NMR(核磁気共鳴)の基本原理
核スピンと磁気モーメント
原子核は正の電荷を持ち、
その回転(スピン)により
磁石としての性質を持つ
→核スピン=磁気モーメント
有機化学4
第3回(2013/04/25)
外部磁場によって核スピンのエネルギー準位は変わる:Zeeman分裂
核スピンのエネルギー準位
h
Em = – m · γ ·
· B0
2π
m : 磁気量子数 [+I, ···, –I ]
I: スピン量子数(整数or半整数)]
γ : 磁気回転比(核に固有の定数)
h : プランク定数
B0 : 外部磁場
NMRでは
低エネルギーの核スピンが
高エネルギーの核スピンに
なる時の吸収を観測
外部磁場と同じ方向=低エネルギー
外部磁場と逆の方向=高エネルギー
向きの異なる核スピン間での
エネルギー差はわずかなため
Boltzmann分布に従うと
低エネルギー核スピンは
ほんのわずかに多いだけ
1
代表的な原子核の特徴
全ての原子核には固有のパラメータが存在する
スピン量子数:スピンの角運動量を決める量子数
磁気回転比:スピンの角運動量と磁気モーメントの比
=核スピンの回転の速さと外部磁場の関係を示した定数
磁気モーメント:核の持つ磁石としての性質の強さ
天然存在比:1つの元素の中でその同位体が存在する割合
中性子数・陽子数が共に偶数の核は
核スピンが0になるので
NMR現象を示さない
(例) 12Cは中性子6個、陽子6個なので
NMR不活性な核である
例題:次のうちNMR不活性な
核はどれか判定せよ
3H, 4He, 9Be, 10B, 16O, 31P, 32S
電気四極子モーメントを持つ核はシグナルが幅広になりやすい
「これならわかる NMR」のp14-15にもっと大きな表あり
2
核磁気回転比と共鳴周波数
ゼーマンエネルギーΔEと
外部磁場および核磁気回転比との関係
ΔE = γ ·
超電導磁石の磁場強度とサイズの関係
h
· B0
2π
ZeemanエネルギーΔE(分裂幅)は
外部磁場と磁気回転比に比例
→外部磁場が大きくなると分裂幅が大きくなる
=検出しやすくなる
一般的に装置の性能はプロトン核の
共鳴周波数で表現することになっている
電磁波のエネルギーΔE = hνとすると
γ ·B0
ν=
2π
振動数νの電磁波を当てると
Zeeman準位間で遷移が起こる(=共鳴)
例:プロトンの共鳴周波数が100 MHzのとき、
19Fの共鳴周波数はいくらになるか?
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20110907-2/
例題:プロトンの共鳴周波数が400 MHzのとき、
29Siの共鳴周波数はいくらになるか?
3
超伝導磁石:外部磁場と分解能
外部磁場が大きくなると
シグナルがより詳細に解析可能
=分解能が高くなる
=重なっていて解析できなかった
シグナルの解析が可能になる
4
化学シフト:共鳴周波数のわずかな違い
プロトン核の感じる磁場強度は
核が置かれた環境で大きく変わる
Beff = B0 – σB0
Beff : 有効磁場強度
B0 : 外部磁場
σB0 : 誘起磁場
=周囲に磁場の原因となる他の核があると
共鳴周波数が少し変わる
=分子内で異なる位置にある核は
共鳴周波数が少し違う
→基準化合物の共鳴周波数からのずれを
化学シフトと呼ぶ
化学シフトの大きさ
一般に化学シフトδは数Hz~数百Hzであり
共鳴周波数の数百MHzに比べて非常に小さい
→共鳴周波数に対するppm表示で示す
(ppm: perts per million=100万分の一)
共鳴周波数の大きな方が数字が大きくなる
化学シフト表示には通常δが用いられるが
1960年代以前の文献ではτスケールも使われた
τ = 10 – δ
古い文献を読む際には注意が必要である
※ X MHzの装置で測定したNMRスペクトルの
1 ppmはX Hzに相当する
5
連続波(CW)NMRとパルスフーリエ変換NMR
溶液中には共鳴周波数の異なる多種類の核があり、それぞれの吸収を観測する必要がある
連続波(CW)NMR:
永久磁石(固定磁場)を使う最も古典的な方法
ある固定磁場中に置かれたサンプルに対して
異なる周波数のラジオ波を何度も当てる
→時間がかかる
異なる周波数のラジオ波をたくさん作るのは難しい
核A
核B
核C
核D
周波数が小さな順に見ると
エネルギーの小さな
核A, 核B, 核C, 核Dの
順に検出される
(化学シフトが小→大の順)
パルスフーリエ変換NMR:
あらゆる周波数成分を含んだラジオ波「パルス」をサンプルに当てる
使用するパルスの周波数帯が
ラジオに使用されるものと近く
これをフーリエ変換してスペクトルを得る
パルス:一定の幅を持った矩形波
技術の発展に伴い正確なパルスを
発生させられるようになった
一度にたくさんの周波数成分を解析可能
=測定時間が短くて済む
(最近の装置はほぼ全てこれ)
6
連続波NMRの一種:磁場掃引法→高磁場低磁場の理解のために
電磁石(磁場強度を変化できる)と、固定周波数のラジオ波を使う方法(磁場掃引型)
核A
核B
核C
核D
外部磁場強度
低い
中くらい
高い
固定された周波数ΔEradioの
ラジオ波を当て続けながら
電磁石に流れる電流を変えて
外部磁場強度を変化させていく
→全体的にゼーマン分裂幅が
大きくなっていき、
ΔEradioに一致した分裂幅を持つ核(青いところ)
の吸収が観測される
磁場の低い方から高い方へ見ると
エネルギーの大きな
核D, 核C, 核B, 核Aの
順に検出される
(化学シフトが大→小の順)
→化学シフト大=低磁場
化学シフト小=高磁場
7
Larmor歳差運動と磁化ベクトル
共鳴周波数の意味:
磁場中で核の持つ磁気モーメントは
倒れかけのコマのように回転しており
(=Larmor歳差運動)、
その回転の周波数が共鳴周波数である
実験室座標系と回転座標系
実験室座標系
外部磁場をZ軸
ラジオ波検出コイル方向をY軸
回転座標系
外部磁場をZ軸
観測者はxy平面上を回転[角速度ω (rad/s)]
=上下方向の変化のみ考えれば良い
8
NMRベクトルモデルと90°パルス
サンプルに含まれる全ての核スピンの
磁気モーメントを全て足し合わせると
(=原点からのベクトル和をとると)
外部磁場と同じ向きのベクトルが残る
=磁化ベクトル
NMRの現象を考えるには
磁化ベクトルの動きを考えれば良い
通常の単純な測定はY軸方向に
磁化ベクトルを倒すパルスを用いて
磁化ベクトルのY軸方向成分を検出する
ベクトルモデル
NMRにおける核スピンの挙動を
回転座標系と磁化ベクトルで考えるやり方
核スピンに対して照射するパルスは
磁化ベクトルの動きによって名前が付く
(回転軸と角度を記載)
※90°xパルスは全ての基本
(正確な測定をする際には最も重要な値)
9
緩和
90°xパルスを当てたあとに
磁化ベクトルはY軸方向を向く
回転座標系で考える
磁化ベクトルのY軸成分が
熱平衡に向かって
小さくなる過程①∼⑥を
縦緩和と呼ぶ
磁化ベクトルのZ軸成分が
熱平衡に向かって
大きくなる過程⑦∼⑪を
横緩和と呼ぶ
10
自由誘導減衰(FID)とフーリエ変換
実験室座標系ではY軸方向の磁化ベクトルが
回転しながらy成分を失っていく
sin関数の重ね合わせは
波を分離することで
周波数の異なるいくつかの
波に分割可能
=周波数単位でプロットすると
普通のスペクトルができる
上記緩和過程をy軸方向のみに限定すると
振動しながらその強度を小さくしていく
ことがわかる
=y軸成分はsin関数で表現できる
→自由誘導減衰(FID)
=周波数単位に直すとシグナルに
これがNMRスペクトルである
11
デジタル分解能
デジタル信号で処理される=不連続なデータ
→全てのスペクトルは小さな点のつながりで示される
※通常の分光計ではpoint数として表現される=JEOL Deltaではx_pointsがそのパラメータ
点の間隔が狭い=ピークの分裂を細かく表現可能
※十分に分離していないスペクトルが得られたら
x_pointを増やして再測定すると分解能が向上
12
ウィンドウ関数:分解能とS/N(signal to noise)比
通常はFIDに対してある特定のexponential関数をかけてフーリエ変換を行う
この際の係数をbroadening factor (BF)と呼び、S/N比および分解能に直接影響する
broadening factor
測定条件から計算される
デジタル分解能(DR)
BF大→S/N比良好・分解能低下(ピークが幅広に)
BF小→S/N比悪い(baseline太くなる)・分解能向上
broadening factor
測定条件から計算される
デジタル分解能(DR)
BFはDRより小さくないと詳細なスペクトルが得られない
感度の低い多核NMRではBFを大きくしてS/N比をかせぐ必要あり
13
積算とS/N比
パルスFT-NMR法では測定を
何度も繰り返して
データを重ね書きすることで
より良いデータが得られる
(S/N比の高いデータ)
一般にS/N比は積算回数の
平方根に比例する
=積算回数を4倍にすると
S/N比は2倍になる
=積算回数を16倍にしても
S/N比は4倍にしかならない
=S/N比を稼ぐためには
積算回数を増やすより
濃度を高くする方が現実的
14
ダウンロード

第3回講義資料