弘 前 医 学 62:117―121,2011
原 著
LEMD3 遺伝子のエクソン / イントロン接合領域に遺伝子変異を認めた
Buschke-Ollendorff syndrome
是 川 あゆ美 中 野 創 六 戸 大 樹 赤 坂 英二郎
中 島 康 爾 豊 巻 由 香 澤 村 大 輔
抄録 Buschke-Ollendorff 症候群
(BOS)
は近年 LEMD3 遺伝子の変異により発症することが明らかになった.これまでは
変異解析症例がきわめて少なく,病態と変異との関係が明らかになっていない.本研究では臨床的に BOS が疑われた 1 家
系について遺伝子変異解析を行った. 5 歳男児の発端者は背部と腹部に,無症候性,常色の円形または卵円形の扁平小結
節を有していた.病理組織では真皮から皮下脂肪織内にかけて膠原線維の著明な増生を認めた.骨レントゲン写真は正常
であった.発端者の父,姉にも体幹に同様の結節がみられた.骨レントゲン写真では,父の長管骨に骨斑紋症の像を認め
た.以上より BOS が疑われた.遺伝子変異解析を行った結果 LEMD3 遺伝子のエクソン 6 /イントロン 6 接合部において,
G が T に変わる遺伝子変異が同定され,発端者の父と姉にも同変異が検出されたことから BOS の診断が確定した.今回
同定された変異がどのような病的意義を有するか,分子生物学的に議論する.
弘前医学 62:117―121,2011
キーワード:Buschke-Ollendorff 症候群;LEMD3;遺伝皮膚疾患.
ORIGINAL ARTICLE
BUSCHKE-OLLENDORFF SYNDROME PATHOGENETIC MUTATION IN AN
INTRON/EXON BOUNDARY OF THE LEMD3 GENE
Ayumi Korekawa,Hajime Nakano,Daiki Rokunohe,Eijiro Akasaka,
Koji Nakajima, Yuka Toyomaki and Daisuke Sawamura
Abstract Buschke-Ollendorff syndrome(BOS)is recently shown to result from mutations in the LEMD3 gene. This
study examined a 5-year-old boy with asymptomatic multiple flesh-colored round or oval cutaneous plaques on his
abdomen and back. Skin biopsy specimen revealed increased amounts of collagen in the dermis extending into the
subcutaneous fat. Radiographs of the long bones were normal. Physical examination on the other family members
demonstrated that the proband s father and the elder sister had similar skin plaques on their trunk. Radiographs
of the long bones revealed osteopoikilosis in the father. These findings made a diagnosis of BOS. We performed
a mutational analysis of the LEMD3 gene using genomic DNA extracted from peripheral blood leukocytes. Direct
sequencing of all exons and intron/exon boudaries of the LEMD3 gene, identified a nucleotide change in the intron6/
exon6 boudaries in all the affected family members. We discuss the possible molecular pathogenic mechanism of BOS
in relation to the defect of LEMD3 function.
Hirosaki Med.J. 62:117―121,2011
Key words: Buschke-Ollendorff syndrome; LEMD3; genodermatosis.
弘前大学大学院医学研究科皮膚科学講座
別刷請求先:中野 創
平成22 年12 月24 日受付
平成23 年 1 月 5 日受理
Department of Dermatology, Hirosaki University
Graduate School of Medicine
Correspondence: H. Nakano
Received for publication, December 24, 2010
Accepted for publication, January 5, 2011
是川,他
118
に骨斑紋症を認めたが,発端者には認めなかった
はじめに
(図 1b).一般採血では,家族は全て正常範囲内
Buschke-Ollendorff 症候群
(以下 BOS)はまれな
であった.以上の所見より本家系 をBOS の 1 家
常染色体優性遺伝疾患である.発症頻度は20000
系と診断した.
人に 1 人といわれており,皮膚に結合織母斑が
十分なインフォームドコンセントを得た後,発
多発し長管骨や骨盤に骨斑紋症や骨流蝋症を伴う
端者とその家族から採取した末梢血リンパ球から
1)
症候群である .本症候群は TGF-ȕ/Smad シグナ
ル伝達経路に抑制的に働く LEMD3 タンパク分
子をコードする LEMD3 遺伝子の変異により発症
ゲノム DNA を抽出し,LEMD3 遺伝子について
遺伝子変異検索を行った2).発端者の LEMD3 遺伝
子に存在する全てのエクソンおよびイントロン/
する2).BOS の臨床症状は非常に多彩であり,本
エクソン接合部とを PCR 法を用い増幅させ,そ
症は致死的疾患ではないが特異な外観を有する皮
れらのシークエンスを解析した.また,変異を認
めた部分の PCR 産物を制限酵素 Mse l を用いて
膚病変が家族内に種々の程度に発現するため,確
定診断をし,的確な遺伝カウンセリングを行うこ
とが,患者の精神的苦痛を取り除くために必要で
消化し,正常な PCR 産物での断片のサイズとで
比較した.さらに,Mse l を用いた制限酵素断片
ある.しかし,これまで遺伝学的解析例が皆無
長多型解析を発端者の家族全員に行い,同じ遺伝
3)
に近く,遺伝子診断法の確立が望まれていた .
子変異が検出されるか調べた.また,104 人の健
BOS でみられるこうした表現型の多様性がどの
常日本人に対しても検索し,同じ変異が検出され
ようなメカニズムで生じるのかは,解析された症
るかを調べた.
例が極めて少ないため未だに明らかになっていな
い.LEMD3 遺伝子異常についてはこれまで国内
外合わせてわずか15 種類の変異しか報告されて
結 果
ないため,遺伝子変異と臨床症状の関係も全く不
発端者の LEMD3 遺伝子へのシークエンス解
明である.
析の結果,エクソン 6 /イントロン 6 接合部にお
今回,我々は LEMD3 遺伝子にこれまで報告の
いてイントロン側の G が T に置換される変異を
ないスプライシング異常を同定した,BOS の本
邦 1 家系について分子遺伝学的解析を行ったの
認めた
(図 2a)
.エクソン 6 /イントロン 6 接合
部を含む 436bp の PCR 産物を制限酵素 Mse l を
で述べる.
用いて消化すると正常な PCR 産物は 209,109,
64,32,22bp の断片に分かれるが,変異を有す
症例と方法
る PCR 産物では新たに消化部位が 1 か所生じ,
症例は 5 歳男児で,体幹に多発する自覚症状
154,109,64,55,32,22bp の断片に分かれた
(図 2b).Mse l を用いた制限酵素断片長多型解析
のない皮膚の隆起性病変を主訴に受診した.初め
を家族全員に行ったところ,症状を有する父親と
て皮疹に気付いたのは生後 5 か月頃で,下背部
姉が発端者と同じ変異をヘテロ接合性に有するこ
に生じたものだった.受診時の臨床所見として
とが分かった.さらにこの遺伝子変異の有無を
は,腹部と下背部に常色で円形ないし楕円形の局
104 人の健常日本人について検索したが,同変異
面が多発していた(図 1a)
.それらは左右非対称
はどの健常者にも検出されなかった.従って,今
に分布し,表面は健常皮膚で覆われていた.発端
回同定された変異は単なる遺伝子多型ではなく,
者の下背部の皮疹からの皮膚生検では,真皮から
病的変異と考えられた.
皮下脂肪織にかけて膠原線維の増生を認めた.発
端者の父親と姉には小範囲であるが,下背部に結
合織母斑に類似した同様の皮疹がみられた.しか
考 察
し,母親には明らかな皮膚症状はなかった.骨の
本症例においては,LEMD3 遺伝子のエクソン
単純レントゲン撮影では,父親の長管骨と骨盤骨
6 /イントロン 6 接合部に存在する,正常なスプ
LEMD3 遺伝子と BOS
119
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図 1 .a:発端者の体幹に,常色で円形∼楕円形の局面が多発している.
b:父親の大腿骨レントゲン写真では,骨斑紋症を認める(矢印).
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図 2 .a:LEMD3 遺伝子のエクソン 6 /イントロン 6 接合部にイントロンの G が T に変わる変異を認めた.
b:制限酵素消化法では,発端者とその父,姉に同一の変異を認めた.
c:家系図(矢印は発端者を示す).
ライシングに必要な普遍的ドナー配列の変異が同
ることにより,C 末端が欠失した短い LEMD3 分
定された.そのために LEMD3 メッセンジャー
子が生じることが発症に関与していると考えられ
RNA のスプライシング異常を来たし,結果的に
た.変異から推測すると,野生型 LEMD3 分子
フレームシフトを起こして早期停止コドンが生じ
は910 アミノ酸であるのに対して,変異 LEMD3
是川,他
120
図 3 .野生型 LEMD3 は910 アミノ酸であるのに対し,変異型 LEMD3 は619 アミノ酸と短い.
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図 4 .変異 LEMD3 は TGF-ȕ/Smad シグナル伝達を抑制できず,コラーゲン産生が亢進する.
は619アミノ酸であり,これは C 末端側約 1 / 3
知られ,表現型いくつかが重複する Cowden 病
が欠失し,Smad 分子と物理的に結合する部位を
欠いているので,変異 LEMD3 は TGF-ȕ/Smad
と Lhermitte-Duclos 病はいずれも原因遺伝子は
PTEN 遺伝子である.以上のように, 1 つの遺伝
シグナル伝達を抑制できなくなると考えられる
子異常がどのようにして多彩な表現型を出現させ
るのかを説明するメカニズムは未だに明らかに
(図 3 ).
現在までに LEMD3 遺伝子変異は15種類報告さ
4∼6)
なっていない.
.LEMD3 は BOS のみな
BOS において結合織母斑が皮膚になぜ生じる
らず骨流蝋症の原因遺伝子でもあるが,骨流蝋
のかは明らかになっていない.結合織母斑は病理
れているに過ぎない
7)
症では皮膚病変を全く伴わない .さらに皮膚に
組織学的および生化学的にⅠ型コラーゲンの過剰
結合織母斑が多発する家族性皮膚膠原線維腫の原
な沈着であることが分かっている.TGF-ȕ はⅠ
因遺伝子も LEMD3 であるが,本症は骨病変を
併発しない.同様の事例は PTEN 遺伝子変異でも
型コラーゲン,エラスチン,フィブロネクチン等
の細胞外マトリックスの産生を増強することが広
LEMD3 遺伝子と BOS
く知られている8).TGF-ȕ/Smad シグナル伝達経
路を抑制する LEMD3 が機能不全を起こしてい
るために,皮膚局所において何らかの刺激で生じ
た本シグナル伝達経路が過剰に働くために,Ⅰ型
コラーゲン産生が亢進し,結果として結合織母斑
が生じていると考えると理解しやすいが
(図 4 )
,
この仮説を証明するためには,さらなる研究が必
要であり,野生型 LEMD3 分子と変異LEMD3 分
子の組織レベルでの作用の違いや,それによって
生じるⅠ型コラーゲンの発現量の比較での研究が
今後望まれると考える.
今回の研究では,臨床的に Buschke-Ollendorff
症候群が疑われた 1 家系において,LEMD3 遺伝
子にこれまで未報告の変異を同定し確定診断を得
ることができ,遺伝カウンセリングおよび希少性
疾患の診断法確立にとって極めて有用であった.
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LEMD3 遺伝子のエクソン / イントロン接合領域に遺伝子変異を認めた