「みらい」二重偏波ドップラーレーダーによる降水システム観測
○勝俣昌己・耿驃・森修一・城岡竜一(海洋研究開発機構)
1.はじめに
海洋地球研究船「みらい」は降雨ドップラーレーダーを常設装備する世界唯一の研究船として、就
航以来、熱帯から極域に至る多様な降水システムを数多く観測してきた。この実績を引き継ぐものと
して、2014 年度初頭に更新された機材には、新たに二重偏波観測機能が装備されている。本発表では、
この「みらい」新レーダーの二重偏波機能の特徴、及び、偏波機能を用いた観測事例を紹介する。
2.二重偏波レーダー
従来の「みらい」ドップラーレーダーは、電場の振動面が水平方向である「水平偏波」による観測
を行っていた。新レーダーにおいては、水平偏波に加えて垂直偏波による観測を独立同時に行うこと
により、電波を散乱する降水粒子の縦横比すなわち形状に関する情報を得ることが可能である。この
機能を応用することで、降雨量推定精度を従来のレーダーよりも向上させること、上空の降水粒子の
種類(雨・雪・あられ・……)の判別、等が可能である。近年の日本国内では、この特徴を特に防災
面で生かすべく、陸上型偏波レーダーの導入が急速に進んでいる。一方、偏波レーダーの特性は、科
学面においても有効である。降水システムの動態を降水粒子の種類や分布すなわち雲物理プロセスを
含めて理解することは、高解像度化・精緻化が進む数値シミュレーションと対をなして各種大気現象
の理解と予測の向上に資する。特に海洋上の降水システムは特にその降水粒子の構成(種類や大きさ)
において陸上のそれと異なると言われており、
「みらい」偏波レーダーは洋上の降水システムに関する
貴重な知見をもたらすことが期待される。加えて、降水量即ち淡水フラックスの観測精度向上は、大
気海洋相互作用プロセスの理解をより定量的に行えると期待される。
3.初期観測例(1)最初の1枚
「みらい」偏波レーダーは試験航海(MR14-03)中の 2014 年 6 月6日の試験観測において初めて観測
データを取得した。この観測においては、レーダーで観測された雨域は高解像度の衛星データによる
雲分布と良く一致していた。また、例として図に示した鉛直断面においては、水平距離 70~80km 付近
に、レーダー反射強度が高く、ZDR(反射強度の縦横比)、KDP(伝播位相の縦横差)共に大きくなるとい
う強雨域での偏波パラメータの特性が良く現れており、定性的には良いパフォーマンスを示している
ことが確認された。
4.初期観測例(2)台風から温帯低気圧への変質過程
MR14-05 航海にて北太平洋を航行中、
「みらい」は、日本に大きな被害をもたらした台風 18 号とすれ
違った。この時点で台風は温帯低気圧への変質過程にあったが、この変質過程(ET; extratropical
transition)は未だにメカニズムの理解が進んでおらず、観測事例も少ない。今回の事例は海上での
ET を偏波レーダーで観測した世界初の貴重なデータとなった。
ET の特徴の一つに、前線を伴わない台風が、気温差のある前線を伴う温帯低気圧へ変化する点が挙
げられる。偏波レーダーでは融解中の降水粒子(縦横比が粒子毎にバラバラ)が卓越する場所、すな
わち気温0度層の位置を同定可能であり、気温の空間構造が推定できる。今回の観測事例にこの手法
を適用したところ、レーダー近傍の上空で0度層の空間不連続、即ち強い温度傾度が観測され、ここ
から前線構造を捉えることができた。海面付近の気温は上空ほど顕著に変動していないこと、台風の
特徴である低気圧中心付近の上空の暖気(暖気核)が観測されていることを併せて考えると、今回の
事例は台風が持っていた暖気核と環境場の寒気との間で形成されつつある前線を捉えた可能性が考え
られる。
5.今後の展開
今年度は3航海にてレーダー観測を実施し、中緯度(MR14-04)、高緯度(MR14-05)、低緯度(MR14-06)
それぞれでの観測データを取得することに成功した。これらの取得データは現在、精度評価や各種ア
ルゴリズム改良の為の解析を実施中であり、今後のブルーアースシンポジウム等でその結果を順次報
告していく予定である。また、来年度 MR15-04 や 2017 年度の東インド洋航海(国際プロジェクト YMC
の一環)においてはレーダー以外に多くの大気観測データが取得される予定であり、それらとの比較
解析でレーダーデータの更なる高度化・高精度化を図る予定である。ここから得られる精度等の裏付
けは、降水雲を介した海洋大気相互作用についての新たな知見につながると期待される。更に、新レ
ーダーのアドバンテージは高価な消耗品の交換なしに連続観測が可能なことであり、これを生かすに
は極域から熱帯に至る多彩な環境下で連続観測データを蓄積し、海洋性降水雲の気候学的研究を実施
することが望ましい。
HEIGHT [km]
10
45
40
5
35
30
20
0
40
60
80
100
(左図) 6 月 6 日 12 時 19 分(世界標準時)に、北緯 32 度
50 分,東経 141 度 15 分(船位)から方位角 330 度方向に観
120
測した鉛直断面。上から、レーダー反射強度、偏波間反射因
HEIGHT [km]
10
2.5
2.0
5
1.5
1.0
0.0
0
40
60
80
100
120
HEIGHT [km]
10
3
2
5
1
0
-1
0
40
60
80
100
DISTANCE FROM RADAR [km]
120
子差(ZDR)
,偏波間伝搬位相差変化率(KDP)
。
ダウンロード

「みらい」二重偏波ドップラーレーダーによる降水システム観測