教授学的状況理論による
日豪数学科授業の比較分析
の試み
関口靖広
山口大学
授業の国際比較
• 行動分析
単位: 授業者・学習者の行動パターン
目標: その傾向の理解
例: 「授業の目標」を明示する発話の頻度が○%で少ない
• 事象分析
単位: 授業における事象パターン
目標: その様式と機能の理解
例: 「机間指導」の仕方と目的の理解
• 状況分析
単位: 授業における状況パターン
目標: 当事者と状況との関係性の理解
例: 「妥当性判断の状況」において、教師と生徒たちはどの
ようにして合意を生み出すか。
教授学的状況理論
学習への
期待
教師
教授学的契約
の交渉
学習への
期待
環境
学習者
亜教授学的状況
(Brousseau, 1997, p. 56)
4つの教授学的状況
活動の状況(situation of action)
定式化の状況(situation of formulation,またはcommunication)
妥当性判断の状況(situation of validation)
制度化の状況(situation of institutionalization)
教授学的契約(didactical contract)
教授学的契約
教師側の
成立
生徒側の
学習についての期待
学習についての期待
お互いの期待のレベルが
符合している状態
データ収集と分析の方法
対象:日本とオーストラリア の第8学年担当の
「すぐれた」熟練数学科教師3名の授業:
日本サイト:
J1, J2, J3
オーストラリアサイト:A1, A3, A4
各サイトで一連の10時間の授業をビデオ記録
教師と生徒へインタビュー
教科書、ワークシート、ノート等のコピー
質的分析
授業展開のパターン
日本のサイト
[j1]教師が1つの問題を課す.
[j2] 生 徒 が 個 別 に 課 題 に 取 り 組 む .
その後,グループで取り組む.
課題解決を生徒に「委譲」
活動の状況
定式化の状況
[j3]黒板で解答が発表され,それにつ
いてクラス全体で話し合う.
妥当性判断の状況
[j4]教師が大事なポイントをまとめる.
制度化の状況
オーストラリアの授業展開
[a1] 教師はホワイトボードかワークシートで
生徒に課題を与える.
[a2] 生徒たちは与えられた課題に取り組む活動
をする.
[a3] 教師はその活動から現れる数学的ルール
(公式や性質)を導入する.
課題解決を生徒に「委譲」
活動の状況
定式化の状況
妥当性判断の状況
制度化の状況
[a4] 教師はそれらルールの使い方を典型的な問
題を使って説明する.
[a5] 教師はそれらルールを使う多くの練習問題
を生徒たちに課し,教師は生徒たちを個別に指導
してまわる.
活動の状況
オーストラリアの事例(A2-L12)
トピック:多角形の内角の和
Polygon
Number of
sides
Number of
Triangle
Triangle
Quadrilateral
Pentagon
Hexagon
Heptagon
Octagon
Nonagon
Decagon
ワークシート1
Sum of angles
Inside polygon
多角形の内角の和をもと
める活動
4隅の角を切り取って合わせると、
1回転になるので、内角の和は360度
ワークシート2
多角形の内角の和の公式の導入
定式化
妥当性判断
T: [全体に]よし.よく聞いて.最初,えー,最初3つのやつを貼り付けて,
180ってわかった.辺が4つの図形ができた人は360ということを見つけた.
ここまでで何が起こっているのか,TR君が気がついたことがあるそうだ.
[TRに]何が起こっているんだと思う,TR?
TR: 180.180たす.
T: 180ずつ足していった.[全体に]5つの辺の図形をやって,540になった
ね.これは,1回転と半だった.
[不明]:つまり,180を足していく.
T: [辺が]一つ増えるたびに,180を足していくんだね.
教師は、辺が10までの場合の内角の和を180を足してもとめる。
制度化
教師は、公式「 (辺の数 - 2) x 180」を板書し、使い方を説明する。
新たな活動
公式を使った練習問題: 15角形、20角形、25角形の内角の
和・・・
教授学的契約の交渉
多角形の内角の和をもとめる活動
公式の定式化
公式の制度化
具体物の実測で求めてよい
公式の妥当性判断
数学的活動の規範のシフト
制度化の過程で、新たな教授
学的契約が導入され、それを
受け入れることが求められる
公式を使う活動
公式を使って求めなければならない
オーストラリアの事例2(A1)
L4において、円周
をひもを使って測
定する活動を行っ
た。
その最後に、円周
率を導入し、円周
を求める公式を導
入した。
オーストラリアの事例2
L7
課題:半径6mmの4分円の周の長さを求める
M: 先生,もっと簡単なやり方知ってるよ.
6 mm
T: へえ,最初の問題?2番目の?
M: どちらもさ.
T: ホント?
M: ひも.
具体物の実測
T: ひも?ひもで?もちろん,いつだってひもでやれるよ.で
もね,図は正確な大きさで描かなかったけど,どうする?ひ
もを使うつもりなら,どうする?どうしたらいい?
教授学的契約の交渉
M: 定規を使う….
T: そして?
M: 長さを測る.
T: 黒板にある図を測るの?
A: 当てずっぽうさ.だって正確じゃないし,正しくないし.
公式を使う
日本の授業の特徴
課題解決を生徒に「委譲」
活動の状況
定式化の状況
妥当性判断の状況
制度化の状況
生徒は,課題の解決を通して一般的なパター
ンを見出すことを期待されていた.
気づきを表現し練り上げる「定式化」「妥
当性判断」の場面は重要になっており,板書
や話し合いで大きな時間を占めていた.しば
しば複数の生徒の考えが取り上げられ,教師
が「制度化」でねらっている考えだけが取り
上げられるようにはなっていなかった.
実測を主目標とした活動がみられず、実測から
公式利用への突然のシフトが起こらなかった。
ダウンロード

教授学的状況理論による日豪数学科授業の比較分析の試み