうかといった語彙判断の妥当性
と普遍性は別として、台湾語に入った語彙を統計した結果、社会生活・教育
活動や娯楽という類がもっとも多かったという結論は一見妥当であろう。つ
まり、その時代の基礎語彙以外である上位的で、新しいものを多く借用する
ことには疑いがないようと思われる。
2.2 村上嘉英(1986)
当初、日本による台湾の植民地経営は柔軟性を持ち、台湾語を学習しなが
ら日本語教育を推し進めようとしたが、日本語の普及は決して成功とは言え
なかった。しかし、1919 年以後「皇民化政策」をはじめ、積極的同化政策を
進んだ結果、1942 年になると普及率は 58%にまで上った。このような背景の
下で、日本語の語彙が大量に台湾語に入った。これらの外来語は 1945 年から
国民党の「国語」政策で消えたものもあるが、いまでも使われているものも
少なくない。村上(1986)は日本語からの借用語を 114 語集め、三種類に分
けた。
(ローマ字表記は原著のままで表示する。
)
A 日本語を音訳して台湾の外来語になったもの。日本語の外来語もこの類
に属す。例えば、朝顔/a-sa-ga-oh/、羊羹/io-kang/、気持ち/khi-mo・-chih/
などである。
B 日本語の漢字を閩南語で発音し、現代北京語にも見られるもの。例えば、
暗室/am-sek/、目標/bok-phiao/ 、政治/cheng-ti/ などである。
C 日本語の漢字を閩南語で発音し、北京語には見られないもの。例えば、
愛嬌/ai-kiau/、目薬/bak-ioh/ 、勉強/bian-kiong/ などである。
さらに、彼は両言語の音韻系統の違いによって台湾語に変容した日本語に
ついて、半濁音や最初の音節の清音が有気音化や長音の脱落および拗音の母
音連合などの音韻現象をも指摘した。
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このほかにも蔡茂豊(1969)と陳山龍(1973)など、日本語からの借用語
を精力的に数多く取り上げたものがある。
3.研究方法と調査概要
かつて 50 年間にわたって威光言語(prestige language)であり、ある程度普
及された日本語は次の政権言語に取り替えられて拭き取ろうとされたとき死
語となるものもあれば、ホスト社会の台湾諸言語に根強く入り組んだものも
ある。しかし、これまでの先行研究には、筆者の内省による借用語の紹介が
主であり、台湾における日本からの借用語の実際の様相とその使用の普遍性
について追求することは皆無といえる。本研究は共時的に台湾語3に入った日
本語からの借用語の形態・意味・音声的な面を考察し、さらに社会言語学的
観点から借用語の使用に焦点を当てるものである。このような方法で、言語
接触における言語干渉の程度と時間的な推移との関係といった、タイポロジ
ー研究の一例として役に立てればと考えている。
筆者が行った 1998 年 8 月の調査では、現在使用頻度が高いと思われる日本
語からの借用語彙 85 語を挙げ、台南県の住民を中心に無作為抽出でアンケー
トを行った。調査内容は借用語の使用意識を中心としたものである。また、
漢字を持っていない借用語をローマ字表音で記述するため、ローマ字に馴染
んでいないほとんどのインフォーマントを一人ずつ訪問する必要があるため
調査人数が 226 名に止まった。
4.借用語の形態
現在台湾語の表記には正書法がなく、教会ローマ字4、TLPA、漢字表記、
漢字ローマ字混じりなど多様な表記法がある。本稿ではもっとも実績のある
3本文で台湾語とは閩南語を指すものである。
多言語共存の台湾では、閩南語をはじめ、客家語、
南島諸語など、終戦まで台湾で使用されていた各語族の母語をすべて台湾語として認定すべ
きだという議論も後を絶たない。台湾では 70%以上の人口を占めた閩南人の母語は大陸の泉
州・漳州から来た一種であるが、多少変化を受けており、ここでは一般的な呼称にしたがい、
台湾語と称することにする。
4教会ローマ字はもともと百年ほど前にキリスト教宣教師が伝道のために考え出したものであ
る。これまでに数多くの言語学者の提案と修正が加えられ、文学作品や台湾語研究などに広
く使われている。
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教会ローマ字を採用し、台湾語や台湾中国語(以下中国語と略す)の音節間
を[-]で区切る。日本語には音節とモーラの二通りの規則があるので、あえて
示さなかった。
4.1 混種語(loan blend)
(1) 「和語+台湾語」
/khi-mo/ : /khi-mo-bai/ ; /khi-mo-giaN/
/khi-mo/ は日本語の「気持ち」から語尾のち/ci/が省かれ、語形変化をした
ものであり、日本語と同じく気分・心地を意味する。これがさらに台湾語の
形 容 詞 /bai/ や 擬 態 語 の /giaN/ と 結 び つ け た も の は /khi-mo-bai/ と
/khi-mo-giaN/ で あ る 。 /bai/ は 悪 い ・ よ く な い ・ 醜 い と い う 意 味 で 、
/khi-mo-bai/ は気分が悪い・心地が悪い・不愉快といった意味で用いられて
いる。また、/giaN/ という形態が単独に用いられることはほとんどなく、明
るく響くという意味合いを持つもので、/khi-mo-giaN/ は気分上々・愉快な
気分を表すことばとして用いられている。
(2)新生語
「和語+外来語」
/a-ta-ma-khong-ku-li/ ; /a-ta-ma-sho-to/
/a-ta-ma-khong-ku-li/は和語「あたま」と外来語「コンクリート」を結びつけ
た混種語である。この語は台湾語と日本語の音韻体系が異なるため、コンク
リートの長音が省かれ、さらに語尾の/to/ が落ちたものである。固まったコ
ンクリートは硬くて中身がないことから転じて人間が硬く、あたまが悪いと
いう意味で用いられている。/a-ta-ma-sio-to/ も似た意味合いで用いられてお
り、和語の「あたま」と外来語の「ショート」から成るものである。人間の
思考回路は電気回路のヒューズが飛ぶようなことが起きたとの比喩である。
台湾語に長音がないため、/sio-to/は省略された語形である。
4.2 翻訳借用(loan translation)
(1) 日本語の漢字を台湾語読みにするもの
日本語の漢字を台湾語読みにするものには、出張/chut-tioN/、便所
/pen-so/、注文/chu-bun/、悪質/ok-chit/、感心/kam-sin/といったようなも
のがある。また、日本語の漢字が台湾語読みで借用された(一次借用)あ
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と、さらに中国語にも借用された(二次借用)ものもある。たとえば、人
5
・/fang-song/
気/jin-khi/(台湾語)
・/ren-chi/(中国語)
、放送/hong-sang/(台)
(中)
、欝/ut-chut/(台)
・/yü-cu/(中)といったタイプのものである。
(2) 日本語の漢字を中国語読みにするもの
中国語の普及とともに、日本語の漢字が台湾語読みから中国語読みの借
用に変わってきた。たとえば、日本語暴走族/pao-cou-cu/、工房/kong-fang/、
物語/wu-yü/というように中国語読みの借用は近年になってとりわけ若者
の日本ブームの流れに乗って増えつつある6。また、漢字のないものが意訳
と音訳の両方導入されたものとして、ドラえもんが挙げられる。初期の「小
叮噹」 /shiao-din-dang/は中国語意訳で、その後音訳の「哆來 A 夢」
/duo-lai-ei-mong/という当て字の訳語に取り替えられている。
(3) 日本語の発音を借用するもの(外来語)
日本語と台湾語との言語接触の結果、日本語の語彙が受け入れ言語であ
る台湾語へ移転され、音声音韻的に統合が行われているものが観察された。
この類の借用は外来語が多かったが、和語も観察される。たとえば外来語
のライターを/lai-ta/、ラジオを/la-ji-oh/、オートバイを/o-to-bai/
と発音
し、台湾語の音韻系統に統合された。和語としては、おしぼり/o-si-mo-li/、
りんご/ling-go/などが挙げられる。以上台湾語に入ったこれらの日本語の借
用には音節の短縮や/l//r/をめぐる音声移転などが見られ、このような音声
音韻のゆれに関したものをまとめて 6 節で扱う。
また、混種語での形態的な統合と音声音韻的な移転といった現象のほか
にも、借用シフト(loan shift)が観察された。即ち、借用語の意味範囲が拡
大あるいは縮小するような意味の変化が起こったものもあった。こういっ
た意味のずれに関するものはまとめて次節で述べる。
5.意味のずれ
5「放送」は日本語では「一般公衆による無線通信」という意味であるが、台湾語に借用される
と「あっちこっちに噂をする」といった意味になる。ただし、中国語読みの場合、日本語と
同じ意味で用いられる。
6日本の明治維新後、欧米文明との接触から大量に作られた新製漢字の多くが中国語に取り入れ
られた。これは「語彙の近代化」と呼ばれた急速な語彙の変動である。
「政治」
「社会」
「科学」
「化学」
「方針」などといったものは、今では中国語の基層に入っている。しかし、現在の日
本語の新しい語彙はカタカナで表記される外来語が多いので、漢字だけの中国語には借用さ
れにくい。仮に借用されるとしても、単語の統合さらに共用といったレベルには至らない。
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西尾(1988)によれば、言語の意味体系には中心的な部分と周辺的な要素が
あるとし、前者は事実認識的、対象指示的な性質のものである場合が多い。
そこから、語の多義性と意味の多変性が窺える。借用語を見てみると、原語
の原義からその中心となる一義か二義かだけを借用したものが多い。ホスト
社会の言語に浸透しやすい外来のことばとしては、新しい概念や科学用語や
道具などであり、その時代と過程を反映することができるものであろう。つ
まり、その時代にホスト言語に取り入れたことばは、その時代に必要とされ、
時代に合ったものである。また、言語共同体の異なるグループではそれぞれ
が取り入れる用語も意味も違ってくるだろう。工業関係者と商業関係者では、
それぞれの専門語彙に関する借用語は明らかに違っている。このような言葉
の中には、時代遅れになって淘汰され、死語になったものもあれば、語のう
ちの一義だけ取り残されて用いられているものもある。現存する日本語から
の借用語には借用シフト(loan shift)が多く見られ、そのほとんどは意味範囲
が縮小したものであり、さらに原語の意味から派生して原義とずれてしまう
ものもある。以下の意味考察では、日本語は主に『広辞苑第五版』を参考に
し、台湾語における借用語は辞書に載ってないのが多いため、教示者による
ものをまとめた。
5.1 意味の縮小
日本語
本来の意味
台湾語
言語シフト後の意味
休憩
仕事や運動を一時やめ /khiu-khe/
賓館(日本のラブホテ
て休むこと。
ルのようなところ)で
2、3 時間休むこと。
新聞
新しく聞いた話。新しい /sin-bun/
現在では社会の新しい
知らせ。新しい見聞。ニ /sin-wen/( 中 出来事あるいは時事問
ュース。新聞紙の略。
国語)
題などについての知ら
せ。報道。日本語のニ
ュースに当たる。
天ぷら
①揚げ物料理の一つ。麦 /tian-pu-la/
薩摩揚げに近い。普通
粉を衣にするのが特徴。 (中国語)
煮て食べる。
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②関西で、薩摩揚げの
称。…
あそび
①あそぶこと。②……⑧ /a-so-bi/
機械の部分と部分とが
機械の部分と部分とが
密着せず、その間にあ
密着せず、その間にある
る程度動きうる余裕の
程度動きうる余裕のあ
あること。
ること。
おばさん
伯母さん。叔母さん。
/o-ba-sang/
中年以上のよその女性
を親しんで呼ぶ語。
ドライバ ①自動車の運転者。②ね /lo-lai-ba/
ー
じ回し…。
バック
①背。背中。後姿。②背 /bak-khu/
ねじ回し。
車を後退させること。
景。背後。③後ろへ進む
こと。…
セット
①撮影や舞台のための /siet-to/
髪の形を整えること。
建物。配置。②組。一揃
い。③髪の形を整えるこ
と。
サック
①その中に差し込んだ /sak-khu/
コンドームのこと
ものを保護する袋状の
もの。指サック。②コン
ドーム。
5.2 意味のずれ
日本語
本来の意味
放送
一般公衆によって直接 /hong-sang/
あちこちを回って、人
受信されることを目的
の噂をすることの比
とした無線通信。
喩。
①しつこくない、さっぱ /a-sa-li/
人の性格の比喩として
り、淡白なさま。②物事
のみ用いられる。切符
が簡単に行われるさま。
がよいこと。
あっさり
台湾語
言語シフト後の意味
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脱線
①汽車や電車などの車 /tuat-suaN/
性格や行動の比喩。そ
輪が線路から外れるこ
そっかしくて、不注意
と。②比喩的に、話や行
である。不精なこと。
動がよこみちにそれる
こと。
ハイカラ
①西洋風を気取ったり、 /hai-kah-la/
おしゃれな服装、スー
流行を追ったりするこ
ツなどのような正式な
と。また、その人。②日
服装をするときの男性
本髪に対する西洋風の
のある特定の髪型。一
婦人の束髪。
般的に、髪を七三に分
けること。
6. 音声音韻のゆれ
日本語と台湾語は異なる音韻系統を持つことは言うまでもないが、日本語
の発音を借用した借用語は台湾語の音声音韻にほぼ統合されていると言える。
日本語の音素は 13 個であるのに対して、台湾語の音素は 22 個であり、また
同じ音素表記でも異音(allophone)があるために借用語の音声が細分化されて
いる。以下、台湾語に入った日本語の借用語における音声的なゆれのいくつ
かを考察する。
6.1 子音
(1) 日本語/d/, /r/→借用語/l/
台湾語の音韻系統には/t/と/d/の区別がないが、歯茎音には破裂音の/t/と/th/
といった無気音と有気音およびやや破裂が加わった舌先音の/l/があり、それ
ぞれは日本語の/d/と/t/と/r/ と対応している。つまり、日本語のラ行と/d/は/l/
に、/t/は/th/に移転する傾向が見られる。
日本語
借用語
おでん/oden/
/o-len/
ドライバー/dolaiba/
/lo-lai-ba/
ラジオ/razio/
/la-ji-oh/
ホテル/hoteru/
/ho-the-lu/
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(2) 有気音化/p/, /t/, /k/→/ph/, /th/, /kh/
借用語の語頭にある無声音/p/, /t/, /k/は有気音化する現象がよく見られる。
また、語尾にある/k/は有気音になることも考察される。
日本語
借用語
気持ち/kimoci/
/khi-mo-chhih/
休憩/kyukei/
/khiu-khe/
パンク/pangku/
/phang-khu/
トラック/torakku/
/tho-la-khuh/
コンクリート/kongkuliito/
/ khong-ku-li /
バック/bakku/
/bah-khu/
(3) 入声化/-ʔ/
台湾語には日本語にない声門閉鎖音/-ʔ/があり、早く短く発音されるもので
ある。一般的に語尾の韻母が/-mʔ/ /-nʔ/ /-ngʔ/ /-φʔ/といった入声化なものそ
れぞれは実際/-p/ /-t/ /-k/ /-h/と発音され、四種類が区別されている。例えば、
日本語
借用語
ハイカラ/haikara/
/hai-kah-la/
トラック/torakku/
/tho-la-khuh/
ラジオ/razio/
/la-ji-oh/
ワイシャッツ/waisyattu/
/oai-sia-chuh/
欝/ucu/
/ut-cut/
以上のように、借用語の子音のゆれは、基本的には二言語の音韻系統が異
なることによって起こる。しかし、相補分布(complementary distribution)
の混用によって起こるゆれもある。
日本語
借用語
味噌/miso/
/mi-so/ ; /bi-so/
おしぼり/osibori/
/o-si-mo-li/
上記の例は相補分布の[b]:[m]による混用だと考えられる。また、日本語母音
の[o]を[ə]と発音されたものも見られた。たとえば、日本語のあそび[asobi]は
[a-sə-bi]、味噌[miso]は[bi-sə]と発音されていた。しかし、台湾語方言でも[o]
と[ə]との差異が見られるので、借用語も方言差によるという可能性も考えら
れる。
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6.2 母音と拍
音節とは母音を中心とした発音上のひとまとまりのことである。そして、
一個の母音または二重母音が音節の中核になり、その前後に子音がついてま
とまりを作る。しかし、日本語の場合、音節という単位とは別に時間的単位
として拍あるいはモーラの単位が認められる。この拍あるいはモーラの単位
では、
「撥音(はねる音 N)
」や「促音(つまる音 Q)
」それ自体が一つの拍あ
るいはモーラと認められ、これを特殊拍と言う。また、日本語の音節のうち、
中核の母音と半母音それぞれは一個の単母音で、音節は単音「子音」
「半母音」
「母音」を結合するものであるという特徴がある。一方、台湾語の音韻は、
拍という単位が存在しないし、音節は一つの子音に最高三つまで母音を結合
できる構造となっている。したがって、借用語の音節に関するゆれは、台湾
語と日本語における音節と拍にずれがあること、そして台湾語の子音に結合
できる母音の数が日本語より多いことによって起こる。以下日本語の/-/区切
り記号は拍で計算するものである。
(1) 日本語の単母音二つの二音節が借用語では二重母音一音節になる
日本語は単母音で一つの音節になるが、台湾語は子音と最高三つの母音と
結合して一つの音節になる。したがって、子音と子音の間に二つか三つの単
母音が連続した場合、それが連合して二重、三重母音になりやすい。その結
果、日本語より借用語の音節が一つ分か二つ分短縮することになってしまう。
また、日本語の拗音「子音+/ya/, /yu/, /yo/」の/y/が/i/になり、借用語では「子
音+/ia/ /iu/ //io/」となるが、音節の数は変わらない。
日本語
借用語
ネクタイ/ne-ku-ta-i/
/ne-khu-tai/
ワイシャツ/wa-i-sya-cu/
/oai-sia-cu/
ハイヒール/ha-i-hi-i-ru/
/hai-hi-lu/
(2) 長音の脱落
台湾語には長音という音数律の規定がなく、また同じ母音を二遍繰り返し
ても二音節にはならないため、借用語においては日本語の長音という拍が脱
落する現象が起きる。
日本語
借用語
オートバイ/o-o-to-bai/
/o-to-bai/
ビール/bi-i-ru/
/bi-lu/
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ギター/gi-ta-a/
/gi-ta/
ライター/rai-ta-a/
/lai-ta/
モーター/mo-o-ta-a/
/mo-ta/
(3) 撥音・促音音節に見られた拍の短縮/N/ /Q/→/φ/
台湾語に入った借用語は日本語のように撥音と促音独自で一拍になること
はなくなり、前音節と結合した撥音は/ng/ /n/や鼻音化の/N/に、促音は声門音
/ʔ/尾音(final)になる。
日本語
借用語
こんにゃく/ko-N-nia-ku/
/khon-nia-kuh/
おにんぎょう/o-ni-N-gio-u/
/o-nin-gio/
姉さん/ne-e-sa-N/
/ne-sang/
バック/ba-Q-u/
/bak-khu/
村上(1986)では、台湾語に「拗音」がないために
おにんぎょう
は
o-nin-gio 、つまり拗音を複合母音にした、と指摘している。しかし、この
指摘だけでは借用語における撥音や促音に見られた拍の脱落を説明すること
ができないは自明である。
6.3 アクセント
日本語と台湾語とも高低アクセントの言語であるが、日本語は「単語アク
セント」であるのに対して台湾語は「音節アクセント」である。台湾語化し
た借用語のアクセントは後ろから二つ目の拍にアクセントを置くという規則
があると言われている。しかし、前述したように台湾語は典型的な音節の声
調言語であるため、日本語のように一字一拍にならない。借用語を考察する
と、音節の末尾から二番目だけ高いものと、末尾だけ高いものとの二つの型
のアクセントが見られた。
(1)末尾から二番目だけ高いもの
日本語
借用語
たたみ/○●●/
/tha-tha-mi//○●○/
せびろ/○●●/
/se-bi-lo//○●○/
仕上げ/○●●/
/si-a-ge//○●○/
りんご/○●●/
/ling-go//●○/
おばさん/○●●●/
/o-ba-sang//○●○/
南台應用日語學報 第 4 號 2004.6
さよなら/○●●●/
/sai-io-na-la//○○●○/
ハイカラ/○●●●/
/hai-ka-la//○●○/
カタログ/○●●●/
/kha-ta-lo-gu//○○●○/
ワイシャツ/○●●●/
/oai-siet-cuh//○●○/
カメラ/●○○/
/kha-me-la//○●○/
ラジオ/●○○/
/la-ji-oh//○●○/
トマト/●○○/
/tho-ma-to//○●○/
サービス/●○○○/
/sa-bi-su//○●○/
おしぼり/○●○○/
/o-si-mo-li//○○●○/
あんない(案内)/○○●○/
/an-nai//●○/
(2)末尾だけ高いもの
日本語
借用語
きゅうけい(休憩)/○●●●/ /khiu-khe//○●/
ようざい(溶剤)/○●●●/
/iou-zai//○●/
ネクタイ/●○○○/
/ne-khuk-tai//○○●/
いちばん(一番)/○●○○/
/i-chi-pang//○○●/
オートバイ/○○●○○/
/o-to-bai//○○●/
これらの借用語は驚くほど日本の鹿児島式アクセントと一致している。鹿
児島方言では、促音、撥音、連母音の後部などの特殊音は一拍分の独立性が
―――
―――
――
(重い)
、
「コンバン」
(今晩)は/○●/という末尾高型、
「ア
なく、
「オモイ」
――
カイ」(赤い)、
「フジサン」(富士山)は/●○//○●○/で末尾から二番目高
型という法則になっている。日本植民地時代に徴集された国語教師は、九州、
四国出身者が多かったという記録もあった。したがって、借用語のアクセン
トの規則性から、日本語からの借用語のアクセントと現代東京アクセントと
が異なりを見せているのは、言語接触で台湾語に統合されたというよりも、
借用先が原因なのではないか。
7. 社会言語学的な側面
今回行った調査では、実際に借用語がどれほど使われているのか、どれほ
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ど理解されているのか、また使っているときに意識しているかどうかという
言語使用面について調べてみた。しかし、このような聞き取りのアンケート
調査結果はあくまでもインフォーマントの言語意識であることに注意してほ
しい。
7.1 調査語彙
調査語彙は 85 語で、インフォーマントが漢字へ頼る傾向があることを予測
し、調査の便宜上調査票における語彙分類を漢字のあるものとないものに分
けた。漢字のあるものは以下の 48 語である。
「人気」
「看板」
「瓦斯」「味噌」
「寿司」
「鬱卒(うつ)
」
「出張」「便所」「見本」「同窓」
「注射」
「口座」
「放送」
「元気」「注文」「板金」
「脱線」
「中古車」
「悪質」
「寝台(−車)
」
「仲介」
「顧
問」
「水準」
「一等」
「組合」
「組立」
「先生」
「都合」「感心」「寄付」
「万年筆」
「長身」
「手形」
「案内」
「鉄板焼」
「黒輪(おでん)
」
「喫煙」
「喫茶」
「定食」
「物
語」「暴走族」「阿信(おしん)
」
「小叮噹(ドラえもん)」
「工房」
「懸念」
「白書」
「不倫」「忘年会」。これらは台湾語発音のものがほとんどであったが、中に
は中国語発音のもの、台湾語と中国語両方の発音を持つものもあった。漢字
表記を持たないものは以下の 37 語である。
「いちばん」
「カタログ」
「おしぼ
り」「ライター」「ラジオ」
「ドライバー」
「モーター」
「オートバイ」
「バック」
「ノークラッチ」「バス」「ポンプ」「バンパー」「トラック」「ゴルフ」「トマ
ト」
「ビール」
「バター」
「りんご」
「ワイシャツ」
「ネクタイ」
「せびろ」
「ブラ
ジャー」「シンナー」「ようざい」「あなた」「さよなら」「マッサージ」「セッ
「ハイカラ」
「あっさり」「プ
ト」
「オールバック」
「ワンピース」
「ツーピース」
ロ」「仕上げ」
「ちゃち」
。
各語の使用度および使用者の意識を調べるために、インフォーマントに次
の質問をした。
「質問 1:次の単語の認識度について、一番適切な答えを選んでください。
」
(例)看板 a 知らない b 知っている上で使う c 聞いたことがあるがよく知
らない
もしあなたの答えが b 知っている上で使う であれば、引き続き質問 2 に
答えてください。
「質問 2:この単語は日本語から借用した単語であることを知っていますか。
a 知らない b 知っている」
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7.2 調査結果
日本語からの借用語について、「知っている上で使う」が約 71%で多数を
占めており、その次は「知らない」の約 23%であった。「聞いたことがある
がよく知らない」は約 6%しかなかった。また、これらの単語は日本語からの
ことばということを知っているのは全体の約 60%ほどであった。さらに年齢
別で見ると、借用語を知っている上で使うのは、40 歳以上が 78%を占めてお
り、その次は 20 歳以上 40 歳未満が 73%、20 歳以下が 57%であった。
この調査から、戦後の一時期日本語の使用が禁じられていたにも関わらず、
現在でも使われている借用語が少なくないことが明らかになった。ただし、
年齢層が下がるにつれ、借用語の使用は少なってきている。このことは、植
民地時代に台湾語に入った借用語が、今後どんどん新語に入れ替わって行く
可能性を示しているのではないかと思われる。
しかし、社会言語学的に借用語の使用とその状態を考察するとき、語彙の
時代への適応性と語彙の素性との関係といった顕在的な要素のほかにも、潜
在的な要素としてインフォーマントのコード使用との関わりも看過できない。
つまり、若者の間で母語である台湾語というコードが用いられていない限り、
台湾語に入った借用語を使えるはずがない。実際、戦後台湾に敗走してきた
国民党政府が実施した各種方言を排除する「国語」政策が効果をあげ、母語
を知らない若者も増えてきた。基礎調査のデータでは中国語を主要使用言語
とするインフォーマントは 20 歳以下の数が目立っている。したがって、この
ような言語状況も借用語の使用に反映しているのではないか。
8. おわりに
以上、台湾語に入った日本語からの借用語は日本語と意味・音声音韻・形
態において異なる点が見られ、さらに借用語の使用はやや高い傾向にあるこ
とも明らかになった。借用語には意味範囲の縮小や意味のずれといった借用
シフトが見られた。音声音韻の統合は、子音においては、日本語のラ行と/d/
は借用語では/l/に、日本語の/t/は借用語では/th/に対応する傾向が見られた。
また借用語の有気音化/-h-/と入声化/-ʔ/といった現象が考察された。母音にお
いては、日本語と台湾語における音節と拍のゆれで母音連合、長音・特殊音
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拍の脱落といった傾向があった。そのうえ、借用語のアクセントは鹿児島方
言のそれと一致していることが明らかになった。さらに、借用語の普及度に
ついてアンケート調査した結果、一見 71%とやや高い使用度であった。しか
し、年齢層が下がるにつれ、借用語の使用が減少するとともに、日本語から
の借用であるとの認識も低下することが明らかになった。植民地時代の借用
語彙は時代とともに消えていく傾向は窺えた。また、本来なら残されやすい
借用語語彙の素性を明らかにするために調査語彙を一つずつ検討しなければ
ならないところだが、それは時間と紙幅の制限のために次の課題とする。
付記:七節の社会言語学的な調査の部分は修士論文のデータを使用したもの
である。
参考文献
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態と運用− 社会言語科学 No. 1, 4-16.
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西尾寅弥 1988 現代語彙の研究 明治書店
樋口靖 2000 台湾語会話第二版 東方書店
日比谷潤子 2000 英語からの語彙借用−日系カナダ人一世の事例研究− 社
会言語科学 No. 1, 17-23
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吉野秀公 1927 台湾教育史第七版 南天書局
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