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2011 年度 事例研究(現代行政Ⅰ)
増田 寛也教授
市町村合併のその先へ『スマートな我が街☆づくり』
―静岡市を事例に―
東京大学 公共政策学教育部 国際公共政策専攻
51-118044 川口 由起子
目次
1
はじめに
1
2
基礎自治体の役割
2
2.1
平成の大合併の沿革
2
2.2
大合併後の状況
3
2.3
市町村の役割
3
3
静岡市の合併
5
3.1
合併にあたって
5
3.2
合併後の変化
6
支出削減
6
行政の効率化
7
静岡市・清水市の枠にとらわれない地域整備
9
11
合併特例債の活用
12
政令指定都市への移行とそれに伴う静岡経済の発展
16
3.3
これからの静岡市
17
3.3.1
合併後の変化のまとめ
17
3.3.2
「効率性」と「民主性」
18
4
これからの基礎自治体
21
5
終わりに
22
参考文献・ウェブサイト
23
1
公共サービスの充実
はじめに
2005 年 4 月 1 日、人口 71.4 万人の静岡市が、政令指定都市となった。人口 100 万人を
超える見込みがなく、人口 80 万人以下の都市として初めてのことだ。私自身、幼いころを
思い返してみると、政令指定都市とは、人口 100 万人以上を有する、仙台市、福岡市のよ
うな大都市が指定されるものであり、自分の生活とは全く関係がないものだと考えていた。
静岡市の政令指定都市への移行は、平成の大合併を推進するために 2001 年に実施された
2/23
市町村合併支援プランによるものだった。平成の大合併では、1999 年 3 月末の時点で 3,232
あった市町村数が、2010 年 3 月末時点には 1,727 にまで減少した。こうした数字から、平
成の大合併は成功したと言われることが多いが、それは果たして本当なのだろうか。合併
の成果は、合併の件数で測ることができることができるほど単純ではないはずである。ま
た、そもそも大合併を政府が主導したことの是非も割れている。
賛否はあれども、平成の大合併はともかくひと段落した。これから大事になってくるの
は「合併のその後」である。合併は手段であって、目的ではないからだ。合併した市町村
も、合併しなかった市町村も、これから何を目指して、何に取り組んでいくべきなのだろ
うか。
平成の大合併を経た現在もなお、市町村の規模にはバラつきが見られる。1990 年代には
12 都市だった政令指定都市は、2000 年代に入って 7 市も増加した(さらに、2012 年 4 月
には熊本市がさらに追加され、合計 20 市になる)
。逆に、1 万人未満の基礎自治体も、全体
の 28%(480 団体、平成 23 年 11 月時点)残っている。このように、一口に市町村と言っ
ても、人口が何十万人もいる市と、1 万人程度の町村とでは、住民の行政に求めるものも変
わってくるだろう。
「住民に最も近い」基礎自治体である市町村の役割は何なのか。また、今後市町村が生
き残っていくためにはどのようなことが必要なのだろうか。本稿では、このテーマを検討
してみたい。その際、静岡市に焦点をあてて、「合併後」の市の状況がどうなっているのか
を検討する。静岡市の分析を通して、これからの市町村が進むべき道筋を考察したいと思
う。
2
基礎自治体の役割
2.1
平成の大合併の沿革
日本では、広域自治体である都道府県の数や形がほとんど変化してこなかった一方で、
基礎自治体である市町村は、明治・昭和・平成の大合併と大きな3つの大合併を通して、
一貫して減少し続けてきた1。総務省によれば、平成 11 年以降推進されてきた平成の大合併
の目的は、
「基礎自治体の行財政基盤の確立のため」と説明されている。一般的には、人々
の生活圏と行政区画との乖離、行財政の効率化や、分権の受け皿としての能力向上などが
合併の目的と言われている。
平成の大合併は 3 つの時期に区分される。第一段階は、1995 年から 1999 年までの比較
的緩やかな自主的合併の時期、第二段階は、「市町村の合併の特例に関する法律」(以下、
特例法)の 1999 年改正から 2005 年 3 月の特例法期限に至るまで、総務省主導の財政誘導
型の市町村合併が進められた時期である。この時期には、静岡市と清水市の合併のような
政令市創造型合併などが多く展開された。第三段階は、
「市町村合併の特例等に関する法律」
1
総務省、
『
「平成の合併」について(概要)』
http://www.soumu.go.jp/gapei/pdf/100311_1.pdf. Last access: 2012/2/6.
3/23
(新市町村合併特例法、5 年の時限立法)
、地方自治法改正、市町村合併特例法改正という
合併関連 3 新法の下で、1 万人以下の小規模町村の合併を全面的に打ち出し、より強制的に
合併が進められた時期である。
自発的な合併とはいえ、総務省は平成の大合併を進めるためにアメとムチを用意した。
アメとしては、人口 3 万人で市になることができる特例、合併特例債の発行等が用意され
た。1999 年の合併特例法改正で創設された合併特例債は、元利償還費の 7 割まで交付税措
置されるものだ。さらに、合併特例法期限後の 2005 年度からは新合併特例法の下で合併推
進債が設けられ、元利償還費の 4 割まで交付税で措置されることとなった。ムチとしては、
人口 5 万人未満の市町村への地方交付税の削減、小規模自治体の権限縮小などが用意され
た。
2.2
大合併後の状況
前述の通り、1999 年 3 月 31 日時点で 3,232 あった市町村数が、合併後の 2010 年 3 月
31 日時点には 1,727 にまで減少した。日本全国で、
市町村の数は 53%減少したことになる。
平成の大合併の特徴の一つには、町村が急減したことが挙げられる。1999 年 4 月には全
国の市町村は、市 671、町 1990、村 568 という内訳になっており、市町村における市の割
合は 20.8%だった。しかし、これが 2011 年 11 月には、市 786、町 749、村 184 となり、
市町村全体における市の割合は 45.7%まで上昇した 。小規模な町村を減らすことが平成の
大合併の目的であったとすれば、その目的は一定程度達成されたと言える。
2.3
市町村の役割
市町村合併について語られる際によく言われることに、次のようなことがある。すなわ
ち、①広域性を活かした地域の一体的整備、②投資の重点効率化ができる一方で、③周辺
地域の地盤沈下および④地域の個性の喪失が生じると言われる。また、⑤行財政基盤の強
化、⑥行政人件費の削減が行われる一方で、⑦政治的代表制の低下が生じるなどとも言わ
れる。しかし、冷静に考えると、①~⑦はそれぞれつながっている。地域の一体的整備が
可能になる(①)のは、投資重点化(②)がなされてこそだし、そうであるからこそ財政基盤が
強化(⑤)され、人件費の削減(⑥)にもつながる。逆に、地域が一体的に整備される(①)と、
非効率的な周辺地域への公共整備は行われなくなる(③)し、人口の少ない周辺地域の声は行
政に反映される可能性が低下して(⑦)、ますます周辺地域は疎外感を抱くようになる(④)。
市町村合併のメリット・デメリットとは、結局のところ、メリットにもデメリットにもな
るこれらの点のどこを重視するかという点であり、市町村に何を期待するのかという問題
であると言える。
これからの基礎自治体には「地域力」が求められると言われる。しかし、
「地域力」とは
何だろう。市町村には、補完性の原理の観点から「住民に近い」という利点があると言わ
れてきたが、
「住民に近い」とはどういうことなのかについて詳しく語られることはなく、
4/23
また、これまでの市町村について振り返ってみると、それが本当に「住民に近い」もので
あったのかどうかには疑問が残る。特に、市町村合併は、自治体間関係や国・自治体間関
係を考える視点から効率性を重視して実施されてきた。しかし、こうした合併の結果、地
域の住民による民主的な統治を実現する住民自治が弱体化しているのではないだろうか。
筆者は、これからの市町村には、
「効率性」と「民主性」の両方が求められると考える。
「効率性」とは、団体自治の強化、自治体経営の視点であり、財政カット、事務事業の見
直し、効率よい組織や人事の実現などを通して、効率的かつ効果的な行政サービスを提供
することである。例えば、住民票を取りに行くときに、自宅から近いところに窓口があっ
てほしい、あるいは短い待ち時間・より安い手数料で発行したい、さらにできれば駅前の
窓口くらいは休日も手続きが可能であってほしいという望みを実現することである。
「民主性」とは、住民自治の強化であり、住民の行政への参加などを通して、住民の声
をきちんと行政に反映させた行政を実現し、住民が安心して暮らし、かつ誇りを持てる街
づくりを進めていくことである。例えば、住民票が機械で発行できるようになるなど、効
率性を追求するあまり、相談窓口業務までもすべて閉鎖されるようになると、逆に住民に
とって不便になるであろうし、行政と地域との接点が少なくなってしまう。
効率性と民主性を同時に実現するのは必ずしも簡単なことではない。すでに見たように、
効率性を重視することは民主性を制限するのにつながることもあるし、民主性を重んじる
あまりに効率性が軽んじられることもあるからだ。また、地方分権の進展によって市町村
の権限や責任が拡大していることに伴って、今まで以上により民主的な自治体運営が必要
になってきている。したがって、効率性と民主性とのバランスをとることこそが、今後の
基礎自治体には求められている。何を選択して何を諦めるかの線引きに、住民の意見を反
映させることが大切なのではないかと考える。
こうした基礎自治体の役割を適正に発揮するには、どの程度の規模がよいのだろうか。
基礎自治体の適正規模について、増田知也氏が先行研究をまとめている2。適正規模の捉え
方や、適正規模の決定要因には様々な考え方があり、ベストな適正規模は存在しないとす
る考え方も存在するようだ。しかし、少なくとも「効率性」の観点からは、市の人口、面
積、地形、現在の業務範囲、公共サービスの水準、労働価等の経済的指標などを考慮して、
何らかの形で、おおまかな範囲としての適正規模は算出可能ではないかと考えている。
市町村の適正規模が存在すると考えた場合、様々な論者が様々な考えに基づいて結論を
導いてはいるものの、その範囲は、10 万人から 50 万人の幅に収まるようだ。例えば、佐々
木信夫氏は、人口に対する職員数でみると、適正規模は 17 万 3000 人、職員の人件費でみ
ると、10 万人から 30 万人が適正規模と主張する3。また、吉村弘氏は、人口当たり歳出総
増田知也、
『市町村の適正規模と財政効率性に関する研究動向』
、自治総研通巻 396 号、
2011 年 10 月。
3 佐々木信夫、
『自治体をどう変えるか』ちくま新書、2006 年、206 頁。
2
5/23
額を最小にするという観点からは人口 20 万人が適正規模と結論付ける4。
仮にこれらの考えが正しいとしたら、人口が 47 万人だった静岡市と 23 万人の清水市が
合併して、70 万人以上となった意義はなかったということになるのだろうか。それとも、
政令指定都市になることは、そうした適正規模を上回るメリットがあるということなのだ
ろうか。以下、静岡市の合併の事例を通し、その点を検証してみたい。
3
静岡市の合併
3.1
合併にあたって
静岡市は、平成 15 年(2003 年)4 月 1 日に清水市と合併(新設合併)し、人口約 71 万
人の都市が形成され、平成 17 年(2005 年)度から政令指定都市へと移行した。静岡市と
旧清水市の合併は「静清合併」と呼ばれる。1997 年に住民発議によって合併協議会が設置
され、4年間にわたり協議が行われた。1995 年の合併特例法改正によって創設された住民
発議制度が活用された点でも注目された。
さらに静岡市は、平成 16 年(2004 年)には、蒲原町、由比町とそれぞれ合併協議会を
設置した。平成 18 年(2006 年)には蒲原町と合併、平成 20 年(2008 年)には由比町と
合併し、現在の静岡市の形となった。
静岡市の合併、特に静岡市と清水市の合併によるメリットとして、市が当初主張してい
たメリットは以下 5 点にまとめることができる5。
I. 組織の統合、合理化による経費の節減、行財政運営の効率化。
具体的には、市長を含む特別職の削減、議員の削減、職員数削減等が列挙されている。
II. 職員の専門性を高めるとともに、行政組織の整備充実。
清水地区と静岡地区とで行政を一本化することによる行政の効率化が可能になる。
III. 市民の生活圏の実態に対応した地域の一体的な整備を促進。
交通基盤・広大な中山地域などを一体的に整備することができる。
IV. 公共施設の一体的な利用や効率的な配置の推進。
図書館等公共施設の適正配置などが可能となる。
V. 合併特例法による財政上の特例を活かした新市建設の根幹となる事業の実施。
合併特例債への期待から、静岡駅周辺、東静岡駅周辺、清水駅周辺など広範な地域の整
備を促進する。
VI. 政令指定都市への移行可能性実現に向けた具体的な展望。
東京と名古屋の中間に位置する静岡が、政令指定都市になることで、各種投資が行われ
るようになり、経済活性化につながる。
4
吉村弘、
『最適都市規模と市町村合併』東洋経済新報社、1999 年。
静岡市ウェブサイト、http://www.city.shizuoka.jp/deps/bunken/ssshiryou.html. Last
access: 2012/2/5.
5
6/23
このように、①支出削減、②行政の効率化、③静岡市・清水市の枠にとらわれない地域
整備、④公共サービスの充実、⑤合併特例債の活用、⑥政令指定都市への移行とそれに伴
う静岡経済の発展という広範にわたるメリットを主張したのが、静清合併であった。
3.2
合併後の変化
では、静岡市は合併してどのように変わったのか。本当に、合併当初に主張していたメ
リットが実現し、望ましい方向に進んでいるのだろうか。ここでは、先ほどの①~⑥の6
つの項目がいかに達成されたかを検証すべく、静岡市の合併後の変化について見ていく。
①
支出削減
ここでは、静岡市が合併の利点として挙げていた、市長を含む特別職の削減、議員の削
減、職員数削減の 3 点について検討する。
<市長を含む特別職の削減>
合併前は、静岡市には市長1人、副市長2人、清水市には市長・副市長とも1人、教育
長が 1 人いた。合併後の静岡市には市長1人、副市長2人、教育長 1 人となり、その分の
特別職のポストは削減されたと言える。
報酬に関しては、旧清水市が不明であるものの、旧静岡市の市長が月額 113 万円、助役
が月額 92 万円(平成 14 年度)であったのに対して、平成 22 年度には市長が月額 125 万
円、助役が月額 94 万円6となっており、それぞれ若干の増加にとどまっている。これらを考
慮すると、合併に伴う特別職の削減には、一定の財政カットの効果があったと考える。
<議員の削減>
合併前は、静岡市 45、清水市 33 の定員であり、計 78 人だった。合併に伴い、新・静岡
市の定員は 53 となっている。これは、地方自治法による市町村議会の議員定数(人口 50
万以上 90 万未満の市)が 56 であるのに比べると、最大上限よりは少ない数となっている。
また、合併前の静岡市・清水市の議員の報酬(調査費は含まず)の概算が、8 億 4385 万
円/年だったのに対して、現在の静岡市の報酬の概算が、6 億 1957 万円/年であることと比
較すると、1 億 6478 万円の削減となっている計算になる7。ただ、この計算には調査費など
が含まれていないため、調査費その他の手当としての金額が上昇している可能性はある。
しかしながら、議員定数が大幅削減されたことにより、財政的なコスト削減が可能となっ
たと考える。
6
静岡市決算カード(総務省ウェブサイトより)
http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/card.html. Last access: 2012/2/5.
7 わたしもひとこと・合併通信、http://www.iso-ya.com/siryou/siryou.html. Last access:
2012/2/5.
7/23
<一般職員数の削減>
平成 14 年度の旧静岡市の一般職の職員合計数は、3,508 人、給料月額(合計)は、13.1
億円、旧清水市の職員合計数は、1,585 人、給料月額は 5.87 億円であり、単純に2市を合
計した数は、職員数 5,095 人、給料月額は、18.97 億円だった。それが、合併後の平成 15
年には、職員合計数 4,908 人、給料月額 18.0 億円に削減された。そのあとも順調に人員削
減が進んでおり、平成 22 年には職員数 6,396 人、給料月額も 15.9 億円へと減少し、合併
から 7 年間で、2.1 億円分減少した8。
こうした人員削減の背景には、全国的な行財政改革の潮流が存在する。静岡市は、総務
省主導の行財政改革の一環として、積極的に定員管理を行っている。その結果として、平
成 11 年から一貫して職員数は減少している。さらに、こうした削減の内訳としては、課の
統合や保育園の民営化、労務職員の定年退職に伴う任期付への移行等が挙げられる。
(資料:静岡市ウェブサイトより9)
このように、市長を含む特別職の削減、議員の削減、職員数削減の観点からみると、職
員削減による支出削減という目標は、ある程度達成されていると考える。
②
行政の効率化
次に、行政の効率化が進んでいるのかを検証したい。まず、新・静岡市の組織がどのよ
うに配置されているのかを見る。次に、合併前に静岡市が主張していた、人材の専門化が
どのように進められつつあるのかを見てみる。最後に、教育分野を例にとって、施設数を
8
前出、静岡市決算カード。
静岡市、
『静岡市第二次定員管理計画』平成22年4月、
http://search.jword.jp/cns.dll?type=jwd&fm=1&partner=AP&name=%90%C3%89%AA%
8E%73%91%E6%93%F1%8E%9F%92%E8%88%F5%8A%C7%97%9D%8C%76%89%E6.
Last access: 2012/2/5.
9
8/23
通して、地域の行政サービスの効率化が進んでいるのかを検討する。
<組織機構>
静清合併の後というよりも政令指定都市になって以降、行政区の導入と新たな事務権限
拡大とともに、静岡市の組織機構が再編された。大きな変化は、3つの区役所が創設、環
境局の創設、保健福祉局が保健福祉子ども局と変更されたことだ。
現在、区役所の機構は3つともほぼ同じである。どの区役所にも、総務・防災課、まち
づくり振興課、戸籍住民課、保険年金課、税務課、会計課、福祉事務所(その下に、生活
支援課、保育児童課、高齢介護課)が存在し、それぞれ届出などの手続や相談業務を行っ
ている。
区役所業務以外の業務は、葵区の静岡市役所で行われている。組織機構に大きな再編は
見られないものの、政令指定都市にともなう業務拡大にともなって、環境局が追加された。
以前は、環境を扱っていたのは環境部であり、市民局の下の一部であった。現在の環境局
は、組織上副市長の下に位置し、生活文化局(以前の市民局が名前を変更した)といった
各局と同列に位置する。環境局には、企画・総務担当の環境創造部と、廃棄物対策部があ
る。これは、政令指定都移行に伴い、産業廃棄物施設などの権限が県から静岡市に移行し
たことによる措置である。
また、指定都市化によって児童相談所の設置に関する事務も静岡市の担当となり、それ
にともない、保健福祉局が保健福祉子ども局と名称変更し、新たに子ども青年部が創設さ
れた。
このように、組織機構の点からみると、旧静岡市では部制であった組織が局制となって
組織が肥大化したともいえる一方で、窓口業務と企画業務とがきちんと分かれて運営され
ており、少なくとも組織上は行政の効率化を追求した体制にあると言える。
<職員の専門化>
では、合併前に静岡市がアピールしていた職員の専門性向上は進んでいるのだろうか。
静岡市は、
「静岡市人材育成ビジョン」を策定し、それにしたがって、平成 21 年度からの 3
年間に取り組む新たな「人材育成推進のためのプログラム」を推進している10。これは、静
岡市の将来を担う職員像の構築と、その職員像に向けた人材育成の計画を策定しているも
のである。このなかでは、職員の行動指針を「共働・挑戦・変革・明らかにする・調整」
の 5 つとして明示し、
「住民指向型・協調創造型・成長志向型・自律型」の人材を目指すと
されている。その中に、専門性を高めるという視点も明記されている。民間企業と比較す
ると、書かれている内容も含めて、そもそもこういったものを作成して職員に周知するこ
となど当たり前ではないかとも感じる。
10
静岡市『静岡市人材育成ビジョン』http://www.city.shizuoka.jp/000067939.pdf
access: 2012/2/5.
Last
9/23
しかし、こうした基本的なことすら、以前はなされてこなかったということを考えると、
多少は良い方向に進んでいると考えてもよいと思う。職員の専門性は、合併後 7 年程度で
向上したか否かの判断は難しいものの、こうした取り組みが進んだ結果どうなるのか、今
後の行方に期待したい。
<施設の再配置(学校施設を例に)>
最後に、教育分野を例にとって、施設の再配置が進んでいるのかを検証する。
次の資料は、市立の幼稚園・小学校・中学校の施設数、教員数、生徒数を平成 14 年(旧
静岡市)
、15 年、22 年とで比較して表にしたものだ。平成 14 年以前の旧清水市の資料が入
手できなかったため、合併前と合併後とを比較することはできないが、平成 15 年と平成 22
年とを比較すると、合併後7年間で、少子化の影響もあり小学校・中学校の生徒数は減少
しているのに比べ、施設数と教員数は増加している。
原因は、合併である。平成 15 年に清水市と合併した後、静岡市は、蒲原町・由比町とそ
れぞれ合併している。旧蒲原町には、小学校が 2 校と中学校が 1 校、旧由比町には、小学
校・中学校ともに1校ずつあった。これらは合併後もそのまま存置されており、学校数と
教員数の増加につながっている。
この結果は、検証項目③「旧市の枠にとらわれない地域整備」の観点として捉えてみた
場合にも、旧市・旧町の枠をそのままに、「○○町立小学校」だったものが「静岡市立小学
校」と名前だけを変えた状況で、学校運営を進めているようにも思える。
(1)幼稚園
単位:人
教員数
設置者別
園数
学級数
本務者
男
総数
14年(旧静岡市)
22年
9
14
28
41
50
73
女
総数
3
職員数(本務者)
兼務者
男
50
70
2
4
女
1
4
総数
1
男
10
-
1
-
(2)小学校
教員数
学校数
総数
本校
59
85
87
学級数
分校
58
1
総数
1
-
828
1,213
1,266
本務者
男
1,238
1,816
1,906
453
679
746
女
総数
785
1,137
1,160
29
86
75
女
5
10
14
総数
24
76
61
男
199
-
学校数
学級数
総数
27
42
44
362
528
599
718
1,063
1,096
本務者
男
450
653
666
女
兼務者
男
総数
268
410
430
(資料:静岡市ウェブサイトを参考に筆者作成)
9
61
80
4
33
40
職員数(本務者)
女
総数
5
28
40
99
142
-
男
88
-
生徒数
女
46
62
-
53
80
-
児童数
女
単位:人
教員数
14年(旧静岡市)
15年
22年
592
780
職員数(本務者)
兼務者
男
(3)中学校
設置者別
9
単位:人
設置者別
14年(旧静岡市)
15年
22年
園児数
女
12,425
18,079
17,626
111
-
37,117
36,677
10/23
③
静岡市・清水市の枠にとらわれない地域整備
地域整備には、道路・都市整備など様々なものが含まれるが、ここでは、静岡市の計画
における都市整備の現状を検討する。
<静岡市計画における都市整備>
静岡市では、第2次基本計画(平成 22 年度~26 年度)が策定された。 その中で今後の静
岡の街づくりがどのように計画されているのかを見てみよう。
(資料:静岡市総合計画より11)
この将来図を見ると、地域の一体的な整備というよりも、むしろ、地域の分散化を進め
ているように見える。静岡市の拠点と清水市の拠点は残したまま、さらに東静岡駅周辺地
域(旧静岡市)に、新たな拠点をつくるという計画である。実施計画によると、JR 東静岡
駅周辺地域開発には、平成 23 年度から 25 年度の計画だけで、47 億 6900 万円の事業費が
見込まれている 。なお、東静岡駅は、1998 年(平成 10 年)に新設開業された駅であり、
合併当初の新たな市庁舎を建設する計画が建設費用の問題で頓挫して、今も更地のまま残
っている。
加えて、同実施計画では、清水港整備(6 億円)
、JR 清水駅・JR 草薙駅(旧清水市)周
辺整備(28 億円、12 億円)
、清水駅前に清水地区文化施設の新設(82 億円)、由比漁港(旧
由比町)整備(11 億円)などに、それぞれ億単位の事業費が充てられている。
このように、静岡市の地域整備計画は、地域の一体的な整備推進というよりも、それぞ
れの行政区及び旧自治体への配慮が目立ち、逆に一体的な整備が阻害されているように感
静岡市総合計画「都市基盤」http://www.city.shizuoka.jp/000096295.pdf. Last access:
2012/2/5.
11
11/23
じられる。すなわち、地域整備事業費を各地域に分散することで、旧自治体間においてバ
ランスをとっているのではないかと思われる。確かに、新・静岡市の中心地域である葵区
静岡駅付近だけに開発の重点を置けば、清水地区から不満の声が上がるのは容易に想像で
きる。しかし、現状のように旧自治体間の融和を考えての都市開発計画では、旧自治体の
枠にとらわれない地域整備は進んでいるとは言えず、合併のメリットを発揮しているとは
言えないのではないか。
④
公共サービスの充実
公共サービスの充実には、価格と質の両面が含まれる。まず、行政区導入によって市民
サービスの質が向上しているのかを検討する。さらに、水道のサービスを例にとって、そ
の料金の推移から、価格の面においてサービスの向上がなされているのかを検討する。
<行政区割によるサービスの質向上>
政令指定都市となって行政区が創設されたが、行政区の数は政令指定都市の中でも最も
少ない3区(葵区、駿河区、清水区)である。旧静岡市が JR 東海道線に沿った形で、駿河
区と葵区に分かれ、旧清水市、旧蒲原町、旧由比町があらたに清水区となっている。
区役所の位置は、いずれも JR の駅の近くにある。すなわち、葵区役所(静岡市役所内)
と駿河区役所はともに JR 静岡駅の近く(したがって葵区役所と駿河区役所はともに両区の
境に位置し、非常に近い)
、清水区役所(旧清水市役所)は JR 清水駅の近く清水区のうち
葵区と駿河区寄りに位置する。尚、駿河区には区役所の他、長田出張所がある。
政令指定都市になるメリットとして、行政区が創設されることで、住民票の届出など市
民生活に密着した窓口業務は区役所で実施され、住民の利便性が高まると言われることが
多い。しかし、こうした状況を見ると、静岡市には当てはまらないことが分かる。なぜな
ら、区役所ができることによってこれまでよりも多少なりとも便利になったのは近くに区
役所のできた駿河区の住民だけであるからだ。広大な山間部を含む葵区の住民はこれまで
と全く変わらない。逆に、清水区のうち旧蒲原町や旧由比町の住民にとっては、住民票発
行などの窓口業務ですら町役場より遠い清水区役所まで来なくてはならなくなった。さら
に旧清水市を含む清水区全域の住民にとって、窓口業務以外の許認可の権限や予算を伴う
手続などは、葵区の市庁舎まではるばる来なくてはならなくなり、市民と行政との物理的
な距離はかなり遠くなっているからだ。
(資料:静岡市ウェブサイト)
12/23
<価格におけるサービス(水道を例に)>
平成 20 年 6 月以前はそれぞれ旧市の料金を利用していたが、水道料金の一元化を図るた
め、平成 20 年 6 月使用分から市全体平均で水道料金を 3.2%引き下げて一元化することに
なった。
全体では引き下げと言いつつも、市内各地区における平均改定率は、静岡地区 7.67%の
引き下げ、清水地区 4.08%の引き上げ(家事用 16.62%の引き上げ、業務用 15.34%の引き
下げ)
、蒲原地区 18.65%の引き上げとなっており、静岡地区では大幅引き下げになったが、
清水地区、蒲原地区では大幅引き上げとなっている12。したがって、清水地区、蒲原地区で
は、合併後にはかえってサービスが低下したと考えることもできる。
なお、水道普及率は、旧静岡市の 95.2%(平成 9 年度)から一貫して上昇し、平成 21 年
度には、96.7%になっている。
⑤
合併特例債の活用
合併前に静岡市は、合併特例債の発行によって様々な事業が可能になると見込んでいた。
しかし、その計画の多くは、財源不足により頓挫してしまった。合併特例債発行により進
展した事業もある一方で、静岡市の財政状況は悪化の一途をたどっている。
<当初計画の実現>
合併以前の合併協議会では、東静岡地域の拠点開発を中心に、新市庁舎の建設、新幹線
の新駅建設、バーチャル水族館建設、オペラハウス建設、日本平の総合的整備事業、こど
も科学館建設、清掃工場建設等、無謀とも思えるほど幅広い公共事業が次々に企画され、
10 年間で 5,582 億円を超える事業費を計画していた。実際、合併初年度の 2003 年度には、
合併推進のためもあって、地方交付税が 27.5%増加(196 億円)
、国庫支出金も 23%増加(279
億円)し、一時的に静岡市の財政が潤った。
しかし、次の年 2004 年度には、地方交付税は 155 億円に 21%も減少し、財政難に陥っ
た。結果として、当初建設計画に掲げられた事業のうち、新市庁舎の建設、新幹線の新駅
建設、バーチャル水族館・オペラハウス建設等、目玉的な事業の多くが頓挫することにな
った。合併前の建設計画はほぼ地方交付税ありきの計画であったということである。
それでも、静岡市立美術館建設、静岡科学館建設、日本平パークウェイ整備、静岡駅前
紺屋町再開発計画等の多くの事業が、合併特例債の発行によって推進された。
<財政状況>
それでは、静岡市の財政状況はどうなのか。ここでは、地方債の推移と、税収を含む歳
入・歳出の推移から、考えてみることにする。
12
静岡市ウェブサイト、http://www.city.shizuoka.jp/deps/suidosomu/ryokinkaitei.html.
Last access: 2012/2/5.
13/23
残念ながら、静岡市の財政状況は年々悪化している。例えば、市債累積残高は年々増加
している。市民 1 人当たりの地方債現在高は、439,308 円(平成 15 年度)から 537,454 円
(平成 22 年度) まで増加、7 年で 10 万円増加した13。
次の図は、静岡市の市債残高の合計と内訳の推移を示している。これを見ると、通常債
の発行は減少しているのに対して、合併特例債・退職手当債・臨時財政対策債が、年々増
加しており、全体としての市債残高が増加し続けているのが分かる。
静岡市市債残高推移のグラフを見ると、臨時財政対策債の発行が急増しているのが分か
る。臨時財政対策債は、地方交付税交付の財源が不足し、その減少を補うために、国が後
で補填するといって自治体に発行を許した地方債であり、自治体としては、自分の借金で
はないから積極的に発行しようとしている面も窺える。
しかし、全国の自治体で臨時財政対策債が急増していることに対して、総務省も対応を
迫られているようであり 、将来、国が臨時財政対策債分をきちんと各自治体に補填できる
かどうかは疑わしい面もある。
自治体から見れば、通常債のみが自治体の借金であり、通常債のみ減少させていれば良
いという考え方もあるようだ。しかし、国の借金も年々増加しているのであり、あとあと
国が助けてくれるだろうという発想は危険である。市債の種類を問わず、その合計が市の
借金であるという覚悟をもつ必要があると考える。
(単位:億円)
2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度
通常債
合併特例債
退職手当債
臨時財政対策
債等
合計
13
2,637
0
2,576
0
2,550
82
2,511
131
2,419
159
2,376
206
2,338
282
32
2,333
386
66
2,376
549
98
2,310
594
120
309
399
519
597
678
742
777
803
866
993
2,946
2,975
3,151
3,239
3,256
3,324
3,429
3,588
3,889
4,017
前出。静岡市決算カード。
14/23
(資料:出典14 を参考に筆者作成)
次に、静岡市に対する地方交付税と臨時財政対策債の推移を見てみる。年度によってば
らつきはあるものの、全体としてみると、地方交付税が減少し、その穴を埋めるかのよう
に臨時財政対策債が増加しているのが分かる。
(単位:億円)
2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度
地方交付税
臨時財政対策
債
合計
158
154
196
155
180
147
108
109
104
34
73
116
85
89
79
72
67
104
192
227
312
240
269
226
180
176
208
(資料:出典15 を参考に筆者作成)
このような市債残高の増加に伴い、実質公債費比率もまた、年々悪化している。実質公
債費比率とは、地方公共団体における公債費による財政負担の度合いを判断する指標であ
る(地方財政法第5条の4第1項第2号)。
静岡についてみると、平成 19 年度には 11.2%(合併前の静岡市 11.2%、旧由比町 10.8%)
だった比率が、12.2%(平成 20 年度)、12.4%(平成 21 年度)、12.7%(平成 22 年度)と年々
増加している 。それをグラフにしたのが次の資料である。
(資料:筆者作成)
川瀬憲子、
『
「平成の大合併」期における合併特例債が自治体財政に及ぼす影響 : 静岡市
の事例を中心に』
、静岡大学経済研究センター、2011/03/10。
15 川瀬、前出論文。
14
15/23
このままの伸びで実質公債費率が上昇すると想定すると、平成 31 年には、起債が制限さ
れる 18%を超えると試算できる(平成 20 年、21 年、23 年の伸び率を平均した伸び率のま
ま推移したと仮定した場合)
。これを示したのが次のグラフである。つまり、このまま公債
比率が伸び続ければ、あと 8 年後には、財政破綻の懸念が生じてしまうことになる。
(資料:筆者作成)
最後に、静岡市の歳入・歳出の推移を見てみる。次の表とグラフは、平成 14 年から 22
年の静岡市の歳入、税収と歳出の推移である。
税収は、わずかではあるものの、上昇している。しかし、税収の伸び以上に、歳入と歳
出が伸びている。こうした歳入・歳出の伸びは、この間地方交付税が減少していることを
考慮に入れると、静岡市の公債が増加していることと表裏を成している。
年度
H14(旧静岡市)
H14(旧清水市)
H14 (両市合計)
H15
H16
H17(静岡市)
H17(旧蒲原町)
H18
H19(静岡市)
H19(旧由比町)
H19(合計)
H20
H21
H22
歳入
163,465,044
76,120,026
239,585,070
267,768,415
238,258,574
249,281,044
ー
259,890,807
273,815,559
4,058,103
277,873,662
287,022,610
302,256,714
277,309,293
(単位:千円)
(内、市税収)
歳出
80,081,576
153,410,801
37,277,208
71,386,225
117,358,784
224,797,026
118,457,238
259,112,225
114,856,693
230,945,465
118,433,821
239,796,355
ー
ー
120,515,887
251,291,371
128,301,853
265,235,289
1,192,730
3,930,873
129,494,583
269,166,162
130,002,730
277,714,625
124,897,427
295,844,595
125,007,849
268,709,786
16/23
(資料:決算カードを基に、筆者作成)
⑥
政令指定都市への移行とそれに伴う静岡経済の発展
静岡市は、政令指定都市に移行することを強調していた。静岡市は、合併から 2 年後に
政令指定都市となっており、その目的は合併によって達成されたと言える。では、政令指
定都市になったことによってどのような変化がもたらされたのか。ここでは、県との間で
どのような事務配分がなされたのかという観点と、政令指定都市移行に伴う経済活性化が
実現したのかという観点の 2 点から、検討する。
<事務配分>
政令指定都市化に伴って、静岡県と静岡市は、事務配分に関して基本協定を締結した16。
基本協定には、法令等に基づく移譲事務(945 事業)、事務処理特例条例による移譲事務(540
事業)
、県単独助成事業(75 事業)が列挙されている。その中には、民政行政として例えば
児童相談所設置、都市計画・建設行政として下水道管理、土木行政として一級河川・安倍
川の河川管理、文教行政として文化財保護、産業・経済行政として中小企業支援など、様々
なものが列挙されている。また、経過措置をとるとされているのは、母子家庭医療費助成、
重度障害者医療費助成、乳幼児医療費助成、大規模地震対策等総合支援事業費である。
今後これらの事務は静岡市の事務となり、何かあれば国と直接交渉を行うようになる。
また、事務配分に伴う税財政上の特別措置としては、道路特定財源の増額譲与・交付、地
方交付税基準財政需要額の加算、交通安全対策特別交付金の交付、宝くじの発行可能など
が挙げられる。しかし、これらの税財政措置だけでは、膨大な事務増加に対する財源とし
ては不十分であるという批判が、政令指定都市制度には存在している。静岡市が政令指定
都市としての事務を円滑に実施するためには、今後、これまで以上に行財政の効率化を進
16
『静岡市の政令指定都市移行に伴う基本協定書』
http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/247100/www.tenhama-wa.jp/h_j/h_j_data/kiyougi_pd
f/08/48_52.pdf. Last access: 20120/2/5.
17/23
める必要がある。
<経済活性化>
静岡市は、政令指定都市になることによって、知名度やイメージの向上や経済発展など
のプラスの結果をもたらすことをアピールしていた。そうした経済的な合併のメリットが
本当に実現しているのか。ここでは、経済面で静岡経済が成長しているかどうかから検討
してみたい。
次の資料は、静岡市(旧清水市を含む)におけるすべての業種の、商店数・従業者数・
年間商品販売額の合計である。商店数、従業員数、年間商品販売額すべてにおいて、平成 9
年よりも平成 19 年のほうが、減少している。この傾向は、業種の分野別にみても同じであ
り、全産業が全体的に衰退していることが分かる。
H9
商 店 数 従業者数
H14
H16
H19
年間商品販
年間商品販
年間商品販
年間商品販
商 店 数 従業者数
商 店 数 従業者数
商 店 数 従業者数
売額
売額
売額
売額
万円
店
人
万円
店
人
万円
店
人
万円
385,743,513 8,003 56,557 268,122,282 11,480 77,281 330,448,197 10,625 72,375 334,733,588
103,205,437 3,647 21,032 77,365,226
-
静岡市
旧清水市
商店
9,057
4,210
人
61,673
20,000
合計
13,267
81,673 488,948,950
11,650
77,589 345,487,508
11,480
77,281 330,448,197
10,625
72,375 334,733,588
(資料:静岡市ウェブサイト『静岡市の統計情報』より筆者作成17)
さらに市内の事業所の合計数についても、平成 13 年には、旧静岡市だけで 43,058 事業
所あったが、平成 18 年には、新・静岡市全体でも 38,771 事業所と、大きく減少している。
こうした経済の停滞の原因は様々考えられるが、一つの原因として、大規模店舗の静岡
市進出があるのではないだろうか。近年、静岡市内には、パルコ、109、ヤマダ電機や
コジマ電気など全国展開した大規模小売店が多く出店するようになった。特に静岡駅周辺
は開発が進み綺麗になったとは思うのだが、話題の新規出店店舗はその多くが東京などに
本社のある大規模小売施設であり、地元住民の経済状況につながっているかは疑わしい。
大規模店舗の出店により住民の生活は便利になったともいえる一方で、地元商店街などが
逆に衰退していっている。静岡市としては、長期的に住民の生活基盤である労働をどのよ
うに確保していくかという対策が必要である。
3.3
これからの静岡市
3.3.1
合併後の変化のまとめ
以上、合併後の静岡市の状況を検討してきた。①支出削減、②行政の効率化、③静岡市・
清水市の枠にとらわれない地域整備、④公共サービスの充実(効率性の向上と質の向上)、
17
静岡市ウェブサイト『静岡市の統計情報』、
http://www.city.shizuoka.jp/deps/joho/tokei_index.html.
Last access: 20120/2/5.
18/23
⑤合併特例債の活用、⑥政令指定都市への移行とそれに伴う静岡経済の発展という6つの
観点からみたとき、静岡市は、合併当初の目的を達成するには程遠いという印象だ。検証
項目①と②の一部についてはある程度進展がみられる。しかし、検証項目③、④、⑤、⑥
については、当初の目標達成には到底及ばないのが現状だ。特に、③、④、⑥については、
より住民の声を反映させた政策を実施する必要があると考える。
そもそも合併当初掲げた目標自体が、大風呂敷を広げすぎ、メリットだけを強調したも
のだったという点は否定できないだろう。合併の過程で住民が求めた住民投票が議会で否
決された経緯もあり、初めから「合併ありき」で住民不在の合併だったともいえる。政令
指定都市化にしても、住民にとってはメリットがあいまいなまま現在に至っている。
しかし、とにかく静岡市は合併して、政令指定都市になった。静岡市は合併のメリット
を十分に発揮し、より良い街になっていくことを目指さねばならない。
3.3.2
「効率性」と「民主性」
それでは、今後静岡市がより良い街となるために、どういった方向性を目指すべきなの
だろうか。
『2.3 市町村の役割』において、これからの基礎自治体には、
「効率性」と「民
主性」が必要だと述べた。振り返ってみると、静岡市が合併する際に主張していたメリッ
トのうち①、②、④(価格面)
、⑤は「効率性」に関わる論点であり、③、④(質の面)、
⑥は「民主性」の論点だった。
「効率性」の観点から言えば、歳入と歳出のバランス確保のために、静岡市は、公債額
全体を下げていくように努める必要がある。平成 31 年に財政破たんを迎える可能性を考え
ると、猶予はない。さらに、政令指定都市化にともなう財源不足を考慮すれば、自主財源
の確保も不可欠である。現在は、基礎自治体が地方税率を決められる範囲は非常に限られ
ており、市町村税の税率は画一的にほぼ決められたものとなっているが、これからは、基
礎自治体が税率を決定できるようにする措置が必要なのではないか。特に政令指定都市の
ような大都市においては、拡大された事務権限に見合うだけの税源確保が不可欠である。
そうした財源を自主的に自治体が決定できる仕組みがあってもよいのではないかと考える。
「代表なくして課税なし」という言葉もあるように、課税権を地方に委ねることが、真の
地方自治につながっていくと思う。
こうした「効率性」の観点に加えて、これからの基礎自治体には「民主性」の観点が不
可欠である。静岡市も、今後、
「民主性」の観点を強化していく必要がある。
この観点から、静岡市でも、市民参加のための取組を推進している。平成 19 年 4 月 1 日
には「静岡市市民参画の推進に関する条例」が施行した。その施行規則では、(i)パブリック
コメントの実施を通して広く意見等を募集する、(ii)意見交換会の開催を通して対話形式で
意見を聴く、(iii)市民ワークショップの開催や審議会等への付議などを通して議論を深める
方法などが定められ、実際にも実施されている。
19/23
さらに興味深い試みとして、区民が主体となって、区と区民との協働により地域づくり
を進めるために、各行政区で「区民懇話会」が開催されている。区民懇話会では、区内在
住・在学・在勤の市民 10 名程度(現在は 11 名)が任期 2 年で選ばれ、年 3 回以上集まっ
ている。懇話会では、行政の担当者たちと委員たちが議論して、区に関する提案をまとめ、
区長に提案できることになっている。合併特例法における「地域審議会」と類似するが、
合併後の経過措置ではなく恒久的なものである点や単位が旧自治体の区域でなく現在の行
政区である点等が異なっている。
委員の内訳をみると、公募委員はおよそ 4 名であり、他の 7 名は行政から推薦された市
民の委員である。これまでのところ、懇話会は平日の夕方に実施されており、委員は主に
高齢者が多いようだ。
こうした取組を今後さらに進めていくためには、どのようなことが必要なのだろうか。
ここでは、いくつかの案を提案したい。
案 I:懇話会の休日開催。
まず、こうした懇話会を休日に開催することで、平日は夜遅くまで仕事がある働き盛り
の勤労者も参加することができる。その場合、現在のように行政から 7 名も 8 名も担当者
が同席する必要性はないのではないか。あくまでも市民の自主性に任せるのであれば、行
政からは担当者が 1 名か 2 名程度が出席することにする。
案 II:若者の参加を促す。
国立静岡大学が位置する駿河区をはじめとして、懇話会に大学生などの若者が積極的に
参加できるようにする必要があると考える。なぜなら、現在若者の参加はほぼゼロである
うえ、若者の柔軟な発想力を街づくりにも活かすべきと考えるからだ。
そのためには、例えば、次のような策が考えられる。
(a)懇話会委員募集の PR を強化する。例えば、委員募集を各大学の掲示板に告知するだ
けでも効果は上がるかもしれない。
(b)委員に若者枠を作る。若者は口コミやインターネットでネットワークを広げる傾向に
あるので、若者を委員にすると、懇話会自体の認知度が上昇することにもつながる。また、
これからの区を担っていく若者の意見を行政に反映させることは重要と考える。
(c)懇話会の様子を誰でも見学できるようにする。見学を通して、懇話会への市民の関心
を広げることにもなる一方で、会の運営側が緊張感を持って懇話会に臨むことができる。
また、見学自由の一環として、例えば、小・中学校の教師に見学してもらって生徒たちに
取り組みを紹介してもらう等、積極的に懇話会をアピールすることも重要だ。
案 III:3つの区民懇話会の連携により、市民懇話会を創設する。
現在の区民懇話会では、区の現状や問題点を話し合い、事業提案につなげている。こう
した知識やノウハウを活かし、静岡市全体としての問題点・解決のための事業提案を実施
する。
このような取組を通して、今後、懇話会自体の魅力をさらに高めていくことで静岡市の
20/23
「民主性」の土台をつくる。
そのうえで、目標が達成できていない項目のうち、③旧市の枠にとらわれない地域づく
り、④公共サービスの質の向上、⑥政令指定都市への移行と地域経済の発展という 3 点を
実現するために、
「民主性」の観点から個別の取り組みをしていくべきである。例えば、以
下のような取組が考えられる。
<検証項目③ 旧市の枠にとらわれない地域づくり>
静岡には、山や海といった豊かな自然環境と、快適な都市生活がある。自然と都会との
融和を大切にして「静岡らしい」街づくりを進めていくことが大事である。駅前地域の開
発に傾倒するのではなく、市民が身近にある自然に触れあいながら、市内全域に分散して
定住するような街づくりが必要だ。
そういった街づくりのために、葵区の中山間地域を単なる保護の対象にするのではなく、
積極的に街づくりに活用していくことが求められる。例えば、近年全国的に“農業ギャル”
が話題になるなど、都会の若者には農業に魅力を感じる人も増えてきている。東京から新
幹線で 1 時間という交通利便性を活かし、週末農業体験などを実施したらどうか。農業と
は無縁で育った市民ももちろん参加可能だ。その他、静岡駅前から井川地域への日帰りツ
アーなどを民間企業と連携して実施してもよいのはないか。中山間地域に行ってみたいけ
れど、行き方が分からなかったり、高齢で車の運転が不安であったり等、個別の事情を抱
えている市民は多い。一度行ってみて魅力を感じれば、今度は家族や友人たちと訪れてく
れる可能性も高い。静岡市の魅力を市民自身や他地域の方々が発見することができる仕組
みが必要である。
また、葵区の中山間地域における交通公共機関の不便さや医療機関へのアクセスなどの
課題解消のために積極的に予算を投じる。その解決策には、医療機関の新設などの施策で
はなく、あくまで一例だが、
「当該地域に住んでいる住民が、駅前などの中心地の医療機関
までタクシーを利用した場合、一定の条件が満たされれば、行政から補助が出る」などの
柔軟な施策が求められる。
<検証項目④ 公共サービスの質の向上>
静岡市でも少子高齢化が進んでいるが、これからの公共サービスは、単に効率性を追求
するのではなく、行政と地域住民との顔の見える関係による質の向上が必要である。例え
ば、定年退職後の被再任用者が、車で地域を回る移動出張所をつくり、住民との恒常的な
関係を築くようにする。その中で聞いた市民の声をきちんと行政に反映させる仕組みをつ
くる。そのような、行政と住民との密接な関係があって初めて、公共サービスの質を向上
させることができる。
今後は、これまでのように行政が住民生活を全面保障することは困難になることが予測
される。したがって、自助・共助・公助の精神に立ち返り、住民同士の関係を強化し、共
助の精神を養う施策を進めることも必要だろう。例えば、現在防災ハザードマップが静岡
21/23
市ウェブサイトにて公開されているが、こうしたものをきちんと把握している住民は少な
いと思われる。そこで、町内会などで、ハザードマップの見方、震災の場合の対応策のケ
ーススタディなどを実施するように推進する。そうした地域でのコミュニケーション重視
の防災活動を行い、地域の連携を強める。そうしたことも、これからの行政サービスとし
て必要なのではないか。
<検証項目⑥ 政令指定都市への移行と地域経済の発展>
静岡には、静岡茶・わさび・みかんなど全国に誇れる特産品が存在する。こうした特産
品をブランド化していくことで、経済発展につなげられると考える。経済に関しては、市
民の自立的な企業家精神を発揮してもらうため、行政は、人材育成などの面からサポート
する。例えば、静岡茶関連のイベントは主に静岡県や静岡県茶商工業協同組合などが主催
しているので、そうしたイベントに静岡市のお茶生産者が積極的に出品できるように支援
を行う。
また、政令指定都市になり様々な分野の事務が市の権限となったのだから、各分野の施
策において、先述した懇話会などを活用し、住民参加のもとで政策を決定・実施する。そ
うした市民目線の行政が実施され、公共サービスの質が向上して初めて、政令指定都市に
なって、事務が県よりも「住民に近い」市の業務となった真の意義が生じるからだ。
以上はあくまで案でしかないが、こうした様々な施策を通して、静岡市行政における「民
主性」を向上させ、効率性と民主性を備えた「スマートな我が街☆静岡」としてキラリと
光る街になってほしいと思う。東京に暮らして思うが、静岡は本当に良い街である。気候
は年中温暖で、人もおっとりしていて皆優しい。魚は勿論、野菜や米も地元で採れる新鮮
なものが食べられる。日常生活には不便しない一方で、海にも山にも近く、家の窓からは
富士山だって見える。自然に触れながら快適な生活ができる静岡の良さというのは、暮ら
してみなければわからないだろうが、これからは全国にも誇れる武器になると思う。そう
した「静岡らしさ」を活かした街づくりが進んでいくことを願う。
4
これからの基礎自治体
以上、これからの基礎自治体には「効率性」と「民主性」が必要であることを述べてき
た。つまり、
「効率性」のもとに基礎自治体として必要不可欠な行政機能を果たし、「民主
性」のもと市民を巻き込みながら個性あふれる街づくりを行うことが、これからの基礎自
治体には求められている。
本稿では、合併して政令指定都市になった静岡市を例に挙げてきたが、こうした枠に収
まらない市町村もまだまだ全国には存在する。例えば、合併しなかった・できなかった市
町村はどうするのだろうか。
総務省は「定住自立圏」と称して、自立可能な中心市と、周辺の地域とが連携を進める
ことを構想している。そこでは、医療、福祉、環境、交通インフラ整備に加え、人事研修
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などでも連携が想定されている。総務省の構想する中心市の中に、静岡市も入っているが、
いまだ静岡市は中心市宣言をしていない18。この点、静岡市周辺の市町村の多くは、町村が
市に吸収されるような形で合併したので、定住自立圏がなくては生き残れないほど小規模
な市町村が静岡市周辺に存在しないことも、静岡市が宣言をしない一因と考える。しかし、
静岡市でも人口は減少している。これからは、基礎自治体の枠がすべてであるという発想
ではなく、周辺地域も含めて一緒に成長していこうとする取り組みがますます求められる
だろう。そこでは、静岡市のような都市がコアとなり、周辺の自治体と一緒に行政を実施
していくことが必要になる。一つの基礎自治体で全分野を完結させるのではなく、分野ご
とに、強いところが弱いところを補いあって、持ちつ持たれつの関係を築く。そうした観
点から、周辺自治体との連携を積極的に進めていく必要がある。
こうした街づくりの過程で、自治体職員には、今まで以上に柔軟な発想が求められる。
また、住民が行政に参加するという行政主体の「住民参加」ではなく、行政と住民が、少
なくとも特定分野においては、一緒に街の在り方を考え、実現していく「ガバナンス」が
求められる。そうした観点から、これからの基礎自治体には、これまで重視してきた「効
率性」に加えて、
「民主性」の強化が不可欠であると言えよう。
5
終わりに
平成の大合併を経て、静岡県は、静岡市と浜松市という政令指定都市を2つ抱えること
になった。政令指定都市が一つの都道府県に複数存在する県は、静岡県以外では、福岡県、
大阪府、神奈川県の 3 県である。政令指定都市には制度上様々な問題が存在する。例えば、
都道府県との間で二重行政を生むこと、事務に見合った財源がないこと、事務配分自体が
部分的で総合性を欠くこと、一般の市町村の枠内における運用に過ぎず地方自治制度内で
の位置づけが不明確であることなどである。今後はこうした問題を解消することもまた、
地方自治の一つの課題となってくるだろう。大阪府で生じた「都構想」が即座に全国に拡
大するとは思わないが、何らかの形で、現在の政令指定都市の問題を解消する新しい制度
が必要となるだろう。その際には、都道府県では業務範囲が小さすぎるという観点から「道
州制」への移行、もっと過激に二層制は大都市には不要であるとする「特別自治市制度」
創設など、様々な制度論が考えられる。
本稿では、そうした制度論にまで踏み込むことはできなかったが、市町村の大合併を終
えた現在、どのような制度をつくっていけば地方自治がより活発化するのかという点は、
今後の課題としたい。
18
総務省、
『全国の定住自立圏の取組状況について』
、
http://www.soumu.go.jp/main_content/000143558.pdf. Last access: 2012/2/5.
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参考文献・ウェブサイト(最終アクセス日はすべて 2012 年 2 月 29 日)
岩崎 美紀子、
『市町村の規模と能力』、ぎょうせい、2000 年。
川瀬 憲子、『
「平成の大合併」期における合併特例債が自治体財政に及ぼす影響 : 静岡の
事例を中心に』
、静岡大学経済研究センター、2011 年。
川瀬 憲子、
『
「分権改革」と地方財政―住民自治と福祉社会の展望』
、自治体研究社、2011
年。
佐々木 信夫、
『自治体をどう変えるか』ちくま新書、2006 年。
中川 義朗、
『これからの地方自治を考える―法と政策の視点から』
、法律文化社、2010 年。
増田 知也、
『市町村の適正規模と財政効率性に関する研究動向』
、自治総研通巻 396 号、
2011 年。
吉村 弘、
『最適都市規模と市町村合併』
、東洋経済新報社、1999 年。
静岡市ウェブサイト、http://www.city.shizuoka.jp/.
総務省ウェブサイト、http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/index.html.
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市町村合併のその先へ『スマートな我が街 づくり』 ―静岡市を事例に―