あ
国立精神・神経センター
武蔵病院
樋 口 輝 彦
NCNP
「双極性障害の症状と診断」
NCNP
病跡学にみる躁うつ病
宮沢賢治
「注文の多い料理店」:躁状態
晩年:うつ状態
夏目漱石
「吾輩は猫である」:軽躁期
「行人」:うつ状態
チャイコフスキー
「冬の日の幻想」「悲愴」:うつ
「かじやワクーラ」(オペラ):軽躁
NCNP
032
124
021
004
022 017
018
003 010
011 014 012 016
007 001 002 005 099 009 013 006 015
142
127
077
057
053
051
049
048
045
043
042
040
039
036
034
033
031
030
029
027
026
025
024
120
064
054
052 047
038 044 050
027 041 046
072
084
060
080
058
065
065 061 063
055 059 062
146
145
141
138
137
108
106
102
101
098
095
094
136
093
128
092
120
091
119
085 144 116
082 130 113
079 129 112
143
078 125 111
134
076 097 110
133
075 096 109 148 132
115 074 090 107 147 131
081 073 089 105 140 126
071 070 088 104 139 123
068 069 087 103 135 118
066 067 083 100 122 114
1829 ’30 ’31 ’32 ’33 ’34 ’35 ’36 ’38 ’40 ’41 ’42 ’43 ’44 ’45 ’46 ’47 ’48 ’49 ’50 ’51 ’52 ’53 ’54
Suicide
attempt
Hypomanic
throughout 1840
Severly depressed
throghout 1844
Hypomanic
throughout 1849
Suicide
attempt
The severe fluctuations of the German Romantic composer
Robert Schumann's musical productivity become strildngly appafcnt when his musical works (identifled here by opus number) are
arranged according to the year of their composition. Schumann died in an asylum a little more than a year after his suicide attempt in
1854.
NCNP
正常な人と躁うつ病患者の気分の変化
(Goodwin FK & Jamison KR, 1990)
NCNP
Representative patterns of cyclicity
(Goodwin FK & Jamison KR, 1990)
NCNP
躁うつ病(躁うつ病とうつ病を含める)
単極性(うつ病相のみ)、
双極性(躁病相、うつ病相)
大うつ病(従来の単極性うつ病)
双極性障害(双極Ⅰ型、Ⅱ型)
NCNP
大うつ病と双極Ⅰ型障害の疫学 (APA)
発生率
(1年間の新症例)
有病率
(現存する症例)
生涯期待率
性差
年齢
人種
大うつ病
双極Ⅰ型障害
男1/100人
女3/100人
男2~3/100人
女5~l0/100人
男10%
女20%
女/男2:1
男1.2/100人
女1.8/100人
男女ともに1/100人
男女とも平均40歳
10%が60歳以後に発症
青年期に小さなピーク
50%が40歳以前に発症
差はない
男女とも1%
男女差なし(やや女性に
多いか)
男女とも平均30歳
差はない
NCNP
大うつ病
社会文化的因子
家族歴
アルコール,うつ病の
家族歴
13歳未満で親を喪った
場合に危険率増加,低
社会経済層でわずか
に危険率増加
(遺伝の証拠はうつ病より
も 双極性障害で強い)
一親等血縁者で危険率約
10~13%
一卵性双生児では二卵性
よりも一致率が高い
しかし双極性障害における
危致率より低い
双極Ⅰ型障害
躁病,双極性障害の家族
歴で危険率増加
都市部と地方で差なし
高社会経済層でわずかに
危険率増加
一親等血縁者で危険率
20~25%
双極性障害の患者の50%
は親が気分障害
片親が双極性障害の子供
の危険率25%
両親が双極性障害の子供
の危険率50~75%
双極性障害の一卵性双生児
一致率は40~70%
双極性障害の二卵性双生児
一致率は20%
NCNP
120
Males N=361
Number of patients
100
Females N=537
80
60
40
20
0
under
10
15-19
25-29
35-39
45-49
55-59
65-69
Age of Onset
Age of onset:Male/female comparison
NCNP
歴史的に躁うつ病は統合失調症との
対比で、その良好な予後が強調され
てきた
しかし、
●さまざまな治療法が開発された現在
でも、反復性で極めて再発率が高く、
慢性に経過しやすい
発症年齢と躁病相出現のタイミング
●発症年齢
単極性うつ病より約10年早く、28~33歳
20代に発症のピーク(約30%)があり、中央値は
30歳で、10代・30代・40代の発症は20%前
後 (Angst,1968)
50代以降に発症することもあるが、合わせて10
%程度と少ない。90%以上が26歳までには初
発病相を持つという報告もある。
発症時の病相の極性と診断変更 (1)
多種の報告があり、躁・うつどちらでの発症が
多いかは見解が分かれる
一般的には、躁病相で発症するよりもうつ病相
で発症となることが多く(女性75%、男性67%)、
数回のうつ病相の再発後に躁病相が出現する
という経過が目立つようである
発症時の病相の極性と診断変更 (2)
●発症時は単極性うつ病と診断されたものの
5~20%が経過中に双極性を示す
●Akiskalによれば、単極性大うつ病と診断さ
れた患者のうち、11年後には8.6%が双極Ⅱ
型に、3.9%が双極Ⅰ型に診断変更されてお
り、多くは5年以内に変更されたという
発症時の病相の極性と診断変更 (3)
双極Ⅰ型へ移行したものの特徴として
1)発症が急性
2)重症
3)精神病症状
(Akiskal)
要約
●うつ病相の横断面のみで、将来患者が
単極性で経過するのか、双極性障害へ移行
するのかを判断するのは困難である
●単極性うつ病の鑑別診断として、
たとえ再発性うつ病であったとしても
双極性障害の可能性は絶えず念頭におく
Mood changes in bipolar I
Mood changes in bipolar Ⅱ
Mood Changes in cyclothymia
DSM-Ⅳの躁病エピソードの基準
A. 気分が異常かつ持続的に高揚し、,開放的または易怒的ないつもとは異なった期
間が,少なくとも1週間持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい)
B. 気分の障害の期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)が持続しており
(気分が単に易怒的な場合は4つ)、はっきりと認められる程度に存在している
(1) 自尊心の肥大,または誇大
(2) 睡眠欲求の減少(例えば、3時間眠っただけでよく休めたと感じる)
(3) 普段よりも多弁であるか、喋り続けようとする心迫
(4) 観念奔逸、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験
(5) 注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でない関係のない
外的刺激に転導される)
(6) 目標志向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加、
または精神運動性の焦燥
(7) まずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中すること(例えば、制御
のきかない買い漁り、性的無分別、馬鹿げた商売への投資などに専念する
こと)
C. 症状は混合性エピソードの基準を満たさない
D. 気分の障害は,職業的機能や日常の社会活動または他者との人間関係に著しい
障害を起こすほど、または自己または他者を傷つけるのを防ぐため入院が必要
であるほど重篤であるか、または精神病性の特徴が存在する
E . 症状は物質(例:乱用薬物,投薬,あるいは他の治療)の直接的な生理学的作用や
一般身体疾患(例:甲状腺機能充進症)によるものではない
注: 身体的な抗うつ治療 (例:投薬,電気けいれん療法,光療法)によって明らかに引き
起こされた躁病様のエピソードは,双極I型障害の診断に数え上げるべきではない
「DSM-Ⅳ: 精神疾患の診断・統計マニュアル」,医学書院、1996から引用.
症例 双極Ⅰ型障害(躁うつ病)
46歳の男性。大学卒業後、某金融機関に就職。営業の第一線に出るようになって数
年後に躁病相で発病。接客中に大きな声で怒鳴ったり、大言壮語するようになった。
家族もその頃から普段と様子が異なることに気づき、医者にかかるように勧めたが、
「俺を病人にする気か」と怒鳴りつけられ、仕方なくそのまま放置していた。金遣いも荒
くなり、サラ金にも手を出すようになった為、やっと家族が説得して精神科を受診。
気分は高揚しており、時に医者や看護師をからかい上機嫌でいるかと思うと、医師
が病気の説明をすると突然不機嫌になり、「俺は病気じゃない」と病気であることを
認めない。やっと説得して薬を服用する約束を取りつけて、リチウム療法を開始した。
3週間後には大分おさまり、まだ多動、多弁ではあるが、怒鳴ったり、誇大的になるこ
とはみられなくなった。 営業はストレスが大きいので、無理はしないほうが良いとの
人事部の計らいで本社の内勤に配属され、以来5年間、真面目に事務職をこなした。
この間、予防的にリチウムを規則的に服用し、通院も欠かさなかった。
5年後、その間の仕事ぶりが評価され、かつ精神的にも安定していたこともあり、再び
支店勤務を命ぜられた。ところか゜、支店に配属されて1カ月後、再び不眠が始まり、
気分の高揚、多弁、誇大的言動が出現。客に荒っぽいものの言い方をして、客からの
クレームが支店長に届いた。家人に聞いたところ、最近はリチウムの服用が不規則
になっていたらしい。
NCNP
双極Ⅰ型障害(躁うつ病)
【診断のポイント】
① うつ病の既往がある場合は比較的診断はつきやすいが、
躁病相で始まった場合は、脳の器質的疾患(脳梗塞など)、
意識障害(脳炎など)あるいは身体の病気(甲状腺機能亢
進症など)などの可能性を除外する必要がある
②何らかの体験に対する反応として一過性に躁状態になること
はまずないので、すみやかに治療の軌道に乗せるべきである
③初発の場合は別にして、それまでの経過が重要。家族あるい
は場合によっては本人にこれまでの経過を簡単な流れ図に
して整理してもらうことは診断に役立つ
NCNP
双極Ⅰ型障害(躁うつ病)
①
②
③
④
⑤
⑥
【臨床的特徴】
男女の比率はほぼ同じ
発病年齢は大うつ病よりも平均で5歳位若い(平均20歳)
神経伝達の機能障害が想定されているが、まだ原因は
明らかではない
6割方はリチウムで病相の改善が得られる
病相を繰り返すことが多いのでリチウムの予防的服用が
必要
遺伝については大うつ病と同じ
NCNP
感情障害(躁うつ病)の経験的遺伝予後(集合法)
子
24.4%
同胞
12.7%
いとこ
2.5%
おい・めい
2.4%
一般人口出現率
0.44%
注) 発端者は躁うつ病、発病危険年齢は21~50歳
(Luxenburger, 1932; 大熊)
NCNP
感情障害の双生児間の一致率
著者
(一卵性)
一致率
(二卵性)
一致率
0% (13)
相対
危険率
-
Luxenburger (1930)
75.0% ( 4)
Rosanoff (1935)
69.6
(23)
16.4
(67)
4.2
Slater (1953)
57.1
( 7)
23.5
(17)
2.4
Kallman (1954)
92.6
(27)
23.6
(55)
3.9
Allen (1974)
33.3
(15)
0
(34)
-
Bertelsen (1977)
58.3
(55)
17.3 (52)
3.4
Torgersen (1986)
37.8
(37)
12.3 (65)
3.1
McGuffin (1991)
53.2
(62)
27.8
(79)
1.9
Kendler (1993)
48.2
(56)
23.4 (128)
2.1
(Hudson J et al, 1987; 横山ら, 1996)
NCNP
The severe fluctuations of the German Romantic composer
Robert Schumann's musical productivity become strildngly appafcnt when his
musical works (identifled here by opus number) are arranged according to the
year of their composition. Schumann died in an asylum a little more than a year
after his suicide attempt in 1854.
NCNP
長期予後・治療転帰
(スライド:神庭重信, 九州大学)
「病気がかなり長く続いたり、発作の反復が頻繁だ
ったりすると精神的な変化は中間期にもはっきりと
現れてくるのが常である。著しい症状が証明されな
くても、いくらか自由闊達でなく人に頼るところがあ
り、意気銷沈した引っ込み思案の性格であり、疲れ
易く眠たがり、作業能力が低下していることがしばし
ば紛れもなく存在する」「またある患者はこれと反対
に刺激を受けやすく、自信が強く、争いを好み、落ち
着きがなく、気が立っている」
Kraepelin
社会的機能の低下は、これまでの病相数・入院回数の
多さ,経過の長さ,アルコール症の既往,精神病性の
特徴を伴う病相などと関係しているようである
残遺症状については、依存性・易怒性・情動不安定・
協調性欠如などの存在が指摘されている。パーソナリ
ティ障害の併存も多いとされるが、長期の向精神薬投
与や入院、加齢変化の影響、病相の持続している可能
性なども考えられ、一概には判断できないものの、その
存在は無視できない
Kraepelin
Tsuangによる躁うつ病100症例・35年転帰
15%が予後良好
45%は予後良好だが再発を繰返す
30%は部分寛解
10%は慢性化
●約3分の1の患者は社会的機能障害を生じ、
就労・生活に支障を来たす
●多くの患者は教育・職業・婚姻関係・対人関
係・性的活動・余暇の活動など生活の全般に
渡って障害を生じ、3分の2の患者は職業上の
地位の低下を経験し、別居・離婚など婚姻関
係の破綻も45%と高率で、対照群18%に比べ
て有意に高い
●双極性障害では自殺の危険が高く、約三
分の一の患者が自殺企図し、長期的には
10%の患者が自殺既遂するという
社会的機能障害と関連する要因
怠薬による治療中断
混合状態
rapid cyclingの存在:抗うつ薬の問題
経験した病相数の多さ
アルコール症の合併
精神病性の特徴
性別では男性
再発の時間様式:
●リチウムの予防投与で病相回復後5年以内に
70%以上の患者に再発を認め、さらに再発患者
の3分の2は複数回再発を経験していたという
Coryell(1995)
●プラセボ投与であればさら間欠期は短くなり、
双極Ⅰ型障害であれば約1.5年で約80%の患者
が再発している
●4回目の病相までは病相を重ねる毎に周期
が著明に短くなるが、その後は6~10ヶ月周期
にほぼ固定し、短縮化は緩やかになっていく、
と述べている
Goodwin
●クレペリンも「病相の期間と間歇期の期間に
は定まった関係はないようである。」としながら
も、間歇期については「はじめのうちは速やか
に、その後ゆっくりと間歇期が反復の数につれ
て短くなる。」と全体の傾向を述べている
易再発性をきたす要因
1)他の精神疾患の併存(comorbidity)
2)精神病性の特徴
3)混合状態
4)躁病の家族歴
5)間歇期の症状の有無
原因
(仮説の段階)
1) 遺伝 (遺伝病ではない)
2) 遺伝子 複数の候補遺伝子の報告あり
疾患の原因遺伝子ではなく「なりやすさ」の
遺伝子?
3) モノアミン仮説 ノルアドレナリン、セロトニン、
ドパミンなど
4) 細胞内情報伝達系 G蛋白、イノシトールリン
脂質系
5) 細胞膜・イオン輸送障害
NCNP
治療 気分安定薬(リチウム物語)
リチウムは何故効く?
リチウム物語
紀元4世紀 エフェソス水(微量のリチウム塩を含有する天然水)
不機嫌症に有効
1817年
リチウム元素の発見
1843年
膀胱結石の溶剤として使用
1859年
通風治療
1892年 Haig,1896年 Lange
周期性うつ病は尿酸排泄の増加と関連しているとの
仮説をもとにリチウムを用いた
1949年 Cade リチウムの抗躁作用を報告
リチウムの毒性から米国では1950年から1970年まで使用禁止
1960年代 デンマークのSchouの臨床研究
1970年代 日本で臨床応用始まる
1979年 躁病の治療薬、病相予防薬として認可された
NCNP
その他の気分安定薬
炭酸リチウム
カルバマゼピン
バルプロ酸ナトリウム
NCNP
「麦わら帽子をかぶった自画像」
双極性障害について、少しお解り
いただけましたか?
ご静聴ありがとうございました
1887年 ゴッホ美術館
NCNP
ダウンロード

higu_13.