解説
特集
組織の文化が口コミで伝わる
ソーシャル時代の透明性
ソーシャルメディア活用に一歩踏み出す
ができる。表面的なイメージ戦略に基
エイティブ」と呼ばれるこの戦略は、
トを開設し、情報発信を始めることが
づく大げさな広告を作ったところで、
声の大きさで人を振り向かせるのでは
第一手だと考えがちだが、発信する、
サービスや商品の質が伴わなければ顧
なく、感情に訴え、驚きや感動を他者
しないにかかわらず、人々は企業を監
客による評価がネット上にすぐに出回
に伝えてもらうためのものだ。
視し続け、評価は口コミで拡散する。
り、化けの皮がはがれる。
2 つ目は、顧客と接する段階で、期
公式アカウントの存在は、これに直接
ウェブ、印刷物、商品ディスプレ
待を上回る体験を提供すること。良い
影響を及ぼすものではない。先に述べ
イ、接客、電話。たった 1 回、時間に
意味でのギャップが大きいほど、感動
ためざすべき姿に実態が追い付いてい
発信者となり、情報があふれかえるな
して数秒だとしても、何らかの形で企
を誰かに伝えたくなるだろう。
ないのに小手先の運用をすれば、共感
斉藤 徹
か、伝わりやすい情報には特徴があ
業と接した際に、顧客が強い印象を抱
3 つ目は購買後の段階で、ソーシャ
を呼べない企業体質をさらけ出すこと
る。キーワードは「共感」だ。情報の
けば、それが良いものであれ悪いもの
ルメディア上の顧客の会話に参加させ
になり、むしろ逆効果と言える。
さいとう・とおる
発信者は受け手にとって信頼できる相
であれ、拡散する可能性がある。企業
てもらうこと。監視するのではなく、
私は、焦って発信を始めてしまう前
手であることが前提で、一方的に情報
側から見れば、顧客と接する瞬間、瞬
あくまで「聞かせていただく」姿勢が
に、まずはソーシャルメディア上に流
を送るだけの薄い関係では、共感を得
間が、自社のイメージを左右する「広
肝要だ。生の声を傾聴し、心を配りな
れる口コミを傾聴するよう企業に勧め
られない。思わず「いいね!」と同調
告」の意味を持つようになったのだ。
がら対話をして、必要であれば対応す
ている。幸い、日本はアメリカなどに
したくなり、一緒に楽しめ(時には悲
スウェーデンに本社を置くスカンジ
る。
比べるとリアルタイム検索ができるツ
しむ、怒る)
、社会にとってプラスに
ナビア航空では、顧客と従業員が接触
口コミのパワーが従来と比較になら
イッターが一般市民にも普及してお
なる、そんな情報は人々の心に届き、
する平均15 秒程度の時間を「真実の瞬
ないほど強まったいま、一部の「お得
り、顧客の声を集めやすい(アメリカ
「ほかの人にも伝えたい」という感情
間」と呼び、この接点を大切にしてい
意様」だけではなく、すべての顧客に
のツイッターの普及率は 10%程度で、
を起こし、共感や口コミが広がってい
る。従業員はこの瞬間に最高のブラン
対してこれら 3 つのポイントを実践す
ユーザーの中心は経営者層だ)
。自社
くのだ。
ド体験をしてもらえるように心掛けて
る必要がある。
は世間からどう思われているのか。悪
(株)ループス・コミュニケーションズ代表取締役社長
1985年慶應義塾大学理工学部卒業。日本IBM(株)を経て2005年
(株)ループス・コミュニケーションズを創業。ソーシャルメディアのビジ
ネス活用に関するコンサルティング業務を展開している。著書に『ソー
シャルシフト』
(2011年、日本経済新聞出版社)など。
ソーシャルメディアの普及によって生活者が発信する情報の価値が高まる
なか、企業のマーケティングが変化している。新しいコミュニケーションが可
能にした、従来にない戦略とは何か。ソーシャルメディアの活用に詳しい斉
藤徹氏に聞いた。
いところがあれば反省し、良いところ
いる。期待を上回る体験をした顧客は
世界中に広がる
「共感」でつながる文化
「また乗ろう」と思うし、その感動を
は分析、共有して生かす。この繰り返
マーケティングに与える影響を見て
顧客や従業員に対する
誠実な姿勢が問われる
みよう。図表の左側の赤いファネル
人々から常に監視され、何かあれば
発信を考えればよい。
(じょうご)は、従来のマーケティン
たちどころに伝播してしまう透明性の
おそらく 3 ∼ 5 年後には、ソーシャ
公開を原則とするソーシャルメディア
グだ。購買前に大量に広告を打ち、間
時代において、企業がめざすべき姿は
ルメディアは現在以上に普及し、企業
や考え、目的などを共有した人が自発
の性質上、顧客がサービスや商品に接
口を広げれば広げるほど、最終的に購
非常にシンプルだ。すなわち、経営の
の経営を揺るがす力になる。それまで
ている。ソーシャルメディアの利用等
的に集まる。特に、高度経済成長と無
して漏らした感想は、誰でも見ること
入に至る顧客も多くなる。
「伝える」
原点に戻り、自社の商品、サービスの
に、透明性の時代になじむマネジメン
に規制のある中国を除くと、世界のイ
縁の若い世代に
メッセージの内容と量の調整によっ
質を高め、社会に貢献すること。言い
ト体制を整えられるかどうかが、企業
ンターネットユーザーは約 18 億人。
は「モ ノ よ り ヒ
て、企業がある程度コントロールでき
換えれば、自社は何のために存在して
の命運を左右するだろう。
フェイスブックのユーザー数だけを見
ト」の価値観が浸
る領域である。
いるのか再認識し、目先の利益や社内
ても、既にその半分を超えている。こ
透 し て お り、見
対極にできた新しいマーケティング
の駆け引きにとらわれず、人間として
れだけの人々が、情報を伝え合い、時
知らぬ人と気軽
が、右側の青いファネルだ。新しい
まっとうな行動を取ることだ。
に行動を共にする。その結果、
「アラ
に結び付くこと
ファネルは商品やサービスに対する顧
従来、日本企業に見られた滅私奉公
人間的な交流を通して
長期的な信頼関係を構築
ブの春」のような、国家を揺るがす事
が で き る。メ ン
客の口コミが「伝わる」過程。情報の
を従業員に強いるスタイルは通用しな
ここからは、ソーシャルメディアを
態も起きるようになった。マスメディ
バー間に上下関
発信源は顧客なので、企業にはコント
い。今や従業員も発信者の一人であり、
活用した企業の活動を、3 つの手法を
アとは異なる新たなメディアの出現に
係や利害関係は
ロールできない。
自社に対する感情がインターネット上
例に見ていく。
よって、情報伝達のしくみは根本から
な く、対 等 な 友
これからのマーケティングに大切な
に染み出すからだ。顧客だけでなく従
変わりつつある。
人同士の関係で
ポイントは、図表で示した各プロセス
業員もまた、統制の対象ではなく、信
生活者との人間的な信頼関係の
1
構築
何が変わったのか。口コミやうわさ
ある点が特徴と
に対応して 3 つある。1 つ目は購買前
頼と共感を得るべき存在である。
コミュニケーションによる顧客ロイ
がすぐに広まるという点では、村社会
言える。
の段階で、後で口コミが広まることを
ソーシャルメディア自体にはどう向
ヤルティ(愛着)の向上は、ソーシャル
に戻ったと言えるかもしれない。ただ
す べ て の 人 が
意識した演出を行うこと。
「共感クリ
き合えばよいだろうか。公式アカウン
メディアの最も基本的で重要な機能だ。
はないに等しく、情報は瞬時に数万
コントロールできない
顧客の口コミ
人、数百万人に拡散する。従来の村社
情報伝達のしくみの変化は、企業を
までは知り合い得なかった人々の間に
会におけるコミュニティーは家族や地
取り巻く環境に透明性をもたらした。
急速に「つながり」を形づくり、情報
域に限られていたが、現代では、趣味
や思いを広く共有する文化を生み出し
ソーシャルメディアの普及は、それ
2012 8-9 月号
ターネット経由なので距離的な隔たり
図表
ソーシャルメディア普及後のマーケティング
①広告、店舗、イベント
→ソーシャルメディアと連動
③傾聴、対話、活性化
→ソーシャルメディアを活用
顧客の数
12
し、
「村」の 広 さ は 地 球 規 模。イ ン
②顧客との接点
→期待を上回る体験を提供
購買前
購買時
購買後
共有したくなるからだ。
しを経て、社会および従業員から信頼
される企業文化、風土を固めてから、
2012 8-9 月号
13
特集
企業の実例1
愛着をより深める
ファンとの共同開発
全日本空輸(ANA)
フェイスブック
http://www.facebook.com/ana.japan
2011 年 1 月開設(日本語ページ)
さまざまな職種の従業員が写真、実名入りで投稿するなど、ファンとの交流が好評で、国内有数
のファン数(72 万 8273 人。2012 年 7 月 4 日現在)を獲得している。広報室の国松歩美氏は、
「私たちの取り組みを理解してもらうというより、ファンが読みたいと思う内容を掲載するよう意
2011年に出版した私の著書『ソー
シャルシフト』も、2000 人以上の協力
人々とのコラボレーションによる
2
商品開発
を得て生まれた。意見を求めてフェイ
企業への信頼や愛着が増すと、その
の声と対話をして内容をブラッシュ
活動に積極的に協力したいと思うファ
アップしていった。通常の執筆に比べ
ンが現れる。無印良品で知られる良品
て何倍もの労力を要したが、私一人で
計画や食材宅配のオイシックスは、そ
は決して持ち得ない高い知見を盛り込
うしたファンと共に新商品を開発して
むことができた。
スブック上に原稿をアップし、すべて
いる。多いときで数千人を相手に対話
しながらモノをつくるという作業は、
ソーシャルメディアなしではほぼ不可
トラブルの芽を摘み
不満を感謝に変える
識している。結果として、広告的な投稿は行っていない」と語る。ファンづくりおよびファンとの
能だ。
交流を深めることを目的に、
「空から見える景色クイズ」
「Captain's トリビア」のほか、最新鋭機
対話を通して顧客の意見を吸い上げ
アクティブな顧客サポート
3
ることは、意見の機械的な取捨選択が
従来、商品購入後のサポートは、顧
可能なアンケートとは根本的に異な
客からの問い合わせへの対応が主だっ
の「ボーイング 787」の情報などを投稿。多くの「いいね!」とコメントを集めている。
企業の実例3
ソフトバンクモバイル
ツイッター(カスタマーサービス担当)
@SBCare
2010 年 7 月サービス開始
「店員の対応に不満」
「設定の方法がわからない」といったつぶやきに対して、常時 10 人のスタッ
フが「よろしければ詳しい状況をお聞かせください」と声を掛け、解決を図っている。あらかじめ
設定してあるキーワードを含むつぶやきを自動的に収集。スタッフが 1 件ずつ確認して、トラブル
や不満を抱えている顧客を探している。収集したつぶやきは、ポジティブなものも含め、1 日 2
回、関連部署に報告して共有。広報室の長田真理子氏は「社全体が、お客様の声に迅速に反応す
るようになった」と話す。
これまでも、企業はさまざまな方法
的なファンをつくることが、生き残る
る。イメージとしては、企画会議の席
た。しかし、ツイッターのリアルタイ
じてサポートをするというのが現実的
は圧倒的に高い。高校生とのコミュニ
で顧客との信頼関係を築いてきたが、
道」という考えの下、顧客満足の向上
にファンを招待しているようなもの
ム検索機能を使って「困っている人」
だろう。一度でも顧客の気持ちをポジ
ケーションの主体は、教職員よりも学
対面による継続的な交流には限界があ
に取り組み、フェイスブックページを
だ。一つひとつの発言を尊重し、真摯
を探し出し、企業から能動的に手を差
ティブに変えることができれば、ブラ
生が理想的だ。一般の商品において、
り、製品やサービスを通して得る信頼
立ち上げたという。文字どおり、従業
に対応しなければならない。相応の体
し伸べることができるようになった。
ンディングにつながる対話だと実感す
従業員のお勧めコメントよりも、その
は、間接的なものにならざるを得ない。
員の顔が見える投稿をはじめ、共感を
制とパワーが必要であり、省力化、効
このサポートのメリットは、顧客が
るはずだ。
商品を購入した顧客の感想のほうが
その点、フェイスブックやツイッター
呼ぶ魅力的なコンテンツによって、高
率化とは真逆の試みだと言える。その
本気で怒り出す前の「イラッ」として
は、多くの人々と人間味あふれるコ
いエンゲージメント率(「いいね!」や
分、開発過程における従業員の考えや
いる段階で収拾できること。コールセ
ミュニケーションができる機会を飛躍
コメントなど、ファンが反応を返す割
思いがファンに共有されるので、単な
ンターに電話する時点で顧客の多くは
的に増加させた。これまでパンフレッ
合)を達成している。
る購買者以上の思い入れが伝播してい
頭に血が上っていて、対応には大変な
期待を上回る体験を
与えられる大学に
労力を要する。これを事前に鎮火でき
最後に、私なりに大学とソーシャル
旧来的な組織文化が支配する大学であ
るだけでも意義があるが、周囲に不満
メディアの相性について考えてみる。
れば、ソーシャルメディアにはなじま
をもらしていた顧客は、思いがけず企
ソーシャルメディアが影響を与えや
ない。企業と同様、中身を変えないま
業から直接声を掛けられることによっ
すいのは、一般的に、購入までの検討
ま表面的な発信をしても、その本質は
トと同じように一方的に情報を送り出
すメディアであったウェブは、ソー
シャルメディアの普及によって顔が見
える人間同士が交流する場、つまり実
企業の実例2
良品 計 画
ずっと大きな影響を及ぼす。当然なが
ら、学生が大学に対して満足感や誇り
を持っていることが前提だ。
学生が不満を抱え、上下関係が強い
店舗と同じ位置付けになったのだ。
自社コミュニティー「くらしの良品研究所」
て、怒りが感謝に変わる例も多い。
時間が長い商品と言われている。大学
すぐに伝わってしまうだろう。ソー
実際、ソーシャルメディア上でのコ
http://www.muji.net/lab/
やり取りが公開される点も、メリッ
教育は、その最たる商品であり、ソー
シャルメディアへの参入を考える前
ミュニケーションが盛んな企業に話を
として開設
トにつながっている。衆人環視の状況
シャルメディアとの相性はいいと言え
に、透明性の時代に合った大学風土を
下では、顧客はたとえ怒っていても礼
よう。ソーシャルメディア上で、期待
つくることに力を入れるべきだ。
儀正しい態度を意識する。企業側に
を上回る体験を受験生や保護者に与え
ソーシャルメディアのイメージとか
とっても、クレームを、納得と感謝に
られる大学になることが理想的だ。そ
け離れている組織ほど、改革に取り組
変えるプロセスを多くの人が注視して
れは教職員や学生がざっくばらんに話
んだ際のインパクトが大きく、共感を
いるとなれば、おもてなしのし甲斐が
し合えるオープンな校風を持った大学
呼びやすい。現状への危機感をモチ
聞くと、
「対応方法は、店舗での接客
と変わらない」と口をそろえる。普段
から顧客と接している人ほどうまく振
2001年、「モノづくりコミュニティー」
フェイスブック
http://www.facebook.com/muji.jp
2010 年10月開設
る舞えるようだ。
ソーシャルメディアによる信頼関係
2001年から独自のネットコミュニティーを開設して顧客と交流。2009 年に「くらしの良品研究
の構築に積極的なのが、航空業界であ
所」としてリニューアルオープンした。顧客の意見を取り入れて開発した商品には、ヒット作も多
ある。
であると思う。
ベーションに、事前期待を大きく上回
る。世界中の航空会社のほとんどが
い。「プロジェクト」のタグが付いた記事で、開発過程を見ることができる。2010 年にスタートし
ソフトバンクモバイルは、サービス
メディアの種類としては、ミクシィ
る体験を学生や教職員、すべての大学
や商品の特性上、口コミの数が極めて
が特に有効だと思われる。高校生や大
構成員が提供できるようになれば、受
多いために専属スタッフを置いている
学 1 年生は、特に地方において、ほか
験生や保護者の口コミはこれ以上ない
が、多くの企業においては、必要に応
のメディアに比べてミクシィの普及率
強い味方となるだろう。
(談)
「 9.11」以降、経営不振に陥り、危機
感を高めたことが背景にあると思われ
る。全日本空輸も、
「共感を得て長期
14
くことも期待できる。
ソーシャルメディア活用に一歩踏み出す
2012 8-9 月号
たフェイスブックにも「くらし研究」カテゴリーを設け、上記の自社コミュニティーと連動した記事
を掲載している。2012 年 7 月現在、左利きの人向けの商品開発を進めており、意見を募集してい
る。3000人以上の「いいね!」や多くのコメントが寄せられている。
2012 8-9 月号
15
ダウンロード

組織の文化が口コミで伝わる ソーシャル時代の透明性