2014 年度 第 44 回 天文・天体物理若手夏の学校
反 de Sitter 時空の不安定性
古賀 泰敬 (立教大学大学院 理学研究科)
Abstract
反 de Sitter(AdS) 時空は曲率が負の極大対称な時空であり, 宇宙項が負の Einstein 方程式の真空解であ
る.AdS 時空が, 同じく極大対称時空である Minkowski 時空と de Sitter 時空 (それぞれ曲率が 0, 正) と大き
く異なるのは, 空間的な無限遠が時間的な面になっている点である. この性質により, 無限遠からのフラック
スがないとする境界条件における AdS 時空は漸近的に不安定である. この発表では, 漸近的に AdS 時空であ
る時空の不安定性を, 球対称, 負の宇宙定数のゼロ質量スカラー場の Einstein 方程式の数値シミュレーション
によって調べた,Piotr Bizon と Andrzej Rostworowski の研究 [1] をレビューする.
ここで与える仮定により, ゼロ質量スカラー場の Einstein 方程式は一次元の波動方程式に帰着する. これにつ
いて波束を用いた数値シミュレーションを行うと系が最終的に重力崩壊を起こすことがわかった.
イントロダクション
π/2 である. 式 (3) を (1),(2) に代入すると, スカラー
場の方程式は
AdS 時空は, その空間的無限遠が時間的な面である
1
(tan2 xAe−δ Φ)′ , (4)
Φ̇ = (Ae−δ Π)′ , Π̇ =
という事実から Cauchy ホライズンが存在する. その
tan2 x
ため, 漸近的 AdS 時空における場の発展を議論する 独立な Einstein 方程式は
際には適当な境界条件が必要となる. 球対称な漸近
1 + 2 sin2 x
(1 − A) − sin x cos xA(Φ2 + Π2 ),
A′ =
的 AdS 時空での, 球対称スカラー場の発展における,
sin x cos x
(5)
そのような境界条件についてはすでに研究がなされ
′
2
2
δ = − sin x cos x(Φ + Π )
(6)
ている [2]. Piotr Bizon と Andrzej Rostworowski の
′
−1 −δ
研究では, この境界条件を満たすモデルを用いて AdS と得られる. ただし,Φ = ϕ , Π = A e ϕ̇ , ˙ =
′
2
∂t , = ∂x で 4πG = 1, l = 1 とした.
時空の不安定性を調べた。
x = 0 付近においての滑らかさを要請すると ϕ, A, δ
1
はそれぞれ
2
モデル
負の宇宙定数 (Λ < 0) のゼロ質量スカラー場の
3 + 1 次元 Einstein 方程式
1
Gαβ + Λgαβ = 8πG(∂α ϕ∂β ϕ − gαβ (∂ϕ)2 ),
2
g αβ ∇α ∇βϕ = 0
を解く (c = 1). 球対称のため, 計量を
ϕ(t, x) =
f0 (t) + O(x2 )
(7)
δ(t, x) =
2
O(x )
(8)
A(t, x) =
1 + O(x2 )
(9)
(1) となる.δ(t, 0) = 0 は,t が原点で固有時間をとるように
選んだ. Cauchy ホライズンを回避するため x = π/2
(2) の無限遠での境界条件は, ρ = π/2 − x として
ϕ(t, x)
=
f∞ (t)ρ3 + O(ρ5 )
(10)
δ(t, x) = δ∞ (t) + O(ρ6 )
(11)
l2
2
−2δ 2
−1
2
2
(−Ae
dt
+
A
dx
+
sin
xdΩ
)
2
3
6
cos x
A(t, x) = 1 − 2M ρ + O(ρ )
(12)
(3)
と仮定し,ϕ, A, δ は t, x のみの関数とする. ここで,l2 = と表される [2]. 任意関数 f0 (t), f∞ (t), δ∞ (t) は原点,
−3/Λ であり, 各変数の領域は −∞ < t < ∞,0 ≤ x < 無限遠境界上での振る舞いを決め,M は系の全質量と
解釈される.
ds2 =
2014 年度 第 44 回 天文・天体物理若手夏の学校
数値シミュレーション
3
eps=45 t=0.0482
400
1.2
Pi
A
300
式 (2),(5),(6) 以下のように数値的にシミュレーショ
1
200
ンした. スカラー場の初期値をガウス型波束で,
0.8
tan2 x
)
σ2
(13)
0
0.6
A
Φ(0, x) = 0, Π(0, x) = ϵ exp(−
Pi
100
-100
0.4
と設定する. パラメータは, 幅を σ = 1/16 で固定
-200
し, 振幅を ϵ = 45, 44, 43 と変化させて調べた. 方法
-300
は,t=const の超曲面の場を式 (2) に従って微小時間
-400
0.2
0
0
0.05
dt 発展させていき, その都度式 (5)(6) で計量を更新
していくというものである. 時間発展は runge kutta
0.1
x
0.15
0.2
図 2: ϵ = 45, t = 0.0482 の Π,A
方を用い, 時間, 空間それぞれについて4次の精度で
horizon x
計算した.
0.025
0.02
結果
0.015
x_horizon
4
0.01
計算した結果, それぞれの振幅において最終的
に,A=0 となる事象の地平面が形成された. ϵ = 45 の
0.005
地平面の形成は図 1, 図 2 のようになった. t=0 にて
0
0
10
原点を中心に広く分布していた波束は, 時間発展とと
平面の位置 x の関係は図 3. これらより大きい振幅
40
50
図 3: 地平面の半径 x
ると, 次第に階段的な分布に遷移し, その不連続部分
で A=0 に落ちる(図 2). この振る舞いは ϵ = 44, 43
30
eps
もにより原点に集中していく. さらに時間が経過す
においてもほぼ同様であった. これらの振幅 ϵ と地
20
5
参考文献
では同様に重力崩壊するであろうが, 小さい振幅にお
[1]P. Bizon and A. Rostworowski,Phys. Rev. Lett.
107,031102(2011).
ける不安定性についてはさらなるシミュレーション
G. Holzegel and J. Smulevici, arXiv:11030712.
が必要である.
eps=45 t=0
400
1.2
Pi
A
300
1
200
0.8
0
0.6
-100
0.4
-200
0.2
-300
-400
0
0
0.05
0.1
x
0.15
図 1: ϵ = 45, t = 0 の Π,A
0.2
A
Pi
100
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