新しい免震システムと大空間構造への適用
川口 衞*
,
立道郁生**
*
国際空間構造学会(IASS)会長,法政大学名誉教授,川口衞構造設計事務所代表
**
前田建設工業
Abstract
Seismic isolation systems have recently been employed in Japan and other earthquake-prone
countries not only in ordinary buildings but also in spatial structures. For seismic isolation, laminated
rubber bearings are often in use. The authors have been studying a seismic isolation system with
higher performance and reliability that uses bearings acting like pendulums.
A pendulum system is one of the basic methods of seismic isolation. Isolating devices with a natural
period as long as 4 seconds may be realized in a relatively simple way if pendulum isolators are used.
In this paper full-scale tests using a model floor isolated by a translational pendulum bearings, and
the structural design and construction of a seismically isolated floor that was adopted in a museum of
ceramics designed by the senior author.
The authors have also been carrying out the studies related to seismic isolation by “paddle” bearings,
a new seismic isolation system developed by the senior author using the principle of rotational
pendulums. In this paper, several points were discussed toward the practical application of the paddle
seismic isolation system.
Also clarified is that when pendulum isolators are adopted in space structures, they may efficiently
reduce their vertical responses induced by horizontal input motions.
1.はじめに
現在,構造物の免震システムは,積層ゴムを主たるデバイスとするものが主流を占めているが,
この方法はデバイスの固有周期が積層ゴムの動特性と支持する質量の大きさに依存しており,ま
た,固有周期が 3 秒を大きく超える免震システムを実現することは困難であるなど,設計上,か
なりの制約を受けることがある。このため,この方法以外の免震システムの開発に対する需要も
多いと考えられる。
ここでは,筆者らが近年,開発,適用した二種類の免震システムとその実構造物への応用につ
いて述べ,さらにこれらを大スパン空間構造に適用することの提案を行なう 2)∼6)。
2.並進振り子の原理に基づく免震構造の開発
2.1 並進振り子免震の原理
振子はもっとも基本的な免振手法であり,従来から地震計の基本的原理などとして用いられて
きた。しかしながら構造物の免震デバイスとしての実施例は極めて少ない 1)。
工学的に用いられている振子には単振子,実体振子,並進振子などがある。よく知られている
ように,吊り材の長さを L とする単振子の固有周期 T は次式で与えられる。ただしgは重力加速
度である。
T = 2π
L
g
(1)
このような振り子の原理を免震システムに用い
るとき,最大の長所は固有周期に吊り材の長さ L
以外にパラメータはなく,免震対象物の質量や,
吊り材の張力によって固有周期が全く変化しない
点である。従って,吊り長さを変化させることに
よって,容易に所定の周期を得ることができる。
この点が,質量と剛性で周期が決まるような積層
図1
単振り子(A)と並進振り子(B,C)
ゴム免震に対する最大の長所である。
ところで,構造物として物を支える機能を考慮すると,単振子はいかにも使いにくい。並進振
り子は二つ以上の振り子の間に床を架けたものであるが,
「振り子の等時性」を保っているだけで
はなく,図 1 で分かるように,振動時に床が全く傾斜しないという利点があり,そのまま建築構
造に組み入れることができる。さらに,並進振り子はもっと面白い性質を持っている。それは,
図 1 に示すように,この床の上に載せた物体の重心 G がどの高さにあっても,全く同じ固有周期
を持つということである。
また,吊材の長さは建築計画に適合する範囲で任意に決めることができる。例えば 4m すなわ
ち建物の1階分程度にすると,載せる建物や物体の重さや高さに無関係に,固有周期は約4秒に
定まり,良好な免震効果を得る事ができる。
2.2 床免震への適用
(1)並進振子床免震の概念
並進振子免震の適用としてまず考えられるの
は,床免震であろう。図 2 に示すように建物の
梁から吊られた床を考えてみる。地震の際,建
物は振動するが,吊り床の応答は極めて小さく
なる。地震終了後の吊り床部の振動をなるべく
早く静止させるためにはダンパーを設ける。ダ
ンパーは上階の梁との間に設置したり,下階の
梁,ないしは柱との間に設置することができる。
図2
並進振子床免震の概念
(2)実大実験による効果の確認
試験体は写真 1 に示すように,加振フレーム,吊り材,吊り床からなっている。吊り材の長さ
は 4.5mとした。吊り床の大きさは 1.5m×2.5mである。
試験体を二次元振動台に載せ,ホワイトノイズ波および実地震波による加振を行った。図 3 に
El Centro NS 波で水平に加振した場合の,振動台および吊り床部の水平加速度時刻歴を示す。並進
振り子で吊られた床は充分な免震効果が得られることが分かる。
Acceleration
gal
400
Isolated floor
Vibration table
200
0
-200 0
10
20
30
40
-400
Time(sec)
El Centro N-S 300gal
図3
振動台および免震床の時刻歴加速度
5.0
Horizontal input
写真 1
並進振子床免震の実大試験
Fourier spectrum ratio
4.5
Horizontal+vertical input
4.0
Frame
3.5
3.0
2.5
Isolated
floor
2.0
1.5
1.0
図 4 に,ホワイトノイズ波の「水平+鉛
0.5
直」方向同時加振に対する,水平方向応答
0.0
Vibration table
0
1
の増幅の様子を示す。入力振動に対し免震
ほぼ 2.7 秒より短いと,免震床は応答低減
3
4
5
6
Period (sec.)
床は振子周期の 4 秒付近で大きく水平方向
に共振しているが,入力地震の卓越周期が
2
(horizontal response component)
White noise 100Gal input
図4
水平動と鉛直動の同時入力の影響
(ホワイトノイズ波入力の場合)
効果を発揮することが分かる(周波数応答
関数=縦軸が 1 以下となる)。周期 2 秒で約半分,1 秒以下では 1 割以下に入力加速度が低減され
る。図 4 で注目すべきことは,免震床のパフォーマンスが鉛直動入力の有無に関わらないことで
ある。このように上下動と水平動を分離して設計できるのは,免震システムとして大きなメリッ
トがある。なお,鉛直入力の大きさは水平入力の半分とした。
(3)セラミックパーク MINO 美術館への適用
セラミックパーク MINO は日本の中央部に位置する岐阜県・多治見市に,この地域の伝統産業
である陶磁器を世界にアピールする目的で建
設された(建築設計;磯崎新アトリエ,構造設
計;川口衞構造設計事務所,竣工;2002 年 5
月)。写真 2 に建物外観を示す。免震システム
は建物 4 階から吊られた約 900 ㎡の陶磁器常設
展示スペースに適用された。図 5,6 に免震対
象フロアーの伏図,断面図を示す。
吊床部分の竣工後の総質量は約 1300ton、32
本の吊り材で4階大梁から支持されている。吊
り材の長さは約 4.7mであるので,理論式((1)
写真 2
建物外観
式)から算出される吊り床部の固有周期は 4.35
秒となる。吊材には角形鋼管(□-150×150×12)
を用いている。
免震床は当然,水平方向のどの方向にも振動
するから,吊り材のヒンジは全方向に回転可能
でなければならない。この目的のため,簡単で
確実なメカニズムをもつ,ユニバーサル・ジョ
イントを考案し,設計した。ユニバーサル・ジ
図5
免震対象フロアー伏図
ョイントの構成図を図 7 に,吊材の取り付け状
況を写真 3 に示す。
図6
図7
断面図
ユニバーサル・ジョイントの構成
写真 3
吊材の取り付け状況
減衰装置としてこの建物では吊り床部全体に対して1方向あたり4本,計 8 本のオイルダンパ
ーを設置した。オイルダンパー1本あたりの減衰係数は 392N/(cm/sec)である。吊り床部全体の減
衰定数は約5%となる。完成時の免震床を写真 4 に示す。
美術館における免震システムは,建物全体を基礎から浮かせる方法と,免震タイプの特殊な展
示ケースを用いる方法に大別できる。本計画では,入
り組んだ地形に建てられた不規則な基礎形状や,建物
全体に占める展示スペースの比率が比較的小さいこ
とから基礎免震は非常に不経済である。また,大型化
する現代陶芸作品に免震ケースで対応するのにも限
界がある。
並進振り子免震床システムの第一の魅力は経済性
である。振り子の機能は必要な吊り材の上下にヒンジ
を設けるだけで得られるから,いわゆる積層ゴムのよ
うな免震装置は必要ない。
写真 4
免震床外観
今回の構造設計について,もう一つ重要な点は,吊り床を支えている外側フレームに対する地
震時の追加負担が極めて小さいということがある。
2.3 高層建物への適用
最近免震構造が比較的細長い立面形状の構造物にも適用されるようになってきた。超高層建物
の場合,地震時に構造部材に発生する力のレベルは問題ではないものの,居住性や転倒を考慮し
たとき免震化には大きなメリットがある。
ところが,積層ゴムは引張力を受けた時の剛
性が非常に小さく,構造物の転倒モーメントに
よる引き抜き力を考えると高層構造物への適用
建物
には問題があることが指摘されている。そこで
振り子の長所を生かしたシステムの適用が考え
柱
られる(図 8)。
著者らはアクリル樹脂板を用いた縮小モデル
振り子装置
を用いた振動実験シリーズにより,並進振り子
を用いた免震装置の有効性を検討している。本
減衰要素
実験では、高さ 100mでアスペクト比が 10 程度
図8
の塔状構造物を想定している(写真 5)。
並進振り子による基礎免震の概念
実験結果の一例として図 9 は、4 秒(試験体では約 0.4 秒)の免
震装置(L=4cm)に地震波(El Centro NS)を入力したときの建物模
型基礎部の時刻歴応答波形である。最大応答加速度倍率は 0.26 倍と、
入力値に対して低減されている。また、小刻みな入力波形に対し、
Acc.(gal)
応答波形は振子免震装置の固有周期でゆっくりと振動している。
400
200
0
-200
-400
入力
0.00
写真 5
基礎免震試験体
0.50
図9
1.00
TI ME(se c )
応答
1.50
2.00
振動台の波形と免震基礎の波形
2b
2b
なお,幾何学的に考えたとき,図 10
行ではなく,吊り元が吊り先の幅より小
D
C
に示すように,並進振り子の吊り材が平
θ1
さい場合,大きい場合が考えられる。こ
れを著者らは「対称二点吊り振り子」と
G
て,吊り材の支点間隔を変化させること
D
θ2=θ1 θ1
M
呼ぶが,このタイプの振り子の特徴とし
C
θ2=θ1
h
M
G
hG
A
2a
B
A
2a
で固有周期が大きく変化することがあ
図 10
対称2点吊り振り子の振動モデル
B
る。吊り材の支点間距離を調整することにより、並進振り子以上の長周期化が可能であることは,
免震構造において大変有効である。
図 10 で明らかなように,支えられる物体の重心 G には振動に伴い回転運動が発生する。吊り
床 A-B の長さと吊り元 C-D の長さの比をβ=b/a とすると,β=0 は物理振子であり、また、β=
1 は並進振子である。β=1(並進振子)の時、吊り床は回転しない。このモデルの吊り床上に剛
体を載せ、自由振動させた場合の周期を求めると、(2)式のようになる。
2
T = 2π
但し,
α = tan −1
h
cosα
g
b−a
b
, β=
h
a
hG ⎫
I
⎧
(1 − β )2
⎨1 − (1 − β ) ⎬ +
h ⎭ Mh 2
⎩
(2)
h
1 − (1 − β )sin 2α − G (1 − β )2 cos 2α
h
hG
h
0.2
0.4
0.6
0.8
1
2
4
6
5.0
hGは剛体の重心高さ,I は剛体
4.0
の重心周りの慣性モーメントであ
る。吊り床と吊り材の質量は無視
する。図 11 は、hG/h をパラメータ
3.0
T
2π
として、β による固有周期の変化
を示す。図からわかるように、吊
h
g
2.0
1.0
り材の支点間隔を変化させること
で固有周期が大きく変化する。ま
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
β
た、変化の度合いは hG/h が大きい
ほど著しい。
図 11
2.0
2.5
3.0
対称2点吊り振り子の固有周期の変化
対称二点吊り振り子を用いれば,
並進振り子のもつ有利さを生かし,かつ更なる高性能化を計る免震システムの可能性が考えられ
る。著者らは,現在,基礎的な研究として対称二点吊り振り子による免震周期の伸びを,各種模
型実験により確認している。
3.転動振子免震の提案
3.1 転動振子免震の原理
転動振子(rocking pendulum)の原理を用いた免震シス
テムの発想は古くからある。岡隆一により 1932 年に提案
O
R
され,実施された「免震基礎」は下端が球面の免震柱で
G
L
あり,上端に球形ヒンジを設けて上部構造と接合すると
いうものであった。
典型的な転動振子の固有周期は,図 12 に示した記号に
図 12
転動振子の概念
よれば柱の長さLと羽の曲率半径Rで決まり,固有周期
は(3)式で表される。
T = 2π
L2
g (R − L)
(3)
転動振子免震の特徴は,並進振子免震と同様,固有周期が支持する構造物の質量に依存しない
点である。しかし,岡隆一による「免震基礎」などこれまで提案されている転動振子免震は,球
面の制作にかなりの技術と工数を要し,また,柱の形状が建築計画上の妨げになることもある。
そこで,著者である川口衞は,球面によるロッキング運動を平面座標における X,Y の直交成分
に分解し,X,Y のそれぞれの機能を柱の上下端に分担させようというメカニズムを考案した3)など。
この形状がカヤックのパドルと似ていることからこれを「パドル型免震 (paddle isolator)」と命名
した。パドル型免震は図 13 に示すように,垂直材の上下両端にそれぞれが直行するように曲率を
有する「羽」を取り付けた柱である。この柱はあらゆる水平方向からの力を2方向に分解するこ
とができ,免震層上部は水平方
向に自由に動くことができる。
この,パドル柱を複数組み合
わせて構造物を支持する事がで
きる。4本のパドル柱からなる
パドル免震システムの模型を写
真6に示す。
図 13
写真 6
パドル柱
パドル免震システム
式(3)によれば,免震周期は
パドル柱の長さLと羽の曲率半
径 Rの組合せで自由に設定でき
るため,パドル型柱の長さは並
進振子と異なり自由度が高く,
写真 7
免震層を基礎の下に置くことは
全て免震周期が同一のパドル免震試験体
もちろん,1階部分を免震層とすることもでき,さらに現実的な免震層の高さのまま,今まで実
現が困難とされてきた長周期免震も可能になる。写真7にいずれの免震周期も同一で,柱の長さ
Lと羽の曲率半径Rの組合せが異なるいくつかの試験体を示す。
3.2 模型実験による効果の確認
パドル型免震の効果を確認するために,アクリル製の試験体(写真 6=前出,床板の大きさは 40
×40cm)を制作し振動実験を行った。
実験結果によれば,パドル免震の固有周期は,振幅の大きさや免震層上部の質量に関わらずほ
ぼ一定であり,また,免震層が支持する荷重を偏心させた時にも,捩れはほとんど確認できなか
った。図 14 は試験体を用いて,TAFT(NS)地震波で加振した場合の免震層上部の応答を示した
ACCELERATION(gal)
免震層下部
免震層上部
200
100
0
-100
-200
0
2
4
6
8
10
12
14
16
TIME(sec)
図 14
パドル免震の時刻歴応答加速度(TAFT(NS)波入力)
18
20
ものである。この図よりパドル免震が所定の免震効果を発揮していることが明らかである。なお,
この効果は入力地震方向に影響されないことが確認されている。
3.3 実用化のためのフィージビリティ・スタディ
(1)線形応力解析
ここでは,図 15 に示すように,質量 750tの構造物が,4 本のパドル柱で支えられているもの
とし,線形有限要素法を用いてパドル柱の応力状態を解析する。なお,パドルの材質は構造用鋼
材とした。解析モデルの一例を図 16 に示す。有限要素はプレート要素を用いている。境界条件は
パドル柱下端をピン支持,建物を支持する点を上下方向に自由に動くローラー支持とする。
一例として,曲率半径 R が 200cm のパドルで,図 17 のように下部の羽根の面内方向に傾いた
状態についてフォン・ミーゼス応力の分布を求め図 18 に示す。このとき羽根の厚さwをパラメー
W
W
52cm
750t
図 15
仮定した条件
図 16
解析モデルの例
図 17
パドルの傾きの例
タとした。なお,図 17 の状態は,大地震時に想定されるパドルの最大傾斜に相当している。
パドルが傾いていないときはパドル柱の上下端の接触部分にのみ大きい応力が発生する。しか
し,図 17 のようにパドルが傾いているときはハネの交差部分にも大きな応力が生じる。これは曲
げ応力によるもので,傾きが大きくなるほど応力は大きくなる。
t h ic k n es s
10cm
W1 0
15cm5
W1
20cm
W2 0
25cm
W2 5
図 18 解析結果(フォン・ミーゼス応力,片面のみを示す)
パドル免震のもつ特徴から,ハネの曲率半径が大きいほど,同じ免震変位に対して少ない傾き
で対応できるため,羽根の交差部分の応力低減にはある程度の厚さをもち,曲率半径の大きなパ
ドルを選択することが有利である。
(2)デバイスの質量を考慮した免震効果の検討
これまでの議論ではパドル柱自身の質量はないものと理想化してきた。しかし,パドルの質量
が対象構造物の質量に対して無視できないこともある。
まず,パドルの質量の影響を定式化する。図 19(a)は下部ブレード面内での転動(転動 a と呼ぶ),
(b)図は上部ブレード面内での転動(転動 b と呼ぶ)を示す。M はパドルが支持する構造物の質量,
O
Q´
Q
Mg´ Mg
Mg´
Mg
Rr Ll
XA
O´
B
A
θ
mg´
G´
mg
G
mg
l
R L
mg´
G G´
r
l/2
L/2
A
l/2
L/2
P´
P
Q
Xo=rθ
(a)下部羽根の面内に振動する場合
(b)上部羽根の面内に振動する場合
図 19 パドル柱の転動の様子
mはパドル自体の質量とする。パドルの重心がパドル高さの中央にあるとすると,転動 a の場合,
パドルの位置エネルギーは ( R- L/2)(1-cosθ)だけ増加し,転動 b の場合は L/2(1-cosθ)だけ減少す
るから,これらがパドル免震の固有周期に影響を及ぼす要因となる。
質量 m が無視できれば,両方とも式(3)で得られる固有周期 T に一致する。この T を標準固有周
期と呼ぶ。また,図 19(a),(b)の固有周期をそれぞれ TL,TU とすると,TL,TU は,標準固有周期 T
を用いて次式の様に表すことができる。
TL = k L ⋅ T ,
TU = kU ⋅ T
(4)
但し,kL,kU は影響係数で,次式のように表される。
kL =
1 + μ / 4 + I G / ML2
,
1 + μ (1 − λ / 2) /(1 − λ )
ここに、μ= m/M ,λ=L/R
kU =
1 + μ / 4 + I G / ML2
1 − μλ / 2(1 − λ )
(5)
である。また、IG はパドルの重心まわりの慣性モーメントで、
2
IG/ML は他の項に比べて一般に小さい。式(4),(5)から明らかなように、転動 a の固有周期 TL は標
準固有周期 T よりも短かく(kL<1)、転動 b の固有周期 TU は T よりも長くなる(kU>1)。
パドルの質量の影響が無視できない場合,振動方向によって固有周期が変化すること自体が不
都合である。この場合には,式(6)を用いてパドルの上部、下部羽根の曲率半径 RU,RL をチューニ
ングすることにより、いずれの方向についても必要とする単一の固有周期 T を持つパドルを設計
することが出来る。
I
1
⎧ μ
⎫
RU = ⎨1 + (1 + λ ) + G 2 (1 − λ )⎬ R , RL =
RU
ML
1+ μ
⎩ 4
⎭
(6)
式(6)は上部ブレードの曲率半径を大きく、下部ブレードの曲率半径を小さくする方向のチュー
ニングが適当であることを示している。
4. 大空間構造への振子免震の適用
4.1
検討方針および解析モデル
日本において,いくつかの空間構造に免震材料が用いられはじめているが,これらのいずれも
現在のところ積層ゴムを用い,これを屋根構造と下部支持構造の間に設置している。一般に空間
構造の屋根部分は軽量構造として計画されるから,下部構造上の各支承部に対する鉛直反力は,
重層構造物の最下階の柱軸力に比べると格段に小さい。このため,積層ゴムでは充分な免震周期
を得ることが出来ない場合がある。
ここでは,振り子原理を用いた免震装置を空間構造に適用した場合の効果について検討する。
改めて振り子免震の利点を述べると,①支持する構造物の重量に関わらず,実用範囲では常に一
定の免震周期を得ることが出来ること,②免震周期が振り子免震装置の幾何学的な寸法だけで定
まるため長周期化が容易に行なえること,③支えるものの重量や温度,振動振幅と全く独立して
免震周期が決まるため,免震装置のモデル化は線形のバネに置換する事が可能で著しく容易であ
ることが挙げられる。
振り子免震システムを支持構造と屋根構造
の間に設置した場合を想定し検討を行った。
Kp;振子免震等価ばね
Ms;下部構造等価質量
Ks;下部構造等価ばね
検討対象として,直径 100m のサスペン・ドー
ムを取り上げた。解析モデル概念図を図 20 に
示す。地震時の慣性力として考慮するドーム
Ts;下部構造固有周期
=2π√Ms/Ks =0.5 ,0.25
総質量は 1,640ton である。下部構造について
図 20
解析モデル
は一質点系に置換し,その固有周期をパラメ
ータ(0.25 秒および 0.5 秒)とする。また,実際に存在する類似構造物の重量比を参考に,下部
構造の有効質量として 5,000ton を与えた。振り子免震周期として,1 秒,2 秒および 4 秒をパラメ
ータとした。
減衰については,全体構造減衰として 2%を与えている。振り子免震の付加ダンパーは軽微な
ものですむため,本検討ではないものとしている。下部構造の剛性はここでは塑性化を考慮せず
せず線形としている。
4.2 固有値解析結果
ドーム部が免震化されていない場合のドーム部のみの
固有モードを図 21 に示す。この種のドームで良く見られ
る現象として,水平入力に対し1次の逆対称モードが卓
1,2 次:0.42 秒
3次:0.40 秒
図 21 ドーム部の非免震固有モード
図 22 4 秒免震のドーム部のモード
越し,大きな加速度応答を示すことが知られている。これに対し,4秒免震が振り子システムに
よって可能となった場合の屋根部の1次モードを図 22 に示す。このモードは振り子免震による剛
体モードとなっており上下動の励起は全く見られない。
4.3 応答解析結果
地震入力は水平方向とし,El Centro NS 波 500gal とした。解析手法は,時刻歴モーダルアナリ
シスとし,採用次数は 300 次である。地震波継続時間は 20 秒,解析時間刻みは 0.005 秒である。
図 23 に屋根面の最大応答加速度分布を示す。非免震の場合,下部構造の剛性(0.25 秒および
0.50 秒)によって,応答加速度の増幅の様子が異なるが,水平,上下動とも大きな応答が発生す
る。免震支承の周期が長くなるにつれ,屋根面の応答は著しく小さくなっていく。また,応答は
一様で下部構造の剛性に影響を受けない。特に免震ドームでは水平地震力による大きな鉛直応答
成分の発生を回避できることが分か
3000
3000
下部構造 0.25
0.25 秒
秒
下部構造
った。これは,振子免震による並進
下部構造 0.50
0.50 秒
秒
下部構造
剛体モードが卓越し鉛直動が励起さ
2500
2500
れないためである。なお,屋根支持
非免震
2000
最大応答加速度(gal)
最大応答加速度(gal)
非免震
1500
1 秒免震
1000
2秒免震
500
部の下部構造との相対振幅は4秒免
2000
震,2秒免震とも最大 30cm 程度であ
1500
る。
1 秒免震
図 24 に上下動単独入力の場合,お
1000
よび水平動単独入力の場合の最大応
2秒免震
500
4秒免震
答部材軸力を示す。上下動入力波は
4秒免震
0
El Centro UD 波とし,最大加速度レベ
0
A
B
C
A
位置
B
C
ルは上下動の半分 250gal とした。水
位置
(a)水平応答最大加速度
3000
平入力の場合についていえば,長周
3000
期免震とすることにより極めて部材
非免震
応答を小さくできる。しかしながら,
2500
2000
最大応答加速度(gal)
最大応答加速度(gal)
2500
1500
1000
2000
上下動単独入力の応答レベルは,い
A
C
B
Input Direction
次に,水平動,上下動の同時入力
1000
による応答解析を行った。図 25 に応
非免震
500
1 秒免震
A
4秒免震
答最大応力分布を示す。図 24 と比べ
500
2秒免震
0
1 秒免震
て部材応力は各ケースとも上下動の
0
B
位置
C
ずれの支持条件でも水平入力場合の
4秒免震の値を上回っている。
1500
A
(b)鉛直応答最大加速度
B
位置
図 23 最大応答加速度の分布
(El Centro 1940 NS, 500 gal)
C
応答分だけ「かさあげ」されている。
特に4秒免震の場合は鉛直入力で最
大値が決まっている。逆に言えば,
ドーム構造の場合,4秒程度の免震では鉛直動だけを考慮すれば良いことになる。実際には 4 秒
免震でトラス材軸力など多くの部材は鉛直地震力では決まらず,長期応力が支配的となる。
Plottiong Direction
2T
100
100
80
INPUT DIRECTION
60
軸力(ton)
軸力(ton)
80
1T
40
20
40
20
0
0
Plottiong Direction
2T
(a)トラス材軸力
非免震
1秒免震
2秒免震
4秒免震
上下動単独入力
300
2R
1R
250
200
部材位置
INPUT DIRECTION
150
100
50
1T
部材位置
非免震
1秒免震
2秒免震
4秒免震
250
200
150
100
50
0
0
1R
2R
部材位置
1R
(b)リング材軸力
図 24 応答軸力分布の分布
(El Centro 1940 NS,UD 単独入力)
5.
2T
(a)トラス材軸力
300
軸力(ton)
1T
軸力(ton)
60
2R
部材位置
(b)リング材軸力
図 25 応答軸力分布の分布
(El Centro 1940 NS,UD 同時入力)
むすび
筆者らは,空間構造物を含めた構造物の免震化に際し,高性能で信頼性の高い免震デバイスと
して振子の原理を用いた免震システムを開発している。本論文で示した並進振子免震,パドル免
震を建築構造物に適用することは,従来の積層ゴム支承の免震機構に比べ多くのメリットを有す
ると考えられる。本論文では並進振り子システムによる免震床の実大実験と実構造物への応用,
パドル免震の原理と模型実験による効果の確認,さらに空間構造への振り子免震の適用に関する
解析的検討について紹介した。
振り子の原理に基づくこれらの新しい免震装置によって,空間構造を含めた建築構造のデザイ
ンに大きな変化がもたらされるのではないかと筆者らは考えている。
参考文献
1)
2)
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6)
Garza Tamez et al., "Test Results and Implementation of Seismic Base Isolation System Based on Pendular Action,"
Proceedings, vol. 1, Second International Conference on Motion and Vibration Control, Aug. 30-Sep. 3, 1994, pp. 1-6.
Mamoru Kawaguchi and Ikuo Tatemichi (2000), “SEISMIC ISOLATION SYSTEMS AND THEIR APPLICATION IN
SPACE STRUCTURES”, Proceedings of the IASS-MSU International Symposium, Istanbul, Turkey, 217-228
Mamoru Kawaguchi and Ikuo Tatemichi; CHARACTERISTICS OF A SPACE STRUCTURE SEISMICALLY
ISOLATED BY ROCKING PENDULUMS, IASS-IACM 2000, Proceedings of the Fouth International Colloquium on
Computation of Shell & Spatial Structures, Chania, Greece, on CD-ROM,2000 年 6 月
M. Kawaguchi , I. Tatemichi , M. Abe, T. Ide,” Development And Testing Of A Seismically Isolated Floor System
Using Translational Pendulum Principl”, IASS-APCS 2003 Symposium,Taipei,Taiwan ,On CD-ROM
Z. H. Chen, M. Kawaguchi, I. Tatemichi, M. Abe ; A STUDY ON THE NON-PARALLEL SWING SYSTEM FOR
SEISMIC ISOLATION , IASS-APCS 2003 Symposium,Taipei,Taiwan, On CD-ROM, 2003.10
I. Tatemichi, M. Kawaguchi, Z. H. Chen,” Several Attempts For Practical Seismic Isolation By “Paddle” Bearing
System” IASS-APCS 2003 Symposium,Taipei,Taiwan ,On CD-ROM
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立道郁生:新しい免震システムと大空間構造への適用