2009 年度
卒業論文
エアロジェル・チェレンコフ検出器による宇宙線の測定
奈良女子大学
理学部
物理科学科
高エネルギー研究室
石塚
規友紀
村上
潤
平成 22 年 3 月 9 日
1
目次
1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
2.原理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2.1
宇宙線・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2.2
宇宙線の反応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2.3
チェレンコフ放射・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
2.4
シンチレーション光・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
3.実験装置の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
3.1
エアロジェルとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
3.2
エアロジェルの屈折率の測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
3.3
チェレンコフ検出器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
3.4
シンチレーションカウンター・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
3.5
光電子増倍管・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
4.データ収集・解析装置の概略・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
4.1
camdrv・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
4.2
CAMAC 規格の概略・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
4.3
NIM 規格の概略・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
4.4
データ収集プログラムの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
4.5
使用するモジュールの名称とセットアップ・・・・・・・・・・・・・・・24
5.宇宙線の測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
5.1
セットアップ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
5.2
測定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
6.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
6.1
ADCcount から光子数の変換・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
6.1.1
セットアップ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
6.1.2
波高分布・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
6.1.3
モンテカルロシミュレーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
2
6.1.4
6.2
モンテカルロシミュレーションの結果・・・・・・・・・・・・・・・37
光電子数の実験値と理論値の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
7.2 段積みによる宇宙線の測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
7.0
<予備実験>H3983 の HV について・・・・・・・・・・・・・・・・・41
7.0.1
Block
Diagram・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
7.0.2
測定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
7.1
2 段積みでの宇宙線の測定のセットアップ・・・・・・・・・・・・・・・43
7.2
測定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
8.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
9.まとめ・課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
参考文献
謝辞
3
1 はじめに
高エネルギー物理学は、素粒子と呼ばれる物質の究極的な構成要素とそれらの間に働く相互作
用の性質を実験的に明らかにする学問である。そのため生成した粒子の様々な物理量を精度よ
く測定する必要がある。検出器にはその役割に応じて様々な種類がある。本実験では、疎水性
シリカゲルを輻射体に用いたチェレンコフ検出器に着目し、2インチの光電子増倍管によるチェ
レンコフ光の読み出しを伴うセットアップをくみ上げ、高速で入射した宇宙線を検出する実験
を行った結果について報告する。本論文では、はじめに宇宙線とチェレンコフ放射の原理につ
いて概観し、次にシリカエアロジェルを輻射体に用いたチェレンコフ検出器について説明する。
さらに、宇宙線の検出を行う実験のセットアップと、収集したデータ、その解析結果について
述べ,最後にまとめる。
4
2 原理
2
原理
2.1 宇宙線
2.1 宇宙線
宇宙線には、宇宙空間から直接飛来する一次宇宙線と、大気中の原子核と一次宇宙線との相互
宇宙線には、宇宙空間から直接飛来する一次宇宙線と、大気中の原子核と
作用で作られる二次宇宙線がある。一次宇宙線の90%は陽子で、残りは He,C,O などの原子核
一次宇宙線との相互作用で作られる二次宇宙線がある。一次宇宙線の 90% は
である。一次宇宙線は、大気中の原子核と相互作用し新たな二次粒子を生成する。これが何回
陽子で、残りは He,C,O などの原子核である。陽子は、大気中の原子核と相
互作用し新たな二次粒子を生成する。これが何回か繰り返されて多くの二次
か繰り返されて多くの二次宇宙線が生成される。これをカスケードシャワー
(cascade shower)
宇宙線が生成される。これをカスケードシャワー (cascadeshower) と呼ぶ。多
と呼ぶ。多くの粒子は大気中で吸収されるため、地上まで到達するのはほとんどが透過力の強
くの粒子は空気中で吸収されるが、透過力の強い µ 粒子は運動エネルギーの
いµ粒子である。
高い状態で地上に到達する。
図 1: カスケードシャワーのようす
2.2 宇宙線の反応
一次宇宙線と大気中の原子核との相互作用では多くの π 中間子や K 中間子が生成される。さ
2.2
宇宙線の反応
らに π 中間子や K 中間子は以下のように崩壊する。
一次宇宙線は大気中の原子核との相互作用で多くの π 中間子や K 中間子
0
π → 2γ
が生成される。さらに π 中間子や K 中間子は以下のように崩壊する。
π − → µ− + ν µ
π + → µ+ + ν µ
π 0 → 2γ
K + → µ+ + ν µ
0
s
+
−
0
K → π + π ,π + π
π − → µ− + νµ
0
K L0 → π + + π − + π 0 , π 0 + π 0 + π 0
静止系で
€
π + → µ+ + νµ
K →µ+ν
K →π+π
" 0 の寿命は τπ = 0.83×10-16 (sec)、π ± の寿命は τπ = 2.6 10-8(sec) である。µ
0
±
粒子はさらに電子、ニュートリノ、反ニュートリノに崩壊する。 μ粒子の寿命は 2.2× 10"6 (sec)
3
1/ 2
と比べて長く、高エネルギーなので相対論的効果により寿命が 1/(1 − β )
倍長くなること
!
!
5
!
により、崩壊せずに地上に到達できる。ここで、β=v/c、vは粒子の速さ、cは真空中の光速で
ある。
2.3 チェレンコフ放射
チェレンコフ放射はソ連の物理学者チェレンコフ(P.A.Cherenkov)によって発見された。
屈折率nの物質中では光の速度はc/nなので、荷電粒子が屈折率の大きな物質中を通過するとき、
その物質中での光速より早く走るときに、電磁気的な衝撃波が発生する。これをチェレンコフ
放射と呼ぶ。
荷電粒子が物質中を進むと、その粒子の近辺の媒質は粒子の電荷が作る電界によって分極す
る。粒子の速度が遅いときには、この分極は粒子を中心として対称な分布をしている。しかし、
速度が速くなると、分極は粒子の進行方向に対して前後に非対称に分布するようになる。これ
は全体として時間的に変化する電気双極子モーメントとみなすことができる。粒子が通り過ぎ
てこの分極がもとに戻る際に、電磁波を放射する。隣り合った分子の位相はほとんど同じなの
で、放射された電磁波はコヒーレントな光になる。時間tの間に光の通過する距離はct/nである
が、粒子はtβc(β=v/c)だけ動くのでβn>1ならばこの電気双極子モーメントの放射する
コヒーレント光の方向と粒子の進行方向のなす角θcはホイヘンスの原理から
cosθ c =
ct /n 1
=
βct nβ
(1)
となる。また、θcはvの関数なので、チェレンコフ放射の発生角を測定することによってその粒
子の速度を知ることができる。荷電粒子の運動量がわかっている場合には、適当な屈折率nの媒
€
質を選ぶことにより、βの違い、すなわち粒子の質量の違いに起因するチェレンコフ光の有無
による閾値型の粒子識別を行うこともできる。
図2.チェレンコフ放射
6
2.4 シンチレーション光
荷電粒子が物質中を通ると原子または分子を励起して光を発生させる。これをシンチレーシ
ョン (Scintillation) といい、ある種の物質ではこの発光が著しい。シンチレーション光はチェレ
ンコフ光に比べて発光量が多く、原子などが励起して元に戻るまでの間だけ発光する。
本研究では、宇宙線がチェレンコフ検出器を貫通した事象をトリガーするために、プラスチ
ックシンチレーターと光電子増倍管を用いたシンチレーションカウンターを2個使用した。
7
3 実験装置の概要
3.1 エアロジェルとは
二酸化ケイ素主体の固体が微細な気泡を多量・均一に含んだものである。90-99.8% の空気で構
成されており、密度は 0.04-0.4(g/cm ) である。外見はほとんど空気からできているため半透明
3
である。見かけの色は、可視光の短波長部がナノサイズの分子構造によりレイリー散乱するこ
とにより決まる。このため黒っぽい背景に置くと青みを帯び、明るい背景では白っぽく見える。
一般には乾燥剤に用いられるシリカゲルのように親水性であるが、それでは使用中に空気中の
水分を急速に吸収して屈折率が大きく変化してしまうので、粒子検出器の輻射体として適さな
い。そこで1990年代に高エネルギー加速器研究機構(KEK)で疎水性のシリカゲルエアロジェ
ル製造法が開発され、Belle実験、BESS実験等で採用されてきた。本研究で用いたのもこの疎水
性エアロジェルである。
図3:実際のエアロジェル
3.2 エアロジェルの屈折率の測定
屈折率の測定には、レーザー光線ビームの屈折によるフレの角度を測定することにより行う。
エアロジェルを回転台にのせ、波長 532nm の緑色半導体レーザーが回転台上のエアロジェルの
角を通過すると、スクリーン上のスポットがずれる。スポットの変位が最小となるように回転
台を回し、そのときのスポットの変位を d とする。最小のフレの角θとおき、エアロジェルの
角が直角のとき、スクリーンまでの距離を L とすれば、屈折率は以下の式で表される。
8
d
θ = tan−1 ( )
L
θ π
sin( + )
2 4
n=
π
sin
4
(2)
(3)
€
上記の方法で、本実験で用いるエアロジェルの屈折率を測定する。
品名
屈折率
1
IS-21
n = 1.089 ± 0.007
2
IS-22
n = 1.089 ± 0.006
3
F-305
n = 1.038 ± 0.007
4
F-306
n = 1.038 ± 0.006
5
20-E-5-016
n = 1.028 ± 0.001
6
20-A-2-055
n = 1.014 ± 0.001
表1
以下に使用したエアロジェルの諸元を示す。
密度:0.22g/cm
3
密度:0.09g/cm
3
9
密度:0.04g/cm
3
密度:0.07g/cm
3
図4;エアロジェルの仕様
こうして測定した屈折率で各エアロジェルで宇宙線のミュー粒子が入射した際にチェレンコフ
光が発生するのか以下に考察する。
2
mμ=106MeV /c , P=1000MeV/c とすると
E = m 2 + P 2 = 1005.6(MeV )
v P
β = = = 0.994
c E
1
チェレンコフ光は < β の時発生するので
n
€
(4)
(5)
(5)
品名
1/n(β=0.994と比較)
光るか
1
IS-21
0.918(< 0.994)
光る
2
IS-22
0.918(< 0.994)
光る
3
F-305
0.963(< 0.994)
光る
4
F-306
0.963(< 0.994)
光る
5
20-E-5-016
0.972(< 0.994)
光る
6
20-A-2-055
0.986(< 0.994)
光る
€
表2
と上記の表より今回屈折率を計ったエアロジェルは、いずれも1GeV/cのミュー粒子が入射した
際にチェレンコフ光を発生する。
10
逆に測定した各エアロジェルでのPのしきい値について考える
P
P
1
"= =
=
2
2
E m +P n
!
P=
!
(7)
より
m
(8)
2
n "1
!
次に、これらのエアロジェル中で発生するチェレンコフ光の光子数はどのくらいかを考える
放射される光子数Nは、以下の式をエアロジェルの厚さと光電子増倍間の感度波長λ1とλ2の領
域で積分すると求められる。
d 2 N 2παz 2 ⎛
1 ⎞
=
⎜1− 2 2 ⎟
2
dxdλ
λ ⎝ β n ⎠
€
(6)
α:微細構造定数=1/137
z:入射粒子の電荷(通常1)
今回使用する光電子増倍管H7195UVの感度を考慮し、波長の積分範囲をλ1=350nm,λ
2
=550nmとした。
11
これらを考慮した上で各エアロジェルについて計算すると
品名
光子数N
1
IS-21
130
2
IS-22
130
3
F-305
49
4
F-306
49
5
20-E-5-016
38
6
20-A-2-055
7
表3
となる。
従って各エアロジェルについて計算すると
品名
運動量のしきい値(MeV)
1
IS-21
245
2
IS-22
245
3
F-305
380
4
F-306
380
5
20-E-5-016
445
6
20-A-2-055
631
表5
となり、今回用いたエアロジェルでは、ミュー粒子に対する閾値は245MeVから631MeVの範囲
に分布している。
図5に、鉛直方向から来るμ粒子の運動量分布を示す。μ粒子は大気中でエネルギーを失いなが
ら地上に到達するので、通過する距離の差のために天頂角分布を持ち、エネルギーの低い方で
cos3θ、高い方でcos2θの依存性を持つ。強度は、鉛直方向から約0.8 10-2/cm2/sr/sec、全方向か
ら約1.7 10-2/cm2/sr/secである。この値は、おおまかに言って1cm2あたり1分間に1個粒子が到達す
12
ることになる。
図5;鉛直方向からくるミューオンの運動量分布
13
図5に上記の運動量のしきい値を対応させると、以下のようになる。
図6
運動量のしきい値の比較
14
3.3 チェレンコフ検出器
本実験では、エアロジェルを輻射体として発生したチェレンコフ光を反射鏡で反射させ、光電
子増倍管でとらえる原理のチェレンコフ検出器を製作した。
図7
チェレンコフ検出器を設計するため、第一にエアロジェル、反射鏡、光電子増倍管をセットす
る距離 L+d についての制限を求める 。
まず、下記の式でチェレンコフ角θを求める。
図8
cosθ =
1
nβ
(9)
€
15
宇宙線の運動量 P = 1(GeV/c) , mµ = 106(M eV /c ) とすると、
2
2
E2 = P2 + mμ より、
E = 1.01 (GeV )
よって、
β=
P
= 0.99
E
ゆえに、(9) より、 θ = 22 が得られる。これに本実験で使用するPMは 2 インチ即ち受光面
の直径は 5cm であることを考慮して L+d の最大値を求めると、
€
図9
L+d=
2.5
= 6.1(cm)
tan22 
この長さを超えてしまうと、チェレンコフ光のリングイメージが受光面の大きさよりも大きく
なり、エアロジェルの中央を垂直に貫通した宇宙線であっても、チェレンコフ光を検出できな
くなる。L+d
€
を短くして、光電子増倍管の受光面におけるチェレンコフ光のリングイメージの
半径を小さくすると、集光効率を上げられると考えられる。そこで、6.1(cm) を超えないように、
可能な限り最短の距離でエアロジェル、反射鏡、光電子増倍管をセットできるようアルミ製の
チェレンコフ検出器を設計した。
16
図10
図11
チェレンコフ検出器全体組立図
チェレンコフ検出器の図面1
17
図12
チェレンコフ検出器の図面2
図13
チェレンコフ検出器の図面3
18
図14
チェレンコフ検出器の図面4
図15
完成したチェレンコフ検出器
19
3.4 シンチレーションカウンター
本実験では、宇宙線の入射・貫通の検出にシンチレーションカウンターを使用する。使用した
シンチレーションカウンターを以下に示す。
図16
シンチレーションカウンター
光電子増倍管の受光面とプラスチックシンチレーターは、オプティカルセメントで接着する。
光電子増倍管の入射窓およびプラスチックシンチレーター部分にはアルミホイルを巻いて反射
による集光効率を高め、さらに遮光テープを巻いて、余計な光が入らないようにした。
20
3.5 光電子増倍管
エアロジュルで発生したチェレンコフ光や、シンチレーターで発光した光を効率よく検出する
には、光を増幅して電気信号として取り出すデバイスが必要である。そのために使うのが光電
子増倍管(photo-multiplier)である。
光が金属または半導体でできた光電面にあたると光電効果によって電子が放出される。光電面
としては、光子が電子に変換される量子効率ができるだけ高い物質を選ぶ必要がある。
図11のように光電面で放出された電子は電界で加速されて金属で作られた二次電子面(dynode)
にあたり、電子数が増幅される。二次電子面を10段重ねておくと、電子数は光電面で発生した
8
電子数の10 倍以上に達する。この電子束を陽極からパルス信号として取り出す。
図17;光電子増倍管
本実験では、エアロジェルで発生したチェレンコフ光の検出には、口径2インチのH7195UVお
よびH3983を、トリガーカウンターには口径1.5インチのH3178を用いた。いずれも浜松ホトニ
クス製である。
21
4 データ収集システム
検出器からの信号はまず NIM 規格のモジュールに送られ、トリガー用のロジックパルスを生
成する。一方、検出器のアナログ信号をデジタル信号に変換するためにCAMAC規格のADCが使
われる。ADC はクレートコントローラー (C.C) の制御下にある。このクレートコントローラ
ーと情報の授受を行う PC 側のインターフェースと PC 内のデータ収集プログラムの仲介を
行うものをデバイスドライバーという。
図18: 解析
4.1 camdrv
CAMAC読み出しに用いるデバイスドライバーとして camdrv を使用した。camdrv は高エネル
ギー実験・原子核実験のための汎用データ収集ソフトウェアである KiNOKO の一部として作
成されており、東北大の榎本三四郎氏(現:ワシントン大学)が中心になって保守されてきた。
該当するホームページからソースコードをダウンロード・インストールできる。
*参照
http://www.awa.tohoku.ac.jp/~sanshiro/kinoko/camdrv/
本実験では使用するPCの環境に合わせ、2.2カーネル、豊仲電子製CCPクレートコントローラー
+ISAバスカードの設定でインストールし、使用した。
22
4.2 CAMAC 規格の概略
CAMAC (computer Automated Measurement and Control)とは放射線検出器のアナログ電気信号を
デジタル電気信号に数値化するエレクトロニクスの規格名である。計測や制御を目的とする装
置を作成するのに、独立の単位機能を持つモジュール・ユニットを適当に組み合わせて構成す
ることが行われる。このような複雑な装置を比較的単純なユニットの組み合わせで実現できる
利点を持っている。
(1) クレート
クレートは標準ラックに取り付けられるようになっている。挿入できるモジュールは最大 7
個、ステーション 2 個分 (スロットナンバー 6、25) にクレートコントローラーを挿入してい
る。それぞれのステーションは、モジュールをデータウェイコネクターに導きいれるためにデ
ータウェイコネクターのソケット、モジュールを固定するためのねじ穴が設けられている。
(2) データウェイ
モジュールの相互の信号の授受はデータウェイを通して行われる。この受動多線式のハイウ
ェイはクレート内部に組み込まれており、全てのステーションのデータウェイコネクターソケ
ットに接続されている。
(3) モジュール
モジュールは幅約 1.7cm の整数倍、裏側の半分にはモジュールの回線配線に使われるプリン
ト基板ヘッジが 86 ピンのコネクターとなっている。クレートに差し込むと自動ト・コントロ
ーラークレートの右端の 25 番目のステーションは特別な配線になっており、クレートコント
ローラーと呼ばれる。クレートコントローラーは 25 番目以外の通常の配線をされたステーシ
ョンを少なくとも一つ占拠し、データウェイを監視する。
4.3 NIM 規格の概略
検出器に電圧をかける高電圧電源、ディスクリミネーターなどのロジックパルスを扱うエレ
クトロニクスのモジュールは NIM 規格の物を用いる。通常、12個のスロットを持つクレート
電源を19インチ幅のラックに架装して使用する。各モジュールはバックプレーンにピン接続し、
6V、 12V、 24Vの電源供給を受けて動作する。
23
4.4 データ収集プログラムの概要
ADC や TDC で数値化されたデータは、検出器が発した電気信号パルスの大きさや時間差に比
例する量である。これを、CAMAC から読み込みPCのハードディスク上にあるファイルに書き
込み保存する。この部分のアルゴリズムをフローチャートとして図12に示す。こうして保存し
た生データは、テキストフォーマットで書かれており,PAWやROOTといったソフトウェアを
起動して読み込み、ヒストグラムにbookingして、その分布を見ることができる。
図 19: データ収集プログラムの概要
4.5 使用したモジュールとセットアップ
Clock Generator : 規則正しいパルスを発生させる装置
Discriminator : 入力信号が設定した threshold を越えたときにパルスを出力する装置
Gate Generator : 入力信号を必要な波高と幅に形成する装置
Coincidence : 複数の信号が同時にきたときに出力する装置
Signal Divider : 信号を分ける装置
Attenuator : 信号を小さくする
Amp : 信号を増幅する
Scaler : 信号の数を数える
ADC : アナログ電気信号をデジタル電気信号に変換する装置
24
5 宇宙線の測定
5.1 セットアップ
図20 : Block Diagram
トリガーカウンターには 1350[V]、光電子増倍管には 1900[V] の電圧をかけ、ADCは
LeCroy2249Wを使用した。また、ディスクリミネーターのThreshold 電圧は100mV、ゲート
パルスの幅は110(nsec)とした。このとき、コインシデンスのパルスが出る平均のレートは
0.02(Hz)となった。
25
図21:実際のセットアップ
26
5.2 測定結果
100[events] データを収集した結果は次のようになった。 (縦;number of event/bin 横;adc
counts)
図22;エアロジェルなし
図23;エアロジェルあり
上のグラフよりエアロジェルなしとありでは分布が顕著に違うので、エアロジェルで発生した
チェレンコフ光が雑音と分離して検出できていると考えられる。そこで、このセットアップで4
種類(n=1.089, n=1.038, n=1.028, n=1.014)の屈折率の違うエアロジェルについて1000イベントず
つデータ収集した。
27
図24;n=1.089のADC分布
図25;n=1.038のADC分布
図26;n=1.028のADC分布
28
図27;n=1.014のADC分布
屈折率nが小さいほど運動量Pのしきい値は大きくなるので、光電子が検出されていないイベン
トの数(ペデスタル= 60 ADC counts 付近のイベント数)が増えていることがわかる。
29
6
チェレンコフ光による光電子数の導出
6.1 ADCcount から光子数への変換
1光電子あたりのADCcountをLEDの波高分布から求めた。
6.1.1
セットアップ
図28;Block diagram
図21に示すセットアップで、クロックジェネレーターから幅10(nsec)のパルスを送ってLEDを
発光させた。LEDはペンで黒くぬり、遮光テープで減光した。また、LEDとPMTは段ボールに
入れシートで包む等して遮光した。以下、波高分布とともに、オシロスコープで確認した平均
の波高を示す。
30
6.1.2
波高分布
LED発光による光電子増倍管出力パルス波高が約20mVの際の波高分布を示す。
図29;LED(20mV)のADC分布
LED発光による光電子増倍管出力が約75mVの際の波高分布を示す。
図30;LED(75mV)のADC分布
上記のグラフから光電子数をポアッソン分布と仮定し、ペデスタルのイベント数から光電子数
の平均値を求める。さらにパルス波高が約20mVのデータから、ペデスタル以外が1光電子のイ
ベントが支配的と仮定して、1光電子あたりのADCcountと波高分布の広がりσを次のように見
積もった。
31
ポアッソン分布の式は以下のようになる
(10)
(11)
(12)
(13)
σ=半値全幅/((ピーク-ペデスタル)
2.35) (14)
・LED(出力20mV)の時
μ=0.27(個)
1photoelectronあたりのADCcount=3 ADC count
σ(1p.e.)=0.3(p.e.)
・LED(出力70∼80mV)の時
μ=3.0(個)
1photoelectronあたりのADCcount=3 ADC count
σ(1p.e.)=0.3(p.e.)
6.1.3
モンテカルロシミュレーション
見積もりが妥当か評価するため光電子数はポアッソン分布、その他の条件は上記の通りとして
モンテカルロシミュレーションを行う。ソースコードを次のページに示す。
main関数では、事象数、平均光電子数、単一光子数、単一光子波高のADC値、出力ファイル名
をargumentで与えられるようにした。
ポアソン分布をする乱数はiranp、その中で必要となる階乗はnfactorial、正規分布乱数は
rand_normalの各関数が受け持つ。一様分布乱数は標準で用意されているrand関数を用いた。
32
// phel.cc 20100224 created.
// PMT's pulse height for PhotoELectrons
// is simulated by Monte Carlo method.
#include <iostream>
#include <fstream>
#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
#include <math.h>
using namespace std;
FILE* fp; // 出力ファイルポインタを宣言
// 正規分布即ちガウス分布をする乱数を生成
double rand_normal(){
double return_value;
return_value = 0.0;
for( int i=0; i<12; i++){
return_value = return_value + ((double)rand()/(double)RAND_MAX);
}
return_value = return_value - 6.0;
return return_value;
}
// nの階乗
int nfactorial(const int n){
if( n==0 ) return 1;
int nreturn = 1;
int i = 1;
while(i<=n){
nreturn = nreturn * i;
i++;
33
}
return nreturn;
}
// ポアッソン分布をする乱数
// 注意! Returned value は20を超えない。
int iranp(const double average ){
double fraction[20];
// i_fractionをクリアする
for( int it=0; it<20; it++ ){
fraction[it]=0.0;
}
// fractionを計算し、それらをreturn valueにしまう。
for( int kt=0; kt<20; kt++ ){
double factorial = (double)nfactorial( kt );
double df = exp( -1.0*average )*(pow(average,kt))/factorial;
if( kt==0 ){
fraction[kt]=df;
} else {
if( fraction[kt-1]<1.0 && df<1.0e-6 ){ // 小さな範囲は無視する
fraction[kt]=1.0;
} else { // 積分する
fraction[kt]=fraction[kt-1]+df;
}
}
}// forループ終了
// 一定の分布における乱数を生成
double rand_unif = (double)rand()/((double)RAND_MAX);
// return valueを決定する
34
int ireturn = 0;
while( fraction[ireturn]<rand_unif ){
ireturn++;
}
return ireturn;
}
//===============
// main funciton.
//===============
int main(int argc, char* argv[])
{
//光電子増倍管とADC の特性を述べるためのパラメーター
const double gain_fluc = 0.30; // 1光電子の増幅率のふらつき
//取り扱いの確認
if( argc < 5 ){
cout<< "Usage : ./phel Nevents Average single_p.e_ADC Outfile."<< endl;
return 1;
}
//出力ファイルを開く
fp = fopen(argv[4], "w");
//イベントループのための必要とされるセットアップ
const int nevents = atoi( argv[1] );
double average = atof( argv[2] );
const double adc_1pe = atof( argv[3] ); // 1光電子あたりのADC counts.
double real_adc;
//出力ファイルの一番上にイベント数を書く.
35
fprintf(fp,"%d¥n",nevents);
// イベントループ始め
for( int ievent=0; ievent<nevents; ievent++ ){
// ポアッソン分布をする乱数の生成
int npe = iranp( average );
if( npe==0 ){ // 光電子が与えられないとき.
real_adc = 0.0;
} else { //光電子が0個でなければ,
real_adc = ((double)npe)*adc_1pe; // 平均の波高
for( int i=0; i<npe; i++){ //増幅率のふらつきを考慮する
real_adc = real_adc + rand_normal()*gain_fluc*adc_1pe;
}
}
// このイベントを書き出す
int iadc = (int)real_adc;
fprintf(fp,"%d¥n", iadc);
}// イベントループ終了
// 出力ファイルを閉じる
fclose(fp);
return 0;
}
36
6.1.4
モンテカルロシュミレーションの結果
ここでペデスタルは実際は55だがシュミレーションでは0の位置においた。
μ=0.27 個
1p.e.波高=3ADC count
σ=0.3(p.e.)
図31;μ=0.27の分布
μ=3.0 個
1p.e.=3 ADC count
AD
図32;μ=3.0の分布
3
37
モンテカルロシミュレーションの結果をLEDを点灯させて得た波高分布と比較する。
図33;μ=0.27のシミュレーションとの比較
図34;μ=3.0のシミュレーションとの比較
38
図33と図34より、モンテカルロシミュレーションはLEDを点灯させて得た波高分布を良く再現さ
せており、1photoelectronあたりのADC count=3 ADC countという見積もりは妥当であったと言え
る。
6.2 光電子数の実験値と理論値の比較
宇宙線データから得た光子数とチェレンコフ光子数の期待値の間の比較について議論する。
屈折率
実験値
理論値の光子数
収 集 効 率 (集 光
N
効率
量 子 効 率 0.2
透過率)
1
N=1.089
7.3
26
0.28
2
N=1.038
7.0
9.8
0.73
3
N=1.028
6.0
7.6
0.78
4
N=1.014
2.0
1.4
1.43
表6
実験値の光電子数の出し方
Ne=(波高分布ピークのadccount-ペデスタルのadccount)/1photoelectronあたりのadccount
1photoelectronあたりのadccount=3.0countとする
n=1.089で収集効率がほかと比べて悪いのは、見た目からもわかるほどエアロジェルが濁ってい
たので透過率が悪いと考えられる。また、n=1.014の収集効率が1を超えているが、これは、理
論値を計算する時に宇宙線の運動量を1GeVとして計算しているところ、実際は1GeVより大き
な運動量の宇宙線では、より多くのチェレンコフ光の発生があるので、その効果が考慮されて
いないためである。いずれの場合も、数個の光電子と雑音は良く分離しており、n=1.089のもの
以外のエアロジェルでは比較的良好な透過率であることがわかった。
39
7
2段積みによる宇宙線の測定
1段積みのセットアップでは、屈折率が低いエアロジェルほど、発生するチェレンコフ光の光
量は少なかった。これは、屈折率の低いエアロジェルほど運動量のしきい値が大きいためであ
る。そこで、屈折率の異なるエアロジェルを使って、2段に積むことにより、特に屈折率の低い
方のエアロジェルチェレンコフ検出器で光電子が検出されていることを要求して、速度の大き
い宇宙線粒子を選び、この要求の有無が他方のエアロジェルチェレンコフ検出器の波高分布に
どのように影響するかを調べるため、2段積みによる宇宙線の測定を行った。
40
7.0<予備実験>H3983のHVについて
2段積みの宇宙線の測定をするためには、後に出てくるBlock Diagram からわかるように光電
子増倍管が2本必要である。1本は前実験(1段での宇宙線の測定)で使用したH7195UVを使用す
るが、あと1本はH3983の光電子増倍管を使用する。このH3983の増幅率をなるべくH7195UVの
光電子増倍管の増幅率に近づけるため、H3983のHVを決定するための実験を行った。
7.0.1Block Diagram
1段積みのBlock Diagramの光電子増倍管をかえたもの
使用するエアロジェルはn=1.028のものを使用した。
図35;Block Diagram
41
7.0.2測定結果
図36;HVの決定
上の測定結果よりH3198の印加電圧は1950Vにすると、H7195UVに1900Vを印加した場合に近い
ことがわかる。したがって、H3198の印加電圧を1950Vと設定した。
42
7.1
2段積みでの宇宙線の測定のセットアップ
図36;Block Diagram
上下のトリガーには1350V、上のPMT(H7195)には1900V、下のPMT(H3983)には1950Vの電
圧をかける。
図37;実際の2段積みでのセットアップ
43
7.2 測定結果
上段にn=1.028 (adc 0) 下段にn=1.089 (adc 1)で1500イベント収集したデータ
図38;上段(n=1.028)のADC分布
図39;下段(n=1.089)のADC分布
44
横軸をadc 0, 縦軸をadc 1としたときの2次元プロット
図40;2次元プロット
45
8 考察
n=1.028のエアロジェルが光ったときのn=1.089側の波高分布を調べた。
(adc0:n=1.028
adc1;n=1.089)
図41;adc0>60でのadc1のADC分布
図42;adc0>70でのadc1のADC分布
46
図41・図42の2つのグラフのペデスタルに注目してみると、屈折率が低いエアロジェルのチェレ
ンコフ光が認められる際にも屈折率の高い方のエアロジェルでチェレンコフ光を検出できなか
ったイベントが残っている。しかし、adc0>60とadc0>70のグラフを見ると、ペデスタルに分布
するイベント数がいずれも図39の下段に示した分布に比べ、著しく減っている。したがって、
完全ではないが、速度の遅い宇宙線粒子と速い宇宙線粒子を弁別できたといえる。
速度弁別の改善策としては、平面鏡を凹面鏡に替えることによって集光効率をあげることが挙
げられる。また、n=1.089のエアロジェルが、昨年度は屈折率n=1.06と測定されていたことか
ら考えて、疎水性のエアロジェルといえども、多湿の場所に放置すると吸湿して屈折率が上昇
し透明度が下がるのではないかと考えられる。
47
9 まとめ・課題
本研究の結果、以下の知見を得ることができた
・ 2インチ口径の光電子増倍管に適したチェレンコフ検出器を設計・製作した
・ n=1.014からn=1.089の4種類のエアロジェルをセットして宇宙線ランを行い、いずれも数個
の光電子に対応する信号とノイズを分離し測定できた
・ 2段積みのセットアップでは、速度の速い宇宙線粒子と遅い宇宙線粒子を弁別する効果を調べ
た
今後、以下に挙げる課題に展開することが考えられる
・ より集光効率を上げるために鏡を凹面鏡にする
・ 今回はn=1.028とn=1.089の組み合わせを用いたが、他の組み合わせの速度弁別効果について調
べる
・ エアロジェルを乾燥保管庫に入れ、屈折率が戻るかを調べる
48
参考文献
2008年度卒業論文
政池
エアロジェルで発生するチェレンコフ光を用いた荷電粒子の測定
明:素粒子を探る粒子検出器,岩波書店,2007.
Les Hancock, Morris Krieger, Saba Zamir (倉骨 彰/三浦 明美共訳);C言語入門,アスキー出
版局1984
塚越
一雄:はじめてのC++,技術評論社,2000.
49
謝辞
卒業研究を行うにあたり、お力添えを頂いた先生、先輩方にこころより感謝申し上げます。指
導教官の宮林先生、および林井先生にはお忙しい中丁寧にご指導いただき、大変お世話になり
ました。また、岩下先輩を始め多くの先輩方にアドバイスを頂き、研究を行うことが出来たと
感じています。
改めて、お世話になった方々全員に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
50
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2009 年度 卒業論文 訂正版 - 奈良女子大学 高エネルギー物理学研究室