様式C-19
科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書
平成24年
5月
7日現在
機関番号:17301
研究種目:若手研究(B)
研究期間:2010~2011
課題番号:22760301
研究課題名(和文) マイクロ波偏波合成開口レーダの陸域に注目したデータ解析法の検討
研究課題名(英文) A study on data analysis method for land data acquired by
polarimetric synthetic aperture radar using micro waves
研究代表者
森山 敏文(MORIYAMA TOSHIFUMI)
長崎大学・工学研究科・助教
研究者番号:20452873
研究成果の概要(和文)
:本研究では,1)実データによる周波数による偏波回転角の影響調査
と,2)偏波回転角の逆回転による散乱特性の変化の理論的な検討と偏波行列分解への応用を
行った.さらに,3)偏波データの固有値分解を行ったデータに有井らが提案する特徴抽出法
を適用し,その特徴の評価を行った.1)に関しては,L-band 帯の PALSAR と C-band 帯の
RADAR-SAT2 のデータで調べた.2)に関しては,Freeman らの三成分分解の論文を元に,
偏波回転角を受けた表面散乱・2 回散乱・体積散乱の Covariance 行列と,回転が受けない場合
の Covariance 行列を求め,それら差を導出した.この結果を元に,さらに粒子群最適化を用
いて表面散乱と 2 回散乱の偏波回転角の影響が大きい場合の三成分分解によるモデル分解を検
討した.3)については,固有値と固有ベクトルの特徴を解釈するために,一つの有用な方法
であることが確認できた.
研究成果の概要(英文):In this research, I have considered three topics for data analysis of
land area acquired by polarimetric synthetic aperture radar using micro waves, which are
1) polarimetric orientation angle between urban and forest areas with respect to L-band
and C-band, 2) new decomposition technique considering polarimetric orientation angle
and 3) polarimetric data estimation based on Arii’s scattering model. In the case 1), the
differences of the polarimetric orientation angle between urban and forest areas were
confirmed. Then, I made new decomposition technique of the polarimetric SAR data based
on the property of 1). Moreover, other polarimetric estimation method which is related to
Arii’s method was examined for data analysis of land areas.
交付決定額
(金額単位:円)
2010年度
2011年度
年度
年度
年度
総 計
直接経費
1,200,000
900,000
間接経費
360,000
270,000
2,100,000
630,000
研究分野:工学
科研費の分科・細目:電気電子工学・計測工学
キーワード:合成開口レーダ,偏波,散乱行列分解能,陸域,多周波
合
計
1,560,000
1,170,000
2,730,000
1.研究開始当初の背景
マイクロ波を利用した合成開口レーダ
(Synthetic Aperture Radar:SAR)は,天候や
時間に左右されず観測でき,可視光や赤外線
などの電磁波と異なるターゲットの情報が
得られることから,災害観測や地球環境計測
の新しい手段として期待されている.また,
現在複数の偏波(電波の振動方向:例えば水
平・垂直偏波など)を観測する機能を有する
SAR が打ち上げられ,運用されている.日本
では衛星”だいち“に搭載された Phased
Array Type L-band SAR(PALSAR, L-band)
が あ り , そ の 他 に は ド イ ツ の
TerraSAR-X(X-band) , カ ナ ダ の
RADARSAT-2(C- band)がある.これにより,
世界中の偏波データを多周波で定期的に取
得可能となった.このようにして得られた多
偏波データを解析する技術はレーダポーラ
リメトリと呼ばれ,研究代表者はその研究に
従事してきた.この技術の最大の利点は,分
解能の制約により SAR 画像から形状として
抽出できないターゲットの情報を,偏波によ
る散乱・透過特性の差異により,複素数で構
成される画像の偏波間の振幅比・位相差情報
から得られることである.実際に偏波データ
を解析する手法(図 1)には,大きく二つに分
けられる.
HH画像データ
real
imag
real
SHH
HV,VH画像データ VV画像データ
imag
real
SHV, SHV
imag
SVV
 Data Matrix 
 1  M 1   2  M 1   3  M 1  
ターゲット
偏波データ
からの特徴量
(12,3…)
図1 偏波データ解析
①固有値・固有ベクトル解析を基にして偏
波行列データを分解する方法
②散乱メカニズムに対応したモデル行列
を基にして偏波行列データを分解する方法
②の方法では,モデル行列は自然植生の散乱
メカニズムが利用されており,①の方法より
も直感的に分解結果が理解しやすい方法で
ある.また,モデルの拡張が現在も行われて
おり,非常に偏波解析に有用な方法である.
一方で,この方法の欠点は,都市域のモデル
行列が与えられていないため,自然植生域と
都市域からなる陸域をまとめて解析するこ
とはできないことである.例として,住宅地
の一部が田圃と同じ体積散乱特性なる場合
がある.そこで,研究代表者は,電磁界解析
法の一つの手法である幾何光学法を基に,都
市域の散乱によるモデル行列を提案してき
た.しかし,提案したモデルを利用するため
には,自然植生域と都市域を識別する作業が
必要となる.以前は,二つのモデルを使い分
けるために,ライク偏波(HH,VV)データとク
ロス偏波(HV,VH)データ間の偏波間相関係数
を利用して識別を行った.しかし,航空機搭
載偏波合成開口レーダの Pi-SAR データを利
用して検証した結果,X-band で識別でき,
L-band では識別できなかった.X-band の場
合,住宅地のある都市域は,2 回散乱特性が
主要な散乱メカニズムになった.そこで,こ
の公募の提案では,偏波回転角シフトを利用
し,周波数に依存しない自然植生域と都市域
を識別する方法を検討する.偏波回転角シフ
トとは,地面のアジマス方向の傾斜や都市域
のビルの壁の向きにより,交差偏波が発生す
ることである.この偏波間のバランスの変化
と地面の傾斜角やビルの向きは理論的に関
係付けられ,逆に観測偏波データから地面の
傾斜やビルの方向が推定できる.そこで,偏
波合成開口レーダで得られた偏波観測デー
タで偏波回転角を推定し,場所による偏波回
転角の統計的性質,算出された偏波回転角に
よる偏波データの数学的逆回転による偏波
特性の変化などの情報をもとに,自然植生域
と都市域の識別を目指す.もし,周波数に依
存せず両領域の識別が可能ならば,現在利用
可 能 な
PALSRA,Terra-SAR
X,
RADARSAT-2 の陸域観測データを併用し,
解析場所に適したモデルで分解した結果を
もとに,注目箇所の特徴量比較や,特徴を統
合して画像分類・識別の精度を向上させるこ
とが期待できる.以上から,この研究では,
偏波回転角シフトを利用し,周波数に依存し
ない都市域と自然植生領域の識別法を検討
し,陸域のデータをまとめて解析できるよう
な偏波データ解析法の汎用化を試みる.また,
自然植生や都市の散乱モデルの改良も併せ
て検討する.
2.研究の目的
本研究では,マイクロ波偏波合成開口レー
ダによる陸域に注目したデータ解析法の検
討を行う.偏波データ解析法では,偏波行列
データを散乱メカニズムに対応したモデル
行列毎に分解する方法が注目されている.し
かし,このモデル行列は,自然植生を基にし
ており,都市域には当てはまらない.そこで,
自然植生域と都市域を総合的に取り扱う解
析方法が必要となる.この研究では,研究代
表者が既に提案した都市域のモデル行列を
自然植生のモデル行列と組み合わせるため,
主に都市域と自然植生を区別する方法を検
討する.その方法として,偏波回転角シフト
を利用する。この研究により,陸域のデータ
をまとめて解析でき,偏波データ解析法の汎
用化が行える.
3.研究の方法
3.1 偏波合成開口レーダ
合成開口レーダは,レンジとアジマス方向
で分解能が数 m から数十 m の地表の画像を与
える.また,送受信の偏波を組み合わせるこ
とにより,偏波を考慮した画像を得ることが
できる.水平偏波(H)と垂直偏波(V)を送受信
できるアンテナを使った偏波合成開口レー
ダの場合,ピクセル毎に送受で 4 つ偏波の組
み合わせのデータ(図 2)が得られる.この
4 つのデータを散乱行列の各要素とみなし,
次のように置くことができる.
S
 S  HV    HH
 SVH
C  HV    f s C  surface  f d C  double  f v C  volume
hv
hv
hv
(3)
ここで,fs, fd と fv が三つのモデルの係数
で,ターゲットの特徴を表す.但し,観測し
た Covariance 行列は山間部の傾斜地や都市
域の人工構造物間で,azimuth rotation 角と
呼ばれる回転角が,以下の式から観測求めら
れる.
1

 S LL  2  S HH  SVV  j 2 S HV  ,
*
, Arg (  S LL S RR
)  4

S  1  S  S  j 2S 
HH
HV
 LL 2 VV
(4)
この角度が生じる山間部や都市域では,式(3)
で提案されているモデルが満たさなくなり,
モデルの不一致が顕著になることが分かっ
てきた[7].厳密ではないが,式(3)が,以下の
式のようにアジマス方向の回転により生じ
た(<[C(HV())]>)と考える.
C  HV      U  C  HV   U  ,


*T
S HV 
SVV
ここで,< >は,ピクセル間の平均を表す.
Freeman と Durden は,式(2)の Covariance
行列を以下のように表面散乱,2 解散乱,体
積散乱に関する三つのモデル分解すること
を提案した.


(1)

cos 2 

U     2 sin  cos

sin 2 

2 sin  cos 
cos 2
 2 sin  cos 


2 sin  cos  

2
cos 

sin 2 
(5)
そして,式(5)から式(4)で求めた角度を逆方向
に回転するとアジマス回転角が 0 度の
Covariance 行列(<[C(HV())]>)が得られる.
そこで,以下の式(6)の要素が全てゼロに近く
なる fs, fd と fv を PSO で求めることを行っ
た.
次に,提案する偏波回転角と偏波回転角を利
用したモデル分解法について述べる.
3.2 偏波回転角とモデル分解
観測された散乱行列を散乱メカニズムに
対応したモデルの行列に分解させて,各散乱
メカニズムの電力を評価する方法がある.こ
れはモデル分解と呼ばれ,測定した散乱行列
を既知の散乱メカニズムの行列の和で表現
しようとするものである.固有値展開と同じ
考えかたであるが,与えるモデルの行列が理
論値や実験に基づいたものであるところが
大きく違う.実際には,散乱行列でなく,以
下に示す Covariance 行列を用いて,モデル
分解を行う.
C  HV 
*
 S HH S HH

*
  2 S HV S HH

*
 SVV S HH

*
2 S HH S HV
2 S HV S
*
HV
*
2 SVV S HV
*
S HH SVV
*
VV
2 S HV S
*
SVV SVV






(2)
|{<[C(HV())]>  <[C(HV())]>}measure
{<[C(HV())]> <[C(HV())]>}model |2 (6)
3.3 Particle Swarm Optimization(PSO)
PSO では,多数の粒子の位置を,粒子間の
情報交換に基づいて更新し,最適解を求める
手法である.このアルゴリズムは,Kennedy
と Eberhart によって 1995 年に発表された最
適化手法であり,鳥や魚などの群れを形成し
て移動する生物の行動パターンを,最適化に
応用したものである.次に,アルゴリズムを
簡単に説明する.粒子が問題空間にランダム
に配置され,また粒子は初期値としてランダ
ムな速度を持つとする.この時の各粒子(n)
の位置と速度を xkn, vkn とする.ここで,上
付き文字を粒子の番号を表し,下付き文字を
時間ステップ数とする.xkn を用いて,問題
の評価関数の計算を行う.k+1 ステップでの
粒子の位置と速度は,以下のように計算され
る.
vk+1n=ωkvkn+c1r1(pkn-xkn)
+c2r2(gk-xkn)
n
xk+1 = xkn +vk+1n
(7)
(8)
ここでωk は慣性を意味する.pkn は,粒子 n
が個人で過去に最良の結果を得た位置であ
り,gk は,グループ内で最良の結果を得た位
置である.また,c1 と c2 は,個人またはグル
ープのどちらの結果を速度に反映させるか
の係数であり,r1 と r2 は,0 から 1 までの範
囲を値とる乱数の値である.タイムステップ
の進行に伴って,式(7)と(8)を用いて粒子群の
位置を更新しながら最適位置を見つける.
4.研究成果
数値計算結果は,2007 年 12 月に長崎を観
測しただいちの PALSAR のポラリメトリッ
クデータを用いて解析を行った.解析領域は,
長崎市内の三菱重工業の工場付近のデータ
を使用した.画像のピクセル数は 400x400
であり,この画像を 12x3 の領域で平均化を
行った Covariance 行列に対して,3で述べ
た偏波回転角やモデル分解を行っている.図
3 にポラリメトリック観測による疑似カラー
画像を示す.HH 偏波を赤,HV 偏波を緑,
VV 偏波を青として RGB 合成を行っている.
参考に図 4 に Google による光学画像を併せ
て示す.中心の大きな三菱重工業の工場が図
3 では,緑色に映っている.一方で,左側の
住宅街は紫色になっており,色の違いより散
乱メカニズムが異なっているように判断で
きる.図 3 のデータから偏波回転角を求めた
画像を図 5 に示す.
工場や住宅街がある領域,
また海などは偏波回転角が一定の角度で表
れている.但し,場所により角度は異なる.
これは,ビルや住宅の壁の向いている方向が
領域により異なるためである.今回の観測で
は,電波は左から右側に入射している.蜜節
重工業の工場付近の建物のビルの向きは,レ
ーダの方向とは異なる向きを向いており,偏
波回転角が大きく観測されている.一方,そ
の左側の住宅街は,ビルや住宅の向きがレー
ダの方向を向いており,偏波回転角は小さく
なっている.この結果から,偏波回転角の大
きい人工物の存在する領域はクロス偏波
(HV 偏波)が多く発生していることが,図
3 の疑似カラー画像から確認できる.一方で,
上部や左側の山間部では,偏波回転角はラン
ダムに変化している.よって,図 3 の工場付
近と山間部は同じ緑色をしているが,散乱の
メカニズムが異なることが推測できる.これ
は,RadarSAT-2 の C-band データでも同様
の傾向を確認した.
図 3 PALSAR による長崎市内の偏波画像
図 4 図 3 と同じ領域の Google 画像
図 5 偏波回転角画像
(a) 表面散乱
(a) 表面散乱
(b) 2回散乱
(b) 2 回散乱
(c) 体積散乱
図 6 偏波回転角を利用したモデル分解
(c) 体積散乱
図 7 従来のモデル分解
次に,PSO を用いた3.2のモデル分解法
の結果を図 6 に示す.併せて,従来の
Freeman と Durden による結果を図 7 に示
す.図 6 と図 7 を比べると,三菱重工業の工
場付近の偏波回転角が大きい領域で結果が
異なる.
この領域では,図 7 の体積散乱の成分が,図
6 では偏波回転角により 2 回散乱として評価
されている.住宅や工場などのビルディング
では,表面散乱や 2 回散乱が主な散乱メカニ
ズムであり,森林のような体積散乱成分は発
生しない.そこで,偏波回転角を利用した本
提案手法の方が,より散乱メカニズムと合っ
た解析結果となっており,データの評価を行
いやすい.よって,従来の方法よりも優れて
いると言える.また,工場付近のモデル分解
結果の割合を表 1 に示す.
表1
散乱メカニズムの割合(パーセント)
Freeman
Durden
表面
2回
体積
提案手法
他の手法
(回転考慮)
30.7
38.5
4.4
18.7
40.5
16.6
61.5
42.1
39.5
参考に,提案手法と同様に偏波回転を利用す
る手法の結果も表 1 に示している.その結果,
提案手法と他の偏波回転角を利用する方法
は,同様な結果を示した.
今後は,実際の分類等にこの解析法を利用
していくことが課題である.
5.主な発表論文等
〔雑誌論文〕
(計 3 件)
① Moriyama Toshifumi and Hiroaki
Matsushita, Decomposition technique
considering azimuth rotation for
polarimetric SAR image analysis,
Proceedings
of
International
Conference on Space, Aeronautical and
Navigational Electronics 2010, 査読
有 , vol. 110, pp.81-85, 平 成 22 年
(2010).
② Moriyama Toshifumi and Hiroaki
Matsushita, Modified decomposition
technique for polarimetric SAR image
analysis, Proceedings of International
Symposium
on
Antenna
and
Propagation 2010, 査読有,pp.143-146,
平成 22 年(2010)
③ Toshifumi Moriyama, Polarimetric
Decompostion Based on Partcle Swarm
Optimization and Its Data Analysis,
Proceedings
of
Asia-Pacific
Conference on Synthetic Aperture
Radar 2011,査読有,pp.479-482,平成
23 年(2012)
〔その他〕
ホームページ等
http://research.jimu.nagasaki-u.ac.jp/I
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6.研究組織
(1)研究代表者
森山 敏文(MORYAMA TOSHIFUMI)
長崎大学・工学研究科・助教
研究者番号:20452873
ダウンロード

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