ニッセイ基礎研究所
(年金運用):イールドカーブ変化は株価リターンを予測できるか?
イールドカーブの変化は景気サイクルや中央銀行の金利政策の予測に役立つと考えられるの
で、株価リターンを予想できるか検証した。現在の金利サイクルは日米ともに「ブル・フラッ
トニング」であるが、過去の分析からは大きな株価リターンは期待できない局面である。
イールドカーブは償還までの期間(残存期間)が異なる債券の利回りを描いた利回り曲線であ
り、期間の長短が生み出す利回りの関係(金利の期間構造)を表す。イールドカーブの変化は
マクロ経済の景気サイクルを反映すると考えられる。本稿は日米の景気サイクルを分析し、さ
らに株価リターンとの関係を検証してみた。
各国の中央銀行は金融政策により短期金利を調節するが、長期金利は投資家が将来の金融政策
を予測し、事前に織り込んで変動すると考えられている。そのためイールドカーブは以下の特
徴的な形状変化をする。
「弱気(注1)な傾斜化(ベア・スティープニング、図表1①)」は景気回復により将来の金融引
締めを織り込んで長期金利が既に上昇している状態である。「弱気(注1)な平坦化(ベア・フラ
ットニング、図表1②)」は景気過熱により中央銀行が金融引締めを行い、長期金利は先行し
て上昇している状態である。
「強気(注2)な平坦化(ブル・フラットニング、図表1③)」は景気減速により将来の金融緩和
を織り込んで長期金利が既に低下している状態である。「強気(注2)な傾斜化(ブル・スティー
プニング、図表1④)」は景気後退により中央銀行が金融緩和を行い、長期金利は先行して低
下している状態である。
図表1: イールドカーブの形状変化と景気サイクル・金融政策
①ベア・スティープニング
②ベア・フラットニング
利
利
回
回
り
り
残 存 期 間
短期金利
上昇
長期金利
残 存 期 間
長短金利差
上昇
拡大
景気回復・将来金融引締め
短期金利
長期金利
長短金利差
上昇
上昇
景気過熱・金融引締め
縮小
④ブル・スティープニング
③ブル・フラットニング
利
利
回
回
り
り
残 存 期 間
残 存 期 間
短期金利
長期金利
長短金利差
短期金利
長期金利
長短金利差
下落
下落
景気後退・金融緩和
拡大
下落
下落
景気減速・将来金融緩和
縮小
年金ストラテジー (Vol.184) October 2011
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1999 年 12 月末から 2011 年7月末までの国債金利データを用いて日米の金利サイクルを判定
した。短期金利には3ヶ月国債金利、長期金利には 10 年国債金利を用い、それぞれの金利で
前月との金利差を 12 ヶ月指数移動平均(注3)として計算した。短期金利・長期金利・長短金利
差の前月差の上昇・下落から金利サイクルを判定し、各金利サイクルは2ヶ月以上続くものと
して修正した。
図表2: 日米の金利サイクルと株価
日本の金利サイクル
5
金融緩和期
2000
金融緩和期
金融引締め期
①ベア・
スティープニング 4
1600
②ベア・
フラットニング
3
1200
2
800
(景気過熱・金融引締め)
③ブル・
フラットニング
TOPIX
(景気回復・将来引締め)
(景気減速・将来緩和)
④ブル・
スティープニング 1
400
(景気後退・金融緩和)
0
2010年12月
2009年12月
2008年12月
2007年12月
2006年12月
2005年12月
2004年12月
2003年12月
2002年12月
2001年12月
2000年12月
0
米国の金利サイクル
5
金融緩和期
2000
金融緩和期
金融引締め期
①ベア・
スティープニング 4
1600
②ベア・
フラットニング
3
1200
(景気過熱・金融引締め)
③ブル・
2
フラットニング
800
S&P 500
(景気回復・将来引締め)
(景気減速・将来緩和)
④ブル・
1
スティープニング
400
(景気後退・金融緩和)
2010年12月
2009年12月
2008年12月
2007年12月
2006年12月
2005年12月
2004年12月
2003年12月
2002年12月
2001年12月
0
2000年12月
0
※金融引締め期は中央銀行が利上げおよび高金利政策を継続、金融緩和期は利下げおよび低金利政策を継続。
(資料) DataStream を用いて筆者作成
現在日米ともに金融緩和政策により短期金利は0%近辺に誘導されているが、2011 年前半は
景気回復期待から「ベア・スティープニング」であった。直近では景気後退懸念から「ブル・
フラットニング」に移行し、今後も両国の中央銀行はしばらくの間低金利政策を継続すると考
えられ、直近長期金利は低下傾向にあるので、「ブル・フラットニング」が続くであろう。
図表2は各金利サイクルを判定し、日本では株価推移に TOPIX、米国は S&P500 を用いて記載
した。金利サイクルと株価の関係を見ると、景気回復を示す「ベア・スティープニング」では
株価上昇、景気後退を示す「ブル・スティープニング」では株価下落が観測される。そこで日
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米の金利サイクルと株価の月次平均リターンの関係を金融政策別に分析した(図表3)。
図表3: 日米の金利サイクルと株価リターンの関係
日 本
月数
金融緩和期
株価リターン
t値
月数
米 国
金融引締め期
株価リターン
t値
月数
①べア・スティープニング
33
1.478% 1.240
2
1.515% 0.617
27
-
-
②ベア・フラットニング
0
3
0.146% 0.069
0
③ブル・フラットニング
53
-1.306% -1.804*
22
-1.712% -1.511
21
-
-
④ブル・スティープニング
15
1.571% 1.878*
0
42
t値の***は両側検定1%有意水準、**は両側検定5%有意水準、*は両側検定10%有意水準を示す。
金融緩和期
株価リターン
t値
金融引締め期
株価リターン
月数
2.069% 3.906***
-
-
0.330% 0.269
-1.842% -2.037**
5
13
20
0
t値
-0.774% -0.590
0.438% 0.883
1.238% 2.632**
-
-
(資料) DataStream を用いて筆者作成
日米ともに現在の金利サイクルである金融緩和期の「ブル・フラットニング」では市場は更な
る金融緩和を求めていると考えられる。過去の分析からは大きな株価リターンが期待できず、
しばらくは株価が低迷する可能性が高い。ただ早晩金利サイクルが金融緩和期の「ベア・ステ
ィープニング」に移行し、景気回復期にあり将来の金融引締めを織り込み始める局面では大き
な株価リターンが期待できる。
このようにイールドカーブの形状と株価リターンは景気サイクルや金融政策を通して密接に
関係しており、株式投資する際にもイールドカーブ変化を注視していく必要があろう。今後の
日米の金融政策や長短金利の動向は株価の推移を予想する上でも注目される。
(伊藤 拓之)
(注1) 金利上昇、つまり債券価格は下落するため、弱気(ベア)となる。
(注2) 金利低下、つまり債券価格は上昇するため、強気(ブル)となる。
(注3) 指数移動平均は、移動平均の重みを指数的に減少させ、最新のデータを重視し、古いデータを切り捨てない。
y t  y t 1 
発行:
2
n 1
Y t   yt 1 
y t :時点 t における移動平均、 Y (t ) :時点 t におけるデータ、n:データ数
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