2007/1/8
鳥取大学
安定同位体比を利用した
ウズベキスタン キジルクム砂漠の
植物の水利用・耐塩性診断
三重大学 生物資源学研究科
松尾 奈緒子
自己紹介
名前:松尾 奈緒子(まつお なおこ)
専門分野:植物生理生態学 森林水文学
出身:京都大学農学研究科 森林水文学研究室
職歴:平成15年 日本学術振興会特別研究員
平成16~18年 環境省推進費プロジェクト「21世
紀の炭素管理に向けたアジア陸域生態系の統合
的炭素収支研究」の熱帯雨林チームの研究員
平成18年12月~ 三重大学生物資源学研究科
自然環境システム学講座 緑環境計画学研究室
研究対象:アジア地域の乾燥地~温帯林~熱帯林に
生育する植物の水利用・光合成戦略
もくじ
1. はじめに ウズベキスタン・キジルクム砂漠
2. ねらい
3. 方法 安定同位体法
4. 8月と10月の調査報告
5. 他の気候帯の植生との比較
6. 内モンゴル・モウソ砂漠の事例
もくじ
1. はじめに ウズベキスタン・キジルクム砂漠
2. ねらい
3. 方法 安定同位体法
4. 8月と10月の調査報告
5. 他の気候帯の植生との比較
6. 内モンゴル・モウソ砂漠の事例
中央アジア・アラル海流域
ソ連時代からの大規模潅漑農業の結果、
アラル海は1960年代には68000km2だったのが
2000年には23000km2まで縮小した。
ソ連崩壊後は
● 上下流国家間の利水の対立
● 水の大量利用による中下流域での水不足
● 土壌表層の塩分集積
などの問題が深刻化しており、適切な潅漑農業
計画や植生管理が求められている。
ウズベキスタン・キジルクム砂漠もこうした地域の
ひとつで、潅漑試験農場や塩害調査区が設けら
れている。
ウズベキスタン キジルクム砂漠
キジルクム砂漠
年降水量 120mm/yr
年平均気温 11.4℃
地下水 豊富
塩分濃度 高
キジルクム砂漠 潅漑試験農場
在来種
導入種
作物(小麦、モロコシ)
潅水
井戸水
キジルクム砂漠 塩害調査区
Plot 5
Plot 4
植生
種組成,分布,サイズ
地上部現存量
土壌
含水率,化学組成
水
pH,電気伝導度,塩濃度
Plot 3
Plot 2
Plot 1
Toderich, Radjabov et al.
Salt gradient site
Plot 5
Plot 4
Plot 2
Plot 1
Most depression site
Spring near Plot 5
Channel site
キジルクム砂漠 気象観測ステーション
Kozan et al.
もくじ
1. はじめに ウズベキスタン・キジルクム砂漠
2. ねらい
3. 方法 安定同位体法
4. 8月と10月の調査報告
5. 他の気候帯の植生との比較
6. 内モンゴル・モウソ砂漠の事例
研究のねらい
ー 植物生理学と水文学の視点から
1 乾燥地域の原生植物と潅漑作物の要水量
と水利用効率の推定
2 葉の炭素・酸素安定同位体比を利用した植
物の耐乾性・耐塩性診断
3 塩害指標植物の分布と環境の関係の生理
特性からの解明
要水量と水利用効率
水利用効率 =
成長量
要水量
A
≒
光合成量
蒸散量
C
B
D
5/5=1
10/10=1
10/5=2
5/2=2.5
耐塩性
1.浸透圧の調節(有機化合物の合成・分解)
2.液胞への塩の蓄積
3.液毛・液腺による塩の排出
タマリクス
4.C3光合成→CAM光合成,C4光合成への変化
5.ABA(アブシジン酸)
気孔コンダクタンス低下
塩害指標植物の分布
Radjabov et al.
土壌水分
塩分濃度
Convolvulus spp
Calligonum spp
Salsola spp
Astragalus spp
Ammothammus spp
Alhagi spp
Artemisia diffusa
Tamarix
hispida
Haloxylon
aphyllum
Plot 4
塩分濃度 低
Artemisia diffusa
Plot 3
中
Haloxylon aphyllum
Plot 2
Plot 1
高
Tamarix hispida
もくじ
1. はじめに ウズベキスタン・キジルクム砂漠
2. ねらい
3. 方法 安定同位体法
4. 8月と10月の調査報告
5. 他の気候帯の植生との比較
6. 内モンゴル・モウソ砂漠の事例
葉のガス交換特性
CO2 H2O
Boundary layer
conductance: gb
Ca Wa
1 気孔コンダクタンス gs
2 水利用効率 Ci/Ca
(= 光合成/蒸散)
Stomatal
conductance: gs
Internal
conductance: gi
Ci
Cc
Katul et al. 2000
Wi
1 葉の酸素安定同位体比
(Farquhar et al. 1998)
2 葉の炭素安定同位体比
(Farquhar 1989)
葉の炭素同位体比と水利用効率
12CO
2
13CO
12CO
13D=d13Cair –
leaf
13
d C
om
2
13D =
2
Diffusion: a
a + (b – a) Ci/Ca
a =4.4 ‰, b = 27 ‰
Organic
matter
ほぼ確立
(‰)
13D
Biochemical
Reaction: b
30
20
10
大
水利用
効率
小
0
Farquhar et al. 1989
0.4
0.6
0.8
Ci/Ca
1
葉の酸素同位体比と蒸散
H218
H2
H216O O
Transpiration
16O
om
ア DLW = ek + e+ + (Dv – ek) ea/ei
Organic
matter
(‰)
イ
40
18D
Leaf
water
開発中
Farquhar 1998
d18O source
water
イ 18D = DLW (1 – px pex) + eo + ecp
ア
Evaporation
18D=d18O leaf –
30
気孔コンダ
小 クタンス 大
20
0.1
0.3
0.5
gS (mol m-2 s-1)
蒸発による18O濃縮
DLW = ek + e+ + (Dv – ek)ea/ei
DLW: Source waterに対するleaf waterの18O濃縮
DVP: Source waterに対するvaporの18O濃縮
ea/ei : 大気と気孔内の水蒸気濃度比
ek: 動的同位体効果 Gonfiantini (1986)の湿度の関数
Farquhar and Lloyd (1993)の気孔・境界層抵抗の関数
e+: 平衡同位体効果 Majoube (1971)の温度の関数
葉内水とセルロースの18O交換
18D =
DLW (1 – px pex) + eo + ecp
pex px=0.38, eo = 27 ‰, ecp = – 7.5 ‰ (cotton、Barbour
& Farquhar 2000)
もくじ
1. はじめに ウズベキスタン・キジルクム砂漠
2. ねらい
3. 方法 安定同位体法
4. 8月と10月の調査報告
2006年8月11日~26日
2006年10月27日~11月8日
5.他の気候帯の植生との比較
6.内モンゴル・モウソ砂漠の事例
対象植物
Tamarix hispida
Haloxylon aphyllum
Artemisia diffusa
観測項目
1 葉有機物、井戸水、水路水、池水の酸素安定同位体
比(d18O)
TCEA/Conflo III/Delta plus XP (Thermo Scientific)
総合地球環境学研究所、京都大学生態学研究センター
2 葉有機物、大気中CO2の炭素安定同位体比(d13C)
NA2500 (Fisons)/Conflo II/Delta S (Thermo Scientific)
京都大学フィールド科学研究教育センター
3 気孔コンダクタンスの日変化
LI-1600 (Li-Cor)
4 対象個体の位置
GPS、水路からの距離
5 対象個体のサイズ(樹高、短径、長径)
8月の予備調査の結果
Water-use
efficiency
50
Transpiration
d18Oleaf (‰)
60
40
30
▲ Tamarix hispida
● Artemisia diffusa
◆ C3 plant
■ C4 plant
20
-30
-20
-10
d13Cleaf (‰)
10m from spring
Most salt
1m from spring
タマリクス:塩分濃度に
応じて水利用効率が変化
10m
10月の調査
10
1.塩害調査区
塩害指標植物(アルテミシア,ハロ
キシロン,タマリクス)の水利用効
率・蒸散特性の比較
2.潅漑試験農場
8 9
7
6
33m
5
原生植物・作物の水利用効率と蒸
散特性
3.水路サイト(10m×33m)
タマリクスの水利用効率・蒸散特性
と生育立地の塩分濃度との関係
2
4
3
1
N
タマリクス 水路からの高さと蒸散特性
Stomatal conductance (mol m-2 s-1)
Transpiration rate (mmol m-2 s-1)
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
8:00
10:00
12:00
14:00
16:00
18:00
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0
8:00
10:00
Time
12:00
Time
H
○ T3 (high), △ T8 (high)
● T5 (low), ▲ T7 (low)
14:00
L
16:00
18:00
今後の予定
同位体比測定
塩分濃度が葉の安定同位体比に及ぼす影響
→ 耐塩性指標
塩害指標植物の生理特性比較
→ 分布
もくじ
1. はじめに ウズベキスタン・キジルクム砂漠
2. ねらい
3. 方法 安定同位体法
4. 8月と10月の調査報告
5. 他の気候帯の植生との比較
6. 内モンゴル・モウソ砂漠の事例
アジアの多様な植生
1 苫小牧冷温帯広葉樹林
(1161 mm/yr, 6.5 ℃)
1
2 桐生温帯針葉樹林
8
(1645 mm/yr, 13.6 ℃)
2
4
3
3 赤穂温帯広葉樹林
(1159 mm/yr, 15.2 ℃)
4 毛烏素砂漠
(363 mm/yr, 6.4 ℃)
5 サケラート熱帯季節林
(2000 mm/yr, 24℃)
5
6 パソ熱帯雨林
(1896 mm/yr, 25.9 ℃)
7
6
7 ランビル熱帯雨林
「21世紀の炭素管理に向けたアジア陸
(2685 mm/yr, 26.7 ℃)
域生態系の統合的炭素収支研究」
8 キジルクム砂漠
「アジア地域の森林のガス交換最適化
(120 mm/yr, 11.4 ℃)
マッピング」
多様な樹木の葉の13Dと18D
Water-use
efficiency
50
20
40
Transpiration
(‰)
30
18D
d18O leaf (‰)
40
30
20
10
-40
-30
d13C leaf (‰)
● 1 Tomakomai
▲ 6 Pasoh
● 2 Kiryu
▲ 7 Lambir
● 3 Akou
■ 8 Kyzylkum
◆ 4 Muus(broad-leaf)
◆ 4 Muus(conifer)
-20
10
20
13D
30
(‰)
葉のd13Cとd18O、13Dと18Dには
それぞれ関係あり
半乾燥地~温帯林~熱帯雨林
の順に気候区ごとにプロット
50
50
50
40
40
40
30
30
30
20
20
20
50
60
70
80
Relative humidity (%)
● 1 Tomakomai
● 2 Kiryu
● 3 Akou
◆ 4 Muus(broad-leaf)
◆ 4 Muus(conifer)
0
10
20
30
Air temperature (oC)
▲ 6 Pasoh
▲ 7 Lambir
■ 8 Kyzylkum
● Craig-Gordon
model
Stomatal
conductance
Transpiration
18D
(‰)
葉の18Dの決定要因
0
0.2
0.4
0.6
Measured gs (mol m-2 s-1)
自由水面からの蒸発による18D
は湿度と温度によって決まる
(Craig & Gordon 1965)
しかし、葉の18Dは同じ環境下で
値に幅あり 葉のgsを反映
18D
葉の炭素・酸素安定同位
体比は樹木葉のガス交
換特性を表す
Water-use
efficiency
50
Semi-arid
land
Transpiration
in leaf organic matter
植物のガス交換最適化戦略
40
30
Temperate
forest
Tropical
rainforest
20
10
13D
20
30
in leaf organic matter
樹木葉のガス交換特性
は生育場所の水分環境
(利用可能水分量)に応じ
て決まっている
そのなかで季節変化や樹
種間差などの幅を持つ
もくじ
1. はじめに ウズベキスタン・キジルクム砂漠
2. ねらい
3. 方法 安定同位体法
4. 8月と10月の調査報告
5. 他の気候帯の植生との比較
6. 内モンゴル・モウソ砂漠の事例
中国内モンゴル自治区 モウソ砂漠
岡山大学・京都大学・鳥取大学・内蒙古農業大学共同研究
気候(烏審召1960~1980)
年平均降水量 363mm/yr(145~715mm/yr)
約70%が夏の雨季に集中
年平均気温 6.3℃
年較差大(–31.4℃~36.4℃)
問題
砂漠化が10万㌶/年のスピードで進行しており(神近ら
1989)、流砂固定を目的とした緑化が行われてきた。
しかし、緑化を無計画に行うと、地下水資源が枯渇する
可能性がある(大手ら1994)。
そこで、水資源量と植物の特性の両方を把握し、緑化
計画をたてる必要がある。
地形と植生
流動砂丘
固定砂丘
丘間低地
Wind
臭柏 油蒿
旱柳
旱柳
檸条
1‐6m
7m
対象植物 1
油蒿
檸条
Artemisia ordosica
キク科の落葉低木
固定砂丘に自生
Caragana korshinskii
マメ科の落葉低木
固定砂丘に自生
対象植物 2
臭柏
旱柳
Sabina vulgaris
ヒノキ科の常緑低木
固定砂丘に自生
Salix matsudana
ヤナギ科の落葉低木
流動砂丘の裾野に植栽
調査期間
1998年8月1~8日、1999年8月26~31日
調査項目
1 葉有機物、土壌水、地下水の酸素安定同位体比(d18O)
TCEA/Conflo III/Delta plus XP (Thermo Electron)
2 葉有機物、大気中CO2の炭素安定同位体比(d13C)
NA2500 (Fisons)/Conflo II/Delta S (Thermo
Electron)
3 日中の気孔コンダクタンスの平均値(gs mean)
LI-1600 (Li-Cor)
Depth of groundwater table(cm)
地下水位の変動(Yoshikawa et al.)
0
obs
-20
-40
-60
-80
98/7/1
99/1/1
99/7/1
00/1/1
00/7/1
Date
1999年8月の方が1998年8月より
地下水位が約50cm低かった
葉の安定同位体比およびガス交換特性
WUE
Transpiration
A.o.
wet (1998)
dry (1999)
C.k.
S.m.
S.v.
-22
-24
-26
-28 10
d13Cleaf (‰)
A.o.
C.k.
S.m.
S.v.
0.2
30
40
d18Oleaf (‰)
Stomatal
conductance
0
20
0.4
gs mean (mol m-2 s-1)
水利用効率が大きい臭柏は
気孔コンダクタンスが小さく、
d18Oが大きい
地下水位の低下にともない
気孔コンダクタンス低下、
d18O上昇
葉の炭素同位体比と酸素同位体比
50
(‰)
30
18D
d18Oleaf (‰)
40
20
40
30
20
10
-30
-25
d13Cleaf (‰)
A.o. ● 1998
C.k. ▲ 1998
S.m. ◆ 1998
S.v. ■ 1998
○ 1999
△ 1999
◇ 1999
□ 1999
-20
10
15
13D
20
(‰)
25
葉のd13Cとd18O、13Dと18Dには
関係あり
対象植物の水利用効率と気孔コ
ンダクタンスはトレードオフ関係
葉の酸素同位体比と気孔コンダクタンス
50
(‰)
30
18D
d18Oleaf (‰)
40
20
40
30
20
10
0
0.2
0.4
gs mean (mol m-2 s-1)
A.o. ● 1998
C.k. ▲ 1998
S.m. ◆ 1998
S.v. ■ 1998
○ 1999
△ 1999
◇ 1999
□ 1999
0.6
0
0.2
0.4
0.6
gs mean (mol m-2 s-1)
気孔コンダクタンスと葉のd18O、
18Dには右下がりの傾向あり
葉のd18Oが蒸散特性を表すこ
とを支持
Ci/Ca
土壌水分量の変化に対するCi/Caの応答
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
Salix matsudana
Artemisia ordosica
1998 P<0.01
1999 P<0.05
1998 n.s.
1999 P<0.01
Sabina vulgaris
Caragana korshinskii
1998 n.s.
1999 P<0.01
0
400
800 0
1998 n.s.
1999 n.s.
400
800
Depth of the groundwater table(cm)
gsmax(mol m-2 s-1)
土壌水分量の変化に対するgsの応答
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
Salix matsudana
Artemisia ordosica
1998
1999
Sabina vulgaris
0
400
Caragana korshinskii
800 0
400
800
Depth of the groundwater table(cm)
モウソの植物の水利用戦略
水損失量
地下水位が高いとき
炭素固定量
油蒿:表層水
を利用
旱柳:
水消費大
臭柏:深い水を
利用してるが
水消費小
モウソの植物の水利用戦略
地下水位が低いとき
臭柏以外は
水消費量減
水利用効率増
旱柳:他
樹種より
水消費大
臭柏:水消費量
小さいまま
旱柳植栽
は要注意
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