第3回エデュケーター研修配布資料
2013/9/4
文化庁 ミュージアム・エデュケーター研修, 2013, 9, 4
人はどのように学ぶのか
―発達心理学の観点から―
鈴木 忠
(白百合女子大学)
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1 発達における環境の力
(1)知能の生涯発達:コホート効果
(2)「環境の力」とは何か
(3)表象の書き換え理論
2 環境から学ぶ人間
(1)社会的認知研究
(2)文化的所産から学ぶ
3 他者の視点と自己の視点の統合
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1 発達における環境の力
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発達を「説明」する
*遺伝的要素(“氏”) ――遺伝子の中
に組み込まれた発達のプログラム
*環境的要素(“育ち”)――各個体が
生まれ、育ち、歳をとっていく際の環境
や経験
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2
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かつては、遺伝的要素が発達の
中心であり、環境的要素の影響は、
あることはあるが、それほど大きく
ないと考えられていた。
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(1)知能の生涯発達:コホート効果
遺伝説が見直されるきっかけとなった研究
(シアトル縦断研究;K.W.シャイエ)
7年ごとに7回の調査を行い、人の知能が生
涯を通じてどのように変化するかを調べた。
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知能検査の中の「推論能力」
C D Y E F Y G ( ) Y I J Y K
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1963年の横断データによる加齢曲線
シアトル縦断研究
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60
55
50
T
得
点 45
40
35
30
25歳
32歳
39歳
46歳
53歳
60歳
67歳
74歳
81歳
25歳と60歳とでは14点の差がある。
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1963年の25歳が実際に60歳になると
――加齢による低下分は4点
1938年生縦断
1963年横断
65
60
55
50
T
得
点 45
40
35
30
25歳
32歳
39歳
46歳
53歳
60歳
67歳
74歳
81歳
9
14点-4点=10点の差は・・・
1963年の60歳と1998年の60歳の差
→「コホート効果」
(その35年間に知能のレベルが大幅
にアップしたということ)
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1963年と1998年の横断曲線
1938年生縦断
1963年横断
1998年横断
65
60
55
50
T
得
点 45
40
35
30
25歳
32歳
39歳
46歳
53歳
60歳
67歳
74歳
81歳
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・20~30歳代よりも50~60歳代の伸びが大きい。
・社会文化的環境の進歩に対して、中高年は若者
に遜色なく反応している。
=新しい環境から学習している。
⇒人は生涯にわたって学習可能性(発達の可塑
性)をもつ。
・・・生涯発達心理学の成立
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(2)環境の力とは何か
――描画の発達を題材に
頭足画
胴体のある人の絵
↑
(a)遺伝的要素
(b)環境的要素
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(子どもの絵は省略)
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[調査]
周囲に絵というものがない環境で
成長するとどうなるのか
――トルコでの研究
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トルコ都市部の子どもの絵
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トルコ都市部の大人の絵
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トルコ農村部の子どもの絵
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トルコ農村部の大人の絵
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環境の中に、実物や絵を用意すればよ
いのか?
→環境にあっても、それへの関心が低
いと「正しい」表象が身につかない。
例:「4本足のにわとり」を描くのは
どんな子?
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正しい絵を描くには、描画対象について
の知識や経験に加えて、「絵」そのもの
について関心をもつことが必要。
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実のある学び(発達)のために・・・よい環
境に「浸って」いればよいのか?
→実物や「絵」に触れていれば、正確に上
手な絵を描くわけではない。
「絵」に関心を持つ
=主体的なかかわりの重要性
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頭足画を描く子どもは、“確信”をもって主
体的に描いている。
=環境から、受動的に影響されるだけでな
く、内的イメージに照らして納得しようとして
いる。大人とは違う、子ども独自のものの
見方・考え方がある。
(例1)頭足画を描く子どもに、胴体のある絵の
描き方を教えてみたら・・・
(例2)「数の保存」課題への反応
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(例1)頭足画を描く子どもに胴体
のある絵の描き方を教えてみた
ら・・・
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1 胴体のある絵を見ながら描いてもらう。
2 DICTATION:「次はおなかを描いて」
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1 胴体のある絵を見ながら描いて
もらう。
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(子どもの絵は省略)
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自力で胴体が描けるようになったら・・・
ひとりの3歳の男の子の絵の変化
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2 DICTATION(描き順を指示)
ーー顔を描き終わったところで「次
はおなかを描いてください」と言う。
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(子ども独自の絵)人の絵以外
にも・・・
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絵とは目に見えるものを表現しな
いといけないのか?
=頭足画を描く子は、視覚よりも
身体感覚と結びついた表象をもと
に絵を描いているのかもしれない。
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(例2)「数の保存」課題への反応
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●●●●●●
● ● ● ● ● ●
→
〇〇〇〇〇〇
「●と○どっちが多い?」
〇〇〇〇〇〇
「どっちが多い?」
(実験場面の映像)
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(3)表象の書き換え理論
描画や数の保存課題への反応が
変わる前と後では、何が変わった
のか?
→ 表象
(representation)
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学びの発達
――表象の書き換え理論
(RR理論)
Redescription of Reprensentation
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表象の「書き換え」とは
=文字通り「上書き」されていくのでは
なく、それまでと異なる表象が加わっ
ていく(多重性)。
→人が何かを理解していくときは、いく
つかの表象の間で「ゆらいで」いる。
*頭足画から胴体が描けたのにまた頭足画に
戻った例
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「ゆらぐ」ことの意味
「数の保存」についての研究から
保存課題に正しく答えられるように
なる変化の前兆を探す研究
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「数の保存」の訓練でどのような子の正答率
が伸びたか?
(a)はじめに成績がよかった子が伸びる?
(b)いちばん「よい」(大人の説明に近い)説
明ができた子ほど伸びる?
(c)用いた説明の数が多い子ほど伸びる?
(d)年齢(月齢)の高い子が伸びる?
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人間の学びの性質(1)
1回の経験で、それまでの表象が
「上書き」されるというより、それまで
の表象に新しい表象が加わって共
存状態になる(表象の多重化)。
→状況に応じて自分でもっとも納得
のいく表象を選んで使い分ける。
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人間の学びの性質(2)
まだ身につけていない表象を、背
伸びをして使ってみる。
(他者の視点で考えてみる。)
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(シーグラーの保存課題の訓練研究)
他者の視点に立って考えてみることが、表象の書き換えを促進する
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2.環境から学ぶ人間
(1)社会的認知研究
人は他者の意図を感じ取る能力が備わってい
る。
(九か月革命)
=環境に込められた「意図」を読み取る能力が
ある。
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「九か月革命」から1歳にかけての大きな発
達的変化
*共同注意
*社会的参照
*模倣
ーー人間に備わっている、他者の「意図」を読み
取る能力の表れ
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額でスイッチボタンを押す模倣実験
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模倣:人間は行動そのものより「意図」をまねる
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相手が機械でも「人間くさければ」子どもは「意
図」を感じ取ってまねをする。
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(2)文化的所産から学ぶ
*「環境から学ぶ人間」とは、ただ環境に
「浸る」のではなく、環境に込められた他者
の「意図」を通して学習・発達する。
*0歳の段階から他者の「意図」を認識す
る人間は、文化的所産(絵や物)から作者
の「意図」を感じ取ることもできる。
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3.他者視点と自己視点の統合
人間がいちばん高い能力を発揮するのは
どういう時か?
(英知課題)
人生や人間存在に関する、正解のない
複雑な問題について、どう考えるか。
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5つの条件
*Standard ひとりで課題を聞き、即答。
*External Dialogue ふたりで課題を聞き、10分間、話
し合ったのち、別室に別れてひとりずつ回答。
*Individual Thinking Time ひとりで課題を聞き、10分
間、考えた後に回答。
*Internal Dialogue ひとりで課題を聞き、10分間、自
分の親しい友人ならどう考えるかを想像しながら考え
た後に回答。
*External Dialogue Plus ふたりで課題を聞き、10分
間話し合った後、別室でひとりで5分考えた後に回答。
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ふたりで話し合った後、ひとりになって考
える時間をもつ条件(External Dialogue
Plus)がもっとも成績がよかった。
→人間がいちばん高い能力を発揮するの
は・・・・
*他者との対話+内省
*自己の内なる他者との対話
=他者視点と自己視点を統合する
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(熟達化についての研究から)
チェスのプレーヤーや音楽家の個人
差は何によって生まれるか?
ーーひとりで練習すること
=熟慮ある練習
=内省(reflection)
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まとめ
環境(物・人)は新しい表象を与えることは
できる。
しかし学びや発達が進むためには、異なる
表象の間で「ゆれながら」自分が納得する
プロセスが必要。
=深い理解には“熟成”の期間が必要。
――「ゆらぎ」が必要なことを見越して、「ゆ
らぎ」を保障することが大切。
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文
献
スライド8・9・11 シアトル縦断研究
Schaie, K.W. 2005 Developmental influences on adult intelligence: The Seattle Longitudinal Study.
New York: Oxford University Press.
(生涯発達心理学の包括的レビューとして)
鈴木忠 2008 生涯発達のダイナミクス:知の多様性 生きかたの可塑性.東京大学出版会.
スライド16-19 トルコでの描画研究
Cox,M.V. & Bayraktar,R. 1989 A cross-cultural study of children’s human Figure drawing. Presented at
the 10th Biennial Conference of the International Society for the Study of Behavioral Development,
University of Jyväskylä, Finland.
スライド21・22 「4本足のにわとり」の研究
福井昭雄・窪 龍子・中村美津子・平田智久 1984 4本足のにわとり――その背景分析の試み(第1
報). 和泉短期大学研究紀要,6,41-58.
福井昭雄・窪 龍子・中村美津子・平田智久 1988 4本足のにわとり――その背景分析の試み(第6
報). 和泉短期大学研究紀要,10,17-29.
スライド31・32 3歳児の絵の変化
Fenson, L. 1985 The transition from construction to sketching in children’s drawings. In
N.H.Freeman, & M.V.Cox.(eds.) Visual order: The nature and development of pictorial representation.
Cambridge University Press. 374-384.
61
スライド34 頭足画における“Dictation”
Cox, M. 1992 Children’s drawings. Penguin Books.
スライド35 頭足画における“Dictation”
Goodnow, J. 1977 Children’s drawing. Fontana/Open Books, Open Books Publishing Ltd. 須賀哲夫(訳)
1979 子どもの絵の世界:なぜあのように描くか. サイエンス社.
スライド37 ひし形の模写
Piaget,J., & Inhelder,B. 1956 The child’s conception of space. Routledge & Kegan Paul.
スライド45・48 数の保存を使った子どもへの訓練実験
Siegler, R.S. (1995). How does change occur: A microgenetic study of number conversation. Cognitive
Psychology, 28, 225-273.
スライド51 額でスイッチを押す模倣実験
Gergely, Bekkering, & Kiraly. (2002). Rational imitation in preverbal infants. Nature, 415, 755.
スライド52 ダンベルを使った模倣実験
Meltzoff. (1995). Understanding the intentions of others: Re-enactment of intended acts by 18-montholdchildren. Developmental Psychology, 31(5), 838-850.
スライド53 「人間くさい」ロボットによる模倣実験
開一夫・長谷川寿一(編).(2009). ソーシャルブレインズ:自己と他者を認知する脳. 東京大学出版会.
スライド56・57 英知課題の実験
Baltes, P.B., & Staudinger, U.M. 2000 Wisdom: A metaheuristic (pragmatic) to orchestrate mind and
virtue toward excellence. American Psychologist, 55, 122-136.
62
31
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基調講演「人はどのように学ぶのか―発達心理学の観点から―」