第6章 日射ゾンデ*
気象研究所におけるr中層大気の研究」の一環として、・中層大気の放射収支を把握する目的で、
次章に述べる放射ゾンテによる赤外放射フラックスの高度分布の測定とともに、日射フラックスの
高度分布の測定を昭和57年度から昭和59年度にかけての3ケ年間おこなった。以下でその結果をの
べる。。最初に日射ゾンデの構造および、その器械常数の決定について述べる。
6.1 日射ゾンデの構造および器械定数の決定
日射ゾンデの外観図を図6.1に示す。日射ゾンデは上向きおよび下向き水平面日射フラックスを
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①センサー取付アーム ②外ばこ ③ふた止めひも ④搬送波発振部 ⑤低周波発振部 ⑥P79型
4
断続式気圧計 ⑦気温用サーミスタ ⑧注水電池⑨下向き水平面ll射計 ⑩L向き水平而ll射計
⑫電源接続コネクタ ⑭1.1射計傾斜計接続コネクタ ⑮気温領斜計接続コネクタ ⑯P7∼)型断続式
気圧計接続コネクタ ⑰気温川サーミスタ接続コネクタ ⑱較正用スイッチ ⑲つるしひも
図6.1 日射ゾンデの構造
測定するセンサー部,’送信部および気温センサー等付属センサーより成る。センサーは、英弘精機
製のネオ日射計を軽量化したものを用いた。各センサーの受感面は黒および白の面から成り、その
*嘉納宗靖、柴田裕司、鈴木正:元高層物理研究部、宮内正厚:気象庁海洋気象部、八尾孝、青木忠生、
水野芳成、青木輝夫:高層物理研究部
一115一
気象研究所技術報告 第18号 1986
大きさは直径約5㎝である(図6.1参照)。 入射した日射によって、黒白の面の間に熱起電力が発
生し、これによる電圧が周波数に変換されて地上へ送信される。このようにして送信された周波数
は、地上でF−V変換器によって電圧に変換される。更に、この電圧に器械定数を乗ずることによ
って、各高度の上向きおよび下向き日射フラックスが得られる。
上述の日射ゾンデ受感面に発生した電圧を日射量に変換する変換係数すなわち器械定数は、水平
面日射計の検定と同様にして次のようにおこなう。雲のない快晴の日を選び、直達日射計による直
達日射の測定と、日射ゾンデによる水平面日射の測定を同時におこなう。直達日射の測定値を∫o、
そのときの太陽高度をh、日射ゾンデに生じた電圧をγ、さらに日射ゾンデに直達日射が当たらな
いようにしたときの電圧をy’とすると、器械定数kは次式で与えられる。
(6.1)
10sin (h) 二為 (1/一V「’)
このようにして各日射ゾンデの器械定数を決定した。
6.2 日射ゾンデの揺れの補正
日射ゾンデの測定で最も厄介な問題は、日射ゾンデの揺れに基づく誤差である(嘉納他1973、
1978)。下向き日射フラックスはその大部分が直達日射に基づくものである。このため、太陽光の方
向と日射ゾンデ受感面の法線とのなす角がゾンデの揺れによって変化すると、それに伴って、下向
き日射フラックスの測定値がかなり変動する。そこで、この揺れによる変動を補正することが測定
上非常に重要となる。一方、上向き日射フラックスは、次章で述べる放射ゾンデの場合と同様に、
快晴の場合にはあらゆる方向からほぼ同程度で入射するので、ゾンデの揺れの影響は殆どない。そ
れ故、ゾンデの揺れの影響は下向き日射フラックスの測定の場合に限られる。次にこの揺れによる
下向き日射フラックス測定値の変動を補正する方法を述べる。
バルーンから吊り下げられたセツサーは緩かに円を描きながら上昇する。バルーンからセンサー
までの吊り糸の長さは約50mで、円運動の周期は平均して12∼16秒くらいである。実験は冬期に行
われたのでバルーンが日射をさえぎり、センサrがバルーンゐ陰に入ることはまず起こらない。
(i)バルーンが水平面内を等速円運動をしていると仮定したとき
バルーンと太陽の位置関係等を図6.2のように定める。1回転したときの日射の計測値の最大を
1脚∫、最小を1癬πとし、これからセンサーの傾きを求める。太陽、およびセンサーの法線の方
位角をφ、φ’両者のなす角度をθ’とすれば、センサー面での日射量∫は
1一∫。COSθ’
一∫・(sinθSinφSinζSinφ’+SinθC・SφSinζC・sφグ+C・SθC。Sζ)
一10(sinθsinζcos(φ一φ’)+cosθcosζ)
一116一
(6.1)
気象研究所技術報告 第18号 1986
ル Imax
∼認.
NORMAL
δ
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O
ノ
h
8%
量10RIZON
ζ
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n
ソ
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−吻
−
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(a)
図6.2
センサー面と太陽の位置関係 (b)
1
で与えられる。ここでθは太陽の天頂距離(ニーπ一h),ζはセンサー面の水平面から傾きであ
2
る。∫が最大になるのはφ一φ’のときだから
砺砒一1。c・sθc・sζ+sinθsinζ
一1。cos〈θ一ζ) (6.2)
逆に1が最小になるのはφ=φ’±πのときでこのとき
∫痂π一1。cos(θ+ζ) (6。3)
(6.1)、 (6.2)カ〉ら
1脚劣一1雁π 1
t anζ= (6.4)
砺。∬+∫煽π tanθ
このように求めたζを使って、水平面日射量は
1粥∬ +1癬π
1セー1。cosθ= (6.5)
2cosζ
として計算できる。
実は、その値は砺、∫、∫謝.でなくても(6.1)を使って任意の観測値から計算できる。等速
円運動を仮定し、半周するのに要する時間、すなわち1紹。から∫癬。 を観測するのに要する時
一117一
気象研究所技術報告 第18号 1986
間をTo秒とする。1秒間に10回の観測を行うので
π
δ=
(6.6)
10To
なる角度毎に観測を行っていることになる。Toは8秒くらいのオーダーなので、/吻∬と∫痂
は図6.一2(b)のようにほぼ直線上の方向にあると近似できる。’すると玩、.からn番目の観測、
1吻計πと∫瞬箆より銘番前の観測、∫癬η一% を使うと
1甥σ劣+π+∫而π.π=21。c・sθc・sζ ≡Pη
(6.7)
1別8∫+π+∫而η.π一21・c・sθc・sζc・snδ……Q銘
より
1
(?π
tanζπ一
Pη
(6.8)
tanθcosηδ
として別なζの値が得られる。
実際にはこのようにして計5To個の%に対して求めた水平面日射量の平均値を採用した。なおこ
のときζの平均や分散も計算した。
これらの高度別水平面日射量を図6.3に示す。なおこのときのバルーンの高度は、半回転すると
10
198q,2,16
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0・91・01・1覧1・21・31・4 0・91。01.11.2.1.3
FLUX(ly/min》
図6.3
日射計が水平面内を円運動していると仮定して
補正した水平面日射量。1984.2月16日
一118一
気象研究所技術報告 第18号 1986
きの中央の時刻の気圧を採用した。’個々の観測値のばらつきは非常に大きい。しかし地上から700
mbくらいまでは、日射量は急速に増加し、以後500mbまで、次第に増加はゆるやかとなり、更
に100mbまで増加傾向は続いている。しかしそれ以後は反対に減少の傾向さえ見える。
(ii)以上はセンサーが水平に回転していることを前提として計算を行った。実際はバルーンは風
に流され、センサーはバルーンに引張られながら回転している。バルーンが水平に回転しているか
どうか判定し、回転が水平に近いものを選択した。その方法を以下に述べる。
① 水平面日射量の標準偏差(σ)による方法
1回の観測は5To組の観測値からなる。これらの標準偏差をとり、σがo.oo51y以下のもの
をとる。
② センサー面の水平からの傾きζのばらつきの程度による方法
①と同様5To組のζの最大と最小の差∠ζをとり、∠ζが0.50以下のものをとる。
③ 受信周波数の波形による方法
バルーンが水平に回転しているとき、砺砿のときの周波数をF1とすると、これからδだけ回
転したときの周波数F2は次の式により求められる。
1。sinθ・sinζ(cosπ一cos(π+δ))
F2= +Fl
Fた・∂3/(HR−LR)
HRニHigh Reference
LR=Low Reference
∂3一発信器の標準電圧
Fた一日射計の定数
θ 一天頂角
こうして求めたF2と実際の周波数を較べたものを図6−4に示す。判定に当って、実際の計算
は恥、芳から、1編.までの半回転について計算値(F。al)と観測値(F。b§)の差の平均が2・O Hz
以下、差の最大が4Hz以下のものをとった。①∼③の方法により観測値を選びプロットしたものを図
6.5と図6.6に示す。最初の図6.3のばらつきより小さいが、まだ大きい。.
(iii)以上の選択方法で、更に条件を厳しくすると、残った観測値は極端に少なくなる。バルーン
が上昇するにつれ、日射量は減少することはまずないという仮定を入れて、プロットしたものが図
6.7から図6.12である。
一119一
気象研究所技術報告 第18号 1986
ハ 8302S O・45
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obs.
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ザ 8304S 38.47
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0
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770
760
2
4
TIME (SEC)
6
8
図6.4 受信周波数の時間変化の観測値と計算値
15
20
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図6。5
0・91・0”07σ8091、0
FLUX(lylmh)
lFcal−Fcbsl<2.OHz、1∠Fl惚∫.<4.OHz、左
はσ<0。01、1∠ζ1<LO。右はσ<0。005、1∠ζ1
<α50の条件を満たすデータだけのプロット(ただしσは
下向き日射量の標準偏差)1984年1月13日10時37分。
一120一
気象研究所技術報告 第18号 1986
10
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図6.6
F曲線がスムーズでσ<0.01、ζ届ax一ζ』in<1。(σは下向き
日射量に対するもの)。 1984年2月16日
10
198向。1,9
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1旧
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︵含︶毘8。。Uま
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1000
0,10,2 0,3
0,7 0,8 0。9 1,0 0,5 0,7
0,8 0,9 1,0
FLOX{敷ソ’・hh
図6.7 図6.5−6.6より厳しい条件でデータを選択したもの。1984年1月9日10時55分から79分間
一121一
気象研究所技術報騨18号1986
ユ98正1・1・15
UP
DO、’JN
NET
0,1 0.2 0,3 0,7 0,8 0,9 1,0 0,6 0,7 0,8 0,9 1,0
FLUX 卜(1y’mI“)
図6.8 図6.7に同じ。ただし1984年1月13日10時55分から83分間。
︵曾︶ 甥拐。o窪ユ
頸 m 蜘 珈1
㎜
10
UP
POM1
198り,ll,3D
NET
20
0,1 0,2
0・3 0。70,80,9 LO O,6 0,70,80,9 LO
FLUX (Iy/d,,)
図6.9
図6.7に同じ。ただし1984年11月30日10時35分
一122一
気象研究所技術報告 第18号 1986
198“,12,19
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NET
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500
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01σ203 0・70・6091・00506070.80.91,0
FLUX(ly’min)
図6。10図6。7に同じ。ただし1984年12月19日11時15分から106分間。
20 50 00 00 00
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0・1 0・2 0・3 ・B O9 1・O I・1 12 08 0・9・ 1・O l.1
FLUX(ly/min)
図6.11図6.7に同じ。ただし1985年2月13日11時30分。
一123一
気象研究所技術報告 第18号 1986
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1985,3,23
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5 0 0
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︵9ヒ︶毘⊃のの田庄巳
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Ol O203 ・1・1 12 13 1・4 1・51・1 1.2 篇31.41.5
FしUX(ly l mln)
図6.12図6.7に同じ。ただし1985年3月23日
6.3 観測結果
この章の始めに述べた期間中に飛揚した日射ゾンデ10台のうち、第1年度のものは、ゾンデの揺
れ測定センサーの精度が悪く、揺れを補正することが困難となり、日射フラックスの高度分布を知
るには不適当なものとなった。そこで第2年度からは揺れ測定センサーをゾンデに設置することを
止めて、前節に述べた方法でゾンデの揺れを補正する方法に改め、このため下向き日射フラックス
を測定する時間を延ばすように、ゾンデの信号切換の改良をおこなった。これによって、第2年度
以降の観測値に前記のような補正をほどこすことができた。その結果が前記の図6.7から図6.12に
示される。
図6.10を除くこれらの図から分るように、下向き日射フラックスは、高度が増すとともに増加し、
この増加率は当然のことながら下層大気程大きく、高度とともに小さくなっている。すなわち、下
層大気程空気や水蒸気およびエーロゾルのような日射を減衰(散乱および吸収)させる.要因物質が
多いことを示す。
次に、上向ぎ日射フラックスを見ると、下向き日射フラックスに比較して高度による変化が小さ
いことがわかる。さらに詳細にみると、上向き日射フラックスはある高度(200㌣300mb)で不
連続的に小さくなっている。これはゾンデがこの高度付近で海洋上に出たためと思われる。すなわ
ち、陸地表面の日射に対する反射率はおよそ10∼30%程度で、一方海面のそれは数%程度で、かなり
一124一
気象研究所技術報告 第18号 1986
小さい。そのため、同一条件下では海洋上の上向き日射フラックスは陸地上のそれに比較して小さ
くなることによる。上向きフラックスのこの他の細い変動は、ゾンデ飛揚時で快晴とは言え、海洋
上その他で幾らかの雲(日射反射率40∼70%)の存在および複雑な地形の霞ケ浦(日射反射率∼5
%)の存在等に主としてよると思われる。
下向き日射フラックスから上向き日射フラックスを差引いた日射のネットフラックスは下向き日
射フラックスとほぼ同様な高度変化をしていることがわかる。すなわち、日射のネット・フラック
スは高度の増加とともに増加している。これは日射が大気中で吸収されていることを示す。そこで、
上記の日射ネット・フラックスの観測値から20∼100mbおよび20∼1,000mbの大気層で吸収され
た日射量およびこの吸収による大気の加熱率を表6.1に示す。この表の日射の吸収量およびそれに
よる大気の加熱率がやや大きく、特に1995年3月23日の場合は大きすぎると思われる。今後は、地
表面アルベドの変化の影響等を考慮することが必要であろう。
表6.1 吸収日射量(∠職)とそれによる大気の加熱率
Time
20∼100mb
∠F“
(・ly/min)
20∼1,000mb
4T/4≠
(。C/day)
∠Fハ1
(ly/min)
4T/ゐ
(。C/day)
Jan.9,.’84
0,035
2.6
0,295
1.8
Jan.11,’84
0,025
1.8
0,250
1.5
Nov.30,’84
0,020
1.5
0,275
1.7
Feb.13,’85
0,015
1.1
0,295
1.8
Mar.23,’85
0,045
3.3
0,400
2.4
図6.10をみると、上向き日射フラックスが200mbの高度を超えると、急激に増加していること
がわかる。この原因はよく分らないが、多分海洋上でゾンデがこの高度に達した頃、その下の高度
に発生した多量の雲かあるいは既に発生している雲の影響によると思われる。
一方、下向き日射フラックスは40mb以上の高度で減少しているが、この原因についてはよく分
らない。
参考文献
嘉納宗靖・広田道夫(1978):輻射ゾンデ・日射ゾンデの問題点、気象庁技術報告第93号、361∼
363。
嘉納宗靖・鈴木正(1973)1日射ゾンデ、天気20,609∼612。
一125一
ダウンロード

日射ゾンデ - 気象研究所