ベンゼン重水素置換体の構造と励起分子ダイナミクス
(京都大院理)○国重沙知
The Structure of Deuterated Benzenes and Dynamics of Excited Molecules
(Kyoto Univ.) Sachi Kunishige
The study of deuterated benzenes is important physically and chemically to reveal the property of
aromatic hydrocarbons. We observed the high-resolved rotational spectra of the S1 (v6 = 1) ← S0 (v = 0)
transition of deuterated benzenes by the mass-selected REMPI method. From the rotational constants of
these molecules, the C-H and C-D bond lengths in the electronic ground and zero-point vibrational states,
are almost identical. Additionally, we would like to talk the possibility of the high-resolved spectroscopy
of deuterated benzenes for the research of excited state dynamics.
【序】
ベンゼンは D6h という高い対称性を有する典型的な平面芳香族炭化水素であり、これまでには
様々なベンゼン置換体の分光もなされてきた。このなかで特に重水素置換はハロゲン置換などと
異なり電子状態をほとんど変えないため芳香族性の探求には非常に重要となる。
重水素化が分子構造に及ぼす影響の一つに、結合長の変化がある。非調和性のため振動が存在
する準位では C-D 結合長は C-H 結合よりも理論的に短くなり、実際の CH/CD ラジカルの分光で
は R0(C-D) は R0(C-H)よりも 3.8 mÅ 短くなるという結果が得られている[1]-[3]。
一方でベンゼンの励起状態においては、ある励起エネルギー閾値を超えた「第三チャンネル領
域」では蛍光量子収率の顕著な低下が観測されている[4]。この現象には分子の振動と回転が深く
関わっていることが判明している[5]が、詳しい機構は未だ解明されていない。
本研究ではベンゼン重水素化物のうち、全ての 1-5 置換体のν6 準位について超音速ジェットに
よる高分解能スペクトルを測定することで、それら全ての回転定数を得ることができた。その結
果から推測される重水素化ベンゼンの構造を述べると共に、第三チャンネル問題の探索における
重水素置換の展望について考察する。
【実験】
C6H6 と C6D6 の等量混合液をアルミナ存在下で高温
高圧に保ち置換反応を充分
起こさせることによって、13 種の置換体の統計的分
布量の混合液を得た。その超音速ジェットにナノ秒
色素レーザー光を垂直に照射し、励起分子から発せ
られる蛍光を検出しながら光の波長を変化させる
ことによって蛍光励起スペクトルを測定した。さら
図 1. ベンゼン重水素化物の LIF スペクトル
に単一モードレーザーのパルスアンプと質量選別 REMPI 法を用いて、各質量数分子の高分解能ス
ペクトルを測定した。
【結果と考察】
図 1 に重水素置換体のν6 振動を示す。
C6H3D3
帰属は質量分解後の REMPI スペクトル
により決定された。258-260 nm 領域で見
Exp.
られる S1ν6 準位の波数は同位体ごとに
分解されていて重なっておらず、置換の
数に応じた高分解能スペクトルの観測が
可能であることを示唆している。これに
Sim.
従い、1-5 置換体についてそれぞれの回転
1,3,5 - C6H3D3
1,2,4 - C6H3D3
1,2,3 - C6H3D3
スペクトルを観測し、回転定数を決定し
た。一例として実験で得られた C6H3D3 の
スペクトルの一部を図 2 上部に示す。
38692
求められた回転定数により見積られた
38693
38694
38695
38696
-1
cm
図 2. C6H3D3 の高分解能スペクトル
ベンゼンの基底状態における構造を検証
したところ、C6H6, C6D6 における R(C-H) と R(C-D) の差は大きくとも約 1 mÅであるとする先行
研究[6]を裏付け、1-5 重水素置換体にも拡張するものとなった。この結合長の差はラジカルのもの
よりも短く、芳香族に特有の性質ではないかと考えられる。
本講演では同時に重水素置換による第三チャンネルの励起ダイナミクスの応用についても述べ
る予定である。
【Refarences】
[1] K.G.Lubic and T.Amano , J. Chem. Phys. 81,1655 (1984)
[2] P.F.Bernath, J.Chem.Phys. 86, 4838(1987)
[3] I.Morino,K.Matsumura and K.Kawaguchi, J. Mol. Spectrosc. 174, 123 (1995)
[4] Callomon,Parkin,Lopez-delgado,Chem.Phys.Lett. 13, 125 (1972)
[5] U.Schubert, E.Riedle, H.J.Neusser, E.W.Schlag, J.Chem.Phys. 84, 6182 (1986)
[6]M.Baba,Y.Kowaka,U.Nagashima,T.Ishimoto,H.Goto and N.Nakayama, J. Chem. Phys.135,054305(2011)
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