改正鉱業法について
資源エネルギー庁 資源・燃料部
世界的なエネルギー需要の高まりにより、特に今後、
中国・インド等の新興国を中心にエネルギー需要は更
に拡大する見通しであり、2030 年には中国のエネルギ
ー需要は、現在の約 1.9 倍、インドは約 2.2 倍にまで増
大するとされると見込まれており、世界全体のエネル
ギー需要は、現在の約 1.4 倍に増加すると見通されて
いる。
こうした中、需要の増大に加えて金融市場からの資
金流入などにより資源価格が乱高下する等、安定的な
資源の供給に対する要請は非常に強いものとなってい
る状況にある。
また、新興国等の資源会社は、需要増などを背景に
資源確保を進めていく一方で、資源ナショナリズムの高
まりをうけ、国際的な資源獲得競争はますます激化する
など資源確保を巡る状況は年々厳しさを増している。
(1)石油・天然ガス
産油国の国営石油会社
(NOC:National Oil Company)
が世界全体の8割程度の石油資源を保有している。例
えば、世界最大の産油国であるサウジアラビアでは、
今後も外資への利権開放の可能性は低いほか、外資に
利権が開放されている国についても、地政
表1. 世界の保有石油埋蔵量
学的リスクの存在に加え(イラク、アフリ
カ諸国等)
、資源ナショナリズムが高揚す
1 サウジアラムコ
サウジアラビア
る(ロシア、ベネズエラ等)等、権益獲得
は非常に困難な状況にある。このため、限
2 NIOC
イラン
られたパイを奪い合う形で、国際的な石油・
3 INOC
イラク
天然ガス資源の獲得競争はますます激化し
4 KPC
クウェート
ており、特に、中国等の新興国はバーゲニ
5 PDVSA
ベネズエラ
ングパワーや資金力等を背景に攻勢を続け
6 ADNOC
UAE
ている。
7 Libya NOC
リビア
(2)非鉄金属資源
非鉄金属資源の生産は、少数の資源国に
集中しており、特にレアアース(中国)
、
タングステン(中国)
、白金(南アフリカ)
等は、一国による寡占状態にある。近年の
資源ナショナリズムの高揚の中、資源国は
輸出規制を行うとともに、自国への技術移
転を要求するツールとして活用するといっ
た動きが見られる。新興諸国は、資源国と
の資源外交やインフラ投資を積極的に実施
保有石油埋蔵量
(単位:百万バレル)
264,200
138,400
115,000
101,500
99,377
52,800
30,700
8 CNPC
中国
22,447
9 NNPC
ナイジェリア
21,700
10 Rosneft
ロシア
17,513
14 Exxon Mobile
米
11,074
16 BP
英
10,073
21 Chevron
米
7,523
25 Total
仏
5,778
26 Shell
英・蘭
4,887
(出典:Petroleum Intelligence Weekly, Ranking the World' s Oil Company)
2012.1 金属資源レポート
63
(467)
改正鉱業法について
し、資源権益の獲得を活発に推進している。
また、世界的な資源需要の増大、資金の流動化など
を背景に、資源分野への投資資金の流入が増大してい
る。
こうした中、これまで、資源が賦存する可能性が相
対的に低いと思われてきた我が国も、今後、資源開発
が大きく進展する可能性が生じており、適切な主体に
よる適正な資源開発が確保されることが必要となって
いる。
しかしながら、このように我が国の資源開発を巡る
内外環境が大きく変化する中で、戦後まもなくの 1950
年に制定された現行の鉱業法制は、能力に欠ける者な
ど、適切でない主体の鉱区設定や出願が存在すること
や、無秩序な資源探査活動が行われるなど、必ずしも、
我が国の資源開発を巡る国内外の新たな動きに対応で
きる制度となっていない状況となっていた。
また、資源開発に関する技術開発の進展に伴い、こ
れまで開発が困難であった資源の開発が可能な状況と
なっている。我が国においても、資源探査船「資源」
による石油・天然ガスの賦存を確認することなど、そ
のポテンシャルの評価の見直しが進められるとともに、
メタンハイドレートや海底熱水鉱床、コバルトリッチ
1. 鉱業法見直しの背景
特集・連載
経済産業省
特集・連載
クラストなどの非在来型の資源の開発可能性が高まっ
ている。
このため、我が国の資源開発を巡る厳しい内外環境
を踏まえ、国内資源を適正に維持・管理しつつ、適切
な主体による適正な開発が行われることが制度的に担
保されるよう、61 年ぶりに鉱業法を改正することとし
た。
2. 改正前鉱業法の問題点
改正鉱業法について
改正前鉱業法は、制定(1950 年;昭和 25 年)以来、
本格的な改正がなされておらず、開発能力に欠ける者
による鉱業権設定や具体的な開発計画のない者からの
大量出願などが行われており、適切な主体により適正
に資源開発が行われることを確保するため、以下の点
に関して改正するため、検討を行った。
石油・天然ガス等の国民経済上重要な鉱物について
は、それらを適正に管理しつつ、適切な主体による適
正な開発を進めるため、見直しが必要である。
(3)資源探査規制について
物理探査等の資源探査は、鉱業権(試掘権・採掘権)
の設定に不可欠な開発準備行為であるものの、現行鉱
業法では一切規制が行われていない。国内資源を適正
に管理しつつ、適切な主体による適正な開発を進める
ため、規制の導入が必要である。
(注)物理探査とは、地下の物理的特性を測定すること
により、地質構造や資源の存在を把握するものであ
り、代表的な手法としては、石油・天然ガス探鉱で
主に用いられる地震探査などがある。
3. 主たる鉱業法の改正点
(1)許可要件の在り方
改正前鉱業法では、出願された鉱区が重複する場合
など一定の不許可要件は規定されているが、開発主体
の適格性に係る規定や、どのような場合に許可を行う
かという許可要件の規定が存在しなかった。
国内資源を適正に管理しつつ、適切な主体による適
正な開発を進めるため、こうした開発主体を選ぶこと
ができる適切な許可要件を設定することが必要である。
(2)先願主義について
資源探査
(物理探査)
人工的に発生させた物理現象
(人工
地震、
電磁等)
や、
天然の物理現象
(磁力等)
を通じて、
高精度の地下情
報を取得し、
取得データを処理・解
析。
鉱業法で未規制
前述した改正前鉱業法の抱える問題点を解決するた
め、改正鉱業法では、以下のような制度の導入を行った。
(1)鉱業権の設定等に係る許可基準の追加
適切な主体により合理的な資源開発が行われるよう、
鉱業権の設定等における許可基準に、技術的能力及び
経理的基礎を有する者であることや、鉱業権の設定を
受けようとする者が実施する鉱業が公共の利益の増進
に支障を及ぼす恐れがないこと等を新たに許可の要件
として定めることとした。具体的には以下のとおり。
(a)出願に係る鉱業の実施を適確に遂行するに足る
試錐
(ボーリング調査)
地下の油ガスや岩石を直接採取・検
討することにより、鉱床の有無、規模
形態、品位を明らかにする。
鉱床の評価
→開発準備
→開発へ移行
3D物理探査や試錐(ボーリング調
査)から得られたデータから鉱床の
規模、品位、形状を確定し、開発の
可能性を技術的、経済的側面から
評価。
鉱業法で規制
※なお、資源探査の前には、人工衛星や航空機を利用して地質情報を得るリモートセンシング調査や目視等による事前調査が行われる
ことがあり、鉱業法で未規制だが、規制を導入する必要性に乏しいと考えられる。
図1. 旧鉱業法における資源探査の扱いについて
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2012.1 金属資源レポート
(468)
当該期間内になされた出願が1件のみの場合には、
許可の基準に基づき鉱業権を賦与すべきか否かを審査
し、これが複数の場合には、許可の基準を満たす者の
中から、各者が提出した事業計画等を審査した上で、
当該鉱物の開発を最も適切に行うと認められる者に鉱
業権を賦与することとする。
資源探査(物理探査)や試掘を実施した実績のある
事業者については、当該鉱区候補地に係る開発主体の
審査・選定プロセスにおいて、その実績や内容が適切
に評価されるような制度とする。
【鉱業権の設定に係る許可プロセスのイメージ】
企業からの
鉱区候補地の申出
国による
鉱区候補地の審査
経済性、技術面等から
開発可能性が低い場合
鉱区の候補地として指定し
ない
国による
鉱区候補地の指定
一定期間の間、鉱業権申請を受付
事業計画等から最も適切な
主体に対し、鉱業権を賦与
施業案の審査
開発の実施
※鉱区設定の面積や期限、
作業内容などについて、
開発の検討が行いやす
くなるような緩和も検討
図2. 鉱業権の設定に係る許可プロセス
(3)鉱物の探査に係る許可制度の創設
①鉱物の探査の許可制度
鉱物の探査(鉱物資源の開発に必要な地質構造等の
調査のうち鉱物の掘採を伴わないものであって、一定
の区域を占有して行うもの)を行う者に対して、以下
のとおり、規制を導入することとした。
(a)資源探査を行う者は、事前に許可を受けなけれ
ばならないこととする。
(b)許可の対象としては、資源探査と科学的調査の
行為形態の類似性に留意しつつ、国内資源の適正
な管理・開発の観点から必要な範囲を規定するこ
ととし、資源探査規制の実効性を担保するため、
その行為目的(行為者の主観)にかかわらず、外
形上、一定の行為を行う者を許可にかからしめる
ものとする。具体的には、地震探鉱法、海域で行
う電磁法、集中的サンプリング探査法を対象とす
ることとしている。
(c)資源探査を許可する場合の要件は、探査を的確
に遂行できる実施体制や実施計画となっているこ
と等とする。
(d)適切な事業者による健全な資源探査活動が徒ら
に妨げられることのないよう、その手続負担を極
力軽減する観点から、可能な限り、簡素な手続とし、
迅速に許可手続を行うものとする。
(e)規制の実効性を確保する観点から、報告徴収・
立入検査、中止命令、検査忌避等に対する罰則等
を措置する。
②事業者が取得した探査データの取扱い
事業者が資源探査により取得した探査データについ
ては、経済産業大臣が、鉱物の存在状況を把握し、又
は探査の適正な実施を確保するために必要があると認
めるときは、資源探査を行った者に対して、探査デー
タの提出を法律上命ずることができることとする。
(注)国は、事業者から提出された探査データについて、
当該データが事業者にもたらす経済的価値、事業者
の競争上の地位への影響等を踏まえ、原則として非
公開とするなど、慎重に取り扱うものとする。
4. 鉱業法公布までの経緯と施行について
「鉱業法の一部を改正する等の法律」は以下のとおり
の日程で、公布された。
・2011 年3月 11 日 閣議決定
・2011 年4月5日 国会提出
・2011 年7月 22 日 公布
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改正鉱業法について
(2)鉱業権設定に係る新たな手続制度の創設
石油等の国民経済上特に重要であり、その安定的な
供給の確保が特に必要な鉱物(特定鉱物)については
先願主義を見直し、国が、鉱物資源の開発を行うこと
が適切かつ有効な区域(鉱物が賦存する可能性が高く、
試掘権又は採掘権の設定に適すると認められる区域)
を鉱区の候補地として指定し、当該区域を公示した上
で、一定の期間、出願者を募る制度とする。
(注)特定鉱物以外の鉱物については、先願主義を基本
とするこれまでの制度を引き続き維持する。
また、先願主義の見直しに伴って、特定鉱物に係る
租鉱権の取扱については、国が最も適切な主体に鉱業
権の設定を許可する体系に変更することを踏まえ、新
たな制度に基づき特定鉱物に係る鉱業権の設定を受け
た者については、租鉱権を設定できないこととする。
特集・連載
技術的能力があること。
(b)出願に係る鉱業の実施を適確に遂行するに足る
経理的基礎があること。
(c)内外の開発の実績に照らし、十分な社会的信用
を有すること。
(d)内外の社会的経済的事情に照らして著しく不適
切であり、公共の利益の増進に支障を及ぼす恐れ
があるものではないこと。
(e)出願に係る鉱業出願地における鉱物の掘採が、
経済的に価値があり、かつ、保健衛生上害があり、
その他の産業の利益を損じる等、公共の福祉に反
するものではないこと。
これを踏まえ、2012 年1月 21 日に新しい鉱業法を
施行した。
5. おわりに
特集・連載
改正鉱業法について
鉱業法制は、本来、我が国における鉱物資源の開発
をどのように行うかを定めるものであるが、その本質
は、単に鉱業という個別分野における法制度というこ
とにとどまらず、我が国のかけがえのない国土を誰が
どのように開発するかという意味において、国家の在
り方そのものを形づくる礎となる法制度である。この
ため、その在り方を見定めるためには、単に制度論と
して鉱業法制をどうすべきか、という視点を越えて、
この国の在り方そのものをどのように考えるかという
視点を持つことが必要となる。
この点は、明治維新以降、殖産興業期を経て、戦後
の高度経済成長期に至るまで、国内における銅鉱山や
石炭鉱山の開発とそこから生まれる富が我が国の社会
経済の重要な部分を占めることが、強く意識されてい
た。その証左に、当時は、鉱業法制を巡る事案につい
て大審院や最高裁の判決がたびたび出されるとともに、
美濃部達吉、我妻栄といった著名な学者も含め、鉱業
法制が学術界でも盛んに論じられていた。
しかし、その後、国内鉱山の開発が経済性に見合わ
なくなり、企業が資源確保を海外に求め、国内の銅鉱
山や石炭鉱山が相次いで閉山していく中で、同時に、
鉱業法制そのものに対する社会一般的な関心や認識も
薄れていった。このため、長い間、この国家の基礎を
なす法制度の在り方が本格的に論じられることがなく
66
2012.1 金属資源レポート
(470)
なっていった。
その間、我が国も、我が国を巡る国際情勢も、大き
く変革した。我が国は、右肩上がりの高度成長期から、
低成長と人口減少・少子化の成熟期に至った。他方、
中国、インド等をはじめとする新興国が台頭し、その
資源需要が急激に増加する中で、国際的な資源獲得競
争は激しさを増している。また、経済活動や資金移動
がグローバル化し、国際メジャーや新興国の資源開発
企業のみならず、多様な主体が世界各地での資源開発
に関わりを持つ状況となっている。こうした中、日本
が置かれた北東アジア地域を含め、資源を巡る国際関
係は緊張感を増している。
また、我が国の周辺海域において、従来の石油・天
然ガスに加え、今後、メタンハイドレート、海底熱水
鉱床、コバルトリッチクラストといった新たな資源の
具体的な開発の可能性が高まることが期待されるなど、
海洋資源開発を巡るフロンティアは広がりを見せてい
る。
こうした状況を踏まえ、我が国においても、鉱業法
の制定以来、数十年の時を経て、資源を巡る新たな時
代とパラダイムに見合った鉱業法制が求められている。
このため、今般の鉱業法の改正は、我が国が置かれた
厳しい国際環境やこの国の在り方を強く意識しつつ行
われた。
本改正鉱業法が、資源を巡る厳しい国際環境の中で、
我が国の資源開発の新たなフロンティアを切り拓く礎
となることを切に期待している。
(2012.1.23)
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