国立天文台報 第 6 巻, 101–115 (2003)
1991 年 6 月 4 日の重要度 3B フレアとモートン波
山口喜助,桜井 隆,入江 誠,熊谷收可,萩野正興,
宮下正邦,塩見靖彦,日江井榮二郎
(2003 年 3 月 31 日受理)
The Flare of 1991 June 4 (Importance 3B) and the Associated Moreton Wave
Kisuke Yamaguchi, Takashi Sakurai, Makoto Irie, Kazuyoshi Kumagai, Masaoki Hagino,
Masakuni Miyashita, Yasuhiko Shiomi, and Eijiro Hiei
Abstract
We observed a Moreton wave associated with a flare of importance 3B in the NOAA region 6659 on
1991 June 4. The Moreton wave was emitted from a flare bright point and initially showed the form of a
loop. The speed of the Moreton wave was initially 1500 km s−1 and was later accelerated to 1800 km s−1 .
This acceleration may be due to the propagation of the wave into a coronal hole (with low density and
high Alfvén velocity).
1.
現象を,1960 年に最初に観測した Moreton 等にち
なみ,モートン波と普通呼んでいる.Moreton6) は
はじめに
太陽フレアはコロナ低部におけるプラズマの急激
な加熱及び粒子の高エネルギーへの加速を引き起
1960 年以来,リオ・フィルターの透過波長を Hα の
短波長側,長波長側翼部に移して観測を行い,この
こす爆発現象であり,活動領域における磁場の不安
定化に起因するものと考えられている.即ち,太陽
現象を発見した6–9) .
内田10–13) はモートン波を,フレアの爆発相 (ex-
の内部において磁場は自転,対流などの流れにより
エネルギーを注入され,磁束管として光球面に浮か
plosive phase) に放出され,コロナを伝わる MHD
fast-mode 衝撃波の球状波面が彩層に再入射する交
び上がり,低密度のコロナ中に出現した後,周囲の
磁場との相互作用なども加わって磁場の歪みが増
線であると理論づけている.コロナ中での MHD
fast-mode の伝搬速度は Alfvén 速度にほぼ等しく,
し,エネルギーがどんどん蓄積されていく.フレア
はその磁束管へのエネルギー蓄積が限界に達した
1000 km s−1 くらいになる.この理論は,彩層での
音速や Alfvén 速度よりもはるかに速い速度でモー
とき,磁気エネルギーが突然爆発的に解放される現
象であるといわれている1–5) .
トン波が伝わることを説明しており,現在でもモー
トン波の標準モデルと見なされている.最近,成影
このフレアによってさまざまな現象が見られる.
ら14) は「ようこう」衛星の X 線観測と京都大学飛
高エネルギー粒子,高温プラズマの生成,ガンマ線,
X 線,紫外線,Hα フレア,白色光フレア,電波バー
騨天文台フレアモニター望遠鏡の Hα 観測を組み
合わせ,実際にコロナを伝わる衝撃波の兆候を捉え
スト(II 型や IV 型)など広範囲の電磁波放射,衝
撃波(モートン波など)
,プラズマ雲 (Coronal Mass
ている.
Valniček15) はフレアからの放出物 (ejecta) を 3 つ
Ejection: CME) の放出などである1) .
モートン波は大きなフレアが起こった時に発生す
のグループに分類した.
グループ I:フレアの一部分が高速で空間に噴
る.それはフレアの輝点から遠ざかる方向に,お
よそ弧状をなして太陽面上を 1000 km s−1 程度の速
出する現象,スプレイ (spray) ともいう.速度は
1000 km s−1 程度.
度ではるか遠くまで伝わって行く明るい波面(Hα
中心波長で見た場合),及び暗い波面と明るい波面
グループ II:静穏型プロミネンス(ダーク・フィラ
メント) が突然,空間に吹き飛ぶ現象,‘disparition
(Hα 線翼波長で見た場合)として観測される.この
brusque’ 現象ともいう.速度は 250 km s−1 程度.
101
山 口 喜 助・他
の重要度 3B フレアとそれに伴ったモートン波につ
グループ III:この型の現象の実例として Athay
Moreton9) を引用しており,爆発相を示すフレア
いて,ここで詳細に報告する.
and
からかなりの速度で進んで行く,かろうじて目に見
2.
える流れであると報告している.つまりモートン波
現象である.波の伝搬速度は 330∼4200 km s−1 と
活動領域 NOAA No. 6659 の変遷
1991 年 6 月 4 日にモートン波を伴う重要度 3B の
している.
Smith and Harvey16) は,1960 年∼1967 年の期間
フレアを起こした活動領域は,図 1 に示したよう
に,NOAA No. 6659 (キャリントン自転番号 1843,
に観測された,フレアに伴う波動現象 15 例につい
て詳細に報告している.それらの速度の見かけの横
経度 L248◦ ,緯度 N31◦ )である.この領域は第 22
太陽周期の中で最も活動的な領域であった.NOAA
方向速度は 340∼1060 km s−1 が示されており,彩
No. 6659 をさかのぼると,NOAA No. 6580 の誕生に
層を伝搬する波と仮定して太陽表面に沿った速度に
換算すると,最も遅い速度として 440 km s−1(1961
よって始まる.NOAA No. 6580 はキャリントン自
転番号 1840 の経度 L280◦∼295◦ ,緯度 N22◦ ∼37◦
年 9 月 3 日,1966 年 12 月 30 日の例),最も速い速
度として 1125 km s−1 (1967 年 5 月 23 日の例)が
(Quarterly Bulletin on Solar Activity の synoptic
charts of solar magnetic fields による)にあった古
報告されている.
Zirin and Russo Lackner17)は,最も典型的なモー
い活動領域の先行黒点部分(S 極即ち−極)に,浮上
磁場領域(emerging flux region, EFR)としてキャ
トン波としてよく引き合いに出される 1966 年 8 月
28 日の重要度 3+ のフレアに伴った波動現象を報
リントン自転番号 1841 の経度 L280◦ ,緯度 N29◦ に
誕生した活動領域である.この NOAA No. 6580 は
告している.そのモートン波はフレアの西側の部
分から噴出したスプレイと起源が同一であり,フレ
誕生した当初から双極磁場の軸が南北方向に向い
た逆転配位(f/p 配位)を示しており,緯度方向に
アの爆発相に発生して,約 1250 km s−1 の速度を示
したと報告している.また Zirin4) は,モートン波
長い一つの大きな半暗部をもった黒点が典型的な δ
型に発達して西縁に没した.
は通常,フィラメント又は活動領域のようなある種
の磁気的境界に達するまで伝搬すると論じている.
次のキャリントン自転番号 No. 1842 では NOAA
No. 6619 として回帰してきた.NOAA No. 6619 は
我々は国立天文台(東京天文台)においてビデオ
円形に近い楕円形をした一つの半暗部をもった黒
録画により, 活動領域 NOAA No. 4474 における
1984 年 4 月 25 日の重要度 3B/X13.0 のフレアと,
点で代表される黒点群に成長していた.
そしてキャリントン自転番号 No. 1843 に NOAA
活動領域 NOAA No. 6659 における 1991 年 6 月 4
日の重要度 3B/X12.0 のフレアにそれぞれ伴った
No. 6659 (経度 L248◦ ,緯度 N31◦ )として回帰し,
一つの大きな半暗部の中に在る一つの大きな暗部が
2 つのモートン波の観測を得ることができた.
山口18,19) は次のように報告した: 前者のモートン
分裂と合併を繰り返しながら,半暗部が複雑なリア
ス式の形をして非常に大きくなって行った.この
波は初めに 1260 km s−1 で伝わって行き,約 140 秒
後 660 km s−1 に減速した18) .このモートン波の伝
NOAA No. 6659 はやはり,双極磁場の軸が南北方
向に向いて,逆転配位(f/p 配位)を示していた.ま
搬速度が遅くなった位置は,波が進む方向にあっ
た古い活動領域(黒点はすでにない)の磁気中性
た,黒点群の磁場の型及び McIntosh 分類は βδ–βγδ
及び DKC–EKC–FKC–EKC で,際立った発達を示
線を通過したときであった.一方,後者のモート
ン波は約 2500 km s−1 で伝搬を始め,その後およそ
した.これらの暗部の分裂や合併に伴って 2000 G
∼4100 G の磁場の強さをもつ+極(N 極)及び−
4000 km s−1 に加速されて伝搬して行ったと速報的
に報告した19) が,解析法に誤りがあり速度値が過
極(S 極)の黒点が絶えず変化していた.
次にマグネトグラムでみると,活動領域 NOAA
大であった.本論文において再解析して速度値を
No. 6659 は非常に変化していることがわかる.ま
訂正したが,加速の傾向はやはり見られ,前回の解
釈と同様,コロナホール(密度が低い)に遭遇した
ず,図 2a の NOAA No. 6619 では,5 月 10 日と 13
日の模様が似ていることから,NOAA No. 6659(図
ことによると考えられる.
これまで多くの研究者による報告の中では,モー
2b)に比べて安定しているようにみえる.次に図
2b の NOAA No. 6659 では,高緯度側に位置してい
トン波が発生した直後の波の模様については,ほと
んど触れられてこなかった.我々の観測により,発
る 2 つの+極 f1 ,f2 (f は後続極性を意味する)は
合併して,その後,低緯度側の巨大な−極(先行極
生した直後に鮮明なスプレイ状になっている波の模
様を確認することができたので,1991 年 6 月 4 日
性)の大きな主暗部に擦り寄って−極を分断しなが
ら,低緯度側の+極 f3 とつながった.この f1 ,f2
102
1991 年 6 月 4 日の重要度 3B フレアとモートン波
図 1. 黒点のスケッチ観測に基づく NOAA No. 6659 の変遷
はもともと一つであった+極が分裂して回帰した
ものであり,一方,f3 は多分回帰してきた東縁付近
ア)
,6 月 6 日(4B/X12.0,白色光フレア)
,6 月 7
日(3B/M4.2)
,6 月 9 日(3B/X10.0,白色光フレ
で新しく浮上磁場領域(EFR)として誕生したもの
であると考えられる.その後,−極の進行により合
ア),6 月 11 日(3B/X12.0,白色光フレア),6 月
15 日(3B/12.0,白色光フレア)である.このよう
併していた高緯度側の部分の+極が再び分裂した.
このように NOAA No. 6659 の磁場分布はめまぐる
に第 22 太陽周期の中で非常に活発なフレアの活動
度を示した.
しく絶えず変化していた.この光球面上の不安定に
より,磁気エネルギーの歪みが限界に達したのが 6
3.
1991 年 6 月 4 日の Hαフレアとモートン波
1) Hαフレア
a) 活動中心 (a)
月 1 日や 4 日のフレアであると思われる.そして,
6 月 4 日の重要度 3B のフレアの最初の輝点(図 3,
a 点)は,17h32m∼18h24mUT(以後 UT は
4,5 の
この重要度 3B の Hα フレアは,その活動の中心が
(a) と (A) の 2 つから成っていることがわかる(図
省略する)のデータでは,この低緯度側に出現した
新しい磁場の+極 f3(EFR)と大きな主暗部の−極
との中性線近くにあった.またモートン波の発生輝
A 点)は,高緯度側の分裂した+
点(図 3,4,5 の
3,4,5,表 1)
.活動中心 (flare active center) (a) で
a (71.0◦ E,32.0◦ N)が 03h37m18s
は,フレア輝点
極 f1 ,f2 付近であった.
この活動領域のフレアについては,Schmieder
た.この活動中心 (a) は大きな−極(先行極性)の
c ,
h ,
a ,
g,
黒点暗部側にフレアリボン I(輝点 j ) が緯度方向に配列しており,それに相対して
e ,
l ,
f ,
i ,
b )が+極
フレアリボン II(輝点
に始まり,フレア現象としては典型的な発展を示し
et al.20) も報告している.また,本論文で解析し
たモートン波現象は Zhang21) が国立天文台およ
び北京天文台のデータを使って研究している.な
お,この領域における大きな Hα フレアは,6 月 1
(後続極性)側に同じく緯度方向に配列している.
そしてビデオ画像をみると,いくらか発生時刻がず
e と
c ,
l と
h ,
f と
れているが,フレア輝点は
日(1F/X12.0)
,6 月 4 日(3B/X12.0,白色光フレ
103
山 口 喜 助・他
104
1991 年 6 月 4 日の重要度 3B フレアとモートン波
図 2. ハワイ大学ミース天文台のストークスポラリメータによるベクトル磁場観測:a)NOAA No.6619,b)
NOAA No. 6659 (Courtesy of Mees Solar Observatory, University of Hawaii)
105
山 口 喜 助・他
図 3.
Hα 単色太陽写真儀(口径 14 cm,透過幅 0.75 Å リオ・フィルター)によって撮影された 1991 年 6 月 4 日の
フレアの時間変化.03h39m20s が輝度最大,03h41m20s がフレア面積最大の時刻に相当する
106
1991 年 6 月 4 日の重要度 3B フレアとモートン波
図 4.
1991 年 6 月 4 日のフレアの初相から最大相までのビデオ画像(口径 4 cm 望遠鏡と透過幅 0.5 Å リオ・フィ
ルターによる)
107
山 口 喜 助・他
図 5. 03h41m20s の写真(図 3)から求めた各フレア輝点の位置.小文字,大文字は各々活動中心(flare active
center)(a),(A)に関連する輝点を示し,時刻の順番に従ってアルファベットをつけた
108
1991 年 6 月 4 日の重要度 3B フレアとモートン波
表 1. 各フレア輝点の発生時刻(UT)
1)
活動中心 (a)
フレア輝点
a
03h37m18s
b
03h37m29s
c
03h37m34s
発生時刻
d
03h37m57s
e
03h38m09s
f
03h38m15s
g
03h38m35s
h
i
j
2)
活動中心 (A)
フレア輝点
発生時刻
A
03h37m43s
γ
03h38m09s
B
03h38m37s
C
03h38m39s
D
03h38m42s
E
03h38m46s
F G
03h38m49s
03h38m47s
03h38m54s
03h39m15s
k
03h40m07s
l
03h40m43s
a ,
i と
g ,
b と
j が対になっている.このように
a
活動中心 (a) は EFR の+極 f3 付近に起こった
H
03h38m53s
I
03h38m54s
J
03h39m02s
K L
03h39m04s
M
03h39m11s
N
03h39m15s
O
03h39m18s
P
03h39m20s
Q
R
03h39m34s
S
03h39m38s
T
U
03h39m50s
V
03h40m00s
さを増して行った.
輝点を中心にして,南北方向へ交互に爆発的に輝
いて伸びた.輝度及び面積共に最大相(03h39m20s
b) 活動中心 (A)
一方,もう一つの活動中心 (A) は今までに観測さ
∼03h42m20s)を過ぎたフレア後相では,活動中心
(a) には捩れた低いループが Hα フレアリボン上に
れていない珍しい特徴を示している.活動中心 (A)
は図 3,4 そして 5 からわかるように,一連の黒点
現われた.エネルギー解放(明るい部分)はやがて
ループを伝わって上へ移動し,低いアーケードか
をぐるりと取り囲んでいる環状の明るいプラージュ
群ではなく,高緯度側の先端にある鮮明な単独のプ
A を基点として,見るからに噴出する
ラージュ部分
ら高いアーケードにエネルギー解放が進行して行
くのがわかる.また捩れた多数の不連続なループ
様相を示した.その外側に存在している明るさの
群から成り立っていることもわかる.そしてフレ
h ,
j —
k が最後まで
アはこの活動中心 (a) の輝点
非常に微弱な筋状のプラージュも次々と増光した.
しかも,この活動中心 (A) はすべて高緯度側(北
残って,07h11m20s に終わった.このフレア輝点
h ,
j —
k はフレアループの足元であると考えられ
る.その後次第に輝度が弱くなったループ・プロミ
ネンス(loop prominence system)は 06h32m15s に
極)の方向へ発達して行った.この活動中心 (A)
は,03h37m43s に+極 f1 ,f2 付近に起こったフレア
A (71.0◦ E,37.5◦ N)と近接して 03h38m09s
輝点
γ (71.5◦ E,38.6◦ N)の合
に起こったフレア輝点
はおよそ 64000 km の高さに達し,観測が再び雲の
γ が一気に増
併によって始まった.このフレア輝点
通過と日没によって中断されるまで次第にその高
光した時が活動中心 (A) の爆発相のスタートである
109
山 口 喜 助・他
110
1991 年 6 月 4 日の重要度 3B フレアとモートン波
なりながら低緯度側の方向へも,太陽面上を掃いて
いった.これまで報告されている多くのモートン
波の観測では,モートン波は漠然としたある固まり
の明るい部分が次第に円弧状になって遠くへ伝わっ
ているように見えている.しかし,今回のモートン
波は発生直後,スプレイ状の明るい部分をなしてお
り,次第に円弧状になって遠くへ伝わって行った.
図 6.
この波をもし真上から見ると,同心円状に広がって
伝搬していると推察できる.
ビデオ録画によるモートン波の画像
ビデオ録画の各フレームでのモートン波の位置
a) 取り込んだ画像の一部を拡大したもの,
は,静止画としてみていると決めにくいので,動画
として再生しつつ決めていった.差分画像(ある時
b) a) のコントラストおよび明るさを調整
してモートン波を鮮明にしたもの,
c) 03h39m34s と 03h40m04s の差分画像
刻の画像とその前の時刻の画像の差を取る)も試み
たが,図 6c のように初期の時刻では波面がよく際
なお,数字は録画時に入れている時刻文字で
ある
だつものの,時間がたって波が淡くなると検出しに
くいことは変わりなく,従って今回の解析では,通
A は 03h38m20s に
A―
と考えられる.フレア輝点
B 点,
A ―
C 点,
A ―
D 点の方向にそれぞれ ejecta
常の強調画像(図 6b)とビデオ再生とを頼りに波
の位置を決めた.現象が東縁近くに発生したこと
を一気に放出しており,特に高緯度方向(つまり,
A ―
D 点―
F 点方向)への ejecta が最も強く見られ
B ,
C ,
D 点が数秒間隔で順次増光し,
た.その後
A ―
E ―
G ―
V ,
G ―
Q の方向へ数
更に高緯度側へ
と,画面内にスーパーインポーズしている時刻文字
像の中を波が偶然にも進行したことで,解析は困難
な作業であった.
図 7 はこのようにして決めた波面の位置を 30
秒∼数十秒間隔(平均 5 秒間隔)で順次輝いて行っ
S は活動中心 (A) の最北端で
た.なお,フレア輝点
秒間隔で示したものである.波は活動領域 NOAA
No. 6659 の北端からほぼ東縁に沿って北極の方へ伝
ある.そして (A) は活動中心 (a) に背の低いルー
プがフレアリボン上に現われた時にはフレア輝点
E ,
G ―
V ,
G ―
Q は終わり,
A ―
F のみが残って
A ―
F も 05h13m15s には終
いる.そのフレア輝点
搬して行った.波自体が淡いため,円弧状の波面全
体を決めることは難しい.従ってここでは,波の主
たる伝搬方向である大円を想定し,この大円に近く
かつ波面上で明るい点を各時刻で決めて追跡した.
この輝点の位置の精度は,輝点の広がりから評価し
わり,元の筋状のプラージュに戻った.このように
フレア輝点の発達して行く過程の違う現象が同居
しているのは珍しい.
2)
て ±10(±7000 km)程度である.各輝点をつない
でたどり速度を求めようとすると,投影効果の補正
に極度に敏感になるので,以下に述べる波の伝搬速
A 点を
度の導出では,こうしてマークした輝点が,
モートン波の観測
我々は上記のフレアに伴うモートン波を観測する
ことができた.Hα 単色太陽写真儀の透過幅 0.75 Å
中心とする同心円の上にあると仮定し,その円の半
径をもって各時刻での波の到達距離と考えている.
のリオ・フィルターによるフィルム撮影の観測で
は,図 3 に示したように 03h41m20s のただ 1 フレー
このモートン波の伝搬特性を図 8 に示す.前に述
A 点と考えら
べたようにモートン波の発生地点は
ムにしかモートン波は検出されなかった.しかし,
それを補うための透過幅 0.5 Å のリオ・フィルター
れるので,図 7 の各点の緯度 λ,経度 φ を日面経緯
度図を使って読みとり,
によるビデオ録画によって,詳細な情報を得ること
ができた.
cos θ = cos(90 − λ0 ) cos(90 − λ)
+ sin(90 − λ0 ) sin(90 − λ) cos(φ − φ0 )
このモートン波はこれまで報告されているものに
比べて発生直後鮮明な形で見えている.まずモー
トン波がどの方向に,どんな形で伝搬しているのか
A 点との角
により,各時刻のモートン波の波面と
A 点の緯度,経度で
距離 θ を計算した.λ0 ,φ0 は
をビデオ録画により調べた(図 6a,b).その結果
わかることは,波は鮮明なスプレイ状をして発生し
ある.θ を太陽面上の距離に換算したのが図 8a で
ある.次に測定点(●)に時間 t の多項式をあては
ており,その延長方向に波の最も明るい部分が伝搬
して行った.そして波は円弧状に広がることによっ
,その多項式を微分して速度を求
め(図 8a の曲線)
A 点の輝き始める時刻
めた(図 8b)
.t の原点は,
て,スプレイ状の延長方向よりも明るさが順次弱く
03h37m43s にとった.多項式のあてはめでは,まず
111
山 口 喜 助・他
図 7.
モートン波の伝搬方向とコロナホールの位置.右下に挿入してある円は半径 10” で,概略の測定精度を
表している
図 8. 1991 年 6 月 4 日のフレアに伴うモートン波の伝搬特性:(a)到達距離,(b)伝搬速度
112
1991 年 6 月 4 日の重要度 3B フレアとモートン波
1∼6 次式を仮定して AIC(赤池の情報量基準)を
II 型バーストの発生は Hα フレアの爆発相(03h38m
求めた.すると 2 ないし 3 次式が AIC を最小にす
ることがわかったので,ここでは 3 次式を採用し
ころ)ではなく,それより後の最大相(03h40m)に
対応している23) .しかし II 型バーストは活動領域
ている.多項式あてはめ後の残差の標準偏差は約
5000 km であり,見積もった波面位置の測定精度と
から遠い上層コロナに達してから電波放射として
見えるので,II 型バーストとモートン波の共通の原
A 点から発せ
因である MHD 衝撃波は,時刻 t1 に
だいたい同じ値となっている.
伝搬速度は,波が発生した初相では 1500 km s−1 ,
られたと考えてよいであろう.
−1
そして後半には 1800 km s の速さで北極の領域へ
伝わって行った.この速さはこれまで多くの研究者
3)
議論
によって観測されたモートン波の速さ9,16,17,22) の中
a) モートン波は発生直後,一見してスプレイ状
でも大きい部類に入る.中でも Zirin22) は,発生し
た当初の速度が 4000 km s−1 で,その後 2600 km s−1
に見えるが,これをよく見るとループ状を成してい
ることがわかる.図 10a,b に示したように,進行
に減速しながら伝搬して行ったモートン波を報告
している.ここに報告する 1991 年 6 月 4 日のモー
方向に対して幾重にもループを成して,その中の最
も明るい部分が時間と共に次々と遠くのループへ移
トン波では,伝搬速度がその逆の傾向を示した.
前節で述べたように,活動中心 (A) から明るい
動しているように見える.03h39m34s と 03h40m04s
の画像の比較から,低いループから高いループへ明
プラズマがあたかも噴出するかのような様相を示
し,全て高緯度方向(つまり,モートン波の進行方
るい部分が次第に移動している.
b) モートン波が後半加速して伝搬して行った
向)に発達していたことから,モートン波の発生源
A であると判断できる.
はフレア群の中の中心輝点
A
フレア輝点 は t1 =03h37m43s に輝き始め,フレア
γ と合併する t2 =03h38m09s が急激に一段と明
輝点
起因は,コロナホールに遭遇したためであろう.図
7 はコロナホールの観測された 6 月 2 日から,太陽
の自転角速度のみにより算出した 6 月 4 日相当の北
極域コロナホールと,モートン波の進行方向を合成
A
るさを増した時刻である.t3 =03h38m20s には,
点から発したと考えられるスプレイの先端がはっ
したものである.これからわかるように,モートン
波は後半相にコロナホールの中を伝搬しているこ
.この 3 つの時刻を図 8a に
きり見え始めた(図 9)
A 点,
も■で示してある.縦軸の距離は,t1 ,t2 は
とがわかる.モートン波の伝搬速度はほぼ Alfvén
√
速度 VA = B/ 4πρ であるから,コロナホールにお
ける低い密度がモートン波の加速の原因と考えら
t3 はその時刻のスプレイの先端としてある.図 8a
れる.
の点線は,あてはめた 3 次曲線を延長したもので,
t1 ,t3 点を通るが t2 点からはややはずれるように
A 点で時刻 t1
見える.このことからモートン波は
γ 点が輝いた時にはモートン
に発生し,時刻 t2 に
4.
結論
高速のモートン波を発生した活動領域 NOAA
γ 点より先に進行していたと考えられ
波はすでに
る.また,モートン波が W1 点で初めて認識され
A 点から W1
る時刻は t4 =03h39m34s であるから,
No. 6659 は第 22 太陽周期の中で最も活発だった
領域で,双極磁場の軸が南北方向に向いた逆転配位
点に達するまでの目に見えない波の伝搬速度は約
(f/p 配位)の非常に大きな一つの半暗部の黒点で
象徴される黒点群である.黒点の分裂や衝突を繰
1100 km s−1 と計算される(時間差 t4 −t1 =111 秒)
.
なお,電波の II 型バーストはモートン波との対応
り返して益々活動度が高くなった.その活動度が
始まった時期は東縁近くで+極(f 極)の EFR が出
がよいとよくいわれているが,このフレアの例では,
現した頃であり,その直後モートン波を伴った重要
図 9. モートン波の発生を示すスプレイ現象
113
山 口 喜 助・他
a)
図 10.
モートン波発生直後のループ状の波面
a) コントラストを強調したビデオ画像,b) a) を元にして作ったスケッチ
114
1991 年 6 月 4 日の重要度 3B フレアとモートン波
Aを
度 3B のフレアが起こった.このフレアは輝点
trophys. J., 133, 935.
基点として順次北極の方向(つまり,モートン波の
進行する方向)へ発達して行く増光が特徴である.
A が増光を始めたときがモートン波の発
この輝点
10) Y. Uchida: 1968, Solar Phys., 4, 30.
11) Y. Uchida: 1970, Publ. Astron. Soc. Japan,
生したときである.
22, 341.
12) Y. Uchida, M. D. Altschuler, and G.
このモートン波は,波が確認された当初ループ
を成している.そして波の中での最も明るい部分
Newkirk Jr.: 1973, Solar Phys., 28, 495.
13) Y. Uchida: 1974, Solar Phys., 39, 431.
はループを移動しているように見える.このモー
トン波の伝搬速度は当初 1500 km s−1 で,後相では
14) N. Narukage, H. S. Hudson, T. Morimoto,
S. Akiyama, R. Kitai, H. Kurokawa, and K.
Shibata: 2002, Astrophys. J. Letters, 572,
L109.
1800 km s−1 に加速した.これはモートン波が密度
の低いコロナホールに進行したためと考えられる.
15) B. Valniček:
謝 辞
1964, Bull. Astron. Inst.
本稿をまとめるにあたり,筆者の一人(山口)は
Czech., 15, 207.
16) S. F. Smith and K. L. Harvey: 1971, in
故 内田 豊 東大名誉教授より諸研究者の学説やい
ろいろな新情報をその都度教えていただき,くじけ
Physics of the Solar Corona, ed. C. J.
Macris (D. Reidel Publ. Co., Dordrecht),
そうになるところを励まされた思いがする.ここ
に深く感謝申し上げると共にご冥福を心からお祈
p. 156.
17) H. Zirin and D. Russo Lackner: 1969, Solar
り申し上げる.なお田中伸幸,西野 洋平両氏にも
解析を助けていただき深く感謝する.
Phys., 6, 86.
18) 宮沢正英,山口喜助:1987, 東京天文台報,
参考文献
21, 101.
19) T. Sakurai, K. Ichimoto, E. Hiei, M. Irie,
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社,p. 135–139.
2) 田中捷雄:1981b, 天文月報,74, p. 307.
Zhao, and K. Shinoda: 1992, Publ. Astron.
Soc. Japan, 44, L7.
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23) T. Sakurai, M. Irie, M. Miyashita, K. Yam-
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9) R. G. Athay and G. E. Moreton: 1961, As-
115
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1991年6月4日の重要度3Bフレアとモートン波