広島工業大学紀要教育編
第 9 巻(2010)pp.19-25
報
告
接続型教育を目指して
第3報 基礎物理演習の教育効果
鈴木 貴 *・尾崎 徹 **・井上 光 ***・大政 義典 ****・細川 伸也 *****・北野 保行 ******
(平成21年10月31日受理)
Toward a Linking Education
The Third Report: The Educational Effect of Exercise in Basic Physics
Takashi SUZUKI, Tōru OZAKI, Hikaru INOUE, Yoshinori OHMASA,
Shinya HOSOKAWA and Yasuyuki KITANO
(Received Oct. 31, 2009)
Abstract
This is the third issue of the series of our reports on an attempt towards a linking education
through the class “Exercise in Basic Physics”. It mainly describes what the class is like. We
first explain the manner of class-division based on the degree of academic achievement and
then investigate the results of the placement test and the final test. By comparing these two results, we discuss the educational effect of the class. In particular, it is emphasized that the academic effect can be had on any student having, at least, the academic ability of science and
mathematics at the junior high school level.
Key Words: linking education,educational effect of Exercise in Basic Physics,class-division
based on the degree of academic achievment
期末テストの結果の分布を対比することによって,どのよ
1.はじめに
うな学生に対して教育効果が現れているかを調べよう。
本稿は,「接続型教育を目指して」と題する一連の報告
2.基礎物理演習における教育目標と基本方針
書の第3報である。これは,物理グループが平成 12 年度
カリキュラムから担当している接続型教育の科目「基礎物
「基礎物理演習」は,工学部の専門基礎科目の1つとして,
理演習」に関して報告しているものであり,第2報までは
1年次前期に開講されている。まず,物理グループが本科
本科目の内容や実施方法について紹介した。そこで第3報
目の授業を実施する上で定めた基本方針について説明しよ
では,本科目の教育の実情を報告したい。まず,第2報以
う。この科目の接続教育としての意義や内容および方法な
降に実施されている習熟度別クラス編成を紹介しよう。そ
どの詳細は文献1と2を参照されたい。
して,その際用いられたプレースメントテストと期末テス
物理基礎教育の役割は,後に続く専門科目を学ぶための
トの結果の分析を行いながら,本科目の教育効果について
物理の基礎力を養うことにある。このことは,物理の細か
議論する。とくに,プレースメントテストの結果の分布と
い公式や知識を植えつけることではない。高校物理でとら
*
**
***
****
広島工業大学工学部電気・デジタルシステム工学科
*****
広島工業大学工学部電子情報工学科
広島工業大学工学部非常勤講師(元 広島工業大学工学部教授)
― 19 ―
******
広島工業大学工学部知能機械工学科
広島工業大学工学部建築工学科
広島工業大学工学部都市建設工学科
鈴木 貴・尾崎 徹・井上 光・大政義典・細川伸也・北野保行
れている公式に頼る暗記主義から脱却し,ベクトルや微積
学生ばかりが集まると,このような学生どうしの議論が期
分といった数学的手段を用いて現象を解析するという科学
待できないばかりか,わからないことに危機感を抱かなく
技術の手法を身に着けさせることである。そして,この目
なってしまう。
的を効果的に実践するためには,講義に加えて演習,つま
このような理由からH 15 年度までは習熟度別クラス編
り自ら手を動かして解答を導くという地道な訓練が不可欠
成を採らず,学力差が一層拡大し,全員が同じペースで演
である。これが接続教育としての本科目の役割であり,新
習を行うことに限界が見えてきたH 16 年度に,導入した。
入生の履修歴のアンバランスを補うために高校物理を単に
ただし,このときは前期の1/3までの授業は学生番号順
繰り返すという補習的なものとは質的に異なることに注意
のクラス分割で行い,その段階での到達度に応じてクラス
していただきたい。そこで,H 12 年度に基礎物理演習が
を「基礎クラス」と「一般クラス」の2段階の習熟度別に
スタートして以来,われわれは基本方針として「学生が主
再編成した。そして,H 18 年度からは,初回にプレース
体」を堅持してきた。これが,本科目の特色であり,「教
メントテストを行い,すべての演習を習熟度別で実施して
師から学生」という一方通行の教育から,「責任をもって
いる。さらに電気系ではH 19 年度から,プレースメント
自力で解答に至る」という姿勢を身につけさせることを
テストがとくに悪かった学生を集めた少人数の基礎クラス
狙っている。具体的には,つぎの2点を柱として授業を構
を作り,3段階の習熟度別クラス編成を試みている。その
築してきた。
理由は,次節で具体的に見るように,このような学生は基
① 学生は予習として問題を解いてくる。その解答を自
礎学力が著しく不足しているため本科目による学習効果が
ら教壇に立って口頭発表する
現れにくいからである。そしてH 21 年度では,機械系で
② クラスを5人程度の班に分割し,班単位で発表の責
も3段階の習熟度別クラス分割を取り入れた。
任を持つ
4.テスト結果の分析と基礎物理演習の教育効果
さらに,物理グループは以上に述べた基本方針の下でさ
まざまな授業改善を試みてきた。その中で最も議論を重ね
本節では,プレースメントテストと期末テストの結果,
てきたことは,クラス分割の方法である。とくに前報告以
およびそれらの間の相関をもとに,基礎物理演習の教育効
降から実施している習熟度別クラス編成では,これまで
果について議論しよう。
様々な方法を試みている。そこで次節では,本科目で試み
4.1 テストの目的と内容
られてきたクラス分割の変遷を説明しよう。
それぞれのテストの目的と内容について簡単に説明しよ
3.基礎物理演習におけるクラス分割の方法
う。本科目,および並行して開講されている講義科目「基
大学の入試制度の多様化に伴う入学生の履修歴の格差が
礎物理学Ⅰ」では,高校の物理の知識よりも中学程度の理
拡がる中で,習熟度別にクラスを分割して教育することの
科の知識とそれを理解できる学力を前提としている。また,
是非が問われている。もちろん,それぞれの授業の特質を
ベクトルや微積分についても授業で学ぶことではあるが,
鑑みて判断しなければならない重要な問題である。
基本的な事柄は予め理解していることが望ましい。そのた
そこで,本科目について習熟度別クラス編成が有効かど
め,プレースメントテストでは,これらのことを試す問題
うかを考えてみた。学生が自分の能力に応じた学習ができ
が出されている。一方,期末テストは,授業の内容の理解
るということが,習熟度別クラス編成が是とされる一般的
度を判定することが目的である。ただし,クラス分割によ
な理由であろう。たしかにこの観点から見れば,本科目も
る不公平を回避して統一的な評価基準を設けるために,共
決して例外ではなく,クラスに応じた進度を設定できれば
通の問題で実施している。あらかじめ,テキスト(文献3)
学力の高い学生をさらに引き上げることも可能になる。ま
で最低限の到達点(テーマ)を決めておき,どのクラスも
た,学力の低い学生がついて行けないという事態もある程
そのテーマまでは終了させる。期末テストの問題は,そこ
度は回避できるだろう。しかし,前節で述べた本科目の基
までのテキストの中から提出している。両テストは付録に
本方針を尊重すると,とくに習熟度の低いクラスでは次の
掲載されているので参照していただきたい。
ことが懸念される。それは,基本方針②が機能しないので
以下では,H 18 年度から4年間に実施されたプレース
はないかということである。班を単位とすることの一つの
メントテストと期末テストの結果を提示した後,本科目の
意義は,学生どうしの間に議論の場を持たせることである。
教育効果について議論しよう。
これは,学生どうしで教えあいながら理解を深めていくと
いう,教員からの一方通行の講義では決してできない経験
をさせることを念頭に置いている。ところが,わからない
― 20 ―
接続型教育を目指して 第3報 基礎物理演習の教育効果
4.2 平均点の年度変化
さらに,〔1〕⑴,⑵および⑻は小学校の算数の力だけで解
図1に,H 18 年度からH 21 年度までのそれぞれのテス
ける問題であるが,今年度は,⑴が 59%,⑵が 62%,⑻
トの工学部全体の平均点の推移を示す。いずれのテストで
ではわずか 25%しか正解していない。とくに,プレース
も得点は一桁から 100 点まで幅広く分布しており,平均点
メントテストで 40 点に満たない学生は,このような初歩
の数字自身には統計的な意味はないが,推移の傾向を概観
的な問題すらほとんど解けない。
することができるだろう。
プレースメントテストの得点が 40 点未満の学生が工学
部の入学者数に占める割合は,H 18 とH 19 が 18%,H
20 とH 21 が 25%である。H 19 からH 20 へ不連続に増加
した原因は,合格基準の変更にともなって工学部の入学者
が 80 名増加し,その大部分がプレースメントテストで 40
点未満の得点をとったことである。40 点未満の層が,物
理の接続教育において極めて深刻な問題をはらんでいるこ
とは,4.3 節と 4.4 節で説明しよう。
図1の期末テストの平均点はプレースメントテストのよ
うな単調な推移を示しておらず,この4年間のデータだけ
図1.プレースメントテストと期末テストの平均点(工学部平均)
からでは,どのような傾向にあるのかを判断することは難
しい。このことは逆に,期末テストの結果,すなわち本科
図1からプレースメントテストの平均点が毎年およそ3
目の教育の効果が入学時の学力の低下に引きずられていな
点ずつ低下していることがわかる。テストの実施時期が1
いことを示している。たしかに,H 19 年度からの平均点
年次前期の初回であることから,この結果は入学生の学力
は低下し続けているが,H 18 年度からH 20 年度までを見
レベルが年々低下していることを意味している。上述した
る限り,ほぼ一定に保たれていると見ることができる。期
ように,テストの内容には高校の物理の知識を必要とする
末テストの結果を踏まえて本科目の教育効果を論ずるため
ものはほとんどなく,中学校までの理科と高校2年程度の
には,別の角度からさらに詳しくテスト結果を分析する必
基礎的な数学が問われている。つまり,平均点の低下は,
要がある。
高校での物理の履修状況に起因するものではなく,それよ
りもなお基礎的な学力が不足した学生が多く入学するよう
4.3 プレースメントテストと期末テストの得点の相関
になったことを表している。たとえば,〔3〕⑴は単純な冪
プレースメントテストと期末テストの得点の分布を調
関数の微分であるが,H 18 年度には 91%であった正解率
べ,両テストの間に相関が認められるかを調べてみよう。
がH 21 年度には 85%にまで低下している。また,ベクト
この節で用いるデータは,工学部全体のものではなく,あ
ルの基本演算〔3〕⑹についての今年度の正解率は,「和」
る一つの系Aだけのものであるが,他の系のデータもほと
が 55%,「内積」は 25%である。つまり,およそ半数の学
んど同じ様相を示しており,系Aの傾向が工学部全体の傾
生がベクトルを知らないか理解しないまま入学している。
向を表していると考えてよい。
図2 プレースメントテストと期末テストの得点の相関(工学部A系) (a)H 18 年度,(b)H 20 年度.
― 21 ―
鈴木 貴・尾崎 徹・井上 光・大政義典・細川伸也・北野保行
図2には,H 18 年度(a)とH 20 年度(b)の系Aの
科目の教育効果を期待することが難しいと言わざるを得な
学生ひとりひとりの得点がプロットされている。ただし,
い。もちろん一般クラスの中にも期末テストが低得点の者
プレースメントテストで 60 点以上が一般クラスの学生で
もいれば,プレースメントテストが 40 点以下の学生であっ
ある。両方の図を見ると,プレースメントテストと期末テ
ても期末テストで高得点をとる者もいる。しかし,授業内
ストの得点の間に相関が認められる。つまりプレースメン
容を理解できるか否かの最も重要な因子は学生自身の努力
トテストの得点が高い(低い)学生は,概して期末テスト
であることは言うまでもない。期末テストで高得点に至っ
でも高い(低い)点をとる。しかし,基礎クラスの学生の
た学生の予習や発表状況は良好であり,普段から意欲的に
中に,期末テストで一般クラスの学生と同程度の高い点を
授業に参加している。
取る学生が少なからずいることは注目に値する。このこと
ところで,本科目では,最後の授業のときにアンケート
は,本科目の教育が,基礎クラスの学生に対しても一般ク
を行っている。その項目の中に,この授業の達成感をパー
ラスと同様に効果をもたらすことを示している。ただし,
セントで自己評価させる設問がある。その結果は,上述し
ここに極めて重要な事実が見えている。それは,期末テス
たクラスごとの教育効果の相違を暗示しているようで,大
トで高得点に至った基礎クラスの学生のほとんどが,プ
変興味深い。まず一般クラスでは,70%の付近にピークが
レースメントテストの 40 点以上に集中しており,それ以
ある。このことは,一般クラスの学生の多くが授業に意欲
下の学生の大半は期末テストの 30 点前後,またはそれ以
的に参加し,演習を通して物理を理解することができたと
下のところに分布していることである。このことから,プ
いう満足感を表していると考えられる。たしかに,この科
レースメントテストの 40 点前後に,本科目の教育効果を
目の自宅学習時間を問う設問に対しては,半数以上が「1
二分する壁があることがわかる。この点については,次節
~3時間」と答えている。これに対して基礎クラスでは,
で考えてみよう。
達成感の平均値は 50%以下にある。基礎クラスの学生の
もうひとつ注目すべき点がある。それはプレースメント
達成感が低い理由は様々であろう。自宅学習時間について
テストで 20 点以下の学生数が,H 18 年度では1人だった
の設問では,「1時間以内」と「1~3時間」の比率は2:
のに対して,H 20 年度では8人に増加していることであ
1である。さらに,授業内容の難易度を問う設問では,基
る。そして,これらの学生の期末テストの結果はきわめて
礎クラスの2/3の学生が「難しい」と答えている。この
悪い。工学部全体でも,プレースメントテストが 20 点以
ように,「わかる」ことと「やる気」の相乗作用が「学習
下の学生が占める割合は年々増加し,そのほとんどの学生
効果」を高めていくという自然の流れが本科目においても
の期末テストの結果は惨憺たるものである。これが,図1
見えている。そして,この流れに乗れるかどうかの分水嶺
の期末テストの平均点を引き下げている。
が,高校物理の知識ではなく,繰り返し述べてきた「(中
学程度の)基礎学力」なのである。
4.4 基礎物理演習の教育効果について
最後に,本科目の授業方法に対する学生の反応を紹介し
以上で行ったテスト結果の分析をもとに,本科目の教育
よう。習熟度別クラス編成の是非を問うアンケートについ
効果について議論しよう。4.1 節で述べたように,本科目
ては,「非」とする回答はほとんどなかった。とくに基礎
の学習では,中学程度の理科の知識とそれを理解できる基
クラスの 70%が「是」と答えている。一方,一般クラス
礎的な学力だけが前提とされ,高校での物理の履修は要求
では,
「是」は 55%,
「どちらとも言えない」は 44%であり,
されていない。ベクトルや微積分についても物理で使える
基礎クラスに比べれば「是」の割合は低くなっている。し
ように基礎から学習している。したがって,期末テストの
かし,一般クラスでは,2節で述べた本科目の基本方針は
結果が本科目の教育効果を直接表していると考えてよい。
活かされている。教室では,学生どうしが議論し合う姿も
4.3 節で説明したように,プレースメントテストの 40 点を
見られ,発表者に対して質問が出るクラスもある。したがっ
境に,期末テストの得点分布に著しい相違が見られた。つ
て,習熟度別クラス編成は双方のクラスにおいて有効であ
まり,期末テストで高得点を取った学生のほとんどが,プ
ると考えてよいだろう。また,班編成の方法を問う設問に
レースメントテストで 40 点以上を取っている。このよう
対しては,どちらのクラスでもほとんどすべての学生が班
に,基礎的な学力を持った学生に対しては本科目の教育効
編成を支持した。実際,友人との議論に関しては,「十分
果が十分期待できると考えてよい。これに対して,プレー
にした」と「場合に応じてした」を合わせると,一般クラ
スメントテストで 40 点に満たなかった学生は,期末テス
スでは 80%,基礎クラスでも 70%の学生が議論をしたと
トでも得点が低く,学力がつかなかったと判断できる。こ
答えている。もちろん,友人との議論が学力の向上に直結
のことから,入学時の基礎学力が不足し,プレースメント
するとは必ずしも言えないが,われわれが本科目の基本方
テストで 40 点を取ることができない学生に対しては,本
針とした班編成方式はポジティブな教育効果をもたらして
― 22 ―
接続型教育を目指して 第3報 基礎物理演習の教育効果
いると言える。
謝 辞
5.まとめと問題点
基礎物理演習の授業を担当していただき,さらに授業実
本稿では,基礎物理演習の教育効果と実情を,プレース
施についての数々のご意見を下さった教育学習支援セン
メントテストと期末テストの結果をもとに報告した。H
ターの藤岡淳先生,藤川泰之先生,道原康良先生,および
18 年度からH 21 年度までの4年間に実施された両テスト
非常勤講師の石田郁二先生に感謝いたします。また,普段
の平均点,および両テストの得点分布の間の相関を分析し
から励まして下さっている中西助次先生に感謝いたしま
た結果をまとめよう。
す。
プレースメントテストの平均点が年々低下していること
から,学生の入学時の学力が低下していると判断できる。
付録 プレースメントテストと期末テスト
このことが直接示唆することは,高校物理の知識を持たな
い学生が増加しているということではなく,より初歩的な
基礎物理演習プレースメントテスト
学力が不足している学生が増加しているということであ
1.次の⑴~⑿の に適切な数値を書け。
る。一方,期末テストの平均点はプレースメントテストの
光の速さは c=3× 108 m/s,重力加速度の大きさは g
=9.8 m/s2 とする。
ような単調な低下にはなっておらず,本科目による教育の
結果が入学時の学力の低下に引きずられて単調に低下して
単位記号:m はメートル,s は秒,㎏はキログラム,
はいないことを示している。また,両テストの得点分布を
N はニュートン,V はボルト,A はアンペア,θはオー
見ると,プレースメントテストの得点が高い学生のほうが
ム,W はワット,J はジュールである。
期末テストでも高得点を取る傾向が認められるが,基礎ク
⑴ 時速 900 km の速さで飛んでいるジェット機は1秒間
ラスの中にも期末テストで一般クラスの学生に劣らない高
に m 進む。
得点を取る学生がいることもわかった。さらにわれわれは,
次の事実に注目した。それは,基礎クラスの中でも期末テ
⑵ 太陽・地球間の距離は 1.5 × 1011 m である。太陽から
出た光が地球に届くのに s かかる。
ストで高得点を取った学生のほとんどが,プレースメント
⑶ 原点から座標(x,y)=(8,6)m の点までの距離は
テストでは一定の点(40 点)以上を取っていたことである。
m である。
逆に,プレースメントテストでその点に満たなかった学生
⑷ ある物体が図1の向きを持つ大きさ 20 N の2つの力
の大半は期末テストの点もかなり悪い。この傾向は工学部
でつり下げられている。物体にはたらく重力は のどの系でも,また年度を問わず現われている。このこと
N である。
から,プレースメントテストの 40 点前後に,本科目の教
⑸ 質量 10 ㎏の物体に作用する重力の大きさは 育効果を分ける壁があることを指摘した。
N である。
プレースメントテストの内容と以上の事実を併せて考慮
⑹ 初速度ゼロから自由落下を始めた物体は 0.5 s 後に速
し,本科目の教育効果について次のように結論する。
さ m/s に達する。
工学基礎としての物理の基礎力を,講義科目と本演習を
⑺ 加速度4m/s2 で運動している質量5㎏の物体には
通して習得させるという目標は,入学時点での学生の学力
N の力がはたらいている。
には必ずしも影響されることなく達成することができてい
⑻ 半径 0.50 m の車輪をつけて速さ 20 m/s で走っている
る。しかし,それには限界があり,どのような学生にたい
車の車輪は1秒間に 回転している。
しても教育効果が及ぶわけではないこともわかった。すな
⑼ 電圧 100 V の電源に電気抵抗 250 Ωの抵抗をつなぐ
わち,プレースメントテストで一定の点を取ることができ
とき,抵抗には A の電流が流れる。
ない学生には,教育効果を期待することが極めて難しいこ
⑽ 電圧 12 V の電源から 20 A の電流を取り出すとき,
とである。そして,教育効果を期待できるか否かを分ける
電源から取り出される電力は W である。
鍵となるのは,高校物理の知識などではなく,中学程度の
⑾ 電力 1000 W で使われている電気ストーブからは1分
理科や数学の基礎学力なのである。
間当り J の熱量が発生している。
基礎学力を持たずに入学してくる学生をどのように教育
⑿ 太陽光に垂直な面に 500 W/m2 の割合で光のエネル
していくのかという問題は,物理教育に限ったことではな
ギーが届けられているとする。この面に,光から電力へ
い。今後もこのような学生を入学させるなら,新たな受け
の変換効率が 10%で,面積4m2 の太陽電池を置けば,
皿を早急に考えなければならない。
出力電力 W の発電装置となる。
― 23 ―
鈴木 貴・尾崎 徹・井上 光・大政義典・細川伸也・北野保行
⑵ 初 速 度 25 m/s で 真 上 に 投 げ 上 げ ら れ た 物 体 は
に最高点に達する。
⑶ 平地の 60 m 上空の静止気球から初速度ゼロで自由落
下したボールは かけて地面に着く。
⑷ 速さ 20 m/s で水平面から 30°の方向に投げ出された
ボールの水平方向の速度成分は m/s である。
⑸ 質量 70 ㎏の人は地球から N の力を受けて
いる。
図1
⑹ ちょうど 1.00 N の力を実感するには ㎏の
物体を手に持ってみるとよい。
⑺ 質量 0.15 ㎏の自由な質点に 30 N の力が作用すると加
2.直線道路上で,ある自動車のスタートから停止までの
速度 m/s2 の運動を行なう。
スピード v[m/s]の変化を記録したところ,図のよう
なグラフが得られた。
⑻ 速さ 25 m/s で走っている質量 600 ㎏の車を 10 秒間
横軸はスタート後の時間 t[s]である。このグラフを
で一様減速させて止めるには N の力が必要で
ある。
もとに,次の問に答えよ。答のみではなく,説明を書く
⑼ 時刻 t[s]での x 座標が x=0.1sin(4t)[m]である
こと。
質量 0.4 ㎏の質点には Fx= [N]の力が作用
している。
⑽ 質量 600 ㎏のエレベータを上方に加速度 1.2 m/s2 で
引き上げるには N 以上の力が必要である。
⑾ 半径 10 m の円周上を 12 秒間で1周している回転ブ
ランコの円運動の加速度の大きさは m/s2 で
ある。
⑿ 半径 0.5 m の車輪をつけて走っている車で,車輪が1
秒間に4回転している。車の速さは m/s で
ある。
⑴ 自動車の運動のようすを説明せよ。
⑵ 始めの 10 秒内でのスピード v を時間 t の式で表せ。
2.空中を飛ぶボールの運動を考えよう。鉛直上向きに z
⑶ 始めの 10 秒内での加速度の大きさを求めよ。
⑷ 自動車の全走行距離を求めよ。
軸を,水平面上に x 軸をとる。時刻 t[s]でのボールの
座標を(x,z)[m]とする。重力加速度の大きさを g
3.次の に適切な式または数値を記入せよ。
=9.8 m/s2 とし,次の各問に答えよ。それぞれに十分な
⑴ 関数 y=2x4 を x で微分すると,y’= である。
説明を添えること。
10
⑴ 運動中のボールの運動方程式を書け。
⑵ 関数 y=(5x+2) を x で微分すると,y’= で
⑵ ボールは t=0 に速さ 50 m/s で x 軸から角度 30°の上
ある。
⑶ 角度θ=60°では,sin θ= である。また,
方へ投げ出されたとする。この後のボールの速度を t の
θ=60°を弧度法で表すと ラジアンである。
3
⑷ sin θ= のとき,cos θ=で ある。
5
⑸ ∫ 8xdx= 式で表せ。
⑶ ボールは t=0 には座標(x,z)=(0,0.8)[m]にあっ
⑹ 2つのベクトル A=(5,4),B=(2,-1)の和は A+
⑷ ボールが最高点に達する時刻を求めよ。
たとする。この後のボールの座標を t の式で表せ。
B= であり,内積は A・B= である。
参考文献
基礎物理演習期末テスト
1.次の に適切な数値または式を書け。重力加
1) 井上光,尾崎徹,鈴木貴,中西助次,茂木博,森滝
2
速度の大きさは g=9.8 m/s である。
美治郎,広島工業大学紀要 教育編,第1巻 pp.91102,2002 年2月.
⑴ 初速度ゼロから 0.5 秒間自由落下を続けたとき,物体
2) 井上光,尾崎徹,鈴木貴,中西助次,茂木博,森滝
の速さは m/s になっている。
― 24 ―
接続型教育を目指して 第3報 基礎物理演習の教育効果
美治郎,広島工業大学紀要 教育編,第3巻 pp.57-
3) 井上光,尾崎徹,鈴木貴,中西助次,細川伸也,力
69,2004 年2月.
学 WORKBOOK 第2版,東京教学社,2007 年9月.
― 25 ―
ダウンロード

接続型教育を目指して 第3報 基礎物理演習の教育効果