数学における学ぶ意欲の育成とその指導方法の研究
―小・中・高での算数・数学教育を通して―
高知県立高知西高等学校
教諭 川久保広臣
教育課程実施状況調査や TIMSS、PISA 調査の結果からも明らかになっているように、高等学校数学
に対する苦手意識やそれを嫌いと感じる生徒の割合が多い。興味・関心をもって数学を楽しく学ぶ生
徒を育成することは重要な課題であると考えられる。そこで本研究では学ぶ意欲の育成を図るために
小・中・高等学校における領域別系統表を作成し、児童・生徒のつまずきを把握した。児童・生徒の
つまずき度合いは、主に教育課程実施状況調査における問題の通過率をもとにした。また、学齢が上
がるにつれて算数・数学嫌いが増える背景も踏まえて分析したうえで、学習意欲の動機付けを多方面
から捉えなおし、学ぶ意欲の育成とその具体的な指導方法について考察した。
キーワード:数学Ⅰ、領域別系統表、つまずき、学習意欲、基礎に降りていく学び
1
はじめに
昨今、基礎学力の定着と学力の向上が言われる中、高等学校数学において苦手意識や嫌いと感じる
生徒の割合が多い傾向にある(*1)。その主な原因の一つに数学を学ぶ意欲の低下があるとされている。
学習意欲を向上させる取組については、下田や瀬沼などの先行研究があり(*2)、学習意欲の向上が基礎
学力の定着と学力の向上につながっていることが明らかにされている。そこで、本研究は、学ぶ意欲
の育成を図るために児童・生徒のつまずきを把握し、学習意欲の動機付けを多方面から捉えなおすこ
とで数学の学習意欲を高める指導方法について考察する。
2
研究目的
本研究では、高等学校数学における学習意欲に対する問題点や課題を明らかにし、その具体的な解
決策を提案したい。そのためには、まず小・中・高等学校と学齢が進むにつれて算数・数学好きの割
合が低下していく原因を明らかにする必要があると考えられる。そこで、算数・数学教育において小・
中・高等学校を通して系統的に取り組まれている学習内容と児童・生徒のつまずきの過程を把握する
ことを第1の研究目的とした。また、算数・数学好きの割合が高等学校よりも高い小・中学校での取
組に知的欲求(知的好奇心)を満足させる手立てがあると考え、次のような仮説を立て、高等学校数学
の中でも特に数学Ⅰにおける「図形と計量」領域の「三角比」について具体的な指導方法を提案しよ
うとするものである。
仮説
算数・数学教育において、小・中・高等学校を通して系統的に取り組まれている学習内容
を把握し、高等学校の指導方法に繋げていく中で、知的欲求(知的好奇心)を満足させる
授業展開が学ぶ意欲の向上に繋がるであろう。
*1 国立教育政策研究所「平成 14 年度教育課程実施状況調査(高等学校)質問紙調査集計結果」,
国立教育政策研究所「平成 17 年度教育課程実施状況調査(高等学校)質問紙調査集計結果」より
*2 下田好行「学習意欲向上のための総合的戦略に関する研究 -『知を活用する力』の視点を利用して学習意欲を喚起する-」,
瀬沼花子「小学校から高等学校までの算数・数学の成績や態度等の経年変化」,
吉川孝昭・植木淳 他「数学の理解と定着を図るための教材開発と授業実践」,
千北昌子・岡孝一郎
他「基礎・基本の定着を図る算数・数学科指導」より
-1-
3
研究内容
(1) 高等学校の現状
70%
平成 14 年に実施された教育課程実施状況調査
によると、
「数学が好きか」という問いに対して、
高等学校3年生は 37.3%が肯定回答をし、調査し
た学年の中で最も低くなっている。
平成 17 年の同
算数・数学は好きか?
60%
小・中H13,高H14
小・中H15,高H17
50%
40%
調査でも、
38.9%の肯定回答しか得られておらず、 30%
他の教科と比べて最低の結果になっている。(図
20%
1)
10%
0%
また、同調査の算数・数学における通過率と設
定通過率を比較してみると、高等学校での落ち込
小5
小6
中1
中2
中3
高3
国立教育政策研究所「教育課程実施状況調査」(平成15年小・中学校,平成17年高等学校)
みが著しい。その中でも、数学Ⅰの各領域におい
図1
て、設定通過率と通過率との比較を見ると、全ての領域で通過率が設定通過率を下回っている。特
に「図形と計量」の領域では生徒のつまずきが大きく、図形領域における授業改善は喫緊の課題と
なっている。(図2・3)
100%
設定通過率を有意に上まわる、
及び同等な問題の割合
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
同等
80%
上まわる
60%
40%
20%
方程式と
不等式
0%
小5
小6
中1
中2
中3
各領域における
設定通過率と通過率の比較
高3
国立教育政策研究所「教育課程実施状況調査」(平成15年小・中学校,平成17年高等学校)
2次関数
通過率
設定通過率
図形と
計量
国立教育政策研究所「教育課程実施状況調査」(平成17年高等学校)
図2
図3
(2) 高等学校数学における問題点
平成 17 年に実施された高等学校教育課程実
施状況調査によると、数学の勉強に対する質問
項目について、
「数学の勉強は大切」だと思って
いる割合は多いが、数学の勉強が「日常生活で
役に立つ」、あるいは「論理的に考えれるように
なる」と思っている割合は少ないことが窺われ
る。数学の勉強が大切であることは分かってい
るが、社会で役に立たない勉強をさせられてい
るという生徒の意識が如実に現れていると考え
数学の勉強に対する質問項目
勉強は大切
質問2-2
入試や就職
試験で役に
質問2-4
立つ
37.8%
31.4%
日常生活で
質問2-6 10.1%
役に立つ
論理的に考
えれるよう
質問2-7 10.2%
になる
そう思う
られる。(図4)
21.2%
27.8%
19.9%
やや思う
18.4%
16.8%
20.8% 13.2%
27.7%
24.8%
29.1%
23.3%
やや思わない
33.5%
そう思わない
国立教育政策研究所「教育課程実施状況調査」(平成17年高等学校)
また、同調査の各領域の理解度をグラフ化し
図4
たところ、
「図形と計量」が他の領域に比べて低いことが明らかになった。同様に、教師への質問「各
領域が生徒にとって理解し易いか」では、⑧と⑩の項目において生徒と教師との間に大きな意識の
ズレが生じている。この意識のズレも生徒のつまずきを大きくし、学習意欲を低下させている原因
の1つであると考えられる。(図5・6)
-2-
よく分かったか(生徒)
①実数の性質
47.0%
②展開・因数分解
③1次不等式
肯定
25.9%
17.2%
59.4%
42.4%
④2次方程式
51.3%
生徒にとって理解し易いか(教師)
否定
①実数の性質
74.0%
②展開・因数分解
72.9%
③1次不等式
30.4%
33.1%
39.1%
⑤2次関数のグラフ
⑥2次関数の最大・最小
34.2%
37.6%
⑥2次関数の最大・最小
⑧三角比・相互関係
⑨正弦定理・余弦定理
⑩球の表面積・体積
26.5%
32.8%
29.3%
24.1%
36.5%
10.4%
⑧三角比・相互関係
37.8%
16.7%
⑩球の表面積・体積
45.9%
国立教育政策研究所「教育課程実施状況調査」(平成17年高等学校)
50.6%
75.1%
43.1%
⑨正弦定理・余弦定理
42.2%
8.9%
39.7%
26.4%
⑦2次関数・不等式
43.4%
10.5%
21.1%
71.2%
⑤2次関数のグラフ
⑦2次関数・不等式
否定
10.3%
61.5%
④2次方程式
22.5%
肯定
28.0%
62.2%
36.5%
33.4%
国立教育政策研究所「教育課程実施状況調査」(平成17年高等学校)
図5
図6
(3) 領域別系統表の作成
高等学校数学になるとなぜ数学嫌いが増えるのか、なぜ通過率が低下するのか、またその中でも
「図形と計量」の領域でなぜ大きくつまずいているのか。これらの背景を探求するために、小・中・
高等学校における領域別系統表を作成してみたが、
「図形と計量」の領域において、他の領域よりも
学力や学習意欲が低下している原因を見つけるに至らなかったため、自作の領域別系統表を更に改
善した。
新しく作成した図形領域における系統表では、平面図形と立体図形の項目に分けて考えることに
した。更にそれぞれを直線群と曲線群に分け、学年別に系統化することで、現在の課題が浮き彫り
になってきた。平成 18 年2月に出された中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「教育内
容等の改善の方向」でも「小・中・高等学校を通じての内容面・能力面での系統性を重視する必要
がある」と述べられているが、この図形領域における系統表を見ると、系統的な取組ができている
のは平面図形の直線群のみである。それ以外の項目においては、発達や学年の段階に応じた反復を
通して確実に定着させることができるよう、教育内容の工夫を行うことが必要であることが明らか
となった。
(資料1参照)
(4) 学習意欲の動機付け
学習意欲を向上させるためには、前項でも述べた系統的な取組ができていない領域と、その内容
を把握する必要がある。そのうえで、高等学校の授業において具体的にどうすれば生徒の意識を改
善し、知的欲求(知的好奇心)を満足させることができるのかを明らかにするために、改めて学習
意欲について以下にまとめた。
ア 学習意欲の相対的強さの変化(新井,1995)
新井は大きく4つに分類した学習意欲の相対
学習意欲の相対的強さの変化
規範意識
的強さの変化をグラフで表すことに成功してい
自己目標実現
る。
(図7)
新井によると、純粋な内発的学習意欲(そのも
内発的動機
の自体の面白さによる動機付け)は学齢ととも
に緩やかに減少し、逆に第2の内発的学習意欲
とも言える自己目標実現のための学習意欲(就
賞罰
職や進学のために役立つから、或いは大人にな
って役に立つからといった動機付け)は、
ある時
期を境に急激に増加し始めることが確認されて
低学年
中学年
高学年
1年 2年 3年
新井邦二郎 「やる気はどこから生まれるか」学習意欲の心理 児童心理,2月号臨時増刊,3‐11
図7
いる。また、外発的動機付けとして捉えられている賞罰(周りから褒められたい、叱られたくな
-3-
い、ご褒美があるからといった動機付け)や規範意識(周りの期待に応えたい、良く思われたい、
馬鹿にされたくないからといった動機付け)も減少していくが、これらが全く機能しないという
ことではない。数学に対していわゆる学習性無気力に陥っている生徒にとって、唐突に内発的動
機付けを求めることは無謀であり、個に応じた対応の必要性も提言されている。ただ、一般的傾
向として、高等学校数学においては自己目標実現に即した指導方法を取り入れることが最も意欲
を高める手段として有効であると考えられる。
イ 社会化された内発的学習意欲(桜井,1997)
桜井は、新井と同じく学習意欲の相対的強さの変化について、内発的動機付けと自己目標実現
が中学生の頃を境に逆転することを述べている。しかし、自己目標実現のための学習意欲とは、
目標性の観点から考えると外発的学習意欲に分類されるとしながらも、広い意味での自発性がそ
こに認められるならば、内発的と言って差し支えないとし、「社会化された内発的学習意欲」と
呼ぶことができるとしている。ここで言う「社会化された内発的学習意欲」とは、どのような職
業に就きたいのかという狭い意味だけでなく、自分がどのような人生を送りたいのかという、い
わゆる生き方そのものを問うようになる過程で生まれてくる意欲であるとしている。
本研究においても、自己目標実現のための学習意欲を「社会化された内発的学習意欲」として
捉えることとした。なぜならば、自分が入学したい大学とは関係なく、また自分が就きたい職業
と無関係であったとしても、自分の人生を豊かにするために有益である学習(実生活、或いは社
会生活で役に立つ学習)が社会化された内発的学習意欲であり、それこそが自己の目標を実現す
るための学習意欲であると考えられるからである。
ウ 「基礎から積み上げる学び」と「基礎に降りていく学び」(市川,2001)
「基礎から積み上げる学び」とは、従来から行
該当の分野が役に立つと思うか
肯定
われてきた教育方法で、大学などに親学問と言
①実数の性質
われるものがあり、それを目指して小・中・高
②展開・因数分解
9.9%
等学校と積み上げていく学習過程のことである。
③1次不等式
11.3%
55.1%
④2次方程式
9.5%
56.4%
⑤2次関数のグラフ
7.0%
この学びのシステムが、無駄のない効率的な学
習体系であり、今後の教育においても重要な学
46.4%
20.2%
56.9%
60.2%
⑥2次関数の最大・最小 7.2%
59.7%
びであることは市川も述べているが、生徒にと
⑦2次関数・不等式
5.7%
60.4%
って習った内容が役に立ったと思えるまでの時
⑧三角比・相互関係
11.4%
間的隔たりが非常に大きいことが、数学は役に
⑨正弦定理・余弦定理
8.4%
⑩球の表面積・体積
15.4%
立たないと思わせる要因になっていると考えら
否定
55.3%
58.6%
51.0%
国立教育政策研究所「教育課程実施状況調査」(平成17年高等学校)
れる。(図8)
図8
また「基礎に降りていく学び」とは、いずれ役に立つからという理由で「基礎から積み上げる学
び」のみを重視するのではなく、学ぶということの実質的な意味付けや意義が分かるような学習
を取り入れていく過程のことであり、より実践性や重要性を重視し、何のために学んでいるのか
を明確にしようとする考え方である。ただし、「基礎から積み上げる学び」を軽んじているわけ
ではない。市川も「基礎から積み上げる学び」の無駄のない体系や、基礎から積み上げていくこ
との重要性について触れながら、その比重をもう少し「基礎へ降りていく学び」へ移行するべき
であることを述べている。
市川は、この手法を有効に活用するための手段として、総合的な学習の時間を念頭において提
案しているが、本研究ではこの学び方を多くの生徒にとってつまずきが最も大きく、意欲的に取
り組めていない「図形と計量」の領域の三角比の単元で活用することとする。
(5) 学習指導方法
ア
具体的な取組
-4-
前項で述べたような学習意欲の動機付けにおける先行研究により、本研究では自己目標実現に
即した発問や問題提示を通して具体的な指導方法を提示する。実際に多くの教科書には、こうい
った自己目標実現に即した問題(実生活で活用できる問題や社会で活用されている問題)が発展
的課題として単元の終わりに掲載されている。しかし、それらの問題にただ取り組むだけでは学
習意欲を向上させるに至らない現状がある。そこで「基礎に降りていく学び」の考え方に従い、
発展的課題を基礎的課題に先行して取り扱うこととする。これにより、発展的課題の有用性の認
識と同時に基礎の必要性にも繋げていくことで、学習意欲の育成を図ることができると考えられ
る。
ただし、ここで取り扱う「基礎に降りていく学び」では、基礎の重要性の認識と学習意欲の育
成のために扱うものであり、発展的課題の内容を十分に理解することを目的とするものではない。
つまり、基礎の重要性を認識し、基礎的学習が十分に身に付いてから再度発展的課題を取り組む
ことになるため、必然的に単元内での反復も有効に機能すると考えられる。
イ
学習指導方法の実際
(ア) 単元全体の構成
三角比の単元における直角三角形を除く三角形の面積を求める学習では、面積公式自体それ
程難しくはないが、出題のされ方が様々で、正弦定理や余弦定理を用いた応用問題も含まれて
いる。そのため、従来の教科書では単元の最後で扱われる内容となる。しかし、三角形の面積
問題は小学校から長く慣れ親しんでおり、小・中学校においての定着率も高いことが平成 15
年度に実施された小・中学校教育課程実施状況調査から明らかとなっている。また、公式自体
も既習の面積公式と非常に似ていることから、単元の導入時に取り入れることで学習意欲の向
上を図ることができると考えた。
また、既習の面積公式と微妙に違う部分である sin という記号の意味に興味・関心をもつこ
とで、他の cos や tan の記号の意味にも学習意欲が波及していくと考えられる。そこで、
「面積
公式の仕組みを考えること」を発展的導入として取り扱い、そこから降りてくる基礎として「三
角比の定義」を取り扱うよう組み立てた。(表1)
表1
教科書における授業進行
提案しようとする授業進行
①
三角比の定義
⑤
三角形の面積(その1)
②
三角比の相互関係
①
三角比の定義
③
三角比の拡張
③
三角比の拡張
④
正弦定理・余弦定理
②
三角比の相互関係
⑤
三角形の面積
④
正弦定理・余弦定理
⑤
三角形の面積(その2)
また、平成 17 年に実施された高等学校教育課程実施状況調査において、
「三角比については、
その記号の意味を理解させ定着させることが重要であるが、三角比の記号の意味を理解しても
鈍角の三角比の意味が理解できず、その後の学習が困難になる生徒もいると思われる。」との指
摘があるが、本研究で提唱する学習指導方法により、こういった指摘を解決することができる
と考えられる。つまり、先行して鋭角三角形の面積問題を扱うことにより、必然的に鈍角三角
形の場合の面積の求め方に疑問が出てくる。これに応じて三角比の相互関係よりも先に三角比
の拡張を取り扱うことで、三角比における鈍角の必要性とその有用性を実感できると考えられ
る。
(イ) 1授業あたりの構成
単元全体を見たとき、授業の流れは「基礎から積み上げる学び」と「基礎に降りていく学び」
-5-
を融合させたものになっている。すなわち、ある場面では発展的課題に取り組み、ある場面で
は基礎・基本の重要性を認識したうえで、基礎・基本の学習へと移行する。また、その逆もあ
り得る。仮に、この授業の流れが1授業ごとに発展と基礎に分割されているものであるならば、
学習意欲の高まりはあまり期待できない。前項でも述べたように、生徒が発展的課題の有用性
と基礎・基本の必要性を認識しながらも、それら
三角形の面積
よって、本研究で述べる指導方法を実施するに
三角比の拡張
るからである。
三角比の定義
果的に学習意欲を大きく削いでしまうと考えられ
単元全体の構成
三角形の面積
の学習をその後の授業に先延ばしすることは、結
あたっては、
発展的課題に取り組む1授業の中に、
必ず「降りてくる基礎」を盛り込み、その必要性
1授業あたりの構成
三角比の拡張
三角形の面積
三角形の面積
らのことから、発展・基礎・発展を1つのセット
三角比の定義
用性を体感できる場も設定する必要がある。これ
1授業あたりの構成
三角形の面積
をその場で実感させるとともに、発展的課題の有
とした授業を構成していくことによって、学習意
欲を育成することができると考えられる。(図9)
図9
もちろん、これらの手法は三角比の単元に限られたことではない。
「方程式と不等式」や「2
次関数」の単元でも可能であろうし、市川が提言しているように総合的な学習の時間において、
単元を跨ぐような形での実施も可能であろう。また、小・中学校においても十分に活用できる
と考えられる。しかし、いずれにせよ、基礎に降りてくるべき発展的課題が生徒にとって理解
し難い内容であれば、学習意欲が高まり育成されるとは考え難い。領域別系統表から明らかと
なった系統的に取り組めていない領域と目の前の生徒とを見合わせ、十分に吟味したうえで何
を発展的課題として扱うのかを綿密に計画する必要がある。
4
成果と課題
(1) 成果
本研究では、教育課程実施状況調査の結果や領域別系統表の考察から現在の算数・数学における
課題を明らかとし、その具体的な改善策を考察してきた。特に系統的な反復を念頭に置いたとき、
苦手意識を強く持っている領域であるほど系統的な取組をするための工夫が今後さらに必要であり、
その視覚的支援として領域別系統表が有効に活用できると考えられる。
(2) 課題
本研究で作成してきた領域別系統表は、全て教育課程上の領域別系統表であり、小・中・高等学
校における学習指導上の相違を示すような領域別系統表とはなっていない。今後、学習指導要領が
改訂され、大幅に学習内容が下学年へ移行することが予想される。本研究で作成した領域別系統表
の早急な手直しが必要であると同時に、学年や校種ごとに相違のある学習指導の方法を領域別に系
統化することは、小・中・高等学校における橋渡し的存在として重要な役割を果たすと考えられる。
今後の課題として取り組んでいきたい。
また、本研究の仮説として、
「知的欲求(知的好奇心)を満足させる授業展開が学ぶ意欲の向上に繋
がる」としたが、高等学校において学ぶ意欲の向上は内発的学習意欲のみで十分に図ることができ
ないことが明らかとなった。しかし、先にも述べたとおり内発的学習意欲は高等学校においても必
要不可欠な学習の動機付けである。そこで、学ぶ意欲の育成を効果的に図るために提案した学習指
導法が「基礎に降りていく学び」であるが、その有効性を実証するためには少なくとも単元全体で
の長期的な経過を見る必要があったため、授業の検証としては今後の課題として実践していきたい。
-6-
【引用・参考文献】
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「TIMSS2003 算数・数学教育の国際比較」
(国立教育政策研究所,2005)
国立教育政策研究所
「特定の課題に対する調査(算数・数学)調査結果」
(国立教育政策研究所,2006)
国立教育政策研究所
「平成 13 年度小・中学校教育課程実施状況調査」
(国立教育政策研究所,2003)
国立教育政策研究所
「平成 15 年度小・中学校教育課程実施状況調査」
(国立教育政策研究所,2005)
国立教育政策研究所
「平成 15 年度高等学校教育課程実施状況調査」
(国立教育政策研究所,2004)
「平成 17 年度高等学校教育課程実施状況調査」
(国立教育政策研究所,2007)
国立教育政策研究所
国立教育政策研究所
下田好行
瀬沼花子
国立教育政策研究所
高知県教育委員会
「小学校から高等学校までの算数・数学の成績や態度等の経
年変化」
「学習意欲向上のための総合的戦略に関する研究-『知を活
用する力』の視点を利用して学習意欲を喚起する-」
「算数・数学の成績や態度等に関する 16 年間の経年変化の
分析的研究」
「平成 19 年度全国学力・学習状況調査 調査結果概要(小・中
学校)」
「到達度把握検査(CRT)の分析から見た学力実態と算数科に
おける中学年のつまずき解消に向けて」
(国立教育政策研究所紀要第 136 集,2007)
(国立教育政策研究所,2007)
(国立教育政策研究所,2007)
(国立教育政策研究所,2007)
(高知県教育委員会,2006)
高知県教育委員会
「H18 高校生の学力と学習状況 学習支援テスト結果分析」
(高知県教育委員会,2006)
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「数学の理解と定着を図るための教材開発と授業実践」
(栃木県総合教育センター,2006)
千北昌子・岡孝一郎 他
「基礎・基本の定着を図る算数・数学科指導」
(佐賀県教育センター,2004)
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桜井茂男
「自ら学ぶ意欲を育む先生」
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市川伸一
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市川伸一
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(小学館,2004)
市川伸一
「学力低下論争」
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市川伸一・和田秀樹
「学力危機」
(河出書房新社,1999)
和田秀樹
「新・学問のすすめ」
(中経出版,2007)
和田秀樹
「受験勉強は役に立つ」
(朝日新書,2007)
佐藤学
「習熟度別学習の何が問題か」
(岩波新書,2004)
佐藤学
「『学び』から逃走する子どもたち」
(岩波新書,2000)
数学のいずみ編集委員会
「数学のいずみ」
(数学のいずみ編集委員会,2001)
佐々木隆宏・貫浩和・藤田健司
「解き方がわかる数学Ⅰ・A」
(代々木ライブラリー,2007)
佐々木隆宏・貫浩和・藤田健司
「解き方がわかる数学Ⅱ・B」
(代々木ライブラリー,2007)
何森仁・小島順
「検定外 高校数学(上)」
(日本評論社,2007)
島田茂
「算数・数学科のオープンエンドアプローチ」
(東洋館出版社,2003)
坪田耕三
「教科書を豊かに発展させる授業」
(学事出版,2003)
坪田耕三
「教科書プラス 坪田算数」
(東洋館出版社,2007)
田中博史
「使える算数的表現法が育つ授業」
(東洋館出版社,2003)
向山洋一
「授業の腕をあげる法則」
(明治図書,1985)
向山洋一
「子どもを動かす法則」
(明治図書,1987)
苅谷剛彦
「学校って何だろう 教育の社会学入門」
(筑摩書房,2005)
大村はま・苅谷剛彦・苅谷夏子
「教えることの復権」
(筑摩書房,2003)
内田樹
「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち」
(講談社,2007)
福田誠治
「競争しなくても世界一 フィンランドの教育」
(国民教育文化総合研究所,2005)
陰山英男
「学力はこうして伸ばす!」
(学習研究社,2005)
陰山英男・和田秀樹
「学力をつける 100 のメソッド」
(PHP 文庫,2006)
-7-
資料1
小学2年
小学1年
数と計算
小学3年
数と計算
小学4年
数と計算
小学6年
小学5年
数と計算
数と計算
中学1年
数と計算
中学2年
数と計算
中学3年
数と計算
数学Ⅰ
数と計算
方程式と不等式
集合数の概念
(何十)+(何十)の計算
0の乗法
億,兆におよぶ数
小数の意味(小数弟3位)
倍数と約数,最小公倍数と最大公約数
正の数と負の数
単項式と多項式
単項式と多項式の乗法,除法
多項式の加法,減法,乗法
10までの数
2位数の加法・減法(筆算)
除法(除数と商は1位数)
十進数の意味
小数の数直線表示
概数の積と商
数の大小(絶対値,不等号)
同類項
式の展開
展開公式
順序数の概念
1000までの数
乗法と除法の相互関係
2 or 3位数÷1位数の筆算
小数の十進数
分数の通分とその相互関係
数の四則演算
多項式の加法と減法
乗法公式の利用
因数分解
10までの合成と分解
大きい数の数直線表示
3位数±3位数
2位数÷1位数=2位数の暗算
小数点(10倍,100倍,1/10倍,1/100倍)
異分母分数の加法と減法
文字を使った式
単項式の乗法と除法
因数分解
実数の概念
1位数±1位数=1位数
2位数+2位数=3位数
2位数±2位数(暗算)
小数の意味(小数大1位)
小数×整数,小数÷整数
分数×整数,分数÷整数
式の値(代入)
文字を使った説明
式の計算の利用
実数と数直線
20までの数
3位数-2位数
余りのある除法(除数と商は1位数)
3口の加法・減法
乗法(0を除く1位数)
千万までの数
1位数+1位数=2位数
10000までの数
2位数-1位数
計算の工夫(加法・減法)
大きい数の数直線表示
小数の数直線表示
同分母分数の加法と減法
分数×分数,分数÷分数
1次式の加法と減法
等式の変形
素因数分解(素数,因数)
絶対値
小数の加法と減法
分数の大小,相等関係
分数倍の意味
等式
連立方程式(加減法)
平方根の意味
平方根の性質
分数の意味(真分数,帯分数,仮分数)
偶数と奇数の意味
1次方程式
連立方程式(代入法)
平方根の大小関係
根号を含む式の計算(有理化)
分数の数直線表示
小数×小数,小数÷小数
平均の意味と活用
方程式の利用
連立方程式の利用
平方根のおよその値
1次不等式と連立1次不等式
平方根の性質
絶対値を含む方程式と不等式
量と測定
10倍,100倍,10で割った数
2,3位数×1位数の筆算
100までの数
量と測定
長さの測定(mm,cm,m)
量と測定
長さの概念
時計の見方(時,分)
図形
図形
三角形・四角形・円の素地
単位量当たりの意味と考え方
概数の和,差
速さの意味と公式(時速,分速,秒速)
概数の意味(四捨五入)
商分数の意味
容積の小数表示
平面図形の構成と分解
三角形・四角形の概念
立体の構成と分解
時刻の概念(午前,午後)
時間と時刻の区別
時間の単位(日,時,分,秒)
直接比較・間接比較(液量)
容量の概念と測定(ℓ,dℓ,mℓ)
長さの測定(km)
重さの概念と測定(kg,g)
図形
長方形と正方形の概念,かき方
直角三角形の概念,かき方
平面図形の要素(辺,頂点,直角)
長さの小数表示
三角形の内角の和
重さの小数表示
数量関係
空間図形(多面体)
角の概念と測り方(度,°)
台形などの面積
正方形と長方形の面積の公式
面積の概則(方眼)
図形
円の概念,性質,かき方(直径,半径)
円周と円の面積の公式
球の概念,性質
台形,平行四辺形,ひし形の概念,性質,かき方
数量関係
図形
直方体,立方体の概念
直方体,立方体の展開図
方体の面や辺の垂直,平行関係
対角線の概念
正三角形の概念,性質,かき方
垂直,平行の概念
対頂角の性質
同位角の性質
2次方程式の解
解の公式
三角形の合同条件
2次方程式の利用
2次方程式の実数解の個数
2次方程式の応用
図形
二等辺三角形の性質
図形の拡大と縮小
直角三角形の合同条件
相似な図形の性質
円周角の定理
三角形の相似条件
平行四辺形の性質
相似の証明
反比例を表す式
平行四辺形の条件(証明)
比の性質(比の値)
特別な平行四辺形
縮図と縮尺
面積が等しい三角形(証明)
平行線と線分の比(三角形と平行線)
図形と計量
正接・正弦・余弦
三角比の相互関係
三角比の拡張(鈍角)
直線の傾きと正接
正弦定理・余弦定理
正弦定理・余弦定理の応用
数量関係
測量
□を用いた立式
中点連結定理
数量関係
三角形の面積
比の意味と表わし方
変化の割合
三平方の定理とその逆
比例の意味と特徴の考察
1次関数のグラフ
三平方の定理の利用
比例のグラフ
1次関数の決定
直径と円周の関係(円周率の意味)
数量関係
□を用いた立式
2次方程式
三角形の内角,外角,鋭角,鈍角
座標による比例のグラフ
図形
二等辺三角形の概念,性質,かき方
平方根の四則演算
比例を表す式(変数,定数)
反比例のグラフ
角柱,円柱の概念,性質
直線と角(対頂角,同位角,錯角)
証明(仮定と結論)
図形の面積,表面積,体積
体積の概形(形の概形)
面積の概念と測り方(c㎡,㎡,k㎡)
立体図形の要素(面,辺,頂点)
平面図形の作図
体積の概念(c㎥,㎥)
四・五・六角形の内角の
和
三角形,平行四辺形の面積の公式
図形
円と直線
直方体,立方体の体積の公式
量と測定
量と測定
図形
対称な図形
面積の概測(形に着目)
分数と小数,整数の意味
量と測定
算盤の加法と減法
直線の概念
直線や曲線の素地
小数倍の意味
2,3位数×1位数の暗算
乗法の性質と活用
直接比較・間接比較(長さ)
2,3位数÷2位数の筆算
除法の性質と活用
2位数×2位数の筆算
数量関係
空間図形への応用
球の体積と表面積
数量関係
1次関数の利用
2乗に比例する関数(比例定数)
2元1次方程式のグラフ
2次関数のグラフ
直線の交点(連立1次方程式)
関数の値の変化(変化の割合)
相似な図形の面積比と体積比
2次関数
九九の規則性
折れ線グラフの読み方,かき方
数量関係を言葉の式で表す
資料の整理と分類(2次元表)
資料の整理と分類(2次元表)
( )を用いた式の意味と計算順序
2つの数量関係の立式(□,○)
棒グラフの読み方,かき方
2つの数量関係の立式(□,○)
割合(百分率,歩合)の意味と用い方
変化する数量の変わり方(表の作成)
帯グラフ,円グラフの読み方,かき方
2次関数の決定
2つの数量の対応や変わり方(式から)
共有点の座標とその個数
2
四則の性質(交換・結合・分配法則)
2次関数 y=a(x-p) +q のグラフ
2
□を用いた立式
並べ方
放物線と直線
組み合せ方
2次関数 y=ax
y=ax2+bx+c
+bx+c のグラフ
のグラ
2次関数
フ
放物線の平行・対称移動
2次関数の最大・最小
確率
2次不等式
2次不等式の応用
↑ 領域別系統表
↓ 図形領域における系統表
小1年
小2年
小3年
小4年
直線の素地
直線の概念
長方形と正方形の概念,かき方
二等辺三角形の概念,性質,かき方
三角形・四角形の素地
平面図形の構成と分解
直角三角形の概念,かき方
三角形・四角形の概念
平面図形の要素(辺,頂点,直角)
直
立 面
体
図
形 曲
面
曲線の素地
小6年
中2年
中3年
高1年
対称な図形
直線と角(対頂角,同位角,錯角)
図形の拡大と縮小
正接・正弦・余弦
正三角形の概念,性質,かき方
平行四辺形の概念,性質,かき方
直方体,立方体の展開図
平面図形の作図
三角形の内角,外角,鋭角,鈍角
相似な図形の性質
三角比の相互関係
対頂角の性質
ひし形の概念,性質,かき方
三角形の合同条件
三角形の相似条件
三角比の拡張(鈍角)
対角線の概念
証明(仮定と結論)
相似の証明
直線の傾きと正接
垂直,平行の概念
二等辺三角形の性質
比の性質(比の値)
余弦定理
同位角の性質
直角三角形の合同条件
縮図と縮尺
余弦定理の応用
円の概念,性質,かき方(直径,半径)
直径と円周の関係(円周率の意味)
円と直線
円の素地
立体の構成と分解
中1年
直方体,立方体の概念
直
平 線
面
図
形
曲
線
小5年
台形の概念,性質,かき方
立体図形の要素(面,辺,頂点)
方体の面や辺の垂直,平行関係
角柱,円柱の概念,性質
球の概念,性質
平行四辺形の性質
平行線と線分の比(三角形と平行線)
測量
平行四辺形の条件(証明)
中点連結定理
三角形の面積
特別な平行四辺形
三平方の定理とその逆
相似な図形の面積比
面積が等しい三角形(証明)
三平方の定理の利用
円周角の定理
正弦定理
扇形の面積
正弦定理の応用
空間図形(多面体)
空間図形への応用
角柱の表面積,体積
相似な図形の体積比
空間図形(回転体)
球の体積と表面積
錐体の表面積,体積
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数学における学ぶ意欲の育成とその指導方法の研究