UNICORN WORKSHOP REPORT
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UNICORN×新潟南高等学校
UNICORN では、不定期に採用校の生徒さん方の WORKSHOP
を開催しています。テーマは自由。
平成 25 年7月 11 日に行ったのは、新潟南高等学校 1 年 9 組 42
名のみなさんと、著者の高橋和久先生との WORKSHOP でテーマ
は「ことばは難しい」
。
講師
高橋 和久 教授
(東京大学 文学部・大学院人文社会系研究科)
大学で英文学を教えるほかに、あるときは出版社の人た
ちに翻訳を頼まれ、そしてあるときは UNICORN で高校
生のために英語でお話を書き下ろしてくださっています。
新潟南高等学校
新潟市にある全日制の高校で、自主責任、和衷協同、質実
剛健、廉潔高雅、知性良識を校訓とし、大学進学に直結し
た日々の授業を行っています。生徒のほぼ全員が四年制大
学進学を希望しており、国公立大学への現役進学者は 212
名。これは新潟県内で最多です。平成 25 年から SSH(スー
パーサイエンスハイスクール)3期目の指定を受けていま
す。
事前準備
新潟南高等学校に伺う前に、1 年生ご担当の本間康一先生にアンケー
トをお願いしました。質問は 3 つ:
1英語が好きですか
2英語という授業科目が好きですか
3高校の授業で身につけた英語力をどう活かしたいですか
高橋先生いわく、
「英語はことばであって、物理や数学のように学問
研究に通じる教科とは性格が違う」わけで、そのあたり、みなさん
はどう受けとめているのかな、という疑問からのスタートでした。
1.英語が好きですか
2.英語という授業科目が好きですか
否定的
否定的
15%
28%
普通
18%
肯定的
肯定的
67%
普通
10%
理由はまちまちですが、英語や英語という授業科目について肯定的
な感情を持っている生徒が多いことがわかりました。3についての
回答は大多数が「将来、海外で働きたい」「海外旅行に役立てたい」
「外国の人たちとコミュニケーションをとりたい」でした。
■来月のアメリカ研修が気がかりで
SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校として、ちょうど
workshop 開催日から 3 週間後にアメリカ東部の大学や NASA など
を回るアメリカ研修が控えていた理数コース 1 年 9 組。これはクラ
スのほとんどの生徒にとって初めての海外旅行でもあります。アン
ケートの回答はかなりこの研修旅行に影響されていたようで、みん
なの目下の心配は「アメリカで自分の英語が通じるか?相手の言っ
ていることが聞き取れるか?」でした。
62%
授業開始!…英語って難しい
「事前に送っていただいたアンケートを拝
見しました。そうすると、『英語は好きです
が授業はきらいです』…(アンケート用紙に)
ご自分の名前があるのに、本間先生に読まれ
るのに…よくそんなこと言える勇気がある
な、と思いました」という高橋先生のいきな
りの第一声に、クラスの中からクスクス笑い
が出始めました。
次に高橋先生は「英語が嫌いなのは、日本語
みたいに自由に使えなくて気持ちが十分に
表現できないから」というアンケートの回答を読みながら、それは
当然です、母語は使いやすいものだから、と応えます。
でも、日本語で書いてあってもわかるときとわからないときがある、
日本語を使っても気持ちの伝わらないことがあるように、それぞれ
の言語の中で落差がある、それをだんだんと実感してほしい―とい
うのが、ことばを学ぶ上で高橋先生のいちばん言いたいこと。
■でも LESSON 1 って簡単?
まずは高橋先生の書き下ろし、LESSON 1 の感想を言ってもらうた
めに、6 人が指名されました。
「印象は?」
「あ、くっだらない課だなあ、でも書いた人が目の前にいるから言
えないなあ、と思った?」
「知らないおいちゃんだからちょっとは気を使わなきゃと思った?」
「ふつうの教科書とちがった??…これ、へんな教科書ってこと?」
高橋先生の矢継ぎ早の質問に、あてられたみんなも苦笑するしかあ
りません。
その中で、4 月に LESSON 1 は難しいな、と思ったけれど、いま
LESSON 5 から戻って見てみるとやさしくみえた、という意見があ
ると、すかさず「LESSON 1 は【自分が進歩したことを実感するた
めの課】なんだね」と高橋先生。今回の授業での発見その1。
■作者の言いたいこと
今度は「読んで意味がわかる、というのはどういうことだろう。英
語がわかるってどういうことかな?」と問いかけられた生徒たちに、
高橋先生が LESSON 1 の流れを解説してくださいました。
Part 1 は riddle(なぞなぞ)の導入部で「時」についての語り、Part
2 では私たちが思い込んでいる時間に対する認識―昼間は人が活動
する時間帯、夜は休む時間帯―は、必ずしも普遍的な考え方ではな
い、ということをベドウィン族の例で説明されています。
Part 3 では、物理的な時間は同じでも主観的・心理的の時間は異な
る、人と自分、さらには自分の中でも異なるという例が挙げられて
います。ここで、本文の表面には書かれていないけれど「主観的な
時間なしでは私たちは生きていけない」ということが理解できると
いう先生の説明が入りました。これはちょっと難しいかも―。
■Seize the moment.
Part 4 は「瞬間」についての説明です。
「時計は日本語でも英語でも
チクタク(Tic Tac)と時間を刻む、というけれど、時計にしてみたら
別にチクタクとリズムをとったり音を鳴らしたりはしていない。な
のに、人間は時を形容しようとするとき、音やリズムで形容しよう
とする。これは日本人でも英語を母語とする外国人でも同じ。単調
に流れるのでなく、ある種の抑揚を持ったものとして私たちは時間
をイメージしている。そういう感覚があるから、私たちは時間を瞬
間の積み重ねのように表現するのかもしれない。
」
「だから、これは『一瞬一瞬大切に生きようね』という話とも読め
る。みなさんはそんな風に生きながら、これから自分の人生は充実
していく、と思ってるでしょ。それはそのとおりで、大切な自覚な
んだけれど、充実するのと、死に一歩一歩近づいているというのと
は実は同じなんだよね。充実することと死が近づいてくるってこと。
その重なりあいをちょっと考えてみて。
」
「そしてこの話は、その充実した人生のために一瞬も時間を無駄に
しないで、ということなんだけれど、それは充実した時間というの
は自分の意識に降り注いでくる印象をどれくらいたくさん感じ取れ
るか、で決まるということが、書き手のいいたいことだと思うんだ。
Seize the moment.というのはそういう意味。
」
■標準英語の運用能力
「九官鳥は教えてもらったことば、たとえば『太郎はバカだ』とは
言えても、習い覚えていない「次郎はバカだ」とは言えない。でも、
私たちは言える。それは私たちの頭の中に文法規則が入っているか
ら応用が効く。だから文法は必要だってわかるよね。ただ、文法の
ためにことばがあるわけではない。それを前提としていうと、学ぶ
べき英語ってなんだろう。
」
今では englishes という言い方がされるように、世界中の人たちが
いろいろな英語を使っていることが意識されています。私たちが多
少ブロークンな英語を使っても、相手の能力が高ければ理解しても
らえるでしょう。でも、相手も自分と同じくらいの能力だったら…
「通じる英語」を学ぶ理由はそこにあります。だから教科書は標準
的な英語(それが何であるのかはともかく)がもとになっています。
当面、英語を学ぶ上で大切なのは、いわゆる標準英語の運用能力を
高めることだ、と先生のお話が動き出しました。
■心地よい日本語、心地よい英語
「英語と日本語のいちばん大きな違いは英語が強弱 (stress) の言
語、日本語が音のピッチ(高低)の言語だということです。心地よ
い日本語ってあるでしょ。五七五とか。英語はストレスが落ちる音
節と落ちない音節が交互にくるんだよね。
」
そこで、みんなで「Niigata」の発音について考えます。研修旅行で
出会うアメリカ人が発音する「Niigata」を予想すると一番考えられ
るのが最初の a にアクセントを置く言い方。でも Niígata や Níigata
という人もいるかもしれません。
「ポイントはフラットには発音され
ないということで、私たちが英語で一番困るのは、ストレスに慣れ
ていないこと。でもさ、弱強が5つ並ぶと(昔気質の?)イギリス
人やアメリカ人はなぜか心地よくなるらしいんだよね。
」
Part 2 の英文を使って説明が始まりました。
They chát / and eát / with friénds, / and wórk / at níght.
高橋先生が「弱強」のリズムで読むと確かに心地よい音に聞こえま
す。
次に nursery rhyme (童謡)で有名な”Jack and Jill”もこのルールを
あてはめると
Jáck and Jíll went úp the híll
To fétch a páil of wáter.
となりました。
さらにはシェイクスピアの『ハムレット』の有名なセリフ
To bé, / or nót / to bé: / that ís / the qúes- (/) tion.
もでてきて「字余りなんだけれどね…5つのかたまりになるでしょ」
先生の説明に、みんなにもなんとなく英語の特徴がみえてきました。
■怖い母の…??
ルールその2は「語と語のつながり」(collocation)です。
怖い母の(
問題:この(
)
)に入ることばは?
「たとえば『顔』と入れると、『怖い』は『母』にかかるのか『顔』
にかかるのか微妙だよね。でも、
『笑顔』だったら?『怖い笑顔』っ
てあるかもしれないけれど、どちらかといえば、
『怖い母』かな。
」
ことばを学ぶとき、語と語の自然な結びつきをたくさんストックす
ることが大切、というのが先生の説明でした。表現の数を増やして
いかないと、なかなかコミュニケーションがとれるくらいの語数に
ならないからです。
■Muscle Mouse??
心地よい英語のルールその3は「頭韻」(alliteration)です。語と語
の自然な結びつきと同時に、語と語の頭の音を重ねるとちょっとお
しゃれな感じになるよ、ということで Part 2 の familiar faces、Part
3 の snail を使った言い回し”as slow as a snail”で高橋先生の説明が
始まりました。
「Mickey Mouse、Minnie Mouse ってほら、みんな M が頭につくで
しょ。それじゃさ、昔、スーパーマンみたいに強いネズミが主人公
の漫画あったんだけど、なんて名前だと思う?」
Strong Mouse!という答えに「ねえ…今の話の流れとしてはさ…」
と先生の突っ込みにみんな大笑いでした。Muscle Mouse? たしかに
MM です。でも、そんなに筋肉モリモリじ
ゃなくてさ…ということで、正解は Mighty
Mouse。
as slow as a snail の例では as (
a cucumber の(
) as
)に何が入るか、とい
うクイズが始まりました。「とげとげしい」
「太い」などいろいろでてきましたが、ヒ
ントは c で始まる形容詞。正解の cool とい
うことばに「かっこいい!」と、みんな妙
に感心。
■ことばって難しい
先生によれば、イギリス人が日常的に使うボキャブラリーの数は
8,000 語~10,000 語だそうです。この中には、たとえば take も in
も1語としてカウントされているけれど、take in という熟語はカウ
ントされていない。さらに口語では, be taken in で「~にいっぱい
かつがれる」という意味になる―この種のものにどれだけ習熟して
いるかで「英語がわかる」と言えるようになるのではないでしょう
か、ということでした。
きょうの授業で学んだことは:
「ことばとことばの結びつきに敏感になってほしい」
「頭韻のように同じ子音を踏めば、うんと英語らしくなる」
「同時にことばのリズムを考えてほしい」
「気に入ったフレーズを覚えれば、それがあとで役立つ」
そして先生が授業の最初におっしゃったこと、それは「ことばって
とても難しいものだ」ということです。日本語でさえ、正しく理解
しなければそこに誤解も生じます。まして英語なんて…難しいに決
まっている、と思ってください、ということで、6時限目の授業は
終わりました。
■やっぱり通じなかったらどうしよう
HR 終了後、10 人の生徒さんたちが、もう少し先生とお話ししたい、
ということで集まってくれました。中学校のときの英語と高校の英
語ではどう違ったか、みんなが口々に感想を述べ始めました。難し
いけれど、わかったときが楽しい、とか、自分で訳した文と先生に
もらった訳が違っていてなんでこうなるんだろう、と思った、など。
そして、授業の復習として as busy as a bee を覚えるとさっそく「そ
れ使ってみてもいいですか!」という声がありました。高橋先生、
ちょっと考えて「…いいと思いますよ。あなた方くらいの若い人が
「ハチのように忙しくて…」といったら、かわいいかもしれない。
だって想定外じゃない?」と成功を請け合いました。答えはアメリ
カでわかりますね、きっと。
さいごに…お礼のことば
今回はとても暑いなか、UNICORN 編集部の企画におつきあいくだ
さってありがとうございました。高橋先生と1年 9 組のみなさん、
それから本間先生をはじめ、冨岡先生、校長先生、教頭先生、相馬
先生―1冊の本からたくさんの出会いがありました。こういう出会
いがあると、ああ、教科書を作ることっていいな、と私たちも実感
します。そして、みんながさらに英語が好きになって、そのさきに
あるたくさんの出会いに結びつきますように、と願っています。
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UNICORN×新潟南高等学校