情報コミュニケーション学会第 9 回全国大会
CIS2012(2012.3.10~11)
勘と経験を活かしたサービス創新を生み出すコミュニケーションミーティング
○尾上正幸*
Masayuki ONOUE
内藤 隆* **
Takashi NAITOU
*明治大学サービス創新研究所
Meiji University Service Innovating Lab.
阪井和男*
Kazuo SAKAI
**株式会社シーエスアップ
CSUP, Inc.
あらまし:サービスフロントを構成する企業側の現場担当者に注目した場合、日常的に接する顧客から意識
的・無意識的に多様な創造の種を得ていると考えられる。これらの種を新たなサービス及びサービスの向上
に発展させるためには、それぞれの持つ多種多様な種を共有することから始めることが重要になる。いわゆ
る現場担当者の「勘と経験」を引き出す交流手法が必要である。それらを新たなサービス創新(イノベーシ
ョン)に繋げてゆくことを目的として、「交流制約法」の発展を目指したコミュニケーションミーティング
の実践報告を行う。
キーワード:サービス創新、コミュニケーションミーティング、ワールドカフェ、アクションラーニング、
ナレッジマネジメント
1 はじめに
の一方的な情報伝達に終始し、現場担当者はその情報
2010 年 4 月に明治大学研究・知財戦略機構の特定課
を受け止めるだけの会議が繰り返されている。そこに
題研究ユニットとして設立された明治大学サービス創
は現場担当者の「勘と経験」を次なるサービス創新に
新研究所では、産学様々な参加によりワールドカフェ
活かそうという仕組みはなく、組織やサービスの硬直
やアクションラーニングなどの創造的会議手法を用い
化を引き起こしていると想定される。
たサービスの現場情報の交流や学習を実施している。
従来の会議手法を変えることで、組織内のナレッジ
業種・業態・職種を超えた対話が参加者に新たな発
マネジメントの実現に加え、次なるサービス創新の可
見をもたらすとともに、自らの見解にも変化をもたら
能性が生まれるという仮説に至り、「勘と経験」を活
すことを体感し、この手法をサービス提供組織内に導
かした現場から醸し出すサービス創新の実現に向け、
入することで、サービスフロントに従事する現場担当
新たなる会議「コミュニケーションミーティング」を
者の「勘と経験」を活かした新たなサービス創新手法
サービス提供組織内で実施し、その実践報告を行う。
が確立できるという考えに至った。
サービスフロントにおいては、現場担当者同士は、
日常的なコミュニケーション欠乏の状態にありながら、
2 コミュニケーションミーティングの意義と特長
コミュニケーションミーティングは、サービスフロ
その状態にあること自体への認識が不足している。そ
ント従事者の
「勘や経験」
などの暗黙知を顕在化させ、
の要因の 1 つとして、業務マニュアルやサービス規定
(1) 現場担当者の認識を共通化し、組織としてのサー
などの組織内の標準化作業により、現場担当者は互い
ビス提供能力を向上させること、(2) これまで知り得
の認識が共通していると信じていることが挙げられる。
なかったサービス提供に付随する手法の発見を通じて
それにより現場担当者同士の適宜な知識や情報の交流
サービス創新を実現することを目的とする。そのため
不足が生じるとともに、個々の担当者の能力に依存し
に、朝礼や社内通達などの平準な情報伝達や意思疎通
たサービス提供行為が実施されている。現場情報の交
手段では補完できない、現場担当者が持ち得る情報を
流や学習を実施する手法を導入することは、サービス
もう一段深めて話し合う場や発想し合う場を設定する。
提供組織におけるナレッジマネジメント強化という観
コミュニケーションミーティングは、(1) ワールド
点からも有効であると考えられる。
現場担当者同士の交流不足が生じている職場で実
施されている会議の多くは、管理者から現場担当者へ
カフェ、(2) アクションラーニング、(3) ブレーンスト
ーミングの 3 つの創造的会議手法の要素を組み合わせ、
新たなサービスの具現化につながるような流れを意識
して進行する。会議参加者はサービス提供者であると
ライズサービスをつくる」に設定した。
同時に、別のシーンではサービス受益者にもなりえる
ブレーンストーミングのメンバーには、三巡して意
という考えを共有し、単に「
(自分たちのサービスを受
見を求めたが、多岐にわたる意見が出現した。特筆す
ける)お客様の身になって」と言う一方通行の思いを
べきは、
「サプライズサービスを行う前に、本来(自分
超越した議論になることを目指している。
たちが)お客様にするべきことの中に忘れられている
2.1 コミュニケーションミーティング実践報告
ことがある」という思いがけない意見が出された。し
これまで開催したコミュニケーションミーティング
かもこの意見は、サプライズサービスの実施について
の内、
「サービスにサプライズは必要か?」というテー
肯定的であったグループの代表者から表明された。
マで実施した事例を取り上げる。参加者は 50 名で、全
2.4 アクションラーニング
体の所要時間は 2 時間半であった。ワールドカフェ、
全体の思考収束を図ることを目的に、アクションラ
ブレーンストーミング、アクションラーニングの順序
ーニングの要素を用いて会議を進行した。
本事例では、
で進行し、各段階の実施内容と状況について述べる。
ブレーンストーミングのメンバー8 名が討議し、今後
2.2 ワールドカフェ
実施したい具体的なサプライズサービスを考案し、そ
コミュニケーションミーティングにおいては、特に
のサプライズサービスの推奨者となり、全体にその内
ワールドカフェを重視する。発散思考であるワールド
容を説明した。続いて、推奨者に対する会議参加者か
カフェは、参加者の多様な意見・着想が湧き出てくる
らの多数の質疑により、議論を掘り下げた。
というメリットがある。ワールドカフェでは、現状の
2.5 エンディング
サービスを前向きにとらえ建設的に発言されているも
アクションラーニングによる質疑応答を終え、再度
のから、現状の環境を憂いている否定的なものまで
8 名の推奨者による討議を行い、本会議の意見の総括
様々な意見が飛び交うが、参加者から発せられたあら
を求めた。その結果、(1) 最も重要なのは依頼者との
ゆる意見を否定しないことを原則とする。テーマに関
コミュニケーションであること、(2) サプライズサー
する様々な角度からの意見が増えることで、会議参加
ビスを実行する以前に基本サービスが整っていること
者は混沌とした状況を体感し、自分と同じ意見や考え
が必要であること、(3) サービスフロントにおける顧
が集団にあることと同様、異なる意見や考えが集団に
客情報の共有を高めることで、高品位なサービス提供
あることを認知することが可能となる。
が可能となることが挙げられた。また「サプライズサ
本事例においては、
1グループを6 名前後で構成し、
ービス」という顧客を驚かせるという印象が強い呼称
全 8 グループでワールドカフェを実施した。各グルー
自体を見直し、業態も鑑み、顧客に癒しを提供する「プ
プで出された意見をワールドカフェ終了後に各グルー
ラスワンサービス」という概念でサービスを再構築し
プリーダーが全参加者に発表した。この時点では、テ
ていきたいというアクションでまとめられた。
ーマに対して「サプライズサービスは必要である」と
いう意見が大勢であったが、1 グループだけ「サプラ
3 まとめ
イズサービスは必要ない」というグループ内の意見の
コミュニケーションミーティングの実施が 1 つの機序
取りまとめがあった。このような少数意見の表明は、
となり、現場担当者間のコミュニケーションの増幅や
従来の一方通行型の会議の枠組みの中では、おそらく
他者のサービス提供行為への関心度の高まりなどの現
表出することがなかったものと考えられる。
象が見られる。今後、現場担当者がサービス現場で得
2.3 ブレーンストーミング
ている様々な知見を顕在化させることで、現場から醸
次に、ワールドカフェの各グループより 1 名を選抜
し出すサービス創新が推進されるものと考えられる。
し、全 8 名でブレーンストーミングを実施した。8 名
以外のメンバーは傍聴者となる。現場担当者たちが互
参考文献
いの意見を集約し、サプライズサービスが必要である
[1] 香取一昭・大川恒、
『決めない会議』
、ビジネス社、
とした結果が多かったことを考慮し、テーマは、
「サプ
東京、2009.
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