庭園における抽象度の写真例
1 具象的造形
自然の風景を直接取り入他造形である。写実主義ともいえ、日本庭園ではほ
とんど存在しない。ここではヨーロッパの写実庭園の例を示す。
①自然の中にある庵・東屋の風景(自然そのものを眺める田園風景)
②箱庭的に自然を模倣した造形(自然の要素を取捨選択せずに、各種取り込んだ造形)
キュー王立ガーデン(ロンドン)
モンソー公園(パリ)
バガテル公園(フランス)
2 象徴的造形
①自然の風景をデフォルメした造形(洲浜・荒磯・遣水・曲水など)
古来より自然の風景を造形化する試みがなされていた。特に洲浜・遣水・荒磯である。即ち
囲まれた一定の面積に自然を取り込むためには、特定の印象深い対象を抽象する必要があ
った。
特に洲浜は景観に奥行きを与えると共に、極楽浄土の象徴とも見なされたため、池泉庭園
には必ずと言っていいくらいに造形された。
東院 :洲浜
毛越寺:遣水
西芳寺:洲浜
法然上人絵図:遣水
②神話・仏典・禅語録ななどの物語を視覚化した造形(蓬莱山・須弥山・極楽・
九山八海など)
中国では既に秦・漢の時代から神仙蓬莱の世界をこの世に再現した。日本でも神話の世
界や、仏説など目に見えない架空の世界の物語を理解しやすくするために、象徴的な造形
に視覚化したのである。
a 須弥山世界の造形: 須弥山は仏教の世界観の中心をなす
北畠神社:中央の石は須弥山で、その周り
東福寺:開山堂前には鶴亀蓬莱の庭がある。
を螺旋状に取り巻いている石組みは九山を
上記石組みは鶴島の羽石を造形しているが
表し、全体で九山八海を象徴している。
蓬莱山や須弥山も象徴していると思う。
b 龍門瀑:禅語録を造形化して碧巖録の物語などを可視化した
西芳寺:修業の場から鑑賞のための造形へ
天龍寺:後醍醐天皇を弔うための鑑賞本位
の過渡期の庭
の庭としての先駆け
碧巌寺(熊本県菊池市)
同左:左写真の護岸部分の拡大
池中の立石が鯉魚石、池中に3つの座禅石と九
中央の大きな石が碧厳石、左右の小さな石は観
山八海石がある。
音石と猿石。「五灯会元 夾山」より
猿抱子帰青嶂後 鳥啣花落碧巌前
3 抽象的造形
具象的・象徴的な造形ではなく、自然界や神話などを想起させない、抽象度の高い造形を
例示する。
①においては、グラフィックデザイナーとしての重森のデザイン化された庭園の例を示す。
②においては具体的造形の庭園ではない、抽象性の高い庭園を古典庭園と重森庭園に分
けて示す。
①人工的造形(重森三玲の例)
自然の野山や物語を高度に抽象し、自然には存在しない直線や曲線の形や色の造形の
庭を作った。いわばグラフィックデザイナーとしての重森の造形は、比較的小面積の庭を変化
のある興味深い庭にした。以下に a~e を例示。
a 洲浜の造形化:重森は終生洲浜の造形化に努めた。そのきっかけは昭和 13 年に毛越
寺の洲浜に触発された。
光明院(S14):枯山水に初めて取り込んだ 松尾大社(S50):左右から三つの洲浜が交
洲浜
錯した遣水の造形。
b 網干・網代模様・の造形化
網干、網代、海波の造形は古からあるデザインであるが、庭園の造形として大胆に採用し
た。
小河家(S30):修学院離宮「中の茶屋」の欄
干の影響
織田家(S32):庭園を取り巻く網代模様の洲
浜
c 延段の造形化:重森は個人宅においては延段を造形化したが、常に新しい造形を
求めた。この延段を一目見ただけで重森の庭であることが解るほど個性的な造形で
ある。なお、重森の越智家の延段の造形は桂離宮の「真の飛び石」にヒントを得た
と思われる。
越智家(S32)
小河家(S35)
d 直線による造形
庭園に直線の造形が用いられたことは、ほとんど無いのではないだろうか。いわゆる寛げ
る庭にはならないからだろうか。日本での唯一の例外と言えば小堀遠州の仙洞御所くらい
だろうか。ただしあまり評判が良くなかっため、現在のように改修されてしまった。
岸和田城の城郭デザイン(S28)
漢陽寺(S48)
e 直線で仕切る地割 :重森は自然界には存在しない直線の斜線を入れ、重森独自の造
形を創作した。昭和 9 年の春日大社と四方家が初めてで、東福寺の方丈に先がけること 5
年である。この直線による仕切りは自然界には無い人工の造形を意図したのである。即ち芸
術作品としての庭園を指向した。
春日大社(S9)
②完全な抽象造形の庭:龍安寺の世界の系譜
具体的な自然物や象徴ではない、全くの人工的な造形空間構成の優れた庭
A 古典庭園の例
常栄寺(山口市):雪舟が作った庭と言われているが、鶴亀や自然の野山を全く想起させな
い立体空間の世界。立石を中心とした人工の造形美の世界だ。彼は完全に遠近法をマスタ
ーした水墨画の世界を庭園でも再現した。
保国寺(西条市):立石と横石が織りなす空間構成美の世界だ。この造形から幾分か石を減
らすと龍安寺の世界だ。
龍安寺(京都市):日本庭園の到達点であり、出発点でもある。自然石を配置することで、自
然を超えた宇宙の神秘を再現したとも言える。世界の至宝とも言うべきか。ただし、造園当初
とは多くの点で異なっていることを考慮して仮想復元して再評価すべきと思う(向かって左側
の土塀、正面の生い茂った木立、方丈建物の張り出しなど)。
願行寺(奈良県吉野郡下大市町寺内):龍安寺の庭園構成に最も近い庭であろう。やや生
い茂った草木を除去すれば、石組による抽象世界が出現するだろう。
玄宮園(彦根市):大名庭園の最高峰。水の竜安寺とも言える気品と重厚さ。
福田寺(米原市)
B 重森三玲庭園の例
東福寺(京都市):重森の最初期の庭であるが、立石と横石を組み合わせた斬新な造形である。
岸和田城(岸和田市):広大な敷地に地割された石組みは秀逸なテーマと幾何学的な造形で拡
散と統合が図られた。
前垣家(東広島市):小さな坪庭に組まれた
抽象造形は見る者に想像を掻き立てる不思
議な存在だ。まさに現代の龍安寺と言える。
重森はこの石組のために、施主の所有する
山に何度も入って、ようやくこの欠損部の
ある石を見つけた。この時点で庭は出来あ
がったのも同然だ。
松尾大社(京都市):重森の遺作となった庭
だ。重森は洲浜、延段、竹垣など多くの造形を
創作したが、遺作となった作品は人為的な過
度とも思える細かな細工から解き放たれ、立石
のみの自由な空間を構成した。
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