突然の左下肢跛行を呈した
急性大動脈解離症例
藤澤心臓血管クリニック
小樽市立医療センター・心臓血管外科
藤澤康聡
田宮幸彦、深田穣治
大動脈解離とは
大動脈壁が中膜レベルで剥離した状態を言う。
突然発症し、内膜裂孔(エントリー)から
解離した部分に血液が流入して真腔と偽腔の
二腔構造となる。
症例: 56歳・女性、高血圧
平成24年3月26日、歩行中に
突然左下肢の脱力が出現。
同日、整形外科を受診。
腰部MRIにて軽度の腰部椎間板
ヘルニアをみとめ、通院での
牽引療法が行われた。
症例: 56歳・女性、高血圧
その数日後に胃部の痛みを自覚し、他院を受診。
GTFを施行されたが、異常所見はみられなかった。
その後も下肢症状は一向に改善せず、4月26日に
当院を初診。
症例: 56歳・女性、高血圧
当院初診時、両下肢の動脈拍動は足背まで触知
されたが、左下肢のABIが0.86と低下していた。
血管エコー検査を行ったところ、左総腸骨動脈
の狭窄と腹部大動脈内のflapをみとめた。
腹部大動脈内のflap
腹部大動脈内のflap
腹部大動脈内のflap
造影CT
遠位弓部大動脈~左総腸骨動脈の大動脈解離
造影CT
遠位弓部大動脈~左総腸骨動脈の大動脈解離
大動脈解離の分類
Stanford A型
大動脈解離が上行大動脈に及ぶ。
致死率も高く、心筋梗塞、心タンポナーデ、急性大動脈弁
弁膜症等を合併し、多くが緊急手術の対象となる。
大動脈解離の分類
Stanford B型
大動脈解離が上行大動脈に及ばないもの。
破裂所見がなく、重篤な臓器虚血を合併しない場合は
保存的治療(降圧療法)を行う。
急性大動脈解離の症状
胸痛
Stanford A
55 %
Stanford B
66 %
背部痛
40 %
80 %
腰痛
6 %
4 %
腹痛
4 %
13 %
下肢痛
4 %
2 %
意識障害
15 %
2 %
心肺停止
32 %
4 %
片麻痺
3 %
0 %
Nallamothu BK, Mehta RH, Saint S, et al. Syncope in acute aortic dissection: diagnostic, prognostic,
and clinical implications. Am J Med 2002; 113: 468-471
痛みを伴わない急性大動脈解離
painless acute aortic dissection
(painless AAD)
解離を発症しても胸背部痛を伴わないことがある
⇒ 大動脈解離全体の 6.4%
その場合、失神や心不全、脳梗塞を伴っているケース
が大半である。
⇒ 失神:33.9%、心不全:19.7%、脳梗塞:11.3%
Park SW, Hutchison S, Mehta RH, et al.. Association of painless acute aortic
dissection with increased mortality. Mayo Clin Proc 2004; 79: 1252-1257.
painless acute AAD
痛みを有する急性大動脈解離(painful AAD)に比して、
painless AADはin-hospital mortalityが高い。
In-hospital mortality
painless AAD
33.3 %
painful AAD
23.2 %
n=977
p=.05
Park SW, Hutchison S, Mehta RH, et al.. Association of painless acute aortic
dissection with increased mortality. Mayo Clin Proc 2004; 79: 1252-1257.
painless acute AAD(Type B DAA)
painless AADにおいては、A型大動脈解離よりも
B型大動脈解離のin-hospital mortalityが高い。
In-hospital mortality with Type B AAD
painless AAD
43.8 %
painful AAD
10.1 %
P<.001
Park SW, Hutchison S, Mehta RH, et al.. Association of painless acute aortic
dissection with increased mortality. Mayo Clin Proc 2004; 79: 1252-1257.
総括①
急性大動脈解離は、胸背部痛によって発症し救急
搬送される場合が多い。
特にB型大動脈解離では、ほとんどの症例で激烈
な胸背部痛や腹痛を呈する。
今回の症例のように、跛行のみを初発症状とする
急性大動脈解離は極めて稀である。
総括②
痛みを伴わない急性大動脈解離(painless AAD)が、
大動脈解離全体の6.4%に存在する。
しかし、painless AADの中でも、B型大動脈解離
では診断の遅れから死亡率が高くなる傾向があり、
なるべく早い段階での診断と降圧療法開始が重要
である。
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painless AADはin-hospital mortalityが高い。