気象研究所技術報告 第1号 1978
6.日射測定による大気混濁度の監視
ホ ホ ホ ホ
村井潔三,小林正治,後藤良三,山内豊太郎
6.1 序 論
大気中に混在する物質による大気混濁の状態を表わすための日射測定は古くから行われている。大気中
を通過する直達日射は大気物質による散乱および吸収の効果によって減衰を受ける。その減衰量の大小に
よって大気の混濁の状態を知ることができるのであるが,これを表わすのに消散係数が広く用いられてい
る。地表面に入射する波長λの直達日射の強度1(λ)は,大気の上端に入射する目射強度を10(λ)とす
ると,
1(λ)=lo(λ)exp{一τ(λ)・m}
(61)
と表わされる。τ(λ)が消散係数である。mは大気光路程であって,平行平面大気を仮定した場合には,
m=sec Zである。実際の大気では太陽高度力1極めて低くなった場合(ζ>750)に補正が必要となる。
τ(λ)は単位底面積を有する地表面から大気の上端までの垂直気柱についての消散係数を表わしており,
その特性に応じて以下に記す諸成分に分離して考えることができる。たとえば,
(1) 空気分子による散乱 τR(λ)
(11) 気体状物質による吸収 τG(λ)
(iの エー・ゾル粒子による散乱 τM(λ)
(IV) エーロゾル粒子による吸収 ’ τA(λ)
のように分離すれば,散乱および吸収の特性の相異によって分離され,そのおのおのの量を求めることに
より大気中の物質の放射特性をかなり詳細に知ることができる。τR(λ)はいわゆるレーリー散乱による
消散係数であって,空気分子の密度,あるいは,気圧がわかれば精密に計算される量である。τG(λ)は
大気中の種々の物質の吸収を総て含んでいるが,実際に大きな効果を示す気体としてはオゾンと水蒸気で
あって酸素分子がこれに次ぐ。τM(λ)およびτA(λ)は何れもエーβゾル粒子の効果によるものであっ
て,エー・ゾルの放射特性に未知の部分が多く,この二つを独立に求める問題は今後に残されている。
消散係数を上記4成分に分けて考えると,τ(λ)は,
τ(λ)=τR(λ)+τG(λ)+τM(λ)+τA(λ)
(62)
τ(λ)=T(λ)・τR(λ)
(63)
と表わされ,
雫高層物理研究部
一88一
気象研究所技術報告 第1号 1978
で定義されるT(λ)はLinke(1942)によって提唱された混濁因子である。式からわかるように,空
気分子のみの大気を標準の清澄大気と見傲して,その消散係数をτR(λ)とすれば実際の大気の消散係数
τ(λ)がτR(λ)の何倍であるかによって大気の混濁度を表わすことができる。したがって,混濁の原
因が何であるか,言いかえれば,(6。1)式の各項にっいて論じない限りでは明確な意味を有する。しか
し,実際には大気の混濁を現わす場合に最も重要なのはエーロゾルによる混濁であって,この成分を独立
に知ることが必要になる。そのためには,水蒸気,オゾン等の吸収の効果のない波長を選んで測定する必
要があり,両方の効果の混在する波長では分離が非常に難かしくなる。また,(6。2)式の各項はそれぞ
れ波長の関数として特有の分布を有し,とくに,エー・ゾルの項は粒径分布,屈折率によって大きく変動
する。したがって,特定の波長のみの混濁因子では大気の混濁の状態を明確に表現するこ,とにならない。
(62)式に示される消散係数は,全波長域についての積分値,すなわち,通常の日射計によって測定
される日射量からも形式的には求めることができる。この日射量を1とし,
1ニ10・exp{一τ・m}
(6.4)
という形で衷わされるものとすれば,
1.イ21,(λ)剛一(λ)・m}dλ
τ=一一加 (6.5)
m 風λ2巧(λ)dλ
によって全日射量に対する消散係数が得られる。(6。4)式のI o,すなわち,右辺の分母の積分値は太
陽常数を表わす。(6。3)式と同様に,
τ=T・τR
(66)
によって混濁因子が定義される。こうして得られたTは,日射の測定値から1個の因子として求められる
のであるが,(6.5)式からわかるように,τはmの関数となる。すなわち,τ(λ)の全く等しい大気
について異なるmに対する測定値から求めたτは異なる値を示すことになる。一般的性質として,日射の
波長分布の最大値はmの増加とともに長波長側に移動し,見かけ上τが減少する特性を有する。
の
大気の混濁度の表現法として古くから用いられているもう一つの方法はAngst r6m(1961,1964)に
よって定義された混濁係数である。エーロゾルの粒径分布をいわゆる指数法則と仮定すると,エーロゾル
の散乱による消散係数は,・
一6‘、
τM=βλ
(α7)
の
と表わすことができる。Angst而mは,自らの測定に基づいてα=1。3と牢め,水蒸気の影響を除くた
めに波長α630μm以上の領域の日射量はフィルターによって取除き,紫外および可視域の日射量から
τMを求める方法を提案した。その後,S chぜepp(1949)はαの変動が大きいことを問題として取上げ1
−89一
気象研究所技術報告 第1号 1978
二つの波長につい七のτMの測定値からαを定める方法に発展させた。そのため,日射の測定は2∼3枚
のフィルターによって波長域に分割して行う必要がでてくる。実際には,波長域として0。350∼α530μm
および0.630∼0.700μmの二つの波長域をフィルターによって選び出し,おのおのに対応するτM(λ)を
算出し,(6.7)式からαおよびβを求める。こうして求めたτM(λ)は,エーロゾルの粒径分布の変動
を考慮に入れた点でAngstrδmのものよりも改良されているが,粒径分布が指数法則分布であるという
仮定は除かれていない。
以上の他にも・いくつかの改良が試みらむているが・何れにしても・大気の混濁状態を一つのパラメー
ターで明確に表現しようとすると種々の難問を生ずる。もう一度,上記の混濁因子,混濁係数の利害得失
をまとめて見ると,Linkeの混濁因子は明確な意味を有する定義と考えられるが,全波長域日射総量か
ら求めた混濁因子は,含まれる種々の効果の分離が不可能である。また,消散係数が波長の関数であり,
これが変動することによって生ずる混濁因子の太陽高度に対する依存性は極めて大きな欠陥となる・単一
波長について混濁因子を求めれば太陽高度への依存性はなくなるが,偏った表現法になる。これに対し,
且ng“trbm およびSc而eppの混濁係数はエーマゾルの消散係数のみを対象として定義されている点
は優れているが・エー・ゾルの性質について仮定してある点が問曄と毒なる。
測定の面から考えると,全波長域の総量にっいての測定は最も簡易であり,波長を細かく分割する測定
は細かく測定する程情報の量は多くなるが困難の度も増加する。現在,世界各国で実施されている方法は,
測定を容易にするという点に重点がおかれ,観測網による測定としてはフィルターによる波長域別測定が
せいぜいで,分光測定をルーチン測定に用いているところはない。
この研究の目的は,バックグラウンド状態の大気混濁度を監視するための日射測定法を開発することで
あって,上に述べた測定法をそのまま踏襲することも可能であるが,われわれは豊富な情報を得ることに
主眼をおいて装置の設計を試みた。長期間にわたる連続的なルーチン測定と同時に,研究的な精密測定も
可能ならしめるような方法を目標とした。
測定の要素としては,消散係数を求めるための直達日射成分,およびエー・ゾルの放射特性を知る目的
と,地表面へ入射する日射エネルギーの監視とを目的とした全天日射および天空散乱成分である。これら
の諸成分について,全波長域総量,フィルターによる波長域別日射量,および精密分光日射量の綜合的測
定のための装置の設計を行った。この中で,分光測定をルーチン測定として実施し得るような自動化の問
題が中心課題である。また,この様な特殊な型の目射計については日射量の絶対値を得るための検定法が
重要な課題となってくる。そのための標準電球の作製,それに用いる光学系の設計もこの研究に含まれて
いる。この報告回ま新たに製作した分光日射計の設計およびその測定資料について述べる。’
6.2 分光直達日射計
波長別に測定を行う場合には,出来る限り狭い波長幅を取り出すことが望ましく,測定波長範囲は広い
ほどよい。また,個々の測定波長の純度は高くする必要がある。このような要素を考慮に入れて分光測定
一90一
気象研究所技術報告 第1号 1978
を行うために・複式分光器による分光方法を採用した。この分光器を赤道儀上に設置して太陽方向を自動
的に追跡しながら測定を行う。装置は極力自動化を計ってあるが完全なものには達していない。図危1は
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図6.1 分光直達日尉計のブ・ック図
①増幅器の出力はプリントされる前に大きさの判定がなされ,予め定めた限界値を超えて
いる場合にはN D F員terの濃度を一段上げる信号が発信され適当な値におさまった後
にプリント指令が出される。出力の小さい方にも予め限界値を定めこの値より小さい場合
にはフィルター濃度が下げられる。
② チョヅパーによって入射光を交流化すると同時に信号が増幅器に送られ出力を整流する
場合の同期信号となる。
ゆ
③波長送りはパルスモーターによってなされる。1パルス当り5Aの割舎で被長は進む。
したがって,測定波長間隔は最少5且である。波長のサソプリソグ間隔は可変であって,
の の
5Aきざみで最大500A間隔まで可能である。
④①に述べた出力の大小の判断によってNDフィルターヘの信号が発信され,フィルター
ターレットが回転し適当な濃度のフィルターが選ばれる。
⑤入射光のビームは回転セクターで切断され,検出器の出力は交流として増幅される。そ
の周波数は約200c/sである。
⑥ 太陽追跡用時計モーターであって,直達臼射の有無にかかわらず太陽方向を追跡する。
⑦⑧太陽遭跡用サーボ系であって,測定の際に時計追跡と切換えて働かせる。
∫
装置の系統を示すブ・ヅクダイアグラムで,外観の写真を図6。2に示してある。以下,各部の詳細につい
て述べる・
①分光器部
入射スリットから入射した日射が分光されて射出スリットに
達するまでの部分である。その内部の配置は図63に示される
通りである。入射スリットを通過した放射は凹面鏡によって反
射されてグレーティングに入射し,一次の分光スペクトルが得
られる。スリヅトにおける視野角はスリヅト面積と凹面鏡の有
効面積によって決まり,スリット巾をα5㎜,スリヅト長を10
聯としたときに,約±1Q×±20となる。入射光はスリットの
直前で廻転セクターによって切断され矩形状の波形を有する入
射光に変換される。一次の分光に用いられるグレーティソグの
ルーリングは600本/伽である。分光された光は再び凹面鏡に
よって反射されて中間スリットを通って二次分光室に入射する。
一一91一
図6。2 分光直達日射計の外観
気象研究所技術報告 第1号 1978
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図6。3 分光器光学系
S1:入射スリット,S2;中間スリット,S3:射出スリヅト
G:グレーティングP=石英プリズム,Mo:凹面鏡,D1.:光
電子増倍管 D2:P b Sセル,:L:基準光源
二次の分光は石英プリズムを用いて行う。一次分光にグレーティングを用いることにより分散の大きさを
測定波長域内でほぼ一定に保ち,二次の分光をプリズムで行うことにより検出される光量の減衰を少くし
てある。射出スリットにおける逆分散は,入射,中間および射出スリットの巾をすべて0。5㎜とした時に
の
33A/㎞である。上記のようにこの値は測定の波長域α30∼2・0μmの間で一定と見倣し得る・
直達日射の波長による強度の差は非常に大きく,同r条件ゼ測定することは不可能である。とくに可視
域と紫外域の強度の差は著しく,光電子増倍管に与えられる高電圧を一定にした状態で広い波長範囲を測
定することはできない。この不便を除くために濃度の異る灰色フィルターを数枚用意し,入射光量に応じ
てフィルターを交換する。濃度の段階は一段濃度を上げると光量が約1/4になる程度のステヅプとする。
フィルターの分光透過率は予め室内において正確に求めておく必要がある。装置の感度の調節法としては・
光電子増倍管への高圧,スリット巾,スリット長など,いくつかの方法が可能であるが,安定な測定結果
を得るためにはフィルターによる減光法が最良である。フィルターで調節しきれない場合には高圧の調節
が次善の方法である。スリット巾は常に一定の値に保つことが望ましい。また,スリヅト長の調節はその
効果の割に操作は複雑になるのであまり好ましくない。
この分光器による測定の波長範囲は,約α25∼2。5μmであるが,定常的な測定としてはα35∼20μm
の領域を対象としている。α30∼α35μmの間は重要な意味を有すると考えられるが,光量が極めて微少
であってこの領域の測定のための操作は複雑になる。広い波長範囲を極力短時間で測定するという目的の
ために測定最短波長はα35μmとした。
一92一
気象研究所技術報告 第1号 1978
波長を送るためのグレーティングおよびプリデムの廻転は,パルスモータ…によってなさ細適宜の波
長間隔で測定される。測定波長間隔は最小5各,最大500且の間5Aステップで可変である。したがって,
波長の領域毎にサンプリングの間隔を変えることが可能である。これまでの測定においては,短波長域
の (α35∼α45μm)は100A,中間波長域(α45∼0。80μm)では250A,近赤外域(0.80∼200μm)で
の
は500Aという間隔を標準としている。水蒸気の吸収についての詳細な分布を求める場合には近赤外域を
の
25∼50Aの間隔で測定する。1回の測定に要する時間は,上記の標準サンプリング条件で約10分,50
A間隔の場合に約30分を要する。 したがって,精密測定は太陽高度の変化が少い南中時刻を狭む30分
間の測定のみが可能である。
u
D
(2)太陽追跡装置
f
入射スリットを常に太陽に直面させるために,
分光器を赤道儀に設置し同期モーターによって
d・畢dI
駆動させる。これによって,常時太陽方向の追
跡は可能であるが,測定時間中の追跡精度を良
巳
くするために,太陽光を利用したサーボ系によ
る自動追跡を行う。その構造は図64に示され
る・平行におかれた2枚のフォトダイオードの
間隙上に太陽の像を作り,2枚のダイオードの
出力の差を増幅してモーターに導き,出力の差
図6,4 太陽追跡用サーボ系
が零になるまて駆動させる。その時,入射スリ
君:集光レンズ D:光電池
ットが太陽に直面するように予め調整しておけ f:N Dフィルター
d1,d2:光電池
ば,.太陽の追跡は自動的に行われる。このよう
なサーボ系を太陽軌道面と太陽を含む鉛直面の・
二つの方向について装備する。時計による追跡とサーボ系による追跡はスイッチによる交換を可能にして
ある。
(3)検出器
分光器の射出スリットを出た光は波長域に応じて二種の検出器によって光電流に変換される。紫外可視
域(α30∼α65μm)を光電子増倍管,近赤外域(0.65∼200μm)をPbS光伝導セルによって検出する。
先に述べたように分光器に入射する光はセクターによって矩形波に変換されているので変換された光電流
も交流として増幅器に導かれる。周波数は約200cpsである。光電子増倍管にかけられる高圧は標準とし
て300Vであるが,紫外域の光量が不充分な場合には適宜増加する。高圧の変化は階段状に可変であって,
1ステヅプの変化によって出力電圧が約2:1になるように調節されている・各ステップの電圧値は安定
化回路により同一値の再現性の精度を充分に高くしてある。
(4)基準光源
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気象研究所技術報告 第1号 1978
装置の綜合的感度の変動を検出するために,基準となる人工光源を用いる。光源としては12Vあるいは
24Vの直流で点灯するハ・ゲン電球を使用する。日射測定の直前に電球の射出強度を測定し・引き続い
て日射の測定を行う。電球の測定の際は供給電圧は充分に安定化し,装置の条件・すなわち・入射スリッ
ト巾,灰色フィルター等の条件を常に州定にすることが必要である。測定値の処理は,各波長毎に日射強
度に対応する光電流i(λ)と電球の強度に対応するi1(λ)との比
r(λ)=i(λ)/i1(λ)
(6。8)
によってなされる。
(51増幅および制御
先述のように,検出器によって変換された光電流はセクターにより約200cpsの交流として増幅器に供
給される。セクターの回転は光電流の交流化と同時に上と同じ周波数の信号を発信し,増幅された交流信
号の同期整流回路の入力として用いられる。整流された出力はアナログ記録計による記録と同時にA/D
変換されてプリンターヘ導かれる。
装置の操作を極力少くするために自動制御回路はかなり複雑なものになっているが,その主要なものを
次に列挙する。
(i)波長送りおよびサンプリング
波長送りのためのグレーティングおよびプリズムの回転はパルスモーターによってなされ,1バルス
による回転は5Aに相当し,したがって,波長の送りは5Aを単位として階段状に進められる。パルス
の
の数を回路によって数えることにより,ステップの間隔は可変となる。予め指定することにより,5A
の
きざみの任意の波長間隔での測定が可能である。ただし,最大波長間隔は500Aである。
測定波長範囲はα35∼200μmであって,この間を繰り返し測定を続けることになる。波長200μm
の測定の終了と同時に波長は逆進し,0.35μmに戻るが,この場合,一度α34μmまで戻って止り,次いで
0。35μmまで進行して止る。これは逆進する場合の波長のずれを取除くためである。
(ii)光量調節
日射強度の波長分布は0。45∼0。5μm付近に最大値を有し,紫外域の強度はこれに対し極めて小さく,
測定波長の最短のα35μmでは10−3以下になる。また,近赤外域では水蒸気の強い吸収があり,吸収
帯の中心では強度はほとんど零になる。この様な巾の広い変化に応ずるために,入射光量の調節をする
必要がある。その方法として,灰色フィルター,スリヅト巾および絞りが考えられるが,最も安定で,
操作の簡単なものとして灰色フィルターの交換を選んだ。濃度の異るフィルターを数枚用意し記録計
の値を回路によって検出し,適当に定めた値を越えた場合にはパルス信号を発生し,フィルターの濃度
を一段階上げ,逆にある値以下になった場合にはフィルターの濃度を一段下げる。フィルターは回転円
盤上に4∼6個取付けられ,入射スリヅトの直前で回転する。灰色フィルターの透過率は可視域ではほ
ぼ一定の値であるが,紫外および近赤外域では波長によって大きく変る。したがって,使用するフィル
ー94_
気象研究所技術報告 第1号 1978
ターは一枚毎にあらかじめ透過率の波長分布を求めておくことが必要である。
(面)電気的調節
装置の感度の調節の主体は上記の灰色フィルターにおかれているが,太陽高度が極めて低くなった場
合などには光量が不足することが起る。この場合の測定を可能にするために,電気回路の条件も可変に
してある。その一つは,光電子増倍管に供給される高圧の変化である。第二は,増幅器のゲイγの変化
である。前者は変化幅は非常に大きく取ることはできるが,安定性に欠けるため常時これに頼ることは
好ましくない。したがって,高圧の変化は自動化されていない。増幅器のゲインは灰色フィルターの場
合と同様に,最終出力の値に応じて自動的に適正な状態にセットされる。
Gv)検出器の交換
検出器としては光電子増倍管およびPbSセルが用いられているが,前者はα3∼0。65μm,後者は
0.65∼2。0μmの間で用いられる。この交換はα65μm通過の時に自動的に行われる。射出スリット
を出た光は凹面鏡によって増倍管の光電面に導かれる。一方,PbSセルは射出スリット直前におかれ,
射出された光は直接光電面に入射する。
(6)測定および測定値の記録
通常の測定の場合には前節に述べた自動制御の作動により測定値は常に適正な範囲内に保たれる。測定
は,全自動の状態で働かせた場合には基準光源と直達日射を交互に連続的に繰返し測定を続ける。1回の
測定に要する時間は,設定したサンプリソグ波長間隔によって異るが,6.2の(11の項に記した標準サンプ
リソグで約10分である。
測定値はα35μmを起点として設定した波長間隔でサソプリソグされて印字される。このとき同時に
印字される要素は次の通りである。
(1)時刻
(ll)スリット巾
(1の灰色フィルターの濃度
(IV)増幅器感度
(V)波長
(vl)データ不適指示記号
(vD測定値
、(噸)検出器の種類
プリントされた記録の1例を次に示す。
一95一
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04
04
04
1455
1455
1455
) 指示記号
一 一
波 長
フィルター
スリット巾
時分
増幅器感度
)
1220P
040『0
O882P
0350< O303P
0450
測 検
定 出
値 器
測定値は各波長毎に暗電流の値を記憶させ,測定値から差引いた値が印字されている。データ不適指示記
号は,測定値が調節不能の範囲に入って了ったときに印字されるもので,>は装置の感度を最低に制御さ
れても尚記録計の範囲を超えてしまう場合,<は逆の場合を意味する。適正な範囲に含まれる場合には記
号が現われない。
図65は上記の増幅,制御および記録の関連を示す系統図である。
シャッター 射出孔
↓
射光
づ」ヨッノ》一 7イルターターレット モヲクロメーター
同爾アンプ
フォトマル
貴ジ伽メーター
切換回路
壷源
整形回踊 同期妓波
虚鼠増幅
及表禾
齪録重備
I
l 6段
騨号 倉
PbS
倉
直幕糟作
同鑛アンフ。
整形
プリンター
曽濠 厳痩贋飾
一’け
IlIIlIIlI
Ψ 自蜥節
スり・ソト幅3設
,レ面楼作
フオトマル
麟康白勃調諦
L____________________
PbS
1
1
’ 1 ’ 1
一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一
____ ___L_ __」
フ憐卜7ル ・
甥襖
PbS
合
血働交換
(λ書650nm)
図6.5 増幅,および記録の関連系統図
6.5 分光全天日射計
大気の混濁の状態を監視する目的としては,前述の直達日射の分光測定から得られる消散係数の波長分
布によってかなりの程度知ることができる。しかしながら,エーロゾル粒子の状態について知ろうとする
場合には上の測定のみでは極めて不充分である。例えば,エーロゾルの粒径分布の推定を試みる場合には
粒子の屈折率が非常に重要な要素となる。形状も要素として介入してくるが,これについては球形と仮定
することが許されるとしても,屈折率を仮定することは粒径分布推定の精度を極めて悪いものにする。こ
のような不足を補う一つの手段として全天日射の分光測定は有効である。
天空散乱日射の強度は・大気の消散係数(光学的厚さ)と位相関数を主要なパラメーターとして計算に
一96一
気象研究所技術報告 第1号 1978
より求められる。この場合,光学的厚さは前記の直達日射の測定から直接得られ,位相関数の方はエー揖
ゾル粒子の粒径分布,屈折率および形状の関数として計算によって求められる。この関係を逆に利罵して,
全天日射および天空散乱光の分光測定の結果からエー導ゾルの状態をある程度推定することが可能である。
地表における全天日尉量は,エネルギー収支にかかわる要素の一つとして重要であって,バヅクグラウ
ンド状態における値を連続的に記録することは有意義である。飛行機等による上空における下向きおよび
上向きの日射フラックスの測定値が得られれば,地上から測定高度までの大気層についての日射の収支量
が求まり,エネルギー収支の主要な要素の実測値が得られる。
分光全天日射計の分光器部,検出器,増幅,制御および記録の方法は基本的には直達日尉計と同じであ
る。最も大きな相異は受光面であって,この装置では積分球を用いてある。天空散乱光を測定するために
遮蔽板を用いて直達日射成分をさえぎり散乱光成分を積分球で受光する。
装置の断面図を図α6に示す。外観の写真は図6,7に示されている。以下,積分球および遮蔽板につい
て記す・ \。
/\
/ 辱め
め
A 8
/ 々.影瓜 鴎分光全天晰
蟄
算コ
AB.受光水平面 S;積分球受光面
轟 ./
L:基準光源 DM:分光器
D:遮蔽板 醗1,船2:モーター
φ:測定地の緯度 δ.測定時の赤緯
窯/! ㊨/
δ’:赤緯調節角
、 \一一一ノ!
\\、 . DM/
、 ノ!
!
,
罪
葬
\、、 r一一一__一一__一♪\_一一一一〆」一一一一一一一一一一一r
旨
難懲
1 i
奮
犀
1
図6。7 分光全天β射計の外観
一97一
気象研究所技術報告 第1号 1978
(1)積分球
積分球の内径は150㎜であって,受光面の直径は30㎜である。内部は硫酸バリウムを塗装してある。
分光器の入射スリットは畳光面のやや鷺)内面に直面してお9,この部分は年間を通じて直達日射の直接
反射の光が入射することがないようにしてある。積分球の側面に基準電球を取付け,直達日射の場合と同
様に,日射と電球を交互に連続的に測定する。
積分球の最大の問題点はいわゆる方向特性である。内面に塗装された硫酸バリウムは乱反射の性質が優
れたものとして選ばれているが完全とは言えない。また,経年変化の可能性もある。したがって,積分球
の方向特性は一つ一つについて室内実験により,いわゆる余弦則からのずれを測定し補正係数を求めてお
く必要がある。
基準光源の電球は積分球の側面に取付けられ,日射測定の直前に電球の測定を行い,測定値はこの基準
光源の値に対する比として表わされる。
(2)遮蔽板
直径約70㎝の円板で積分球の受牽面に入射する直達成分を遮蔽する。モーターによって円板を太陽の
軌道に合わせて移動し,常に直射を遮蔽し得る様に設計されている。その構造は図66に示されている。
受光面と円板の距離は約70㎝に保たれる。円板によって,直射成分のみを遮蔽することは技術上困難で,
実際には太陽近傍の天空散乱成分をも遮ってしまうが,その割合は全天空散乱成分の5%を超えることは
ない。
遮蔽板は必要に応じて直射光の光路から外すことができる。電磁石を利用して円板の支柱を回転させ,
円板が直射光の光路から約100外れる様に設計されている。この状態で全天日射量の測定を行う。この場
合,円板によって遮られる天空散乱日射の割合はα5%以下である。円板を直射成分遮蔽の状態から受光
の状態への移行は制御パネル上のスィンチによって随時可能であるが・全体を自動的に連続副定を行う場
合には,電球一全天目射一天空散乱光という順序で繰返し測定を行う。
(3)測定および記録
上記の様な連続測定の場合には,印字される内容は直達日射の印字と同様であるが,全天日射,天空散
乱日射および基準光源の三種を区別するために,それぞれ,G,d,eの記号が一個一個の測定値につい
て印される。
検出器,増幅系,制御系等の構成は直達日射の場合と全く同様である。
6.4 標準光源
前二節に述べた装置の測定は,常時基準光源の測定を行い,これを基準として測定値を比較する方法を
取っているの℃基準光源に変動がなければ他の系統の変動は問題にならない。しかし,この光源の射出
光量の絶対値は不明であるので測定値の絶対値を知ることはできない。したがって・絶対値を知るために
は別の方法に頼る必要がある。
一98一
気象研究所技術報告 第1号 1978
その一つは,いわゆる,Long−met hod である。大気の光学的特性が,日出(あるいは日没)と南
中時の間不変であったとすると,(61・)式で表わされる地表における直達日射の強度はmのみの関数と
なる。すなわち,
Znl(λ)=君nlO(λ)一τ(λ)・m
がって・mの2つの値に対応する1(λ)が得られ
ー民︾
となり,君nI(λ)はmと直線的蘭係となる。した
(69)
Oc↑.28,971
λ(μm) Tokyo
れば・m=0に外挿することによって君n Io(λ)
得られないので,出来るだけ多くのmについて測
定を行い,(6.8)式で表わされる測定値γ(λ)
の曲線をm=oの点まで外挿して得られた値を7
人によって測定されており,現在ではかなり精密
θ
O
O.85
o
o
0
0
O.45
θ o
15
大気の.L端に入射する日射強度は昔から多くの
o o
Q35
0.42
(λ)とすれば,γo(λ)は器械常数としての大
気外の値を表わす。
O O
O.60
0 −﹃Q
を用いて君。7(λ)のmに対する曲線を画く。こ
i5
が得られる。実際には完全にτ(λ)が不変の日は
ロロ
α65ρ
o
0
o
o
l.15 。
0
な値が得られている。この値を10(λ)とすれば
測定値の絶対値は,
1 2 5 4
secZ
1(λ)ニ10(λ)・γ(λ)/γ0(λ)
図6。8 大気外日射’量に対応する器械常
(6。10)
数決定のための曲線
によって求められる。
70(λ)を推定するための曲線の実例を図6.8に示す。
絶対値を得るための第二の方法は標準光源を用いる方法である。今から10年以前には標準電球を入手す
ることはかなり困難であり,また,得られるものは輝度すなわち,射出エネルギーが既知の光源であった。
その後数年の間に簡易なハロゲン電球を用いた光源が開発され,その光源からある距離だけ離れた面にお
ける入射フラックス,すなわち,照度の絶対値を知ることができるようになった。したがって,この種の
標準光源を利用すれば,測定装置に入射する日射のフラックスと光源からのフラックスを直接比較するこ
とが可能となる。こうして極めて容易な検定法が得られるようになり,われわれの装置のための標準光源
を入手することができた。実際の検定に際してはこの光源を直接用いるのではなく上の標準光源を一次標
準とし,実験室内の測定によって二次標準光源を作製してこれを実用の光源として利用する。二次光源作
製用の積分球を含む光学系は図6。9に示されている。 goo異る二方向から二つの光源の光を積分球内
一99一
気象研究所技術報告 第1号 1978
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図6・9 二次標準光源作製のための
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光学系
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図6.10
二次標準光源作製用光学系
の外観
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図6.11
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一次標準および二次標準光源の尉
出エネルギーの波長分布
2£0 250
一100
気象研究所技術報告 第1号 1978
に導き,球の内部の明るさを分光計によって比較測定する。一次標準光源と二次光源作製用積分球の外観
は図6。10に示されている。
上記一次標準光源の絶対値の決定は電子技術総合研究所においてなされたものである。同研究所におけ
る検定は,金点黒体放射源を最終的基準として用いた方法による。照度の測定に便利なように同研究所が
開発したハロゲン電球(しゅう素電球)(鈴木他.1973)は市販されており,その照度の絶対値の決定
は同研究所に依頼することによって得られる。この電球の照度は,約3。200Kの黒体放射に近い波長分布
を示し,可視域ではほぼ等しく,紫外および近赤外域で黒体からのずれが15∼20%に達する。われわれ
の所有する光源の照度の波長分布を図6。11に示す。
参 考 文 献
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。101一
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日射測定による大気混濁度の監視