6章
第
ソフトウェア無線でディジタル放送やFMラジオ放送を聞く
無線受信機の製作
林 輝彦
ここでは通信分野のアプリケーションに適用した例として,ソ
今回設計したディジタル受信機のブロック図を図 2 に示
フトウェア無線(SDR : software defined radio)の構築を
します.基本的には,アンテナで捕らえた高周波信号を A-
意識したディジタル受信機を設計する.DDC(digital down
D コンバータによってディジタル信号にした後,周波数変
converter)を用いた DC(direct conversion)方式の受信
換を行って,直流(0Hz)付近の周波数を持ったベースバン
機とパソコン上の復調ソフトを組み合わせ,実際に HF 帯の各
ド信号に変換する,ダイレクト・コンバージョン(DC :
種放送,通信,VHF 帯の FM 放送を受信できた.
direct conversion)受信機の構成をとります. これは,
(筆者)
ディジタル処理によって周波数を変換するディジタル・ダ
ディジタル信号処理技術の進歩によって,アナログ信号
ウン・コンバータ(DDC : digital down converter)と呼
処理が中心であった無線システムも大きく様変わりしまし
ぶこともあります.位相差 90 °の直交する局発信号を用い
た.高速 A-D/D-A コンバータと大規模,高性能 FPGA を
ることで,互いに直交するベースバンド(I : in-phase,
多数組み合わせた,いわば最先端のソフトウェア無線機が
Q : quadrature)信号を生成し,以降の処理を行います.
携帯電話の中継,基地局として稼動しています.また,比
信号を直交成分に分けて処理する方法は,アナログの時
較的簡単な回路から成るアナログ・フロントエンドをパソ
代から理論的には考案されていました.SSB 信号の発生に
コンのサウンド・カードの入力に接続し,パソコン上で受
おけるフェーズ・シフト方式や,ウィーバ(Weaver)方式,
信機を仮想的に構築することもできます(図 1).
混信除去のイメージ・リジェクション・ミキサなどです.
(a)ソフトウェア・ラジオ実験基板
図1
(b)復調ソフトウェア
アナログ・フロントエンドと復調ソフトウェアを用いるソフトウェア・ラジオの例
CQ ham radio 2006 年 12 月号付録ソフトウェア・ラジオ実験基板と復調ソフトウェア Rocky.
KeyWord
FPGA,ソフトウェア無線,ディジタル・ダウン・コンバータ,ダイレクト・コンバージョン,数値制御発振器,
CIC フィルタ,FIR フィルタ,CORDIC,ハードウェア・アクセラレータ,ディジタル受信機
Design Wave Magazine 2007 July
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サンプリング周波数
fsr
fsb =
64∼1280
FPGA内部
アンテナ
LPF/BPF
(∼240MHz)
A-D
コンバータ
デシメーション・フィルタ群
サンプリング周波数
fsr
ミキサ
CICフィルタ
CICフィルタ
各種復調
FIRフィルタ
1
2
I信号
I信号
回路
DCT/FFT
ミキサ
ヒルベルト変換
CICフィルタ
CICフィルタ
FIRフィルタ
CORDICなど
1
2
Q信号
Q信号
sin出力
NCO
図2
クロック分配
cos出力
周波数設定
(パソコンから)
DCM
(PLL)
付属 FPGA 基板に実装したディジタル受信機のブロック図
パソコンの復調ソフトウェア
を使用する時は省略
光送信
モジュール
クロック入力(61.44MHz)
ダイレクト・コンバージョン(DC)方式の受信機.
しかしアナログ方式では,回路を構成する素子の不安定さ
S/PDIF
インター
フェース
PCサウンド・カード
オーディオ用
D-Aコンバータへ
光リンク
ました.
のため,正確に位相,振幅を管理することが困難だったた
ディジタル受信機の中では,処理が進むに従って,扱う
め,その本格的な実用化はディジタル信号処理の出現を待
信号の帯域幅を絞ることで目的とする信号を選択し,それ
つことになりました.
に合わせサンプリング周波数も低くしていきます.信号の
DC 方式のディジタル受信機の場合,その中心的な処理
帯域幅やサンプリング周波数を低くすることにより,振幅
内容は,高周波信号を扱うため十分に高く設定したサンプ
方向の分解能は増加するので,アンテナからの高周波信号
リング周波数(今回は 61.44MHz)からベースバンドにおけ
をディジタル化する A-D コンバータの分解能は,ベースバ
るフィルタリング,復調などの処理を行うのに適切な,低
ンドで扱う信号の分解能に比べ小さくても十分です.今回
いサンプリング周波数(今回は48kHz や960kHz,240kHz)
はややオーバスペックですが,各種の実験ができるよう,
までサンプリング周波数を落とす,デシメーション処理を
分解能 14 ビット,最高サンプリング周波数 65MHz の A-D
不要なエイリアス信号を混入させることなく行うことです.
コンバータを用いています.
● ミキサ
1.ディジタル受信機の構成要素
FPGA に搭載されているハード・マクロの18 ビット×18
ディジタル受信機の構成要素について説明します.
ビットの乗算器をミキサとして使用しています.NCO
(numerically controlled oscillator)からの直交 2 相の局発
● A-D コンバータ
信号を A-D コンバータでディジタル化した高周波信号と掛
今回の受信機では,ベースバンドで扱う信号の帯域幅(サ
ンプリング周波数)
,ダイナミック・レンジとして,それ
け合わせ,直流 0Hz 付近の直交 2 相ベースバンド信号(I 信
号,Q 信号)を生成します.
ぞれ 50kHz,100dB(分解能 16 ビット程度)を目標に考え
● NCO(numerically controlled oscillator)
NCO は,周波数データを与えることで,正弦波のディ
位相瞬時値
周波数
設定入力
28ビット +
Z −1
sin波形
テーブル
位相アキュムレータ(28ビット)
データをクロックごとに加算することで位相の瞬時値を計
cos波形
テーブル
16ビット
cos出力
数値制御発振器(NCO : numerically controlled oscillator)
sin,cos の二つの信号(波形)を同時に出力できる.
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ジタル信号出力を得ることのできる発振器です.
図 3 に示すように,位相アキュムレータによって周波数
上位
18ビット
+
図3
16ビット
sin出力
算します.位相をもとにテーブルから正弦波の波形データ
を得て出力信号とします.
三角関数は,0 ∼2 πの変数に対して,振幅+1 ∼−1(変
化量: 2)の変化をしていて,最大の傾きは 1 です.波形
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