20.太陽撮像の方法と太陽周縁減光および太陽コロナの輝度分布測定
理科教育講座
福江
純
(1)天文学習教材としての太陽
皆既日食や金環日食は稀有な天体現象で、一般でも大きく注目される天体ショーだ。しか
し、太陽は毎日そこにある! 手軽な天文学習教材として、太陽を使わない手はない。
天体は大部分が夜の世界に属するため、天文学は教育現場では非常に扱いづらく教えにく
い分野である。そんな中で、昼間(授業時間)に観測できる重要な天体が太陽だ。従来(お
よび現在)の伝統的な太陽観察では、小型望遠鏡+太陽投影板が基本だが、この数年の日食
観測経験等にもとづき、デジタル一眼レフカメラの利用を勧めたい。
太陽の投影を念頭に、具体的に利点を比較してみよう。
操作法
可搬性
価格
記録
安全性
小型望遠鏡+投影板
デジタル一眼レフカメラ
難しそう ×
重い
×
15 万円程度
アナログ
光学系のリスク △
身近で簡単そう ○
軽い
○
6 万円程度(キットで)
デジタル
間に素子回路が入る △○
また太陽はもっとも身近な天体であり、天文学習教材として多くの活用法があるだろう。
小型望遠鏡を使った太陽観察については、従来も多くの教材があるが、入手しやすく使い勝
手のいいデジタル一眼レフカメラを用いた教材については、まだ活用事例はそれほど多くな
いようだ。以下、思いつくものをいくつか列挙してみた。
<日常の太陽>
・固定撮影による日周運動(小中)
・拡大撮影による黒点の観察(小中高)
・黒点の観察から太陽の自転を調べる(中高)
・拡大撮影による太陽周縁減光(高)
・スペクトルの撮影(高)
<日食時>
・固定撮影による日周運動(小中)
・光度変化(中高)
・金環日食時のスペクトル(高)
<皆既日食時>
・固定撮影による日周運動(小中)
・光度変化(中高)
・白色光コロナの撮影
・プロミネンスの撮影(高)
・白色光コロナのスペクトル(高)
初心者にハードルが高い小型望遠鏡に比べると、デジタル一眼レフカメラ(+望遠レンズ
キット)の方がはるかに使い勝手がいい。ただし、デジタル一眼レフカメラが手頃になった
のは最近で、その利便性や撮影方法など十分に普及していない。マニュアル撮影の講習など、
教育現場で上手に利用するような普及活動が望まれる。
1
ビギナーの撮影例
2011 年 10 月 4 日
太陽初撮影
シャッタースピードが不適切で、完全に露出オ
ーバーになっている。
2011 年 11 月 2 日
2度目の太陽撮影
適切な設定で、右上に黒点も写っている。
2012 年 5 月 21 日
金環日食
生憎の曇天だが減光フィルタなしで撮影。
2012 年 6 月 6 日
金星の太陽面通過
三脚を使わずに手持ちでも撮影できるぐらい
になった。
2012 年 11 月 14 日
皆既日食(ケアンズ)
白色光コロナはもちろん、上方などにプロミネ
ンスも写っている。
(2)太陽撮像に必要な機材
最近ではデジカメやビデオが普及しているので、デジカメ自体はよく知られているだろう。
ただし、太陽を綺麗に撮影するためには、以下の機材が必要になる。
・一眼レフのデジカメ+望遠レンズ
日食や天体の撮影をするためには、マ
ニュアルで露出時間を設定できるデジ
タル一眼レフカメラ(正確には、レンズ
交換式デジタルカメラ)が必要(自動的
に露出時間などを設定する通常のコン
パクトデジカメは適さない)。
また拡大して撮影するためには、焦点
距離が 200mm 以上の望遠レンズも必要。
入門者用のカメラとしては、たとえば、
キャノン KissX7-ダブルズームキット
(実売 7 万円程度)
、ニコン D5200 ダブ
ルズームキット(実売 7 万円程度)
、ペ
ンタックス K-r ダブルズームキット(実
売 4 万円程度)などが、望遠レンズを含
むキットでオススメ。
三脚
リモートスイッチ、望遠レンズ、デジタル一眼レフカメラ
ND フィルタ
・減光フィルタ
太陽光は非常に強いので、数千分の一から 10 万分の 1 程度に減光する必要がある(日食メ
ガネでは約 10 万分の 1 に減光している)。どの色の光も均一に減光する ND フィルタ(neutral
density filter)というものが使われる。
製品としては、たとえば、400 分の 1 に減光するケンコー58S ND400(5800 円)を 2 枚重ね
ると 1/400×1/400=16 万分の 1 に減光できる。
また、マルミ太陽撮影用 ND フィルタ ND-100000
(口径が 58mm と 77mm のみ)もある。レンズとフィルタの口径は
合わせること。なお、カメラフィルタは眼視用ではないので、カ
メラフィルタで太陽をみてはいけない。
使い捨てのものとしては、バーダープラネタリウム社のアスト
ロソーラーフィルタ(眼視用、カメラ用;国際光器取り扱い)の
ような、シート状の減光フィルタもある。
・三脚
一眼レフカメラは重いので、安定して撮影するには三脚も必要。
SLIK コンパクト 2(6000 円)あたりが小型軽量で手頃。
・アクセサリ類
撮影したデータを保存するためのメモリカード(上記のカメラ
では、SDHC カードなど)も必要。リモートスイッチなどのアクセ
サリもあると便利。
望遠レンズと三脚をセットしたところ
1
レンズ交換式デジタルカメラ(補足)
デジタル一眼レフカメラ、ではなく、正確には、レン
ズ交換式デジタルカメラ、と書いた理由のオマケ的補足。
・一眼レフの“一眼”とは
歴史的には、被写体をみるファインダーレンズとフィ
ルムに投影する撮影レンズという 2 個のレンズが上下に
付いた二眼レフカメラがあった。そのファインダーレン
ズと撮影レンズを一枚のレンズで兼ねたものが一眼レ
フカメラ。
・一眼レフの“レフ”とは
いわゆる一眼レフカメラでは、従来のフィルムカメラ
にせよ、現在主流のデジタルカ
メラにせよ、光学系に反射鏡
(レフレックス)をもっている。
被写体を捉えるときは、反射鏡
でファインダーまで光を導き、
撮影時には反射鏡を跳ね上げ
てフィルムや撮像素子へ光を
当てる。
(左)デジタル一眼レフカメラ Canon Kiss X-3。レンズを取り外して中を覗くと、反射鏡が見える。(右)ミラ
ーレスデジタルカメラ Panasonic LUMIX gf3。反射鏡はなく、撮像素子が直接見える。
・ミラーレス機の登場
最近は反射鏡をもたない(ミラーレス)、デジタルカメラも登場した。反射鏡や跳ね上げ機
構がないので、ミラーレス機は小型・軽量になり、人気が高い。
・レンズ交換式
いわゆるコンデジ(コンパクトデジカメ)では、レンズとカメラが一体になっていて、望
遠レンズやマクロレンズ、魚眼レンズなど、別なレンズとの交換ができない。マニュアルモ
ードがないことと合わせ、コンデジでは太陽や星などの天体撮像は非常に難しい。
とくに太陽を拡大撮影するためには、200mm から 300mm ぐらいの望遠レンズが装着できる、
レンズ交換式デジタルカメラが必要になる。
(3)太陽撮像の方法
ここではマニュアルモードなどについて簡単に説明する。
・オートモード(自動モード)
ピントや露出時間などを自動で設定するモード。日常の明るさならいいが、暗い天体や明
るすぎる太陽の撮影は無理。さらに、撮影毎に自動で設定されるため、撮影データに関して
も定量的な解析は難しい。
・マニュアルモード(手動モード)
適正な露出時間などを手動で設定するモード。少し慣れが必要だが、太陽や天体の撮影で
は必須。また、撮影データについても、定量的な解析がやりやすい。
カメラ上部のダイヤルや、背面液晶にある
M
がマニュアルモード
・マニュアルモードで設定すべきポイント
【感度 ISO】
ISO の値はフィルム時代のフィルム感度の名残だが、値が大きいほど、暗い像は粗くなる。
ISO=100(~1600)ぐらいで固定しておいてよい。
【F 値】
F 値は絞りの大きさを表し、F 値が大きいほど絞りは小さくなる(光量が減る)。
F5.6 など適当な値で固定しておいてよい。
【シャッタースピード】
露出時間のこと。ここをいろいろ変えて、露光量を調節するのが簡単。
フィルタの減光度や設定感度・設定 F 値にも依存するが、太陽撮像の場合は、
1/1000 から 1/4000 ぐらいで適当なものが見つかるだろう。
・太陽像の導入
慣れないうちは三脚にカメラを固定して、太陽像を導入するとよい。太陽の下方から上へ
向かって動かすなど、上下方向の動きにすると導入しやすい。シャッタースピードは小さい
ので、慣れれば手持ちで撮影しても手ぶれはあまり起こらない。ピントはオートフォーカス
でよいが、オートフォーカスの範囲を適切に設定しておかないと、ピントが合わない。
これらの作業は、液晶画面(ライブビューモード)で太陽を探しながら行うこと。カメラ
によっては、上部に眼視ができるファインダーがついているが、ファインダーで太陽を見な
いこと。ファインダーの像はレンズから直接に来るので、減光フィルタを付けていても赤外
光などを通す可能性があり、安全とは言い切れない。一方、液晶画面の像は電子的に処理し
てあるので、基本的には大丈夫である。
また液晶画面で太陽を探す際には、カメラの縁から太陽を直接に見たりしないこと。
(4)撮影データの処理
撮像データを定量的に解析するためには、撮像データは、圧縮形式ではなく、非圧縮形式
で保存し、いろいろな解析をしないといけない。ただし、この部分は、最初のうちはスキッ
プしても構わない。
・圧縮形式の画像データ
画像データをいろいろな処理で圧縮しサイズを小さくしたもの。ファイルサイズは小さい
が、もとの完全な情報ではないため、定量的な解析にはあまり適当ではない。
JPEG(ジェイペグ)形式 多くのデジカメで採用。ファイル名の最後が .jpg となる。
・非圧縮形式の画像データ
撮像したままのデータを完全に保存するが、ファイルサイズが非常に大きくなる。
RAW(ロー)形式 デジカメの生データ。機種によって依存性がある。
TIFF(ティフ)形式 デジカメの付属ソフトで変換できることが多い。共通性が高い。
FITS(フィッツ)形式 観測天文学者が使うプロ形式。ここまではしなくていい。
最近のデジカメでは、おそらく多くの機種では、
・JPEG 形式だけで保存するオプション(デフォルトではこちら)
・JPEG 形式と RAW 形式の2通りで保存するオプション
がある。
慣れてくれば、後者の形式でデータを保存するようにして、データをパソコンに取り込ん
だ後に、デジカメの付属ソフトで TIFF 形式などに変換するといい。
(左)日食ビギナーがはじめて撮影した失敗例(2011 年 10 月 4 日、京都;KissX3+望遠レンズ+フィルタ ND400
を1枚;感度 ISO100、F5.6、シャッタースピード 1/1000 秒)。最初はマニュアルモードでの操作自体がよくわか
らず、感度設定やシャッタースピードも適切なものが不明で、撮影できるまで半日かかった。ただし、フィルタ
が1枚では減光率が低くて、完全に露出オーバーな上、デジカメの撮像素子にもよくないらしい。
(右)アドバイ
スを受けて撮影した成功例(11 月 1 日、京都;フィルタ ND400 は2枚;感度 ISO100、F5.6、シャッタースピード
1/1000 秒)。きちんと減光できて黒点も写っている。なお、一眼レフはシャッターを切るときミラーを跳ね上げ
る衝撃があるが、シャッタースピードを短くするとその影響はあまり出ないらしい。
【ピクセル数/解像度】
カメラの設定で、画像のピクセル数もいろいろ変えられる。ピクセル数が多ければ、細か
いところまで写る(解像度がよくなる)
。ただし、ファイルサイズが大きくなり、保存や処理
に時間がかかったり容量が必要になる。最初のうちは、あまり気にしないでいい。
(5)太陽周縁減光
太陽を拡大して撮像するとわかるが、太陽面の明るさ(輝度)は一定ではない。太陽面中
央部より周縁部の方が少し暗くなっており、周縁減光効果(limb darkening effect)と呼ば
れている。このことは同時に、中央部より周縁部の方が、観測される温度が低いことを意味
している。
1)周縁減光効果の撮像
太陽の周縁減光は、市販のデジタルカメラ画像でも簡単に確認できる。太陽像を拡大撮影
すると、黒点が出ていれば、まず黒点に気づくだろう。さらによくみると、太陽面の中央部
より周縁部の方が暗いことが見て取れる。これが周縁減光である。さらに、マカリなどの画
像処理ソフトで、太陽像の中心を通る直線に沿って輝度を測光すると、周縁減光の輝度の変
化を図に示すことができる。
太陽像と輝度分布。左はシャッター速度が早め(1/1000 秒)で太陽像は暗いが綺麗な輝度分布が得られている。
右はシャッター速度が遅め(1/320 秒)で太陽像は明るいが輝度分布が潰れている。なお、ここで使用した機材
は、一眼レフカメラ Pentax K-r と小型望遠鏡 Vixen A80M(口径 80mm、焦点距離 910mm)で、減光フィルタには
アストロソーラーフィルタを用いた。
周縁減光を撮像するだけであれば、シャッター速度はむしろ遅めの方がよい。シャッター
速度を少し遅くすれば太陽面全体が明るくなって、周縁部の減光がよりはっきりと見て取れ
る。ただし、シャッター速度を遅くすると、輝度分布は中央付近が平坦になってしまう。こ
れは中央付近では露出オーバーになっていることを示している。
2)周縁減光効果の理屈と理論(ここは飛ばして構わない)
周縁減光が起こる原因は、太陽が内部ほど高温なガスの球体であるためだ。太陽を見ると
き、我々は太陽面の中央部でも周縁部でも、同じく、光学的深さが 1 程度からの光を見てい
る(ここで光学的深さが 1 というのは、ガス体が不透明になる深さで、空に浮かぶ雲の表面
の見えている場所ぐらいに思えばよい)。そして、太陽が球体であるために、太陽面中央部
はより深い場所からの、周縁部は(観測者から測れば長い距離があるが表面からは)より浅
い場所からの光を見ることになる。もし、太陽内部の温度が深さによらず一様ならば、太陽
像は中央部でも周縁部でも同じ明るさに見えるだろう(あるいは固体微粒子が太陽光を散乱
して光っている月面も、周縁減光は起こらない)。しかし、実際には、太陽は内部に向かっ
て温度勾配があるため、表面中央付近に比べて周縁部では(視線方向には)同じ光学的深さ
でも(表面から測った)実距離での深さは浅く、より温度の低い部分からくる光を見ている
ことになる。
黒体放射を仮定すると、明るさ(輝度)は温度の 4 乗に比例するので、温度が少し低いだ
けでも明るさへの影響は大きい(温度が 4000K の黒点と 6000K の光球では、温度の比は 0.67
ほどだが、明るさの比は 0.20 まで落ちる)。
この周縁減光効果は輻射輸送の理論で説明できる。
すなわち、平行平板大気のミルン-エディントンモデ
ルによれば、太陽半径を a、観測される太陽像の面中
央からの距離を r とすると、距離 r での輝度 I(r) と
面中央での輝度 I(0) との比は以下の式で表される。
I (r ) 2 3
r2
r2 
3
1 − 2 = 1 − 1 − 1 − 2 
= +
I (0) 5 5
5 
a
a 
ただし、光学的深さは光の波長によっても異なり、
したがって周縁減光の度合いも光の波長に依存する。
そこで、しばしば使われるのが、

I (r )
r2 
= 1 − u 1 − 1 − 2 

I ( 0)
a 

u=
I (r = 0) − I (r = a )
I (r = 0)
という経験式である。ここで u は、太陽面中央の輝度に対して周縁部での減光の割合を表す
パラメータで、周縁減光係数と呼ばれる。単純なミルン-エディントンモデルは、u=0.6 の
場合に相当している。
波長依存性については、具体
的には、短波長の光ほど周縁減
光の影響を大きく受ける。たと
えば、波長 6000Åでの経験的
に周縁減光係数が u=0.56 なの
に対して、波長 3200Åの場合
は u=0.95 となる。
得られた輝度分布に、モデル曲線を一
緒に描いてフィッティングしたもの。
滑らかな曲線の上から順に、周縁減光
係数が u=0.2、0.4、0.6(エディン
トンモデル)になっている。このデー
タでは、u=0.2 ぐらいでフィッティ
ングできていることがわかる。
(6)太陽コロナ(白色光コロナ)
皆既日食時(2012 年 11 月 14 日、オーストラリアケアンズ)に市販の機材で撮影したデー
タを用いて、太陽コロナの解析を試みてみよう。
1)太陽コロナ
太陽のコロナというと、最近では X 線で撮影した画像の印象が強いだろう(教科書にもエ
クスキューズなしに色の着いた X 線画像が出ている)。しかし、皆既日食時などに観察され
る白色光コロナ(white-light corona)は、X 線画像とはまた少し違うものをみている。す
なわち X 線のコロナは高温ガスの熱放射だが、白色光コロナは主に太陽光の散乱光である。
ただ一口に白色光コロナといっても、実はいろいろあるので、簡単にまとめておこう。
白色光コロナ。横軸は太陽半径を
単位とした太陽からの距離で、縦
軸は太陽面の明るさを単位とし
た白色光コロナの明るさの対数
値(Stix より改変)。K コロナが
自由電子による散乱で光ってい
るもの。F コロナはダストの散乱
で光っているもの。E コロナは輝
線で光っているもの。点線は上か
ら、曇り空、青空、皆既時の空、
地球照の明るさを示している。
コロナは 100 万Kもの高温なの
で、コロナ中の水素はほぼ完全に
電離している。その結果、コロナ
中には電離した自由電子が大量
に存在している。太陽から放射さ
れた光は、この自由電子によっ
て、綺麗に散乱される(専門的に
は、トムソン散乱とか電子散乱と
呼ぶ)。しかも、水や氷の散乱と
異なり、電子散乱はまったく波長に依存せず、太陽の光を完全に平等に散乱する。自由電子
が太陽光球の光を散乱することによって輝いているコロナをKコロナと呼ぶ(Kは
Kontinuierlich-連続的という意味のドイツ語-頭文字) 1。
一方、惑星間空間には太陽近傍も含め微小な塵(dust)が多数存在している。このダスト
もまた太陽光を散乱する。ダストの散乱によって生じるコロナがFコロナである(Fは
Fraunhofer) 2。Fコロナはそのまま黄道光につながっている。
さらに K コロナや F コロナより輝度は落ちるが、高温コロナ中でさまざまに高階電離した
イオンから放射される輝線で光っている E コロナもある(E は emission の頭文字)。
太陽近傍では K コロナの明るさはだいたい満月と同じくらいになる。そして、太陽半径の
2 倍から 3 倍くらいまでは K コロナの方が明るいが、それ以遠になると F コロナの方が卓越
してくる。また、K コロナの色は、いわば薄められた太陽光の色であり、地上で観察したと
きの太陽の色-白色(無色)-にもっとも近い。
1
2
もともとの太陽光にあるフラウンホーファー線は、
自由電子の熱運動で拡がってしまうため 7)、
K コロナのスペクトルはほぼ連続成分のみになっている。
F コロナのスペクトルにはフラウンホーファー線は残っている。
2)白色光コロナの撮影と輝度分布
いろいろな機材と諸元で白色光コロナを撮影した。よく
撮れた例を以下にあげる。
いろいろな機材と諸元で撮影した白色光コロナ。上から:
A:Nikon D5100 + 300mm 望遠レンズ
ISO1600、F/10、1/80 秒
B:Fuji Lumix gf3 + 300mm 望遠レンズ
ISO100、F/5.6、1/250 秒
C:Pentax K-r + ミニボーグ 60ED
焦点距離:490mm(合成)
ISO100、F/8.2 (合成)、1/125 秒
ケースCのポータブル小型望遠鏡(ミニボーグ 60ED)が、
合成焦点距離も 500mm 近くあって解像度がいいが、エント
リー機種のデジタル一眼レフカメラキット付属の望遠レン
ズ(焦点距離 300mm)などでも、コロナはもちろんプロミネ
ンスまで写っている。ケースAとケースBは機材のスペッ
クはほぼ同じだが、撮影諸元とくに ISO 感度が違う(Aは
ISO1600、Bは ISO100)。ISO 感度が高いとノイズが多くな
るので、淡い天体の撮影では ISO 感度は小さめの方がよい。
図の横線に沿って計測した白色光コロナの輝度分布を
下図に示す。下図の横軸は太陽半径を単位とした太陽面中
心からの距離(右端が太陽面中心、-1 が太陽面の端)で、
縦軸は生のカウント数である。ケースAは ISO 感度が高い
ので、カウント数は多いがノイズも大きい。ISO 感度の低
いケースBは、カウント数は少ないがノイズも抑えられて
いるのがわかる。小型望遠鏡のケースCは、カウント数も
多くノイズも小さい。いずれにせよ、白色光コロナの輝度
は、太陽から離れるにしたがい急激に減少していることが
よくわかる(後で述べるように、経験的には、おおざっぱ
に、r/R◎の 7 乗に反比例して減少する)。太陽半径の 2 倍
くらいまで、K コロナが卓越している領域はだいたい受か
っている。
ここで強調しておきたい点としては、市販のデジタル一
眼レフカメラとキットの望遠レンズでも、白色光コロナの
輝度分布が十分に得られることである。
なお、今回、下図のカウント数を出す際は、元データを
FITS に変換して IRAF で処理した。Dark や Flat などの専
門的処理はしなかったので、他の方法やソフトでも類似の
結果は得られるだろう。
いろいろな機材で撮影した白色光コロナの輝度分布。横軸は太
陽半径を単位とした太陽面中心からの距離で、縦軸はカウント
数。上から、組み合わせ A、B、C。
3)輝度分布から電子密度を求める周縁減光効果の撮像(ここは飛ばして構わない)
先に書いたように、K コロナは自由電子が太陽光を散乱して生じる。太陽光の強度変化は
わかっているので、K コロナの輝度分布からは原理的には自由電子の密度分布を導くことが
できる。これは太陽物理学にとっては非常に重要なテーマであり、古くからいろいろな方法
が開発されてきた。一般的には、コロナの放射率分布(電子密度の分布)を仮定して輝度分
布のモデルを計算し観測と比較するが(順問題)、輝度分布から数学的な逆変換で電子密度
分布(放射率分布)を出す方法もある(逆問題)。
以下では、比較的やさしい順問題の方法で、放射率分布(あるいは太陽光の強度と電子密
度分布)に単純なモデルを仮定し、輝度分布を計算してみたい。
まず図のように、観測者方向を z 軸とし、太陽を中心とする極座標(r, θ, φ)を設定する。
また z 軸に垂直方向の座標を p 軸とする。球対称なモデルでは(単位体積単位立体角当たり
の)太陽コロナの放射率分布 j(r) や太陽光の強度分布 J(r) そして自由電子の密度分布 ρ(r)
などは半径 r の関数だが、観測されるコロナの輝度分布 I(p) は z 軸から距離 p の関数にな
っている。さらに白色光コロナが太陽光の散乱だけで決まるとすれば、
j (r ) ∝ J (r ) ⋅ r (r )
(1)
という関係が成り立つ。
太陽中心の極座標 (r, θ) と、観測面での座標 p の関
係。放射率や密度などはおおざっぱには半径 r の関数だ
が、観測される輝度は p の関数になる。
太陽光の強度分布は遠方では距離の 2 乗で
落ちるので(太陽表面近傍では少し違うが)、
もっとも単純なモデルとしては、
R 
j (r ) = j 0  ◎ 
 r 
n+2
(2)
または
2
n
R 
R 
J (r ) = J 0  ◎  , r (r ) = r 0  ◎  (3)
 r 
 r 
というべき関数分布が考えられる。ここで、R◎は太陽半径で、j0、J0、ρ0 はそれぞれ太陽表面
での値、n はパラメータである。
もし白色光コロナが光学的に薄ければ、放射率分布を視線方向に積分したものが、観測さ
れるコロナの強度分布になる:
∞
I ( p) = ∫ j (r )dz
(4)
−∞
半径 r の関数を視線 z 方向に積分するのだから面倒そうだが、z 方向から測った角度θに変
換すれば解析的に扱える。すなわち、
r=
p
p
p
dθ
, z=
, dz = −
sin θ
sin θ
tan θ
(5)
などの変数変換を使って、(4)式の積分を書き換えると、
I ( π) = ∫
∞
−∞
R 
j 0  ◎ 
 r 
n+2
R 
dz = j 0 R◎  ◎ 
 π 
n +1
∫
π
0
sin n θ dθ
(6)
となり、半径 r のべきを p のべきに引き直すことができる(べき指数が 1 だけ減少する点に
注目)。積分部分は、n=2 のときはπ/4 となる(他の n は数学公式集など参照。いずれにせ
よ、三角関数の積分なので 1 のオーダーの数値)。
したがって、簡単な測定法としては、白色光コロナの輝度分布に合うようなべき指数を求
めることになる。
なお、教科書などによれば、経験的には、白色光コロナの輝度分布は、I◎を太陽面での輝
度とし、x=p/R◎として、
I ( x)
 0.0532 1.425 2.565 
= 10 −6  2.5 + 7 + 17 
I◎
x
x 
 x
(7)
ぐらいになるらしい。右辺括弧内の第 1 項は
F コロナの寄与で、第 2 項と第 3 項が K コロ
ナの分布を表す(x=1.061 で第 2 項と第 3 項
が等しくなる)。したがって、上の(6)式と比
べると、指数 n は、6 と 16 に相当する。また
これから導かれる K コロナの電子密度分布
は、ne0 を 1014 m-3、r を太陽半径で規格化した
半径として、
 1.55 2.99 
ne = ne 0  6 + 16 
r 
 r
(8)
ぐらいになる。
先の輝度分布の図を対数にしたグラフを上
図に示す。破線の矢印は、だいたい傾きが-7
の直線を表している。市販のデジタル一眼レ
フカメラでは、きちんとした定量評価までは
難しいかも知れないが、上図でわかる程度の
フィットは可能である。
いろいろな機材で撮影した白色光コロナの輝度分布
(対数グラフ)。上から、組み合わせ A、B、C。破線の
矢印は傾き-7 の直線を表す。なお、先の図と横軸の向
きは逆。
参考文献
1) 福江 純、2009、天文月報、102、693
2) 福江 純 他、2012、天文月報、105、636
3) 野口 亮 他、2012、天文月報、105、705
4) 小倉和幸 他、2012、天文月報、105、777
5) 川端美穂 他、2013、天文月報、106、52
6) 福江 純 他、2013、天文月報、106、334
ダウンロード

20.太陽撮像の方法と太陽周縁減光および太陽コロナの輝度分布測定