一44一
電卓シリーズ(7)
鉱物結晶構造の
作図
金沢康夫(鉱床部)
1.はじめに
鉱物結晶は一般に規則正しい外形をもつ.結晶の多
くは多面体でありそれぞれ特有の対称性に支配されて
いる.鉱物結晶の外形の作図については前回に紹介し
たカミ(金沢本誌284号)外形の規則正しさは結晶内部
の原子配列が規則正しいためである.そこで今回は結
晶内部に目を入れて内部の原子配列すたわち結晶構造
がどのようになっているかを見よう.
光学顕微鏡では直接目で見ることのできない結晶内部
の原子配列を調べるにはX線の回折現象を使う方法がも
っとも有力である.X線による回折データをもとにし
て我々の目で見える形に結晶内部を拡大する“レンズ"
の役割を果たすのカミX線結晶構造解析である.膨大な
量の計算を伴う構造解析の仕事も電子計算機の登場でそ
の作業能率が格段に上カミってきた.また近年プロッ
ター等の周辺機器の発達で計算機による結晶構造の作図
が可能になった.この種の作図プログラムとしては
C.KJo亘Ns0N(1965)によるORTEP(AFORTRAN
Thermal-E11ipsoid-P1otProgramforCエysta1Structuエe
I11ustratiOns)カミ今世界の結晶関係の論文で盛んに使用
されている.日本でもいくつかの大学でORTEPの
書き直しか行われ計算機センターのライブラリーとし
てすでに登録ずみである.ORTEPは結晶構造の作図
に関するいろいろな機能をもつ非常にすぐれたプログラ
ムである.しかしプロッターを使用する大型計算機向
けのプログラムであるために手軽に使用できるという
わけにはいかない.またデータの入力の仕方や多くの
機能を使いこなすには慣れ狂いうちはむずかしい.
そこで今回ORTEPをもとにして卓上型計算機(内
部メモリーは6K語ぐらい)でも手軽に使える結晶構造の
作図プログラムを作成した.このプログラムは会話型
言語であるBASICにより書いた.BASICは図形処
理には特にすぐれている(小出本誌286号).それは会
話型である利点の他に図の描き直しの判断を演算途中に
入れたり場合に応じたプロ'グラムの変更も容易に行え
るからである.今回の作図プログラムはORTEPそ
のものをBASICで書き直したものではなくORTEP
の考え方を筆者流にプログラミングしたものである.
そしてプログラムを簡便化するためにORTEPのもつ
多くの作図機能のうちよく使われると考えられるものだ
けを採用しまた筆者カミー部付け加えた点もある.た
お飯高ら(1971)によるORTEPの解説カミあるので参
・考にしていただきたい.
z原子の熟振動の表示
これまでの結晶関係の書物に載っている結晶構造図と
言うと結晶中の原子を単に球で表わして特定の方向か
らながめた投影図である場合カミ多かった.しかし近年
鉱物を含めて複雑な構造をもつ結晶カミ解析されるように
なりかつ解析の精度が向上してくるとそれをもとに結
晶中の原子の熱振動や化学結合についての議論もできる
ように放った.まず第1図を見ていただきたい.こ
れは今回作成したプログラムで描いた1つの結晶構造例
であるがこの中で原子は球ではなくてフットボールが
つぶれたよう校形(楕円体)で表わされている.この楕
円体は実は原子の熱振動している様子を表わすものであ
って楕円体の伸びている方向に熱振動が大きいことを
示している.この楕円体を熱振動楕円体と呼んでいる.
また楕円体原子の間に描かれた円柱状の棒はその原子間
の化学結合を示すものである.さらにこの構造図は左
右一対の立体透視法により描かれている.そのため我
々は構造を立体的にとらえることカミできる.このこと
は以前原子を球だけで表わした投影法に比べて大きな進
歩である.第1図のような構造図の描き方カミもっとも
一般的であるが後に示すように構造図のいろいろな描
き方がある.
さて作図に必要な入力データというのは結晶構造解析
により得られるのでその辺のことについて少し話して
おこう.
結晶はいくらかの原子の集まりが三次元に繰返してで
きたものであるからその繰返しの最小単位の中味を見
つける必要がある.三次元の結晶では最小の繰返しの
単位は単位格子と呼ばれる平行六面体である.この単
位格子に含まれる原子の配列状態を見つけ出すことが構
造解析である.ところで結晶内にはその繰返しのため
にいろいろな方向に原子綱面と呼ばれる原子による面並
一45一
第1図
700.Cにおける透輝石結晶構造
の一部FING朋andO亙AsHI
(1976)のデータによる作図で
ある
びができている.原子綱面はそれぞれ方向を示すん,尾,
Zという3つの指数により識別されるが指数(ん尾Z)
の面に対してX線カミ入射した場合次の有名なBraggの
回折条件カミ浦たされた時X線は反射される.
位を表わすことができる.この時のB11B22…を非等
方性温度因子と呼んでいる.もし平衡位置からの変位
カミ空間内のどの方向に対しても同じであるならば
7「=exp(一BSin2θ/λ2)
sinθ=〃23舳(4舳1は(ん尾Z)面の面間隔)(1)
実験ではいろいろな方向の(ん")面による反射強度を
可能な範囲内ですべて測定する.X線の強度ム初は結
晶構造因子亙舳1と呼ばれる量と次の関係があるが
み舳㏄1亙舳12
㈩
実はこの結晶構造因子亙棚1が先ほど述べた単位格子の
中味と関係しているのである.もし単位格子内の原子
の種類カミわかっているのなら亙舳は原子の平衡位置("
ツz)と熱振動による平衡位置からの変位丁の関数にな
る.普通丁を
と表わすことができこの時の3を等方性温度因子と呼
んでいる・結局構造解析では回折強度をもとにして
単位格子内にある原子の種類とそれの座標および温度因
子を決定することになる.
さて詳細た議論はORTEPの原著を参照していただき
たいが構造解析より得られたη番目の原子の座標を
x刎温度因子をみとして
(X-X、旦)o皿バ1(X-X柵)=C2
(ただし坪冊は対称分散マトリックスで批珊=届冊/2π2の関係に
ある)
フ1=exp{一(ん21先1+石2B22+Z2-8a3+2んんB12
+2〃月。3+2尾ZB。。)}(3)
あるいは書き直して
71=eXP(一尻tβκ)
ここでイ)一(l11隻1萎1)
と表現すると非常に良い近似で熱振動による原子の変
という楕円体の式を作るとCの値に対応して原子が上
式の楕円体内に含まれる確率を計算することができる.
そしてその確率カミ側えばα9であるならばこの楕円体
を90劣確率の楕円体と呼んでいる.ちなみに先の第1
図の構造は50%確率の楕円体で描いてある.
ここで注意しておかなけれぱ柱らないことは温度因子
という量は結晶全体の平均的変位を表わす量であって必
ずしも熱振動のみを表現する量ではないということであ
る.もし解析の結果ある原子について温度因子の大き
な値が得られた場合それが熱振動以外の理由によるか
も知れないことを考慮し狂ければならたい.
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3.作図の方法
前の(6)式で座標と温度因子(原子パラメーター)とCの
値が与えられるとそれに対応する確率をもつ楕円体の
方程式ができることを述べた.次にその楕円体および
結合線を具体的にどのように作図するかを述べよう.
3.1楕円体の作図法
一般的に楕円体を
ア5=五γ4
ここでア4を楕円体の中心から極へ向かう観測ベクトノレ
とする.作図ではア5に垂直た2つの共役なベクトノレ
を用いて輪郭の楕円を合成していく.また主軸γ1と
γ2でできる主楕円3は主軸γ3に垂直であり次式で
表わされるベクトノレにより輪郭楕円の表側と裏側に分け
られる.
x`五x=3
γ8=γ5xγ3
と表わしておこう.ここで五を3行3列の楕円体を示
すマトリックスとする.以下の説明では座標の原点を
すべて楕円体の中心に置いている.適当な座標変換を
行えば五を対角行列にすることカミ可能であり五の固
有値と固有ベクトノレを求めることカミできる.これはす
なわち楕円体の主値と主軸ベクトノレを求めることになる.
ORTEPでは主軸を含めた楕円体の表示法に幾通りもの
方法があるがここでは第2図に示したような表示法を
とった.第2図は輪郭の楕円3つの主軸と主楕円を
示し背面は消してある.3つの主軸のうち一番長
い主軸と一番短かい主軸はそれぞれの方向に熱振動が一
番大きいことと一番小さいことを示している.
第3図に楕円体と結合線および極(視点)との関係を示
す.極から見ると楕円体の輪郭は楕円体と極面との交
線であるが極カミ充分遠く離れていると仮定して楕円
体の輪郭を接楕円柱と接するところにできる直径極面に
近似する.直径極面は次式で表わされるベクトノレに垂
直である.
そしてγ8とそれに共役なベクトノレを用いて主楕円3を
合成していく.主楕円12についても同様である.
なお上に書いた2つの共役なベクトノレより合成されるベ
クトノレを単位ベクトルとして(7)式に代入すればベクト
ルの実際の長さを求めることカミできる.
3.2結合線の作図法
結合を示す棒はその結合方向が輪郭楕円を含む直径極
面より表側(極側)へ向いているかまたは裏側へ向いて
いるかにより2通りの場合に分けられる.もし結合方
向カミ直径極面より表側に向いているならば第3図でわ
かるように結合棒と楕円体の交線を求める必要がある.
今交線へいたるベクトノレをxとしてこれを結合方向
のベクトルガ(単位ベクトノレ)と棒の半径ベクトノレηに
分けると(第3図)
x:γサ十∫1
主楕円1
主軸3
主楕円2主軸2
主楕円3主軸1
極(視点)
結合線
結合棒錐
H1接楕円
幹
x、\接楕円柱
・∫'、1
極面
直径極面
第3図楕円体と結合線および極との位置関係
第2図楕円体と結合線の表示法
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となりこれを楕円体の方程式(7)に代入すれば係数3が
求まる.楕円体と結合棒の交線も主楕円と同様に2つ
の共役な半径ベクトノレにより順次合成していく.
次に結合方向が直径極面より裏側にある場合には極
方向に伸びる接楕円柱と結合棒の交線を求める必要があ
る.(ORTEPでは接楕円錐との交線を求めるかここでは
接楕円柱により近似した)接楕円柱の式は結果だけを書げ
ば
x⑰x=3
叶撚111撚111顯ω)
ここで物は五の要素DF峨1η1+α榊2+α脳3(η・,
吻,η・はγ4の成分)K=γ4はγ4と表わされω式
を上の式に代入すれば交線が求まる.
4.計算の流れ
計算過程は計算機のメモリー上の制限により大きく分
けて3部の構成にした.第1部では結晶データの入力
から作図で用いる原子パラメーターの変換までを行う.
第2部は楕円体を作図する過程第3部は結合線を作図
する過程である.第1部で計算した結果は磁気テープ
に出力するので図を描き直す場合には第2部と第3部
をそれぞれくり返し使用すればよい.以下に各部の内
容を示す(第4図参照).
4.1第1部原子パラメーターの変換
①結晶データの入力:格子定数対称操作(同価位置)
原子パラメーターを入力する.
②楕円体の主値と主軸ベクトノレの計算1温度因子から
(6)式で表わされる対称分散マトリックスを作りそ
れらの固有値と固有ベクトルを計算する.固有値
と固有ベクトノレの解法にはBASIC用に書かれた田
中良久(1975)のプログラムをそのままの形で使用さ
せていただいた.
始
結晶テ」夕一の入力
楕円体の主値と主軸ベクトルの計算
原子パラメーターの座標変換
M.T、
作図指示データーの人力
図の回転
楕円体の作図
作図指示データーの入力
原子間距離の計算
図の回転
結合線の作図
終
ヤ
第4図
計算の流れ図
の関係をもつ直交軸のことである.また多重原子
のチェックとプロット領域内への対称操作による拡
大もここで行う.基準直交座標軸に対する原子座
標対称分散マトリックスおよび主値と主軸ベクト
ノレは磁気テープに出力し第2部または第3部の入
力データとする.
4.2第2部勲振動楕円体の作図
⑪作図指示データの入力:図の中心座標回転負作
図法の指示プロッターのスケーノレを入力する.
もし回転角の入力のところでミラー指数ゐ"を入
力すれぱそのん尾z方向に対するx軸と7軸の
回転角を印刷する.これらの作図指示データは第
3部でも用いられる.
図の回転:上で入力した図の中心座標を原点とする
座標の移動および図の回転を行う.図の回転はx
軸γ軸■軸のまわりについてその回転順序を指
定して行う.
③楕円体の作図:前述した作図の方法により輪郭の楕
円主楕円および主軸を作図する.
③原子パラメーターの座標変換:原子パラメーターを
基準直交座標軸に対する数値に変換する.ここで
言う基準直交座標軸xγ■とは格子軸α6cに
対して
x〃αη/α×64/(α×6)×⑭
4.3第3部結合線の作図
⑪作図指示データーの入力:結合線で結ぶ原子の指定
線引きする原子間の距離の上限と下限および結合線
の表示法を指示する,4.2の⑪で入力した共通の
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データは磁気テープから入力する.
④結合線の作図:前述した結合線の作図法により行う.
②原子間距離の計算:上で指定した原子間の距離を計
算する.これは実際に結合線を引くか引かないか
の判断に用いる.
③図の回転:4.2の②と同じ作業を行なう.
5.作図の例
最後に23の作図例を紹介しよう.第5図は第1
図の透輝石の構造をω面に投影したものでMgとCa
原子のまわりの配位多面体のみを示してある.この作
図法はそれぞれの配位多面体を構成しているO原子の間
をある幅をもつ原子間距離で区切って結合線を引かせた
第5図
透輝石の陽イオン配位多面体
ω面への投影図
醐g
第7図
斑銅鉱の結晶構造
A,Sは第6図のA-cubeと
S-cubeを示す
↑.
11111嚢妻11
A
A
…萎糞妻11
1妻1嚢萎1
A
A
l11薬11
→a
→a
《一〇〇一〇S-cob8
《一〇〇一〇S-cob8
第6図
斑銅鉱中の2つの構造単位
A-cubeは逆ホタノレ石型構
造単位
Scubeは閃亜鉛鉱型構造
単位を示す
8げ
I=6
第8図
黄銅鉱の立体透視図
一49一
策9図
キューバ鉱の立体透視図
ものである・ただし配位多面体の裏側に引かれた練合
線はのちに手で消した.
第6∼10図はCu-Fe-S系鉱物の中で鉱床中にもっと
もよく見られる斑銅鉱(C・・F・S・)黄銅鉱(C・F・S・)お
よびキューバ鉱(Cu.F・S。)の結晶構造である.
第67図はK0T0anaM10RI皿0T0(1975)のデータ
による斑銅鉱の結晶構造図でこの構造は第6図に示し
た逆ホタノレ石型の構造単位と閃壷鉛鉱型の構造単位がそ
れぞれ第7図に示すようなモザイク構造をとっている.
第6図の立体珂では原子の温度因子は任意に与えた・
第8図はHム皿andSTEw蝸丁(1973)のデータによる
黄銅鉱の結晶構造で第1図と異なり主軸も描かせた.
第9図はSzY岨★sKI(1974)のデータによるキューバ鉱の
結晶構造で等方性温度因子を入力した.第10図は同じ・
キューバ鉱をM04四面体(M=CuまたはF・)のみで描
かせた透視図である.多面体の描き方は第5図の場合
と同様である.第10図と第5図を見てわかるように
一つの構造単位として配位多面体を選びこれを描かせる
ほうが直感的にわかりやすい構造図ができる.
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散
浥
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灯
瑳楮
慧
㈲
㈸
COLE岨N,Rα,1974およびCOLEMANRGほか1975.(前
出)
〔以下40真下段へつづく〕
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