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夏期の関東地方で発現する対流性降水の強化時期に関す
る一考察( fulltext )
澤田,康徳
東京学芸大学紀要. 人文社会科学系. II, 64: 47-52
2013-01-31
http://hdl.handle.net/2309/132465
東京学芸大学学術情報委員会
東京学芸大学紀要 人文社会科学系Ⅱ 64: 47 - 52,2013.
夏期の関東地方で発現する対流性降水の強化時期に関する一考察
澤 田 康 徳*
地理学
(2012 年 8 月 31 日受理)
要 旨
本研究では,総観規模擾乱の影響を受けない太陽の日射加熱によって発現するメソ β スケールの対流性降水の降
水域を対象に,降水域の時間的特性として継続時間および降水強度の増大(強化)時期を確認した。得られた結果
は以下のようにまとめられる。
関東地方縁辺に位置する山地∼山麓を中心とした領域においては,榛名山およびその周辺で,八溝山,男体山お
よび秩父山地に比べて降水域の発現頻度の極大時刻が遅れて認められる。これは,榛名山で離岸距離が最も大き
く,海陸風の侵入時刻の差に起因していると考えられる。停滞する事例については,降水域の継続時間が数時間の
事例が大半を占めるが,榛名山で発現し移動した事例(Haruna-Migratory)は,降水域の継続時間が長い。降水域の
強化は海風により形成される収束域が重要であるが(中西・原,2003),降水域のライフサイクルにおいて,降水
強度は比較的早期に増大する。これには,降水域の移動にはある程度の継続時間が必要であり,それを維持するシ
ステムとしての海陸風ならびに雲群からの冷気外出流の解析から降水域の強化を捉える必要がある。近年,東京都
心部を中心に降水の強化が報告されているが,関東地方では,山地域に降水頻度の極大帯が形成され,そこからの
降水域の移動を考慮すると,都心部のみならず関東地方スケールでの降水域の挙動を海陸風と雲群のシステムを踏
まえて議論する重要性を本研究は指摘していると考えられる。
キーワード:降水域,継続時間,強化,対流性降水
1.はじめに
降水域の強化を海陸風とともに降水系に伴う冷気プー
ルからの発散風との関係を示している。
近年の東京都心部を中心とした南関東においては,
降水域の強化に関する時間・空間的特徴は,降水域
降 水 特 性 に 関 し て 活 発 な 議 論 が な さ れ て い る。
の挙動およびその背景を知る重要な手がかりとなる。
Yonetani(1982)は,東京都心部で強雨発現頻度が増
降水域の強化は,災害や水需要との観点から東京都心
大傾向であることを指摘し,このような傾向は藤部
部を中心に議論されることが多い。本研究では,夏期
(1998)や佐藤・高橋(2000)
,高橋(2003)
,Sawada et al
の関東地方において降水域が多発する関東地方北∼西
(2003)な ど で 確 認 さ れ て い る。 ま た, 澤 田・ 高 橋
の山地域で発現した降水域を主な対象とする。すなわ
(2002)では,関東地方縁辺に位置する山岳域で発現
ち,澤田・高橋(2002)で解析した夏期に発現した対
する降水域の特徴を述べ,降水域の発現・移動・停滞
流性の降水事例について,降水域の発現・強化∼消滅
の地域性を捉えている。さらに,中西・原(2003)で
までの挙動の時期および時刻などの時間的特徴とその
は,降水域の発達(強化)箇所を複数事例から示し,
地域性を提示する。
* 東京学芸大学(184-8501 小金井市貫井北町 4-1-1)
− 47 −
東 京 学 芸 大 学 紀 要 人文社会科学系Ⅱ 第 64 集(2013)
2.資料および解析方法
の で, ま ず 09JST に お け る 地 上 天 気 図 と 01JST ∼
24JST における毎時のレーダーアメダス解析雨量から
夏期の関東地方では,大規模な海風前線に伴って夕
判断される,対象領域内に総観規模擾乱(梅雨前線 ・
立などの対流性降水が多数発現することが知られてい
寒冷前線 ・ 台風 ・ 寒冷渦など)の影響のある日を除外
る(たとえば,岩崎ほか,1999;神田ほか,2000;斎
し,131 日の対象日を選定した。そして,対象日にお
藤 ・ 木 村,1998; 澤 田,2000; 中 西・ 原,2003; 澤
ける毎時のレーダーアメダス解析雨量を用いて降水域
田・高橋,2007 など)
。本研究では,関東地方におい
の発現∼消滅における時間的特徴や地域性を把握す
て夏期に発現する降水について議論を単純化して行う
る。 な お, 対 象 と し た メ ソ β ス ケ ー ル 降 水 域 は 数
こととともに,上記の研究のうち中西・原(2003)や
十 km の空間スケールであることから,降水域の中心
澤田・高橋(2007)などが示す降水域の発達を念頭に
を求める領域が小さいスケールでは降水域の全体を捉
おいていることから,短時間強雨の代表的な例である
えることができず,大きいスケールでは他の降水域ま
夕立などに対応する空間スケールがメソβスケール
で含む可能性がある。そこで,降水域を捉えるための
の対流性降水を対象とする。対流性降水は総観規模擾
枠を縦横 55km とし降水域の中心を求めた。本研究で
乱に伴うことがあるものの,一般的に空間スケールが
対象とした事例は最盛期において毎時降水強度 1 mm
数 km ∼である事例が多く,強雨をもたらす降水域の
以上の領域が 20km × 20km 以上に達し,強雨をもたら
空間スケールは数 10km におよぶ。そこで,地上の降
す可能性があるメソβスケール降水域で,継続性を
水量(アメダス)と上空の降水分布(気象レーダー)
明確にするために 3 時間以上継続した降水域(259 事
を補完し,詳細な地上降水量分布が知ることのできる
例)について,発現箇所や強化時刻などを集計した。
毎時のレーダーアメダス解析雨量を降水資料として用
なお,1 時間ごとに降水域(降水出現の実態場)の挙
いる。この際,メソβスケールの降水域を対象とす
動を把握することは,個々の積雲や積乱雲を捉えてい
ることに主眼をおいており,メッシュ間隔が約 5 km
るわけではなく,次々に現れては消滅する積雲や積乱
× 5 km の平均降水量である 1995 年から 1998 年の 4 年
雲により継続されるクラスターがもたらす降水域であ
間にわたる夏期 7 ・ 8 月の合計 8 ヶ月を対象とした。
ると理解される。
なお,ここではレーダーアメダス解析雨量を用いてい
主たる対象とした山地域および標高分布を第 1 図に
るために降水域の発現から消滅までの継続時間が 1 時
示す。対象領域は関東地方を中心とした東経 138 度以
間未満の事例は対象としていない。本研究では澤田・
東の北緯 34 度から 37.5 度までの領域である。
高橋(2002)の解析対象事例を踏襲して解析する。す
事例を抽出するにあたり,澤田・高橋(2002)では
なわち,関東地方で晴天が期待される日を対象とした
降水域発現頻度の極大域を以下のように結論づけてお
NS
YS
HS
HM
CS
第1図 対象領域と標高分布
第2図 事例抽出を行う地域と標高分布
等高線は 500m ごとに引いてある。なお,参照する山(▲)
は下線で,都市名(◎)については通常体の活字で表記した。
降水域の発現域を YS,NS,HS,HM,CS で示し,HM の移
動方向を太矢印で表した。等高線は 500m 間隔である。
− 48 −
澤田 : 夏期の関東地方で発現する対流性降水の強化時期に関する一考察
り,第 2 図は事例抽出を行う地域を示す。すなわち,
2002)。この日変化の振幅や極大時刻は,中西・原
榛名山で発現し前橋∼熊谷付近を経て東∼東南東進し
(2003)が指摘する冷気外出流とのかかわりなど降水
た移動型の降水域を HM(Haruna-Migratory)とし,榛
の日変化を議論する上で興味深い事実であるがここで
名山,八溝山,男体山,および秩父山地付近で発現し
は深入りはしない。
そこに停滞した降水域をそれぞれHS(Haruna-Stagnant)
,
2)継続時間について
YS(Yamizo-Stagnant)
,NS(Nantai-Stagnant)
,および CS
(Chichibu-Stagnant)とした。それぞれの発現頻度極大
山地ごとに集計した継続時間別の降水域の発現数を
域で発現した事例の継続時間および HM について降水
第 4 図に示す。4 つの山地域および関東平野全域にお
域が強化した地域性を提示する。
10
8 Yamizo
3.降水域の時間的特性
6
4
1)発現時刻について
2
山地域で発現した降水域出現頻度の日変化を第 3 図
0
10
に示す。
いずれの山地域においても,夕方(15JST ∼ 20JST)
8 Nantai
を中心とした時刻に発現頻度の極大が認められる。こ
6
れは,斉藤・木村(1998)における解析結果と一致し
4
frequency
ており,このことは対象とした事例が地表面の日射加
熱によって発現した対流性降水であることを意味して
2
0
10
いる。発現時刻に着目すると,八溝山,男体山,秩父
8 Haruna
山地では正午過ぎに降水域の発現が認められる。一
6
方,榛名山は降水域が発現し始めるとともにその極大
4
時刻も他の山地域に比べて遅れて現れている。夏期に
2
は,大規模海風が発達し海風の前面で対流性降水がし
0
10
ばしば発現することが指摘されている(藤部ほか,
2002)
。榛名山は,扇状に広がる関東平野の奥地に位
8 Chichibu
置しており,大規模海風の侵入時刻が他の山地域と比
6
べて遅いことが理由の一つと考えられる。なお,発現
4
頻度の極大時刻はすべての山地域に共通して複数個認
2
められる。このような降水発現に関する日変化は,季
0
節の平均として代表される極大は一つであるが,月ご
4
8
JST
12 16
time
20
24
とあるいは降水成因別に解析した場合,複数個の極大
第3図 降水域の発現頻度の日変化
時 刻 が 認 め ら れ る(岩崎ほか,1999;澤 田・高 橋,
横軸は時刻(JST),縦軸は発現頻度(回)を示す。
継続時間 Mt-Yamizo Mt-Nantai Mt-Chichibu Haruna(S) Haruna(M)
3
6
5
4
5
3
5
7
11
6
3
7
2
8
1
9
6
3
1
1
3
20
4
3
4area
12
4
26
1
5
2
7
1
1
10
2
2
3
2
2
11
0
12
1
第4図 降水域の継続時間別頻度
4 area は 4 つの山地域で発現した事例数の合計。
− 49 −
1
東 京 学 芸 大 学 紀 要 人文社会科学系Ⅱ 第 64 集(2013)
ける継続時間別の降水域の発現頻度は大きな差は認め
間で発現する移動事例も災害関連として見逃せない降
られず,いずれも継続時間が 3 ∼ 5 時間に多く見られ
水事例となる。
る。これは,強雨を伴うことが多いクラウドクラス
ターの空間スケールが数十 km で,その継続時間(寿
3)降水域の強化について
命)が数時間であることと対応している。地域ごとに
降水域の発現や継続には上述のような特徴が認めら
概観しても,大きな差は認められず対象とした降水域
れた。さらに降水域の強化を発達過程といったライフ
の空間スケールが数十 km であったことを裏付けてい
サイクルの観点から考慮する場合,降水強度の強弱に
ると考えられる。榛名山で発現した停滞型(HS)も
よってそれを推察することができる。降水強度の時間
こ の 特 徴 を 示 す。 一 方, 移 動 距 離 が 大 き い HM
変化を降水域の継続時間別に集計した結果を第 5 図に
(Haruna-Migratory)は,降水域の継続時間が長い事例
示す。この場合,降水強度(%)は以下のように算出
が多い。すなわち,降水域の移動(本研究の場合 D ≧
した。すなわち,降水強度の時間変化成分を,事例ご
40km/h)や停滞には,多発する降水域の中でも継続
とに降水域を中心とした 55km 四方の領域における
時間が長いことが重要となる。これには,降水をもた
1 時間あたりの平均降水強度を求め,それと毎時降水
らすシステムが継続することが必要であり,海風によ
強度の偏差の比の百分率とした。
り形成される収束域は降水域の発現のみならず停滞,
事例により降水強度の大きくなる時期に差はあるも
移動といった降水域の挙動にも重要な役割を果たして
のの,降水域の継続において発現時および消滅前時に
いるといえる。降水域の停滞によって,集中豪雨とな
降水強度は小さい傾向が認められる。降水強度の極大
る場合が多いが,都心部の場合,内水氾濫を含め短時
は明瞭には認められないが,継続時間が比較的長い事
200
100
3h
7h
0
-100
-200
1
200
100
(66cases)
2
4h
(27cases)
3 1
8h
2
3
4
5
6
7
0
intensity(%)
-100
(57cases)
-200
1
200
100
2
5h
4 1
3
2
3
4
(10cases)
5
6
7
8
9h
0
-100
100
(14cases)
(50cases)
-200
1
200
2
3
4
5 1
2
3
6h
4
5
6
7
8
9
life time(h)
0
-100
-200
1
(35cases)
2
3
4
life time(h)
5
6
第 5 図 降水強度の時間変化
図中左上に降水域の継続時間,右下に事例数を示した。継続時間ごとの平均降水強度
は太い破線(灰色)で表している。
− 50 −
澤田 : 夏期の関東地方で発現する対流性降水の強化時期に関する一考察
例( 5 時間以上)に着目すると前期に降水強度の大き
大きい榛名山およびその周辺では降水域の発現頻度の
い傾向が認められる。第 5 図は関東地方で発現した降
極大時刻が遅れて出現している。降水域の継続時間
水継続時間が 3 時間以上すべての事例を対象としてい
は,停滞する事例は数時間の事例が大半を占めるが,
る。山地域に限定した場合(図なし)でも,同様に前
榛名山で発現し移動した事例(HM)は,降水域の継
期に降水強度が大きくなる傾向が認められた。
続時間が長い。降水域の移動には継続することが必要
榛名山およびその周辺で発現した HM(移動型)の
であり,したがってそれを維持するシステムとしての
降水強度の時間変化および移動経路を第 6 図に示す。
海陸風は降水域のライフサイクルに全体に関与してい
発生箇所(○)
,および東進した移動型の降水強度の
る可能性が考えれる。なお,降水域のライフサイクル
極大および副極大箇所をそれぞれ●および×で示し
において,降水強度は比較的早い時間に強まることが
た。極大および副極大箇所地点は,前橋から熊谷付近
多い。降水継続時間前期に認められた降水強度の強化
にかけて現れており,平野域の熊谷∼前橋付近は降水
は,雲群システムおよび海陸風系のいずれかもしくは
域の通過頻度が大きいだけでなく降水システムが最も
両者の寄与を想定して解析する必要がある。近年,都
発達した段階を迎える地域であると考えられる。
心部を中心に降水の強化が報告されている。都心部の
中西・原(2003)では,降水系からの冷気外出流
みならず,関東地方スケールでの降水域の挙動を考慮
と,海陸風のように気温勾配による気圧傾度力で引き
する重要性を本研究は指摘していると考えられる。
起こされる発散風の存在と降水強化を結びつけて議論
しており降水継続時間前期に認められた降水強度の強
本研究で用いた気象資料は,すべて気象庁より提供
化および降水発現頻度の日変化は,雲群システムや海
を受けたものである。
陸風系によるものを想定して解析する必要がある。
文 献
゚N
岩崎博之 ・ 福田保 ・ 萩野剛朗 1999. 1994 年夏期の関東地方にお
37
ける積乱雲の出現特性 . 気象研究ノー,193:21-27.
神田 学・石田知礼・鹿島正彦・大石 哲 2000.首都圏にお
け る 局 地 的 対 流 性 豪 雨 と GPS 可 降 水 量 の 時 空 間 変 動
―1997 年 8 月 23 日の集中豪雨の事例解析―.天気 47:
36
7-15.
佐藤尚毅・高橋正明 2000.首都圏における夏季の降水特性の
経年変化.天気 47:643-647.
澤田康徳 2000.関東地方における降水の日変化.新地理 48:
35
45-53.
澤田康徳 ・ 高橋日出男 2002.夏季の関東地方におけるメソ β
スケール降水域の発現と移動.地理学評論 75:509-528.
34
138
139
140
141
澤田康徳 ・ 高橋日出男 2007.夏季の東京都心部における対流
゚E
第 6 図 榛名山で発現した降水域の移動事例(HM)
における降水強度の極大地点
発現箇所(○)
,極大箇所(●)および副極大(×)を示した。
4.まとめ
性降水の降水強度と気温場および地上風系場.地理学評
論 80:70-86.
高橋日出男 2003.東京とその周辺域における夏季( 6 ∼ 9 月)
日降水量の階級別出現特性の経年変化.天気 50:31-41.
中西幹郎・原由紀男 2003.東京都市部に短時間強雨をもたら
した降水系の強雨強化に結びつく局地風の特徴.天気
本研究では,総観規模擾乱の影響を受けない夏期晴
天日に発現するメソβスケールの対流性降水を対象
50:91-103.
藤部文昭 1998.東京における降水の空間偏差と経年変化の実
に降水域の継続および発達について把握した。得られ
た結果は以下のようにまとめられる。
態―都市効果についての検討―.天気 45:7-18.
藤部文昭・坂上公平・中鉢幸悦・山下浩史 2002.東京 23 区に
関東平野をとりまく山地域では,八溝山,男体山お
おける夏季高温日午後の短時間強雨に先立つ地上風系の
よび秩父山地に比べて,遅れて沿岸からの距離が最も
特徴.天気 49:395-405.
− 51 −
東 京 学 芸 大 学 紀 要 人文社会科学系Ⅱ 第 64 集(2013)
藤部文昭・瀬古弘・小司禎教 2003.関東平野における夏季高
温日午後の降水分布と地上風系の関係 . 天気 50:777-786.
Sawada, Y., Takahashi, H., and Yamashita, S. 2003. Statistical Extraction
of Urban-Effected Rainfall Property in and around the Tokyo
Metropolitan Area, Japan, in Summer. The Fifth International
Conference on Urban Climate, Poland,vol. 2. 467-470.
− 52 −
ダウンロード

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