CAJLE 2006
「岐路に立つ日本語教育」
ヨーク大学日本語科・韓国語科主任
太田徳夫
「生きた日本語」と「外国人のための日本語」












一緒に何をしていたかなんていう野暮ったい質問はしないで下さい。
(野暮な)
手をさし伸ばしてくれた (差し伸べて)
大阪に行って右も左も分からぬまま (西も東も)
最近人気となっている (人気が上昇している)
最大の注目は優勝候補です。(注目の的)
選手にとって自信になった。(自信の基)
この成績なら医者になれない (こんな成績では)
夜遅くになって雨が降るでしょう (遅くなって)
早速にお返事をありがとうございました。(早速)
漁業で生活を立てる (生計)
旅はこれからが佳境になります。(入る)
今となってしまえば、(みると)
私の日本語指導歴







聖ヨゼフ日本語学院
サイゴン大学
国際基督教大学
シートン・ホール大学
モナシュ大学
ミシガン州立大学
ヨーク大学
カナダに来てから













日本語弁論大会
日本語能力試験
「日本週間」
交換留学生制度
JETプログラム
継承日本語及び高校日本語
インディアナ大学での夏季集中日本語講座
「日本を通じて異文化間コミュニケーションを学ぶ」コース
コンピューター化
日本語教師養成講座
高校の日本語教員免状
日本研究講座
日本研究の学位申請予定
国際化と日本語・日本文化
文化・社会への影響






Judicial system reform 司法改革:裁判員制度の導入
Empowerment, accountability アカウンタビリティー,
informed consent インフォームド・コンセント
Psychological analysis 癒し’healing’共依存 ‘co-dependency’
Portability of pension 年金のポータビリティー and tax
reform 税制改革‐確定申告制
Japan as a multi-cultural and multi-racial nation外国人定住
化の時代
Impact on education
言語への影響
社会言語学的、語用論的変化



Confrontational and aggressive approach
From agreement-seeking to agreement-demanding ~
じゃないですか
Other changes in communication strategies: Direct,
Aggressive, Assertive, Provocative, Confrontational,
Challenging, Competitive, Egalitarian [Gender equal,
Rank equal], Argumentative, Self-righteous, Nonapologetic
言語への影響(続き)
新しい慣用句の用法






a. 意見をすり合わせる ‘rub opinions together’
b. 文言 ‘statement’ An old expression has made a
comeback.
c. 犯罪が行われた Due to the fact that「犯罪を犯す」
cannot be passivized?
d. 電柱と激突
When the object is stationary, 「に」
has to be used.
e. 暴走族が集う駐車場 「集う」 is used for a happy
gathering.
f. 写真をとった三日前に恐れ山に行った。Tense over
aspect. 「前」 requires imperfective 「る」.
言語への影響(続き)
借用語



フーリガン対策, プレミア試写, 披露パーティー, 撮影所見学ツ
アー, 正義のヒーロー, 新生そごうスタート, 場外でバトル開始
,,ステージプラン決定, 世界一周へテイクオフ, 高速道路大クラ
ッシュ, レスキュー隊, 本音トーク, ウエット面, 酸素パワー, コ
ンフェデ杯でトラブル, ドリームジャンボ宝くじ, 大会公式テー
マソング, ライト付きヘッドルーペ, 凹凸プロファイル加工, 超
大タオル, 専任スタッフ, 試乗キャンペーン, 排ガス
リークする, イベント, ミュージックステーション, ノーローン,
ハッピーライフ, テレビショッピング, プレミアムカード, イメ
ージカラー, ターゲット, アクシデント, センスィティブ, イン
サイド・ウォッチ, セオリー
Reanalysis of loan wordsカタカナ語の再分析
ラジオ―>レイディオ エネルギー―>エナジー
グローブ―>グラブ
ファイナンシャル―>フィナンシャル
日本語・日本文化はPCでありうるか
「政治的に正しくない」語彙

差別用語




身体・精神障害者
特定のグループ
特定の職業
不快語
身体・精神障害者

[身体障害]











奇形児
色盲*
どもり
めくら
めくら判
おし
つんぼ
つんぼ桟敷
びっこ
ちんば
肢体の不自由な子供
色覚障害
言語障害者・吃音
目の不自由な人
内容を確かめもせず判を押す
口の利けない人
耳の不自由な人
事情を知らされない
足の不自由な人
足の不自由な人
[精神障害]





気違い*
自閉症的
精神異常
精神薄弱(精薄*)
癲癇 てんかん
精神障害者
精神障害
知的障害
精神障害者
特定のグループ











合いの子
アイヌ人
穢多* えた
部落民
外人
毛唐*
混血児
チャンコロ
バカチョン・カメラ
バカでもチョンでも
第三国人
アイヌ(民族)
外国人
外国人
特定の職業


















沖仲仕*
おまわり
看護婦
屑屋* くず屋*
産婆
女給
女工
土方
土建屋
トルコ風呂
町医者
八百屋
レントゲン技師
~あがり
所詮
たかが
~ふぜい
~までして
港湾労働者
警察官・お巡りさん
看護師
再生資源回収業
助産師
(バー)従業員・ホステス
女性工員
建設労働者
建設業
個室付き特殊浴場・ソープランド
開業医
青果業*
診療放射線技師
不快語

















足を洗う
家柄
イカサマ
インチキ
片親
片手落ち
ガンをつける
企業戦士
首切り
ケツをまくる
げんなま
絞め殺す
しらみつぶし
尻拭い
でくの坊
どや街*
猫糞 ねこばば
母子家庭・父子家庭
不公平
解雇
現金
絞殺
問題点

差別用語を潜在的に差別用語になる可能性のある用語で言い換えること








特殊学級(教育)
合いの子
私生児
娼婦
精神異常
二号・めかけ
養老院
->
->
->
->
->
->
->
障害児学級(教育)
ハーフ
非嫡出児
売春婦
精神障害
愛人
老人ホーム
言い換えによって意味が変わるもの







滑り止め
連れ子
内縁の妻
猫糞 ねこばば
不治の病
藪医者
せむし
->
->
->
->
->
->
->
併願
~さんの長男、...
同居の~さん
知らん顔
重病
医師
体の不自由な人、猫背
問題点(続き)

説明や描写によって置き換えられたもの







おし
奇形児
教護院
混血児
つんぼ
浮浪児
->
->
->
->
->
->
口の利けない人、言語障害者
肢体の不自由な子供
児童自立支援施設
母が何人・父が何人の国際児童
耳の不自由な人
路上生活の子供
言い換えの根拠が不明な例












「カエルの子はカエル」-> 「子は親に似る」
片肺飛行
-> 片翼飛行
帰化
-> 国籍取得
興信所
-> 信用調査会社
乞食
->
獣医
-> 獣医師
植物人間
-> 植物状態の患者
セールスマン ->
共稼ぎ
-> 共働き
バーテン
-> バーテンダー
身元調査
->
八百屋
-> 青果業
問題点(続き)

文脈的・語用論的に判定的なもの

















いちゃもんをつける
おちこぼれ
片手落ち
ガンをつける
気違いに刃物
狂気の沙汰ではない
けつをまくる
サラ金
しらみつぶし
尻拭い
たこ部屋
屠殺場
ヒモ
ホームレス
暴力団狩り
町のダニ
藪医者
->不公平
―>消費者金融
―>食肉処理場
性差(女性)





















あばずれ
番茶も出花
女の悲哀
(*男の悲哀)
日陰者
後妻根性
小股の切れ上がった女
大根足
不倫
(?夫の不倫)
駆け落ち
不器量
才女
(*才男)
才媛
ばつ一
ふしだらな女
(*ふしだらな男)
尻軽女
(*尻軽男)
悪女
(*悪男)
とうが立つ
未亡人
後家
後妻
(*後夫)
継母
(*継父)
性差(女性)(続き)

















(*性悪男)
(*身持ちの悪い男)
性悪女
身持ちの悪い女
姦しい
適齢期
婚期を逸する
男勝り
うば桜
気丈な女
商売女
(*気丈な男)
(*商売男)
愛嬌
独身貴族
流し目
色目を使う
たらしこむ
誘惑する
あばずれ女
老女
(*あばずれ男)
(*老男)
(*女勝り)
性差(女性)(続き)





















小賢しい
女の腐ったような
(*男の腐ったような)
女々しい
悩ましい
さめざめと泣く
しくしく泣く
しどけない
なびく
(女が男に)
めそめそ泣く
おばたりあん
(*おじたりあん)
佳人薄命
夫唱婦随
婦女子
婦人問題 ‘feminist issues, women’s questions’
女をおもちゃにする
しなだれかかる
したたかな女
玉の輿に乗る
手練手管 ‘art of coaxing’
オールドミス
オフィス・レディー
性差(男性)















匹夫の勇
浮浪児
眉目秀麗
若者
放蕩息子
益荒男・丈夫
青二才
支配人
年寄りの冷や水
吹けば飛ぶような
不具
無骨者
父子家庭
女たらし
老人
ストリート・チルドレン
男?
男?
(女の支配人)
motherless family
(*男たらし)
和英辞典に見られる偏向
女性に関する差別的表現と例文












浅墓
百年の不作
一生
抱く
不謹慎
不細工
無様
分別
放縦
細腕
細身
任せる
女の浅墓さ
(*男の浅墓さ)
彼女と結婚したのは百年の不作だった (*彼と)、
悪妻は百年の不作
彼女は一生独身で過ごした。
女を抱く (*男を抱く)
彼女は不謹慎にも見知らぬ男に住所を知らせた。
不細工な娘
夜半に起こされて彼女はぶざまな身なりで戸口に現れた。
分別臭い顔をした女
放縦な女(不身持ちな)
女の細腕で家族を養っている
細身の美人
彼女はとうとう彼に身を任せた。
和英辞典に見られる偏向(続き)
女性に関する差別的表現と例文(続き)




醜い
涙ながらに
悩み
狙う

寝る
おしゃべり

死別

彼女はやけどで顔が醜くなった。
彼女は涙ながらに主人に許しを請うた。
悩み多き娘時代
彼女は彼を狙っている。
(彼は社長のいすを狙っている。)
あの女は誰とでも寝る。
おしゃべり娘たち ‘magpie girls’
おしゃべりな婆さん ‘old gossip’
夫に死別する (?妻に死別する)
和英辞典に見られる偏向(続き)
男性に関する差別的な表現と例文








節穴
真人間
秀才
風采
身の程
鈍い
煮え切らない
ニコニコ顔
彼の目は節穴同然だ。
彼は真人間だ.
彼は学校中での秀才だった。
風采の上がらない男
身の程を知らない男だ
鈍い男
煮え切らない男
彼はニコニコ顔だった。
和英辞典に見られる偏向(続き)
辞書の中の例文を見てみると、男性の場合と女性の場合ではかなり差がある。
Entry
Example

失恋

男

女
彼はその女に失恋した。
彼女は失恋の結果川に身を投げた。
男を知らぬ女
男を漁って歩く女
男を食い物にする女
男を求めている女
男を知らない
一人の男を守る女
女をこしらえる
女を囲う
女をもてあそぶ
女を知らない
敬語はPCでないか






敬語の将来に関する賛否両論
性差に関する議論
「女らしさ」と「男らしさ」
性差と差別
gender identity and gender ideology
日本語教育における意義
若い日本人女性のEメールスタイル








Subject: お世話になりました。
太田せんせい、
今日もまたごちそうになってしまいました。
おいしい夕食と楽しい時間をありがとうございました。
来て間もない時に訪れた所で最後にまた食事ができたことで、本当に留学生活が
終わるのだなぁ、と今ひしひしと感じています。
8月末から約9ヶ月の留学生活の終焉と同時に、2ヶ月後に始まる日本でのもう一
つの現実(卒業と就職、またはその他の道)の始まりがぼんやりと、しかし確実に
予感され、多少戸惑うところです。
York大学で(この留学生活を通して)学んだことは、この後も是非何らかの形で繋
げていきたいと思っています。今日先生にもご指摘された通り、まだまだ英語の力
(発音やジェスチャーも含め)は自分で改善していかなくてはいけないと思います。
また、出席したりしなかったりでしたが、先生の日本語の授業を参観させていただ
いたことで、将来教師になるという選択肢も自分の中ではっきりしたものになりまし
た。
クラスや様々な機会を通して出会った友人たちを見て、いつでも勉強したい時にま
た大学院などで勉強できるという考えも、すんなり受け入れられるようになった自
分にも気がつきます。自分で気がついていること、いないことを含め、ほかにもたく
さんここで学んだことはたくさんあると思います。それをまとめていうとこの留学生
活は、意識しないうちにどこか日本のシステムの下で固まっていたかもしれない私
の頭を少し柔らかくほぐしてくれたといえるでしょうか。
若い日本人女性のEメールスタイル(続き)









悔いはありませんが、あと1年あればもっと自分でもできたようには感じてしまい
ます。ようやく例えばエッセーの書き方、授業のこなし方、生活一般のこつなどが
掴めてきたところでの帰国はやはり残念です。
人との出会いを通じて、ここで初めて興味を持ったこと、始めたことだけはきっと
日本に帰っても続けていけることだと信じて、交換留学の哀しさを受け入れようと
思います。
太田せんせいには突然進路の相談のようなこともしてしまったこともありましたが、
日本語の授業なども通じて、たくさんのことを勉強になりました。
本当にありがとうございました。
また日本の大学などで(あるいはその他の国々で)、講演がある際にはお知らせ
頂けたらうれしいです。是非伺いたいと思います。(その時の状況にも拠るとは
思いますが。)
それではまた4月末まではキャンパス内でお会いすることもあるかとは思います
が、
今日はこれまでのお礼とともに感謝の気持ちを込めて。
1年間ありがとうございました。
かしこ
‘Linguistic Culture’
Areas
JAPANESE tends to be:
ENGLISH tends to be:
cognitive
discourse
textual
holistic
general
descriptive
situational
context-dependent
elliptical
formal
indirect/indecisive
rank-conscious
submissive
concessive
agreeable/understanding
appreciative
apologetic
modest/reserved
responsive
less exclamatory
less derogative
less rewarding
introversive/inconspicuous
collective
subjective/intuitive
emotional/sentimental
pessimistic/negative
retrospective
analytic
specific
explanatory
less situational
context-independent
exhaustive/redundant
informal
direct/decisive
egalitarian
independent/assertive
self-determined/aggressive
competitive/challenging/provocative
less appreciative
self-righteous
boastful/proud
less responsive
exclamatory/exaggerative
derogative
rewarding
extroversive/conspicuous
individualistic
objective/logical
rational
optimistic/positive
prospective
sociolinguistic
pragmatic
psycholinguistic
(Ota, 1995)
TEL (Technology Enhanced Learning)
と
日本語教育
ヨーク大学日本語科における
TEL利用の過程





第一段階:日本語科のウエッブを作り、教材を載せる。
第二段階:学科及び日本語科専用のサーバーを構築し、リ
ストサーブなど各種サービスを提供。
第三段階:教材のマルチメディア化とインターラクティブ化
第四段階:遠隔教育開発と自習用教材開発
第五段階:国境を越えて技術供与・提携、オンラインテストの
開発、上級日本語のための遠隔教育開発
第一段階









ウエッブを作り、教材を載せる
教科書離れ
教科書に支配されないコース・デザイン
教科書の限界(DVDやCD-ROM)
大学における外国語教育のディシプリンは何か
異文化間コミュニケーションを日本語教育のディシプリンに
日本語を素材として勉強することによって、他の言語及びその文
化に接した時も使用可能なディシプリンを習得する
自分の教材を開発
著作権の問題の解決
ウエッブ利用による「手作りの教材並びにコース」
第二段階












技術担当者のインプット
大学の他のサーバーを利用
サーバーの威力
学科の実験的サーバー構築 (学習用サーバー)
コースやクラスのリストサーブのサービスを開始
Empowering Faculty - 教員自身がかなり技術に詳しくなくてはならな
い
教員が主導する、ウエッブに基づいたコース開発
教員のためのワークショップ
日本語専用サーバーを構築して、日本語指導に利用
安全性を考慮して複数のサーバー構築
リダンダンシー(no down time)
多数の同時アクセス
第三段階








初めは、講義ノートをウエッブに載せる
会話のデジタル化
文化・社会紹介のビデオのデジタル化(クイック・タイム)
練習問題のインターラクティブ化 (ドリーム・ウィーバー・エクステン
ション)
自習に重点を置く
クラスの活動はコミュニカティブなものにしぼる
ウエッブに基づいたコース開発によって限られた授業時間をいかに
効果的に利用するか
英語のウィンドウズ環境での日本語のテキスト(アドービー社のアク
ロバット)
第四段階

実験的に遠隔教育を利用したオンライン初級日本語コースを開設







語学教育にも遠隔教育モデルは適用可能か
四年間の実験期間の後終了
学生からのフィードバックを基にした分析資料
ビデオ会議方式をフルに活用したリアルタイムの授業及び個人指導
自習用教材との組み合わせで、学習効果が上がるよう努力
対面クラスを温存した混成方式採用
四年間のプログラムを通じて高度な日本語習得の水準を確保


どこにいても、いつでも、インターネット上でアクセスできる自習用教材の開
発
読解用の教材を自習用のものに変換する作業を始めた
第五段階

他国への技術供与・提携(ハバナ大学)

Moodleを利用したオンライン・テストの開発

ビデオ会議方式による上級日本語遠隔教育コースの開発(セン
ト・メリー大学)
遠隔教育の試み
アンケートによる追跡調査

対象学習者:遠隔教育方式の語学コースは、平均的な学生には向いておらず、学習意欲に燃え、コ
ンピューター及びインターネットなどに詳しく、時間を効果的に使える学生であれば、かなり学習効果
が上げられる。

混成方式:ビデオ会議方式プラス従来の対面クラス

リアル・タイム方式:ビデオ会議方式を利用した講義及び個人指導

ウエッブ上の自習用教材:比較的好評、より多く開発の必要性

オリエンテーション:遠隔教育方式に関する長所・短所を踏まえてきめ細かいオリエンテーションが必
要。

学習レポート:毎週、学生に学習進行を記録したレポート提出を義務付ける。

バーチャル・コミュティー:チャットを利用して学生間にバーチャル・コミュニティーを作らせる試みは失
敗に終わった。原因は調査中であるが、私見として、遠隔教育方式を選ぶ学生が基本的には、理由
は様々であろうが、自分だけで勉強したいと思っているからではないかということがあげられる。もし、
この考えが正しいとすると、他と助け合って勉強するというバーチャル・コミュニティー作りは、彼らの
期待とは相反することになり、目的意識も希薄とならざるを得ない。将来に向けての課題の一つであ
る。

社会・文化に関する興味:課外活動などによって、社会・文化に関する知識や経験を与える。

教員による継続的なサポート:担当教員が個々の学生に積極的に働きかけ、学習状況を詳しく観察
して、適切な指導・元気付けなどを行う必要がある。

Qiu (2001)は、このような遠隔教育方式が導入されれば、これまで他のコースのスケジュールの関
係で語学が取れなかった学生に語学を学習する機会を与え、学生数も大幅に増加する可能性があ
ることを指摘している。
TEL利用の効果
実利的な面

高い教科書を買わなくてすむこと

コースの内容、スケジュール、評価などすべての情報がウエッブに載っていること

ビデオ・ストリームされた講義(メディア・サイト・ライブ利用)

その他の教材も学生から好評を得ている

試験のサンプルが載せてあること-要求度を高くしてもそれだけたくさん学習してくれる

ウィン・ウィン(勝者―勝者)の関係

コース・ディスカッション・リストの活用

中級から始める日本語によるウエッブ・プリゼンテーション

教員よりはるかにコンピューターを駆使できる学生が急増している現在、旧態依然とした教授法だ
けでは、学生の学習意欲を持続させることも、学習効果を高めることも不可能であろう。
TEL利用の内容面での試み

中級、特に上級以上のコースで自分で書いた所感を読解教材として使う。

一番大きな目的は、学生に筆者の人生経験などについて読んでもらい、そこから何か学んでもらう。

最近非常に肯定的な評価を得るようになった。

教員が自由に教材を作成し、即座にウエッブに載せられるというインターネットの利点を活かした
もの。

学生が教員を身近に感じることが出来るようになり、意見交流も非常に活発になった。また、E
メールやチャットなどで学生間の交流が増幅され、本当の意味でのコミュニティーと帰属感・連帯
感がクラスに生まれ、一緒に勉強したり、パーティーをしたり、遊びに出かけたりという、強い絆
でつながれたクラスが出始めている。
参考資料:









New Brunswick Distance Education Inc. (2000) ‘The Design, Development and Delivery
of InternetBasedTraining and Education, Industry Canada Report, Project # U5251-95325, The Centre for Learning Technologies.
Ota, Norio (1996) ‘A Poor Man’s Server - A Key to Successful Transition in
Computerization‘, Proceedings of The Foreign Language Education and Technology
Conference III [FLEAT III]: Languages Resources Cultures, University of Victoria,
Victoria B.C., 1998, 293-304.
________(1998) ‘Is computing one of the biggest threats to academia? - bridging a
gap between two subcultures’, Crossroads in Cultural Studies International Conference,
Tampere, Finland.
________(2001) ‘Distance Education Based on Personal Servers’, ICAS 2: August 9,
2001
________(2002) ‘Pros and cons of a Japanese language course via distance education’,
CASTEL/J 2002 Conference, University of California, San Diego, July 11-14, 2002.
________ and Yabuki-Soh, Noriko (2004a) ‘Is second/foreign language learning
possible via distance education? : An interim report on Japanese’, International
Conference for Arts and Humanities, Hawaii, January 8-12.
____________________________(2004b) ‘Is language teaching viable via distance
education?: The final report on the three year Japanese project at York University’,
CADE and THIS IS IT 2004 CONFERENCE: Pioneers in a New Age, May 30 – June 2,
2004, York University.
Qiu, Peipei (2001) ‘Teaching Japanese through Multimedia Lesson Modules: A
Conference Report’, Vassar College,
http://vassarwilliamsmellonconsortium.vassar.edu/Qiu.conf.berlin.report.html.
----
Contact: Norio Ota <[email protected]>
Web: http://buna.arts.yorku.ca/
日本語教育の最近の動向
「訓練から教育へ」
コミュニカティヴ・パラダイム
‘communicative paradigm'
① 教師中心から学習者中心へ
教えるというよりも、学習者が習得するのを助けるという考え方で、教師の役割が大きく変わ
りました。
② 学習から習得へ
意識的な学習より無意識的な習得を増やすことに主眼が置かれ、色々な要素の自然な習
得順序とかどういう入力 ‘input'を与えれば吸収量 ‘intake'が増すかというようなことが課
題になっています。
③ 管理から創造へ
初級のレベルのクラスなどどうしても管理 ‘management'になりがちですが、もっと創造
的 ‘creative'なクラスにすることが必要でしょう。
④ 訓練から教育へ
唯単にフォースキルズを教えるというだけでなく、日本語の習得を通じて何を学んでもらいた
いのかという観点を取り入れなければ「日本語教育」とは言えないでしょう。
⑤ 練習からコミュニケーションへ
クラスで「練習」をするのではなく本当かまたそれに近いコミュニケーション活動を通じて対象
言語を習得したほうが効果的だという考え方です。例えば、答えが予め分かっているような
質問 ‘known-answer question' より本当の質問 ‘real question'をした方が習得の
助けになるのではないかという主張です。
⑥ 画一主義から個別主義へ
オーディオリンガル的な技術化そして画一化した言語のマスプロ教育が反省され、学習者
一人一人の能力、特性、認識のストラテジーの違いなどを考慮し、できるだけそれぞれに
合った方法で習得してもらうといういき方です。教育一般を見てもマスプロ教育の弊害が反
省され、個性を大事にする教育が叫ばれているので、日本語教育も例外ではありません。
プロの日本語教師になるためには
① 日本語を外国語として見る訓練
日本語を外国語として教えるということは、学生にとって外国語であるというだ
けでなく、教師が日本語を外国語として客観的に見て教えるという意味もあるの
です。言語学がこの点非常に役に立ちますが、この基本ができていない人が多
いように思います。
② 外国語の習得
どの外国語でも結構ですから、少なくとも一つの外国語に精通しておくことが日
本語教師の基本的な資格の一つです。自分が外国語習得に苦労もしないようで
は、学生にコミュニカティヴに教えられませんし、学生の方もついて来ないでしょ
う。私も英語を学んだ時の経験が教える時に非常に役に立っています。自分は
「直接法」(注6)でいいんだという人もありますが、クラスでのコミュニカティヴな
活動をする場合とか、共通語が存在しない環境などで、「直接法」は有効で、そ
の訓練は大切ですが、やはり、部分的に使うとか、仕方なく次善の策として利用
するのであって、全て「直接法」でというのは不可能です。とにかく言葉ができなく
ては、外国で仕事はできません。
③ 異文化間コミュニケーションの知識と実践:‘Cross-culturally
communicative‘
外国語の習得によって異文化間コミュニケーションにも精通することが、日本語
をコミュニカティヴに指導する際、大いに役立ちます。国内でも、例えば、関西と
関東のように、異文化を学べます。この経験は海外でも役立ちます。
プロの日本語教師になるためには(続き)
④ 専門分野を持つ
日本語教師は、自分に自信が持てる専門分野を持つべきだと思います。言語
学が望ましいのですが、ディシプリンが習得できる分野が必要です。 ⑤ 個の確
立
昔からよく日本人は個が確立していないと言われていますが、私も学生時代そ
れを痛感しました。「ぬるま湯社会」では個が確立する機会は、自分で求めない
限りほとんどありません。日本的ルールが往々にして通じない外国で仕事をする
場合、これは致命傷になります。また語学も個が確立していないと習得できない
ように思います。自分の意見を持たない人は外国語でコミュニケーションできる
はずがありません。ですから、これから海外で日本語を教えようとしている人に
は、「出家」をお勧めします。まず、国内で武者修業の旅に出て下さい。
⑥ 柔軟性・独創性を育てる
マニュアル人間は駄目で、ルールが変わっても対応でき、新しいことを切り開い
ていけるる複視眼的な人間になることが大切です。色々な役割がこなせる「多能
工」であることも必要不可欠です。そして、自分でコースがデザインできることも
必要です。
⑦ 組織で機能できる
大学なりで現地人、他の外国人と遜色なく色々な仕事ができなければならない。
チームワークのできることも大切な資格だと思います。私の経験では、自然に仕
事の中で自分の実力を示すことが、同僚として認められる一番の近道です。
プロの日本語教師になるためには(続き)
⑧ 国際的な視野を持つ
多重文化主義・環太平洋地域教育の中での日本語教育というようなマクロ的な
見方が必要です。 ⑨ 日本について造詣を深める
日本について知らない人がたくさん日本語を教えています。学生は日本につい
て知りたがりますから、日本語教師だから政治のことは知らなくてもいいというわ
けにはいきません。
⑩ 自分の日本語を鍛える
日本語教師が日本語についての知識、表現力に欠けるでは困ります。日本語
の可能性を追求しながら、日本語の力をつけてください。
⑪ 外国で一人で生活できる
外国に出る前の日本での訓練が大切です。日本でも一人で生活したことがなけ
れば、外国で一人前に生活できるはずがありません。また、現地のことを知り、
溶け込む努力のできる人が期待されます。
⑫ コンピューターに関する知識及び経験
外国語習得及び指導におけるコンピューター化は燎原の火のように急速に広
がっています。ワープロはもちろん、コンピューターラボ、インターネット、コース
ウェアーの開発など語学教師に対する要請はますます増えていくことでしょう。
特に学習者の学習方法や興味の変化に対応するという意味で、教師もチャレン
ジとして受けとめていくべきだろうと思います。
教師養成のモデル
①クラフトモデル「職人モデル」:俺について来いモデル
師―弟子/モデルの模倣/少人数/密教的
②応用言語学モデル:後は勝手にやれモデル
理論・知識・技術偏重/一方通行/手段的/理論と実践の分
化/マスプロ化/疎外化/成果少
③リフレクティヴモデル「内省モデル」
経験的知識の蓄積とmental schemataの構築
ウォレス(Wallace, pp.6-49)による
訓練から教育へ
① 帰納から演繹へ
これは教師が自主的にデータから仮説を立てて検証する作業の必要なこ
とを示しています。
② 分析的 ‘analytic'から全体論的 ‘holistic'へ
日本語教育における変数が多様化している為、ミクロ的なアプローチでは
限界にきています。ホリスティックはマクロと重なります。
③ 無機的から有機的へ
個々に習得したものを総合して有機的な組織に作り上げていくことで、「二
次元から三次元へ」と言ってもよいでしょう。これは、1+1が5になりうる相
乗効果 ‘synergistic'の世界です。文法指導には特にこの視点が大切だと
思います。
④ 既与 ‘given' から発見学習法 ‘heuristic' へ
①と似ていますが、与えられたものを適用するだけではなく、教師自身が
自主的に見付け出していくいき方です。自分の教授法を作り上げていくこと
がこのお話の主眼です。
日本語教育に見られるバイアス

客観主義
技術化: 指導法を技術化するのがこれまでの傾向でしたが、教育という観点から学習者の個性、
感性、情緒、認識の仕方などを考慮して指導することが必要です。
計量化: 教授法に関して数量化できる部分だけが検証可能という実証主義の名の下に取り上げられ
てきましたが、教授法における「行間」、即ち数量化できない部分が大切です。評価に関して
も観察可能な分野のみ評価されてきました。
専門化: 日本語教育のそれぞれの分野で専門の知識と訓練を積んでも全体的な[ホリスティックな]
観点が欠けていたように思います。教師の全体像に留意する必要があるでしょう。
標準化: 教授法、教材、評価など全てにわたって標準化したいという傾向が強いので、もっと個性と
個人の能力を大切にした教育が行なわれるべきです。

完全主義 学習者に対して発音、文法、その他に関し初めから正確さを期待する傾向が強いので、中
間言語的 ‘interlanguage'に考え、徐々に矯正してゆく態度が必要です。

網羅主義 教科書に出ているものはすべて教えなければならない、また学習者が知らなくてはならない
という考えが強いですが、1+1=2でなくて3であり4であり得るという相乗効果を狙ってプラ
イオリティーを設定することが必要です。その場合、習得順序や必要度などを判断の基準と
して使うといいでしょう。
日本語教育に見られるバイアス(続き)

応用主義 借り物の理論とその適用ばかりでなく、自分で経験から理論を作り出
せるような教師が必要です。

教師中心 「教える」ことに重点が置かれてきた従来のクラスでは、学習者の側
からの視点が往々にして軽視されていました。教師が常に主役であり、クラスを
コントロールし、いかにスムーズにクラスを管理・運営するかが目標でした。いわ
ゆる模範授業で見せるのはこれです。日本の学校の教室で見られるような極端
な「教師が話し、生徒が聞き・書き取る」というほどではなくとも、演習の時間でさ
え、教師の「独演会」がよく見られます。クラスが教師の自己満足に終わらないよ
うに気をつけたいと思います。クラスの主役は学習者であり、教師は彼らの学習
の促進を助けるという視点が、彼らの自主的で想像的な学習態度を育成し、教
師が個々の学習者の要求に対応し、助言者としての役割を果たすことを明確に
します。

特異性 日本語、社会、文化の特異性が強調されてきましたが、世界の言語
の中で見ると、少しも特異ではないことが明らかになっています。学習者の母国
語との共通性、特に談話におけるストラテジーや社会言語学的対応の仕方など、
できるだけ利用すべきです。
結語



教育と言う観点から日本語指導を考えると、日本語教師と言う前にまずいい教師でな
くてはならないと言えると思います。難しいのは、いい教師になろうと意識してやると、
いい親になろうとするのと同じで、無理が見えてしまうことが多いので、結局何事にも
全力投球をするしかないのですが、一つ大切なことは、メンターリングということで、や
はり学生から尊敬され、慕われる教師になることでしょう。最近は、教える側も教えら
れる側にも教員に「期待される人間像」ロールモデルが求められていないとする傾向
が強く、これが、教育の荒廃を招いている一つの原因だと思います。要するに教師の
全力投球している姿を見て、学生が何かを学ぶと言うことでしょう。それには、教師も
常に成長していかなければなりません。モナシュ大学を去る時、スロバキア系のルー
ディー・バレントという学生が、手紙をくれ、その中に、「自分の人生に一番大きな影響
を与えてくれた先生が二人いる。一人は高校の先生、もう一人は先生です。」と書いて
あったのは、今でもよく覚えています。
以前サイゴン大学で教えた経験と最近ハバナ大学で教えた経験から、はっきり見えて
きたことが一つあります。それは、教育とは、学生に将来に対する何らか夢を与えるこ
とだということです。第三世界の国で教えてみると、このことがよく分かりますが、カナ
ダや日本では、これが見失われてしまっているように思えます。こちらの経験談を話し
た後、二、三年前の学生が、「自分も先生のように海外で仕事をしてみたい」という
メールをくれました。
昨年日本で全力投球の大切さと言う講演をしましたが、「いい教師」になろうと思って
努力するのではなく、なりふり構わず、何事にも全力投球する姿勢が、一番効果的だ
と思います。今後の皆さんの研鑽を期待します。
ダウンロード

T - Japanese Studies Program @ York University