シーロスタットを用いた太陽
の分光観測による速度場解析
2010 年度
卒業研究
明星大学理工学部物理学科
天文学研究室(祖父江研究室)
伴場由美 07S1-043
[email protected]
2011/01/29
目次
要旨
1. Introduction
1.1 太陽について
1.2 分光観測について
1.3 シーロスタットとは
1.4 本研究の目的
2. 観測
2.1 観測方法・取得データ
3. スペクトロヘリオグラムの作成
3.1 スペクトロヘリオグラムの作成方法
3.2 結果(全面スキャンの例)
4. ドップラーグラムの作成
4.1 ドップラーグラムの作成方法
4.2 結果(全面スキャンの例)
5. 太陽の固有振動の解析
5.1 固有振動の解析方法
5.2 結果
6.まとめ
謝辞
Reference
付録
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要旨
本研究では、国立天文台太陽観測所と共同で、シーロスタットを用いた太陽の分光観測
を行い、得られたデータからスペクトロヘリオグラムを作成することで、太陽の速度場と
光球から彩層に至るまでの固有振動の変化の様子を調べた。
観測は、太陽全面スキャン観測と太陽中心付近の部分スキャン観測の 2 回行った。太陽
全面スキャン観測では、光球から出る光である鉄の吸収線 6569.22Å(Fe Ⅰ)と、彩層か
ら出る光である水素の吸収線 6562.81Å(Hα線)でスペクトロヘリオグラムを作成し、国
立天文台三鷹キャンパスの黒点望遠鏡(観測波長 5300Å)と Hα全面望遠鏡(観測波長
6563Å)と比較した。この際、球面天文学を用いて観測時の太陽の向きを求め、それぞれ
の向きを合わせて比較した。また、Fe について、短波長側と長波長側にずらして作ったス
ペクトロヘリオグラムからドップラーグラムを作成し、太陽の自転の様子を確認し、ドッ
プラーシグナルと波長の関係から太陽の自転速度が 2km/s であることが確かめられた。
太陽中心付近の部分スキャン観測では、鉄の 6569.22Åと水素の 6562.81Åで太陽
中心付近の同じ領域を高速で連続スキャンし、太陽面上の細かい速度成分の周期解析を行
った。これも全面スキャン同様、波長オフセット量を変えてドップラーグラムを作成し、
画像上のある領域のドップラーシグナルの変化をフーリエ解析することにより、光球の 5
分振動と彩層の 3 分振動の検出を試みた。これにより、光球から彩層に至るまでの固有振
動の変化の様子を捉えることが出来た。
現在は太陽活動が活発になりつつある最中で、現象も少ないなかの観測であったため黒
点などの代表的な現象の観測には至らなかった。しかし、スペクトロヘリオグラムから太
陽の速度場や振動の解析を行うことは可能で、シーロスタットでの観測に伴う球面天文学
の基礎や IDL によるデータ解析手法を学ぶ上では非常に有用である。
本論文では、まず「1. Introduction」にて太陽そのものについて、またその観測手法と
しての分光やシーロスタットについて紹介した後、本研究の目的を述べる。ついで実際の
観測とその基本的なデータ処理としてのスペクトロへリオグラム・ドップラーグラムの導
出を 2・3・4 章にて述べる。さらに科学的な研究にもつながる光球・彩層の振動現象の
解析結果を「5. 太陽の固有振動の解析」にて紹介し、まとめを 6 章に記述する。
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Introduction
1.1
太陽について
太陽は我々に最も近い恒星であり、地球上の全ての生命の源である。そのため太陽は、
古来から様々な文明において崇拝の対象であり、偉大なる存在とされてきた。しかし、宇
宙全体を見れば、太陽はごく標準的な星である。それゆえ、太陽を観測することで標準的
な恒星の表層や内部の構造、進化の様子などを知ることが出来るため、宇宙を研究する上
で非常に重要な意味を持つ。
太陽は直径が約 140 万 km(地球の約 110 倍)、質量が約2×1030kg(地球の約 33 万
倍)である。しかし平均密度は水の密度の 1.4 倍(地球の平均密度は水の密度の 5.5 倍)しか
ない、9 割以上が水素から成る巨大なガス球である。恒星としてみると、スペクトルが G2
型で、中心部での水素燃焼の核融合反応をエネルギー源として光り輝く主系列星である。
その内部構造は、大きく分けて内側から中心核、放射層、対流層、光球となっており、そ
の上に彩層、コロナの外層大気が存在する。
① 太陽内部
太陽の中心は温度約 1600 万度、密度は水の密度の約 150 倍にもなる。このため
中心核では水素原子同士が激しく動き回って衝突を繰り返し、核融合反応が起こってお
り、これが太陽が光り輝くためのエネルギー源となる。また、中心核の圧力は 2400
億気圧にも達し、これが太陽自身の自己重力を支えることで、太陽は球形を保っている。
中心核で発生したエネルギーは X 線やγ線の放射により、太陽表面に向けて運ばれ
る。しかし、その途中で多くの粒子との衝突を繰り返し、周りのガスにエネルギーを与
えてしまうので、表面から半径にして 3 割より外側ではエネルギーは対流により運ば
れる。エネルギーが放射によって運ばれる、中心から 50 万 km、厚さ 30 万 km の層
を放射(輻射)層といい、その外側でエネルギーが対流によって運ばれる厚さ 20 万 km
の層を対流層という。対流層は、内部の対流によってある固有の振動数で振動する性質
を持っており、これが太陽の 5 分振動である。
② 光球
可視光線で太陽を観測すると、ガス球であるにも関わらず、はっきりとした縁が見え
る。これは光球と呼ばれる、厚さ約 300km の大気の層で、太陽の表面に対応してい
る。温度は光球底部で約 8000 度、表面では約 4400 度であるが、地球から見ると平
均化され、有効温度は 5700 度である。太陽面の縁から地球に向かう光線は、中央部
からの光線よりも温度の低い層を長く通るので暗く見える。これを周縁減光という。
光球を観測すると、全体に米粒状の模様が見える。これは粒状斑と呼ばれ、対流層表
面にある 500∼1000km の対流塊である。さらに、直径が 3 万 km にも達する超粒
状斑も存在する。また、光球には黒点や白斑などが見られる。黒点部分ではその強い磁
4
場(2000∼3000 ガウス)により光球の対流運動が抑制されるために、周りより温度が
下がり、黒く見える。白斑も、黒点ほどではないが強い磁場(1000∼2000 ガウス)
を持つ領域で、黒点同様、磁場により対流が抑えられているが、領域が黒点よりも小さ
いため、周りから光子が入り込み、明るく見える。また、黒点は S 極と N 極が対にな
って現れ、さらにこれらがグループを作って現れることが多く、このような黒点群を活
動領域と呼ぶ。太陽面上の黒点の数は約 11 年周期で増減する。この周期を太陽周期と
呼び、太陽表面上に黒点がたくさん現れ、太陽活動が激しい時を極大期、黒点をはじめ
とする太陽表面の活動が低下する時を極小期という。
③ 太陽外層大気
光球の上部には、彩層・コロナという太陽大気の層が存在する。彩層は光球のすぐ上
の薄いガス層(厚さ数千∼10,000km)で、皆既日食のときに太陽の輪郭を縁取るように
赤紫に見える層である。さらに、その上空にはコロナと呼ばれる外層大気がある。コロ
ナは太陽風によって運ばれ、地球を越えてはるか遠方まで広がっている。彩層では黒点
を囲む明るい領域であるプラージュや、粒状斑の縁に対応する領域で多く見られる針状
の突起構造であるスピキュールなどが観測される。また、彩層のガスが磁力線に沿って
浮き上がったものをプロミネンス、黒点付近で発生する太陽大気の爆発現象をフレアと
いう。中心核から太陽表面までは温度が下がっていったが、彩層では再び温度が上昇す
る。その温度は彩層底部では約 4400 度、上部では約 9000 度で、コロナでは
1,000,000 度にも達する。彩層からコロナに至るまでの温度上昇の原因は、彩層に光
球からエネルギーが与えられるためだと考えられているが、詳細な機構は良く分かって
いない。
1.2
分光観測について
我々が普段目にする光は、さまざまな波長をもつ光が混ざったものである。プリズムや
回折格子、グリズムなどの分光素子を用いて光を波長ごとに分けることを分光と呼び、1
つの波長からなる光を単色光という。分光観測では、このようにして光を波長ごとに分け、
どんな波長の光がどの程度混ざっているのか調べることができる。分光観測は太陽のみな
らず、天文学において最も基本的かつ重要な光学観測のひとつである。一般的には、分光
観測からは恒星の自転速度、温度、組成、銀河の後退速度などが求められる。しかし、多
くの恒星や銀河は地球から非常に遠い距離にあり、スリット幅に対し視直径が非常に小さ
いため、求められる物理量も限られてくる。一方、太陽は我々に最も近い恒星であり、ス
リット幅に対し十分な視直径を持つため、より詳細な観測が可能となり、多くの物理量を
求めることができる。例えば速度の情報に限ってみても、光球の5分振動や超粒状斑の運
動速度、彩層の固有構造の速度などが求められる。また、太陽面上をスリットの位置を少
しずつずらしながら観測し、得られたスペクトルからある特定の波長の線だけを取り出し
て並べることで、その波長で見た太陽単色像(スペクトロヘリオグラフ)を得ることができ
る。これは、フィルターによる撮像観測で得られる太陽単色像よりも、波長分解能の面で
5
優れている。また、1 度の撮像でさまざまな波長を同時観測することが出来るため、フィ
ルターによる撮像観測よりも幅広いテーマに用いることが出来るデータを取得することが
可能である。
1.3
シーロスタットとは
シーロスタットは、2 枚鏡から成る観測装置で、古くから太陽観測に用いられており、
日食観測や塔望遠鏡、水平望遠鏡などに使用されている(図1)。太陽光は極軸を軸に地球
自転の半分の速さで駆動される第1鏡で常に第2鏡に送られ、第2鏡はこの光を垂直また
は水平に向けて観測装置へ太陽光を導く。太陽の赤緯が異なると第2鏡の位置に光が当た
らなくなるので第2鏡の位置は水平式の場合は図の実線方向、垂直式の場合は破線の方向
へ移動しなくてはならない。また、太陽の赤緯がマイナスであるときは第1鏡に第2鏡の
影が入るので、第1鏡を東西に移動する機構も必要である。シーロスタットの最大の利点
は、太陽像が時間と共に回転しないことであるが、第2鏡の移動量が大きく、第1鏡の東
西移動機構など、設置スペースを広く取る必要がある。
図 1:シーロスタット概要図
国立天文台太陽観測所では直径 30cm の平面鏡を利用したシーロスタットを用いて実験
室内に太陽光を導き、装置開発のための光学実験やフィルターのテストなどを行うための
装置を有する。本研究では、実験室内に分光器を置き、太陽の分光観測を行った。
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1.4
本研究の目的
本研究では、国立天文台太陽観測所と共同で、シーロスタットを用いた太陽の分光観測
を行い、得られたデータからスペクトロヘリオグラムを作成することで、太陽の速度場と
光球から彩層に至るまでの固有振動の変化の様子を調べた。また、シーロスタットによる
太陽観測手法や、観測データを IDL を用いて解析する手法を学ぶことも目的としている。
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1. 観測
2.1
観測方法・取得データ
観測実施日:2010 年9月 10 日、26 日
観測場所 :国立天文台三鷹キャンパス 気球実験棟
観測方法 :光電ガイドを用い太陽を追尾させながらのラスタースキャン観測
9 月 10 日…太陽全面スキャン観測
9 月 26 日…太陽中心付近の部分スキャン観測
観測装置 :・シーロスタット
直径 30cm
但し鏡全体に当たった太陽光を全て使っているわけではなく、
分光室内で口径 13cm の望遠鏡で太陽像を作った。
・エシェル分光器
ブレーズ角 63 度
刻み幅 23 本/mm
・スリット幅
・スリット長
・光電ガイド
有効面積 200mmx100mm
∼100μm
30mm
太陽光
第2鏡
第1鏡
南北に駆動
東西に駆動
図 2.1:国立天文台三鷹キャンパスの 30cm シーロスタット
8
太陽光
コリメーター鏡兼
カメラ鏡
13cm 望遠鏡
光電ガイド
CCD カメラ
スリット
グレーティング
図 2.2:分光室内の様子
表1:観測パラメータ
part01
full01
dark
スキャン回数(回)
161
5
1
スキャン幅(秒角)
400
2000
2000
1 回のスキャンでの枚数(枚)
200
1000
200
30
150
スキャンの時間間隔(秒)
<ラスタースキャン観測>
光電ガイドで太陽を追尾した状態で、太陽面上でスリットの位置をずらすと、それぞれ
の場所に対応したスペクトル線画像が得られる。このスペクトル線の画像の中から必要な
波長のみを切り出して並べることで、その波長の単色太陽像(スペクトロヘリオグラム)が
得られる。このような観測方法をラスタースキャン観測という。
9
図 2.3:ラスタースキャン観測の様子
<取得データ>
両日とも分光観測により、以下のようなデータが取得された。水素の吸収線である Hα
線(6562.81Å)は彩層の、鉄の吸収線(6569.22Å)は光球のスペクトル線である。また、
H2O のスペクトル線は地球大気による吸収線である。
波長方向
スリット方向
図 2.4 今回の観測で得られたスペクトル画像
10
3.スペクトロヘリオグラムの作成
ここでは観測により取得したデータから、スペクトロヘリオグラムを作成する。解析に
は IDL(Interactive Data Language)を用いた。
3.1
スペクトロヘリオグラムの作成方法
スペクトロヘリオグラムとは、図 2.4 のようなスペクトル線のデータからある特定の波
長のみを短冊状に切り出して並べることにより作成される、単色太陽像のことである(図
2.3)。ここでは 2010 年 9 月 10 日に観測したデータを用い、Fe の吸収線(6569.22Å)
と Hα線(6562.81Å)について切り出し、並べることで、それぞれ光球と彩層の単色太陽
像を作成した例を紹介する。
図 2.4のスペクトル線を見ると右上がりに曲がっているのが分かる。これは太陽光が回
折格子に当たって反射される際の入射角の違いによって生じる。そこでまず、スペクトル
線の曲がりを知る為の、波長同定を行う。今回は Astro surf.com solar spectrum Atlas
の波長データと、取得したスペクトル線の地球大気の吸収線 6560.56Åを比較し、波長
同定を行った。ここで太陽の吸収線を用いないのは、Fe や Hαの吸収線は太陽の自転の影
響で中心波長からずれている為である。下の図は、横軸がピクセル数、縦軸が輝度を表す。
実線が地球大気の吸収線 6560.56Åのラインプロファイル、波線が実線をガウス関数で
フィッティングしたものである。実線で表されたラインプロファイルから分かるように、
吸収線のすぐ近くには他の吸収線も存在する。そのため、ガウス関数でフィッティングし
て波長中心を求めることで、より正確な波長中心を取ることができる。
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図 3.1:地球大気の吸収線 6560.56Åのプロファイル。
横軸がピクセル、縦軸が明るさを示す。実線が実際のスペクトル
線、破線がそれをガウス関数でフィッティングしたもの。
垂線はフィッティングした関数から求めた波長中心を表す。
このようにしてある部分の地球大気の吸収線の波長中心の座標が求められ、これを吸収線
に沿って繰り返し、それらを2次関数でフィッティングすることで、スペクトル線の曲が
り具合を表すことができる。
スペクトル線の曲がり具合が分かれば、その曲がりに沿って、大気の吸収線から何Å離
れたところを切り出して並べるか決定することが出来る。しかし、図 2.4のスペクトル線
では波長方向もピクセル数で表されているため、1 ピクセルが何Åに対応するかを知らな
くてはならない。これは、地球大気の吸収線の間隔は変わらないことを利用して求める。
図 2.4の画像上に映っている 2 本の地球大気の吸収線に着目し、実際に測ったピクセル数
が何Åに対応しているのかを調べ、これを地球大気の吸収線について全ての組み合わせ行
って平均することにより導出した。その結果、1 ピクセル=0.02134215Åであった。
以上の解析結果を用いることで、地球大気の吸収線を基準に Fe 6569.22Åと Hα
6562.81Åを吸収線に沿って切り出して並べることができ、それぞれのスペクトロへリ
オグラムが得られる。
12
3.2
結果(全面スキャンの例)
2010 年 9 月 10 日の観測データについて、3.1 で作成したヘリオグラムは以下左のよ
うになった。右はそれぞれ国立天文台太陽観測所で得られた同日のフィルターグラムであ
る。また、画像の東西南北は、球面天文学の基礎を学んで自作したプログラムにより決定
しており、天の北に対する太陽の自転軸の傾き P=23.1°、太陽中心の太陽面経度 L0=
303.7°、太陽中心の太陽面緯度 B0=7.25°である。
Fe(6569.22Å)
図 3.2:観測から得られた Fe 6569.22Åのスペクトロへリオグラム(左図)と
黒点望遠鏡で観測された同日の太陽(右図)
但し、今回の観測ではフラットを撮る機構が無いため、
左図ではフラットフィールド処理を行っていない。
13
Hα(6562.81Å)
図 3.3:観測から得られた Hα 6562.81Åのスペクトロヘリオグラム(左図)と
Hα全面望遠鏡で観測された同日の太陽(右図)
但し、今回の観測ではフラットを撮る機構が無いため、
左図ではフラットフィールド処理を行っていない。
この日は無黒点であった為、Fe のスペクトロヘリオグラムでは見た目には分かりにくいが、
Hαのスペクトロヘリオグラムではプラージュやフィラメント、プロミネンスといった現
象が精度よく捉えられていることが分かる。また、P、B0、L0 も正しく計算できている。
14
4.
ドップラーグラムの作成
今回行った観測は分光観測であるため、同時に多波長を観測することが可能である。こ
の特徴を活かしてドップラーグラムを作成する。
4.1
ドップラーグラムの作成方法
ドップラーシグナルは視線方向の運動成分を表すものであり、以下の式を用いてピクセ
ル毎にドップラーシグナルを求めて得られたヘリオグラムをドップラーグラムと呼ぶ。
I r − Ib
Doppler signal =
Ir + Ib
ここで、Ibは吸収線中心から短波長側にずれた部分の明るさ、Irは吸収線中心から長波長側
にずれた部分の明るさである。図 4.1 の左図より、ブルーシフトしているときはドップラ
ーシグナルは正となり、右図よりレッドシフトしているときには負になる。
図 4.1:Fe の吸収線のプロファイル
実線は Fe の吸収線をガウス関数でフィッティング
したもので、破線はそれを人為的に 0.1Åずらした
もの。縦軸は輝度、横軸は波長(Å)
吸収線中心からずらした量を波長オフセットといい、今回 Fe の吸収線中心より±0.05
Å、±0.1Åで行った。ドップラーグラムにおいて、明るさがどの程度変化すると波長シ
フトがどのように変化するかを調べることで、太陽大気の運動速度が求められる。ドップ
ラーシグナルとシフト波長の関係付けは、太陽全面スキャン(1000 枚)のうち中心付近の
スペクトル線(500 枚目)のさらに中心(スリット方向の中心)において、Fe の吸収線の形を
ガウス関数でフィッティングしプロファイルの形を求め、それを人為的にずらすことでド
15
ップラーシグナルがどのように変化するかを調べて行う(図 4.2)。
図 4.2:ドップラーシグナルの変化と波長シフト量の関係
上は波長オフセット±0.05Å、下は波長オフセット±0.1Å
縦軸はドップラーシグナル(Ir-Ib)/(Ir+Ib)、
横軸は波長シフト量(Å)
16
このようにして、ドップラーシグナルの変化から何Å波長がずれたか(⊿λ)を知ることが
出来、以下の式に代入することで速度を求めることが出来る。
⊿λ
c=v
λ
ここで、λは Fe の中心波長(6569.22Å)、c は光速(3x105 km/s)である。
4.2
結果(全面スキャンの例)
4.1 の結果、それぞれの波長オフセットにおいて、2010 年 9 月 10 日の観測データにつ
いて Fe のドップラーグラムは以下のようになった。
17
Fe±0.05Å
Ib(Fe−0.05Å)
Ir(Fe+0.05Å)
ドップラーグラム(Fe±0.05Å)
図 4.3:Fe の波長をシフトさせて作成したスペクトロヘリオグラム
(図左上:−0.05Å、図右上:+0.05Å)とそれらから得られた
ドップラーグラム(下図)。±4.5km/s の範囲を表示している。
18
Fe±0.1Å
Ib(Fe−0.1Å)
Ir(Fe+0.1Å)
ドップラーグラム(Fe±0.1Å)
図 4.4:Fe の波長をシフトさせて作成したスペクトロヘリオグラム
(図左上:−0.1Å、図右上:+0.1Å)とそれらから得られた
ドップラーグラム(下図)。±4.5km/s の範囲を表示している。
19
図 4.3 及び図 4.4 のドップラーグラムにおいて、青は手前側に移動してくる速度成分を表
し、赤は奥へ移動する速度成分を表している。これにより、太陽の自転の様子が確認でき
る。また、ドップラーシグナルと波長の関係により、太陽の自転速度は光球面においては
約2km/s であることが確認できた。さらにドップラーグラムにおいて、太陽中心よりも
少しリム(太陽の縁)に近い部分で、米粒状の模様が見える。これは超粒状斑と呼ばれるも
のである。超粒状斑が太陽中心において見られないのは、地球から見ると太陽中心付近の
対流運動は視線方向に対し垂直な方向に運動しており、視線方向の速度成分を検出するド
ップラーグラムでは見えない為である。太陽中心からリムに近づくにつれて、光球面の対
流運動を斜めから見ることになり、そのうちの視線方向成分がドップラーグラム上で見え
ているものである(図 4.5)。
図 4.5:光球面における対流運動の様子
ドップラーグラムにおける速度成分は、主に太陽の自転由来のものと超粒状斑対流によ
るもの、5分振動がある。太陽の自転由来の速度成分と超粒状斑対流による速度成分は図
4.3 及び図 4.4 では固定したパターンとして見えている。一方、5分振動は観測時間内で
の変化が速いためパワースペクトルの解析により、その変化の様子を知ることができる。
詳しい解析は次の 5 章で行う。
20
5.
太陽の固有振動の解析
恒星の大気は、それぞれ固有の振動をしており、太陽の場合は、周期 5 分の振動が主成
分であるため、5 分振動と呼ばれている。5 分振動の存在は、1960 年にカリフォルニア
工科大学のレイトンらの太陽表面の運動速度場の研究によって発見された。5 分振動は光
球面に対して垂直であるため、光球を観測したときに太陽中心付近で振動の様子がよく見
える。また、光球の上空の彩層では、様々な方向に振動する、周期 3 分の波が主に観測さ
れることが知られている(図 5.1)。但し、彩層の 3 分振動については、彩層自体が振動し
ているわけではなく、光球で発生した振動のうち、周期 3 分の成分が主に伝わったもので
ある。
図 5.1:太陽面上の振動の様子
21
5.1
固有振動の解析方法
2010 年 9 月 26 日に行った部分スキャン観測では、太陽の中心付近の幅 400 秒角の
領域を、約 30 秒の間隔で 1 時間にわたって高速連続スキャンした(図 5.2)。ここでは、
時間分解能の高い部分スキャン観測によって得られたデータから作成した Fe と Hαのド
ップラーグラムより、太陽面上の細かい速度成分の周期解析を行う。
図 5.2:部分スキャンの概要図
部分スキャン観測によって得られたデータから作成した各波長のスペクトロヘリオグラ
ムとドップラーグラムは図 5.3 のようになる。また、Fe±0.05Åのドップラーグラムの
太陽中心付近を約 1 時間に渡って切り出して並べたものは、図 5.4 のようになる。図 5.4
では、中央付近に白黒が入れ替わるパターンが見られる。そこで、様々な波長オフセット
において、中央付近とリム付近でそれぞれどのような振動が見られるか、解析を行って調
べた。
22
図 5.3:部分スキャン観測から得られたスペクトロヘリオグラム及びドップラーグラム
図 5.4:Fe±0.05Åのドップラーグラムの太陽中心付近を約 1 時間に渡って
切り出して並べたもの。中央付近に白黒が入れ替わるパターンが見られる。
23
まず、ある部分スキャンのドップラーグラム上の 100×50 ピクセルの領域を図 5.5 の
様に南北方向に 5 箇所取り、それぞれの領域を5×5ピクセルの領域に分けてドップラー
シグナルのフーリエ解析を行い、その平均値を取る。この作業を 128 スキャンにわたっ
て行い、5 分振動、3 分振動の様子を調べる。波長シフト量はそれぞれ Fe については±
0.05、±0.1Å、Hαについては±0.1、±0.3、±0.5、±0.8Åとした。
図 5.5:周期解析を行った領域模式的に 3×3 の格子で表示したが、
実際は 20×10 の格子に分割している。
24
5.2
結果
ドップラーシグナルの変化をフーリエ解析して、パワースペクトルを求め、5 分振動、3
分振動の成分を検出すると、次ページのグラフのようになる。
25
図 5.6:得られたパワースペクトル(光球)
上図が中心付近の領域、下図がリム付近のパワースペクトル。
縦軸がパワー、横軸は振動数(Hz)。2 点鎖線は左側が周期 5 分、
右側が周期 3 分に対応する振動数を表す。
26
図 5.7:得られたパワースペクトル(彩層)
上図が中心付近の領域、下図がリム付近のパワースペクトル。
縦軸がパワー、横軸は振動数(Hz)。2 点鎖線は左側が周期 5 分、
右側が周期 3 分に対応する振動数を表す。
27
まず、同じ波長で見た、中心付近の領域とリム付近の領域での違いについて考える。図
5.6 は、Fe±0.05Åでの太陽中心とリム付近の振動数ごとのパワースペクトルをプロット
したものである。これを見ると、光球での 5 分振動は太陽中心で顕著に見られ、リム付近
では弱くなっているのが分かる。これは、光球面の 5 分振動は太陽面に対して垂直方向に
振動しているためであり、図 5.6 はその様子を示している。図 5.7 は、Hα±0.3Åでの
結果である。これを見ると、彩層での 3 分振動は太陽中心でもリム付近でも見られ、光球
の 5 分振動ほど顕著な変化は見られない。これは、彩層の 3 分振動は太陽面に対して垂直
方向だけでなく、様々な方向に振動しているためである(図 5.1)。また、図 5.7 では、太
陽中心からリム付近では、5 分振動の成分が弱くなっているのが分かる。これは、彩層の
より光球に近い部分では 5 分振動も伝わっているためである。
次に太陽面上の同じ領域(太陽中心)で見た、波長による振動の様子の違いについて考え
る。
28
図 5.8:同じ領域(太陽中心)のパワースペクトル
上から Fe±0.05Å、Fe±0.1Å、Hα±0.1Å、Hα±0.3Å、Hα±0.5Å、
Hα±0.8Å。縦軸がパワー、横軸は振動数(Hz)。
2 点鎖線は左側が周期 5 分、右側が周期 3 分に対応する振動数を表す。
29
図 5.8 続き
30
図 5.8 続き
31
図 5.8 を見ると、光球の 5 分振動の成分は、波長による変化があまり見られない。一方、
彩層の 3 分振動の成分は、Hαの波長中心からのオフセット量が大きいものは 3 分振動と
共に 5 分振動の成分が見られるが、オフセット量が小さくなるに従って、5 分振動の成分
は弱くなっている様子が分かる。これは、波長中心からのオフセット量が小さくなると、
彩層の上層を見ていることになる為である。光球の 5 分振動であまり変化が見られないの
は、どちらの波長も薄い光球の中で高さがあまり変わらない為であると考えられる。
以上の結果から、光球から彩層に至るまでの振動の変化の様子は、図 5.9 の様になると
考えられる。光球では、ガスは磁場とは無関係に、固有の振動数で動径方向に振動する。
光球面では、磁気圧に対してガス圧が大きいため、磁力線は広がらずに、光球面に垂直に
立つ。上空の彩層に行くに従って、ガス圧が小さくなり、磁力線は横に広がっていく。彩
層では、ガスの運動は磁力線に沿った方向に限られる(frozen-in(磁場の凍結)効果)ので、
振動は磁力線に沿って振動が伝わっている。
図 5.9:光球から彩層に至る振動の変化の様子
右側はそれぞれの波長オフセット量に対応する高さの違い
を模式的に表したものである。
32
6.
まとめ
本研究では、国立天文台太陽観測所と共同で、シーロスタットを用いた太陽の分光観測
を行い、得られたデータからスペクトロヘリオグラムを作成することで、太陽の速度場と
光球から彩層に至るまでの固有振動の変化の様子を調べた。
観測は 2010 年 9 月 10、26 日の 2 日間行い、観測領域は 10 日が太陽全面、26 日
が太陽中心付近である。
9 月 10 日の太陽全面スキャン観測では、光球から出る光である鉄の吸収線 6569.22
Å(Fe Ⅰ)と、彩層から出る光である水素の吸収線 6562.81Å(Hα線)でスペクトロヘリ
オグラムを作成し、国立天文台三鷹キャンパスの黒点望遠鏡(観測波長 5300Å)と Hα全
面望遠鏡(観測波長 6563Å)によって得られたフィルターグラムと比較した。また、Fe に
ついて、短波長側と長波長側にずらして作ったスペクトロヘリオグラムからドップラーグ
ラムを作成した。また、ドップラーシグナルと波長の関係から、ドップラー速度を求め、
光球面における太陽の自転速度は約2km/s であることが確認できた。
9 月 26 日の太陽中心付近の部分スキャン観測では、太陽中心付近の幅 400 秒角の領
域を高速連続スキャンして、鉄の 6569.22Åと水素の 6562.81Åからドップラーグラ
ムを作成し、太陽面上の細かい速度成分の周期解析を行った。ドップラーグラム上の 100
×50 ピクセルの領域を南北方向に 5 箇所取り、それぞれの領域を5×5ピクセルの領域
に分けて 128 スキャンにわたるドップラーシグナルのフーリエ解析を行い、その平均を
取る作業を行うことで、5 分振動、3 分振動の様子を調べた。また、これらの解析を波長
オフセットを変えて行い、波長の違いによる振動の変化の様子を調べた。
同じ波長で、太陽中心付近の領域とリム付近の領域を比較したところ、光球での 5 分振
動は太陽中心で顕著に見られ、リムに近づくに従って弱くなる様子が確認できた。また、
彩層での 3 分振動は太陽中心でもリム付近でも見られ、光球の 5 分振動ほど顕著な変化は
見られなかった。これは、光球面の 5 分振動は動径方向に、彩層の 3 分振動は動径方向だ
けでなく、様々な方向に振動していることを示している。また、彩層での解析の結果で、
太陽中心からリムに近づくに従って弱くなる 5 分振動の成分が見えているのは、彩層のよ
り光球に近い部分では、光球の 5 分振動が伝わっているためであると考えられる。
次に太陽面上の同じ領域(太陽中心)で見た、波長による振動の様子を比較したところ、
光球の振動の成分は波長による変化があまり見られないのに対し、彩層の振動の成分は H
αの波長中心からのオフセット量が大きいものは 3 分振動と共に 5 分振動の成分が見られ
るが、オフセット量が小さくなるに従って、5 分振動の成分は弱くなっていた。これは、
波長中心からのオフセット量が小さくなると、光球や彩層の浅い部分を見ていることにな
る為である。光球の 5 分振動であまり変化が見られないのは、どちらの波長オフセットで
33
も光球の中の高さがあまり変わらない層を見ている為であると考えられる。また、彩層の
3 分振動では、波長オフセット量、すなわち高さによる振動の違いが顕著に出ている様子
が確認できた。
周期解析の結果は、以下のような光球から彩層の変化の様子によるものと考えられる:
太陽内部で発生した振動は、彩層では振動数の大きなものだけが上空のへ伝わっていくた
め、光球では 5 分振動、彩層では3分振動が顕著に見られる。光球では、ガスは磁場とは
無関係に、固有の振動で動径方向に振動する。また、光球面では、磁気圧に対してガス圧
が大きいため磁力線は広がらずに光球面に垂直に立ち、一方、上空の彩層に行くに従って
ガス圧が小さくなり磁力線は横に広がっていく。ガスの運動は、frozen-in(磁場の凍結)
効果により、磁力線に沿った方向に限られるので、彩層では磁力線に沿ってあらゆる方向
に振動している。したがって、5 分振動は太陽中心付近でよく見られ、3 分振動は太陽全
面に渡って見られる。
こうした研究は、今まで太陽面上の狭い視野で行われてきたが、本研究では広い視野に
渡って観測を行うことで、太陽面上の様々な領域を多波長で同時に解析する新しい手法を
示したものである。今後は、さらに長時間の観測より、統計的解析を行うことで、光球か
ら彩層に至る振動の変化の一般的な様子を知ることができると考えられる。
34
謝辞
本研究を行うにあたり、国立天文台太陽観測所 所長 花岡庸一郎准教授、同専門研究
職員 鈴木勲氏、萩野正興氏には、観測装置の使用方法や解析結果の解釈の仕方、IDL に
よる解析や太陽についての知識など、全面的にご指導して頂きました。また、国立天文台
太陽観測所の皆様には、様々な面で研究生活をサポートして頂きました。明星大学理工学
部物理学科 祖父江義明教授、同実験指導助手 日比野由美さんには、ゼミを通して多く
のアドバイスを頂きました。本研究を通して、解析手法や太陽について学ぶだけでなく、
この先大学院に進学して研究していく上で、とても大切なことを学ぶことが出来ました。
支えてくださった全ての方々に感謝申し上げます。
35
<Reference>
・東京大学出版会「宇宙科学入門」尾崎洋二:著
・「天体位置表」海上保安庁海洋情報部:編
・丸善株式会社「平成 22 年 理科年表」国立天文台:編
・日本評論社「シリーズ現代の天文学 10 太陽」
桜井隆・小島正宜・小杉健郎・柴田一成:編
・恒星社「アストラルシリーズ7 太陽観測」清水一郎:著
・地人書館「天体の位置計算 増補版」長沢工:著
・岩波書店「太陽は 23 歳!?皆既日食と太陽の科学」日江井榮二郎:著
・恒星社「現代天文学講座5 太陽」平山淳:編
・Astro surf.com solar spectrum Atlas
http://www.astrosurf.com/spectrohelio/atlas-en.php
・BASS2000 Solar Survey Archive
http://bass2000.obspm.fr/solar_spect.php
・Explanatory Supplement to the Astronomical Ephemeris and the
American Ephemeris and Nautical Almanac
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<付録>
☆球面天文を用いた太陽の位置の計算手法
球面天文の基礎を学び、そこで得た式を応用して任意の年月日および時分秒を入力すると、
その時の太陽の位置を決定するようなプログラムの作成を行った。以下にその計算の流れ
及び用いた数式を示す。
① 当日のユリウス日を求める。
ユリウス日とは、紀元前 4713 年 1 月 1 日から起算した通日であり、
以下の式により求められる。
JD = [( −[(14 − 月) / 12] + 年 + 4800) × 1461 / 4]
+ [([(14 − 月) / 12] × 12 + 月− 2) × 367 / 12]
− [[( −[(14 − 月) / 12] + 年 + 4900) / 100] × 3 / 4]
+日− 32075.5
② 太陽黄経・黄緯(λ、β)を求める。
・2000 年 1 月 1 日 12:00UT からの経過日数
n = JD − 2451545.0
・瞬時の春分点に基づく平均黄経
L = 280°.460 + 0°.9856474n
・平均近点離角
g = 357°.528 + 0°.9856003n
・黄経
λ = L + 1°.915 sin g + 0°.020 sin 2 g
・黄緯
β =0
③ 黄経・黄緯(λ、β)を赤経・赤緯(α、δ)に変換する。
・瞬時の平均赤道に基づく平均黄道傾角
ε = 23°.439 − 0°.0000004n
・赤経
α = λ − ft sin 2λ + ( f 2)t 2 sin 4λ
ここで、 f = 180 π t = tan(ε 2)
・赤緯
δ = sin −1 (sin ε sin λ )
④ 赤経・赤緯(α、δ)から高度・方位角(h、A)を求める。
・2000 年 1 月 1 日 12:00UT からの経過日数を 36525 日単位で測ったもの
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T = ( JD − 2451545.0) / 36525
・UT0時のグリニッジ視恒星時
θ 0 = 6 h 38m 45s.836 + 8640184 s.542T + 0 s.0929T 2
・恒星時
θ = θ0 + θ ′ + t
ここで、
θ ′:観測地点の東経(三鷹:139°44′29.27′′E) t : UT 0時からその瞬間までの経過時間
・高度
h = sin −1 (sin φ sin δ + cos φ cos δ cos(θ − α ))
・方位角


cos δ sin(θ − α )
A = tan −1 

 − cos φ sin δ + sin φ cos δ cos(θ − α ) 
ここで、 φ:観測地点の緯度(三鷹:35°39′27.7′′N)
⑤ 天の北から測った自転軸の方向 P、太陽中心の太陽面経度 B0、
太陽中心の太陽面緯度 L0 を求める。
・天の北から測った自転軸の方向(Position angle)
P = − tan −1 (cos λ tan ε ) − tan −1 (cos(λ − Ω) tan I )
ここで、 Ω = 73°40′ + 50′′.25t
さらに、1850 年 1 月 1 日 12:00UT からの経過時間(単位は年)
t = ( JD − 2396659.0) / 365.25
I = 7°15′
・太陽中心の太陽面経度(Heliographic latitude of the central point of the disk)
B0 = sin −1 (sin(λ − Ω) sin I )
・太陽中心の太陽面緯度(Heliographic longitude of the central point of the disk)
L0 = tan −1 (tan(λ − Ω) cos I ) + M
ここで、 M = 360° −
360°
( JD − 2398220.0)
25.38
38
☆CCD、ダーク、フラットについて
CCD とは「Charged Coupled Device(電荷結合素子)」の略で、光量を電気量として固
定するものである(フィルムは光量を化学反応として固定する)。そのため、CCD 表面(受
光面)には高感度の太陽電池が、その一層下にはそこで発生した電気を貯めるコンデンサ
が作りこまれている。コンデンサに貯まった電気量を読み出して、濃淡のモザイク模様
を作り出している。CCD カメラにとって、写真フィルムに当たるものが CCD チップで、
これは多数のピクセルと呼ばれる小さな四角形の受光面の集まりである。このピクセル
のそれぞれは、そのピクセルに当たった光の量に応じて電気が貯まり、これを一列ずつ
読み出しながら、AD コンバータ(アナログデジタル変換器)でデジタル変換し、ピクセル
ごとにコンピュータで数字として記録する。これをカウント値という。たとえば下図の
ように CCD 上に星の像を結ばせたとすると、星の像の出来た場所には多くの光が当た
るので、大きな数字が対応する。空白の部分は0、つまり光が当たっていない場所であ
る。このデータから画像を作るには、ピクセルの各位置に相当する場所に、カウント値
に応じて明るい色で塗っていけばよい。カウント値がゼロの場所は真っ黒にする。
今、何も光が当たらないところはカウント値が0であると述べたが、これは現実的には
かなり理想化した状態である。実際には、それぞれのピクセルにおいて、何も光が当た
っていないのに、じわじわとカウント値が増えていくという現象が起こる。この光が当
たっていないのに勝手に増える成分をダーク(暗電流)という。ダークがあると、先ほど
の星の画は周囲が明るくなってしまう。また、ダークの増え方はピクセルによって若干
異なるため、ザラザラした画になってしまう。
39
ダーク成分の増えるスピードは、CCD チップの温度に依存し、温度が低いほうが増え方
が遅い。したがってダーク成分を出来るだけ減らすために、液体窒素などを使って CCD
チップを冷却する。しかしこれでも完全にダークが取り除けるわけではないので、画像
処理によってダーク成分だけを引くことが必要である。ダーク成分だけの画像を作るに
は、シャッターを閉じたまま星の画を取ったときと同じ温度、同じ露出時間で画像を撮
ればよい。たとえばいまの場合では、以下のような画が撮れる。
これを元の画像から引けば、暗電流分が差し引かれた星の画像が得られる。
−
=
次に、フラットについて説明する。フラットとは、一様な光源を CCD カメラで撮影し
たものである。当然得られる画像も一様に明るいはずだが、ピクセルごとの感度の違い
や、望遠鏡の周辺減光、CCD チップ上についたゴミなどの影響で、ムラのある画像にな
る。そこで、フラット画像で天体の画像を割り算することで、天体画像のムラを補正す
る。ここで注意が必要なのは、フラット画像にもダーク成分はのっているので、天体の
画像、フラット画像それぞれからダーク成分を引いた後、フラット画像により天体画像
を割り算するということである。
以上をまとめて、撮影されたデータを処理する最初の手続きは、以下の式で与えられる。
(ダーク画像 A、B はそれぞれ天体画像、フラット画像と同じ露出時間のダーク画像。)
40
※ 今回の観測で用いた装置には、フラット画像を取る機構が無いため、
フラット処理は行っていない。
41
ダウンロード

シーロスタットを用いた太陽 の分光観測による速度場解析